台湾の蝶5 スギタニイチモンジ

 

      タテハチョウ科編 4

       第5話 『儚き蒼』

 
ホリシャイチモンジの次とあらば、やはり流れ的に他のイナズマチョウも紹介せねばなるまい。

【Euthalia insulae スギタニイチモンジ♂】
(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷 alt1950m)

まだ生きている時の杉谷一文字は実に美しい。
青いのだ。光を浴びると輝き、角度により様々な色に見える。その幻妖に変化するさまは見てて飽きない。

最後は翡翠色だ。

同じ個体で、ここまで違って見えるのである。
謂わば玉虫色なのだ。

しかし、ボロになると白っぽくなる。

(2016.7.12 台湾南投県仁愛郷)

9月や10月に行ってもスギタニイチモンジは採れるらしい。それをもってしてスギタニイチモンジはこんなもんじゃろうと思った人も多いだろう。しかし、その美しさには比較にならないくらいの差があるのだ。そこんところは強調しておきたい。採りたいなら、発生初期に行きなはれ。
そういえばこの時(2016年)、メスはまだ綺麗なのにオスはみんなこんなんばっかだった。思った以上に鮮度が落ちるのが早い蝶なのかもしれない。もしくは、思ってる以上にオスの羽化がメスに比べて早いとも考えられる。
あー、忘れてた。2017年にはもっと標高の低いところ(標高1100m)で採ったオスは、ボロッボロッだったわ。同じ時期の1900m付近では完品だったのにね。

(2017.6.24 台湾南投県仁愛郷)

結構早くに発生してたってワケか…。
或いは、オスはメスを探して結構飛び回るので、損傷が早いのかもしれない。

メスの画像も並べてみよう。

(2017.6.29 台湾南投県仁愛郷)

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

(2016.7.13 台湾南投県仁愛郷)

(2016.7.12 台湾南投県仁愛郷)

メスはオスに比べてかなり大きい。
重厚感も加わって威厳さえ感ずる。イナズマチョウは、やっぱメスの方がカッケー( ☆∀☆)
それはそうと、全部鮮度は良さそうには見えるが、こうして並べてみると6月の個体の方が美しい。
もしかしたら羽化後、輝きを保てる期間はごく僅かな間なのかもしれない。

裏面の画像も添付しておきましょう。

(2017.6.29)

(2016.7.12)

黄土色に淡いグリーンが掛かったような色で、裏もまた美しい。落ち着いた大人の色気が漂う。
もし、こういう色の着物を着こなす妙齢のシットリ美人がいたとしたら、オイラ、間違いなくイチコロだ。

でも死んでしまうと、悲しい哉その蒼の輝きは儚くも消えてしまい、翡翠色も褪せてしまう。
そして標本なると、オリーブ色とかカーキー色、黄土色にしか見えなくなる。生きている姿を見たものからすれば、まるで別の蝶のようだ。
これは、Limbusa亜属(緑系イナズマチョウ)全体に言えることで、特に翠の輝きが強い種類ほどその落差は大きい。こんなに生きてる時と死んだ時との落差がある蝶は、他にあまり浮かばない。

参考までに標本写真も並べておきましょう。

多分、♂だね。
スギタニイチモンジは、基本的に♂♀同紋なのだ。
とはいえ、大きさと翅形で雌雄の区別はだいたいつく。慣れれば誰でも解るくらいのレベルでしょう。

下翅内側の内縁が浮いてシワシワになっているのが気になるので、上からテープで抑えて完璧を期す。

展翅は嫌いだが、他人の目を気にする人間は完璧を目指す。バカバカしい限りだ。

いや、ちよっと待て。
たぶんこっちが♂だわさ。

一応、絶対に♀だと思われる展翅写真も貼っておこっと。

ありゃま(^。^;)、本来は完品なのに、お漏らしで翅が汚れちまってるじゃねぇーか。ガッカリだよ。

しゃあない。まだ他に未展翅のものがある筈だけど、一昨年(2016年)の標本写真を出してこよっと。

(ФωФ)ニャオー、これも展翅完璧なのに翅が一部破損しておる。

いやいや、完品もあった筈。
探そう。

(⌒‐⌒)ごじゃりましたよ。
色もこの時点では、まだある程度は残ってるね。
多分これが一番最後に採ったもので、翌日帰国してすぐに展翅した奴だ。

さあさ、満足したところでの種解説なのじゃ。
チヤッチヤッといこうではないか。

にも拘わらずだ…。
Σ(T▽T;)どひゃあー、すぐに眼前に毎度毎度の迷宮ちゃんが立ちはだかってきやがった。
またしても学名問題の勃発である。おいちゃん、気を失いそうになる(@_@;)

「原色台湾産蝶類大図鑑」を見ていたので、スギタニイチモンジは台湾の固有種ではなく、大陸に分布するEuthalia thibetanaの亜種の一つにすぎないと思っていた(亜種名 Euthalia thibetana insulae)。
しかれどもこの図鑑、優れた図鑑ではあるが、如何せん古い。1960年発行でアチキの生まれるだいぶ前からあった図鑑なのである。その辺を差し引きして考えねばならない事は重々頭には入っていた。しかし、もっと後の1997年に発行された「アジア産蝶類生活史図鑑」でも学名はそのままだったから、特に疑問には思わなかったのだ。
それが資料集めしてたら、何と学名が違っているではないか。何ですかそれ❓の、今はどうやら台湾特産種になっているらしいのだ。

新しい学名は亜種名がそのまま昇格した形をとっており、「Euthalia insulae」となっていた。
台湾のサイトでも確認したし、ほぼ間違いなかろう。
亜種名も見つからなかったし、台湾の特産種というのが濃厚だ。
因みに台湾名は「窄帯翠蛱蝶」のようです。
つまり狭い帯の緑色のタテハチョウというワケだすな。

そういえば「ラオスで最近採集された蝶(9)」に、似たようなのが図示されてたなあ…。

やっぱ、ごじゃりました。

(出典 増井暁夫・上原二郎『ラオスで最近採集された蝶(9)』月刊むしNo.403,Sept,2004)

Euthalia dudaと云う種類の♂のようだ。
似てるね。スギタニイチモンジだと言われても、何ら疑問を持たないだろう。

解説によると「本種は一見、台湾のスギタニイチモンジ E.insulaeや大陸のE.thibetanaなどのイチモンジ型斑紋の各種と紛らわしい。6月にごく少数が得られているのみで、ラオスにおける詳細は明らかでない。今までの分布記録はネパールからミャンマー、中国雲南省にかけてまでであり、南東限が伸びたことになる。」とあった。
おー、これはスギタニイチモンジとE.thibetanaは別種であると証明してくれているような文言ではないか。
\(^_^)/ありがてー。今回は迷宮を彷徨(さまよ)わずとも済みそうだ。

一応、ウィキペディアの「Euthalia」のページでも確認してみる。
おっ、種類の欄にはE.insulae、E.thibetana 共に種として表記されてあるから、両者は別種で間違いないでしょう。

ついでに、E.thibetanaの画像も添付しておくか。

(出典『国家动物博物館』)

漢字では「西藏翠蛱蝶」となっていた。
西蔵はチベットと読むから、最初にチベットで発見されたのであろう。和名にすれば、チベットイナズマってところだね。
分布は今一つハッキリしないが、ググった範囲では雲南省と湖北省の標本が見つかった。少なくともチベットからその辺りにまでは生息しているのだろう。

それにしても、E.dudaといい、E.thibetanaといい、見た目は殆んどスギタニイチモンジと変わらないよね。素人には、どう違うのかさっぱりワカランよ。

【生態】
和名にイチモンジとつくが、イチモンジチョウの仲間ではなく、イナズマチョウのグループに属する。
図鑑では台湾中部から中北部の山地帯に局所的に分布し、標高200~3000mの常緑広葉樹の森林付近に見られるとある。だが、低標高では見たことがない。
自分が姿を見たのは標高1200m前後、1950m、2400mの三ヶ所。明らかに垂直分布は次回登場予定のタカサゴイチモンジよりも高く、おそらくその分布の中心は標高1500~2200mの間にあるかと思われる。
年一回の発生で、6月~8月に多く、11月まで見られる。標高にもよろうが、埔里周辺では♂が6月上、中旬が観察適期。♀は6月中下旬から7月上旬が適期かと思われる。

敏感で飛翔は速い。♂は梢上を活発に飛び回り、♀を探雌するような行動がよく見られた。その時は飛翔速度が比較的落ちる。標高1900m地点では午前9時頃から姿を現し、午後になると次第に見られる数が減ってゆく傾向があった。
♀の飛ぶさまはオオイチモンジを彷彿とさせるところがあり、雄大。( ☆∀☆)心躍ります。

♂♀ともに落果発酵した果物、獣糞、樹液に集まる。
自分は桜の樹液に訪れる本種を何度も見たが、真っ直ぐ樹液に飛来するのではなく、先ずは近くに止まり、幹を少し歩き回ってから樹液の出ている箇所に辿り着くものが多かった。

【幼虫の食餌植物】
『アジア産蝶類生活史図鑑』によると、ブナ科 イチイガシ、ナガバシラカシを用いて採卵と飼育に成功した例があるようだ。またトウダイグサ科 クスノハガシワを食う記録もあるという。
台湾のサイト(DearLep 圖録検索)には、食樹としてCyclobalanopsis stenophylloides(ブナ科カシ類)、Quercus gilva(イチイガシ)、Quercus glauca(アラカシ)の3種があげられていた。

【記載・名前の由来など】
1930年にHallが埔里産の1♂に基づいて、「Euthalia thibetana insulae」として記載したが、それ以前にもかなり採れていたようである。しかし、次回紹介予定のタカサゴイチモンジと長い間混同されていたみたいだ。
「原色台湾産蝶類大図鑑」によれば、同じ1930年に杉谷岩彦教授が立鷹、旧ハポンの本種の標本をタカサゴイチモンジの異常型として発表したようだ。和名はその杉谷岩彦教授に因んでつけられたものかと思われる。
付け加えると、この杉谷教授は日本のスギタニルリシジミやオオムラサキのスギタニ型にも名を残しておられる。

またスギタニイチモンジに会いにゆきたいなあ。
でもその前にビヤッコイナズマ Euthalia byakkoを何とかせにゃならんわい。
あっ、そういえば台湾には、マレッパイチモンジ Euthalia malapana という幻になりつつあるイナズマチョウもいるんだよなあ…。

                  おしまい

 
追伸
おーっと、忘れてたよ。
スギタニイチモンジの採集記は『発作的台湾蝶紀行』の第38話 原初的快楽 と第48話 さらば畜牧中心 などにあります。発作的台湾蝶紀行 スギタニイチモンジ と打てば検索できるかと思います。宜しければ読んでやって下さい。

既に予告済みですが、次回はお仲間のタカサゴイチモンジ Euthalia formosana の予定です。
タカサゴイチモンジもスギタニイチモンジに負けず劣らずの佳い蝶です。御期待あれ。

Euthalia thibetana チベットイナズマは、「原色台湾産蝶類大図鑑」によると、中国西部及び中部に原記載亜種(ssp.thibetana)が分布し、雲南省のものは別亜種 ssp.yunnana となっておりました。

『西へ西へ、南へ南へ』第6話

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-09 00:18

 
    ー捕虫網の円光ー
 『西へ西へ、南へ南へ』

第五番札所その2・流星レッドスター

 

市の職員二人が下から登ってきた。
リュウキュウマツ(琉球松)の調査だと言う。
確かに赤茶色の松が多い。こんな所にも松枯れの原因、マツノザイセンチュウがいるのか…。
詳しく訊いてみると、媒介を助けるマツノマダラカミキリと共に台湾から入って来たと説明してくれた。

カミキリムシの飛翔力ではこんなところまで翔んでこれるわけもない。多分、貨物の松材か何かに紛れて入って来たのだろう。
離島は外来生物が入って来ると、在来種が駆逐され、簡単に絶滅しやすい。そして、その原因のほとんどは人間様だ。

空を見上げる。
雲行きも怪しくなってきた。多分絶対、南国の雨の洗礼がやって来る。
もう一度だけ詔魂碑まで上がって駄目なら、とっと宿に帰ろうと決めた。体力もそろそろ限界に近い。

登ってすぐ、頭上に気配を感じた。
松の上空をアカボシが流れるように滑空している。
やっとテリトリーを張り始めた❗
鮮やかな赤がよく目立つ。

あたふたと網を組み立てる。
(~O~;)うわっ!、だが無情にもポツポツと大粒の雨が落ちてきた。(゜〇゜;)え━━━っ、 嘘やん!
畜生、スコールがやって来たようだ。慌てて樹下に逃げる。

OH~、神よ、毎度毎度のことながら、この期に及んでまたしても我に試練をお与えなさるおつもりか…。
一挙に状況は逼迫してきた。雨が止むのを心から祈るしかない。止まないのなら、惨敗決定だ。

思いが通じたのか、5分余りで再び晴れ間が顔を覗かせ始め、やがて光が射した。
と同時にアカボシも飛び始めた!!
南国の不安定な天気だ。再び雨が来る前に決着をつけねばならない。

採り方は、近縁の国蝶オオムラサキと変わらない筈である。ならば楽勝だ。網を正面からそっと被せればいい。落ち着いていこう。

しかし、オオムラサキと違って、そんなにバカ蝶じゃなかった。
枝先に止まるが、結構敏感で網を近付けようとすると直ぐに翔んでしまう。三、四度、同じ事が繰り返される。

(-“”-;)クッソ~、残された時間はそうないぞ。いつまた陽が陰り、雨がやって来るとも限らない。
えーい、もう今までみたいにゆっくりと慎重に網を近付ける方式は諦めた。
心頭滅却、ビシッといったるわい(`へ´*)ノ

目測およそ頭上約6m。止まって、一拍おくかおかないかのうちに反応して、間髪措かずに網先を走らせる。
(=`ェ´=)ウリャ!!、腕の筋肉がしなる。
バサリと正面斜めから網を振り被せ、そのまま強引に空間へと逃がす。そして、ホームランを打った時のフォロースルーが如く手から竿を離す。
決まった…。手応え充分の感触がある。
網先を敢えて捻らなかったので、風を孕んでふくらんだ網が真っ直ぐ地面に向かってスローモーションのように落ちてゆく。

地面に落ちたことを確認して、ゆっくりと歩いてゆく。
勇者の如く、まあまあ天才は急がない。

 

 
よっしゃーd=(^o^)=b、今度は完品だ。
手にとり、まじまじと見る。
ひょえ~、お美しい。

蝶採りは、こうでなくっちゃネ d(^-^)
ギリギリの勝負にしか、エクスタシーはないのだ。

 

 
その後、落ち着いて続けざまに3頭を加える事ができた。何れも完品のレッドスターだ。

午後5時半。本格的な強いスコールがやってきた。すんでのところで、公園の東屋に逃げこむ。

30分間待ち、小雨になった間隙を縫って宿まで急いで帰ってきた。
着いたと同時に、再び叩きつけるような豪雨がやって来た。

 

追伸
やはり、文章を二回に分けることにしました。
すんません。次回こそ、食いもんの話です。奄美大島の旨いもんテンコ盛りだすよ。

 

『西へ西へ、南へ南へ』第5話

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー

いやはや驚いた事にアメブロには第5話が掲載されていない。
どうやら「第五番札所」の回が前後編に分かれている事に気づかずに後編のみをアップしたようだ。重要な回なのにね。よくぞスッ飛ばしたものだ。
だから、第5話は謂わば幻の第5話ってワケだね。

でも正直、心が折れそうになった。なぜなら、どっかに埋もれている原稿を探さねばならないからだ。もし見つからなければ、昔の彼女の誰かに連絡をとらねばならない。連絡もしにくいし(どうせ酷い事をしているのだ)、たとえ連絡したところで原稿が残っているかどうかも分からない。自然、億劫にもなってくる。だから、よっぽど連載を打ち切りにしてやろうかと思った。

でも、一応探したら昔の携帯電話が出てきた。幸いな事に起動もした。そして、何と原稿も残っていた。
というワケで旧い原稿をシコシコ書き移してゆく事にしよう(コピペ出来ないから物凄く大変そうだけど…)。

それでは幻の第5話の始まり始まり~。

      ー捕虫網の円光ー
    『西へ西へ、南へ南へ』

  第五番札所 南国の紅い流れ星

 
2011年9月12日

いつしかフェリー乗り場のロビーには、誰もいなくなっていた。
それぞれがそれぞれの落ち着くべく場所、自分の家やホテルに向かったのだろう。

ホテルを予約していない男には行くあてがない。
午前5時に宿の誰かを叩き起こして嫌われるのもイヤだ。せめて7時くらい迄はここで時間を潰そう。ここなら少なくともクーラーだけは効いている。第四番札所の原稿でも書いていれば、時間も費えるだろう。

美しい朝焼けを眺めながら書き進める。

 

 
7時に名瀬市街に向かって歩き始めた。
遂に来たと云う高揚感とこんなとこまで来てしまったと云う軽い後悔とがない交ぜになった心持ちで海岸線を歩く。

市街地に入ってから宿に電話を入れる。
一発で決まった。
「あづま屋」素泊まり一泊 2500円。
簡単に言えば、飯なしの民宿だ。設備的にはこの値段なら、まあ良い方だろう。唯一の欠点はクーラーがコイン制だということである(150分 100円)。

ひょんなことから、宿のおやじが奄美で一番最初にダイビングショップを始めた事がわかり、驚く。
あえて尋ねなかったが、もしかして師匠とも知り合いかもしれない。
実をいうと、男は奄美大島に訪れるのが今回で三回目になる。過去二回は何れもダイビング・インストラクターをやっていた頃の事である。まだ蝶採りを始めていなかった。

それにしても此処のおやじ、侮れない。持っている玉の柄(竿)を見て、釣りだと言わずに『蝶?』と言ったのには驚いた。

8時半まで部屋で原稿を書き、出来立てほやほやの第4話を読者に送信する。
そして、ササッと5分で用意してスクランブル発進した。船旅で疲れてはいるが、蝶を求める心の方が遥かに強い。もうそれは恋愛感情に近いものだ。望みの蝶に会うことが全てにおいて優先されるのだ。

今回のターゲットはアカボシゴマダラ。
彼女の存在が、はるばるこの島まで男を誘(いざ)ってきた。

【アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)】
学名 Hestina assimilis shiraki。
近縁種ゴマダラチョウに似るが、後翅に赤い輪紋があることにより容易に判別される。
日本では本来、奄美諸島のみに産する固有亜種。
しかし、近年は中国の大陸亜種(a.assimilis)が関東地方に流入し、急速に分布を拡大しており、近似種のゴマダラチョウを圧迫しているという。これが人為的な放蝶なのは明らかだ。つまらん事をする輩もいるものだ。
しかも、この中国の亜種、奄美大島亜種の鮮やかな赤紋とは違い、赤紋がいやらしいピンク色なのだ。そして、輪紋がだらしなく潰れていて下品。場末のピンサロの姉ちゃんみたいで全然美しくないから、男はその存在を絶対にアカボシゴマダラと認めない。アカボシゴマダラに憧れていた者としては、あんなものがアカボシゴマダラだと思われるのは忸怩たるものがある。日本における美蝶の一つだったのに、コイツのせいで確実にアカボシゴマダラのブランド力は下がったと言えよう。
発生は4月、6月、8月、及び9月中旬から10月。
幼虫の食樹はリュウキュウエノキ(クワノハエノキ)。

第二のターゲットは、アマミカラスアゲハ(オキナワカラスアゲハ奄美亜種)。そして、第三のターゲットはイワカワシジミだ。
アマミカラスは後翅の帯状紋が発達しており、美麗。
イワカワシジミも奄美大島のものが特に美しいとされている。

宿のおやじから近くに24時間営業のスーパーマーケットがあると聞き、まずは朝昼兼用の飯を買いに行く。
おにぎりを二つ買って、はやる心で歩き出す。

今日は街のすぐ背後にあるらんかん山(くれないの塔)か拝山に行く予定だ。
こんな市街地近くにもアカボシは棲息しているようだ。元々、里山の蝶だから不思議ではないのだが、感覚的にはちよっと驚きだ。この島はそれだけ自然が豊かなのだろう。

先ずは拝山に行った。
宿から歩いて15分程でポイントに着いた。
九州も暑かったが、当たり前だがもっと暑い。亜熱帯特有のねっとりとした湿気も相俟ってか、直ぐに滝のように汗が流れ出す。九州では秋の兆しもあったのに、完全に真夏に逆戻りだ。

 

 
期待に反して、蝶影は薄い。
クロマダラソテツシジミだけがアホみたいにいる。
数年前までは珍品迷蝶だったが、今やゴミだ。

  
【クロマダラソテツシジミ】
(2016.10月)

 
あとはモンキアゲハくらいしか飛んでいない。ヒマつぶしに網に入れる。みんな羽化したての新鮮な個体だ。
しかし、興味がないから全部リリースしてやる。

糞暑くて早々とグッタリとしていたら、突然、ハイスピードでアマミカラスアゲハが目の前に現れた。
瞬時に反応して鮮やかに決まったが、尾状突起(尾っぽ)の片方が千切れていた。おまけに擦れ個体でガッカリする。時期が合わなければ綺麗な蝶は採れない。不安が頭をもたげる。
南国を象徴する佳蝶、ツマベニチョウもボロ。
そして、憧れのアカボシゴマダラの姿は全く無い。
ダメな所で粘ったところでダメだ。判断の遅い愚図は果実を得られない。
10時過ぎ、ウスキシロチョウの銀紋型のキレイなのだけを三角ケースに収め、諦めて下山した。

下まで降りてきたら、網を持った青年がいた。虫屋だ。
暫し雑談する。千葉の人で、もう1週間も奄美にいるそうだ。
『何を採りに来たんですか❓』と尋ねたら、『何でも。』という答えが帰ってきた。
アカボシについて訊いてみたら、アカボシはまだ一度も見ていないと言う。やっぱり少し発生期には早かったか❓不安がよぎる。
晩飯に誘ったが、レンタカーで寝泊まりしていて、飯はカロリーメイトだと言われたのでやめた。そういう人と飯を食っても楽しくない。

すぐ隣の大島支庁舎前で、惰性でウスキシロチョウを採っていたら、ちよっと不思議な雰囲気のおじいが近づいてきて、いきなり目の前の木の葉っぱを指さし、『これ、食草。』とおっしやった。
更にコレコレと指さし、あっという間に幼虫を見つけて、『1令幼虫だ』と呟く。
するってえと、この木がナンバンサイカチ❓それとも園芸種のゴールデンシャワーかな❓多分、支庁舎に植えられているくらいなんだから、綺麗な花の咲くゴールデンシャワーだろう。尋ねようとしたら、既におじーは歩き始めている。まっ、いっかと思ったら、おじーは暫く歩いてからふわっと振り返って、おいでおいでする。何となく手招きされるままに歩み寄る。
ついてゆくと、ひょいひょいと支庁舎の敷地内に入ってゆく。おじー、どこ行くの❓
そして、迷うことなく何やら細い通路に入ってゆく。半信半疑で後ろをついてゆく。おじー、何者❓

路地を抜けたら、目の前に小屋が現れた。
入口の横に看板が掛かっている。
『大島支庁 ハブ対策室』。
なぬっ(゜ロ゜;⁉、おじーはそのまま建物へと入ってゆく。一瞬躊躇したが、続いて入る。
すると、おじーにスタッフ達が挨拶する。何とおじーは大島支庁のハブ対策室の室長だったのだ。

檻の中には沢山のハブがいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ゾワッ❗
そっか…(^_^;)アハハ。すっかり忘れていたが、奄美大島には毒蛇ハブがいるのだ。しかも、本ハブだ。そして、本ハブの中でも奄美大島のものが一番デカくて最強だと言われている。
あちゃー、今回も危険なミッションかよ…( ̄▽ ̄;)
虫捕りって、リスクあんなあ…。

そん事を考えていたら、袋を持ったおじさんが入ってきた。
袋の中身はどうやらハブらしい。奄美大島では捕獲したハブをお役所が買い取るという制度があると聞いた事がある。それだけハブの被害が多いって事でもあるんだろう。Σ( ̄ロ ̄lll)ヤバいぞ、奄美大島。

袋の中には7匹のハブが入っていた。でも小さい。
その場で2万8千円が支払われた。何と買い取り価格4千円である(現在はもっと下がっているそうだ)。
こんなチビハブで2万8千円ってボロ儲けじゃないか。訊くと、買い取り価格に大きさは関係ないそうである。
『こんなん仕事に出来るんちゃいますのん❓』とおじーに尋ねたら、実際職業にしている人も結構いるらしい。住民も小遣い稼ぎ感覚で捕獲しているようで、タクシーの運転手などは必ず蛇の捕獲用具をトランクに入れているという。

それにしても臭い。室内にケダモノの悪臭が立ち込めている。蛇って無臭なイメージだったが、臭いんだ…。

お茶を御馳走して戴き、雑談が続く。涼しいし、蛇が臭いこと以外は快適だ。
袖すりあうのも多少の縁と言うではないか。どうせ今日はアカボシは無理そうだし、まあいいや。

昼過ぎ。少し体力も回復したので、おじーにお礼を言い、らんかん山に向かう。

らんかん山も拝山と同じようなもんだった。蝶影が薄い。
仕方なしに猫と遊ぶ。
猫と遊ぶのは好きだ。腹をさすってやると、気持ち良さそうに目を細める。

 

 
遊んでいたら、アマミカラスがふわりと何処からともなく現れた。
咄嗟に網を拾い上げ、ダメ元で慌てて振ったら、キレイに入った。

 

 
今度は、ほぼ完品。♂だ。
やっぱり羽が傷んでいないものは、ドキッとするくらいに美しい。

しかし、相変わらずアカボシの姿は見えない。
午後1時20分。半ば諦めて山道を歩いていたら、横の灌木から驚いた蝶が飛び出した。
そして、2mくらい先の枝先にとまった。

うわっ(゜〇゜;)、アンタやん❗❗
まごうワケがない。白黒の格子模様に流れるような赤の輪っかの列。間髪入れずに網先が動いた。キレイに振り抜く。

 

 
想像していたよりも小さい。
だが、それでも一目惚れだよ(≧∀≦)

美人蝶だ。指先が震える。
白黒のコントラストがハッキリしていて、エッジが効いている。それを鮮やかな赤が更に引き締めている。

だが、何か呆気ない幕切れでもあった。
アカボシゴマダラは夕方にテリトリーを張ると聞いていたから、これからが本番だと思っていたのに、いきなりの出会い頭だ。しかも、ほとんど間を措かず網を振り抜いたから、緊張している暇もあまり無かった。
この見つけた時から網を振るまでの間が蝶採りのクライマックスであり、醍醐味なのだ。その先にはエクスタシーか絶望がが待っている。だから心が千々に乱れ、心拍数もハネ上がる。謂わば、この刹那が手に汗にぎる瞬間でもあるのだ。
正直、朝からのこの展開だと、もっと苦労する事を予想していた。それが予想だにしなかった展開で、わりかし簡単に手にする事が出来た。採れてホッとはしたが、でも何だか複雑な気持ちだ。簡単に採れるに越したことはないが、とこか拍子抜けなところがある。心は、どうやらもっと高いハードルを望んでいるようだ。

でも、よく見ると反対側の羽が破れている。
残念だが、これで逆にモチベーションが取り戻せる。完品を採ってこそ、ストーリーは完結するのだ。

とはいっても、この破れた個体をどう解釈すべきかと思い悩む。破れてはいるものの、比較的鮮度が良いから判断が難しい。
もう発生しているんだなと最初は安心したが、この状態では何とも言えぬ。最盛期の8月に羽化する筈の個体が、たまたま遅れてこの時期に出てきたものを偶然に捕まえたという可能性も否定できない。
それに、もし9月の第4化目が発生しているのなら、有名産地なんだからもっと数を見かけてもよい筈だ。
いや、もしかしたら6月以外は個体数が少ないと云うから、こんなもんなのか?だとしたら、相当少ないって事になる。そんなに採集難易度が高いのか❓
虫屋の青年もまだ一度も見てないと言ってたし、そういえば宿のおやじも『アカボシ、昔に比べて最近はとんと見かけなくなったねぇ。』とも言ってた。確かに減ったと云う話は文献など巷でもよく聞く。

頭の中が整理できないままに山道を歩く。
だが、指標となる次のアカボシには出会えない。
次第に不安が募ってゆく。

腕時計に目をやる。
針は、いつの間にか午後3時半を指していた。

                   つづく

  
ー追伸ー
ハブの件(くだり)なんかは、かなり説明不足だったし、他もちょこちょこ訂正加筆した。だから、結局書くのにかなりの時間を擁した。
次回は美味い食いもんが一杯出てきます。
でも、もしかしたら2回に分けるかもしれない。

 
追伸の追伸
1年ぶりに読んだが、結構面白い。
でも当時は完璧な出来だと思っていたか、やっぱり手を入れる所はちょこちょこと見つかる。
てにをはの間違いや誤字脱字もあったし、気に入らないので一部つけ足したり、削ったところも有りです。
文章を書くのは、思った以上に難しいよね。

蝶に魅せられた旅人アーカイブス

アメブロの記事をワードプレスに移したいんだけど、はてさてあの膨大な量をどうしたものかと思っている。何せ千を越える文章があるのである。それに、一番最初に書き始めたアメブロは今のアメブロとは分断していて、それも百話以上もある。しかも、その最初のアメブロはパスワードがワカンナイからログイン出来ないときている。(ー。ー#)ったくよー。

続きを読む 蝶に魅せられた旅人アーカイブス

パタライナズマ Euthalia patala(前編)

パタライナズマ Euthalia patala を展翅板から外した。

パタライナズマはEuthalia(ユータリア)属・Limbusa亜属の最大種である。Limbusa亜属は緑色系大型イナズマチョウ群の総称で、ヒマラヤから台湾にかけて分布する。

Limbusa亜属の最大種ということは、ようするにユータリア属の最大種って事でもあると思う。知識が足りないので、間違ってたらゴメンなさい。

英名はGrand Duchess 。日本語に訳すと「偉大なる公爵夫人」。でも、Duchessは未亡人を指す言葉のようだから、むしろ「偉大なる大公妃」とか「偉大なる皇妃」と訳すのが正しかろう。もっと解りやすく言うと「公国の偉大なる女性君主」って事だね。その姿に相応しい名前だと思う。
分布はインド辺りからインドシナ半島北部にかけて生息するようだ。調べた限りでは、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、タイ、ラオス辺りから得られている。ベトナムや中国西部にもいるかもしれないけれど、資料が少ないから何とも言えない。因みにLimbusa亜属のチョウは、何れの種も産地が限定され、局所的。発生期間は短く、しかも個体数が少ないそうだ。パタライナズマも例に漏れず、分布は局所的で一応、珍品の部類に入ると思われる。

先ずはタイ北部チェンマイの奴。

(2016.3月 Thailand Changmai )

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取り敢えずテストの第一稿です。

しっかし全然使い方がワカランよ。

ヘッドの画面はオオムラサキの翅にしたんだけど、ちゃんと反映されているのかな?
それにしても、オオムラサキ♂の翅は美しいよね。

でも、他の画像をどっから持ってくるか解らなくて、またアタマが💥爆発じゃよ。

意図せず行間も空くし、絵文字の入れ方もワカラナイ。おまけに過去画像の貼り付け方もワカラン。

やっと過去画像を見つけたが、ファイル分けされとらん。(ФωФ)ニャーゴー。

取り敢えず、画像を貼ってみる。

クギヌキフタオの♀だ。

(о´∀`о)カッコいいよね。

絵文字も何とか入れられた。でも、カラーの絵文字はワカラン。先が思いやられるよね。