2019年の空たち 冬・春編

 
空を見るのが好きだ。

 

 
画像は去年の師走、12月17日に撮ったものだ。
ドン突きまで並ぶ雲に奥行きがあって、モノ凄い遠近感を感じたので、つい撮ってしまったのだ。

でも、スマホのストレージが溜まってきたので、そろそろ消去しなければならない。しかし、このまま日の目を見ずに此の世から人知れず永遠に消えてしまうには忍びない画像だ。そこで去年に撮った空の写真を纏めてアップしてから消すことにした。

 

 
2019年、最初に撮った空だ。
紅梅が晩冬の空の下、凛と咲いている。

日付は2月23日になっている。昔の彼女と久し振りに会って、天下茶屋から昭和町まで歩いた時に撮ったものだ。たぶん途中の公園で咲いてた紅梅が美しかったから撮ったと記憶してる。
その後すぐ、何故かアチキは突発的に布施明の『シクラメンのかほり』を歌いたくなって、アカペラで情感たっぷりで熱唱。元カノに脱力で笑われた。

 
 

 
4月3日。
青春18切符の旅が、また始まった。
福井県南越前町まで足を伸ばす。

 

 
天気は良好。ぽかぽか陽気の中で、ギフチョウたちが沢山舞っていた。

 

 
スプリング・エフェメラル。春だけに現れる妖精だ。
毎年のように会っているが、最初の1頭には毎回ハッとさせられる。忘れているワケではないが、改めてその美しさに心奪われるのだ。

 

 
敦賀まで戻り、寂れた歓楽街を彷徨う。
人影は無く、時間の流れが止まったかのようだ。空には一点の雲も無いので余計にそう感じる。動くものが何もないのだ。

 

 
氣比神宮の鳥居の向こうに、空も石畳もトパーズ色に染めて夕陽が沈んでゆく。

 

 
敦賀駅まで戻ってきたら、喫茶店のスピーカーからボズ・スキャッグスの名曲『ウィ・アー・オール・アローン』が流れてきた。

 

(※画像をタップすると曲が流れますよ〜ん。)

 
あまりにも曲と夕景とがピッタリで泣きそうになった。
我々は皆、所詮は一人ぼっちなのだ。

 
 
4月6日。
青春18切符 ONEDAYトリップの2日めは、武田尾方面のギフチョウに会いに行った。

 

 
空の青とピンク色の花とのコントラストが美しい。
大きな木ではないが、やはり枝垂れ桜は華やかだ。正直、ソメイヨシノよりも綺麗だと思う。
そういや、去年は紅枝垂桜を見てない。たぶんコロナウィルスのせいだな。山なら人と接触することは少ないけれど、シダレザクラで有名な平安神宮なんかだと、そうともゆかぬ。で、断念。
ベニシダレザクラ、見たかったなあ…。だって桜の中では圧倒的にゴージャスだからね。
今年は何とか行ければいいけど…。

この日は、一旦武田尾から離れて夜にまた舞い戻ってきた。 
何でかっつーと、春の三大蛾(註1)がいないかなあと思ったのだ。

 

 
天気予報は夜には曇ってくると云うことだったが、夜遅くになっても、あいにく夜空には満月。
虫たちは晴れの日よりも曇りや小雨の日に灯火に飛来する事が多いと言われている。月の光が邪魔なのだ。だから満月の月夜は最悪のコンディションとなる。
結局、どれ1つとして目的の面々とは会えなかった。
まあいい。春のちょっと肌寒い夜空に浮かぶ朧月(おほろづき)は美しい。ことに満開の桜の夜ならば、尚の事だ。考えてみれば、極上の月見ではある。

 

 
真っ黒な夜空の下で咲く桜は、いつ見ても妖艶だ。暗い想念が仄かに蠢く。

 
 

 
4月7日。
ちょっと悔しいので、翌日には箕面を訪れた。

天気予報は今宵もハズレ、満月が昇ってきた。
まだ芽吹いていない裸木の枝が、月をより美しく見せている。
だが、当然ながら結果は又しても惨敗だった。

 
 

 
4月8日。
青春18切符の旅、3日目である。
行先は兵庫県西脇市。又してもギフチョウに会うためだった。
蝶好きのギフチョウ愛は強く、ワシなんぞはギフチョウ愛が足りないと言われるクチだが、それでも、それなりにギフチョウ愛はちゃんとある。特別な蝶の一つではあるのだ。

この日も快晴。でも春特有の霞が掛かったような空だった。
そういや、雲雀(ヒバリ)が喧しく歌いながら天高く飛んでいったのを思い出したよ。しみじみ春だなあと思った。
こうゆう時は、横に誰か女性が居て、互いに黙して風景を見ていたいものだと思う。

 

 
乗り降り自由の切符だからアチコチ回って、最後に桜ノ宮で夜桜を見てから帰った。

黄昏どきの桜も美しい。
青の色を失いつつある空が、心をゆらゆらと揺らす。

 
 

 
4月12日。
青春18切符の旅の最終日は、和歌山へと向かった。
先ずは道成寺駅で下車。

 

 
この日の空は澄んだ青だった。
雲も白い。

 

 
田辺へと向かう車窓に突然、空と海とが飛び込んできた。
フレームの中で青と青が、せめぎ合う。
けれど春の空も春の海も、どこか優しい。やわらかな陽射しの中で、たゆたっている。

田辺の街をぶらぶらと歩く。

 

 
南方熊楠顕彰館の隣にある旧熊楠邸では、ミツバツツジが咲いていた。やはりピンクの花は青空と合うんだね。何だか、ほっとする。

 

 
田辺の夕暮れ間近の歓楽街を歩く。
細い舗道には誰もいなくて、何処かの時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。そこには長い年月がゆっくりと削り取った時間の澱みたいなものの残滓がある。
それを、人はノスタルジーと呼んでいるのかもしれない。

 
 

 
5月2日。
これは一瞬、画像を見ても自分でも何だか分からなかった。
前後の画像を見て漸くコシアブラの木だったと思い出した。この日は四條畷に山菜採りに来たのだった。

 
(コシアブラ)

 
他には、イタドリとワラビくらい。

 

 
そういや、タカノツメも採ったね。
植物学的にはコシアブラと近いものらしいが、味は劣る。

 

 
ついでにカバフキシタバ(註2)の食樹であるカマツカ探しも兼ねていたかな。

 

 
ふと、スミナガシ(註3)にも会おうと思い立ち、場所を移動して大阪平野を望む。
ぼんやりとした春の空の下(もと)、街はベールが掛かったかのように、けぶっている。
昔は春が好きじゃなかったけど、今はとても好きだ。冬がどんどん嫌いになっているから、ホント待ち遠しい。

 
 

 
伊丹空港(大阪空港)だ。
日付は5月7日。とゆうことは、シルビアシジミ(註4)の様子でも見に行ったのだろう。
空港には、真っ青な空がよく似合う。

 
 

 
上の写真は瓢箪山駅の手前だとすぐに分かった。山並みの形が見慣れた生駒山地だったからだ。
だが日付を見ると、5月13日となっている。どうせアサマキシタバ(註5)でも採りに行ったのだろうと思っていたが、時期的にはまだ微妙に早い。じゃあ、何しに行ったのだ❓

💡ピコリン。
そっか、思い出したよ。スミナガシを採りに行ったんだ。四條畷では何故か現れなかったので、仕方なしに生駒に来たんだった。しかも、難波からママチャリで。マジ、遠かったわ。
あとは去年の初冬にカマツカの木を見つけたけど、本当にそうなのかを確認するためでもあった。あの特徴的な花が咲いてさえいれば、確定だからね。

生駒から大阪の街を見下ろすのは好きだ。
此処まで登ってくれば、空を遮るものは背後の生駒山だけだし、空が広いのは気分がいい。それに何となく街を支配したかのような気分になれる。

 
 

 
5月24日。
枚岡神社の手前辺りで日が沈んだ。
この時間帯に此の地点に居るという事は、今度こそ目的はアサマキシタバだろう。彼女たちは夜に活動するからね。
そして、眺め的に間違いなく又してもチャリである。遠いだけでなく、山の中腹まで登らねばならんから、もうクソみたいにしんどいのだ。
難波から、こんなとこまでママチャリで来るなんてのは、どう考えても中学生レベルの発想だな。ようはアホである。全然成長してない。

 

 
夜の空。
当たり前だが、夜の空は暗い。
懐中電灯を消すと、一瞬は真っ黒けだ。けど、そのうち目が慣れてくると、ぼんやりと色んなものが形を成してくる。そして夜の空にも表情がある事に気づく。雲は昼間と同じように動いており、けっしてとどまることはなく、風景は一様ではないのだ。

 

 
山側の空は暗いが、大阪平野側は街の灯が明るいから、それに照らし出される空も明るい。
でも曇っているから、見ようによっては不気味だ。
きっと、そのうち悪魔共が空をヒュンヒュンでワンサカ飛び交いだし、やがて大阪の街は火の海と化すのだ。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

夜の山に一人でいると、ロクなことを考えない。

                         つづく

 
追伸
(ー_ー゛)う〜む。今更ながら武田尾辺りの文章を書いてる時に思い出したよ。すっかり忘れていたが『青春18切符の旅 春』と題した連載が、武田尾駅まで戻ってきたところで中断、っていうか頓挫、第二章の途中でプッツンの未完のまま放ったらかしになっておるのだ。
そっから、またアッチコッチ行って夜桜に繋がるのである。
我ながら割りと面白い紀行文ゆえ、宜しければ読んで下され。そのうち続きも書きます。

次回は後編の夏・秋冬編。
空が写ってる画像はもっと少ないかと思ってたが、意外と多かったので2回に分けることにしたのだ。

 
(註1)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメのこと。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

光の加減によっては、目玉模様がコバルトブルーに光る。

 
【イボタガ】

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

デザインに似た者がいない、類を見ない唯一無二の大型蛾。
このモノトーンの幾何学模様には、何度見ても不思議な気持ちにさせられる。多分、その翅には太古の昔の財宝の在り処が示されているに違いない(笑)。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

異形の者、化け物、魑魅魍魎。悪魔のステルス戦闘機。
日本最大のスズメガで、鵺の如きに鳴く(笑)。
でも慣れると可愛い(´ω`)

これらはギフチョウと同じく年一回、春先だけに現れ、何れも人気が高い蛾である。
気になる人は、当ブログにて『春の三大蛾祭』とかと題して2017年と2018年の事を分けて書いたので読んでけろ。コミカル・ホラーでっせ(笑)。

 
(註2)カバフキシタバとカマツカ

【カバフキシタバ】

ヤガ科カトカラ属の稀種。主に西日本に局所的に分布する。
カバフキシタバの事もカトカラシリーズで何編か書いている。
そういや最初に書いた『孤高の落ち武者』もコミカル・ホラー的な文章だったかもしれない。

 
【カマツカ】

バラ科の灌木。名前の由来は材が硬くて鎌の束などに使われた事から。

 
(註3)スミナガシ

【♀】

 
【♂】

タテハチョウ科スミナガシ属の中型の蝶。
名前の由来は古(いにしえ)の宮中の遊び「墨流し」から。
日本の蝶の中では唯一、眼が青緑色でストロー(口吻)が紅い。
稀種ではないが、かといって何処にでもいる蝶ではなく、その渋美しい姿からも人気が高い。
たぶん、スミナガシの事もちょくちょく書いてる。でも詳細は全然思い出せないので、自分で自分の書いた文章を検索すると云う変な事になる。
えー、本ブログ内の奄美大島に行った時の紀行文『西へ西へ、南へ南へ』の中に「蒼の洗礼」と題して書いている。アメブロの方の「蝶に魅せられた旅人」には『墨流し』と題して書いている。他には台湾の採集記にも出てくる筈だ。

 
(註4)シルビアシジミ

全国的に数が少なく絶滅危惧種だが、何故か伊丹空港周辺には普通にいる。
シルビアシジミの事も『シルビアの迷宮』と云う長編に書いた。内容はミステリー仕立てだったような気がするけど、あんま憶えてない。

 
(註5)アサマキシタバ

【♂】

(2019.5 奈良県大和郡山市)

 
カトカラの中では発生が最も早く、5月の半ばから現れる。
そのせいなのかはどうかは知らないけど、最も毛深いカトカラだと思う。
採集記と種の解説は、拙ブログのカトカラの連載に『晩春と初夏の狭間にて』『コロナ禍の狭間で』『深甚なるストレッケリィ』と云う題名で、それぞれ前後編の6編を書いた。詳しく知りたい人は、ソチラを読んで下され。