2017′ 春の三大蛾祭り 其の四 魑魅魍魎篇

 
長らく間があいたが、いよいよ最終回である。
でも、書きあぐねていたワケではなく、単に書く気が起こらなかっただけ。だから、別に練りあげた文章でも何でもないです。期待されても、その辺は無理。
えーと、今度こそ魑魅魍魎どもが登場するので、閲覧注意ですぞ😁

と、ここまで書いて、さらに1週間が経ってしまった。なので、今回は親切にも前回までのあらすじ付きなのじゃ(ヒマな人は過去3話を読み返しましょう)。
それでは、蛾嫌いでも読める手に汗にぎるノンフィクションホラーの始まり始まりぃ~\(^-^)/

 
【前回までのあらすじ】
2017年 4月上旬。ひょんなことからヒロユキは或る秘密結社の夜会に同行することとなった。その夜会とは、プロチームによるライトトラップを使った泣く子も黙るおぞましき蛾採集であった。
ヒロユキにとっては初のライトトラップにして、初の本格的蛾採集である。元来、ヒロユキは大の蛾嫌い。しかもターゲットは春の三大蛾と言われるエゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメという身の毛もよだつ凶悪な面々なのであった。
暗雲垂れ込める不気味な空。春まだき、寂たる白骨の森。とある山奥へと車はゆっくりと進んでゆく。
未知との遭遇への畏れ。武者震い。不安をかき消さんがための饒舌と過度の飲酒etc…。
やがて漆黒の闇が訪れる。戦々恐々とした中、碧い眼の妖蛾、エゾヨツメが現れる。酒の力を借りて、悪霊を退治するヒロユキ。しかし、梟男爵と闇の帝王は、いっこうにその邪悪なる姿を現さない。
真夜中、焦燥に駆られたヒロユキは、そこでついに決断した。遠く離れた巨匠のライトトラップへと一人で向かうことにしたのだ。暗黒世界に跳梁跋扈する魑魅魍魎の影に怯えるチキンハートのヒロユキ。恐怖と戦い、ようやく辿り着いた闇夜に浮かぶ宇宙船、光輝くライト・トラップ。だが、安堵も束の間。ついに戦慄の時を迎えるのであった…。

 
真夜中、丑三つ刻の山中を一人でうろうろしていたら、何が起こるかわからない。小心者のヒロユキは怯えた。闇の国の者どもに絡め取られるぬうちにとっとと戻ろう。

 

 
そう思って歩きだそうとした矢先だった。
ライト・トラップ右側の視界に違和感を覚えて、何気に杭の辺りに目をやった。
 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ ン❗❗

いきなりの強引なカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配してきた。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

 

 
そこには、闇の将軍が夜陰に紛れて静止していた。
( ; ゜Д゜)何たる怪異なデザイン…。
デジタル悪魔じゃよ。
その特異な姿、間違いなく梟男爵イボタガだ。
一歩近づき、マジマジと見た。
((((;゜Д゜)))ブルッときた。背中から首筋にかけてゾクゾクしたものがギュンと走る。

さて、どうしたものか(-_-;)❓…。
アンモニア注射は持ってないし、網はベース基地に置いてきた。有るのは毒ビンだけである。
ということは、このバケモノを取り込む為には手で触らねばならない可能性が高い。
( ̄▽ ̄;)触るのか…。生来、大の蛾嫌いなオラに、こんな恐ろしげなものに触れというのか❓
碧眼魔女エゾヨツメは動き回っていたので、逃げられまいと思わず手が出た。だが、今回は違う。覇王色の覇気を放ち、静かに鎮座されておるから、畢境考えざるおえない。
時として思考は恐怖の敵だ。考えれば考える程にかえって怖さの実感がまざまざと這い上がってくるのだ。

だとしても、接触せねば採れない。
ここは男度胸。やるしかあるまいて(=`ェ´=)
武者震い。惑乱と恐怖が体を強(こわ)ばらせる。

しかれども、ビビって中途半端に触れて逃げられたら非常にマズイ。
Mさんに『いたんですけどぉー、掴もうとしたら逃げられちゃいました~\(・o・)/』などとホザいたところで、到底信じてはくれまい。現物が無ければ、嘘つき言いワケ野郎と云うレッテルを貼られるに決まっているのである。何があっても、根性なしの汚名を着させられるのだけは御免蒙りたい。

おもむろにスマホを取り出す。
取り敢えずは、保険として証拠写真を撮っておこうと云うワケである。イガちゃん、カシコイ。

2、3枚撮ったところで、Σ(゜Д゜)ドワッ❗❗

大きく羽を広げおった❗

 

 
闇の将軍、お怒りである。
それって、威嚇っすか❗❓
むぅ~( ̄▽ ̄;)…、目玉模様が怖い。
あながちフクロウの顔に擬態していると云うのも嘘じゃないかもしれぬ。

ブルン、ブンブンブン…。

ブルン、ブンブンブン……。

 

 
ヒッ❗❗(゜ロ゜ノ)ノ

思わず、後ずさりする。
男爵殿、ものすご~く御立腹の御様子である。

取り敢えず、ここは一旦離れて落ち着かせよう。
距離を置くために2、3歩下がったその時だった。少し離れた左下に禍々しいシルエットを感知した。視線はそのまま釘付けになる。

ドッ(◎-◎;)❗、

ドオッ(@_@;)❗、

ドオ━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━ ン❗❗

 

 
Σ( ̄ロ ̄lll)のわっ❗
慄然。マックス震撼する。

(@_@;)あわわわわ…。いつの間に❗
そこには、闇の帝王が仁王立ちするかの如く傲然と静止していた。紛れもないオオシモフリスズメだ。
きゃん玉がキュッと縮みあがる。

( ; ゜Д゜)デ、デカイ…。
形も悪魔みたいである。

前門の狼、後門の虎❗
丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

いきなり魑魅魍魎に囲まれ、チビりそうになる。
(○_○)どぎゃんするとですか?
一瞬、脳死状態になる。

大きく深呼吸する。
落ち着け俺。落ち着けオレ~。

そうだ、コヤツも写真を撮っておこう。
気を取り直して、へっぴり腰で近づいてみる。

 
キャヒ ━━ Σ(T▽T;) ━━ ン❗

 
(註1)

突然、ケツをオッ立てよった❗
アナタ様も御機嫌斜めの威嚇っすか❓

それにしてもこのポーズ、パッと見は何が何ちゃら分からないムチャクチャ異形(いぎょう)なカタチだ。
気持ち悪ぅ~Σ(-∀-;)

 

 

 
(以上3点共、画像はM氏からの御提供)

 
( ; ゜Д゜)…な、何たる…。息を呑む。
羽がギザギザやんけー。見る者を充分にたじろかせる、まるで鋭利なナイフのようだ。
アナタ、モルグ街の殺人鬼ですかあー❓

脚は太くてガッシリとしており、強靭そのものだ。
その前脚でグワシと獲物をワシ掴みにして、ムシャムシャと肉を貪る残虐悪鬼さんどすか❓

体は分厚く、装甲車を思わせる。或いは屈強なる戦士の鎧か…。
( ̄∇ ̄*)ホホホホ…。あらゆるものをブチかましの粉砕ですかあー❓

フォースの暗黒面に陥りしアナキン・スカイウォーカー、頭はダースベーダーみたいだ。蛾って、蝶から暗黒面に転落した堕天使どもの成れの果てやもしれぬ…。
おまけに稲妻の如き太い線が入っておる。スーパー極悪ヤンキー兄ちゃんのパンチパーマーにソリコミじゃよ。
そこまで凄みをテッテッー的に効かせはりますかあ❓

睨みつけるような焦げ茶色の眼も凶悪そうだ。
やっぱりyouも御機嫌悪かとですか❓
(ToT)っんましぇーん。

とにかく、邪悪の極み。この世のありとあらゆる憎悪を凝縮させたような姿だ。もうモンスターとか、怪獣レベルですけん。

さてさて、問題は二大凶悪犯をどう生け捕るかだ。
一瞬、敵前逃亡が頭を過(よぎ)る。いや、敵前逃亡なんかじゃない。一旦戻って、オジサン達を呼んでくるのが得策やもしれぬ。それに、これはそもそも巨匠のトラップだ。勝手に獲物を持ち去るのは泥棒じゃないか。まずは巨匠の許可を受けるべきである。それが人の道と云うものであろう。
とか何とか考えるが、本当は言いワケである。所詮は、敵前逃亡を正当化する為の方便でしかない。どう御託を並べたところで、Mさんはこのチキンハートの敵前逃亡を見破るだろう。(ToT)くちょー、ヘタレ呼ばわりされてたまるものか!である。
それに、行って戻ってきたら姿がかき消えてましたじゃあ、後悔してもしきれない。せっかくのチャンスを自らみすみす放棄するなんざ愚か者の極みだ。
やるっきゃない(*`Д´)ノ!!!

とはいえ、毒ビンは一つ。
どうみても、デカい蛾が二つも入りそうにない。
どちらも怖いが、より怖いのは帝王オオシモフリスズメの方だ。胴体も太いから、蝶みたいに指で圧死させる事は到底不可能に思える。
それに、もし無理に試みて、

シモフリ、ブチッと押したら、白いの出た。

になったら、どーすると云うのだ。
想像して、((((;゜Д゜)))オゾ気づいた。
そりゃ、阿鼻叫喚のスプラッター地獄絵図じゃよ。
18禁どころか、永遠の発禁モノじゃわい。
ならば、毒ビンにオオシモフリを放り込み、イボタガを指で圧死させる選択しかあるまい。
でも、イボタガだって蝶と比ぶればどの蝶よりも胴体は太いぞー(;o;)

ふぅ~(* ̄◇)=3
もう一回深呼吸。
先ずはイボタガから片付けよう。
丑三つ刻の悪夢を一刻も早く終わらせて、無事帰還せねばならない。地球へ戻ろう、宇宙飛行士ヒロユキくん。

丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

この期に及んで、またしても駄洒落を言うとる場合かっ!?

 
衝撃の展開に、酔いは完全に醒めている。

ドルルルルルゥー、グガガガガガー。

突然、発電機のけたたましい騒音が耳に甦ってきた。
それで、冷静さをいくらか取り戻した。
心頭滅却。考えてはいけない。感情を殺せ。
すうーっと手を伸ばし、フクロウ男爵を掴んだと同時に胴体をブチッと力を込めて押した。そして、マッハで三角紙に放り込む。心の動きを一切おし殺した、流れるような一連の動きである。
ワタシはレイケツニンゲン、ワタシは冷血人間。

勢いそのままに闇の帝王に挑みかかる。
毒ビンのフタをあけて近寄り、電光石火で掴む。
考えていた以上にデカイ❗、重い❗と思った瞬間、

Σ(T▽T;)痛って━━━ ❗

コ、コヤツ…、咬みよったあー❗❗

思わず、手を振り離してしまう。
怪物は狂ったように円を描いて飛んだ。
ヤッベー( ̄□||||!!と思ったが、金縛りにあったようにその場で固まる。
しかし、バケモノはバタバタとよろけるように飛んで横の白布に止まった。

 

  
吸血鬼❓エイリアン❓プレデター❓
何なんだ、アンタ❓
咬むって、そんな蛾がこの世にいるのかよ?(註2)
吸血蛾❓( ̄O ̄)嘘でしょ❗❓
二流怪奇映画とかで血を吸う蛾を見た記憶があるような気がするけど(註3)、アレってフィクションじゃなかったのー❓そこまでオオシモフリって、邪悪凶暴なの❓
(-_-;)まさかである。見てくれはいくら強面(こわもて)で恐ろしくとも、本当は意外と善良なヤツなんじゃねえのと思っていたが、とんでもない。見たまんまじゃねえか。

パニックになりかけるが、ここで戦陣を引いては沽券にかかわる。もうヤケクソ、アドレナリン大量放出。思いきって再度つかみにかかる。
いやいや、待て、待て。待てーい。すんでのところで手が止まった。指先に、さっきの鋭い痛みの感覚がまだ残っている。慌てて掴んだら、また同じ轍を踏むことになる。ここは再度冷静になろう。
そうだ。毒ビンを上から頭にズッポリかぶせ、⚡電光石火でもう片方の手で一挙にケツをグイと押し込む作戦でいこう。そいでもって、すかさず蓋を閉める。これなら、最小限の接触でスムーズにミッションを完遂できる筈だ。

 
意を決して、

ズバババババアーン❗❗

頭から覆せた。

三( ゜∀゜)ひっ、

ひいーっΣ(T▽T;)❗

ゴツい脚がガッツリと布に喰い込んどるぅー❗

えーい(*`Д´)ノ、こうなったらヤケクソじゃあー!

手で掴み、無理矢理に引き剥がす。
そして、毒ビンに頭を突っ込む。

ギヤッΣ(゜Д゜)!、

暴れて入らんo(T□T)o❗❗

パニ ━━ ック\(◎o◎)/❗❗❗

※▼☆§¢%◆β!Σ(×_×;)❗
激しい抵抗にあい、中々押し込めなーい(T_T)
デカ過ぎるんじゃ、(# ̄З ̄)ボケ~。

だりゃあーΣ( ̄皿 ̄;;、コンニャロ❗、コンニャロ❗、コンニャロ❗おどれ、魂(たま)取っちゃるけん❗

渾身の力で、強引にブチ込んだった。

 

 
はあー( -。-) =3、はあー( -。-) =3
m(。≧Д≦。)mぜぇー、m(。≧Д≦。)mぜぇー。
肩で息をする。
やってやったぜ、オカーチャン。
急に力が抜けて、その場にへなへなとへたり込む。
だが直ぐには恐怖と興奮はおさまらない。アドレナリンだだ漏れのまんまだ。全身がまだ緊張で強ばっている。指も小刻みに震えている。

しかし、本能が此処にとどまっていてはならぬと頭の後で警鐘を鳴らしている。そうなのだ。いつ闇の住人たちが、この心の隙間を狙って雪崩れこんで来るやもしれぬ。油断してたら、フォースの暗黒面に引き摺り込まれかねない。一刻も早くこの場所を離脱すべきだ。

全方位に警戒しながら、足早に坂道を下りる。
しかし、周囲の闇は深い。道を照らす懐中電灯の灯りは心もとなく、さしてスピードは上げられない。
心はざわついている。早く戻りたい。でも周囲にも警戒を怠ってはならぬ。それに、怪物たちがいつ甦生するとも限らないのだ。ここで暴れられたら、😱大絶叫するだろう。

10分後。ようやく坂の下にベース基地が見えてきた。
翼よ、あれが巴里の灯だ。

Mさんは、まだ起きていた。
興奮して、事の顛末を喋りまくる。
Mさんは笑いながら『ほーかぁー。良かったのぉー。』と言ってくれた。だが、こちらの興奮は伝播しない。
『よっしゃー、出動じゃーい(*`Д´)ノ!!!』とか雄叫びをあげるかと思いきや、余裕のよっちゃん。
『まあ、座って酒でも飲みいーや。』なのである。

30分後。
Mさんはようやく腰を上げ、巨匠を起こしにいかれる。
目をこすり、眠たげに起きてきた巨匠にダイジェストで顛末を語り、勝手に採集した非を侘びる。
巨匠は軽く『ええでぇー。かめへん、かめへん。』とおっしやった。人物がおおらかでデカいのだ。
しかし、その巨匠にも興奮は伝播しない。やはり、余裕のよっちゃんなのだ。すぐ見に行こうと云った雰囲気は全然ない。
その余裕、アンタら、魔道士かっ!?

 
一行が漸くライト・トラップに向けて出発したのは、その20分後である。

車で乗り付ける。

((((;゜Д゜)))シェーッ❗❗
どえりゃー事になっとるだがやー。

 

 
魑魅魍魎、真夜中の魔王祭りである。
しっかし、ワカランものよのう。Mさんからはオオシモフリは夜10時くらいから飛んで来ると聞いていたけど、全然飛んで来ずで、今はもう午前1時半前だもんなあ…。たぶん様々な細かい条件が重なりあって、今日は午前0時からの飛来開始になったのだろう。蝶と比べて活動時間の幅がかなり流動的だ。蛾の気持ちは、よーワカラン。

Mさんが『コイツ、鳴きよるねんでぇー。』と言って、掴んだオオシモフリを耳元に持ってきた。

『🎵チュー、チュー。』

Σ(゜Д゜)わっ!、ホンマに鳴いてる。
鳴くって、アンタ哺乳類かよ❗❓
見てくれといい、脚のゴツさといい、どこまで規格外なんじゃよ。何だか笑けてくる。ちよっと愛着が出てきたかもしんない。
と思ってたら、Mさん、必殺アンモニア注射をブチューと刺す。

 

 
鳴き声も聞こえなくなった。
哀れ、あえなく絶命じゃよ。
魔道士にかかれば、蛮王もイチコロである。
マッドサイエンティスト、恐るべし。

   

 
いやはや、それにしてもデカイよ。
でも、これはオス。メスはさらにデカくてブッといらしい。これよかデカくて太いって…、どないやねん!?恐ろし過ぎやろ。
(因みにこの日飛んで来たのは、全部♂だった。しかも、出たてらしい完品揃い。となると、♀の発生はもう少し後。う~ん、♀も見てみたかった。
それから、この日2017年の4月7日は寒い日が続いた後で、発生が例年より1週間ほど遅れていたそうな。蝶と違って蛾は発生期間が短い種が多く、且つ天候条件がシビアだから採集日和を当てるのは結構難しいようだ。同じ鱗翅類でも、蝶とはだいぶと勝手が違うんだね。)

 
Mさんから、王の遺骸をおし戴く。

  

 
昇天した帝王を膝に乗せる。
本当はこんな色なのだ。緑色に写っているのは水銀灯のせい。光の波長が違うのだろう。蛾は紫外線が好きなのだ。だから、蛍光灯なんかにも寄ってくる。でも最近は外灯のLED化が進んで、蛾も寄って来なくなったらしい。LEDからは紫外線が殆んど出ないらしいのだ。
蛾マニアには受難の時代だが、蛾たちにとっては喜ばしいことだろう。外灯なんかに寄ってきたら、車に踏んづけられたり、コウモリや猫の餌になったりして、ロクなことがないのである。

 
1頭だけだが、イボタガもいた。

 

 
掴もうとしたら、飛んで膝の上に止まりはった。

お目々、( ☆∀☆)ピッカー✴

怖い、怖い。
そして、またしてもブルン、ブンブンブンじゃ。
オオシモフリはボテーッとしてて、あまり羽ばたかないが、イボタさんはアクティブなのだ。

 
その後もオオシモフリはジャンジャン飛んで来た。
しかし、体が重いのか灯りに辿り着けずに、地面にボタボタ落ちている。
時々、誰かが気づかずに踏んづける。でも、誰も悔しがらない。それだけ飛来数が多いからなのだよ、オトーサン。

光と影のコントラストをぼんやりと眺めながら思う。
初のライト・トラップにして初の蛾採集は、どうやら成功裡に終わりそうだなあ…。
オラって実力は無いけど、引きだけは強いのだ。
春の三大蛾、一発で全部採れちゃったなあ…。
蛾好きのバカ植村だって、まだ一つも採ったことがないって言ってたもんね。あとで死ぬほど自慢してやろう。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケ…、オイラは性格が悪いのだ(笑)

 
へい、らっしゃーい❗
オオシモフリの姿造り二丁❗❗

 

 
プロのお二人の手に、オオシモフリてんこ盛り。
凄い光景だ。蛾嫌いの女子なんぞが見たら、絶叫、発狂、失禁、卒倒しかねない。
でも、あまりのおぞましさに笑ってしまう。恐怖もマックスの線を越えてしまえば、ギャグになってしまうのである。
正確には数えていないが、踏んづけたものも含めて少なくとも30頭くらいは飛んで来たんじゃないかと思う。
プロのお二方は飄々としたものだったが、僕ちゃんだけが終始ワーキャー言っていた。蛾は怖いが面白い。

 
飛来がパタリと止まったので、ベース基地に帰還。
酒を飲みながら、ウダウダ話す(プロのお二方は車の運転があるので、コーヒーを飲んでおられた)。

やがて、うっすらと空が白み始めた。
あと少しすれば、闇の世界は閉じるだろう。都会に住む殆んどの人は、本当の夜の闇というものがどんなものなのかを知らないと思う。夜といっても、現代ではどこを見ても某(なにがし)かの灯りはあるのである。
本当の闇は距離感さえも失わせる漆黒なのだ。だから、昔の人は闇を恐れたのである。その恐怖が生み出した想像の産物が、魑魅魍魎であり、妖怪、幽霊なのだ。

妄想。惑乱。焦燥。驚愕。興奮。そして、恐怖と歓喜。いやはや、濃密な時間じゃった。
男は大きく欠伸をして、両腕を上げて背伸びするように体を反らせた。
たまたま、それが天を仰ぐかたちになった。
空のわずかな隙間に、微かに星が瞬いていた。

                 おしまい

 
 
一応、今回は登場しなかったエゾヨツメの画像と本文未使用の写真、標本写真なども並べておきます。
それから、各種の蛾の解説は第1話にあるので割愛させて戴きやす。

 
【Aglia japonica エゾヨツメ♂】

 
【エゾヨツメ裏面】

 
【標本写真】

 

 

 
考えてみれば、これが人生初の蛾の展翅じゃないか。
翅は蝶とそれほど差はないからまだいいとしても、問題は触角だよね。こんな羊歯(シダ)型の触角をした蝶はいないのだ。どうやって整形すれば良いのかワカラン。
それに、だいたいこういうヤママユ系蛾の触角って、裏表の色や構造が微妙に違ったりするのだ。
しかし、触角が基本的には立った状態なので、そもそもがどっちが表で、どっちが裏なのかさえもワカランとですよ。
それはそうと、これって裏表は合ってんのかなあ?

 
(;・ω・)もふぅ~。

 
(出展『www.jpmoth.org』)

 
エゾヨツメ、かわゆすなあ~。
もふもふなのら~。
ヤママユガ科の蛾は脚までもふもふで、全体的にもこもこしててカワユイのだ。
脚の毛だけが白いので、何だか昔流行った女子高生のルーズソックスみたいだね。キュート❗
触角もぴょーんとなってて、ウサちゃんみたい。世には意外と隠れ蛾好き女子がいると聞くが、こういうところに萌え~なのかもしんないね。

 
続いてフクロウ男爵のお出ましどすえ。

 
【Brahmaea japonica イボタガ】

 
それにしても、凄いデザインだよね。アートしてる。
この蛾に似ている蛾も蝶もいないから、唯一無二のデザインと言ってもいいかもしんない。
しかも、よく見たら厳密的にはシンメトリーではない。左右の翅の柄が微妙に違うのだ。特に目玉模様の中の斑紋が顕著に違うらしく、一つとして同じ柄は無いようだ。

 
【イボタガ裏面】

 
裏も、中々にスタイリッシュだ。
この蛾はモノトーンの蝶蛾の畢粋でしょう。
こういう柄の着物があったら、買う人は絶対いるだろね。でも着る人を選ぶ柄かもしれない。若い娘じゃダメ。年増のええ女じゃないと着こなせないでしょう。

 
【標本写真♂】

 
【標本写真♀】

 
採った時は翅の柄に目を奪われて気づかなかったが、背中は虎柄なんだね。スタイリッシュにして、攻撃的デザインなのだ。( ☆∀☆)カッケー❗

メスはオスよりも一回り以上大きく、翅形が全体的に丸くなる傾向があるようだ。

最近の蛾展翅のトレンドは前脚を前に出すのが流行りらしいので、やってみた。
触角は捻れてて整形が大変だし、前脚までもとなると、正直メンドクセー(=`ェ´=)

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 

 
もふもふではあるが、細面でちよっとキツい目だ。
何だか意地悪女みたい。顔に邪悪感ありである。
( ̄へ ̄ )むぅ…。見方によっては、よく西洋で描かれる悪魔に似てるかも。西洋の悪魔は、頭が山羊(ヤギ)なのだ。
しかれども、この写真では今イチ邪悪度が足りない。
もっと悪辣非道キャラらしい画像を何処ぞでお借りしてこよう。

  
(出展『蛾色灯』)

 
間違いなく魔界より出(いで)し邪悪なる者だ。
こんな顔だと、あのスタイリッシュとか言ってた翅の柄も、何だか魔界の魔方陣に見えてくるよ。
蛾って、現世と魔界を往復せしめる存在なのかもしれない。

そういえばイボタガの幼虫って、成虫なんて目じゃないくらいにムチャクチャ邪悪な姿なんだよねー。
この世の者とは思えないような気持ち悪さなのだ。アレは写真を見ただけで、2m後ろに幽体離脱したね。

Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞー。
画像、出しちゃうぞーΨ( ̄∇ ̄)Ψ
そりゃそりゃ、閲覧注意の最悪印の登場じゃわい。皆の衆、逃げ遅れんなよー。

 
(出展『フォト蔵』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA/caption

 
( ̄□||||❗❗キッショ❗
何度見ても💫めまいがする。
(|| ゜Д゜)何なんだ、そのムチのような突起物は❓
これを振りかざして、鳥の眼を潰します(=`ェ´=)❗
と言いたいところだが、それは無いだろう。たぶん威嚇のためのものだね。こんなもん、人ならずとも鳥だって会った瞬間には激引きだろう。たぶん世の中には、生き物全員が本能的に忌避する形や色の配色と云うものがあるのだ。
因みに終齡幼虫になると、このムチは無くなるらしい。
無くなったところで、気持ちが悪いのは何ら変わらないけどね(笑)

 
最後はビビビのネズミ男。もとい、闇の帝王である。

 
【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ♂】

 
【オオシモフリスズメ裏面】

 
いかにも蛾らしく太い胴体だすなあ~。
この胴体の太いところが、蛾が気持ち悪がられる要因の一つだよね。
でも何だか見慣れてきちやって、それほど怖くなくなってきた。

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
凶悪な顔とか言っちゃったけど、よく見ると案外可愛らしい。
手脚も短めに見えて、ちょっと萌え系かもしんない。
毛並みの感じなんかテディベアに見えてきたよ(笑)
おいおい、大丈夫か俺❓

 
【標本写真】

 
地味な色だが、よく見るとベタなグレーではない。
細かな柄が入っており、渋い。どこか大島紬(註4)のいぶし銀の魅力に通ずるところがある。

重ねて言うが、蛾の展翅なんて今回が初めてだからバランスがよくワカンナイ。図鑑は持ってないし、ネットでも参考になる資料が少ないのだ。ましてや、スズメガみたいなこんな翅形の蝶はいないから、翅の上げ下げのバランスが今イチわからん。
触角はエゾヨツメやイボタガに比べて単純な構造だから楽だけど、その角度に悩む。まあ、取り敢えずの一発目は無難な線で攻めてみた。

翅の上下、上翅と下翅の間隔の開け方、触角の角度、その組み合わせetc…。次からは色々と試してみよう。

で、今度は触角を上げて、下翅を下げてみる。

 

 
放射能により巨大化したクリオネだな。
絶対、人に危害を加えるタイプだ。
一応言っとくけど、クリオネさんはケッコー獰猛な奴です。

 
逆に次は触角を下げてみた。

 

 
これはこれでカッコイイと思う。
必ずしも触角と翅を平行にしなくても良さそうだ。

 
お次は触角をさらにグンと上げて、先っぽを真っ直ぐにしてみた。

 

 
ちよっと👿悪魔的じゃね?
ならばと、最後は思いきし翅を上げてみた。

 

 
q(^-^q)おー、邪悪感満載じゃよ。
蛾マニアからは上げ過ぎだと叱られるだろうが、こっちの方が断然👿悪魔的でカッケーと思うんだけどなあ。
まあ、所詮はオラは蝶が専門で、蛾は初心者なのである。批判されても全然痛くも痒くもないのだ。

 
(追伸)
書いてるうちにどんどん長くなってしまったニャア。
2018年版の『2018′ 春の三大蛾 ~悪魔が来たりてチューと鳴く~』を書こうと思って、この2017年版を書き始めたんだけど、もうお腹いっぱいだすよ。完全に書く気が萎えました。書くとしてもレポート程度になりそう。こういうのを世間では本末転倒という(笑)

 
(註1)画像はMさんから提供して戴いた。ケツを上げて威嚇してきたので、その瞬間に頭が真っ白になって写真を撮り忘れたんである。

 
(註2)咬むって、そんな蛾がこの世にいるのか?
(註3)二流怪奇映画、吸血蛾
相前後するが、まとめて説明します。

結論から言うと、オオシモフリは吸血蛾なんぞではござんせん。
もし、あんなもんが襲って来たら、人類の脅威だもんね。春先に好んで野山に訪れる人はあまりいないと思う。少なくとも夜には誰も出掛けたがらないだろう。

『皆様、今年もオオシモフリの季節がやって来ました。山間部に住まわれる方は、くれぐれも御注意ください。』

などと、必ずやニュースで流される筈だ。んな事は聞いた事が無いから、吸血蛾であるワケがないのであ~る。

検分してみたが、口には強力な顎や牙などは有しておらず、ストロー状のものがあるだけである(もふぅ~の拡大画像を見てくだされば確認できるかと思う)。つまり、蝶の口と同じなのだ。
しっかし、オオシモフリって何食ってんのかねー?
けど、花の蜜や樹液に来るとか聞いた事が無いんだよなあ。単に調べ足りないだけなのかなあ?
しかし、蛾には口が退化したものも多いというし(無駄を省いて交尾さえ出来ればいいと云う生存手段)、口吻の形は残っていてもエサは一切とらない連中もいると小耳に挟んだことがある。オオシモフリもそのクチなのかもしれない。
ならば、原因は何だったのかと云うと、コレ。

 

 
何と脚に鋭利なトゲがあるのだ。ちゃんと見てないが、前脚にはたぶん無くて、中脚と後脚にだけある。中でも後脚には大小3本もあって、中脚にあるものよりも硬くて長い。やっぱバケモノだよ。

調べてみたら、吸血蛾の映画はやはりありました。
タイトルはそのものズバリの『吸血蛾』。

 
(出展『さくらいこうすけ いにしえの川』)

 
1956年公開と云う古い映画だ。主演は池部良。
全然もってまだ産まれていないので、たぶんTVの再放送なんかで見たんだろうけど、記憶は覚束ない。

因みに、DVDも発売されているようだ。

 
(出展『Amazon』)

 
何と原作はあの横溝正史である。横溝さんは若い頃にあらかた読んでいるから、たぶん原作も中学生くらいの時に読んでいるのではないかと思う。
金田一耕助は出てきたっけ?全然記憶にないや。

怪奇推理小説の方の画像もありました。

 
(出展『Amazon』)

 
この表紙、見覚えありますねー。
これは確実に読んでるなあ。でも、やはりストーリーは全く思い出せない。
調べてみっか…。

(゜ロ゜)あらまっ、金田一耕助は出てくるけど、吸血蛾そのものは出てこない。吸血蛾はあくまでも暗喩なのだ。
だったら、吸血蛾そのものが出てくる映画とかドラマって、いったい何だったんだろ?
まっ、いっか…。それほど知りたいワケじゃないしさ。

 
この時点では、まだ現実には吸血蛾なんてこの世にいないと思っていた。
しかし、これが驚いた事に本当にいるんである。
ロシアのシベリア地方に棲む蛾で、2008年に発見されたらしい。この蛾はヨーロッパ中央部から南ヨーロッパに分布する「Calyptra thalictri」という蛾の亜種なんだそうな。両者は見てくれもほとんど同じだという。だが、ヨーロッパにいる奴は果物の汁を餌としており、血は吸わないとの事。シベリアの過酷な環境が、加速度的に進化を促したのかもしれない。
それにしても、蚊じゃなくて蛾だぜー。そう大きくはない蛾だろうが、蚊よりも遥かに大きい筈だ。となると、当然ながらそこそこの量の血を吸われるワケだよね❓
ロシア人って、そんなもんに喰いつかれても気づかんのかね?
何れにせよ、シベリア地方に行かれる予定の方は、お気をつけあそあせ。

 
(註4)大島紬(おおしまつむぎ)
奄美大島で作られる泥染めの高級紬のこと。ただし、高級着物ではあるがカジュアル(訪問着)なものとされ、フォーマルな席には着て行ってはいけない事になっている。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の弐(悪鬼暗躍編)

 
前回「青天の霹靂編」の続きである。
今回も先に警告しておきますね。たぶんオモロい回になるとは思うけど、💀閲覧注意です。

蝶だけではなく蛾にも詳しいMさんに拠ると、3月の末から4月上旬が春の三大蛾の採集適期だという。
しかし、今年(2017年)は寒い日が続き、ギフチョウの発生も遅れている。ギフチョウしかり、天候が安定しないこの時期の動植物の見頃を読むのは難しい。
拠って、4月上旬から半ばにかけての様子をみて、天候次第で日を決めようということになった。

因みに、天候といっても蝶採りのように晴天がグッドウェザーではない。むしろ反対の天気である。曇り、もっといえば雨上がりとか霧雨のようなコンディションが、蛾の灯火採集には最高のシチュエーションらしいのだ。
これは蛾に限らず走光性のあるカブトムシとかクワガタとかもそうで、光に向かって飛ぶ習性がある者は、月が出ていると人工の光には集まりにくいようなのだ。たぶん月光に負けてしまうからだろう。つまり晴れていても、新月のような月の無い夜には灯火効果があるとされている。
霧や霧雨の場合は、スモーク効果で光の帯がハッキリと見える。そうなると、他に光源が無ければ虫たちは光の束に向かって一直線に飛んでゆくというワケなのだ。但し、気温が低いと飛ばないとの事。
蝶とは全く違う道理に戸惑うが、愉しい。実をいうと、自分は蛾の採集も灯火採集も初めてなのだ。
未知なるものには、いつもo(^o^)oワクワクする。

 
4月7日。
いよいよ初陣の日がやってきた。
午後3時頃にMさんが車で迎えに来てくださった。
一路、兵庫県宝塚市の某所へと向かう。

今回は、Mさんと同じく標本商を生業(なりわい)とする巨匠Mさんも参加されると聞かされる。
伝説的な人で、虫を捕らしたら天才とも言われている方だ。心強い。虫捕りの天才ならば、経験とセンスは抜群じゃろう。ならば、いくらなんでもボウズは無かろうて。
しかし、相手は自然だし、生き物だ。絶対は無い。
やや不安がもたげるが、まあ、何とかなるっしょ。
ならなくとも、どうせワシはそもそも蛾屋ではない。れっきとした蝶屋なのだ。たとえ結果がダメだったとしても痛くも痒くもない。そう自らに言い聞かせる。

車内では、エロ話の花が咲く。
虫屋には珍しくMさんも若い頃からチ○ポの先が乾くことかなかったというタイプだ。武勇伝をたくさん聞かせて戴く。Mさんは、周囲に犬と呼ばれたくらいの男なのだ。爆笑エピソードてんこ盛りなのである。
なぜか虫好きはエロ話をしないが、Mさんとワテは結構したりする。
何で虫屋はエロ話をしたがらないのだろうか?
二人して理由を考えてみたが、今イチ明快な答えは見つけられなかった。誰か良い解答があったら、教えてくれ。
花より団子。女より虫❓

車窓の外を流れる風景は寒々しい。
木々の芽吹きにはまだ早く、白骨化したようや雑木林がどこまでも連なっている。その上には、暗鬱な鉛色の空が不気味に垂れ込めていた。とても今から虫捕りに行くって云う雰囲気ではない。
でも、Mさんが『ええ感じやね。』と呟いた。
そっか…、ええ感じなんだ。プロが仰るのだから間違いない。沈みがちだった気持ちに💡ポッと灯がともる。
自分は虫捕りの実力はさしてないが、引きだけは強い。何とかなるだろう。

途中、買い物やら何やらして、午後5時過ぎ頃に現地到着。

 

 
周囲を雑木林に囲まれた窪地だ。
いよいよ、魔神たちの領域に踏み入ったというワケだ。期待と緊張でブルッとくる。

早速、ライト・トラップの用意をお手伝いする。

 

 
ぬりかべ❓いったんもめん❓(註1)
早くも魑魅魍魎の登場かあーい!と心の中でツッコミを入れる。

左は蛍光灯かな?右の青黒っぽいのはブラックライトだな。昆虫はブラックライトの光がお好きのようだ。光の波長とかが、きっと違うんだろね。
蛍光灯はそれ自体にも誘蛾効果もあるが、どちらかと云うと視認性を高める為のものだろう。ブラックライトだけでは暗くて、何が飛んできたのか今イチわからないのだ。

段々、日が暮れてきた。

 

 
ライトの色も鮮明になりつつある。

そんな折り、颯爽と巨匠が現れた。
お付の者一人も一緒だ。
ライト・トラップは来た道の途中に仕掛けてきたとおっしゃる。巨匠がどんな装備か見たかったので、ちょっぴり残念。

やがて、酒盛りが始まる。
Mさんは小さめのフライパンを出してきて、肉を焼き始めた。何だかキャンプに来たみたいだ。
今回は用意してないようだが、巨匠なんかは普段は準備万端、お好み焼きまで焼くらしい。
目から鱗だ。夜間採集には、こんな楽しみ方もあるのかあ…。
諸先輩方曰く、昼間の網を持って追い掛けまわす採集とは違い、灯火採集は謂わば待ちの採集。けっこうヒマで長丁場だから、酒でも飲んでないとやってらんないらしい。
なるほどね。オイラには合ってるかもしれんね。

生来の蛾嫌いゆえ、酒をガブ飲みする。
だって、蛾がメッチャ怖いんだもーん(# ̄З ̄)
見ただけでも、幼少から( ̄□||||オゾるのだ。
素面(しらふ)じゃ、とても耐えれそうにない。ましてや、今回は邪悪なる魔王と梟(フクロウ)男爵、そして妖鬼青眼メフィストの魔界三衆なのだ。泥酔でもしてなければ、とてもじゃないがまともに対峙できない。

ここで魔界三衆をあらためて紹介しておこう。
先ずは魔王から。

【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ】
開張140~160㎜。日本産スズメガの中では最大種。
前翅外縁は鋸歯状。全身鼠色。胸部から腹部にかけて毛状鱗が密生し、前脚~後脚は青みを帯びる。
分布は本州中部地方以西、四国、九州、対馬。国外では台湾、朝鮮半島南部、中国南部、インドシナ半島北部からネパールにかけて分布する。基亜種は朝鮮半島産。日本産は亜種ssp.nawaiとされる。
幼虫の食餌植物はサクラ類、ウメ、アンズ、モモ、スモモなどのバラ科。

次将は梟男爵だ。
実を言うと、コヤツが今回一番見たいと思った蛾だ。
と云うか、蛾全部の中で最も実物を見てみたい蛾である。
そのモノトーンのデザインは、スタイリッシュ且つソフィスケートされたものだ。複雑怪奇のオンリーワン。他に似たデザインをもつ蛾も蝶もいなくて、異彩を放っている。とにかく、小さい頃にすぐ名前を覚えたくらいに特異なお姿なのだ。

【Brahmaea japonica イボタガ】
英名 Owl moth。つまりフクロウ蛾である。
開張90~100㎜。翅に複雑な斑紋と無数の波状紋があり、前翅後縁中央部に大きな眼状紋がある。雌雄同紋だが、♀の方が一回り大きく、前翅に丸みを帯びる。
分布は北海道、本州、四国、九州、屋久島。
以前はインド、中国、台湾に分布する巨大(140㎜もある)なBrahmaea wallichiiの亜種とされていたが、それと比べて遥かに小型であること、♂交尾器に差があることから別種とされ、現在は日本の固有独立種。
幼虫の食餌植物は、イボタノキ、キンモクセイ、トネリコ、ネズミモチ、ヒイラギなどのモクセイ科。

ここでイボタガのウルトラ邪悪なる幼虫画像を一発ブチかまして、皆をΨ( ̄∇ ̄)Ψビビらせたろかと思ったが、踏みとどまる。
なぜなら、あまりの衝撃画像ゆえ、ページから離脱されかねないと思ったからだ。話はまだ序盤なのである。この先も読んでもらわねば困る。皆さん、忘れて前へ進んでくれたまえ。

そして、最後は青き眼の妖鬼だ。

【Aglia japonica エゾヨツメ】
開張♂65㎜内外、♀100㎜内外。
オレンジ色の地に後翅に青い眼状紋を配し、日本産ヤママユガの仲間では最も小型種である。
雌雄同型だが、♀の方が大型で翅に丸みを帯び、地色が淡くなる。
分布は北海道、本州、四国、九州、サハリン。
以前はヨーロッパから朝鮮半島までのユーラシア大陸北部に分布するAglia tauの亜種とされてきたが、近年サハリンと日本産は分けられて別種となった。
幼虫の食餌植物はハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)など。

上記3種とも年一回春先に現れ、蛾愛好家の間では「春の三大蛾」と呼ばれている。3種とも特別珍しいものではないが、生息地は局所的とも言われ、けっしてどこにでもいると云うような蛾ではない。

画像は今のところ、あえて添付しない。
まあ、せいぜい脳内で姿を想像してくれたまえ。想像こそが恐怖を増幅させるのである。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ…。

そうこうするうちに日が暮れて、辺りが暗くなってきた。

 

 
闇の世界のお出ましである。魑魅魍魎が大挙してやって来るやもしれぬ。黒々とした森が、とっても不気味だ。闇の奥で悪鬼たちの暗躍する気配がある。
お化け怖い。妖怪怖い。蛾も怖いという怖い怖いづくしの身としては戦々恐々である。
あまり人前では言った事はないが、ガキの頃、お化けが怖くて、寝ているうちに異界に連れ去られるのではないかと思い、妹に30円を払って手を繋いで寝てもらっていたような男なのだ。喧嘩はそれなりに強かったけど、昔からお化けとか幽霊とかは大の苦手だったのだ。
そういえば女の子とお化け屋敷に入って、腰が抜けそうになった事がある。あれは情けなかったなあ…。
でも、怖いもんは怖いのである。

それにしても、オッチャンたちは凄いなあ。
今回は四人もいるけど、普段は人里離れた淋しい山の中で、夜に一人で虫捕りをしておられるんである。怖くないのかね❓
ワシだったら、恐怖のあまり悶絶発狂死するやもしれん。本気で虫捕りをするなら、狂人にならざるば一流にはなれんちゅー事か…。
それなら、オデ、オデ、二流でええだすぅー(T△T)

午後6時。
蒼き眼のメフィストが早々と現れた。
魔王の露払いとあらば、順番的には先ずは貴女でしょう。
ドラマーツルギーだね。全世界は劇場だ。然るべき役者が、然るべき時に現れるようになっているのである。

しかし、けっこう素早い。モスラさんは翅を小刻みに震わせて動き回り、全然落ち着かないのだ。

あっ( ̄∇ ̄*)ゞ……。
気づいたら、手で掴んでいた。
蛾恐怖症にしては信じられない行為だ。見ただけでもフリーズするのに、手で掴むとは何事かである。
頭のネジがフッ飛んだとしか思えぬ。これも全ては酒の為せるわざである。酒の霊力、恐るべし。

 
【エゾヨツメ♂】

 
( ☆∀☆)おーっ、コバルトブルーの紋がメッチャクチャ綺麗じゃないか❗❗
こんなに蒼いんだ…。思っていた色よりも遥かに鮮やかな深淵なるブルーだ。陳腐な表現だが、まるで宝石のサファイアのよう。その青をジッと見つめていると、引き込まれそうになる。
あんまり見ちゃダメー(>_<)、ゴーゴンの呪いみたく、石になっちゃうぞー。

でもさあ…。見れば見るほど不思議とカワゆく見えてくるんだよなあ。

 
(出典『誘色灯』)

 
(出典『fandf.exblog.jp』

 
( ・ω・)もふぅ~。
目が円(つぶ)らで、体はもふもふのモコモコなんでげすよ。ウサちゃんみたいだ。
このこのこのぅー(σ≧▽≦)σ、キャワイイぞー、お主~。

Mさんがコヤツは♂だと教えてくれる。
♂は触角が羊歯(シダ)状なんだってさ。♀は、このシダみたいなもんじゃなくて、いわゆる蛾眉、細長い触角らしい。ヤママユガの仲間の♂♀はみんなそうだという。
ふ~ん、なるほどね。
プロのおじ様たちは初心者に優しい。色々と教えてくれる。補足すると、エゾヨツメは基本的に日没直後にしか飛んで来ないんだってさ。(^o^)へぇ~。
どんな事であっても、上手な人、知識が深い人のそばにいた方がいい。その方が何でも上達が早いよね。

それを合図のように次々と小型の蛾が集まり始めた。カルナヴァル(祝祭)の予感だ。
があ~祭りの始まりじゃーい\(^o^)/
嬉しいような怖いような変な気分だが、酒飲んでるから、もうどうなったっていいのだ。蛾でも鉄砲でも飛んで来やがれと云う心持ちになってくる。

しかし、(・ω・)もふちゃんの3頭めが飛んできたところで、ピタリと飛来が止まる。以後、屑みたいな矮小蛾がポツポツとしか来なくなった。
えっ(^_^;)、フィーバー、もうおしまいなの❓
不安になってくる。この先大丈夫かよ?
エゾヨツメは勿論見たかったけど、それよりも見たいのは梟男爵と魔王なのだ。このままで終わるワケにはいかない。

ベテランのオジサンたちに訊いてみると、オオシモフリやイボタガは、もっと遅くに飛んで来るという。
そっか…、蛾によって飛来する時間帯が違うんだ。昼間と違って、夜なんて何時だって同じようなもんじゃないか?と思うんだが、蛾には、蛾にしか預かり知らぬ事情があるのだろう。

やがて、霧雨が振りだした。
絶好のコンディションである。この靄(もや)の立つ幻想的なシチュエーション、如何にも怪物が現れそうな様相ではないか。映画なら、確実にチビりそうな雰囲気である。出るね。絶対ヤバいのが来るね。
脳内でおどろおどろしい重低音が流れ始める。映画『シャイニング(註2)』のテーマ曲だ。

ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。

いよいよ闇の世界の支配者が満を持してワタクシを恐怖のズンドコ、もといドン底に陥れる時がやって来るのだ。凍りつくまであと何秒?何分?
心臓が💓ドキドキしてくる。

しか~し、9時になっても10時になっても現れず。
辺りは相変わらず細かい霧雨が舞っているのに何故❓
そして、11時になっても音沙汰なし。
巨匠が『今日はアカンのかなあ~?』と呟く。
まさかの御言葉である。頼みにしていた巨匠がそんな弱気なセリフを吐くとは、事態はあまりヨロシクないというか、惨敗のピンチではないか…。

Mさんも、『こんな日もあるよ。虫はなあ、ワシらでもワカラン事だらけなんや。いくら条件が揃ってる時でも、アカン時はあるねん。』とおっしやった。
そりゃ、ワテだって、それなりに蝶採りをしてきたのだ。言わんとしておられる事は充分に承知してますよ。でも、よりによって何でそれが今日なのよー(T_T)

11時半前。
巨匠が『ワシ、もう寝るわ~。』と言い残して、ワゴン車に消えていかはった。
益々、惨敗感が満ちてきた。
セーブしていた酒の量がグッと増えて、ヤケ酒気味になってくる。

12時前。
光の屋台に集まるお客さんは、相変わらずショボショボの面々だ。
退屈すぎて、段々居ても立ってもいられなくなる。
酒を飲みながら、Mさんに『巨匠のライトトラップの様子を見に行ってみません❓』と提案した。
しかし、Mさんからは、『いかへーん。一人で行ってきいや。』と云うニベにもない一言が返ってきた。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
『マ、マジっすか(|| ゜Д゜)❓』
声が心なしか震えている。

『でもオイラ、懐中電灯とか持ってないっすよ。』
もしかしたら、「仕方がないから一緒に行ってやっか。」とか言ってくれるんじゃないかという期待を込めての言葉だ。

しかし、Mさんは素っ気なく言った。
『懐中電灯くらいなら、貸したるわー。』

『イヤイヤ、そうじゃなくてー。そんな事ではなくてー、1人だと怖いんですよー。お化けが出たらどうするんですかあ。虫捕りのプロフェショナルの旦那~、頼みますからついてきて下さいよー(T_T)』
と云う言葉が喉元まで出かかったが、グッと呑み込む。
あとでネタにされるに決まってるんである。それは何があっても避けたい。チキンと蔑まれるのは真っ平御免だ。そんなことはプライドが絶対に許さない。

 
『わっかりましたー。(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす。』

 
気づいたら、心とは裏腹の言葉が出ていた。
(-。-;)えらいこっちゃである。何かあったらどーするのだ❓
闇の世界に引き摺り込まれるかもしれんし、得体の知れない者に追いかけまわされたあげくに非業の死を遂げるやもしれんのだ。
でも、言ったからには行かねばなるまい。

 
    If I die combat zone.

もしもオイラが死んだなら、誰か骨を拾ってくれ。

 
                   つづく

   
追伸
いやはや、又しても完結せずである。
書いてると、色んな事を思い出してくるのである。
そうなると、自然長くもなる。で、途中で力尽きたと云うワケだ。

次回『闇の絵巻編』、もしくは『魑魅魍魎編』。
いよいよ怪物たちの全貌があらわになります。
乞う、御期待❗

(註1)ぬりかべ?いったんもめん?
両者とも水木しげる大先生の「ケゲゲの鬼太郎」でお馴染みの妖怪さんである。

 
【ぬりかべ】
(出典『matome.navar.jp』)

 
何だかライト・トラップって、ぬりかべと次のいったんもめんを足して2で割ったハイブリッドのようなもんだなあ。

 
【いったんもめん】
(出典『猫八のカッチコロヨ!』)

 
こんなもん、わざわざ画像をダウンロードせんでも自分で書けるがなーと思ったが、やめといた。
フザけた人間なのだ。どうせ鼻毛とか書いちまうんである。
試しに書いてみようか?

 

 
ほらね。

テイッシュの箱に書いたんだけど、フザけてるよねー。

拡大しまあーす。

 

 
やっぱり鼻毛ボーボーにしとります。
さらにフザける。

 

 
今度は脇毛ボーボーである。

最後は何ちゃらワカランことに。

 

 
フザけてるよなー。

 
(註2)映画『シャイニング』
1980年に上映されたアメリカ映画。
巨匠スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画の金字塔。キューブリックがホラー映画を作るとこうなるのだ。双子がヤバすぎです。カメラアングル(ローアングル)と三輪車の効果音だけで、あそこまで人を怖がらすかね。
因みに文中の「ジャックは狂ってる…」の羅列は、映画の或るシーンがモチーフになっている。主演のジャック・ニコルソンがタイプライターで打った小説の原稿が、全部同じ文言『All work and no play makes Jack a dullboy.(仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂う)』と云う言葉て延々と埋め尽くされていたという怖いシーンだ。
そのままの文言では使えないので、短くアレンジしたのが「ジャックは狂ってる…」である。
原作はこれまたホラー小説の巨匠スティーヴン・キングだけど、キングはこの原作を無視した映画を気に入らなかったみたいだ。よほど肚に据えかねたのか、後にわざわざ自分で撮りなおしたくらいなのだ。
たしかに両者は全然違う。映画では父親が主役だが、小説では子供が主役なのである。まあ、どちらも面白いんだけどね。