2018′ カトカラ元年 其の14 後編

 vol.14 オオシロシタバ 後編
      解説編

    『沈黙の妖精』

 
前々回、エゾシロシタバの解説の学名欄で、その小種名である「dissimilis」についての疑問をとりとめもなくダラダラと書いた。主な論調は、その学名の意味する「~と似ているが異質なもの」がいったいどの種に対して似ていて、異質なのかと云う探索譚だった。
これについて、記載者のBremerがらみで博学の松田真平氏に御伺いする機会を得た。エゾシロシタバの追伸に、追記として既に書き加えてあるが、次のようなコメントを戴いたので、紹介しておこう。

「エゾシロシタバの学名は、オオシロシタバCatocala laraに似ているということでCatocala dissimilisと名づけられたのではないでしょうか。1861年にBremerが、東シベリアからアムール付近からもたらされた採集品をタイプ標本にして記載した3種のCatocalaの中で、この2種が色彩的に似ているという意味だと思います。もう1種のオニベニシタバは色彩的に無関係ですね。」

ようするに、Bremerは先にオオシロシタバを見て、その後にエゾシロシタバを見たのではなかろうか。どちらも下翅が黒っぽい事から似ていると思って、学名の小種名を「dissimilis」と名付けたのだろうと云うワケだ。
見た目も大きさも結構違うから、正直、似てるかあ❓とは思う。でも真平さんは、古い時代の事だし、当時のレベルはそんなもんちゃうかと云う旨のことを仰ってもいた。確かに、その時代は記載されているカトカラの数も少なかっただろうから、狭い範疇の中では似ていると思うのも理解できなくはない。

前置きが長くなったが、それではオオシロシタバの解説と参ろう。

 
【オオシロシタバ♀】
(2018.9 山梨県 大菩薩山麓)

 
(同♂)(2019.9 長野県 白骨温泉)

 
(裏面1)
(出展『日本のCatocala』)

 
鮮度にもよるけど、こんなに黄色くはないよなあ…。
スマホの露出がよろしくないせいもあるかもしれん。

 
(裏面2)

 
ボロ過ぎると、今度は白っぽくなってしまう。

 
(裏面3)
(出展『Colour Arras the Siberian Lepidoptera』)

 
ロシア産のものだが、これが一番近いように思う。

 
【学名】Catocala lara lara Bremer, 1861

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、「Lara(ララ・ラーラ)。ラティウムのアルモー河神の娘。美貌だが、おしゃべりなニンフ(妖精)。多言のため、jupiter大神に舌を抜かれた。」とあった。

補足すると、Laraは同じくラテン語のLarunda(ラールンダ)と同義語で、ローマ神話における美しくお喋りなニュンペー(妖精・精霊)で、ナーイアデス(泉や川の妖精)の1人でもある。長母音を略してラルンダとも表記される。
ユートゥルナとユーピテルの間の情事をユーノーに漏らしたため、怒ったユーピテルがラールンダの舌を切り取り、口をきけなくした。そしてメルクリウスに冥界へ連れて行くことを命じた。しかし二人は恋に落ち、ラールンダは二人の息子(ラレース)を産む。その後は「唖者」を意味するムートス(ラテン語: Mutus)と呼ばれるようになった。

早くも余談になるが、この本によれば「Lara」は蝶の学名にも幾つか付けられている。

・タテハチョウ科 アメリカイチモンジ属
 Adelpha lara ベニモンイチモンジ

・シジミチョウ科 Leptomyrina属
 Leptomyrina lara

・セセリチョウ科 キバネセセリ属
 Bibasis lara

ちなみにこのセセリは現在、B.gotamaの亜種になっているようだ。
何れもキュートな奴らで、これらの蝶たちも気になるところだが、また話が逸れまくりそうなのでやめておく。気になる人は自分で調べてね。

扠て、オオシロシタバの話に戻ろう。
記載者はロシア人の Bremer。同じ年(1861年)にエゾシロシタバとオニベニシタバもアムール地方から記載している。
Bremerが、どうしてオオシロシタバに「Lara」という妖精の名をつけたのかはワカラン。上記の蝶たちは多分ちょこまかと妖精の如く動くだろうと想像がつくけど、オオシロシタバからはそんな感じは見てとれない。それに妖精にしては地味。お喋りなオジサンとしては納得いかない。
💡( ・∇・)あっ、そっか。想像を逞しくすると、舌を抜かれて大人しくなったから、Laraなのかもしれない。それにつれて見た目も地味になったとか?
地味になったとかはさておき、そうだと思えば、どこかこのカトカラには聾唖(おし)黙った静かな雰囲気がある。沈黙の妖精と考えれば納得できるかもしんない。だいぶ大柄な妖精だけどさ(笑)。

 
【和名】
度々、オオシロシタバとの和名の逆転現象が指摘されている。シロシタバよりもオオシロシタバの方が明らかに小さいのにオオと付くのは紛らわしいというワケだ。
『原色日本産蛾類図鑑(下)』のシロシタバの解説の項にも、それについて触れられている。

「前種(オオシロシタバ)よりは常に大きく、その和名は前種と入れかえる方が合理的であるが、永年使用されてきたものであるし、さして不便もないのでそのままにしておく。」

と書いてあるから、皆が妙に納得して声高に糾弾するまでには至らなかったのであろう。この図鑑のメインの著書は江崎悌三先生だもんね。偉い先生が言うんだから、文句言えないよね。
自分も図鑑に倣(なら)い、このままで良いと思う。シロシタバはシロシタバでよろし。オオシロシタバはオオシロシタバでよろし。今さら「明日からシロシタバはオオシロシタバになります。オオシロシタバはシロシタバになります。」と言われても困る。そんなの余計にややこしくなるに決まっているのだ。一々、旧シロシタバとか旧オオシロシタバとかと説明するのは面倒くさ過ぎるし、文献だって後々シロ、オオシロのどっちを指しているものなのかがワカンなくなっちゃうぞー。

とは言うものの、シロシタバより小さいのにオオシロシタバという和名は変。知らない人からすれば、それって、❔なぞなぞかと思うぞ。
じゃあ、何でそんな和名をつけたんだろう❓

或いはコレって目線がそもそも違ってたのかも。シロシタバ比較ではなく、コシロシタバ、もしくはエゾシロシタバ目線で、それらよりも大きいという意味での命名だったのかもしれない。そう解釈すれば、解らないでもない。
もしも日本で見つかった順番が、コシロシタバ(エゾシロシタバ)➡オオシロシタバ➡シロシタバだったとしたら、成立しうる話だ。オオシロシタバって付けたあとに、もっとデカイのが見つかったとしたら、オオオオシロシタバとは付けられないもんね。でも、だったらオウサマシロシタバとでも付ければいいではないかと云うツッコミが入りそうだけどさ。
それになあ…。この順番で見つかったとは考えにくいところがある。シロシタバはデカイし、垂直分布も広い。それに中部以北では普通種だから目立つだろう。発見は、この中では一番早かった公算が高い。オオシロシタバよりも遅く見つかったとは考えにくいもんね。
けど、日本で見つかった順番なんて、どうやって調べればいいのだ❓誰か教えてよ(ToT)

一応、参考までに付記しておくと、記載の順番と現記載地(タイプ標本の産地)は以下のようになっている。

・オオシロシタバ(1861年 アムール(ロシア南東部))
・エゾシロシタバ(1861年 アムール(ロシア南東部))
・コシロシタバ(1874年 日本)
・シロシタバ(1877年 日本)

ここで又しても本筋から逸れるが、ネットで色々と調べてたら、こんなんが出てきた。

  
(出展『Bio One complate』)

 
カトカラのDNA解析図だ。
あっ、表題を見ると『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』となっている。
そっかあ…、コレが石塚さんが新川勉さんに依頼したというDNA解析かあ…。探したけど、全然見つからんかった論文だ。
コレを見ると、オオシロシタバとエゾシロシタバの類縁関係がまあまあ近いじゃないか❗
だとするならば、Bremerさんがオオシロに近いと感じてエゾシロに「dissimilis」と云う学名をつけたのは慧眼だったのかもしれない。すげー直感力かも。
とはいえ、DNA解析が本当に正しいかどうかはワカンナイけどね。
嗚呼、どうあれ、またエゾシロシタバの解説編を書き直せねばならぬよ( ノД`)…。

また、この和名には別な面でも問題がある。
オオシロシタバというが、白というよりも黒のイメージの方が強い。後翅には白い帯紋があるものの、真っ白じゃないので、どっちかと云うと黒の方が目立つ。全体的に見ても、黒っぽさが勝っている。これじゃ、和名として二重にダメじゃないか。
思うに、そもそもの間違いはコシロシタバ、ヒメシロシタバ、エゾシロシタバにシロシタバと名付けたのがヨロシクなかったんじゃないかと言わざるおえない。コイツら皆、下翅が黒っぽいんだからクロシタバとしとけば良かったのだ。
前言撤回❗
オオクロシタバでもシロオビクロシタバでもいいから、名前を変えればいいんでねぇーの❓そうすればシロシタバとの大きさ逆転問題も解決する。シロシタバは、そのままシロシタバにしておけばいいから混乱は最小限にとどめられる。間違ってもシロシタバをオオシロシタバに変えるだなんて要らぬ愚行さえしなけれぱ、何の問題も無くなるじゃないか。
バンバン(*`Д´)ノ!!!、今からでもいい、そうなさい(笑)。
とはいえ、どなたか偉いさんが言わないと無理だよね。

こうなってくると、誰がこのダメ和名を付けたのか、どうしても気になってくるよね。
おいおい( ̄ロ ̄lll)、又それって危険なとこに足を突っ込むことになりかねないぞ。いんや、絶対に泥沼になる。いやいや、もう既に泥沼になっとるから、底無し沼だわさ。

『原色日本蛾類図鑑』の下巻が発行されたのが1958年(昭和33年)。そこにオオシロシタバの和名についての錯綜振りが書いてあるワケだから、それ以前に刊行された図鑑のどれかから、その和名が世に出てきたことは疑いあるまい。
とはいえ、江戸時代の図譜レベルとは考えにくい。となると、明治、大正と昭和前半の時代のものが候補だろう。

調べてみると、これが結構大変。古い時代のものだけに、あまりネットに情報が上がってこないのだ。
そう云うワケで、漏れているものもあるかもしれないことを先にお断りしておく。

・『日本千虫図解』松村松年(1904年 明治37年)

・『蛾蝶鱗粉転写標本』名和昆虫研究所(1909 明治42)

・『日本昆虫図鑑』石井悌・内田清之助他(1932 昭和7)

・『分類原色日本昆虫図鑑』加藤正世(1933 昭和8)

・『原色千種昆虫図譜』平山修次郎(1933 昭和8)

・『日本昆虫図鑑 改訂版』(1950 昭和25)
 
この、どれかじゃろう。けど結構あるなあ。
上から2番目の『蛾蝶鱗粉転写標本』は鱗粉転写本だから、そう多くの種類は掲載できないだろうし、鱗粉転写に地味な色の蛾を選ぶ可能性は極めて低いものと思われる。除外してもいいだろう。
残りはどれも怪しい。とにかく、これらを順を追って遡ってゆけば、誰が命名したのかが特定できそうだ。
探偵さんは解決が見えてきて、ぷかぁ~(-。-)y-~、余裕で煙草をくゆらせるもんね。

しか~し、🚨問題発生、🚨問題発生。
近場の図書館や古本屋では、見れるところがなーい❗

唯一、辛うじて見れたのが、1950年(昭和25)に発行された改訂版の『日本昆虫図鑑』だけだった(大阪市立中央図書館蔵)。
そこには平仮名で「おおしろしたば」の名があり、執筆担当者は河田薫とあった。

 
(出展『日本昆虫図鑑 改訂版』北隆館)

 
命名は、この河田さんの可能性も無いではないが、確率は低いだろう。なぜなら『原色日本蛾類図鑑』には「永年使用されてきたものであるし…」という記述があるからだ。たかだか8年やそこらで永年とは言わんだろう。
いや、改訂版の前の昭和7年の初版も見なければ何とも言えないな。そこでも解説を河田氏が執筆していたならば、有り得ることだ。

しかし、ここで早くも頓挫。討ち死にする。他の図鑑は探せなかったのだ。
( ´△`)もう、別にいいや。犯人探しをして突き止めたところで、何になるというのだ❓それに、その方はとっくに鬼籍に入っておられる筈だ。死者にムチ打ってどうする。死んでるのに恥かかせたら、👻化けて出られるかもしれん。それは困るぅ━━(ToT)
どうしても気になる人は、御自身で調べておくんなまし。で、ワテに教えて戴きたいでごわす。

 
【開張(mm)】78~85㎜
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にはそうあったが、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』では、70~85㎜となっている。『みんなで作る…』は古い図鑑の『原色日本蛾類図鑑』からのパクリと思われるので、岸田先生の記述を支持する。

ネット上の『ギャラリー・カトカラ全集』には、次のようなコメントがあった。

「シロシタバより小さいオオシロシタバだが、東(旧大陸)の三役(大関は無理だから関脇か小結あたりか)に入れてもいいだろう。」

たぶん、これは大きさからの番付だろう。確かにオオシロシタバはムラサキシタバ、シロシタバに次ぐ大きさだ。でも、見た目などのイメージも付加すれば、関脇でも役不足のような気がするぞ。世間で評価されてる感じが全然しないもん。
学名は舌を抜かれた妖精だし、ネットで検索しても必ず「もしかして:コシロシタバ」なんて云うお節介な文字が頭に出てくる始末。ようは検索エンジンにさえ、あまり認識されていないのだ。何だか段々オオシロちゃんが不憫に思えてきたよ。
とはいえ、評価する向きもある。ネットのブログを見ると「渋めの前翅と後翅が素晴らしく、翅を開いた時の総合的な美しさはカトカラ随一である。」なんて書いたりしている方もおられるのである。但し、最後に括弧して(と思う)となってるけどね。
でも確かにそう言われてみれば、鮮度が良いものからはモノトーンの渋い美しさを感じる。

 
(出展『我が家周辺の鱗翅目図鑑』)

 
きっと、これまた和名が悪いんだろなあ。
もっと横文字のカッコイイ和名だったなら、評価も変わっていたかもしれない。それはそれで、ツッコミ入ってたかもしんないけど…。(゜o゜)\(-_-)
やっぱり不憫だぜ、オオシロちゃん。

 
【分布】北海道、本州、四国、九州、対馬
主に中部地方以北に分布するが、食餌植物の分布が限定されるので産地は限られる。棲息地は標高1000m以上のところが多いが、北海道では平地にも産し、個体数も多いようだ。
西日本からの記録は少なく、局所的である。九州では福岡県・熊本県・大分県・長崎県の高標高地から数件の記録がある。ただし,長崎県対馬では近年記録が増加しているという。四国では石鎚山系や愛媛県の天狗高原に、中国地方は山口県太平山、島根県松江市長江町、鳥取県伯耆大山、広島県冠高原、岡山県蒜山などに散発的な記録がある。四国・九州では非常に稀なカトカラなのだ。
近畿地方でも少なく、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では、兵庫県、大阪府、滋賀県、和歌山県に記録があるとしている。しかし『世界のカトカラ』や『日本のCatocala』の分布図では、和歌山県は空白になっている。

 
(出展『世界のカトカラ』)

(出展『日本のCatocala』)

 
とはいえ、紀伊半島南部には標高が高い山もあるので、分布していても不思議ではない。おそらくいるだろう。
大阪府と滋賀県の産地は拾えなかった。
確実に産するのは兵庫県西北部で、氷ノ山やハチ北高原などで採集されている。ハチ北では、2018年の8月に一晩で10頭以上がライトトラップに飛来したそうだ。

海外ではアムール(ロシア南東部・沿海州)、ウスリー、樺太、朝鮮半島、中国中北部に分布する。
伊豆大島、カムチャッカ半島などのシナノキが自生していないところでも記録されており、遠距離移動する可能性が示唆されている。

見たところ、特に亜種区分されているものは無いようだが、シノニム(同物異名)に以下のものがある。

・Catocala pallidamajor Mell, 1939

ユーラシア大陸では本種に近縁なものは知られていないが、北アメリカに近いと思われる種がいる。

 
【Catocala cerogama オビキシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
帯が濃い黄色ゆえ全然違うように見えるが、仔細に見ると両者が似ていることが理解できる。
幼虫もオオシロシタバと同じく、Tilia(シナノキ属)を食樹としているし、上のDNA解析図でも極めて近縁な関係にあることが示されている。

 
【変異】
前翅中央部が著しく黒化するものが知られる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
この型は渋くてカッコイイかもしんない。

 
【レッドデータブック】
絶滅危惧II類:福岡県、長崎県
準絶滅危惧種:大阪府、広島県

上記の場所にかかわらず、西日本では何処でも同じようなカテゴリーに入るものと思われる。

 
【成虫出現月】
年1化。早いものは7月下旬から出現するが、発生のピークは8月中旬~9月初旬。10月でも生き残りの個体が見られる。

 
【生態】
冷涼な気候を好み、標高1000~1800mの間の山地に見られる。平地にも棲息する北海道を除けば、棲息地はわりと局所的なようだ。但し、産地では比較的個体数は多いみたいだ。

『日本のCatocala』によれば、発生数の多い年は昼間も活動し、サラシナショウマ、フジウツギ、ツリガネニンジン、クサボタンなどの花に吸蜜に訪れるという。発生数が通常時の場合は、夜間にサラシナショウマに吸蜜に訪れる。
また図鑑には、稀に低山地のクヌギの樹液で摂食する姿が観察されていると書いてあり「日本産Catocala 成虫の餌」という表でも花蜜は◎、樹液は△となっていた。
しかし、この記述に関しては疑問を持っている。
なぜなら、高標高地(1400~1700m)でもフルーツトラップや糖蜜、シラカバの樹液に寄って来たからだ。トラップにかなりの個体数が飛来しているのを見ているので、偶然ではないことは明白だろう。むしろ他のカトカラよりも誘引される傾向が強いと言ってもいいくらいだ。
樹液に飛来した例は他にクヌギ、ミズナラ、ヤナギがあるようだ。
尚、吸汁時には下翅を開く。結構敏感で、慎重に近づかないと飛んで逃げる傾向が強かった。しかし、これは時期や場所、時間帯にもよるかもしれない。
飛来時間は午後9時前後からが多かった。但し、これも観察がもっと必要だろう。

灯火にもよく飛来し、最もポピュラーな採集方法になっているものと思われる。自分はあまり灯火採集はやったことがないが、A木くんの話だと、居るところでは多数飛んで来るらしい。飛来時刻は主に9時以降だとするネット情報があった。しかし他のサイトでは、日没直後にまとめて飛来したと書いてあるものもあった。調べた限りでは他に言及されているものはなかった。
因みに、自分は灯火に来た個体は一度しか見たことがない。白骨温泉の外灯に来ていたものだ。時刻は深夜0時を過ぎていた。

『日本のCatocala』によると、昼間は樹木の幹や岩陰などで頭を下向きにして静止している。人の気配などに驚いて飛び立ち、その後に着地する際は、頭を上にする個体と下にする個体があり、上向きに着地した場合は暫くしてから下向きに姿勢を変えるという。
ちょっと驚いたのは、この記述だと、いきなり下向きに止まる個体がいると云うことだ。多くのカトカラは上向きに着地してから、頭を下向きに変えるからだ。いきなり下向きに止まるだなんて、ちょっとサーカス的じゃないか。となれば、飛んでて着地する手前でクルッと回転、でんぐり返って止まるって事じゃん。だとすれば、器用と言うしかない。本当にそうなら、そのアクロバティックな技を是非一度見てみたいものだ。

 
【幼虫の食餌植物】
シナノキ科 シナノキ(科の木、級の木、榀の木)。

あんまりシナノキって馴染みがない。植物の知識がないせいもあってか、見た記憶が殆んど無い。イメージが湧かないので、Wikipediaで調べてみよう。

「学名 Tilia japonica。日本特産種である。
新エングラー体系やクロンキスト体系ではシナノキ科、APG体系ではアオイ科シナノキ属の落葉高木に分類されている。
シナはアイヌ語の「結ぶ、縛る」に由来するという説がある。長野県の古名である信濃は、古くは「科野」と記したが、シナノキを多く産出したからだとも言われている。それが由縁なのか、長野市の「市の木」に指定されている。
九州から北海道までの山地帯、本州の南岸を除いた日本全国の広い範囲に分布し、特に北海道に多い。」

なるほど。オオシロシタバが北海道に多いのは、そゆ事なのね。
でも、そうなると紀伊半島にはシナノキって自生してるのかな❓(註1)
無ければ和歌山県の記録は偶産の可能性大になるね。

「幹の直径は1m、樹高は20m以上になる。樹皮は暗褐色で表面は薄い鱗片状で縦に浅く裂けやすい。
葉は互生し、長さ6-9cm、幅5-6cmで先の尖った左右非対称のハート型。周囲に鋸状歯がある。春には鮮やかな緑色をしているが、秋には黄色に紅葉する。
5~7月に淡黄色の小さな花をつける。花は集散花序で花柄が分枝して下に垂れ下がる。花序の柄には苞葉をつける。果実はほぼ球形で、秋になって熟すと花序と共に落ちる。」

これじゃ、ワシら素人にはワケワカメだよ。やっぱ画像がいるな。

 

(出展『神戸市立森林植物園』)

(出展『Wikipedia 』)

 
見たことあるような無いような木だ。
植物は同定するのが難しいよね。

木は色んなものに利用されているようだ。

「樹皮は「シナ皮」とよばれ、繊維が強く主にロープの材料とされてきたが、近年は合成繊維のロープが普及したため、あまり使われなくなった。水に強く、大型船舶の一部では未だに使用しているものがある。
アイヌ人などにより、古くは木の皮の繊維で布を織り衣服なども作られた。現在でもインテリア小物等の材料に使われる事がある。
木部は白く、年輪が不明瞭。柔らかくて加工しやすいが耐久性に劣る。合板や割り箸、マッチ軸、鉛筆、アイスクリームのヘラ、木彫りの民芸品などに利用される。
また、花からは良質の蜜が採取できるので、花の時期には養蜂家がこの木の多い森にて採蜜を営む。」

そういえば、この花にはカミキリムシが集まると聞いたことがあるなあ。

シナノキは日本特産種だが、結構近縁種があるみたい。
「シナノキ属(ボダイジュの仲間)はヨーロッパからアジア、アメリカ大陸にかけての冷温帯に広く分布している。ヨーロッパではセイヨウシナノキ(セイヨウボダイジュ)がある。シューベルトの歌曲『リンデンバウム』(歌曲集『冬の旅』、邦題『菩提樹』)で有名。
また、1757年にスウェーデン国王アドルフ・フレデリックが「分類学の父」と呼ばれる植物学者カール・フォン・リンネを貴族に叙した際に、姓としてフォン・リンネを与えたが、リンネとはセイヨウシナノキを指し、これは家族が育てていた事に由来するものである。」

( ̄O ̄)おー、あの偉大なリンネ(註2)の名前はシナノキ由来なんだね。

「日本では、他にシナノキ属にはオオバボダイジュが関東北部以北に、ヘラノキが関西以西に分布するとされるが、他にもあるようだ。

ブンゴボダイジュ
日本では大分県の山地にまれに生育する。

シコクシナノキ(ケナシシナノキ)
四国の山地に生育する。

マンシュウボダイジュ
環境省の絶滅危惧IA類(CR)に選定されている。日本では岡山県、広島県、山口県に分布し、高地の谷間などの冷涼地にまれに生育する。日本以外では朝鮮半島、中国大陸(北部、東北部)に分布する。

ツクシボダイジュ
環境省の絶滅危惧IB類(EN)に選定されている。日本では大分県の九重山周辺にまれに生育する。日本以外では朝鮮半島にも生育する。

モイワボダイジュ
北海道、本州の東北地方に分布し、山地に生育する。ときに本州中部地方北部にも見られる。

ボダイジュ(註3)
中国原産で、日本ではよく社寺に植栽されている。

ノジリボダイジュ
シナノキとオオバボダイジュの交雑種と考えられ、長野県と新潟県に見られる。

主な海外種
アメリカシナノキ、フユボダイジュ、アムールシナノキ、タケシマシナノキ、モウコシナノキ、ナツボダイジュ、セイヨウシナノキ。

属名のTiliaは、ボダイジュに対するラテン語古名。語源は ptilon「翼」で、翼状の総苞葉が花序の軸と合着している様子から。属名のTiliaは繊維を意味するギリシア語tilosとする説もある。」

オオシロシタバは他のシナノキの仲間では発生しないのかなあ❓
日本のシナノキ属だけでなく、海外のセイヨウシナノキ(セイヨウボダイジュ)、オランダシナノキなども結構植林されているようだしさ。
でも標高がある程度高くないと無理か…。
『日本のCatocala』にも、シナノキ科ボダイジュ類からは幼虫の採集例はないと書かれていたし、意外と代用食となるものは少ないのかもしれない。

 
【幼生期の生態】
幼虫に関しては、そもそも蝶の飼育さえしない男なのでオリジナルの知見ゼロである。ここは全面的に西尾則孝氏の『日本のCatocala』の力をお借りしよう。

それによると、幼虫は林縁部や牧場周辺の残存林といった開放的な場所のシナノキによく見られ、壮齢木から大木の老齢木に付くそうだ。

野外での幼虫の色彩は変化に富み、著しく濃淡が強く出るものや全体が暗化した個体も見られるそうだ。室内など高温下で飼育すると、著しく黒化するみたい。
また飼育時、たまたま餌にしたシナノキに付いていたキリガの幼虫をしばしば捕食していたという。
コレには驚いた。肉食性のカトカラなんて聞いたこともなかったからだ。(# ̄З ̄)邪悪じゃのう。

昼間、若齢幼虫はシナノキの葉の間に、中齢幼虫は葉の上に静止している。終齢幼虫(5齢)は他の多くのカトカラのように樹幹には降りず、枝に静止している。
終齢幼虫の食痕には特徴があり、葉の部分だけを食べて葉柄を残す。または葉柄を囓じって切り落とす。
これはアメリカの近縁種 Catocala cerogama(オビキシタバ)でも、同じような生態が観察されている(1985 ハインリッチ)。ハインリッチは他の数種のカトカラについても同様の観察をしており、その理由として、食痕やそこに付着した幼虫の唾液から蜂など天敵に見つからない為の行動だと推定している。日本でも、オオシロシタバの他にムラサキシタバの幼虫が食樹の葉柄を齧じり落とすことが観察されている。

長野県の標高1000mの高原では、孵化は5月上旬から中旬、終齢幼虫は6月上旬~下旬に見られる。蛹化場所についてはハッキリ調べられていない。

 
                    おしまい

 
追伸
またしても泥濘(ぬかるみ)に嵌まったよ。
正直、あんまり色んなことに疑問を持つのもどうかと思うよ。

因みに、今回は先に解説編を書いてから本編(前回)を書き始めた。どうせ1話で完結しないと思ったからだ。毎回、文章を切り取って移すのは面倒だと思ったのだ。いつも1話で完結することを目指して書いてるんだけど、無駄な努力だと悟ったのだ。

 
(註1)紀伊半島にはシナノキって自生してるのかな❓

和歌山県の植物について書かれた報告書(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/yasei/reddata_d/fil/shokubutu.pdf)によれば、和歌山県のシナノキは絶滅危惧IA類(CR)に指定されていた。
絶滅危惧IA類とは、ごく近い将来に絶滅する危険性が極めて高い生物に対して付与される記号みたいなものだ。略号はCR(Critically Endangered)。

そんなに絶滅に瀕している木ならば、食樹転換でもしてない限り、オオシロシタバが和歌山に生息する確率は極めて低いね。

シナノキそのものの分布図は見つけられなかったが、下のような図を見つけた。

 
(出展『広葉樹林化技術の実践的体系化研究』)

 
上部の図を見ると、厳密的にはシナノキの分布図ではないにしても、何となくオオシロシタバが西日本では極めて珍しいのも理解できるね。ただ、注目すべきは中国地方。意外とシナノキがありそうだ。もしかしたら、探せば中国地方ではもっと生息地が見つかるかもしれない。

 
(註2)リンネ
カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)。
生没年1707~1778。スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。同名の息子と区別するために大リンネとも表記される。
「分類学の父」と称され、それまで知られていた動植物についての情報を整理して分類表を作り、生物分類を体系化した。その際、それぞれの種の特徴を記述し、類似する生物との相違点を記した。これにより、近代的分類学が初めて創始された。
生物の学名を、属名と小種名の2語のラテン語で表す二名法(または二命名法)を体系づけた。生物の学名を2語のラテン語に制限することで、学名が体系化されるとともに、その記述が簡潔となった。現在の生物の学名は、リンネの考え方に従う形で、国際的な命名規約に基づいて決定されている。
分類の基本単位である種のほかに、綱、目、属という上位の分類単位を設け、それらを階層的に位置づけた。後世の分類学者たちがこの分類階級をさらに発展させ、現代おこなわれているような精緻な階層構造を作り上げた。
リンネの発案により、初めて植物の雄株と雌株に記号を用いられるようになった。この記号は、もともとは占星術に用いられてきたもので、火星(♂)をつかさどる戦の神マルス=男性的=オス、金星(♀)をつかさどる美の女神ビーナス=女性的=メスとした。それが他の生物にも転用されてゆくことになる。
また、人間を霊長目に入れ,ホモ−サピエンスと名づけた。

 
(註3)ボタイジュ
菩提樹。日本へは臨済宗の開祖栄西が中国から持ち帰ったと伝えられる。釈迦は菩提樹の下で悟りを開いたとされる事から、日本では各地の仏教寺院によく植えられている。しかし、これは間違って移入、広まったたもので、本来の菩提樹は本種ではなく、クワ科のインドボダイジュ(印度菩提樹 Ficus religiosa)のこと。中国では熱帯産のインドボタイジュの生育には適さないため、葉の形が似ているシナノキ科の本種を菩提樹としたと言われる。

 
主な参考文献
・石塚勝巳『世界のカトカラ』
・西尾則孝『日本のCatocala』
・岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
・江崎悌三『原色日本蛾類図鑑』
・カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
・インターネット『みんなで作る日本産蛾類図鑑』

 

2018′ カトカラ元年 其の13 後編

  vol.13 エゾシロシタバ 後編

      解説編

   『dissimilisの謎を追え』

 
エゾシロシタバの解説編である。
前回、エゾシロをろくに採ってない事は話した。なので御理解戴けるかと思うが、解説編でも生態面に関して何ら新しい事は書いていない。よって、殆んどが文献からのパクリになろうかと思う。というワケなので「~らしい、~みたいだ、○○なんだそうだ」の連発になりそうだ。おまけに初のオリジナル画像無しにもなりそうだ。早くも、そうだ、そうだの連発で先行き不安だが、それでも自分なりの解釈もあろうかと思う。面白く書けることを祈ろう。

 
【エゾシロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
(出展『日本のCatocala』)

 
【学名】Catocala dissimilis Bremer,1861

小種名の dissimilis(ディッシミリス)の語源は、頼みの綱である平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも近いものを含めて載っていなかった。
だが、おそらくlatin(ラテン語)由来だろう。何とかなりSODA。ちゅーワケで自分で探すことにした。

ネットでググりまくったら、わりと昆虫の学名には付けられているようだ。日本でもアマミノコギリクワガタ(Prosopocoilus dissimilis)やエゾスズメ(Phillosphingia dissimilis)に、その名がある。この2つ辺りが代表だろうが、ざっと見たところ他にも幾つかある。

・チャモンナガカメムシ Dieuches dissimilis
・ウスチャオビキノメイガ Yezobotys dissimilis
・テンウスイロヨトウ Athetis dissimilis
・アナズアリヅカムシ Batrisceniola dissimilis
・キアシチビメダカハネカクシ Stenus dissimilis

昆虫以外の鳥や貝などにも、この小種名がつけられているものがいるようだ。それだけあれば、何らかのヒントはつかめるだろう。

綴りとラテン語で検索すると、怖れた程には苦労せずにヒントが見つかった。
造語で、dis-➕similis(“resembling, like”)となっている。それで、だいたいの意味は窺えた。
resemblingは、resembleの現在分詞で「○○に似ている」だし、likeは「○○のような」という意味だ。
でも、いったい何と比して似ているのだ❓ 今一つピンとこない。対象物が浮かばん。

更に踏み込んで調べてゆく。
ラテン語だと、disには「二つに分かれて、分離の、逆に、甚だしく」の意味があるようだ。
また違うのが出てきた。嫌な予感がする。ぬかるみ世界が顔を覗かせとるがな。でも何かと似ていて、そこから分離されたと解釈できないこともない。

ググり続けていると、ようやく「dissimilis」そのものにヒットした。
意味は「異なった、異なる、異質の、~とは異なり、違う」。コレまた言葉は違(たが)えど、~と似ているが異なるものと解釈すれば、意味は同じともとれる。

おそらく学名に込められた意味は、これらをひっくるめたもので間違いなかろう。
例えば、Prosopocoilus dissimilis(アマミノコギリクワガタ)なんかの学名は、日本本土にいる普通のノコギリクワガタ(P.inclinatus)を基準に名付けられたものだろうと推察される。即ち見慣れたノーマルのノコギリクワガタと較べて異質で、別種として分離されるべきものだから「dissimilis」と名付けられるに至ったのではないかと想像する。
またアマミノコギリは南西諸島特産で島ごとに変異があり、7亜種(アマミノコギリ・トカラノコギリ・トクノシマノコギリ・オキノエラブノコギリ・オキナワノコギリ・イヘヤノコギリ・クメジマノコギリ)に分けられている。どの亜種も形や色にそれぞれ少しづつ変わった特徴を備えている事も関係しているかもしれない。これもまた、似ているが違うものだからね。
それらのパターンに則れば、エゾシロシタバの学名由来も似たような理由だと思われる。だとしたら、問題はエゾシロシタバが何と較べて異質で、何から分離されたかである。似ているが異なるモノの根本の存在を突き止めねばならぬ。

慌てる乞食は貰いが少ない。先ずは外堀から埋めていこう。答えのヒントは学名に隠されている筈だ。
記載者 Bremerはロシアの昆虫学者であり、自然主義者の Otto Vasilievich Bremer(オットー・ヴァシリエヴィッチ・ブレマーの事かと思われる。没年が1873年11月11日とあるから、活躍した時代とも合致するし、間違いないと思うんだけど…。もし間違ってたら、もう謝り倒すしかないね。けど同じ時代に、同じ名前の昆虫学者はそう何人もいないと思うんだよね。

Bremerといえば、セセリチョウの研究で有名ではなかったかな❓
『日本産蝶類標準図鑑』によれば、日本のセセリチョウだけでもイチモンジセセリ、コキマダラセセリ、チャマダラセセリ、ヒメキマダラセセリ、ヘリグロチャバネセセリ、ギンイチモンジセセリ、ミヤマセセリの記載者にその名がある。
因みに日本のカトカラではオニベニシタバとオオシロシタバの記載者名に、このBremerの名がある。カトカラの記載年は全て1861年。セセリは1852年と1861年の二つに分かれている。
もしやと思い、日本の蝶で他にBremerが記載したものはないかと探してみたら、あった。
オオミスジ(1852)、サカハチョウ(1861)、ミヤマシロチョウ(1861)、クロシジミ(1852)、トラフシジミ(1861)と5つある。そして、全てが1852年か1861年のどちらかの記載だった。蛾は分からないが、日本の蝶に関しては見る限り他の記載年はない。これは何処かから、その年に纏めて送られたきたものに命名したか、実際に其所に本人が訪れて採集したことを示唆してはいまいか❓もしかして、それは日本❓
となると、これら各種の分布が気になってくる。この中に日本固有種がいれば、ある程度それが証明できる。エゾシロシタバのタイプ産地も日本である可能性が出てくる。

だが探した結果、残念ながら日本固有種はいなかった。
(|| ゜Д゜)おいおい、また別のぬかるみにハマっとるやないけー。迷走必至のパターンじゃよ。
但し、共通項はあった。何れの種も日本、朝鮮半島、沿海州(ロシア南東部)、中国東北部に分布していることが分かった。ならば、その何処かである。即ち、タイプ産地が分かればいいワケだ。もう1回、図鑑を仔細に見直す。

ありました❗
ミヤマシロチョウの解説欄に、名義タイプ亜種のタイプ産地はロシア南東部と書いてあるではないか。だとすれば、他の蝶もタイプ産地はロシア南東部なのかな❓
日本がタイプ産地になっているものがある可能性を無視できないところだが、そう云う事にしておこう。調べるのが段々イヤになってきたし、それを追うことが本稿の第一の目的ではない。既にだいぶ本筋から逸脱しているのだ。

遠回りになったが、これらの事からエゾシロシタバに似ているカトカラはロシアにいる筈だ。
もしも本当にBremerがロシア人のO.V.Bremerその人ならば、ロシアに分布するカトカラを見て、エゾシロシタバを「dissimilis」と名付けたのだろう。だから、ロシアにいるカトカラの中からエゾシロに似ていて非なるものを探せばいい。或いは一見エゾシロに似ていないが、よく見れば似ているのを探せばいいのかな。ちょっと脳ミソが錯綜しかけているが前へと進めよう。

世界のカトカラを網羅した文献といえば、石塚さんの『世界のカトカラ』だ。
それ見りゃ、ソッコーで解決でけるんちゃうけー。楽勝やろ。
解決したも同然の気分で『世界のカトカラ』を開く。

 

 
ガ、ガビ━━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━━ン❗無い❗❗
無いと云うワケではないが、相当するものが無い。下翅が黒いカトカラが殆んどおらんのだ。アメリカ大陸にはぎょーさんおるのに、ユーラシア大陸には1種類しかいないのだ。それもロシアじゃなく、トルコだ。

 
【Catocala viviannae ターキィクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
分布地はトルコで、非常に稀な種らしい。トルコ以外にはいないみたいだし、それにエゾシロシタバみたく小さくない。クロシオキシタバくらいはありそうだ。だいち下翅は黒いといっても全然似てないじゃないか。コレとエゾシロが似ているなんて言う輩がいたら、目が腐っとるとしか思えん。
それに決定的なのは記載年だ。記載は1992年。Bremerは百年以上前(1873年)に死んどるわい。有り得ん。

アメリカ大陸にしても、黒い下翅のカトカラは沢山いるのにも拘わらず、似てる奴が1つもおらん。デカイのばっかだし、皆さん上翅がカッコいい。

 
【Catocala flebilis カリモガリクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
カッコいいので、他にも幾つか並べちゃおう。

 
【Catocala agrippina アグリピナクロシタバ】

 
【Catocala epiona フチシロクロシタバ】

 
【Catocala palaeogama クルミクロシタバ】

 
【Catocala sappho カバフクロシタバ】

 
チンケなエゾシロシタバと比べられたとしたら、一緒にすな!と、みんな怒るで。
他にもカッコいいクロシタバはいるが、それは図鑑を買って見ましょうネ。

( ゜o゜)あらま、見逃していたが小さいのもいた。

 
【Catocala judith ユディトクロシタバ】
(出展 以下5点共『世界のカトカラ』)

 
下翅に白斑はないが、そこそこ似ている。大きさ的にもエゾシロシタバと同じくらいだ。
だが記載されたのは、Bremerが没した翌年の1974年。エゾシロよりも後の記載なので、似て非なる者にはあたらない。

見過ごしていたが、更に後ろの方にも小型のクロシタバが幾つかいた。

 
【Catocala miranda ミランダクロシタバ】

 
記載年は1881年だから、これも既にBremerは他界している。当然、候補から脱落だ。だいち、分布は局地的で非常に稀なカトカラみたい。有り得んな。

 
【Catocala orba ヒメクロシタバ】

 
これまた記載は1903年。枠外だね。

 
【Catocala andromedae コケモモクロシタバ】

 
似ているかもしんない。背景が白くて分かりにくいが、面積は小さいものの下翅の白斑の位置が同じだ。それに同じくらいの大きさか、やや小さいくらいで、エゾシロと大差ない。
記載は1852年。Bremerがバリバリ活動していた時期である。エゾシロよりも早い記載だし、普通種みたいだから、これは有り得るなあ…。
でも、わざわざ遠く離れたアメリカ大陸のカトカラを意識して学名を付けるものだろうか❓考えにくいところではある。判断が難しいところだ。
いや、この時代には下翅の黒いカトカラは、まだ現在みたいに沢山は発見されていない筈である。ならば、当然比較の対象になりうる。

一応調べたら、殆んどがBremerの死後以降の記載だった。生前以前の記載はコケモモクロシタバ、カリモガリクロシタバ、フチシロクロシタバ、クルミクロシタバ、ヒアイクロシタバ、ヤモメクロシタバの6種だった。クロシタバは全部で20種くらいだから少ない。やはり多くは1861年以降の記載と云うワケだ。6種だけなら、カトカラ全体の記載数もまだ少なかった時代だと推測される。ならば、Bremerが比較の対象をアメリカ大陸にも広げていたことは充分考えられる。
その6種のうち小型なのはコケモモクロのみである。
つまりアメリカ大陸に棲む下翅の黒いカトカラの中では、コヤツしか該当する条件を満たす者はいないと云うことだ。暫定だが、筆頭候補としよう。

他に考えうるとすれば、アジアのマメキシタバか…。
たしかマメキシタバは日本以外にも居たよね。

 
【マメキシタバ Catocala duplicata ♀】

(2019.8月 大阪府四條畷市)

 
マメちゃんは一見したところ、エゾシロシタバとは全然似てない。だが研究者の間では類縁関係が示唆されており、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には「翅の基本パターン、ゲニタリア(交尾器)の形態、幼虫の形態など類似点も多い。」とあった。だが、類縁関係は明らかでないとも書いてあった。

マメキシタバはロシア南東部にはいないようだが、日本や朝鮮半島、中国にはいる。エゾシロと分布が重なる地もあるのだ。その何処だかは分からないが、そこで両者が二つに分化した可能性はある。ちょっとだけ謎の解明に近づいたかもしれない。

ここで原点に戻ろう。学名「dissimilis」の語源と意味に、今一度立ち返ろうではないか。
これまで調べた語源と意味を全部並べてやれ。
「~に似ている、~のような、二つに分かれて、分離の、逆に、甚だしく、異なった、異なる、異質の、~とは異なり、違う」。
コヤツらを強引、豪腕で組み替えて1つにしたろ。

「エゾシロシタバとマメキシタバは共通の祖先種から二つに分かれて、更に分離が進み、やがて甚だしく違う異質なものとなった。しかし、両者は違うように見えて、よく見れば逆に似ている。」

ムチャクチャである。強引にも程がある。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。もう行き詰まってて、マッドな男になっているのだ。
このままだとクロージングできない。もうヤケクソでバカボンのパパ風に言ってやる。

コレで、いいのだ。

学名はマメキシタバに比して付けられたとしよう。
もう、それでいいではないか。オジサン、疲れたよ。

Σ( ̄ロ ̄lll)え━━━━━━━っ❗❓
しかし、マメキシタバの記載年を確認して、ひっくり返る。マメキシタバの記載は1885年だ。Bremerは、もう死んどるぅー(T▽T)
マメキシタバは、その対象者じゃなかったって事だ。
もおーっ、どいつと似てて、異質なのぉー(*ToT)

う~ん。現時点では、エゾシロシタバはコケモモクロシタバと比して似ているが異なるモノとせざるおえない。
しかし、この「dissimilis」の語源の見立てそのものが間違っているのではないかと思えてきたよ。なぜにこの学名が採用されたのだ❓

お手上げだ。
参考までにシノニムを付記して、この頃を終えることにしよう。

Wikipediaによれば、シノニム(同物異名)には以下のようなものがある。

◆Ephesia nigricans Mell, 1939(nec Mell, 1939)
◆Catocala nigricans
◆Ephesia griseata Bryk, 1949
◆Catocala hawkinsi Ishizuka, 2001
◆Ephesia fulminea chekiangensis Mell, 1933

 
【和名】
シロシタバとつくが、シロシタバと類縁関係はない。
というか、下翅が白くない。白い部分は有るにしても、申し訳程度だ。大部分が黒い。なのにシロシタバなんである。初心者に混乱を引き起こしかねない酷いネーミングだ。命名者のセンスを疑うよ。脳ミソの中で、どれがどうなったら白シタバという名前が出てくるのだ❓
エゾクロシタバに改名した方がええんでねぇの❓

上につくエゾも酷いっちゃ酷い。エゾは蝦夷(註1)のことで、主に北海道を指しているのだが、これも安易。北海道で発見されたものや北海道や東日本に多いとか、北方系と考えられるものに、このエゾが付けられる場合が矢鱈と多いはしまいか❓
実際、昆虫の名前にはエゾが付くものは多い。
例えばエゾゼミ、エゾハルゼミ、エゾマイマイカブリ、エゾカタビロオサムシ、エゾシロチョウ、エゾスジグロシロチョウ、エゾミドリシジミ、エゾイトトンボ、エゾシモフリスズメ、エゾカメムシetc…と枚挙に暇(いとま)がない。
でもエゾゼミは九州にだっている。もともとエゾゼミはコエゾゼミとは異なり、南方系のセミらしいぞ。夏でも気温があまり上がらず涼しい北海道よりも、むしろ長野県や東北南部で多く見られる傾向があるというではないか。エゾハルゼミだって九州にいるし、エゾカタビロオサムシにいたっては奄美大島にまでいるみたいだぞ。何やソレ❓ってツッコミ入れたなるわ。

(-“”-;)んぅ❗❓ちょっと待てよ。もしも、記載は日本の北海道で採れたものからされたならば、和名をエゾとしても不思議ではない。北海道で最初に採れたんだったとしたら、その和名は有りでしょう。
しかし、ネットで調べてもタイプ産地が何処なのかワカラヘーン\(◎o◎)/
結局、Holotype=基産地が何処なのか見つけられなかった。おまえの探し方が悪いんじゃと言われそうだが、皆さんが思っている以上のパープリンなのだ。能力は低いもんね。
石塚さんが、新たなカトカラ図鑑を作っているという噂を聞いたけど、もし本当なら次の図鑑にはタイプ産地も載せて欲しいなあ。あと、裏面の画像も。図鑑でもネット情報でも裏面写真があまり無いから困るんである。種の同定をするには、裏面も大事だと思うんだよね。

因みに、Bremerのタイプ標本の大半はロシアのサンクトペテルブルグにある動物博物館にあるらしい(やどりが 190号 2001年 松田真平)。
言明はしないけど、総合的に考えると、たぶんエゾシロのタイプ標本はロシア南東部(沿海州)の可能性が高いかな…。明日、真平さんに会うだろうから訊いてみよっと。

 
【亜種】

◆Catocala dissimilis dissimilis
◆Catocala dissimilis melli Ishizuka, 2001

他にもあるかもしれないが、Wikipediaではそうなってた。

 
【変異】
前翅が著しく白化する個体がいるようだ。
↙こう云うヤツのことを言ってるのかな↘

 
(出展『東京昆虫館』)

 
どうやら白化と言っても、翅の付け根部分までは白くならないようだ。

また、黒化するものもいるという。
こんなんかな?↘

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
何かカトカラじゃないみたいだ。小汚ないヤガの仲間にしか見えないぞ。

 
【開張(mm)】 45~50㎜
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そうある。『日本産蛾類標準図鑑』では44~51㎜内外となっていた。何れにせよ、日本ではマメキシタバ、ヤクシマヒメキシタバと並び、最も小さいカトカラである。
あっ、ナマリキシタバやアズミキシタバも小さいか…。

 
【分布】北海道・本州・四国・九州・対馬

『世界のカトカラ』の県別分布図によると、日本で記録のない都道府県は千葉県、奈良県、福岡県、沖縄県のみである。一方『日本のCatocal』の分布図では千葉県、山口県、福岡県、沖縄県が空白になっていた。

おそらく分布は主要な食樹であるミズナラとカシワの分布と重なるものと考えられる。
従って東日本に多く、西日本では少ない傾向にある。近畿地方の中心部では稀。九州でも稀。たぶん四国でも稀だと思われる(註2)。
何れもミズナラが自生する冷温帯、比較的標高の高い山地に棲息する。中国地方にはカシワが自生するので、西日本の中では比較的多いようだ。

ネット上に解りやすいミズナラとカシワの分布図があったので、添付しよう。

 
(ミズナラ分布図)

 
(カシワ分布図)
(出展 2点共『www.ffpri.affrc.go.jp』)

 
この二つを重ね合わせたものが、エゾシロシタバの実際の分布に近いのではなかろうか?
これを見れば、近畿地方の真ん中がポッカリ空いているし、九州地方に少ないのも理解できる。
四国にはカシワはないが、ミズナラは中央の四国山地に案外あるなあ…。結構いるのかもしれない。

近畿地方では全府県で記録されているようだ。
但し、前述したように少ない。ネットで記録を拾っただけだが、以下の場所で記録されている。

大阪府 貝塚市和泉葛城山
奈良県 奈良市近畿大学奈良キャンパス
京都府 京都大学芦生演習林
和歌山県 龍神村護摩壇山

『世界のカトカラ』では奈良県は空白になっていたが、一応奈良県にも記録はあるみたい。滋賀県と三重県は分布するとされているが、記録を拾えなかった。でもミズナラの分布図からすれば、少なくとも滋賀県には居そうだな。
兵庫県内では記録が多い。西播から但馬地方などの西側北部に限られるが、生息地での個体数は多いようだ。

日本国外では、沿海州(ロシア南東部)、樺太、朝鮮半島、中国(四川省北部・甘粛省南部)に分布する。

 
【成虫出現月】7~9
7月から出現し、10月頃まで見られるが、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでのようだ。

 
【生態】
ネットを見ていると、その殆んどが灯火採集によって得られている。飛来数は多く、クズ扱いされてる感じだ。特に東日本では、居るところにはドッチャリいるみたいだね。東日本では、普通種扱いになってるのも理解できる。

西尾規孝氏の『日本のCatocala』に拠れば、低山地ではクヌギ、ヤナギなどの樹液によく集まる。しかし、標高の比較的高いミズナラ帯では採餌行動は殆んど観察されていないそうだ。
どうりで標高の高いブナ林帯では糖蜜に寄って来なかったワケだ。ただし、その場所に分布していたのかどうかはワカンナイけど。

 

 
日中は頭を下にして樹幹や岩などに静止している。驚いて飛翔した時は上向きに着地して、数10秒以内に姿勢を変えて下向きになるという。また、着地するのは飛び立った木とは反対面に止まることが多いらしい。この行動パターンはマメキシタバと全く同じなんだそうな。
マメキシタバって、そうだったっけ❓
昼間にそれなりの数を見ている筈だが、記憶にない。
おそらくは敏感で、すぐに飛び立ち、小さいから見失ってしまうのだろう。それに所詮はマメなので、フル無視だ。追いかけて探したりまではしないもんね。

 
【幼虫の食餌植物】
主要な食樹はブナ科コナラ属のミズナラとカシワ。
だが『日本のCatocala』によると、低山地(長野県の標高700~1000m付近の谷沿い)ではクヌギ、コナラも食樹になっているようだ。但し、ミズナラの場合よりも遥かに幼虫は少ないという。
つまり、幼虫の主な生息地は山地のミズナラ帯である。長野県の白馬村や大町市といった標高1000mのカシワ林ではマメキシタバ、ヒメシロシタバと混生する場合があるが、どのような場所でも主要な発生木はミズナラみたいである。
飼育する場合、コナラ属(Quercus ssp,)全般が代用食になるという。幼虫は樹齢15~40年の木によく付き、標高の高いところでは巨木に発生することもあるそうだ。

 
【幼生期の生態】
もう、ここは全面的に西尾氏の『日本のCatocala』に頼る。だいちと云うか、そもそもが幼虫期に関してここまで詳しく書かれたものは他に無いのだ。

卵から孵化後、幼虫はマメキシタバと同じく暫く動き回り、物に糸でぶら下がって静止していることが多い。
終齢幼虫は5齢。飼育すると、ごく一部が6齢に達するという。昼間、若齢から中齢幼虫は裏に静止している。終齢になると、太い枝や樹幹に降りてくる。
野外での終齢幼虫の出現時期は、長野県の低山地で6月上・中旬。1600mの蓼科高原では6月末~7月上旬。

 
(出展『フォト蔵』)

 
野外で見つかる幼虫には色彩変異があり、濃淡の強い個体や全体が暗化したり、淡色化した個体までいるんだそうだ。

幼虫はマメキシタバの幼虫と似ていて、高標高のものは白っぽくて殆んど区別できないものもいるという。マメキシタバとの識別点は腹部下面に列生する肉突起。いわゆるフィラメントの有無による。マメキシタバにはフィラメントがあるが、エゾシロにはないそうだ。
これだけ幼生期を詳しく調べられている西尾氏でも、蛹化場所についての知見は無いという。普通カトカラの蛹は落葉の下から見つかるから、発見できないのはちょっと不思議だね。

成虫も幼虫も生態面諸々がこれだけマメキシタバに似ているとなると、無視できないものがある。
学名の項で既に触れているが、もう一度両者について考えてみよう。

と思ってたら、『世界のカトカラ』の末尾に別項で言及されているのを見つけた。
見る時はいつもテキトーにパラパラやってるから、全然気づかなかったよ。けど、タイミングが良いと云えば良い。知らずに全て書き終えた後に気づいてたら最悪だったもんね。本を持っているのに見てないだなんて、アイツは能無しだとバカにされること明白だわさ。

『闇の中の光』と題した文中の「外見が著しく異なる近縁種」のページから抜粋しよう。

「マメキシタバ duplicataーエゾシロシタバ dissimilis
以前からこの2種は近縁と言われてきた。確かに成虫は後翅が黄色いか黒化しているかで、基本的な斑紋パターンやゲニタリアは似ている。幼虫も似ている。外観的には、前述の北アメリカの3組(※)とほぼ同様であり、類縁関係はある筈なのだが、ミトコンドリアDNA、ND5の塩基配列では明瞭な類縁関係は認められない。おそらくCatocalaが最初に一斉に適応放散した頃にこの2種は種分化し、その後あまり形態的変化を生じないまま今日に至っているのではないだろうか。」

※後翅が黄色と黒と著しく異なる近縁種の組合せ

Catocala consores ━ Catocala epione
Catocala palaeogama ━ Catocala lacrymosa
Catocala gracilis ━ andromedae
の3組のこと。

えーい、こんなんじゃ解りづらかろう。
図鑑の画像ばっかパクってるので心苦しいが、ブッ込む。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
ようは一見すると遠縁に思えるが、共通の祖先種から各々分化したと予想されると云うことだ。上翅の斑紋を見ると、それが何となく解る。

また、次のコシロシタバとヒメシロシタバの項にもマメとエゾシロについて触れられている。要約しよう。

「ユーラシア大陸にはコシロシタバ、ヒメシロシタバ、エゾシロシタバ、ターキィクロシタバ、C.nigricans(アサグロシタバ)、チベットクロシタバ(C.xizangensis)という5種類の後翅が黒化したカトカラがいる。」

と、ここで早くも躓く。
アサグロシタバ❓、チベットクロシタバ❓(・。・)何だそりゃ❗❓
ちょっと待て。ユーラシア大陸には黒い下翅のカトカラは、エゾシロシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバを除けば、ターキィクロシタバしかいないと思っていたけど、他にもおるんかい❗❗
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』にも「北アメリカに後翅が黒化したカトカラが多いが、旧大陸ではターキイクロシタバと本種の2種が後翅が黒化したカトカラとして知られているだけで…」とあったから、ターキィのみだとばかり思ってた。でも、そうじゃないんだ❓ここまで来て、青天の霹靂の急展開じゃないか。おいおいである。
早速、慌てて図版を見返す。

 

 
(-“”-;)あった…。
でも何じゃそりゃである。

 
【コシロシタバ&ヒメシロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
気が引けるし、裏面くらいは自分の画像を使おう。

 
【コシロシタバ裏面】

 
【アサグロシタバ&チベットクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
チベットクロはバカでかいものの、何のことはない、コヤツらみんなコシロシタバと殆んど同じである。
コシロとヒメシロシタバのページに埋もれてて、見逃しておったわ。我ながらダセーな。

いやいや、ちょと待て、ちょと待て、お兄さん。
もしかしたら、コシロ、ヒメシロ、アサグロ、チベットクロの何れかがエゾシロシタバの学名「dissimilis」の似ているが非なる者の語源になったカトカラかもしれない。灯台もと暗し。盲点じゃったよ。まさかコシロやヒメシロとは考えもしなかった。両者とエゾシロとは上翅の斑紋パターンが違うし、地色や下翅の白紋の位置も違うのだ。
もしそうだったとしたら、🎵チャンチャンのオチじゃないか。まあ、解決すればスッキリするから、それはそれで良いんだけどさ。

(|| ゜Д゜)あちゃー。
けど、それも有り得ない。
コシロの記載年は1874年。ヒメシロが1924年でアサグロは1938年。そしてチベットクロが1991年なのだ。何れもエゾシロシタバの記載年1961年よりも後の記載なのである。
又もや謎は解けなかった。益々もって混迷は深まるばかりだ。

話を石塚さんの文章に戻そう。

「それら(下翅の黒いカトカラ)に対応する後翅が黄色い種がいると考えたが見当たらない。外観からコシロシタバとアミメキシタバ、ヒメシロシタバとヨシノキタバが近い関係とも推測されたが、ゲニタリア(交尾器)が全く違う。この点から従来の常識では類縁関係は認められない。
しかし、日本産のカトカラをDNA解析した結果、コシロシタバとアミメキシタバ、またヒメシロシタバとキシタバに僅かながらの類縁関係が認められた。もしこの結果が正しければ、交尾器の相違は類縁関係を反映していないことになる。」

この結果に対して石塚さんは、こう見解されている。
「地史的に比較的新しい時期に種分化したものはゲニタリアは似ているが、古い時期に種分化したものはゲニタリアにまで著しい違いが出てくる可能性があるのかもしれないが、全くの謎である。
現時点では、マメキシタバとエゾシロシタバもアミメキシタバとコシロシタバもそれぞれ互いの類縁関係はないと解釈するしかない。後翅の黒化は、北アメリカでは地史的に比較的最近の出来事であるが、旧大陸ではかなり古い時代にいろいろな系統内で生じたのではないかと思われる。」

DNA解析の結果ではマメキシタバとエゾシロシタバは類縁関係はないとされるが、互いの成虫の交尾器、形態、大きさ、生態は似ているし、幼虫の形態・生態も似ている。つまり、どう考えても近縁種と思われるのに、類縁関係が無いとはどうゆうこっちゃ❓と云うワケだ。
確かに謎だよね。
石塚さんが「DNA鑑定が100%正しいかどうかは分からない。」云々みたいなことをおっしゃっていた意味がようやく解った気がするよ。自分もDNA鑑定が十全で、絶対だとは思わない。種を規定するにはDNAだけでなく、総合的な観点が必要だと思う。カトカラではないが、外部形態に差異が見出だせないのに、DNAは全然違う昆虫だっているみたいなんである。ならば肉眼では区別できないと云うことだ。そもそも種の分類とは、人間が区別するためにあるものだろう。それだと意味ないじゃないか。意味ないは言い過ぎかもしれないけど、目で区別出来ないものを別種とするのには抵抗感がある。

そう云えば思い出した。オサムシのDNA解析の結果を論じた中で、平行進化という言葉があったな。
平行進化とは、異なった種において似通った方向の進化が見られる現象を指し、その進化の結果が収斂となる場合があるという説。簡単に言うと、全く別系統な種が、例えばカタツムリを餌とすることによって、より容易(たやす)く餌を摂取する為に進化し、首が伸びるとかアゴが強大化して、結果、互いの外観が似ちゃいましたーって事ね。
でも、一部のカトカラの下翅が黒くなる理由を明確に答えられる自信がないし、平行進化を何にどう宛がっていいのかもワカンナイ。これ以上、変なとこに首を突っ込みたくない。やめとこ。

話は戻るが、もう一度DNA鑑定をやったら、また違った結果が出たりしてね。最初にDNA鑑定をしてから年数が随分と経っている。その時よりも手法や精度だって進歩してる筈だし、今なら、より正確な事が分かるんじゃないかな?誰か、やり直してくんないかなあ。

 
                    おしまい

 
追伸
謎が解決するどころか、益々謎が深まっちゃったよ。
前回、ボロクソ言ったけど、エゾシロシタバって奥が深いわ。エゾシロちゃん、ゴメンね。
今年はまた違った観点でエゾシロシタバに向き合えそうだ。糖蜜がどこまで通用するかも試してみたい。

今回は、石塚さんの『世界のカトカラ』と西尾則孝氏の『日本のCatocala』に頼りっきりで書いた。お二人の偉大さを改めて感じたでござるよ。末尾ながら感謝である。

それにしても、結局またクソ長くなったなあ。
エゾシロシは一番楽勝で書き終えられると思ってたのに大誤算だわさ。

 
追伸の追伸

エゾシロシタバの小種名dissimilisは、どの種を基準にして名付けられたかと云う問題に対して、松田真平さんから以下のような回答を戴いた。

「エゾシロシタバの学名は、オオシロシタバCatocala laraに似ているということでCatocala dissimilisと名づけられたのではないでしょうか。1861年にBremerが、東シベリアからアムール付近からもたらされた採集品をタイプ標本にして記載した3種のCatocalaの中で、この2種が色彩的に似ているという意味だと思います。もう1種のオニベニシタバは色彩的に無関係ですね。」

まさかだが有り得るよね。
真平さんは追記で、次のような見解もされておられる。

「カトカラ類が世界で初めて記載された時の三種。後翅表面が白黒で近いというだけですが、この時は時代的にまだそういう研究段階なのだろうと。原記載を読めばさらに面白いと思うのは私くらいかなあ。」

ようするに、昔はアバウトだったって事か。まあ、そう言わてみれば、そんな気もする。昔のまだ色んな事がわかっていない時代の観点と今の色んな事がわかっていて、それが当たり前だと云う立ち位置とでは、当然モノの見方も変わってくるもんね。
一応補足すると、世界で初めて記載されたカトカラ3種と云うのは世界でと云うワケではなくて、エゾシロ、オオシロ、オニベニの事を言うてはるのかなと思います。因みにカトカラで一番古い記載は、たぶん1755年のコオニベニシタバ Catocala promissa。

 
【Catocala promissa】
(出展『世界のカトカラ』)

 
追伸の追伸の追伸

オオシロシタバの解説編の為にネットで色々と調べていたら、こんなんが出てきた。

 
(出展『Bio One complate』)

 
カトカラのDNA解析だ。
あっ、表題を見ると『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』となっている。
そっかあ…、コレが石塚さんが新川勉さんに依頼したというDNA解析かあ…。探したけど、全然見つからんかった論文だ。
コレを見ると、オオシロシタバとエゾシロシタバの類縁関係がそこそこ近いじゃないか。
だとするならば、Bremerさんがオオシロに近いと感じてエゾシロに「dissimilis」と云う学名をつけたのは慧眼だったのかもしれない。
とはいえ、DNA解析が本当に正しいかどうかはワカンナイけどね。

 
(註1)蝦夷
Wikipediaには、以下のような解説がある。
「蝦夷(えみし・えびす・えぞ)は、大和朝廷から続く歴代の中央政権から見て、日本列島の東方(現在の関東地方と東北地方)や北方(現在の北海道地方)などに住む人々の呼称である。中央政権の支配地域が広がるにつれ、この言葉が指し示す人々および地理的範囲は変化した。近世以降は北海道・樺太・千島列島・カムチャツカ半島南部にまたがる地域の先住民族で、アイヌ語を母語とするアイヌを指す。大きく「エミシ、エビス(蝦夷・愛瀰詩・毛人)」と「エゾ(蝦夷)」という2つの呼称に大別される。」

 
(註3)たぶん四国でも稀だと思われる
1970年代と古い時代の資料だが、以下のような記述を見つけた。
「石鑓山系(小島,1964)や 剣山(永井・富永,1971)など四国中央山地に分布が知られていたが、香 川と徳島の県境に位置する阿讃山地の尾根にも広く分布するようでもあり,県下(香川県)のカトカラの中で は比較的個体数の多い種である。」(「四国の蛾の分布資料(1)香川県のカトカラ」増井武彦,1976)

やはり中央山地には結構いるんだね。
ブログなどにも割りとエゾシロは出てくるから、どうやら四国での分布は広いようだ。しかし、そんなに多いものでもない旨の文章もあった。