2019’カトカラ2年生 其の六 解説編

 
    vol.23 ノコメキシタバ

       ー解説編ー

 『お黙りっ❗と、ベラは言った』

 
 
【ノコメキシタバ Catocala bella ♂】

  
【同♀】


(以上4点共 2019.8.6 長野県上田市)

 
正直、展翅をするとハイモンの方が綺麗だ。
下翅が思ってた以上に黒くて汚いのは致し方ないにしても、売りである前翅のギザギザまでもハッキリしてない。ワシの撮影技術と展翅がイマイチなせいだとはいえ、あまりにも不憫だ。ここは図鑑『世界のカトカラ』の画像をお借りしよう。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
上が♂で、下が♀でやんす。
ちゃんとノコギリ紋がビシッと出てるね。

雌雄の判別は、♂は腹部が細くて尻先に毛束があり、♀は腹部が太くて尻先の毛が少ない。また裏側から見ると尻先にスリットが入り、黄色い産卵管が見える。上の画像の♀なんかは尻先からピッと飛び出ているゆえに表側からでも判別可能だ。

前翅はハイモンキシタバに似るが、より暗い灰褐色で、鋸歯状の横線(ギザギザ)は黒くハッキリしている。
後翅はハイモンキシタバの明るい黄色と比べてオレンジ色に近い黄色で面積が狭い。外縁黒帯は太くて内縁に接する。内側の黒帯はやや幅広い。また後翅の翅頂の黄色紋は明瞭でない。頸部は淡い樺色、胸部は前翅と同様の色調、腹部は灰褐色。また前脚脛節にも針を有する。

 
【♂裏面】


(2019.8.6 長野県上田市)

 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
(♀裏面)


(2019.8.6 長野県上田市)

 
最近になって新たな画像が出てきて驚いた。2019年に展翅する前に撮った横向き画像である(上から2番目と1番下)。昼間なのでフラッシュは焚かれていない。今年の、ほぼ同じ条件で撮った木曽町のボロ(上から3、4番目)とは色が全然違う。
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅の色が薄くなって白くなるんだ。本来の色は淡い黄色とかクリーム色なんだね。

展翅画像はボロ個体ゆえに黒帯も薄いから、本来的なものではないだろう。なので、他から画像をお借りして貼りつけておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
参考までにハイモンキシタバの裏面画像も添付しておこう。

 
【ハイモンキシタバ裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
ハイモンは下翅の翅頂部の黄紋が広くて、外縁の黒帯が途中で分断される。一方、ノコメは黄色と白のコントラストが強く、翅頂黄紋が小さいので判別は容易である。

尚、ノコメとハイモンは食樹が同じで、見てくれも似ていることから近縁種だと思われがちだが、系統は全く違うとされている。遺伝子解析の結果では、驚いたことに全然似てないナマリキシタバと同じクラスターに入っていて、『世界のカトカラ』でも両者はノコメ、ナマリの順で並べられている。一方ハイモンは、ワモンキシタバ&キララキシタバのグループに入れられている。これまた見た目はあまり似てない。カトカラの遺伝子解析は蝶と違って首を傾げてしまうことが多い。見た目と結果に齟齬が多いのだ。だから、どこまで信用していいのかが分からなくなる。

 
【学名】Catocala bella Butler, 1877

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを指している。
小種名の bella(ベラ・ベッラ)は、平嶋義宏氏の『蝶の学名ーその語源と解説』によると「愛らしい、上品な、美しい」という意で、ラテン語のbellusの女性形となっていた。
まあ、これなら納得の語源だね。
ネットで更に調べると、他に「戦争」を意味する第2変化中性名詞 bellum,-īn.の複数・対格と云うのも出てきたが、これは無視してもいいだろう。たかだか蛾に「戦争」チョイスは有り得んだろう。

 
   🎵闇に隠れて生きる
    俺たーちゃ、妖怪人間なのさ
    人に姿を見せられぬ
    獣のようなこの身体
    (早く人間になりたーい)
    暗い宿命(さだめ)を吹っき飛ばっせー
    (ベム!、ベラ!、ベロー!)
    妖怪人間

ベラで思い出したのが「妖怪人間ベム」の紅一点、ベラ様だ。
子供心にも怖いオバサンだったが、何となくドキドキもしたよね。ケバいんだけどエロくて、幼少のみぎりにも何となくゾワゾワしたような記憶がある。

 

(以下3点共 出典『原寸画像検索』)

 

 
切れ長のツリ目と真っ白な肌に真っ赤な口紅。そして濃いアイシャドウがエロティックというか、艶めかしい感じがした。オッパイがデカくて肉感的なのも、それに拍車をかけていたのではなかろうか❓ いやはや、性の目覚めだねー。( ≧▽≦)σこのこの〜、マセたエロ餓鬼があー。

 

(左からベム、ベロ、ベラ。)

 
ほらね、おっぱいデカいっしょ。生地の薄い感じとドレープも男のリビドーを刺激する。
驚いたのは、その年齢だ。ググったら、ベラは20代後半らしい。どう見ても30代半ばから40代の熟女だよなあ。オマケに甲高く笑い、その口調が完全にSMの女王様のそれなのだ。もうエロ過ぎ〜♥️

そういや、このお顔で、

💥ベラのムチは痛いよー。

とか、怖い顔でおっしゃるのである。
腕にブレスレットみたいなのが巻き付いてんだけど、それをビシュッと解くとムチになんだよね。
適当な画像が見つからないので、イラスト画像を貼付しときましょう。

 

(出典『ニコニコ動画』)

 
ワシは痛いのヤだから遠慮するが、この表情でビシビシいかれたら、ドMの人は堪らんだろな。
折角ググったんだから、ベラ様の基本情報も付け加えておこ〜っと。
特殊能力満載で、蘇生術や幻術、雷を呼び起こしたり、時には口から冷気も出せる。それらで人を助けたり、悪い奴らを懲らしめるのだ。だが口が悪く、短期で感情が激しいゆえ、時にやり過ぎてベムに諌められたりする事もある。でも心は温かく、人間味あふれる素敵な女性でもある。ベラさん、いい女だす。

変身すると、こんな感じ。

 

(出典『原寸画像検索』)

 
シンプルに怖い。
まあ、妖怪人間だかんね。そういや、ベロがよく子供に「おいら、怪しい奴じゃないよ。」と言って話し掛けてたけど、「オマエ、全身真っ赤で変な髪型なんだから充分怪しいっつーの」と子供心にもツッコミ入れてたなあ…。
とはいえ、一応3人とも正義の味方なんだけどなあ…。でもどう見ても悪役キャラだよね。絵のタッチも画面背景もダークだし、鬼太郎とは対極にある異彩を放つアニメだった。今の時代ならば、コンプライアンス的に引っ掛かる描写なりセリフがテンコ盛りだったと思われる。何でもありの昭和は面白い時代だったのだ。何でもかんでも清廉潔白なのは気持ち悪い。

ちなみにアニメのリメイク版(2019年)もあるみたいだけど、エロさが全然足りない。

 

(出典『TV東京』)

 
今風だし、何だか女子高生みたいだ。オドロオドロしさが微塵も感じられない。
今どき、エログロは流行らんのだ。(`Д´#)ケッ、何でもかんでもマイルドの薄味にしやがって。昭和は酢いも辛いも包含してた良き時代だったよ。

実写版もあって、ベラを女優の杏が演じている。

 

(出典『スポニチÂANNEX』)

 
罵り方とか、かなりいい線いってたけど、如何せん細い。肉感さが足りないから、あんまエロくないのだ。深キョン(深田恭子)のボディラインで、キャラは菜々緒が理想かもね。

そういや、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に「妖怪人間」という漫才トリオがいたなあ…。アレ、笑ったよなあ。

 

(出典『Shoの気ままなライフ』)

 
松ちゃんがベロ、今田耕司がベム、Youがベラに扮して漫才をやるのだが、これがベタな下ネタで妙に面白かった。
気になる人はYou Tubeに動画があるから探してみてね。

お黙りっ❗いい加減にしなっ。

ベラ様の声とムチの音が聞こえたような気がした。
アカン、何やってんだ俺。どんだけ大脱線しとんねん。
いいかげん、話を学名に戻そう。

記載者はバトラー。バトラーについてはシリーズ前々回のミヤマキシタバの第二章『灰かぶりの黄色きシンデレラ』に解説文がありますので割愛します。気になる人はソチラを見てくだされ。

ちなみに同じ”bella”の小種名を持つものに、チョウ目 タテハチョウ科 ヒメミスジ属の、Lasippa bella(ベラヒメミスジ)がいる。
画像は見つけられなかったが、たぶん見た目は属的にオレンジ色のちびっ子ミスジチョウだろう。

 
【和名】
どこにもその命名由来は書かれていないようだが、普通に考えれば、おそらく「鋸の目」。「目」には「〜のように見える」という意味もあるから、すなわち前翅のノコギリの刃みたいなギザギザ模様を指しての命名だろう。ノコギリの事を世間一般では「ノコ」と略すのは通例だからね。それに他に考えうる可能性って、どう考えても無いもんね。
まさかの「野米さん」という人に献名されたとかだとしたら驚きだけどもね。それって面白いけど、即座にヤッさんみたく「怒るで、しかしー。」とツッコミ入れちゃうぞ。
野米さんが蛾類界に大きな足跡を残してたのならともかく、そんな人、聞いたことないもんね。
ふと思う。脈絡なく全然関係ない人の名前を和名に付けちゃったという勇気ある人って過去にいないのかなあ。単にファンだからという理由だけで、ヒバリ(美空ひばり)とかモモエ(山口百恵)、アキナ(中森明菜)、セイコ(松田聖子)、ナナセ(相川七瀬)、あゆ(浜崎あゆみ)なんてアイドルの名前をつけちゃった人とかさ。
もしも自分が超マイナーな虫に興味を持ち、バンバンに新種を見つけたとしたら、フザけた変な名前や意味不明とか難解な和名をいっばい付けてやろうと思う。

 
【亜種】
◆Catocala bella bella Butler, 1877
(日本)

日本のものは原記載亜種とされる。ホロタイプに指定されている標本は”Yokohama”となっているようだ。だたし、まだ自然が残っていた時代とはいえ、標高的にノコメが横浜に分布していたとは考えられない。神奈川県の記録もないようだしね。おそらく採集されたのは別な地で、その標本が横浜から送られてきたとか、そうゆう事だろう。

異常型として、後翅外縁の黒帯が発達したものや中央黒帯の内側が黒化するものが知られている。

 


(出典 3点共『世界のカトカラ』)
 
 
おそらく、こうゆう型のことを言ってるのであろう。
一番下の黒化が進んだものは長野県となっているが、トリミングの問題であって、本当は群馬県で採られたものである。また一番上のものも同様で、上部の北海道の文字は無視されたし。コチラは逆に長野県産と図鑑ではなってます。

 
◆Ssp.serenides Staudinger, 1888
(ロシア南東部(沿海州)、中国中北部、朝鮮半島)

大陸のものが別亜種として記載されている。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
図版で見る限りでは、日本のものよりも下翅の黄色が明るめなせいか、黄色の面積が広く見えるね。こっちの方が綺麗だね。

 
【開翅長】
『原色日本産蛾類図鑑』では、58〜65mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、55〜65mm内外となっている。

 
【分布】 北海道、本州(中部地方以北)
『原色日本産蛾類図鑑』やネットのサイトの多くが分布域に九州を入れているが、これは間違いかと思われる。記録を探せなかったし、最近の図鑑では分布地から外されているからね。
海外では、極東ロシア(アムール・ウスリー)、中国中北部、朝鮮半島に分布する。

標高500mから1700mに見られるが、冷温帯を好む寒冷地性の種で、主に標高1000m前後以上に見られる。食樹であるズミが多く生育する高原地帯では多産し、中部地方の高原では最も普通種のカトカラの一つとされるが、その他のところでは少ない。
低標高の産地は1980年代から減少し始め、1990年代には殆んど見られなくなったという。高原地帯でも以前よりも減少しているところが増えていると聞く。
東北地方での産地は散発的で、古い図鑑だと福島県を北限として東北地方のほぼ全域と北海道南部にわたって分布の空白があるとしている。しかし、その他の地域の北海道には広く分布するという。
w(°o°)wえっ❗❓、同じ寒冷地型のハイモンは東北にも万遍なくいるのに何で❓謎だよね。何かまた変なところに足を突っ込みそうだ。😱ヤバい。またしても長大になる兆候が濃厚だよ。

解りやすいように分布図を貼付しておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
分布を示す黒塗りされているところが微妙に違うのは『世界のカトカラ』の方が刊行年が少し遅くて、秋田県と宮城県が追加されたのと、上図は分布域を示し、下図は県別の分布図であるせいだろう。下の分布図だと或る県で1頭だけでも記録があれば、その県は塗り潰されるからである。にしても、分布域図でも北海道南部に空白が無いね。多分、北海道南部でも見つかったんじゃろう。そゆ事にしておこう。下手な疑問は抹殺じゃ。
猶、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』から東北地方の分布の空白について次のようなコメントが見つかった。
「東北地方ではほとんど採れていないのは、日本への侵入経路・時期に由来しているのかもしれない。」

とゆう事はだな。ハイモンとノコメの日本への侵入時期が違うという事か…。何だか面倒くさい事になってきたよ。HSPだけど、答えの見えない迷宮地獄になりそうなのでスルーしてコマしたろか。

でも、気づいたら「日本列島の成り立ち」で検索してた。
やれやれである。
以下、Wikipediaからの抜粋、編集したものである。ここから答えをさぐっていこう。

『現在の日本列島は、主に付加体と呼ばれる海洋で出来た堆積物からなっている。かつて日本付近はユーラシア大陸の端で、古生代には大陸から運ばれてきた砂や泥が堆積していた(現在の北陸北部、岐阜県飛騨地方、山陰北部など)。そこへ、はるか沖合で海洋プレートの上に堆積した珊瑚や放散虫などからなる岩石(石灰岩やチャート)が移動してきて、それが海溝で潜り込むときに、陸からの堆積物と混合しながらアジア大陸のプレートに押しつけられて加わった(付加)、この付加が断続的に現在まで続いたため、日本列島は日本海側が古く太平洋側に行くほど新しい岩盤でできている。

このようなメカニズムで大陸側プレートに海洋プレートが潜り込む中で、主にジュラ紀〜白亜紀に付加した岩盤を骨格に、元からあった4〜5億年前のアジア大陸縁辺の岩盤と、運ばれてきた古いプレートの破片などを巻き込みながら日本列島の原型が形作られた。この時点では日本はまだ列島ではなく、現在の南米のアンデス山脈のような状況だったと考えられる。

その後、中新世になると今度は日本列島が大陸から引き裂かれる地殻変動が発生し、大陸に低地が出来始めた。2100〜1100万年前には更に断裂は大きくなり、西南日本は長崎県対馬南西部付近を中心に時計回りに40〜50度回転し、同時に東北日本は北海道知床半島沖付近を中心に反時計回りに40〜50度回転したとされる。これにより今の日本列島の関東以北は南北に、中部以西は東西に延びる形になった。いわゆる「観音開きモデル説」である。そして、およそ1500万年前には日本海となる大きな窪みが形成され、海が侵入してきて、現在の日本海の大きさまで拡大した。』

途中だが、ここで少しでも理解しやすくするために、日本列島の成り立ちの大まかな図を貼付しておく。

 

(出典『出雲平野と神戸川をめぐる自然史』)

 
『1600万年前から1100万年前までは西南日本(今の中部地方以西)のかなり広い範囲は陸地であった。東北日本(今の東北地方)は広く海に覆われ、多島海の状況であった。』

この時期にノコメは西から日本に侵入したって事か❓
しかし、東北地方は大部分が海に沈んでいたから分布を東に拡大できなかったのかもしれない。

『その後、東北日本は太平洋プレートなどによる東西からの圧縮により隆起して陸地となり、現在の奥羽山脈・出羽丘陵が形成されるにいたった。
北海道はもともと東北日本の続き(今の西北海道)と樺太から続く南北性の地塊(中央北海道)および千島弧(東北海道)という三つの地塊が接合して形成されたものである。』

ということは北海道のノコメキシタバは北から侵入して来たのではあるまいか。そして、今の西北海道が東北日本の続きの一部であったのならば、中央北海道や東北海道とは海で隔たれており、それ以上は南下できなかったのではなかろうか。北海道西南部にノコメが分布していないとされるのは、それで何とか説明できそうだ。

『西南日本と東北日本の間は浅い海であったが、この時代以降の堆積物や火山噴出物で次第に満たされながら、東北日本が東から圧縮されることで隆起し中央高地・日本アルプスとなった。』

では何故に西日本のノコメが、この後に分布を東に拡げて東北地方に侵入しなかったのだろう❓食樹であるズミはあるのに何でざましょ❓
考えられるとすれば、フォッサマグナ(深い溝)だ。
ほらほら、やっぱ大げさな話になってきたじゃないか。

『西南日本と東北日本の間の新しい地層をフォッサマグナといい、西縁は糸魚川静岡構造線、東縁は新発田小出構造線と柏崎千葉構造線で、この構造線の両側では全く異なる時代の地層が接している。』

イメージとしては、こんな感じだろうか?

 

(出典『www.shinnshu-u-ac.jp』)

 
フォッサマグナの成り立ちだが、図CとEがそれにあたる。

そういえば、このエリアを境に東と西とでは生物相が異なるって、よく聞くよね。多くの生物種群において、東西日本での遺伝的分化が認められる研究結果が多々あった筈だ。
となれば、中部地方と北海道のノコメキシタバは別種か別亜種の可能性が高いと考えられなくはないか❓でも両者は亜種区分さえされていない。これはどうゆう事なのよ❓
『世界のカトカラ』の著者であり、カトカラの世界的研究者でもある石塚勝己さんは、キララキシタバとワモンキシタバが別種である事を証明するために、ゲニ(ゲニタリア=♂の交尾器の一部)を切りまくって、執念でその差異を見つけたと聞いている。その石塚さんが、この問題を看過するワケがない。きっと調べ済みの筈だ。って事は両者の交尾器に違いを見い出せなかったって事か…。ならば本州産のノコメも北海道産のノコメも全くの同種であるということになってしまう。密かに北海道のものは大陸の亜種”ssp.serenides”じゃねえかと思ってたんだけどねー。
(+_+)くちょー、やっぱ迷宮ラビリンスじゃねえか。

置いといて、ではハイモンキシタバはいつ日本に侵入したのだろうか❓ Wikipediaの記述を続けよう。

『こうして不完全ながらも今日の弧状列島の形として現れたのは、第三紀鮮新世の初め頃であった。その後も、特に氷期の時などには海水準が低下するなどして、大陸と陸続きになることがしばしばあった。例えば、間宮海峡は浅いため、外満州・樺太・北海道はしばしば陸橋で連絡があった。津軽・対馬両海峡は130〜140メートルと深いため、陸橋になった時期は限られていた。』

この時代のどこかでハイモンが日本列島に侵入したのかな❓にしても、ハイモンは一応、日本固有種となっている。どゆこと❓
これは、おそらくニセハイモンキシタバ(C.agitatrix)が日本に渡り、長年隔離されて分化し、別種になったのだろう。その後、陸地化した東北地方、中部地方に分布を拡げ、その過程で北海道のものとも亜種分化したとは考えられないだろうか❓
けれど、そうなればだな、それ以前に日本に侵入していたノコメよりも進化(分化)スピードが早いということになる。って事でいいのかな❓
確かに生物は、それぞれ進化のスピードが同じではない。シーラカンスのように太古の昔から殆んど姿を変えていないものもあれば、ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチのように島ごとに進化して嘴の形が変わったものもいる。ダーウィン・フィンチは環境に合わせて適応放散的に進化したことの例証として有名だけど、これは種によって進化を促進する因子の有無や多い少ないがあるのかもしれない。
でも進化スピードは、東北地方にノコメキシタバがいない事の理由とは直接関係はない。先に進もう。

『また南西諸島ではトカラ海峡(鹿児島以南)、ケラマ海峡(沖縄島以南)は共に1000メートルを超す水深であり、第四紀後半に陸橋になった可能性はまず考えられない。南西諸島の生物相に固有種が多く、種の数が少ないなどの離島の特徴を示すことは、大陸から離れた時代が極めて古いためと考えられている。陸橋問題では、津軽海峡は鮮新世末まで開いており、対馬海峡は日本海塊開裂時代には開いていたが、その後の中新世末から鮮新世には閉じたと考えられている。
最後の氷期が終わり、マイナス約60mの宗谷海峡が海水面下に没したのは更新世の終末から完新世の初頭、すなわち約1万3000年から1万2000年前である。
中新世前期には、沈み込みによる大陸辺縁の分離が活発化する。鮮新世後期〜更新世前期には、日本海の拡大は終息して島孤は現在に近い配置になっている。更新世の終わり2万年前頃には、ほぼ現在に近い地形であるが、最終氷期最盛期のため海面が低下し日本海と外洋を繋ぐ海峡は非常に狭かった。』

今まで触れなかったが、ここで西から侵入したノコメキシタバが、なぜ中部地方から西には居なくなったかについて考えてみよう。
思うに、氷河期が終わり、気候が温暖になってゆくに伴って西日本に広く分布していたノコメキシタバの生息域は次第に狭められていったのではなかろうか。そこには食樹の減少も関係していただろう。そして、現在のように冷涼な気候の中部地方にのみ生き残ったと考えれば、一応の説明はつく。
けど、これも東北地方にノコメが居ない理由の直接的な理由とは関係ない。フォッサマグナが現在の分布に何らかの影響を与えているとしたら何なのだ❓現在は陸続きなんだから、東北に分布をナゼに拡大しないのだ❓そこには何の障壁があるのだ❓もしくはナゼに移動しようとしないのだ❓移動性が低い種だとか❓けど、だったらそもそも大陸から日本には侵入してないよね。理由が皆目ワカラン。
嗚呼、とまどうペリカンだ。自身の力の無さを痛感して、この辺でステージから降りる。グダグダの結末でスマンが、話を本道に戻して先へ進める。

ノコメの西側の分布は福井県、京都府、大阪府に僅かな記録があるのみで、それ以外の地域からは未知。
大阪府の記録は箕面のようだ。しかし標高が低く、開発も進んでいるので再発見は不可能かと思われる。それにそもそも、本当にいたのかね❓古い記録だから同定間違いなんじゃないかと疑りたくもなる。中国地方で見つかれば、信憑性も出てくるんだけどもね。発見されたらいいのになあ…。

垂直分布はハイモンキシタバよりも高く、ハイモンのように低地の渓谷や湿地には進出していない。ハイモンは名古屋市内でも発見されているが、ノコメは棲息が確認されてないからね。つまりハイモンと比べて、より冷温帯を好む種だと思われる。

 
【レッドデータブック】

宮城県:絶滅危惧II類(Vu)

東北地方で指定されているのは、宮城県のみである。
秋田県もレッドリストに指定されて然りなのにね。まあ実状はこんなもんだろ。絶滅危惧種とか準絶滅危惧種とかはアテにならんのだ。恣意的なモノもあるしね。
東北地方の他県で近年発見されてないかと調べてみたが、有望そうな岩手県ではズミのある高原や湿原でも全く見られないという。
ネットを見てると「K’s Life list」というサイトに次のような記事があった。

「こうした東北を飛ばして中部山岳と北海道に隔離分布するタイプの蛾は結構多い.亜高山・高山性のものや北東北には少ない針葉樹食いのものに多いが,本種のように普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい.」

へぇ〜、蛾ってそうゆう分布をするのが結構多いんだ。蝶にはいないからね。あと「普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい。」というのも、へぇーって感じ。
あっ、ちょっと待てぇー。蝶にもおるわ。中部地方と北海道に分布するのに東北地方には分布せえへん、もしくは点在分布しかせえへん奴がおる。シジミチョウ科のアサマシジミがそうだよね。但し、北海道では今や絶滅しかかってるけどね。
考えてみれば、他にもいるわ。コヒオドシ、ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ、フタスジチョウ、ヒョウモンチョウ、コヒョウモン、あとはウラジャノメが一部中国地方にもいるが、近い分布をしている。これはいったい何を意味しているのだ❓
あー、また問題を蒸し返しとるがな。
でも、その分布形態の理由が書いてある記述を見たことないがないし、聞いたこともないぞ。

調べたみたけど、やはり明確に書いてある論文は見つけられなかった。もうウンザリだから、必死には調べてないけど…。
改めて思うに、やはり中部地方のものと北海道のものとでは侵入経路が違うのではなかろうか。中国地方に僅かに残るウラジャノメは、西から侵入したものの生き残りではあるまいか。だとしたら、やはり中国地方でも見つかる可能性はあるかもしれない。でもこれも東北地方には居ない理由にはなってないけどさ。
ゴメン、やっぱリタイア(ㆁωㆁ)

 
【成虫の出現期】
7月中旬から出現し、9月中旬まで見られる。
『日本のCatocala』によれば、標高の低い場所(500〜800m)では7月上旬から見られ、8月中には没姿するという。また群馬・長野県の1500m以上の高原では8月から現れると書いてあった。
同所的に見られることの多いハイモンキシタバと比べて発生が1週間ほど遅れ、発生初期に両者の出現が重なる。

尚、『ギャラリー・カトカラ全集』には「山地帯ではかなり多く、普通種のイメージがあるが、意外と新鮮な個体を採集するのは難しい。出現期の早い時期に採れる個体はしっとりとしており、なかなかのものである。」と書かれてある。
また「この種の素晴らしさが理解できれば、カトカラ愛好者として上位者である。」とも書かれていた。

 
【成虫の生態】
クヌギ、ミズナラ、ヤナギ、ハルニレなどの樹液に好んで集まる。
糖蜜にも誘引され、高原で見られるカトカラの中では最も糖蜜に集まる種類の一つなんだそうだ。
午後7時半、深夜の午後11時15分と午前0時20分に飛来したのを見ている。

わずかながら、花(アレチマツヨイグサ)での吸蜜やアブラムシの分泌物を吸汁していた例があるようだ。

灯火にも集まる。
見たのは午後9時半以降だったと思われるが、ボロばっかだったので、あまりハッキリとは憶えてない。ナマリキシタバやアズミキシタバなど他のバラ科を食樹とする種は灯火への飛来は遅い傾向があるので、そんなに早くには飛来しないのかもしれない。ただし灯火への飛来は傾向性はあっても、その日の気象条件にかなり左右されるので、何とも言えないところはある。

成虫は昼間、頭を下にしてカラマツなどの樹幹に静止している。驚いて飛翔すると着地時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色がよく目立つ。

交尾は深夜11時から午前2時の間に観察されている。
羽化後、数日後には交尾・産卵を繰り返すものと思われる。

産卵行動は2001年の8月6日に長野県真田町の標高1250mの高原で確認されている。日没後に1頭の♀が食樹であるズミの根元の樹皮下に産卵しようとしている様子が観察され、翌春にはその木の下の落葉から複数の受精卵が見つかったという。他のカトカラと比べて産卵はアバウトで、食樹周辺の枯葉や枝などに適当に産み付けるそうだ。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。他に野生のナシが記録されているが、ナシは暖地性の植物なので、本来の食餌植物ではないと思われる。また、時に栽培されたリンゴでも幼虫が見い出される。

ズミ、エゾノコリンゴについては、ハイモンキシタバの回で詳しく書いたので割愛する。

 
【幼生期の生態】
毎度の事ではあるが、幼生期については西尾規孝氏の『日本のCatocala』におんぶに抱っこさせてもらおう。

 
《卵》


(出典『日本のCatocala』)

 
卵はやや背が高いマンジュウ型で、ナマリキシタバとアズミキシタバに似る。だが隆起条の数が40本以上と多く、横隆起条の間隔が狭くて整然としている。
ちなみにハイモンキシタバの卵とは似てない。食樹が同じで、成虫の見た目が似ていることから両者は兄弟みたいに思われがちだが、遺伝子解析では系統的にはかなり掛け離れている。だから卵が似ていないのは当然なのかもしれない。
それにしても、顕微鏡写真まで撮るなんて西尾氏は凄いな。この『日本のCatocala』は、国内のカトカラにおいては他に追随を許さぬ最高峰の図鑑だと思う。

長野県女神湖(標高1500m)での孵化時期は5月上、中旬。5齡幼虫は6月中旬から7月上旬に見られる。同県上田市(600m)では、6月中旬に5齡幼虫が見られたという。

  
《幼虫の生態》
幼虫は比較的若い木に発生し、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない。

 
(2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
日中、若齡幼虫は葉上や付近の枝に静止している。3〜4齡期の幼虫も枝に静止している。

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齡が終齢。老熟幼虫の昼間の静止場所は枝や樹幹で、地表近くに潜んでいる場合も見受けられる。しかし、ハイモンキシタバほどには樹幹下部には降りないようだ。
高原のズミには多数の幼虫が群れていることかあり、5齡幼虫は昼間でも活動している事があるという。このような群生と摂食習性はハイモンキシタバには観察例がないそうだ。
野外では体色に色彩変異が見られ、側線付近の白い模様が幅広くなるものや全体に白化したものがある。

食樹を同じくするハイモンキシタバとは、顔面の模様が違うことから区別できる。

 
(5齡幼虫の頭部)

 
(ハイモンキシタバ5齡幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
だいぶ違うね。
カトカラの幼虫の同定には、この頭部が一番重要だと言われているのがよく解るね。

室内飼育では、室温が25℃以上になると死亡率が高くなることかあるという。やはり寒冷地性なんだね。

蛹化場所については未知のようだ。
蛾のなかでは人気種のカトカラであっても、蛹に関しての記述は殆どない。野外での蛹化場所が見つかっていないカトカラも多いのだ。その点、蝶と比して研究が遅れてるなと思う。たった32種類なのに食樹がまだ判明していないものだっているのだ(註1)。
最近は東京を中心に関東方面では蛾熱が高まっているともいうし、人海戦術で探せるような時代が来ればいいのにね。蝶みたく分母の人数が多ければ、生態の解明は格段に進むだろう。
こんな一銭にもならない連載を書き続けている理由の半分、いや1/3は、それを後押したい気持ちもあるからだ。ヒントが提示されなければ、人は動かないものだ。

                        おしまい

  
追伸
今年は狙って採りに行かなかったけど、来年はハイモンと一緒にシッカリ採ろう。標本が酷くて、こんなんじゃ不満なのだ。

今回のタイトルは全然浮かばなくて悩んだ。細かいところを書き直すうちに、妖怪人間ベラが降臨した。で、突如挿入。それがタイトルのヒントになった。
でもそこから中々決まらなくて、「ベラは言った、お黙りと」に始まり、「お黙り、とベラは言った」「お黙り。とベラはそう言った」「お黙り。と、ベラは言った」「お黙りっ❗そうベラは言った」とマイナーチェンジを繰り返して、最後に「お黙りっ❗と、ベラば言った」に落ち着いた。「、」に拘った結果だ。
けど、いまだもってしてどれが正解なのかはワカラナイ。

 
(註1)食樹がまだ判明していないものだっているのだ
食樹が見つかっていないのは、ヤクシマヒメキシタバとマホロバキシタバ。但し、ヤクシマヒメキシタバは既にウバメガシで飼育されており、野外でのメインの食樹として有望視されている。けど、そこからは進んでいないようで、未だ自然界では幼虫が発見されていないようだけどもね。蛾の文献は簡単には集められないので、古いものしか見れてないから間違ってたら御免だけど。
新種マホロバキシタバは現地の植物相からしてイチイガシが予想されている。たぶんイチイガシで間違いないかと思われる。卵を含めて幼性期は全くの未知。一応、今年探したけど、見つけられなかった。意外と幼虫探しは難航するかもしれない。なぜならイチイガシは大木が多く、もしも大木を好む種ならば、発見はそう簡単ではないからだ。今のところメス親からの採卵、飼育が成功したという話も聞いていない。2019年には採卵が試みられたけど、産まなかったそうだ。
ちなみにアマミキシタバも食樹が長年判明していなかったが、去年(2019年)に解明されたようだ。候補の植物を片っ端から幼虫に与えた結果、判明したんじゃなかったかな。でも自然状態での発見は為されていないかも…。論文を読んでないので詳細はワカランのだ。ネット情報で辛うじて知っただけで、正確性に欠けるかもしれない。あと知っているのはカトカラ類の基本である年1化ではなく、多化性であると云うことくらいだ。
アマミキシタバは従来カトカラには含まれていなくて、別属である Ulothrichopus属に含まれていた。それが近年になって新たにカトカラ属に加えられたものだ。アフリカに多く生息するこの属をカトカラに含めてしまうと分類に混乱をきたすと、どこかで聞いたことがあるような気がするけど細かいことは分からない。多化性だから、たぶん同じシタバガ亜科のクチバの類とかって考えている人がいるのかもしれないね。でも所詮は蝶屋なので、蛾の属のことは全然ワカリマセンというのが本音だ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆K’s Life list

  

2019’カトカラ2年生 其の六

 
    vol.23 ノコメキシタバ

  『ギザギザハートの子守唄』

 
前々回のハイモンキシタバの採集記と基本的には途中まで同じなので、その続きとして書きます。つまり前々回と連なる文章として読んで戴きたい。
 

2019年 8月6日

闇が、より濃くなっている気がした。
ここにも熊がいることを思い出す。恐怖が心をサッと撫でる。
深夜の森の中は閑としていて、不気味なまでに静かだ。自分の足音だけが空気を震わせている。
真っ暗な道を何度往復しただろうか…。次第に焦りと後悔がどんよりと澱のように心の底に溜まってゆく。

思えば、日没後さして間もない8時15分に奴は糖蜜トラップにやって来た。なのに網を組み立てている刹那に逃げられた。
dont ‘worry.ドン・ウォリー、気にすんな。自分に言い聞かせるように軽く一人ごちる。

まだ早い時間帯だったから、そのうち戻って来るだろうと思ってたら、その5分後にまた同じ木に飛んできた。
( ̄ー ̄)しめしめ。飛んで火にいる夏の虫。食い意地はってっと、アンタ💀死ぬよ。

しかし近づくと、何かさっきのとは違うような気がするぞ。
( ̄□ ̄;)ハッ❗、ノコメキシタバじゃない❗
コレって…、見た目が似ているハイモンキシタバじゃねえの❓

ハイモンも採ったことが無かったから渡りに船ではあるけれど、その瞬間、気分が楽になった。この時点ではハイモンはノコメよりも珍しくないと思い違いをしてたからだ。こっちではハイモンは普通種だから、どうせこのあとには何んぼでも飛んで来ると思ったのだ。しかし本当は逆である。ノコメが普通種で、ハイモンの方が珍しい。それに気づくのは帰ってから暫くしてからである。我ながら情けない。考えが雑いのだ。
そうゆうワケで、リラックスして簡単にゲット。

 
【ハイモンキシタバ Catocala mabella ♀】


(2019.8.9 長野県上田市)

 
ハイモンも一応ターゲットだったのでそれなりに嬉しかったし、前後が逆になっただけで次はノコメだろうと、まだこの時点は気分上々の楽勝気分だった。
けれどその後、全く想像していなかった展開になった。それ以来、何も飛んで来なくなったのだ。
『嘘でしょ❓』と半ば冗談でウソぶくも、少しずつ自信と楽観気分が砂のように削られてゆく。
見たんだから此処に居ることは分かってる。絶対にいるのだ。もしや見間違え❓ そんなわきゃ無かろう。確かに実物を見た。まさか幻でもあるまいに。心が揺れ動く。
(-_-;)クソッ。何であの時、ターゲットから目を離したのだ。悔やんでも悔みきれない。

真っ暗な道を何度往復しただろうか。
時は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
そして、採れない焦燥感と闇の重圧に耐えきれなくなったのか、勝手に歌が口から溢(こぼ)れ出した。ささくれ立った心の声が外に漏れたのだ。

  🎵ちっちゃな頃から悪ガキで
   15で不良と言われたよ
   ナイフみたいに尖っては
   触るものみな傷つけた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

チェッカーズのヒット曲『ギザギザハートの子守唄』だ。
それくらい心はヤサグレていたのである。

深夜午後23時になった。
いよいよ背水の陣を呈してきた。顔が歪んできてるのが自分でもわかる。
俺は深夜の森の中で、いったい一人で何をやっておるのだ❓
次第に何のために此処にいるのかも曖昧になってゆく。
半ばヤケクソで『ギザギザハートの子守唄』を呪文のように歌い続ける。

午後23時15分。
懐中電灯の光の束が指す先、遠目だが何かいるなと思った。木はノコメもハイモンも来た、あの木だ。近づくと、鮮やかな下翅の黄色を覗かせてカトカラが鎮座していた。

来たっ❗❗
でもノコメ❓ハイモン❓どっち❗❓

まだ間隔が離れてるから微妙で、よくワカラン。どっちも上の翅が同じような鈍びた灰色なのだ。
確認のために慎重にゆっくりと距離を詰める。

距離約3m。ようやく上翅に黒いギザギザの線が見えた。ハイモンじゃない。待望のノコメだっ❗
ドクン💕ドクン💕。心臓が急に脈打ち始める。
心を落ち着かせるために『ギザギザハートの子守唄』を再び口ずさむ。でもここは、あえて一番ではなく2番だろう。

  🎵恋したあの娘と二人して
   街を出ようと決めたのさー
   駅のホームで捕ま〜ってー
   力まかせに殴られた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

歌い終わるやいなや、
💥チェ〜スト━━━━━━━━━━❗

気合で網先で幹の下を突き、飛んだところを空中でブン殴る。

入った❗❗
間違いなく網に吸い込まれるのが見えた。

(。•̀ᴗ-)✧やりぃ❗
見ると確かに入っている。しかし、中で狂ったようにメチャンコ暴れてる。慌てて毒瓶を中に突っ込む。しかし更に暴れまくって中々毒瓶に入ってくんない。

(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お願━━━い。
暴れないでぇ━━━❗
ボロボロになっちゃ━━━━う❗❗

すったもんだの末になんとか取り込み、息絶えたところで手のひらに乗せる。

 

 
ハイモンと比べて上翅の黒いギザギザがよく目立つ。間違いなくノコメキシタバだ。
しょこたん(註1)風に言うと、ギザカッコイイ。
とは言っても右側だけだ。左側は擦れ擦れでギザギザが消えかかっている。しかも網の中で大暴れしたので、背中が激禿げチョロケのズルむけスーパー落ち武者にさせてしまった。
まあいい。この際、採れたには採れたんだから良しとしよう。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。
とにかく重圧からやっと解放された。これで自己採集のカトカラは23種目となったわけだ。

裏返してみる。

 

 
裏面はハイモンとは全然違うんだね。外側は白で、内側は明るく鮮やかな黄色だ。コントラストが強くて美しい。こんな裏面のカトカラは見たことないかも。たぶん他にはいないよね。
一見、腹が長いので♂かと思ったが、腹先には毛束がなくて産卵管が見える。どうやら♀のようだ。

最初に採ったハイモンよりもコッチの方が表も裏も断然カッコイイような気がするぞ。まあ、こっちの方が珍しいというし、苦労の末のゲットだから欲目がだいぶ入ってるかもしんないけどさ。

午前0時20分。
さらにもう1頭ゲット。

 

 
これもギザギザだから、ノコメだ。
さっきよりも鮮度はマシで、前翅のギザギザがハッキリと見える。
だが、コヤツも落ち武者になっとる。けんど、もうどうだっていいや。もはや採れればいいのである。

裏返してみる。

 

 
バンザイ姿が可愛いね。
良かった良かったの、ワシも\(^o^)/万歳じゃよ。

こちらは腹が細くて産卵管が無いので♂のようだ。
一応、オスメスの雌雄が揃ったぞい(◍•ᴗ•◍)

見上げると、木々の間から天の河が見えた。
空を見上げる余裕もなかったんだね。

暗闇で見る星空はとても綺麗だ。
スッと力が抜け、これで漸くテントに帰ってグッスリ眠れると思った。

                        おしまい

 
一応、おしまいにしたが、オマケで翌日のことも書く。
ストレージが溜まっているので画像を消したいのである。

 
翌朝、早朝から死ぬほど走らされている高校生たちをあとにして撤収、上田駅まで戻ってきた。
もう蕎麦にはウンザリなので、スーパーで昼飯を買って食う。

 

 
298円の鶏の炭火ハラミ焼(塩ダレ)を食い、🍺ラガーをグビグビいき、百円引きの海鮮バラちらし(¥298)を一口食って、またラガーをグビグビいって、ダアーッ。テーブルに突っ伏す。
途中、1日だけカプセルホテルに泊まったが、これでテント生活も5日目なのだ。うちテント野宿が2回。しかも酷い靴ズレ状態で、足は絆創膏だらけだ。それでも熊の恐怖と戦いつつ夜の森を歩き回り続けておったのだ。身も心もボロボロなのじゃよ。

駅前から巡回バスに乗る。

 

 
行き先はココだ。

 

 
(南櫓)

 
そう、上田といえば真田の上田城跡公園である。
何で城なんかに来たのかというと、単に城好きだからだ。それに上田といえば、戦国武将ランキングの常に上位にランクされる真田幸村(信繁)の故郷でもある。大阪人としては、大阪城を獅子奮迅で守った幸村に強い思い入れがあるのだ。行かねばなるまい。

上田城は天正11年(1583)、幸村の父である真田昌幸によって築城された。日本百名城にも選出されており、第一次・第二次上田合戦で徳川軍を二度にわたって撃退した難攻不落の城として知られる。城マニアの評価も高く、とあるTV番組では堂々の第1位に選ばれたこともあった筈だ。
ここ南櫓の下も、かつて千曲川の緩やかで深い分流があり、天然の堀となっていたそうだ。この場所を「尼ヶ淵」と称したことから上田城は別名「尼ヶ淵城」とも呼ばれていたという。
その後、城主は時代の変遷と共に真田氏から仙石氏、松平氏へと移っていった。

でも、訪れた理由はそれだけではない。この上田城跡に、ケンモンキシタバとエゾベニシタバ、あとノコメキシタバの記録もあるからだ。あわよくばの一石二鳥で昼間の見つけ採りも狙っていたのである。

 

 
櫓らしきものが見えてきた。
ちなみに上田城には元々天守閣がない(註2)。

 
(本丸入口)

 
いいなあ。
やっぱ、城って好きだなあ。
左が南櫓、正面が東虎口櫓門である。写っでいないが、この右側には北櫓がある。

 
(真田石)

 
石垣とかって、ずっと見てれるかもしんない。
左下の大きな石が真田石だ。この大きな石が権力と財力を示すものとして、当時の戦国武将がこぞって櫓門の石垣に大きな石を配したと言われている。

 
(真田神社)

 
真田幸村の神霊を「知恵の神様」として崇めており、試験や就職、スポーツなどの勝利祈願の神社としても知られるそうだ。
今更なあ…。昨日、蕎麦なんか食わずにコッチ来ときゃよかったかもね。

 
(北櫓)

 
(西櫓)

 
城跡だけあって、歩くと結構広い。

 

 
あっ、コレってもしかしてハルニレの大木じゃね❓植物の同定には、あんま自信ないけどさ。とにかくハルニレといえば、ケンモンの食樹だよね。どっか、止まってねぇかなあ…。
城跡の端っこのミニ農園みたいなところには、大きなリンゴの木も2、3本あった。林檎類はノコメとハイモンの食樹だね。
城内にはジョナスの食樹であるケヤキも沢山あり、エゾベニの食樹のヤナギ類も一応あった。
でも、つぶさに木を見て歩いたが、残念ながら何も見つけられなかった。あまり期待はしていなかったから、別にショックは無いんだけどね。

 

 
百日紅(さるすべり)の花が咲いている。
夏も真っ盛りだなあと思う。

 

 
城を出て街なかに戻ると、白い入道雲が湧き上がっていた。
今年のオラの夏休みも、そろそろ終りかなあ…。

                    おしまいのお終い

 
と言いつつ、話は尚も続く。

翌2020年は、8月8日(標高約700m)と8月9日(標高約1300m)に他のカトカラ目的で灯火採集した折りに何頭か見た。だが、既にズタボロばかりだった。だから殆んどスルーした。
唯一持ち帰った個体がコレ↙️

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
尻が細くて長いから♂だね。
採った時はそうでもないと思ったけど、裏を見ると超ボロい。
カトカラの鮮度は表よりも裏の方が如実に出るね。鮮度は裏で見るべしなのだ。

2019年の展翅前の横向き裏面画像も出てきた。
上の個体とは、だいぶ印象が変わる。

 
(♂)

(♀)

 
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅が白くなるんだ。本来の色は淡い黄色、クリーム色なんだね。

♀は横から見ると腹部が太いことがよくわかる。
あと、随分と前翅が丸いように見える。沢山の個体を見たワケではないが、図鑑等の画像を含めて♀にはそうゆう傾向が見受けられるような気がする。微妙な奴もいるだろうから、同定には補足としてしか使えないけどね。

これらの展翅画像は後ほど解説編に貼付します。

               おしまいのお終いのおしまい

 
追伸
今回も1回のみの掲載を試みた。実際に完成もしたのだが、やはり解説編で脱線と迷走を繰り返し、厖大な長文になったゆえに分けることにした。

えー、ハイモンキシタバの回から比較的間隔を置かずに記事をアップできたのは、ハイモンの回と同時進行で書いていたからです。同時進行の方が早く書けて、間違いも少ないと考えたワケやね。

 
(註1)しょこたん
マルチタレント・歌手の中川翔子のこと。

 

(出典『Wikipedia』)

 
『しょこたん』の愛称で知られ、オタクだけでなく一般的な知名度も獲得している。
アキバ系タレントの先駆けの1人として活動を開始した後、自身のブログが爆発的な人気を集め、「新・ブログの女王」と呼ばれた。ネット文化に影響を受けた特有の話し方はしょこたん語と呼ばれている。本文で使った「ギザ」もその一つである。

 
(註2)ちなみに上田城には元々天守閣がない
仙石氏時代の上田城には天守閣が無かったことは明らかではあるが、真田氏時代の有無は定かではなかった。しかし近年、金箔瓦が出土していることから天守が築かれていた可能性が指摘されている。
なお第一次上田合戦の際には「天守もなく小城」と徳川軍が侮ったとする記録があるので、天守があったとすれば、造営はその後だと考えられる。

 
 

2019’カトカラ2年生 其の五 弐の章

 
   vol.22 ハイモンキシタバ

          弐の章
   『銀翼のマベッラ』

 
 
 ー解説篇ー

 
【ハイモンキシタバ♂】

 
【同♀】

(以上2点共『世界のカトカラ』)

 

(2019.8.6 長野県上田市)

 
鮮度の良いものは前翅が銀色で、白灰色の紋が有るんだね。
下翅の黄色は明るく鮮やかで美しい。
ちなみに前回の採集記で書いたように激ヤラかしちまったので、手持ちの標本はこんなんしかない。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
来年は銀々にして、ギンギンの羽化したての奴を手ゴメにしてやろう。

さてとー、気持ちをリセットして解説を始めますかね。

前翅は灰褐色で腎状紋付近から前縁にかけて、比較的大きな白灰色の斑紋を有する。後翅中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、後翅は明るい黄色で翅頂の黄紋は明瞭。また北海道のものを除いて後翅外縁黒帯が下部で明確に分離する。頚部は樺色、胸部は灰色、腹部は褐色を呈する。
一見ノコメキシタバに似るが、前翅に灰白紋が有ること、後翅がレモンイエローで、外縁の黒帯が繋がらないことで判別できる。
補足しておくと、ノコメキシタバの後翅の色はオレンジ系統の黄色で、より外縁黒帯が太く、外縁近くまでぴっちぴっちに広がる。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『garui.dremgate.nd.jp』)

 
(♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)

 
裏面下翅の中央の黒帯はノコメと比べて細くなる傾向があるようだが、決定的な違いは何といっても外縁の黒帯にある。表と同じく途中で黒帯が分断されるのだ。また、他のカトカラと比べて外側の黄色い部分が淡く、白っぽく見える。但し、ノコメはそこが更に白く、下翅内側の黄色い部分とのコントラストが強い。
比較のためにノコメキシタバの画像も載せておこう。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
よく見れば、両者にはかなりの差異がある事が解って戴けるかと思う。
ちなみに裏面の画像は飛び古した個体ゆえ、黒帯の色がかすれて薄くなっている。

 
【学名】Catocala mabella Holland, 1889

しかしネットで見ると、学名が違う。ほとんどのサイトが学名を「Catocala agitatrix mabella」としているので、まごつく。おいおいである。冒頭からいきなり躓いたんじゃないかと思ってビクついたよ。採集記のみならず、解説編まで蹉跌パターンとなれば目も当てられない。
しかし、落ち着いて考えてみると、小種名”agitatrix”に続く後ろに、件(くだん)の”mabella”がある。と云うことは元々は亜種名に使われていた言葉みたいだね。その”mabella”が亜種名から小種名に昇格して、”agitatrix”とは別種になったのではあるまいか。たぶん、それに間違いないかと思われる。

では、”Catocala agitatrix”とは何じゃらホイ❓
調べたら、わりと簡単に見つかった。どうやら大陸側にいる近縁種のことのようだ。

 
《Catocala agitatrix Graeser, [1889]》

(出典『世界のカトカラ』)

 
上部のロシア云々というデータはキララキシタバのもので、関係ないゆえ無視して下され。
特徴は前翅の灰紋が小さくて、黒い鋸歯線がぼやけてて不鮮明なことだろう。お世辞にも綺麗だとは言えないやね。
 
よく見れば、学名の記載年が括弧で括られているぞ。って事は、これは何かあった証拠だろう。(・o・;)あっ、記載者も別な人になってる。ようは記載年が括弧に入っているので記載後に記載年が変更されたって事❓
でもハイモンキシタバの記載年も1889年になってて同じ年だぞ。変更されたのならば、どっちかが別な年にならないといけないんじゃないのか❓
それに、ナゼに記載者名が変わっておるのだ❓ハイモンキシタバの従来の記載者名は”Graeser, 1889″となっているのだ。それが如何なる理由で”Holland, 1889″となったのさ。これはいったい何を意味してんのよ❓全然ワカンないや。謎ですわ。

和名は「ニセハイモンキシタバ」となっている。
分布は中国・ロシア南東部(沿海州)・朝鮮半島。海を隔ててはいるが、それに連なる地域だ。つまりは両者は元々は同種とされていて、後年に日本のものが別種として分けられたってことか…。それゆえ日本産は固有種となったと云うわけだね。まあ最初から薄々そう思ってたけどね。
あれっ❓だったら和名は”mabella”が後から分けられたんだから「ニセハイモンキシタバ」になるんでねぇの❓
でも今更和名をハイモンキシタバからニセハイモンキシタバに変えるのも妙な話だ。和名なんだから、そこまで厳密にする必要性はないし、変えたら混乱を引き起こすからデメリットはあっても何らメリットはないもんね。これでいいだろう。
何か学名を筆頭に全体的にモヤモヤするけど、突っ込めば迷宮世界に迷い込むこと必至なので、これ以上はアンタッチャブルじゃよ。

ハイモンキシタバと似るが、本種には前翅腎状紋周辺にハイモンほどの大きな白灰紋がなく、より小さいか消失するようだ。
また、前後翅裏面が全面黄色いことからも区別できるという。
裏面の画像を探そう。

 

(出典『gorodinski.ru』)

 
(・o・)あっ、確かに裏面は全面黄色いや。
あと、この個体は前翅の白灰紋が消失してるね。

成虫は6〜8月に見られるが、あまり多くないという。
食樹はハイモンと同じくバラ科リンゴ属だと判明しているようだ。その意味でもハイモンとは極めて近縁な関係にあるものと思われる。

亜種に以下のものがある。

 
◆Catocala agitatrix shaanxiensis Ishizuka,  2010


(出典『世界のカトカラ』)

 
中国の陝西省のものだ。
これも上部のデータは関係ないゆえ、無視して下され。
さておき、下翅の帯が細いね。他の特徴は原名亜種と同じに見える。

とはいえ、調べ進めるうちにワケワカンなくなってきた。
Wikipediaでは、”Catocala mabella”が”agitatrix”のシノニム(同物異名)扱いになってんだよね。
それにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では日本固有種と書いてあるのに、学名は”agitatrix”のままになってる。ワケわかめじゃよ(@_@) 本当のところは、現在どういう扱いになってるんざましょ❓

おっと、肝腎の学名の語源について書くのを忘れてたね。
ライフワークって程じゃないけど、学名の語源については極力知っておきたい。名前を付けた古(いにしえ)の人たちが、その種にどんな思いを込めて名付けたのか興味があるのだ。きっとそこには時代背景があり、各々に何らかの物語があろう。歴史を辿るようで、そこにロマンを感じるのだ。

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の「mabella」はラテン語読みだとマベラかな? 或いはマベッラだろう。感じとしては女性の名前っぽい。「bella」はラテン語の「美しい」の女性形だしね。そういや、ハイモンの学名は「Catocala bella」だったね。それって何か関連があんのかな?

mabellaで検索したら、最初に「美しい海」を意味すると出てきたので楽勝かと思いきや、mabellaではなく、綴りが微妙に違う「marbella」の事であった。
マルベーリャはスペイン南部のアンダルシア州の都市で、地中海に面し、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)有数の保養地として知られている。そういえば、あっしもバイクでユーラシア大陸を横断した時に通ったよ。

次にヒットしたのは小惑星 mabella(メイベラ)。たぶん女性名っぽいから、発見した学者が恋人とか奥さんの名前を付けたのだろう。
他にないのかと探していたら、意外なものに行き着いた。
Cyrestis thyodamas mabella。何とイシガケチョウの亜種名に、この”mabella”がある。ヒマラヤ西部~中国に分布するものを指し、日本産もこの亜種に含まれる。
補足しておくと、屋久島以北のものを”kumamotensis”とする見解もある。また台湾産も亜種(ssp.formosana)とされる。
尚、原記載亜種はタイやベトナムにいるようだ。南限のマレー半島北部のモノはどうなるのかな?
『東南アジア島嶼の蝶』で調べてみっか…。
完全にパラノイアとかHSPだよな。これだから話が大幅に逸れて文章が長くなるに違いない。

 


(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
この図を見ると、マレー半島北部のものも原記載亜種に含まれそうだね。

おっ、そうだ。イシガケチョウの画像を貼付しないとね。
勿論、アチキは蝶屋であるからして標本はあるのだが、探すのが面倒なので図鑑から画像をパクらせて戴こう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
こうして改めて見ると、相当にエキゾチックだね。だからってワケじゃないけど、基本的にガッキーは好きだ。小さい頃は関西では和歌山とか紀伊半島南部にしかいなかったから憧れの蝶だったしね。

よし、これを足掛かりにして語源を探っていこう。
ここは先ず、いつもお世話になってる平嶋さんの『蝶の学名ーその語源と解説』に頼ろう。それが一番の近道の筈だ。

(。•̀ᴗ-)✧ビンゴ❗狙い通りだ。イシガケチョウの項からこの亜種の語源が見つかった。
それによると「女性名Mabella=Mabel。ヴィクトリア朝時代に好まれた名。」とあった。
納得いったような、いかないような微妙な気分だ。MabellaにしろMabelにせよ、その語源を調べなければ意味がなかろう。

さらに調べると、比較的簡単に見つかった。
メイベル(Mabel)とは、ラテン語の「愛らしい、魅力的な」と云う意味らしい。ハイモンキシタバが愛らしいかどうかはさておき、スッキリしたよ。まあ「魅力的な」と言われれば、そうとも言えるしね。

「agitatrix」もついでに調べとくか…。
これは語尾が「〜rix」となっているので、たぶんラテン語の女性形の一つであろう。

ウィクショナリーには「Constructed as latin agitatrix feminine of agitator.」と書いてあった。どうやら英語だけでなく、ラテン語にも「agitator」という言葉があるようだ。
agitatorは、英語だと「扇動者,運動員,攪拌器」という意味だから、意訳すると「ラテン語と同じ由来で、女性のアジテーター(扇動者)」ってこと❓

「〜rix」で検索すると、Viatrixとbeatrixというのが出てきた。
Viatrixは、ラテン語の女性の名前で「旅する女」という意味がある。viatorは「旅人」の女性形で、viaは「道」を意味する名詞からの変則的な派生形とあった。beatrixは(人を)幸せにする女という意味だ。
ここから”agitatrix”にも「〜する女」という動詞的な意味合いがあるのではないかと考えた。
けど、その「〜する女」の「〜」が分からない。何をしてる女なのだ❓

あてどないネットサーフィンをしても、以下のようなものしか見つけられなかった。
agitatores=agitator(御者(馬を操る人)、騎手)の複数agitatoresの対格とか、agitatr=運転者だとか、今ひとつジャストフィットするものがない。
agitatorのラテンの語源は、名詞のactio(英語でいうところのaction, doing)で、第3変化動詞 agere(=to set in motion(動かす), drive(走らせる,御する),forward(前へ)等)の完了受動分詞actusから派生した女性名詞だと言われてもなあ…。もう何のこっちゃかわかりゃせんよ。けど、わかりゃせんなりに意地で続ける。ウザいなと思った人は、この項は飛ばしてくだしゃんせ。でも、もう少しで終わるから、もちっと我慢しておくんなまし。

「actioとagereに関連するラテン単語には、acta,activus,actus,agilis,agitatio,agitare等があります。尚、agereの現在分詞は、agens(属格はagentis)であり、英語のagent(代理人)に繋がります。」

どうやら、これら運動と関連せしめる言葉の1つとしてアジデーターがあるという事らしい。いずれにせよ、難し過ぎてワシの足りない脳ミソでは、もうついていけんよ。

ここで一旦、原点に戻ろう。
agitatorの語源とも言える「agitate」は「扇動する,心をかき乱す,動揺させる,一人で苛々する,ゆり動かす,かき混ぜる,波立たせる,(盛んに)論議する,(熱心に)検討する,関心を喚起する」といった意味がある。
ならば、ここから良さげな言葉をチョイスして、agitatrixは「心をかき乱す女」「心を揺り動かす女」「心惹かれる女」と意味とはならないかね。これらならば、この学名が名付けられた理由としては得心がいく。
第一章の『銀灰の蹉跌』で書いたように、アチキもハイモンキシタバに心をかき乱されたのだから、もうマベッラは「心かき乱す女」でいいじゃないか。
(人´∀`)。゚アハハ…。こりゃ、完全にヤケクソ男のコジ付けだな。
あ~、やめた、やめた。アタマ、雲丹じゃよ。ここいらで限界だ。白旗です。誰か分かる人は教えてくんなまし。

 
【和名】
前翅に灰白色の紋があることからつけられたものと思われる。
こういう解りやすい和名はいいね。全くもって意味がワカランような和名は、和名をつける意味がない。そんなだったら潔く学名ほぼそのまんまの、例えばジョナスキシタバとかの方が余程いいと思う。

とはいえハイモンだと、ちょっと素っ気ないところがある。灰色よりも銀色を前面に押し出した和名も有りだったんじゃないかと思えなくもない。和名には、どこか色気があって想像力を掻き立てるようなものがいい。

 
【亜種】
■Catocala mabella mabella
本州のものが原記載亜種とされる。

■Ssp.kobayashii Ishizuka, 2010
北海道のものは後翅外縁の黒帯が分離しないものが多く、亜種として分けられている。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
確かに僅かだが、黒帯が繋がっている。
亜種名の”kobayashi”は、蛾の研究者で小林という名字の人に献名されたものだろう。
まさか、マオくん(註1)の事だったりしてね。彼の名字は小林で、記載者の石塚さんとも懇意にしているみたいだからね。確かめたいところだが、こんな事で連絡するのも気がひける。何か重要な案件でもあれば、ついでに訊けるんだけど、んなもん無いし…。

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』だと58〜60mmとなっているが、『日本産蛾類標準図鑑』では56〜66mmとなっている。まあ、この範囲内と考えればいいでしょう。
意外と数値的に大きく思えるが、これは横に広い形だからだろう。表面積はそれほど広くはない。形的にはスッキリしてて、カトカラの中ではカッコイイ方だと思う。

 
【雌雄の判別】
♂は尻が細くて長く、尻先に毛が多い。♀はその反対であるからして大体の区別はつく。でも裏返してみるのが一番てっとり早い。

 

 
縦にハッキリとスリットが入っている。これがあって、この先から黄色い産卵管が覗いているか出ていれば、間違いなく♀だ。
カトカラの中には、このスリットが分かりづらい種もいるが、どうやらハイモンは分かりやすいタイプの側のようだ。

 
【分布】 北海道,本州(中部地方以北)


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
補足説明をしておくと、『日本のCatocala』は分布領域を示しているが、『世界のカトカラ』は県別の分布を示している。
どちらにせよ、今のところは愛知県尾張地方辺りが南限で、近畿地方以西では見つかっていない。
ノコメキシタバの分布のように東北地方から北海道南西部にかけての空白地帯は無く、東北地方の内陸部にも全県にわたって見られる。
引っ掛かるのは西限とされる福井県だ。県の蛾類目録では記録が有ることになっているが(具体的地名は無し)、福井市自然史博物館のPDFでは未記録になっていた。
但し、岐阜県揖斐郡藤崎村(現 揖斐川町)に記録がある。ここは福井との県境だから、福井県にも分布している可能性はあるだろう。

寒冷な高原地帯のズミによく発生し、以前は1000mを越える高原に多かったが、地球温暖化の影響か近年は減少しているという。
食樹を同じくするノコメキシタバとは共棲することも多いが、ノコメよりも遥かに個体数は少ないとされる。実際、ネットの画像も思いのほか少ない。
にも拘わらず、驚いたことにどの都道府県のレッドデータリストにも準絶滅危惧種にさえ指定されていない。環境省や各都道府県のその手の部署って、ホント糞だ。指定しなくてもいいものを指定して、指定すべきものを指定しなかったり、指定はしても、指定しただけで保護や環境保全はおざなりだったりって事も多い。
それはさておき、何で西日本には居ないのだろう。食樹であるズミは九州まで自生しているのにね。しばしば、東からきて近畿地方に入るとパッタリと分布しなくなる昆虫は見受けられるけれど、中国地方には分布するものは多いのだ。中国地方や兵庫県西部で見つかってもよさそうなものなのにね。冷涼な気候を好むからかな?と一瞬考えたが、濃尾平野の低地にも確実に棲息しているから、それだけでは説明できない。でも他に理由が全然思いあたらないよ。ものすご〜く謎だ。

 
【成虫の出現期】
低地では6月中旬から、高地では7月から出現し、8月下旬まで見られ、ノコメのように9月まで生きのびることはない。尚、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでだとされる。

 
【生態】
寒冷地性で、標高1000〜1700mのズミの多い高原や渓谷など冷涼な気候の地で見られることが多いが、名古屋市内や尾張旭市の低地でも棲息が確認されている。

クヌギやヤナギなどの樹液に好んで集まるが、標高の高いところでの採餌行動は発生数に比べて少ないという。
他に成虫の餌として観察されているのは、花蜜(ヤナギラン)と果実(桃の腐果)。しかし、観察例は少ない。

糖蜜トラップにも誘引される。一度だけだが、自分のトラップにも飛来した(標高1250m)。尚、飛来時刻は午後8時15分だった。ゆえに樹液や糖蜜トラップに訪れる時間帯についての知見はない。幼虫がブナ科食のカトカラは日没後直ぐに集まるが、バラ科食のカトカラは一時間ほど遅れる傾向にあると思うのだが、バラ科食のハイモンくんはどうなのだろう?興味深いところだ。

灯火にも飛来する。但し、文献を見ても特に飛来時刻の傾向が書かれているものは無かった。
ちなみに2020年に木曽町で灯火に飛来した時刻はハッキリとは憶えていないが、午後9時半から10時台だったと云う覚えがある。

昼間、成虫はカラマツなどの樹幹に頭を下にして静止している。驚いて飛ぶと別な木に上向きに止まり、瞬時に姿勢を反転して下向きに変えるという。

交尾時刻は、深夜の11時から午前2時の間とされる。羽化して数日後から交尾、産卵を繰り返すものとみられており、ジョナスキシタバなどのように夏眠後からの産卵パターンではないようだ。

産卵例は、2001年8月6日の上田市の高原での記録がある。
日没後、♀が食樹であるズミを次々と渡り、樹皮下に産卵しているのが観察されている。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。

本州ではズミが基本食樹のようだが、リンゴの台木として植栽された山麓のエゾノコリンゴにもよく付くという。また放置されたリンゴ園でも見られ、時に栽培されたリンゴからも幼虫が見つかることがあるそうだ。参考までに言っておくと、1例だけだがウワミズザクラから卵が見つかっている。ちなみに孵化幼虫に同じバラ科のウメやサクラの葉を与えても摂食しない例が多いと言われている。

 
(ズミ (酸実・桷) Malus toringo)

(出典『www.forest-akita.jp』)

 
高さ10mほどの落葉小高木で、リンゴに近縁な野生種である。
同じリンゴ属のカイドウやリンゴ、ナシ属に似ていて、古くからリンゴ栽培の台木として使われてきた事から、ヒメカイドウ(姫海棠)、ミツバカイドウ(三葉海棠)、ミヤマカイドウ(深山海棠)、コリンゴ(小林檎)、コナシ(小梨)など多くの別名がある。しかし、現在は台木とされることはあまりなく、マルバカイドウ(註2)に取って代わられているそうだ。

語源は樹皮を煮出して黄色の染料にした事から染み(そみ)が転化したもの、或いは実が酸っぱいことから酢実(すみ)が訛ったものとも言われる。

北海道から九州までの広い範囲に自生する。日のよく当たる高原や湿原を好み、時に群生する。
4〜6月にかけてオオシマザクラやカイドウに似た白い小花を枝いっぱいに咲かせる。咲き始めはピンク色を帯び、徐々に純白へと変化する。

 
(花)

(出典『Wikipedia』)

 
(若葉と花)

 
(夏葉)

(2点共 出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
(幹)

(出典『ケン坊の日記』)

 
幹から直接生じる葉には切れ込みが入り、似たような木と見分ける手掛かりとなる。
小枝はトゲ状。材は硬く、斧や鉈などの柄に使われる。また樹皮は前述したように染料にもなるが、明礬などを加えて絵の具にもする。

 
(実) 

(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
9月~10月にかけて小さいリンゴのような赤または黄色の実を付ける。実は酸味が強いが、霜が降りる頃には多少の甘みが出てくるので生食のほかジャムや果実酒に用いることができる。中に含まれる種を撒くと発芽する率は高い。

盆栽などで知られるヒメリンゴは、ズミとセイヨウリンゴの雑種とされる。しかし、人工的に作られた園芸品種であり、天然の分布はない。

 
(エゾノコリンゴ(蝦夷小林檎) Malus baccata)

(出典『四季の山野草』)

 
(花)

(出典『greensnap.jp』)

 
(葉)

 
(樹幹)

 
(実)

(以上3点共 出典『四季の山野草』)

 
分布は北海道、本州(中部地方以北)で、ズミとは近縁。
和名はリンゴよりも実が小さく、北海道に多く産することに由来するという。別名サンナシ、ヒロハオオズミ。
主に山地〜海岸の湿地とその周辺に生え、5〜6月頃に白い花を付ける落葉の小高木。高さは8~10mになる。秋には1cm足らずの赤い実を沢山付ける。

材質は重くて硬く、割れにくいために斧、鍬などの柄に用いられたという。また、ズミと同じく嘗てはリンゴの台木としても用いられた。
ズミとの違いは葉で、ズミには葉の中に3~5裂するものが混じるが、エゾノコリンゴの葉は裂けないことで見分けられる。

ここで緊急的に文章をブチ込む。
追伸まで全部書き終え、さあ最終チェックという段階で、たまたまTVで『ブラタモリ』を見てたら、高尾山の樹林相(落葉広葉樹と常緑広葉樹の分布)の話になった。落葉広葉樹は冷たい気候を好み、常緑広葉樹(照葉樹)は暖かい気候を好むとかそんな話だ。常緑広葉樹は確かにそうだが、落葉広葉樹は例外だらけやんけと思ってたら、説明のための植生図が出てきた。
こんな風な図だ。

 

(出典『雑木林の遊歩道』)

 
それを見て驚いた。落葉広葉樹の植生とハイモンキシタバの分布図がソックリじゃないか❗
この図では濃いグリーンが常緑広葉樹、黄緑色が落葉広葉樹の分布を表している。
さらに驚いのは2つの広葉樹の分布は年平均気温が約13℃を境に分かれていて、13℃以上は常緑広葉樹、13℃以下は落葉広葉樹となると解説されていたことだ。この13℃云々というのは目から鱗だった。何となく感じてはいたが、こうして具体的な数値をあげられると、にわかにリアルなものに見えてくる。
ならば当然、ズミの西日本での分布は限られてくると想像される。上図でも西日本の黄緑色に塗られた地域はかなり狭い。

と云うワケで、ちゃんとズミの分布を調べてみたら、西日本では産地が内陸部の高地に限られ、数も少ないことが明らかになってきた。
となれば、ハイモンキシタバが西日本で見られない理由も自ずと解ってくる。食樹の分布が重要なファクターだからだ。
ハイモンが中国地方あたりで発見される可能性はゼロではないが、寒冷地性なので居るとしても山頂に近いごく限られた場所でしか生き延びられないだろう。勿論、食樹があっての話だ。
100%納得したワケではないが、自分の中では一応の解決にはなったかな。

 
【幼生期の生態】
例によって幼生期に関しては今回も『日本のCatocala』におんぶに抱っこである。西尾さん、いつもすいません。

 
(卵)


(2点共『日本のCatocala』)

 
円盤状で、受精卵の色彩は黒褐色ないし茶褐色。横に走る斑紋は黃白色で、ケンモンキシタバの卵に似る。
食樹の薄い表皮や樹皮の裏に1個から2、3個、稀に5〜6卵ずつ産付される。根元の苔にはあまり産卵されない。反対に食樹を同じくするノコメは、この苔の部分で卵がよく見つかるという。
但しハイモンとノコメは食樹が同じで見た目が似ていることから兄弟の如く並べて語られる事が多いが、種としての両者は系統的には掛け離れているそうだ。

 
(1齢幼虫と2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左側が1齢、右が2齢幼虫。
孵化期はかなり早く、上田市の標高500mでは4月上旬。終齢の5齢幼虫は5月中旬には見られる。尚、終齢は標高1000mでは5月中・下旬、1200〜1500mでは5月下旬から6月上旬に見られるそうだ。何れの産地でも同じくズミを餌とするノコメキシタバよりもよりも幼生期が1週間程度早く推移する。

幼虫は葉の他に花や蕾も摂食する。
比較的若い木を好み、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない傾向があるそうだ。

 
(5齢幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齢幼虫の昼間の静止場所は地表近くの枝や樹幹。時に地表で見つかることもあるという。

色彩変異は顕著で、寒冷地では白化して側線の模様が黒く目立つ個体がよく見られる。ノコメキシタバの白化した個体と識別が困難な場合もあるが、頭部の斑紋で判別できる。

 
(終齢幼虫頭部)

  
(ノコメキシタバの頭部)

(出典 2点共『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の同定には、この顔の模様がかなり重要みたいだね。確かに全然違う顔だわ。

幼虫の天敵として、Winthemia cruentataという寄生蝿が記録されている。他に天敵として考えられるのは、鳥を筆頭にスズメバチ、寄生バチ、クモ、サシガメ等が考えられるが、特に記録は見当たらなかった。

蛹は知る限り野外では見つかっていないが、飼育しても丈夫な繭を作らない事から、おそらく落葉の下などで蛹化するものと思われる。

                        おしまい

 
追伸
前回の追伸(の追伸)でも書いたが、ハイモンキシタバについては、いつものように複数回ではなくて1回のみで終える予定だった。実際、この解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これがクソみたいに長い。特に学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態なので2回に分けることにしたってワケ。

にも拘らず、その原因となった学名について再び書く。
“agitatrix”の語源が消化不良なまま終わり、どっか心の隅っこで気になっていた。なので図書館へ行き、ラテン語の辞書で調べ直してみることにした。我ながらシツコイ。
『羅和辞典』には、agitatrixという単語そのものは載っていなかった。載ってたのは agitatorと、その他どちらかというと動的な意味のものが並んでいた。
もう面倒くさいので画像を貼り付けちゃえ。画像を指でピッチアウトすると拡大できます。

 

 
これらを見ると、agitatrixは何らかの能動的なアクションを表している言葉だろう。

一応、agitatorの部分を拡大しておこう。

 

 
動物を駆る者❓一瞬、猟師かいなと思ったけど、後ろに農夫と出てきたので牛だの馬だのを操る人なのだと解った。それにしても戦車のドライバーとはね。これが語源だったら、相当面白いや。

どうやら「agitator」の起源は、「agito」と云う言葉らしい。アジト❓ 秘密基地かよ。
意味は以下のとおりである。

 
 
(出典 以上4点共 研究社『羅和辞典』)

 
これらのどれかが学名の語源と関係するのだろうが、やはり特定は出来ない。結局、明白な答えには行き着けなかったね。ハイモンには蹉跌つづきだったってワケだ。敗北感、濃いわ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。

 
(註2)マルバカイドウ

(出典『土の中の力持ち』)

学名:Malus prunifolia var. ringo。
中国北部・シベリア原産のバラ科リンゴ属の耐寒性落葉高木。
イヌリンゴの変種で白紅色の花を咲かせる。花が咲いた後に林檎に似た小さな赤い実を付けるが、あまり食用には適さない。
セイシ、キミノイヌリンゴ等の別名がある。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』
◆塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆庭木図鑑 植木ペディア
◆四季の山野草