2020’カトカラ3年生 其の弐(3)

  vol.25 ナマリキシタバ 第三章

    『嘆きのコロンビーナ』

 
第三章は種の解説編です。
今回もカトカラ界の両巨匠(註1)の『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』のお力をガンガンにお借りして書きます。

 
【Catocala columbina yoshihikoi ♀】

 
前翅の稲妻が走ったような模様が美しい。
この上翅の美しさは、カトカラ属屈指のものだと思う。
でも展翅はほぼ完璧なのに、色の写りが不満だ。『兵庫県カトカラ図鑑』の画像みたく綺麗に撮れない。スマホのカメラが勝手に色補正しやがるので、実物の色の再現性が低いのである。それぞれの画像が別方向に美しさの一部だけを際立たせているって感じなのだ。各々の画像のエエとこを足して3で割ったら実物に近づくかもしれない。
まあ所詮は写真なんてどれだけ美しく撮れようとも、己の眼で見る実物、生きてるものや死後間もない姿の美しさには到底かなわないのだ。生命の持つエネルギーが醸し出す、あの輝くような美しさはフィールドで実際に見た者にしか解らない。

そう云う意味では、まだ生態写真の方が標本よりマシかもしれない。標本なんぞ所詮はミイラなのだ。展翅画像は冷凍庫から出したばかりものだから、まだしも生きてた頃の残滓のようなものがあるが、それも時間と共に失われてゆくだろう。

一応、採った直後の画像も貼り付けておこう。
光を当てると、稲妻模様がビカビカに光ったように見える。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
展翅画像とは違う美しさはあるのだけれど、肉眼で見た姿とはコレも少し齟齬がある。もっと稲妻模様が浮き立つが如く光って見えた。自分の網膜に映った映像は仰け反るくらいの美しさだったのだ。

青っぽく写ってるのは、水銀灯の灯りの下だったからなのかもしれない。紫外線が強いのだろう。
それはさておき、たとえ紫外線が強くとも、ここまで青く写るカトカラはあまりいない。日本のカトカラを全種採ったワケではないけれど、他はアズミキシタバ(註2)くらいだろう。

 

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
一応、現在のところ日本のカトカラの約85%は採っている。ゆえに残りの種類構成から考えても、こうゆう色に写るのは、この2種だけだ。
と云うことは、この2種だけが地色の色が特別だと言っても差し支えあるまい。素人は疑問に対して素直だから、それが何を意味しているのかをつい考えてしまう。考えられるのは、互いの祖先種が共通で近縁の間柄なのか、幼虫の食樹が同じだからだろう。そのどちらか、もしくは両方が羽の色に反映されているのではないか❓それをまだまだ駆け出しのペーペーの身ながら、不遜にもこの中で解き明かせたらと思う。

そんなデカい口を叩いといて、実をいうとまだ♂は採れてない。お恥ずかしい限りである。
なので、他から画像を拝借致します。

 
【ナマリキシタバ♂】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
上と下の写真は出典が違うが、間違いなく同じ個体だろう。
ようするに同じ物でも写真の撮り方によって、こうも色の印象が変わるのである。ワシの写真がああなるのも致し方ないかもね。

♂の特徴は♀よりも腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。但し、他のカトカラの♂ほど毛の量は多くないと思われる。

一応、小太郎くんに♂の画像を送ってもらった。

 

 
♂もカッコイイ(☆▽☆)
こうゆうの見ると、俄然♂も欲しくなるなあ。

そうゆう体(てい)たらくだから、当然の如く自前の裏面展翅の画像もない。
なので、これまた画像をお借りしよう。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
たぶん♀だろうが、ピントがビシッと合ってないし、標本のミイラ化が進んでるので分かりづらいところがある。腹部の先が微妙なのだ。さて、どうしたものか…。

そういや、フィールドでの画像があることを思い出したので貼っつけておく。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
アズミキシタバと違って、通常のカトカラの♀と同じく尻先に縦のスリットが入り、その下にはハッキリと黄色い産卵管も認められる。アズミはこのスリットが無いように見えるから雌雄の判別でスゲー悩まされるのだ。マジ、ウザい。

そうだ、展翅前に撮った画像もあったわ。

 

 
尻先にスリットが入っているのがシッカリわかるね。
とにかくコレが有れば♀。フィールドで雌雄を確かめるには、この方法が一番有効かつ確実です。

横からの画像もあった。

 

 
腹が太くて短いし、尻先に毛束が無いから間違いなく♀だろね。

 

 
前翅の外側の帯が白っぽいんだね。大概のキシタバ類は地色が全て黄色いから少し毛色が変わってる。また全体的に縁が白いし、後翅の翅頂にある紋も白っぽい。

不完全な翅の開き方ではあるが、表側の写真も出てきた。

 

 
この上翅の色が、一番実物に近いかもしれない。
やっぱ、(´ω`)美しいやねぇ。高貴でエキゾチックだ。

さてさて、私情丸出しの前置きはこれくらいにして、種の解説をしていきませう。

 
 ナマリキシタバ

日本では比較的近年になって発見されたカトカラ(シタバガ属)である。
前翅は、やや青みのある鉛色を帯び、横線は黒く明瞭。後翅は黄色で、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁黒帯は太く、内縁に接しない。また翅頂の黄斑は明瞭でない。頸部は淡い樺色。胸部は前翅と同じ色調で、腹部は灰褐色。前翅はアズミキシタバに似るが、後翅の斑紋に差異があり(アズミは黒帯が分離する)、地色の黄色にも差異がある(アズミは明るい黄色)。加えてアズミの方が小型なので判別は容易。
またコガタキシタバ(註3)とは後翅の斑紋がよく似るが、前翅の斑紋が全く違い、アズミとは逆に本種よりも大型なので簡単に区別できる。

 
【学名】Catocala columbina Leech, 1900

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名はラテン語の”columbinus”に由来し、「鳩」または「鳩のような」と云う意味かと思われる。確かに前翅の色柄はハトっぽいちゃハトっぽい。
語尾の「a」はラテン語の名詞の活用語尾で女性名詞だろう。例えば「鼻」は「nasus」と表記するが、この「-us(〜ウス)」で終わる語尾のものの大部分は男性名詞である。同じように「バラ」を意味する「rosa」の「-a(〜ア)」は女性名詞を意味するからね。
余談だが「金」を意味する「aurum」の「-um(〜ウム)」は中性名詞を表すことが多い。

また、英語にcolumbine(カランバイン)という言葉もある。
これは「ハトの、dove-like(ハトのような)」という形容詞みたいだ。ラテン語の”columbinus(ハト)”が、古いフランス語である”colonbin”を経て、14世紀に英語化したものだという。このように英語には個々の動物名に対応して、ラテン語起源の形容詞が別にある。これを外来形容詞と呼ぶそうだ。
「columbine」は少しずつ形を変えて、人名や国名にも使われている。例を挙げておこう。

◆「Columbus(コロンブス)」新大陸の発見者
◆「Colombia(コロンビア)」南米の国
◆「District of Columbia」米国ワシントン市コロンビア特別区
◆「Colombo(コロンボ)」スリランカの首都
◆「Colombo(刑事コロンボ)」TV映画

日本でも企業名や喫茶店の名前などに使われているのをよく見かける。世界的に分布しているハトは人々に馴染み深く、昔から愛される存在だったのかもしれない。平和の象徴でもあるしね。あっ、アレは白い鳩か。じゃ、食べるハト(笑)。ハトはフレンチの高級食材だもんね。

そういや、パリやバルセロナでもいたわ。但し、色柄は日本にいるのと同じだけど顔付きは違ってた。どこか外国人っぽい顔立ちなのだ。人と同じで、住む場所によって顔付きも変わってくるんだろね。
でもオラ、ハトが嫌いだから残念な学名だ。あの首の変な動きや、一応野生動物のクセに緊張感ゼロのゆるさに💢イラッとくるのだ。自転車に乗ってる時などは、ギリギリまでどいてくれないので轢き殺してやろうかと思うことさえある。
それで思い出した。昔、ワシなんかよりも遥かにハトが大嫌いな彼女がいたわ。デート中に、それはそれは恐ろしい憎悪の言葉をハトに投げつけておったわ。そのあまりの口汚さにコチラが引いたくらいだった。

 
【和名】

ナマリキシタバのナマリは、おそらく前翅の色が「鉛色」だからだと思われる。さしづめ漢字にすると「鉛黃下羽」だ。
この名前、嫌いじゃないし、悪いネーミングだとは思わないけど、ツマんないといえばツマんない。何ら捻りがないし、どこか安易さを感じるのだ。蛾には、この「ナマリ」という和名を冠した奴が幾つかいるしね。ナマリキリガとかナマリケンモンとかさ。
それにアズミキシタバの前翅だって鉛色じゃないか。だから雷とか稲妻に因んだ和名でも良かったんじゃないかと思うんだよね。今更こんなこと言っても詮ない話なんだけどもさ。

 
【亜種と近縁種】

(亜種)
◆Catocala columbina columbina Leech, 1990
中国・極東ロシア


(出典『世界のカトカラ』)

 
原記載亜種は大陸のものなんだね。
日本のものと比べて後翅内縁が黄色くなるそうだ。

 
◆Catocala columbina yoshihikoi Ishizuka, 2002
(日本)


(出典『世界のカトカラ』)

 
日本産は別亜種とされ、後翅内縁部が黒化する。
学名の亜種名「yoshihikoi」は、ヨシヒコ氏に献名されたものだろう。おそらく蛾界に貢献された名のある方なのだろうが、元来自分は蝶屋なので蛾界の事はあまり知らない。なので苗字も漢字も不明で、何ヨシヒコさんかはワカランのだ。

ちなみにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「大陸のものとは別種である可能性が高い。」と書いてあった。だとすれば、学名は亜種名が昇格して”Catocala yoshikoi”となるワケか…。何かつまらんのぉー(´ε` )
できることならば、稲妻や雷などサンダーボルト的な、もっとカッコイイ学名にしてもらえんかのう(´ε` )
例えば「raizin」とか「ikazuchi」「raigeki」とかさ。ちょっとダサいけど「inabikari」でもいいや。一瞬、ラテン語で雷、稲妻を意味する言葉でもいいかもと思ったが、問題ありだと直ぐに気づく。ラテン語の雷といえば「fulminea」だが、でもコレは残念ながら使えない。なぜなら、既にキララキシタバの学名に使われているからだ。キララよか、よっぽどナマリの方が雷っぽいと思うんだけど、まあそこは致し方ないやね。
あっ、でも「fulminea」ってイタリア語だっけか。とはいうものの、イタリア語ってラテン語から派生した言語だもんね。
どっちだっていいや。段々面倒くさくなってきた。たぶんラテン語でも似たような言葉でしょう。

も1つ因みにだけど、後翅中央黒帯の内側が著しく黒化する異常型が知られていると何処かに書かれてあったけど、それに相当するような個体の画像は見たことがないなあ…。

 
シノニム(同物異名)に以下のものがある。

◆Ephesia columbina
◆Mormonia bella splendens Mell, 1933

上の”Ephesia”は古い属名である。下の”Mormonia”も古い属名だが、小種名の”bella”で❗❓と思った。bellaといえば、ノコメキシタバの小種名と同じだからである。
ちなみに、その後ろの”splendens”は亜種名で「素晴らしい」という意味だろう。
先ずは、あまり見たことがない属名”Ephesia”から調べてみよう。

Ephesia columbinaでググると下のような絵が出てきた。

 

(出典『Wikipedia』)

 
パッと見、ナマリキシタバに見えなかった。前翅の稲妻のような黄色が目立たなかったからだ。誰なんだ、アンタ❓
でもナマリキシタバの現在の学名”Catocala columbina”でググっても、この絵が出てくる。
まあいい。これ以上は調べようがない。切り替えて次いこう。
Mormonia bella splendensでググる。

結果、Mormonia bellaでは出てこず、「Mormonia」のみでしかヒットしなかった。そこには、こんな絵があった。

 
 
(出典『Wikipedia』)

 
てっきりノコメキシタバっぽい黄色い下翅のが出てくるかと思いきや、驚きの後翅が紅色じゃないか❗頭が混乱する。
コレって、ちょっとオニベニシタバ(註4)に似てねぇか❓
一応、確認しておこう。

 
(オニベニシタバ Catocala dula)

(2019.7.10 奈良市白毫寺)

 
後翅の黒帯の形は違うが、暗めの赤の色調と前翅の柄はオニベニに似ているようにも見える。絵だから、どこまで信用していいのかワカンナイけどさ。

だいたい、そもそも何でナマリキシタバがノコメキシタバ(註5)になって、オニベニになるのだ❓無茶苦茶だ。
そこで、やっと思い出した。アズミキシタバの解説編でDNA解析を見た時は、ナマリの近縁種はノコメだったような気がするぞ。

 

(出典『Bio One complate』)

 
図は拡大できるものの、トリミングしよう。
 

上がノコメで、真ん中がナマリ。そして下が別なクラスターに入ってるオニベニである。やはりノコメとは近縁であることを示唆している。
でも素人目だと、オニベニは元よりノコメにだって全然似てないじゃないか。
しかしだ。よくよく見れば、下翅は似ていると言わざるおえないかもしれん。ノコメの幼虫の食樹もナマリと同じくバラ科(ズミ)だから、近縁関係にあっても不思議ではないのだ。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 
そう云う意味では「Mormonia bella」というシノニムは中々の慧眼だったと言えるかもしんないね。この時代に両者が近縁だと見抜いていた可能性がある。

それにしても、この系統図だと下翅の色は系統とは全然関係ないって事になりはしまいか。益々アタマがウニウニになる。
因みにアズミキシタバはこの図のずっと下にあるから、系統的には離れている。と云うことは羽の色は系統が近いからってワケじゃないのか…。
カトカラの分類って、ワケワカメじゃよ(+_+)

 
近縁種とされるものが幾つかある。

 
◆タイワンナマリキシタバ
Catocala okurai Sugi 1965
台湾


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅か緑色を帯びるので区別できるという。
成虫は6〜7月頃に出現するが少ない。食樹は不明だが、バラ科シモツケ属が予想される。
参考までに言っておくと、Wikipediaではナマリキシタバの亜種扱いになっていた。

 
◆オビナシナマリキシタバ
Catocala infasciata(Mell,1936)
中国雲南省・ミャンマー


(出典『世界のカトカラ』)

 
後翅の黒帯が表裏ともに全く消失する特異な種で、棲息地は局地的で稀。
前翅の横線はナマリキシタバに類似し、交尾器も似ているらしい。こんなの素人目には、絶対に近縁種と見破れないだろう。
成虫は6〜7月頃に出現する。これも食樹は不明だが、シモツケ属と推察されている。

 
◆ウスズミナマリキシタバ
Catocala jouga Ishizuka,2003
中国南西部〜ベトナム北部


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅の色調、後翅黒帯の形状などにより区別できる。成虫は6月頃に出現するが少ない。食樹は不明。

(・o・)んっ❗❓
けどコレって、下翅の外側黒帯が離れているように見えるし、地色が明るめの黄色だからアズミキシタバに似てるぞ。
ホントにアズミとナマリって遠縁なのか❓もう何が何だかワカランよ。ヽ((◎д◎))ゝお手上げー。

 
【分布】本州、四国、小豆島、九州

東北から九州に局地的に分布する。北海道からは記録がない。
国外では中国、ロシア南東部(沿海州)に分布する。
長野県では、同じ食樹を利用し、同一場所に発生するフタスジチョウほどには寒冷地に適応していないとみられ、標高1800m以上のシモツケ群落には発生しないようである。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上の図は分布域を示し、下図は県別の分布を示している。

最初は奥多摩で発見され(それ以前の1956年に滋賀県鈴鹿山地で既に採集はされていた)、長いあいだ大珍品だったが、その後各地で生息が報告された。しかし、その分布は局地的で個体数も少なく、複数得られることは稀なようだ。ゆえに今でも稀種と言ってもいいだろう。『世界のカトカラ』でも珍品度が星★4つになってるしね。
分布が局地的な理由として、食樹の分布との関連性が指摘されている。これは食樹が崖地や岩場のような乾燥を好む植物ゆえ、謂わば本種は生態的に特殊な環境に依存しているからだと言い換えてもいいかもしれない。また、このような環境は防災上の理由でコンクリート化されやすいゆえ、さらに分布を狭めてもいるのだろう。人知れず絶滅している産地もあるに違いない。

本州中部では松本市や伊那市など長野県下に産地が多いが、やはり局所的。他に本州では東京都奥多摩町、埼玉県秩父市、新潟県糸魚川市、岐阜県白川村、滋賀県鈴鹿山地、兵庫県宝塚市、奈良県十津川村、岡山県高梁市等の産地が知られている。
四国では香川県高松市、小豆島や徳島県の那賀川上流で分布が確認されている。また九州では熊本県矢部町、大分県宇佐市・国東半島で発見されている。

 
【レッドデータブック】

埼玉県:R1(希少種1)
新潟県:地域個体群(LP)
富山県:準絶滅危惧種
岐阜県:情報不足
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:留意種
広島県:準絶滅危惧種
香川県:準絶滅危惧種
高知県:準絶滅危惧種
長崎県:準絶滅危惧種
大分県:情報不足

結構、多いね。こんだけ指定数が多いカトカラは初めて見るかもしんない。ようはそれだけ珍しい種だって事だわさ。

 
【開張】43〜53mm内外

そもそも大きいカトカラではないが、小豆島産は特に小型だと聞いている。確かに『世界のカトカラ』に図示されているものは明らかに小さい。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
右側が小豆島産である。確かに小さい。だけど左は♀だからなあ。相対的に♀の方が大きいようだし、隣の♀と比べたら小さいのも当たり前だと言えなくもない。
そういえば岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』にも小豆島産が載っていたな。

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
左が長野県産の♂で真ん中が小豆島産の♂である。やっぱ小さいね。
関西からは比較的行きやすい小豆島を訪れなかったのは、この小ささがネックになっていたからだ。憧れのナマリ嬢にガッカリしたくはなかったのである。

でもコレって『世界のカトカラ』と同じ個体のような気がするぞ。たった1例だけの比較だと、小豆島産は小さいと証明する材料としては弱いじゃないか。
けど、小太郎くんの知り合いが小豆島のナマリは小さいってハッキリ言ってるそうだから、きっと小さいんじゃないかな。
それを確かめに1回くらいは小豆島に行ってもいいかもしんない。小豆島には「島宿 真理」っていう泊まってみたい宿があるしね。

 
【成虫の発生期】 7〜9月

7月中旬から現れ、9月中旬まで見られるが、新鮮な個体は8月上旬までとされる。
長野県の生息地、伊那市(1000m イワシモツケ群落)、松本市(1550m アイズシモツケ群落)では7月末から8月にかけて羽化し、没姿するのは9月上旬。個体によっては9月中旬まで見られ、出現期間は約1ヶ月半。伊那市産を室内飼育(22.5℃)した場合の成虫寿命は3〜4週間であったという。

 
【成虫の生態】

食樹であるシモツケ群落が生育する蛇紋岩、石灰岩などの岩礫地に見られる。長野県では川沿いの浸食された段丘崖や渓谷の安山岩地に生育するアイズシモツケ群落にも発生する。

 

 
たぶん、こういう環境を好むのだろう。

思うに東日本では、食樹を同じくするフタスジチョウの産地と分布が重なる可能性があるから、フタスジの既産地から新たな生息地が見つかる可能性があるのではないか❓
また西日本では、この環境だとベニモンカラスシジミの産地で見つかる可能性が高いように思われる。ベニモンカラスの食樹はシモツケ類ではないが、同じような環境に見られるクロウメモドキだからだ。ベニモンカラスはナマリよりも更に局所的な分布なので、ナマリが居るところ=ベニモンカラスが居るとは言えないが、その逆は有り得ると思う。たぶんベニモンカラスの生息地にはナマリも棲息している可能性が高いのではなかろうか❓そういや実際、紀伊半島や中国地方のべニモンの有名産地には少ないながらもナマリの記録があるしね。これは逆にナマリの既産地からベニモンカラスの新産地が見つかる可能性も秘めていると云うワケだ。チャレンジ精神の有る方には、是非ともベニモンカラスの新産地発見にトライして戴きたい。

おっと、それならばクロツバメシジミと混棲している可能性もあるかもしれない。山地の崖に棲息するクロツも同じような環境を好むのだ。クロツの食樹であるツメレンゲは乾燥した崖に生えるからね。
ちょっと待てよ。クロツは河川敷にもいるから、梓川の下流域とかにもナマリが居たりしてね。ナマリは標高の低いところでも生息するから有り得るかも。
問題は食樹の有無だが、イブキシモツケは関西では標高100〜200mくらいの川沿いでも生えているからね。松本盆地の標高は500〜800mだから可能性はあるかもしんない。

成虫はクサボタンやシャジン類などの花に吸蜜に集まるが、上田市の低地(alt.500〜600m)ではクヌギの樹液にもよく飛来するそうだ。高松市内でも樹液に飛来すると聞いたことがある。しかし、兵庫県(alt.190m)で何度も糖蜜トラップを試してみたが、全く飛来しなかった。マオくんも長野県(alt.700〜800m)の多産地で試したが全く来なかったという。また、竹中氏からは紀伊半島の産地で試したがダメだったと聞かされている。
伊那市などの山地(alt.1050m)では成虫の生息数の割には餌を摂る個体数は少なく、摂る時期も発生後半に限られるという。これについて『日本のCatocala』の著者、西尾規孝氏は「低温のため、高温の低地ほど多くの栄養を必要としないかもしれない。」と書かれておられる。
納得できるような出来ないような微妙な説だ。理解できないワケではないのだが、北海道でもカトカラは樹液に集まるというし、自分も長野県の標高1700mで糖蜜トラップを試しているけど、オオシロシタバ、ムラサキシタバ、ベニシタバがそれなりに飛来した。白骨温泉(alt.1500m)ではムラサキ、ベニ、オオシロ、シロシタバ、ゴマシオキシタバ、ヨシノキシタバが飛来したし、平湯温泉(alt.1250m)ではベニとシロが来た。また開田高原(alt.1330m)ではゴマシオ、エゾシロシタバなどが集まった。確かに低地よりも飛来する個体数は少ないような気もするが、それなりには飛んで来るのだ。だとすれば、ナマリの糖蜜への飛来例を殆んど聞かないのはナゼなのだ❓
(´-﹏-`;)ん〜、やっぱメインの餌は花なのかなあ…❓
でも一度は糖蜜トラップでナマリを仕留めねば、気が済まないところがある。今のところ、我がスペシャル糖蜜で採れてないカトカラは、このナマリとアズミキシタバしかいないのだ。来年こそは、ナマリだって糖蜜で採れるということを証明してやろうと思う。

灯火には夜半過ぎに飛来することが多いとされる。
でも自分らのライトトラップには、最初に飛来したのが午後8時40分。以下10時前から10時20分の間、11時過ぎから午前0時過ぎ迄の間で、それ以降は全く姿を現さなかった。
マオくんも早い時間帯でも飛んで来ますよと言っていたから、夜半過ぎに飛来すると云うのは、あくまでもそうゆう傾向があると捉えた方がいいかもしれない。飛来時刻は、その日の気象条件に大きく影響されるのであろう。

アズミキシタバ程ではないが、地這い飛びで灯火にやって来る傾向があり、光源からやや離れた地面にいる事も多かった。しかしアズミみたく特に白布の下部に好んで止まるという事はなかった。アズミと同じく敏感で落ち着きがなく、近づくとすぐ飛び立ち、ムカつく。但し、これらは1回だけの経験なので、それが通常の行動パターンなのかどうかはワカラナイ。
尚、分布は局地的で少ないと言われるが、食樹の群生地では時に多数の個体が灯火に集まる事があるという。

昼間、成虫は頭を下にして石灰岩や安山岩に静止している。前翅は岩肌によく似ていて発見は容易ではないという。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
こんなの、至近距離でも見逃しそうだ。遠目だったら、間違いなく見つけることは至難だろう。
まだ試したことはないが、昼間に生息地の崖を網で叩いて採るという方法もあるらしい。驚いて飛び出したものを採集するようなのだが、また崖に止まったらワカランぞなもし。それに葉っぱに止まってくれることは滅多に無さそうだから、蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)採集よりも難しそうだ。
体力と根性が必要だから、やる人は少ないかもしれないね。だって灯火採集の方が遥かに楽だもん。酒飲めるしさ。
そんなだから蛾屋さんは普段ネットを振ることが殆んどない。採集はライトトラップ&毒瓶が主なのだ。ゆえにハッキリ言って網さばきが下手な人が多い。あっ、しまった。謀らずもディスってしまった。でもマオくんみたいな天才や蝶屋との2足のワラジの青木くんなどは別として、大半の人がそうだと思う。野球、テニス、ゴルフ、卓球、バトミントンetc…、道具を使う球技と同じだ。普段から、また昔からシッカリ振り込んできてないと、対象物をジャストミート、芯で捕えることは出来ないのである。

驚いて飛び立つと、上向きに着地して、瞬時に体を下向きに反転させる。

交尾の情報は極めて少なく、『日本のCatocala』の各種カトカラの交尾を表に纏めたものに、深夜午後11時〜午前2時とあるのしか見たことがない。どうやら飼育下の観察だから、おそらく自然状態ではまだ見つかっていないものと思われる。とはいえ、表には出てないだけかもしれないけどね。

産卵行動についての記述は全く見つけられなかった。
推察だが、おそらく同環境に棲むアズミキシタバのように崖や岩に生える苔類に産卵するものと思われる。

 
【幼虫の食餌植物】
 
バラ科 シモツケ属のイワガサ、イワシモツケ、イブキシモツケ、アイズシモツケ、ミツバイワガサが記録されている。

1981年、増井武彦氏により本種が香川県小豆島でイワガサを食樹にしていることが初めて明らかにされた。それをキッカケに、その後同属のシモツケ種群からも幼虫が発見された。

 
(イワガサ)

(出典『天草の植物観察日記』)


(出典『www.plant.kjmt.jp』)

 
学名 Spiraea blumei
海岸や山地の日当たりの良い岩場などに生育し、高さ1~1.5mになる落葉低木。漢字で書くと「岩傘」。名前の由来は岩場に生えて花序の形が傘に見えることからだそうだ。
分布は本州の近畿以西、四国、九州、朝鮮半島、中国。
若枝は緑色〜褐色で無毛、又はほぼ無毛で稜角がない。枝はしばしば弓なりに曲がる。
葉は互生し、長さ1.5~3.5cm、幅1~3cmの倒卵形~菱状卵形。時に3裂し、不規則な欠刻状の鋸歯がある。表面の脈はやや凹む。葉や葉柄は、ほぼ両面とも無毛。
一見すると同属のイブキシモツケと似るが、若枝や葉裏に毛の無いことから区別される。
花は5月に見られ、白色の5弁花を20~30個ほどつける。

変種にミツバイワガサ(別名タンゴイワガサ)がある。福井県以西の日本海側の海岸の岩場に生育し、兵庫県下ではイワガサと共に見られる。イワガサよりも葉が大きく広卵形。浅く3つに裂ける。

 
(ミツバイワガサ)


(出典『blog花たちとの刻』)

 
この特徴的な葉が名前の由来だろね。
各種図鑑には食樹としての記録は無いが、『兵庫県カトカラ図鑑』には、2012年に兵庫県美方郡新温泉町城山公園で幼虫が発見されていると書かれてある。

 
(イワシモツケ)

(葉)

 
学名 Spiraea nipponica
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字にすると「岩下野」。
日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の日当たりの良い蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で裏面は粉白色または淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

尚、今のところアズミキシタバの自然界での食樹は、このイワシモツケのみが知られている。但し、飼育した場合は他のシモツケ類でも順調に育つようだ。

 
(イブキシモツケ)

(出典『風の翼』)


(2020.6月 兵庫県武田尾渓谷)


(出典『六甲山系の植物図鑑』)

 
学名 Spiraea dasyantha
「伊吹下野」と書き、名の由来は滋賀県の伊吹山で最初に発見されたため。別名にマンシュウシモツケ(満州下野)、ホソバイブキシモツケ(細葉伊吹下野)、キビノシモツケ(吉備下野)、トウシモツケ(唐下野)がある。
分布は本州の近畿以西、四国、九州。山地や海岸の日当たりの良い岩礫地に生え、高さ1~1.5mになる落葉低木。石灰岩地域の崖に多く、流紋岩質凝灰岩でも見られる。
枝はよく分枝し、やや弓なりに曲がる。若い枝は淡い赤褐色で、褐色の短毛が密に生える。
葉は互生し、長さ1.5~7cm、幅0.7~2cmの卵形~菱状楕円形となる。葉縁は不規則な欠刻状の鋸歯があり、しばしば3浅裂する。葉の質は硬く、葉の表面の脈は凹み、若い葉では軟毛が密に生え、裏面には褐色の毛が密生し、葉脈は隆起する。葉柄は長さ0.2~1.1cmで、ここにも軟毛が生える。
花期は4~6月。花は白色で、5弁花の小さな花を多数つける。

 
(アイズシモツケ)


(出典『Wikipedia』)

 
学名 Spiraea chamaedryfolia
漢字は「会津下野」。由来は福島県の会津地方で発見されたことによる。
日本では北海道、本州の中部地方以北、九州の熊本県に分布し、山地の日当たりのよい崖地や岩場、林縁に生育する。アジアでは東アジア、シベリアに分布する。基本種はヨーロッパからシベリアに分布する。
樹の高さは2mに達する。若枝は赤褐色を帯び、稜角があり、無毛、もしくは白軟毛がある。
葉は互生し、長さ3〜6cm、幅1.5〜3.5cm。形は卵形から広卵形または狭卵形。葉の先端は鋭頭で、基部は円形または広い切形。葉の表面は無毛か短伏毛があり、裏面は若葉時には軟毛があり、のちに無毛となる場合がある。葉の縁には基部以外の部分に鋭い重鋸歯がある。
花期は5〜6月。直径10mmの白色の5弁花を多数咲かせる。

紛らわしいものに、ミツバシモツケがある。
ミツバイワガサの誤表記かと思ったが、実際にそうゆう名前の植物は存在するようだ。しかし、およそシモツケの仲間には見えない。花も葉も全然似てないのだ。

 
(ミツバシモツケ)

(出典『garakuta box』)

 
調べたら、このミツバシモツケは北アメリカ原産のギレニア属の宿根草で、シモツケとは同じバラ科だが別属のようだ。

  
幼虫は、これらシモツケ類の比較的大きな株を好む傾向があるという。
尚、長野県下の飼育例では、ユキヤナギ、コデマリ、ヤブデマリ等の各種シモツケ類の柔らかい葉が幼虫の代用食になるそうだ。

 
【幼生期の生態】

先ずは卵から。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver photos from kobunny 』)

 
ナゼか同じサイトに別な色の卵もあった。

 

 
卵はやや背の高いまんじゅう型で、ベニシタバ、アズミキシタバ、ノコメキシタバに似る。縦隆起条は太く、気孔が明瞭に開口する。この形態は幼虫の食餌植物がバラ科やヤナギ科のカトカラの特徴のようだ。環状隆起は二重前後花弁状紋は2層、横隆起状の間隔は前極側で広く、後極側で狭くなる。

他のカトカラ(オニベニ、ムラサキ、シロ、ゴマシオなど)のように卵が一斉に孵化するのではなく、長期間に渉ってダラダラと孵化する。また孵化時期も他のカトカラよりも遅く、孵化に要する有効積算温度も、より必要なんだそうだ。これについて西尾氏は「日が当たると高温になる岩場表面での生活に適応した現象と思われた。」と推察されておられる。北海道には分布しないというし、寒冷系のカトカラではないんだろうね。
でもだったら、ナゼに武田尾みたいな低山地であれだけ糖蜜トラップを掛けたにも拘らず、1頭も寄って来なかったのだ❓標高が低い分、活発に動く筈だから、エネルギー源も必要だろうに。それに、この時期の武田尾には花なんてロクに咲いてなかったと思う。なんだから樹液とか糖蜜に寄って来るでしょうに。なのに、なして来んの❓キイーッ(`Д´)ノ❗、全くもって解せん。葉っぱの露でも飲んでるとしか思えん。
(´-﹏-`;)むぅ〜、まさか夏眠とかすんじゃねぇだろなあ。

 
(1・2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左が1齡幼虫、右が2齡幼虫。

 
(3齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
この5齡が終齢となる。

幼虫の体色変異は比較的あり、全体が白化したものや黒化したものが見られる。
3齡前後の幼虫は食餌植物の枝先にいるが、終齢になると日中は葉などの目立つところにはあまりおらず、木の根元や地表近くの枝、枯れてブラ下がった枝にいるようだ。また時に根元付近の岩上や草で見つかることもあるという。
ゆえにビーティング採集よりも、食樹を丹念にルッキングで探す方が効率は良いとされる。

4・5齡幼虫の食痕は、枝先の葉柄部と茎を残す形のようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
アズミキシタバの幼虫と似るが、頭部の模様で区別できる。

 
(ナマリキシタバ終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の判別には、この頭部の特徴が極めて重要なのだという。参考までにアズミキシタバの頭部も載せておこう。

 
(アズミキシタバの幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
似ているが、よく見ると違うね。
ついでだから、アズミの幼生期全般も載せておこう。

 
(アズミキシタバの卵)

(出典『日本のCatocala』)


(出典『flickriver photos from kobunny』)

 
(アズミキシタバの2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
体色が灰色のナマリと比べて赤みがかるが、他のステージも含めて全般的に似てるね。どちらも2齢幼虫は黒いしさ。やはり幼虫や卵が似ているのは両者の食樹が同じで、成虫の前翅の色が似てるのとも関係があるのかもしれない。
では、下翅が似ていると言われてるコガタキシタバとはどうだろう❓

 
(コガタキシタバの卵)

 
(コガタキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
全然、(@_@)似てねぇー。
まあDNA解析の系統樹でも両者は離れてるからね。

では、DNA解析だと近縁とされているノコメキシタバとではどうだろうか❓

 
(ノコメキシタバの卵)


(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバと比べて隆起状の数が40本以上あること(ナマリは40本未満)で区別できる。またアズミとは隆起状の間隔で判別できる。アズミは間隔が広く、それに比してナマリとノコメは間隔が狭いという。

 
(ノコメキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は変異が多そうだから何とも言えないところがあるが、卵と終齢幼虫の頭部は似ている。自分はDNA解析に対しては懐疑的なところがあるが、これはその解析結果と合致していると言ってもいいだろう。

ついでだから、オニベニの幼生期の画像も添付しておこう。

 
(オニベニシタバの卵)

 
 
(オニベニシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
\(◎o◎)/超絶似てねぇー。
コレは完全に別系統であろう。全くもって的外れもいいところである。そもそもオニベニの食樹はバラ科ではない。全然違うクヌギなどのブナ科コナラ属だもんね。違ってて当たり前かもしんない。

来年はナマリさんの終齢幼虫探しをしてもいいかなぁ…。
あまりにも成虫が採れんし、非効率的過ぎるもん。だからか、多くの皆さんは幼虫採集で標本を得ているみたいだ。成虫採りよりも、よっほど楽に新鮮な標本が得られるという。
終齢だと飼育の苦労も少なそうだし、滅多に飼育をしないワシでも何とかなりそうだ。

とはいえ、成虫採りをやめたワケじゃない。
本当の恋は、まだ始まったばかりなのだ。

                        おしまい

 
追伸
書き忘れたが、蛹化場所についての情報も見つけられなかった。おそらく自然状態での蛹は見つかっていないのだろう。
それにしても崖だと何処で蛹化するのだろう❓まさか地面まで降りては来ないだろうから、崖の窪みに溜まった落葉の下辺りで蛹化するんだろね。

今回の第三章もタイトルを付けるのに苦労した。
どれがどの章に対してのモノなのかはハッキリ思い出せないが、以下のような候補のメモがあった。

『稲妻レェドゥン』
『稲妻コロンビーナ』
『雷雲と稲妻』
『雷神を追い求めて』
『雷撃レッド』
『雷(いかづち)の蹉跌』
『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』
『Nの昇天』
『カラビナ 鎖の掟』

とはいえ、メモっといて何で候補としたのか思い出せないものもある。ザッとした草稿は随分前に書いてあったのだ。タイトルは最初に決めてから書き出す場合と書いてる途中で思いつく場合とがあるのだ。
それはそうと、特にレッドと云うのが、よくワカラン。記憶を辿ってみよう。

『稲妻レェドゥン』は、サザンの「稲村ジェーン」がモチーフとなっている。レェドゥン(leaden)の意味は「鉛色の」がベースだが、他に「意気消沈した、重苦しい、陰鬱な」といった意味合いもある。これは、ようは第一章を想定したものだろう。ホント、その通りだったからね。思い出しても辛い9連敗だったよ。
このタイトルのことはすっかり忘れてて、第一章には『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』というタイトルを付けたけど、そんな仰々しいものよりもコチラの方が良かったかもしれない。まだしもこっちの方が少しはセンス有りじゃろう。今からでも改題してやろうかしら。

『雷撃レッド』は、そこからの更なる聯想だったと記憶している。レェドゥン(leaden)でググッたら「reddn(レェドゥン)」というのが出てきた。意味は「赤く染める」だが、他に「赤面させる」「(恥、怒り、興奮などで)赤を赤らめる」という意味合いもある。9連敗もして屈辱的だったから、タイトルとして考えたのだろう。レッドは、たぶんレェドゥンの略をモジったものじゃろう。『電撃レェド』よか『電撃レッド』の方が何となくカッコイイからね。で、雷撃はそのショックを表してるんだろね。

『雷神を追い求めて』『雷(いかづち)の蹉跌』『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も又、第一章の為に考えられたものだ。

一番最初の『雷神を追い求めて』は、タイトルまんまの意味だろうから説明不要でしょう。
とはいえ、もしかしたらどっかでプルーストの長編小説「失われた時を求めて」を意識したものだったのかもしれない。どちらもクソ長いものだからさ。でもきっと良いアレンジが浮かばなかったんだろう。その辺の事は全く記憶に無いけど。どうあれ、このままじゃベタ過ぎて使えないもんね。

『雷(いかづち)の蹉跌』は、挫折を表している。そんなに悪くないタイトルだと思うが、蹉跌の文字はハイモンキシタバの回(『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』)で使ったのでカブるのを避けた。

『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も挫折の日々を表している。翼を得たイカロスが調子ブッこいて太陽に向かって飛ぶのだが、蝋(ろう)で作られた翼ゆえ、やがて太陽の熱に溶かされて墜死するという神話が下敷きになっている。
このイカロス神話で思い出したのが、梶井基次郎の短編小説「Kの昇天ー或はKの溺死ー」。その中の一節「イカルスが幾人も来ては落っこちる。」を思い出し、そこに少し手を加えてタイトルとした。
尚、イカロス(イーカロス)は古代ギリシア語の表記で、ラテン語読みだとイカルスと表記される。
余談だが、このギリシア神話の物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判するものとして有名である。

その「Kの昇天」からモロにパクったのが『Nの昇天』。
Nとは勿論ナマリキシタバの頭文字のNである。これは第二章に流用しようとした。結局使わなかったのはタイトルにするには色々と文章に仕掛けが必要だったからである。伏線となる文章を散りばめないとタイトルが薄っぺらくなっちゃうからね。けど、そんな筆力は持ち合わせていないので断念。

『雷雲と稲妻』も第二章を意識してのタイトルだ。
でもコレとて、そのまんまだと薄っぺらいから仕掛けが必要となる。けど同じく筆力なしゆえの断念だったね。

『カラビナ 鎖の掟』。
何だかVシネマのタイトルみたいだ(笑)。たぶんコレというモノが浮かばなくて、ヤケクソ気味で捻り出したのだろう。そもそも学名はコロンビナなのにね。頭の中でコロンビナとカラビナが鎖のように絡まってたんだろうけど、どうやって鳩からカラビナに持っていこうとしてたんだろ?かなりの力技が必要だから謎です。まさかのダジャレで何とかしようとしてたりしてね(笑)
これは何章に宛がわれたとかは、特に無かったように思う。

まあ、こんな屑ブログでも、タイトルを付けるのにはそれなりの苦労があるんである。

最後に今回のタイトル『嘆きのコロンビーナ』について少し触れて終わりにしよう。
嘆いているのは、コロンビーナ(ナマリキシタバ)ではない。ワタクシ自身だ。トラップに来ないことに嘆き、灯火に来ないことに嘆き、どうやって採ればいいのか分からなくなって嘆き、飛んで来たはいいが翻弄されまくって嘆き、上手く展翅写真が撮れずに嘆きで、全面嘆きだらけだったのだ。
そして、この今書いている文章にだって嘆いている。何度も何度も書き直しているのだ。一度完成してからも、解体、組み替えを繰り返している。つまりナマリキシタバの採集と同じく出口の見えないドン底状態に陥っていたのである。いつもにも増して時間と労力を費やしておったのだ。まあ、時間と労力を費やしたからって、優れたものになるとは限らないけどね。
やれやれだよ。

 
(註1)カトカラ界の両巨匠
世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんと日本のカトカラの生態解明に多くの足跡を残された西尾規孝さんのこと。
それぞれ『世界のカトカラ』『日本のCatocala』という蛾界に多大なる影響を与えた著書がある。

 
【世界のカトカラ】

 
【日本のCatocala】

 
どちらもカトカラを深く知るには必読の書である。

 
(註2)アズミキシタバ


(2020.7.26 長野県北安曇郡)

 
日本では長野県白馬村と新潟県奥只見にのみ棲息する最小のカトカラ。幼虫の食樹はイワシモツケ。
アズミキシタバについては、拙ブログに「2020’カトカラ3年生 其の壱」に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して2篇の文章を書いている。

 
(註3)コガタキシタバ

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
低地の雑木林に広く見られるが、同じマメ科を食樹とするキシタバ(C.patala)よりも個体数は少なく、見る機会はそれほど多くはない。稀種と言われていたフシキキシタバの方が寧ろ多いくらいだ。
コガタキシタバについては過去に『ワタシ、妊娠したかも』、その続編『サボる男』という2篇を書いた。それにしても、両方ともフザけたタイトルだよなあ。内容は全然もって覚えてないけど…。

 
(註4)オニベニシタバ
低地の雑木林に棲む下翅が紅色系統のカトカラ。
オニベニシタバについては本ブログの「2018’カトカラ元年」シリーズの其の8に『嗤う鬼』と題した文章がある。

 
(註5)ノコメキシタバ
主に高原に生息するカトカラ。
本ブログに『ギザギザハートの子守唄』『お黙りっ❗と、ベラは言った』という文章がありんす。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『天草の植物観察日記』
◆『六甲山系の植物図鑑』
◆『風の翼』
◆『blog花たちとの刻』
◆『garakuta box』

 

2020’カトカラ3年生 其の弐(1)

 
 
  vol.25 ナマリキシタバ 第一章

汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん

 
2018年 8月13日

ずっと蝶屋だったが、この年から本格的に蛾のカトカラ(シタバガ亜属)も集めだした。蛾は苦手だけど、カトカラは綺麗なモノが多いし、胴体もあんまし太くないから抵抗感があまりなかったのだろう。
そうゆうワケで、謂わばこの2018年が自分の中での「カトカラ元年」と相成った。

ナマリキシタバも初年度から狙いにいった。関西には武田尾渓谷という手軽に電車で行ける有名な産地があったからである。
最初はまだカトカラをそんなに真面目に集める気はなかったけど、この1か月程前に稀種カバブキシタバを採ったあたりから集める気持ちが加速した。その流れの中で、ネットの『兵庫県カトカラ図鑑(註1)』というサイトを見つけた。そこに載ってたナマリキシタバの画像が無茶苦茶に渋カッコ良かった。しかも稀少度は最高ランクの★5つになっていた。
そこからナマリへの憧憬の旅路が始まった。

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♂】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
その後、ナマリの画像をネットで探してみたが、あんなに美しいナマリキシタバの標本画像は他に見たことがない。前翅の複雑な模様の中に、ビカビカの稲妻のような黄色い線がギザギザに走っているのだ。
残念ながら、その画像は取り込めないゆえ掲載できないけど、文末にURLを載せておいたので、興味のある方はアクセスされたし。
あっ、そんな事しなくとも「兵庫県カトカラ図鑑」と打つだけでもヒットはするんだけどもね。

この日はA木くんを焚き付けて、武田尾温泉近くで灯火採集をした。彼は蝶と蛾の二刀流だが、まだナマリは採ったことがないと知っていたから乗ってきてくれると思ったのである。

 

 
そこまでは目論見通りだったが、蛾は沢山飛んで来たのにも拘わらず、ナマリの姿はついぞ見られずじまいだった。
たぶん午前0時くらいには撤退したかと思う。こっから先の時間帯がナマリの飛来タイムである事すら知らなかったのだ。
でもまだ、この時点では楽勝気分だった。自称「まあまあ天才」。蝶なら大概の種は一発で仕留めてきた男なのだ。ゲット数250種くらいある中で、採りに行って連敗した蝶は片手にも満たないのだ。

 
2018年 8月15日

翌々日、渓谷の反対側(南)に行った。
ライト・トラップは持っていないので、糖蜜トラップで採れないかと思ったのである。まあまあ天才なのだ、いくらナマリキシタバがカッコ良くて珍しかろうとも、たかが蛾だ。とっとと片付けてやろう。

後ほど図鑑等で知ったのだが、環境的には絶好の場所で、如何にもナマリが居そうなところである。

 

 
周辺には、幼虫の食樹であるイブキシモツケも沢山生えている。

 

 
やがて、闇が訪れた。

 

 
ここは旧国鉄福知山線の跡地で、今はハイキング道になっており、線路とトンネルがそのまま残っている。
そのトンネルの奥は真っ暗だ。闇が尋常でなく濃い。

 

 
あんぐりと開いた不気味な黒い口の先は、背中に悪寒が走るほど深い闇だ。
怖がりで小心もんのワシには、チビるに充分なシチュエーションじゃよ。

昼間だと、↙こんな感じだが、それでも充分に怖い。

  

 
何てったって、出口の明かりさえ見えない長いトンネルだってあるのだ。昼間でも懐中電灯が無ければ歩けないようなレベルの暗さなのだ。

時々、と云うか頻繁にトンネルの方に目を遣る。

だって、奥から魑魅魍魎どもが走ってきたら、ワシのマイライフはジ・エンドなんだもーん༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

いつでも全速力で逃げられる用意をしておかなくてはならんのだ。一歩でも逃げ出すスピードが遅れれば、致命的な結果になりかねない。

しかし、そこまで必死こいて頑張ったのにも拘わらず、糖蜜に来たのはムクゲコノハとアケビコノハ、それとオオトモエくらいだった。

 
【ムクゲコノハ】

(2019.8月 岐阜県高山市)

 
乙女のカッチャンは「ねっ、ねっ、コイツ綺麗だよね。」と言ってたけど、正直なところ毒々しくて気持ち悪い。元来、蛾はキモいから苦手なのだ。ってゆうか、怖い。餓鬼の頃からの蛾=邪悪と云う図式の刷り込みは容易な事では拭い去られるものではない。

コイツと次のアケビコノハは、よく糖蜜に寄ってくるが、妙に敏感ですぐ逃げよる。これが💢イラッとくる。だから、しばしばバイオレンスな気持ちになる。まだシバき倒してやった事はないけどさ。

 
【アケビコノハ】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
普通種だが、素直な気持ちで見るとカッコ美しい。
でも前述したように、しばしば殺意を抱(いだ)く存在。

 
【オオトモエ】

(2018.8月 奈良県大和郡山市)

 
個人的には「マスカレード」と呼んでいる。
仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだからだ。大きくて見栄えも良いから割りと好きな蛾だが、翅が薄くて直ぐにボロボロになりよる。たぶん藪の中とか変なとこを飛ぶせいもあるのだろう。パッと見キレイそうだからと採ってみたら、大概が縁がボロボロになっとる。羽化直後のような新鮮な個体でも、どこか破れているのだ。そんなワケだから採る度ごとに一々ガッカリするし、コヤツも敏感な奴が多くて直ぐ逃げるのも何だかムカつく。だから最近は見てもフル無視だ。

それにしても展翅がなあ…。よくよく見ると下手クソだわさ。まだ蛾の展翅には慣れてない初期の頃のモノだから、前翅が上がり過ぎてるし、触角の角度も上向き過ぎてる。蝶と蛾とでは羽の形が微妙に異なるから、蝶とは勝手が違うのだ。来年は改めて採り直して、完璧なのを作ろっと。
あっ、全然関係ないけど、台湾の青いトモエガは超カッコイイから是非とも自分の手で採りたいね。

 
【Erebus albicincta obscurata 玉邊目夜蛾】

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
美しいだけでなく、結構デカいらしい。
これはマジで採りたいから、どなたかポイントを教えてくれんかのう。

 
2019年 7月24日

2019年の一発目は、武田尾駅の1つ先の道場だった。
ここにもナマリキシタバの幼虫採集の記録があるからである。去年、武田尾で2連敗した教訓から、場所を変えてみようと考えたのだ。ターゲットを落とす為には、ありとあらゆる可能性を考えて戦略を練らなくてはならない。女の子を落とすのと同じだ。
あっ、でもワシって、いつもその場その場の出たとこ勝負だわさ。まあ、それも戦略っちゃ戦略かもなあ…。

場所は謂うなれば前回とは反対側の渓谷の北の外れにあたり、ここから武田尾渓谷を経て生瀬まで幼虫の採集記録がある。
でも、見たところ幼虫採集のみの記録しかなくて、成虫が採れたと云う話は聞いたことがない。そこんとこは気になるところではある。皆さん、成虫は中々採れないゆえに幼虫採集をしやはるみたいだ。どうやら標本を得るためには、終齢幼虫を採ってきて親にするのが一番手っ取り早いらしいのだ。
でも、蝶を採り始めた時からファーストコンタクトは成虫採集でなければならぬと云う強い拘りがある。はなから幼虫を採ってきて羽化させてハイ採れましたじゃ、卑怯な気がするのだ。どこか正々堂々と対峙してないと感じてしまう。
ことわっとくが、これは別に他人のやり方を誹謗中傷しているワケではない。単に自分は、そうゆう主義なのである。そこは己の生き方にも通じるところがあるから曲げれない。それだけの事だ。他人がどうあろうと関係ないし、興味もない。

 

 
千刈ダムまで行って引き返す。
周囲に灯りは全く無さそうで、日が沈めは真っ暗になると思ったからだ。それに何か辺りの風景が不気味だったので怖かったのだ。ダムってお化けとか幽霊が出そうなんだよなあ…。絶対に誰かが沈められてると思う。アッシ、自慢じゃないが、ウルトラ根性なしの怖がり屋で、チキンハート野郎なのさ。子供の頃、夜中に便所に行くのが怖くて妹に30円払ってついてきて貰ってたような男なのだ。

だいぶ手前の桜並木まで戻り、糖蜜を吹き付けてゆく。
何処であろうとも、採れりゃいいのである。異界の者に会うリスクは出来るだけ避けるべきじゃろう。

午後9時半くらいだったと思う。林縁の高い所を飛ぶカトカラを発見。
裏側は黄色いから、ナマリも含まれるキシタバ類に違いない。
大きさ的にはデカくないからパタラ(キシタバ=C.patala)ではない。消去法でいくと、既に発生が終わっているアサマキシタバやフシキキシタバの可能性も除外していいだろう。いたとしても相当なボロだかんね。どう見ても飛んでるのは、そんなボロ風情ではない。
この時期だと、おそらくコガタキシタバもボロだろうし、関西の低地だとワモンキシタバやウスイロキシタバも同じくボロだろう。それにウスイロは裏の色が薄く、オフホワイトだから間違う可能性は低い。
クロシオキシタバは主に沿岸部に棲み、内陸にはあまり居ない種だし、大きさもキシタバに次ぐものだからデカい。コレも有り得んだろう。

 
【キシタバ ♀】

(2019.6月 奈良県大和郡山市)

 
【アサマキシタバ ♂】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
【フシキキシタバ ♂】

(2019.6月 兵庫県西宮市)

 
【コガタキシタバ ♂】

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
【ワモンキシタバ ♀】

(2019.8月 長野県上田市)

 
【ウスイロキシタバ 】

(2020.6月 兵庫県西宮市)
 
 
【クロシオキシタバ ♂】

(2018.7月 兵庫県神戸市)

 
残る可能性はアミメキシタバ、カバフキシタバ、マメキシタバ、そしてナマリキシタバくらいだろう。

 
【アミメキシタバ ♀】

(2019.7月 奈良市)

 
アミメって、此処に記録があるのかなあ❓ウバメガシが有ればいるかもしれないけど、あまり聞いた事がない。でも可能性はそれなりにあるだろう。

 
【カバフキシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
カバフは稀種で、分布は局所的だ。いる可能性もないではないが、いない可能性の方が高い。

 
【マメキシタバ ♂】

(2020.7月 長野県北安曇郡)

 
マメは普通種だから間違いなく此処にも居るだろう。
でも翅形はナマリよりも細い気がする。飛んでるのはマメよりも翅が丸いような気がする。
となると、ナマリの公算は高いかもしれない。
しかし、降りて来ることはなく、やがて梢の上を優雅に越えて姿を消した。
まあいい、そのうち我がスペシャルレシピの糖蜜トラップに寄ってくるじゃろうて。何てったって、カバフを筆頭に樹液をも凌駕してきた糖蜜なのである。ドーンと来いじゃ❗

  

 
しかし、トラップには殆んど何もやって来ず、帰り際に飛んでたクソみたいな蛾(たぶんキマダラオオナミシャク)を思わず採ってしまう。
未曾有の大惨敗である。マジで心折れたね。

 
2019年 8月5日

まだ採ったことのないカトカラを求めての信州遠征5日目である。
ミヤマキシタバ、アズミキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、ヒメシロシタバ、ケンモンキシタバ、ヨシノキシタバを狙うも、前半は3連敗でボコボコ、漸く昨日になって何とかミヤマキシタバを仕留める事ができた。

 
【ミヤマキシタバ】


(上は♂で長野県大町市、下は♀で長野県木曽町)

 
とはいえ、連日のテント生活で疲れきっていた。おまけに新しい靴で死ぬほど歩き回ったせいで酷い靴ズレになってて、身も心もボロボロだった(註2)。

 

 
松本から新島々行きの電車に乗る。
目指すは、○○ちゃんに教えてもらった場所だ。

しかし、結構歩いた末に崖崩れで前へ進めず、ポイントには辿り着けなかった。仕方なく中途半端な場所で糖蜜を撒く。居ないとは言い切れないが、環境的にあまり期待が出来ないことは自分でも解っていた。でも糖蜜の甘い匂いに誘われて離れた所からでも飛んで来んだろう。生物の嗅覚は人間の想像する以上に優れていると言うからね。
でも(´Д⊂グスン。そうでも思わないと、やってらんないのである。

そして案の定、結果は惨憺たるもので、全くと言っていいほど何も飛んで来なかった。
もしかしたら、ナマリは糖蜜トラップでは採れないのかもしれない。となると、灯火採集用のライト・トラップが無いと無理なのか❓…。でも樹液に来たという記録は少ないながらも有るんだよなあ。

帰りに、駅で見たことがない蛾を見つける。
すわっ❗、ジョウザンヒトリか❗❓と思って採ってしまった…。

 

 
ついでにスタイリッシュな柄の別な蛾も採ってしまう。

 

 
蛾はカトカラとヤママユ系以外は採らない主義だが、何にも戦利品がないのは悲し過ぎる。なので、つい採ってしまったのである。そうでもしないと、溜飲が下がらなかったのだ。
けど、それで溜飲が下がったか?と訊かれたら、黙り込むかもしんない。所詮は己を誤魔化しているに過ぎないと、心の底では知っているからだ。

結局、帰って調べたら、別に珍しくも何ともない者たちであった。
最初のはシロオビドクガの♀みたいだ。

 

 
ドクガと名がつくが、毒はない。
♂は見た目が全然違くて、前翅の柄はもっと素っ気なく、後翅も黒くて地味。あまりにも両者の見た目が違うので、以前は別種だと考えられていたそうな。

2頭目はボクトウガの仲間である。

 

 
展翅したら、ズッコケるくらいに異様でブサいくな形(なり)だったんで、凹んだよ。
たぶん「ゴマフボクトウ」って奴だろう。

3頭目はマイマイガの仲間と知って、展翅すらしなかった。
たぶんノンネマイマイ。ノンネって何じゃらホイ?意味ワカランわい。死ねや(-_-メ)
マイマイガの仲間は時に大量発生するし、ホント気持ち悪い。触角もヤな感じだし、許せない。以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね(註3)。マジ、コイツら憎悪だ。

  

 
松本の居酒屋に入って、お通しのキャベツに味噌つけて食い、ビール飲んでテーブルに突っ伏す。
このシリーズを読んでおられる方ならお気づきだろうが、ここでも疲労と落胆で突っ伏していたのである。

 

 
店員のブス女に薦められたサラダである。
別にマズくはないのだが、如何せん量が多い。コレでソッコー腹一杯になった。
一人で居酒屋に入る時は絶対にサラダなんか頼まないのに、ブスの言うことなんて聞くんじゃなかったよ。

糞ブスめがっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗❗

やる事なすこと上手くいかなくって、オジサンは心がヤサグレてて、とっても荒(すさ)んでいるのである。女子店員に罪はない。

 

 
他にハジカミ(谷中生姜)の豚肉巻きも頼んだ。
けんど期待を下回るもので何ら感動がない。長野県って野沢菜以外にロクに旨いもんがないんだよなー。スマンが長野で食いもんに感動した事は一度だってないのだ。蕎麦は高いわりには美味くないし、馬刺は熊本の方が百万倍旨い。蜂の子とかも、さして旨くなくて、昔の人は食べるもんがないから仕方なしに食ってたんじゃないかという気さえする。五平餅はまだ許せるが、そもそも甘い味付けの食いもんは我が食のカーストでは底辺に位置するのだ。
それに、三河地方出身の小太郎くん曰く、五平餅の元々の発祥は三河で、そこと隣接する長野県南部の一部でも名物だが、それを他の長野県の地方がパクッてドサクサで長野名物にしてしまったという。どこまで本当なのかはワカランし、責任持たないけどね。真偽が知りたい方は、御自身で調べて下され。

ムカつくので、あとは只管(ひたすら)に酒をガブ呑みしてやったよ。
こういうのを、人は「ヤケ酒」と呼ぶ。

 
2019年 8月8日

この日は信州から大阪までボロボロになって戻ってきた。
にも拘らず、青春18切符だったので真っ直ぐには帰らず、根性で兵庫県の道場駅まで足を延ばした。

 

 
我ながら執念である。そこまでしてナマリに会いたいのだ。もうここまでくれば、恋愛の域だ。恋い焦がれている。

そして、今回は前回の道場のリベンジでもある。
でも全く同じ場所では返り討ちに遭うことは明白だから、ポイントを変えて前回よりも奥を目指した。そう、こないだはビビって逃げ出したあのダム・サイトだ。

この前は怖くて、それどころじゃなかったが、千刈ダムにはナマリの食樹であるイブキシモツケが山ほど有った。

よっしゃあー(ノ`Д´)ノ❗
ここで一発逆転じゃあ❗

この地でナマリさえ採れれば、逆転さよならホームラン、全ては大団円で終わるのだ。長野遠征の屈辱と疲れも一気に吹き飛ぼうぞ。

木と崖の岩に糖蜜を目一杯吹き付けてゆく。今日が旅の最終日なので、手持ちの糖蜜を全部使い切ってやる所存だ。

撒き終わった頃に日が沈み、真っ暗闇になった。
辺りには、ダムの放水音が不気味に響き渡っている。出るシチュエーションだ。そして、足を踏み外して落ちたら、土座右衛門必至である。で、朝にはプカプカと川に浮かぶのだ。旅の最後が溺死だなんて悲し過ぎるよ、ベイベェー。

だが、それだけ勇気を振り絞って頑張ったのにも拘わらず、又しても返り討ちに遭う。絶好の場所なのに、ナマリどころか殆んど何も飛んで来ん。武田尾といい、此処といい、極めて蛾の棲息密度が薄い。( ꈨຶ ˙̫̮ ꈨຶ )バカ野郎めが…。

ギザギザにササクレ立った心を抱えて、早めに離脱した。午前0時までに家の最寄りの駅まで帰らないと、青春18切符の期限が切れるのだ。
とにかく又しても負けた。しかも、未だに何の手掛かりも無いに等しい状態だ。光明が何処にも見えない。

 
写真を撮っていないので日付はハッキリしないが、実をいうと、8月12日〜17日の間にも武田尾に行ってる筈だ。北側の武田尾駅方面からトンネルを抜けて樹液採集に行った記憶が強く残っているからだ。
何故に強く脳髄に刻まれているのかと云うと、メッチャクチャ怖かったからだ。ダムの時よか遥かに恐怖はデカかった。
渓谷の南側からのアプローチはトンネル内に入らずともポイントに行けるが、北側からだとポイントに行くのにトンネルを少なくとも2つは通り抜けねばならないからだ。
トンネルといえば、心霊スポットの王道だ。ゼッテー、ヤバいのがいらっしゃるに決まっているのだ。そんな所に一人で行くなんて自殺行為だ。

 

 
昼間だって充分怖い。懐中電灯が無いと歩けないのだ。
なのに、そこを夜に通るだなんて、正気の沙汰ではない。想像しただけでも、髪の毛が立つほどに恐ろしい。
それでも意を決して行ったのは、ナマリ嬢にどうしても会いたい、手籠めにしたいと云う強い欲望の為せる業だった。いつだって恋愛は、人をどこまでも愚かにさせる。

トンネルを通った時の記憶は朧(おぼろ)だ。メモリーはフリーズされ、脳内の永久凍土に奥深く埋められているのだろう。だから、その時の事はあまり思い出せない。でも時々、今でもトンネル内の冷んやりとした空気や暗闇を切り取る懐中電灯の長い光線、背中の毛が総毛立つよな感覚がフラッシュバックする事がある。人はね、恐怖の記憶を無意識に消すように出来てるのだ。でないと、生きていけないからね。

トンネルを幾つか抜け、雑木林に入った。
6月に別なカトカラを探しに来た折りに、樹液の出ている木を何本か見つけておいたのである。もしかして糖蜜トラップは効かないのかもしれないと考え始めていて、ならば樹液だったらどうだと思ったのだ。自然のモノゆえ、少なくとも糖蜜よりかは採れる可能性は高いだろう。
汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん。採れないのなら、想像力を働かせて策を練り、一つ一つ実行に移してゆくしかないのだ。

ここまで来ると、川の音も聞こえない。
辺りは森厳としている。
トンネルに比べれば怖くはないが、それでも懐中電灯を消すと暗黒世界だ。やっぱり怖い。鳥の声にギクリとする。怪鳥ギラータかもしれん…(・o・;)
心頭滅却。ナマリの事だけを考えよう。それが恐怖に打ち勝つ最適にして最良の方法だ。

程なくして、
来たっ❗❗と思った。

大きさ的に小さいからナマリだろ❗❓
慎重に距離を詰める。ここで会ったが百年目、何があっても我が手中に収めてやるっ(ノ`Д´)ノ❗

しかし近づくと、上翅にはナマリキシタバ特有の、あの稲妻が走ったような黄色い線が無い。
(-_-;)誰だ、テメェ❓

一拍おいて漸く気づく。
なあ〜んだ、アミメキシタバだわさ。やはり、この渓谷にもアミメちゃんは居たんだね。
にしても、(´ε` )ガッカリだよ。恥ずかしいまでの糠喜びっぷりだった。スゲー損した気分だ。

1時間ほど居たが飛んで来ず、焦れてポイントを移動する事にした。壁にイブキシモツケが沢山生えている場所がある事を思い出したのだ。記憶が一部寸断しているが、多分もう1つトンネルを抜けて其処へ行った筈だ。

だが、糖蜜トラップは又しても殆んど機能せず、クソ蛾がパラパラと散発で飛んで来ただけだった。オマケに雨までポツポツ降り出してきた。泣きっ面に蜂とは、正にこの通りだ。
それで思い出したよ。その小雨の中、壁の上の方を小さめのカトカラが飛んでた。網は全然届かない高さだ。多分、アレこそがナマリだったのではないかと思う。忘れていたところをみると、自分に都合の悪い記憶だから壁に塗り込めていたのだろう。
それにしても、何で糖蜜トラップは無視なのだ❓何ゆえに誘引されないのだ❓もしかしてワシの糖蜜が無能のクズ糖蜜なのか❓いやいや、そんな筈はない。同じレシピで今まで大きな成果を上げてきたのだ。
そういや、蛾界の若手のホープである天才マオちゃんも「ナマリのポイントで何度も糖蜜やってますが、来た試しがありませんね。」と言ってたなあ…。

結局、ソヤツも何処かへ消えた。
深窓の令嬢は未(いま)だに、その姿さえまともに現してはくれないのだ。謎めいた存在のままだ。

どうあれ、又しても惨敗決定である。
終電に間に合うように撤退した。勿論、またメチャンコ怖いトンネルを通ってである。記憶にあるのは、まだ彼女に会えてさえいないのに、こんなとこで魑魅魍魎どもに襲われて死んだとしたら、泣くに泣けないと思った事だけだ。記憶はあまり無いのにも拘わらず、二度とアソコには行きたくないと思ってるところをみると、相当怖かったに違いあるまい。

結局、2019年は屈辱の4連敗で終わった。
2018年の戦績も加えれば、何と6連敗だ。蝶での連敗記録の最大数はキリシマシジミの5連敗だから、最早それをも越えている。まさかである。しかも姿さえまともに見てないんである。「まあまあ天才」の自信、完全に瓦解である。
蛾なんぞと、完全にナメ切っていたが、たぶんチョウよかガを採る方が遥かに難しいと痛感させられたよ。
蛾は夜間採集が主だから、蝶みたく飛んでるのを見つけて採るとゆうワケにはゆかぬのだ。基本的に灯火採集か樹液&糖蜜採集しか採る方法はない。オマケに蝶と比べて情報量が極めて少ない。文献の数は遥かに少なく、マニアの数も少ないから情報も入ってこないのだ。

 
2020年は、余程5月に幼虫採集に行ってやろうかと思った。連敗に次ぐ連敗で、採れる気が全くしない。心は半分以上、折れていたのである。
しかし、グッと踏み堪えた。最後の最後まで闘う矜持を失うワケにはいかない。背水の陣。今年がダメならば、来年は潔く諦めて幼虫採りでも何でもしてやるよ、バーロー。

 
2020年 7月16日

2020年、最初のナマリチャレンジである。
気合が入ってる分、例年よりも始動は早い。

去年は糖蜜には全く反応が無かったので、この為に遂にライトトラップを購入した。
といっても、水銀灯や発電機、安定器がセットとなった大掛かりなものではなく、簡易の何ちゃってライトトラップである。

 

 
高出力UV LEDライトで、めちゃんこシンブル。でもってメチャメチャ軽い。たったの130gしかないのだ。
モバイルバッテリーは200gだから、全部で驚愕の330gしかない。

 

 
とはいえ、上のバッテリーは495gある。途中でライトが消えたら泣くに泣けないので、大容量のモノに変えてもらったのだ。それでも合計は625gである。車で行けないような山奥でも楽勝で持ち運べるのだ。
尚、このバッテリーだと12時間点けっぱなしでも容量が半分以上も残っている。ゆえに一晩だけなら、もっと低い容量のバッテリーでも充分もつだろう。

既にテストで何度か試している。勿論、威力は水銀灯に比ぶべきもないが、それなりに虫は集まって来る。目安としては40Wのブラックライト蛍光灯と同程度の誘引力があるらしい。

 

 
仕様は小太郎くんに貰った三脚に本体をビニールテープで貼っつけ、下に白布を敷いただけである。

 

 
この時点までの実績は、カトカラだとウスイロキシタバとフシキキシタバ、コガタキシタバ、キシタバが寄ってきた(註4)。

布を下に引くだけでは止まる面積が少ないし、見逃しそうなので新たに蚊帳も購入した。
本来ならば、白布をパイプか何かで作った枠組にスクリーン状に張らなければならないのだが、一々セットするのは面倒臭いし、布は重たいので薄手の蚊帳にしたのである。
ホームセンターで展示品だった二千円いくらかのものが、交渉したら消費税込みで千円くらいになった。こうゆう時は生粋の大阪人で良かったなと思う。

組み立ては超簡単だし、とにかく軽い。しかし、折り畳んでもデカいので、車が無ければ邪魔なサイズではある。日帰り採集くらいなら荷物も少ないから電車でも運べるが、荷物の多い長期の採集だと厳しいかもしんない。

そして、昆虫同好会で借りてきた同じ会社で作ってる超高出力のUV LEDライトも持参した。

 

 
コチラは600gと重いが(バッテリーは650g)、それでも1キロちょっと。ザックに入れて持っていける重量だ。
誘引力の目安としては、水銀灯200〜300Wの効果があるそうだ。但し、光はそれなりに強いが、点灯時間が1時間半と短いので、ナマリが飛んで来るという午前0時前後に投入する予定である。
現時点で、出来うる限りの事はやりきった。
今日こそ、今まで溜まり溜まった憤怒のマグマを💥爆発させてやるぜ。

場所は三度目の正直の道場である。
何故に此処を選んだのかと云うと、見通しのいい拓けた場所があって、その先の川向うには如何にもナマリが居そうな崖が有るからだった。だが、心配なのは少し距離がある事だ。崖まで50mはあるだろう。けど、周りが真っ暗なんだから誘引されると踏んだ。長時間点灯してりゃあ、そのうち飛んで来んだろう。
(´ω`)ハハハハ、長時間って書いたのは朝まで灯火採集をやるつもりの覚悟だからだ。そう、言ったように背水の陣なのである。もしこれでダメなら、もう自分で打てる手は無しである。

 

 
何だか美しい。「宇宙船地球号」と呟く。
どこが宇宙船地球号なのか自分でもよくワカンナイが、何となく口から言葉が漏れた。
因みに蚊帳の中の水色の丸いのが蚊帳のケースである。

宇宙船地球号の意外な程の美しさに暫しハシャいでいたが、点灯後すぐに死ぬほど羽蟻が飛んで来やがった。ガッデーム。正直、キモい。これも令嬢の嫌がらせかよと思ってしまう。
あとは何故かコガネムシが大量に飛んで来た。ウザいわ、ボケッ❗

一応、ダメ元で糖蜜も木に吹き付けておく。
これでナマリがライトにではなく、糖蜜に寄ってきたとしたら、お笑い草だよな。ライトした意味ねぇーじゃんかあ(+_+)
けどこの際、採れりゃ何だっていい。

しかし待つも、糖蜜にもライトにも来やしない。
少しずつ追い詰められてゆく。

午前0時。
満を持して、デカい方のライトも点灯する。

 

 
今度こそ、頼んますと手を合わせる。もう採れるのなら、神頼みだって何だってしてやる所存だ。

そして、時々糖蜜トラップの様子も見に行く。

 

 
(☉。☉)ありゃま❗
アンタ、こんなとこにも居たのね。
相変わらず糖蜜トラップにはロクなもんが飛んで来なくて1頭もカトカラは寄って来なかったが、ナゼかレアなカバブキシタバが採れてしまった。まさか、こんなとこにも居るとは思いも寄らなかったよ。カバブは局所的分布で珍しいと言われてるけど、探せば案外どこにでもいるのかもしれん。食樹のカマツカは、さして珍しい木ではないからさ。但し、何処でも個体数は少ないのかもしれないけどね。

(-_-;)……。
でも、お嬢は姿をチラリとも見せない。
心が、どんどんドス黒く染まってゆく。正直、泣きそうだ。

午前2時過ぎ。
業を煮やして場所を変える事にした。
そこなら崖の真ん前だ。イブキシモツケも結構生えてた筈だ。

 

 
去年、謎のカトカラが飛んでいた場所のすぐ近くだ。

 

 
午前3時。
見たことがあるまあまあカッコイイ蛾が大量に飛んで来た。
初めて京都で見た時も午前0時を過ぎてから現れたので、活動時刻が遅い蛾なのかもしれない。

 

(2018.7月 京都市)

 
たぶん、ツマキシャチホコって名前じゃなかったかな?
でも、オマエらなんかどうでもいい。採る気さえ起こらない。
活性が入り、他の蛾も飛んで来て期待値が上がるも、チャンチャン。結局また、お嬢に袖にされた。
白み始めた道を引きずるような足取りで駅まで歩いた。
コロンビーナ(columbina)は、何処にいるのだ❓
思わず、ボロっと口ずさむ。

🎵ビーナ、ビーナス
🎵何処にいるのか ビーナ〜
🎵誰か ビーナを知ら〜な〜いかあ〜❓(註5)

 
2020年 7月18日

明後日にも出動した。

 
再びの宇宙船地球号である。
やるっきゃない。もうヤケクソを超えた意地である。

今度は武田尾渓谷の南側にやって来た。
前回の反省から、もっと棲息地に近そうな場所を選んだのだ。道場は崖まで50mくらいあったが、ここなら20mくらいだろう。もし居れば、必ずや飛んで来る筈だ。いや、最も居る可能性の高い環境なのだ、居ない筈はなかろう。

どうせダメだとは思うが、一応周囲に糖蜜トラップも撒く。
こんだけ効果がないと、もはや期待なんか全然しない。全然してないと言ったけど、心の底の底ではどっかで期待してるんだけどね。奇跡を信じなきゃ、救われないもんね。
でも考えてみりゃ、ここでは1頭たりともカトカラはトラップに寄って来てない。何処でも必ず現れるタダのキシタバさえも見てないのだ。

午後9時半だった。

ビクッΣ(・ω・;|||❗

何か気配のようなものがしたので、振り向く。
見ると、トンネルの奥で灯りが揺れ動いている。
一瞬、🔥鬼火かと思った。だとしたら、お終いだ。
皆さん、ありがとうございました。そしてサヨウナラと心の中で呟く。
けど、ここで死ぬワケにはいかぬ。まだナマリ嬢を落としていないのだ。よし、もしも化け物なら、(-_-メ)ブッ殺してやる。網の柄を強く握り締める。これでタコ殴りして、マシンガンキックを喰らわしてやろうぞ。この溜まりに溜まった鬱憤を暗い怒りに転化してくれるわ( `Д´)ノ❗

よく見ると、灯りは1つではなく、2つだった。もしかして巨大な顔だけの👹鬼だったりして…。水木しげる先生の描いた妖怪に、そんな奴いなかったっけ❓

近づいて来る灯りが、やがてトンネルを出た。
どう考えても懐中電灯だ。とゆう事は、人だ。人間の形の影も見える。ホッとする。
しかし、こんな時間に、こんな場所に人❓
もしかしたら、殺人鬼兄弟が逃亡しているのやもしれん😱
再び全身の筋肉が緊張する。

どんどん近づいて来る。
あと15mってところだ。

こんばんわ〜。

気がついたら、朗らかな声で言っていた。
咄嗟に、殺人鬼ならば懐柔しようと思ったのである。殺されたくないという一心が、いい奴だと思われようとしているのである。だから明るい朗らかな声を掛けたのだ。上手くいけば、殺人鬼に見逃してもらえるかもしれない。
それに考えてみれば、アッチだって怖いかもしれないのだ。たとえ殺人鬼でも闇に浮かぶ宇宙船地球号の傍らに立つ男だなんて、どう見ても怪しい。怪訝に思って然りだろう。だから、それを解消するためにコッチから早めに声を掛けたのだった。一応、網の柄は逆さまに持っていて、いつでもブッた斬る姿勢は崩してなかったけどもね。

直ぐにアチラからも「こんばんわ〜。」と云う挨拶が返ってきた。
良かったあ〜。殺人鬼ではなさそうだ。
見ると、男性の若者二人組だった。

暫く立ち話をする。
聞くと、二人は廃線マニアらしい。鉄ちゃんには、そうゆうジャンルもあるらしい。こんなとこで蛾を探してる自分だって人の事は言えた義理じゃないけど、世の中には変わった人もいるんだね。それにしても。なして夜なの❓
尋ねると、たまたま夜になっただけらしい。なあ〜んだ、廃線マニアで、心霊マニアなのかと思ってたよ。

二人が去ると、再び辺りに静寂が訪れた。
いや、脳が消去していたが、川の流れる音は聞こえている。寧ろ、かえって音は強くなったような気がする。

時々、ライトの角度を変えるも効果なし。
何も起こらなかった。強いて言えば、カブトムシが飛んで来た事くらいか…。

虚しく、夜が明けた。

 

 
目の前は如何にもナマリが居そうな環境なのに、何で飛んでけぇへんの〜(ToT)❓
ホントに此処に居るのかよ❓絶滅したんじゃないのか❓
もう、そう思わずにはやってらんない。

 
2020年 7月19日

翌日と云うか、その日の昼過ぎに小太郎くんから電話があった。プーさんと一緒に灯火採集するけど、来ます?というお誘いだった。小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップセットを買ったのである。

場所は能勢方面である。小太郎くんが、ここにはユキヤナギではなくてイブキシモツケ食いのホシミスジがいるからナマリもいる筈だと言い出したのだ。
本音では、そんなとこおるワケあるかーいと思ってたし、今朝の今日だから正直なところ行くのは億劫だった。昨日の惨敗で身も心も疲れきっていたのだ。
でも、その誘いに乗ることにした。ナゼかと云うと、すっごくセコい理由からである。もし行かなくて、本当に採れでもしたらメチャメチャ口惜しいからだ。我ながら、心が狭い。

夕方、川西能勢口でピックアップしてもらい、ポイントへと移動する。

確かにイブキシモツケはあった。しかし、数は少ない。
それに、あまり環境は良さそうには思えない。

日没と共に点灯。

 
やはり水銀灯は光量が強い。
ワシの何ちゃってLEDとは雲泥の差がある。やっぱ、コレくらい光が強くないとダメなのかなあ…。

前から存在が気になっていたムラサキシャチホコを初めて見た。小太郎くんが見つけてくれたのだ。彼には、前から会ってみたいとは言ってたからね。

 

 
こんなの、どう見ても丸まった枯葉にしか見えん。
自然の造形物の妙に、ただただ驚愕する。
別角度から見れば、そうでもないんだけどもね。

 

 
まるで「ダダ」とかオカッパの宇宙人の顔みたいだ。
コレも擬態❓(笑)

 

 
でも、よくよく考えてみれば、コレって昨日もいたよなあ…。
まさかムラサキシャチホコだとは思いもよらなかったので、無視した。頭の中はナマリキシタバで一杯だったのである。他の蛾は全て眼中になかったのだ。

勝手に「白い鷹グリフィス(註6)」と呼んでいるヒトツメオオシロヒメシャクもやって来た。

 

 
結局、カトカラの飛来はナマリどころか、宇宙船地球号に止まったコシロシタバ2頭のみだった。
やっぱりね。こんなとこ居ねえよ。

 
【コシロシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
プーさんが欲しそうにしてたので、どうぞとお譲りする。
ワシを、蝶屋じゃなくて「蛾屋」だと散々に揶揄してきたプーさんだったが、今年からカトカラも集め始めているのである。面倒くさい人だ。

んな事は、どうだっていい。
これで9連敗。状況は、もう泥沼だ。しかも底なし沼である。弱小阪神タイガースかよ(´ε` )
ライト・トラップにも寄って来ないとなれぱ、どうすればいいのだ❓八方塞がりじゃないか…。

プーさんを神戸まで送り、小太郎くんと大阪に戻って来たのは明け方近くだった。夜遊びしまくってた頃だって朝帰りの2連チャンなんて記憶にない。(ㆁωㆁ)何やってんだ、俺…。
菫色の空を茫然と仰いで、深い深い溜息をつく。
もう一生、お嬢には会えないんじゃないかと思った。

                         つづく
 
 
ーお詫びー
小太郎くんの言として五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm( _)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
タイトルの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』は推理小説の大家、松本清張の言葉をパクったものである。
数十年前に清張から石見銀山の若者に贈られた色紙に書かれた言葉で、そこに「汝、」を付け足しただけだ。
NHKのBSで清張と鉄道をモチーフにした番組の再放送をやっていて、そこに出てきた。タイトルを付けあぐねていたので、それに飛びついたってワケ。
少々、仰々しいタイトルだが、ナマリへの想いとチャレンジし続けなくては果実は得れないと云うことを表現したかったから、まっいっかとなったのさ。
或いは、『何処にいるのか、コロンビーナ』とでもした方が良かったのかもしれない。邪魔くさいから変えないけど。

 
(註1)『兵庫県カトカラ図鑑』
URLは、www.konchunkan.net.pdf
兵庫県昆虫同好会誌「きべりはむし(39(2)」に、2017年に掲載されたもので、兵庫県のカトカラについて書かれた決定版とも言える内容である。
著者は、阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人各氏の連名になっている。
兵庫県内のカトカラについて精査されており、記録地も書かれてあって、各カトカラに何処へ行けば会えるのかも分かるようになっている。
昨今はネット上では過剰なまでに産地が隠されているから、初心者の身としては誠に助かりもうした。
正直、幾らキレイな写真を御満悦にネットで載せようとも、そんなの記録には残らないからオナニーと同じなんじゃないかと思う。勿論ネットで公開すれば、あっという間に情報が広がり、トラブルの原因にもなることは理解できる。虫屋はモラルに欠ける人間が多いからね。
かといって、蛾なんて人気種のカトカラでさえも記録が少ないのだ。あらゆる面で、記録は後世に残していかなくてはいけないのは当たり前の話で、コレについては異論はなかろう。
記録を積極的に残せて、産地を荒れなくするような何か良い解決法は無いものかね❓そう、いつも思うのだが、妙案は未だ浮かばない。

『兵庫県カトカラ図鑑』の話に戻ろう。
前半はカトカラの概要と、その採集法が書いてあり、カトカラの入門編としての役割も果たしている。次にメインである各種の解説があり、最後には新たに兵庫県で発見される可能性のあるカトカラ(ケンモンキシタバ・ミヤマキシタバ)にまで言及されている。お世辞抜きにバイブルにも成りうる優れたものだと思う。特に近畿地方の人には拝読必須の文献だ。

 
(註2)身も心もボロボロだった
この辺の事については拙ブログに『薄紅色の天女』『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『突っ伏しDiary』と題して書いた。
一応言っとくと、それぞれベニシタバ、アズミキシタバ、ミヤマキシタバの回です。

 
(註3)以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね
これについては、拙ブログに『人間ができてない』と題して書いた。誠にもって大人気(おとなげ)ないと云う話。

 
(註4)何ちゃってライトトラップの実績
9月に試した時はシロシタバ、ゴマシオキシタバ、エゾシロシタバが飛来した。ムラサキシタバも近くまでは飛んで来た。
このライトトラップは、おそらく尾根や山頂などの拓けた場所ではなく、森の中や林縁で効果を発揮するのではないかと思われる。遠くに居る者を引き寄せるというのではなく、近くに居る者を引き寄せると云う考え方をした方がいいかもしれない。

因みに値段は、バッテリー込みで3万円だが、五十嵐さんから聞きまたしと言えば安くしてくれるかもよ。

一応、連絡先を載せておきます。

 

 
(註5)誰か、ビーナを知ら〜な〜いかあ〜
「上海リル」の替え歌です。ビーナとは学名「columbina」の、その場で思いついた略称。ビーナスは勿論あのヴィーナス、美神の事である。ナマリキシタバの美しさと掛けたのだ。
何でこんな世代でもない古い歌を知ってるのかは、自分でもワカンナイ。

 
(註6)「白い鷹」グリフィス
三浦建太郎の漫画『ベルセルク』の重要な登場人物。
戦場で恐れられる傭兵団「鷹の団」の団長。白銀の長い髪をなびかせる中性的な美貌の騎士で、鷹の頭を象った兜と白を基調とした出で立ちから「白い鷹」と云う異名がある。

 

(出典『moemee.jp』)

 
また平民出身でありながらも本物の貴族よりも貴公子然としており、民衆にも人気がある(だったと思う)。
だが、「自分の国を持つ」という夢を果たす為であれば、冷徹なことも平然とやってのける。
書き忘れたが、勿論のこと剣の腕前は超一流である。