続・アミメキシタバ

 
   『網目男爵物語』

 
網目男爵は孤独だった。
妻には早くに先立たれていて、子供もいなかった。
芦屋の邸宅はいつもひっそりとしており、邸内には男爵と執事の近本しかいなかった。

男爵が再婚しなかったのには理由がある。自分の容貌に自信が無かったのだ。本来の容貌は悪い方ではない、と自分でも思う。中には『端正な顔なのに、勿体ないねぇ。』と言ってくれる人もいる。
しかし、その端正な顔の上に、生まれながらの網目模様の痣(あざ)がある。それが今では男爵にとって大いなる劣等感になっている。
妻と出会った頃は、まだ良かった。人間は見た目ではなく、中身だと信じていたからだ。ゆえに臆することなく自然に振る舞えていた。妻はたぶん、そういうところを気に入ってくれたのだと思う。
しかし、妻が亡くなった後、お見合いの機会があり、その時に相手の女性から『何だか蛇の鱗みたい。』と言われて、心が瞬間的に瓦解した。そこで初めて、改めて自分の容貌の気味悪さに気づいてしまったのだった。
それ以来、男爵は努めて人と極力接触しないように生きてきた。自分の脆弱なガラスのようなコンプレックスに触れられたくはなかったからだ。

そんな男爵にも、唯一の慰み事があった。
それが蛾を蒐集する事だった。皆がチヤホヤする蝶には全く興味は無かった。華やかなものに対する厭世感の投影なのかもしれないと男爵は思う。しかし、同時に男爵は世間に忌み嫌われる蛾の中に、この上もない美を見い出していた。そこには、蝶にはない複雑で変化に富んだ隠微な魅力が在った。控えめでいて、ゆるぎのない美しさを感じたのだった。
ふと、男爵は思う。そういえば妻もそういう人だったのかもしれない。

そんな蛾の中でも、特に男爵のお気に入りのグループがあった。ヤガ科 シタバガ亜科のカトカラ(Catocala属)と呼ばれる蛾たちだった。
シタバガと言うように下羽に特徴があり、普段は上翅に隠された美しい下翅が、時にハッとするような鮮やかさでもって男爵を魅了するのである。黄色、オレンジ、朱色、ピンク、紫、白、紺といった豪華絢爛とも言える色が闇の絵巻のように明滅するのだ。
だから毎年夏になると、度々その美を求めて執事の近本を従えて夜の山へと訪れる。

或る夏の日の出来事だった…。
その日は体調が悪いと言う近本を伴わず、男爵は一人で山に入った。

荘厳な夕焼けが色を失った直後だった。何気に振り返ると、若い女性が立っていた。夕暮れの柔らかい風に、辛子色のワンピースの裾が静かに揺れている。
年齢は20代後半くらいだろうか、ほっそりとしており、どこか嫋(たお)やかな佇まいがある。残光に照らされた横顔は憂いを帯びて美しい。
男爵は一瞬、その姿に魅入られた。しかし、すぐに訝(いぶか)る心が芽生えた。こんな時刻のこんな場所に、なぜ若い女性がいるのだろう❓ 夕焼けを見に来た❓ まさかこんな場所に一人で❓ どうにも違和感が有り過ぎる。
男爵は不安を打ち消すかのように、彼女に声をかけようとした…。

と、ここまで書いて、何やってんだ俺❓と思う。
全ては酔っ払いの為せるわざだ。何となく試しに網目男爵の物語を書き始めたら、気がつけば勝手に筆が動いていた。妄想まで出だしとあらば、病院に行った方がいいかもしれない。オラも網目男爵と同様に、心に深い疵(きず)を負っているのやもしれぬ。

気を取り直して、本来書くべきことに戻ろう。
象は草原に帰り、オランウータンは深い森に帰る。誰しもが本来あるべき場所に戻らなければならない。

 
2019年 7月17日。
奈良でマホロバキシタバの分布調査をしている折りに、アミメキシタバも採れた。
マホロバにしては小さいし、何か変だなと思ってよく見たら、アミメだった。ここにはアミメなんていないと思っていたから、ちょっと驚いた。
7月10日にマホロバを発見して以来、毎日のように此処を訪れている。なのに見ないから、いないと思っていたのだ。それに奈良市にいるなんて聞いたことがない。知っている一番近い産地は生駒山系南部の八尾市。そのすぐ東側の矢田丘陵では、去年足繁く通ったのにも拘わらず一度も見ていない。生駒山地北部の四條畷周辺の山でも見ていない。八尾市に連なる山地に分布しないのならば、そこからそう離れていない奈良でもいないだろうと考えるのが自然な流れでもあった。

 

 
この日は2頭採れたから偶産ではなさそうだ。鮮度が良いことからも此処で発生したものだろう。遠方からの飛来ではないと言い切ってもいい。鮮度もあるし、遠くに移動するならば、もっと遅い時期だろう。

にしても、何か変だ。発生時期としては遅くないか❓ 八尾市では7月上旬辺りから発生しているという。八尾のポイントは詳しくは知らないが、大体の予測はついている。因みに麓にある恩智神社で標高約100m、奈良で採れた所が約110mだ。さして標高は変わらないのにナゼに発生期がそんなにズレるの❓
いや、待てよ。今年は蝶の発生が1週間以上遅れているとも聞く、ならば蛾の発生も遅れているのかもしれない。
まあ1週間程度なら物凄く発生が遅いと云うワケではないから、取り立てて言う程のことではないかもしれない。とにかくマホロバと比べて1週間遅い発生のお陰で助かったと云う思いはある。
もしもマホロバを発見した日にアミメも同時に採れていたなら、気づくのはもっと遅れたかもしれない。例えば、もし最初に採ったものがアミメならば、他も全部アミメだと思い込んでいたに違いない。
否、そんなワケないな。展翅したら同じだ。同じように変だと気づいてた筈。むしろ両者が並んでたら、もっと気づき易いやね。そこに「If」は殆んど無いと言っていい。アミメが居ようが居まいが見つけてたわ。

 
2019年 7月20日。
この日も奈良市で、いくつか採れた。
これで偶産ではないことは決定的と言えよう。アミメはここで間違いなく発生している。そう断言してもいい。

 

 
ポイントは前とは違う場所だ。つまり、この山系には広範囲に居る可能性が高いと推測される。

では、ここではアミメの幼虫は何を食樹としているのだろう❓
アミメキシタバの幼虫の食樹の項を見ると、大概のものには「アラカシ、クヌギなど」、もしくは「アラカシ、クヌギ、アベマキなど」と書いてある。「など」が無いのは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の「これまで幼虫はアラカシ及びクヌギで得られている」という記述くらいだ。
この「など」って、何なのだ❓ その「など」については何ら言及されてはいない。何を指して「など」なんぞと書かれてあるのだ❓ ワカラン。それってみんな、孫引きなんじゃありゃしませんか(# ̄З ̄)

この地域の植物相は、中央に古い照葉樹林があり、それを囲むようにしてクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹を主体とした雑木林が広がっている。あっ、ワシも早々と「など」を使ってしまったなりよ。コレは説明しなくとも解るとは思うけど、特定の樹種のことを言いたいワケではなくて、単に落葉広葉樹が多い植物相だって事を示したいだけだす。

調べたら、この地域には一応、以下のようなブナ科植物があった。

アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、シリブカガシ、アカガシ、ツブラジイ、スダジイ、シラカシ、クヌギ、コナラ、アベマキ。
他にツイッターにマテバシイというのもあったが、見たことも聞いたこともないし、疑わしいところがある。どちらにせよ、有ったとしても少ないだろうから、メインの食樹としては除外してもよいだろう。

有望じゃないかと思ったウバメガシは、小太郎くんを始め、色んな人に尋ねたみたが、此処には自生する木は殆んど無いそうだ。あるとしたら、民家の生け垣なんかに使われているものくらいとの事。と云うことは、ウバメガシの可能性は除外せざるおえない。

スダジイは多く見られるが、こちらは元々海岸沿いに自生するもので、おそらく植栽されたものだろう。利用している可能性は無いことはないが、元々の食樹ではなかろう。

シラカシは近年街路樹等を中心に植栽される事が多く、家の近所でもよく見かける。だが、これも本来は関東周辺から東に自生するもので、元々西の地域には少ないものだ。除外しよう。

シリブカガシは北部に纏まって自生しており、ムラサキツバメの食樹にもなっている。しかし、他ではそんなにあるようには思えない。可能性はあるが、印象的には無いと思う。シリブカガシもあまりポピュラーな木じゃない。

ツブラジイ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシは結構自生しているそうだ。これも利用している可能性はあるかもしれない。しかし、何れもカトカラの食樹として記録された例が無い。予断は禁物だが、主たる食樹ではないだろう。

残るはイチイガシ、アラカシ、クヌギ、コナラである。
イチイガシは利用している可能性はある。しかし、この木は、そうどこにでもある木ではない。アミメキシタバの他の分布域で見られることは少ないだろう。ゆえにこれも主食樹からは除外してもよさそうだ。

コナラは何処にでもあるが、今までアミメの食樹としては記録されていない。何処にでもあると云うことは、コナラで幼虫を探した人はそれなりにいた筈だ。にも拘わらず発見されていないと云うことは、外してもいいだろう。

逆にアベマキはあまり見ない。利用しているのだろうが、コレまた主要な食樹ではないとみる。

残ったのは二つ。アラカシとクヌギだ。
どちらも地域内には有り、食樹としても記録されてもいる。だが、クヌギは意外と少ない。コナラの方が多いように思う。
たぶん、クヌギは二次的利用で、多くはアラカシを利用しているものと思われる。
何か印象でばっか言ってて、あまり科学的な検証とは言えまいが、おそらく合っているのではないかと思う。

でもなあ…、クヌギは北海道には自生していないから、アミメは分布していないとは知っているけれども、アラカシの分布はどうなんだろ❓
しゃあない、調べてみっか。

Wikipediaによると、クヌギは日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布し、アラカシの北限は宮城-石川とあった。
アミメの分布図を見ると、大体それと合致する。

 
(出典『世界のカトカラ』)

 
(出典『日本のCatocala』)

 
より踏み込んで言えば、アラカシとアミメの分布の方が、より重なっているように思える。
勝手に解釈すると、やはり幼虫はアラカシを主食樹としており、二次的にクヌギを利用しているのではないかと思う。

あっ、思い出した。
そういえば、今年はナマリキシタバを探しに兵庫県の武田尾渓谷に行った時もアミメを採ったなあ…。あそこも全体的にアラカシが多いもんなあ。よし、アラカシで決まりだーいd=(^o^)=b

でもアラカシって、何処にでもあるんだよなあ…。
その割りにはアミメの分布は局所的とされる。
( ´△`)うわ~、何かメンドクセー。また、変なところに首突っ込んじゃったよ。
よし、こうしよう。アミメはアラカシが沢山ある所には大概いる。でも単に探してる人が少ないだけで見つかっていないだけだ。そういう事にしちまおう。
ガ好きはチョウ好きと比べて圧倒的に少ない。人気者のカトカラと言えども、愛好者の数はたかが知れている。分布調査が進んどらんのだろう。

シャンシャンで、これでクローズできたかと思った。
けんど、この後で西尾規孝氏の『日本のCatocala』の中に、こんな記述を見つけてしまった。

「(食樹は)アラカシ、クヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラなどでコナラ属全般を食餌植物としているとみられる」

(ФωФ)ニャーゴー、また1からやり直しだ。
ウバメガシも食樹としているというならば、やはりオイラの予想は的中だね。それは嬉しい。しかし、コナラというのが気にかかる。また、ややこしいのが出て来ましたなあ…。
クソッ、コナラの分布も確認しまんがな。

コナラは北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するとある。北海道にも有るんだね。と云うことは、もしアミメの主要食樹なら、もっと北に分布を拡大しててもおかしくない筈だ。いや、アミメは南方系の種だから無理か…。けど、分布を拡大してるとかって何かに書いてなかったっけ?
しかし、コナラは無いな。コナラが主要食樹ならば、もっと普通種であってもいい筈だ。そうゆう事にしておこう。

それはさておき、何でこの『日本のCatocala』にだけウバメガシとコナラが食樹に入れられてんだ❓
他の図鑑等の文献には出てこんぞ。この図鑑は自費出版で刷数が少なく、値段も8万円くらいと高価だから読んだ人があまりいなくて孫引きされてないだけ❓
にしても、ウバメガシ、コナラというのは、どこからの情報なのだろう?著者御自身で確認されたのだろうか?またそれは自然状態での事なのか、飼育実験での事なのか、どっちなのだ?気になるところではある。

それはそうと、やっぱりここでも「……、ウバメガシ、コナラなど」と「など」が出てくる。「など」の中身は何やねん❓他にもあるのか❓アカガシか❓、それともウラジロガシかあ❓

えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、アカガシもウラジロガシも分布を調べたろやないけー❗
とはいえ、だいたいの想像はつく。アカガシはゼフィルス(蝶=シジミチョウの1グループ)のキリシマミドリシジミ、ウラジロガシはヒサマツミドリシジミの主要な食樹だ。
ヒサマツの分布が神奈川県丹沢山系と新潟県の糸魚川辺りが東限とか北限ではなかったかと思う。キリシマは太平洋側が伊豆半島以西(丹沢かも)、北限はどこだっけ?新潟とか石川なんかにはいなかった筈だ。となると滋賀県か?いや、島根県の隠岐の島❓何かどうでもよくなってきたぞ。とにかくキリシマもヒサマツも本州の西側が分布の中心だ。
Wikipediaによれば、アカガシの北限は本州の宮城県・新潟県以西、ウラジロガシは本州の宮城県・新潟県以南とあった。同じってことだ。蝶よか、もっと北まで自生しているんだね。ヒサマツ、キリシマの分布とは微妙に異なり、ピッタリ一致はしないってワケだな。むしろアミメの分布と重なっているような気がする。
(◎-◎;)何か頭がこんがらがってきたぞ。ちょっと頭の中を整理しよう。
ヒサマツもキリシマミドリも奈良市、六甲山地には分布していない。でも、どちらの地域にもアカガシ、ウラジロガシ共に自生しているようだ。つまり、ヒサマツもキリシマも分布は局所的であり、食樹以外の条件も整わないと棲息できない特殊な蝶と言えよう。だから、この際ヒサマツもキリシマも頭から除外しよう。こんなもんと絡めてしまうから、ややこしくなるのだ。
と言いつつ、ここでまた蝶を持ってくる。しかも特殊な蝶であるルーミスシジミだ。奈良のこの森は、絶滅してしまって久しいが、かつてはルーミスの多産地であった。ルーミスの食樹といえば、イチイガシとウラジロガシである。しかし、どちらも自生する場所が少ない。ゆえにルーミスは分布が極限されると言われている。けれど、此処には両者とも沢山自生する(因みに、ルーミスがアカガシに産卵した例やアラカシより幼虫が得られたという報告もある)。
ここから強引に結論に持ってゆく。つまり、アミメキシタバは此処ではイチイガシもウラジロガシも食樹として利用している。アカガシ、アラカシ、クヌギ、コナラも食っている。六甲のものは、アラカシ、クヌギ、コナラ、ウバメガシ、アカガシを食樹として利用している。それで、もういいじゃないか。

そういう観点で冷静に見ると、この『日本のCatocala』の中の「など」は、少し他の「など」とは使い方のニュアンスが違うような気がする。後に続く言葉「コナラ属全般を食餌植物としているとみられる」と関連づけた「など」であれば理解できる。ようするに、コナラ属なら何でも食うという前提のもとでの「など」ならば、文章として辻褄が合ってると解釈できるって事だね。

それを確認するために、もう一度文章を読み直すと、その後ろに更なる文言が付け加えられている事に気づいた。
そこには「本来の食樹は成虫の分布から、カシ類、アベマキとみられる。」と続けられていたのだ。
Σ(T▽T;)ワキャー、マジ最悪の展開になってきた。
実をいうと、この食樹のくだり、あとがきも含めた全体の文章の最後に書いている。ここを書き終えさえすれば、フイニッシュだったのだ。サクッと終わらせるつもりが、何なんだ❓、この泥濘(ぬかるみ)ノタ打ち具合は❓

カシ類ってのは、あまりにザックリだし、ここへきてアベマキとは驚きだよ。
カシ類の何なんすか❓特定して下さいよ。
アベマキ❓何でクヌギではなくてアベマキなのだ❓
(# ̄З ̄)もー、アベマキについても調べなくてはならぬよ。

日本、中国、台湾、朝鮮半島に多く自生している。日本では、関東地方から四国・九州の山地に自生し、西日本では雑木林に普通にみられる。

普通に見られる❓
そうだっけ?関西ではクヌギの方が多いイメージがあるんだけど…。気になるので更に調べてゆくと、驚くべき事実が解ってきた。
関西ではアベマキと云う言葉はあまり聞かないし、名前さえ知らない人が多いと思うけど、アベマキは関西ではクヌギよりも多く自生している木らしい。ネットの素人っぽい方の情報だから鵜呑みは禁物だけどさ。

クヌギとアベマキはとても似ていて、混同されやすい。たぶん小さい時から、周りの大人にカブトムシが集まる木はクヌギだと教えられてきたので、それらしきものは全部クヌギだと脳が判断するように出来てしまっているのだろう。確かに自分の頭の中では、クヌギもアベマキもコナラもゴッチャになっている。区別せよと言われれば、一応蝶屋だから区別できるが、樹液が出てる木なら何だっていいと云う見方しかいていないのだ。これは自分が蝶の飼育をしないからだろう。木を何かの食樹としては、あまり見ていないのだ。だから特別な場合を除き、普段は似たような木を厳密的に区別する必要性を感じていないのである。

一応、クヌギとアベマキの違いを書いておこう。
ネットに『Quercusのブログ』という優れたブログがあったので、その解説をお借りしよう。

①クヌギの葉裏は無毛で緑色。アベマキは星状毛が密生し、白っぽい。また、アベマキの葉はクヌギよりもやや幅広である。

②クヌギの樹皮は灰褐色で、指で押しても硬い。アベマキの樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、コルク層が発達し、指で押すと弾力がある。

③どんぐりはクヌギは球形、アベマキは楕円形であることが多い。アベマキのどんぐりはクヌギよりも色が濃く、殻斗の鱗片は長い。どんぐりはクヌギの方が大きい。

解り易い説明だね。

自分的には、アベマキはクヌギよりも樹皮がゴツゴツしている事。葉がクヌギは細長く、アベマキはそれに比べて幅広な事。アベマキはクヌギよりも樹高が高く、大木が多いって感じで区別している。

このサイトには、他にも重要なことが書いてあった。

「クヌギ、アベマキの国内での分布は以下の通り。
クヌギ:岩手県・山形県以南~屋久島・種子島。沖縄県まで植栽。(クヌギは薪炭材を得る目的で植栽されたものも多く、自然分布ははっきりしない)
アベマキ:山形県・長野県・静岡県以西(紀伊半島を除く)~九州。
両者はすみわけをしており、東日本にクヌギ、静岡県(大井川流域以西)・石川県より西がアベマキの林になる。
大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所があるという。
また、紀伊半島にアベマキは自生しないらしい。
このように、アベマキは特異的な分布をしている。」

大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所というのは、よく解る。だから、あまりアベマキのイメージが強くないのかもしれない。知らなかったが、紀伊半島にアベマキは自生しないと云うのもアベマキの印象を薄くしているのだろう。
アミメキシタバって、紀伊半島にはバリバリいるよなあ…。って事は、紀伊半島のアミメの食樹は別に有るって事だね。やはり一番利用されているのはアラカシ、もしくはウバメガシなんでねーの。

続きを読もう。
「また、クヌギは朝鮮半島からの移入種であり、日本にあるものは全て植栽されたものという説もある。
中国では標高600~1500mにアベマキ、標高900~2200mにクヌギが生育しているという。
私の推測の域だが、元々日本にはクヌギはなく、暖地性のアベマキが分布しない地域(静岡県・石川県以東)に薪炭材を得る目的でクヌギを植林し、現在のようなすみわけになったのかもしれない。」

クヌギは昔の里山では薪や炭として利用価値が大きく、植栽が進んだとは知っていたが、完全な移入種とする説があるとは知らなかった。
もしそうならば、クヌギはアミメの本来の食樹ではないと云う事になる。となると、西尾氏のアベマキを本来の食樹の1つとする言は慧眼かもしれない。
しかし、やはり生息環境からみれば、基本的な食樹は常緑カシ類だろう。アラカシを中心に常緑カシ類、特にコナラ属ならば何でも食うのだろう。で、二次的に落葉性のコナラ属も利用している。そうゆう事にしておこう。もう、ウンザリなのだ(ノ-_-)ノ~┻━┻
でも、そうなると、カシワ、ナラガシワ、ミズナラも利用しているの❓
(-“”-;)もう、やめとこ。

 
2019年 7月21日。
去年に引き続き、クロシオキシタバ狙いで六甲方面へ行った。

夕方前、木に静止しているアミメを見つけてゲット。

 

 
静止位置は目線のやや上、上下逆さまてはなく、頭を上向きにして止まっていた。
カトカラたちは、昼には頭を下にして逆さまに止まっているが、夜は普通に頭を上にして止まっている。
では、いつ逆さま止まりから上向き止まりになるのだろう❓ そもそも、何故に昼間は逆さまに止まるのだ❓しかも昼間に驚いて飛んだ場合、上向きに着地して一旦静止。暫くしてから、また逆さまになるという。ワザワザもう1回逆さまになると云うことは、そこには何らかの意味があるということだ。
でも、考えても意味も必要性も全くワカラーン。
この逆さまになる理由については、誰も何処にも言及していないと思う。誰か、解りやすく説明してくれんかのぅー( ̄З ̄)

夜になって、シッチャカメッチャカになったけど、それなりの数のアミメを確保できた。その辺の顛末は、前回の『網目男爵』、前々回の『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』に詳しく書いたので、ソチラを読んで下され。

何度も使っている写真だが、この日採ったものの一部を貼付しておく。

 
【Catocala hyperconnexa アミメキシタバ♂】 

 
【同♀】

 
【同裏面】

 
それなりに採った筈なのに、画像があまり無い。
おそらく面倒臭いので、展翅はしていても写真には撮っていないのだろう。やっぱりアミメキシタバに対しての愛が少ないのかなあ❓

 
                    おしまい

 
追伸
いやはや、冒頭部がまさかの小説風の入りになろうとは自分でも予想外の展開だった。
網目男爵とカトカラを引っ付けた話だなんて、メチャメチャ過ぎて最初から無理だと思っていた。しかし、アルコールの力、恐るべしである。突然、何かが降りてきて、一気に書いた。
翌日に、誤字脱字「てにをは」句読点は一部修正したものの、あとは全文ほぼその時のままである。
また何かが降りてきてくれたら、続きを書けるかもしれない。まあ、どうせ泥酔酒バカ男と化すだけで、そんな都合よくいく事なんて有り得ないと思うけど(笑)。

今回は、かなり短くなると思ってた。それゆえの網目男爵の冒頭文の発想も出てきた。相当短いツマンナイ回になると思ったから、潜在意識の中に何かしらアクセントをつけようという考えがあったのかもしれない。駄文製造家にも、少しでも面白くしようと云うそれなりの気づかいがあるのだ。結局、最後に食樹のところで躓いて、又しても長文になっちゃったけどね。

次回は、やっと書きたかったカトカラについて書ける。謂わば、ソレとアレの2種類についての採集記が書きたくて、この『2018’カトカラ元年』のシリーズを始めたのである。
でも、思った以上に書くのは大変で、始めた事を後悔している。ソレとアレの事だけを書いときゃよかったのに、下手に完璧主義的なところがあって、前後時系列の中での、その文章であって欲しい。そういう無意識下の願望があったのかもしれない。謂わば、ソレとアレを書くために今まで駄文を重ねて来たのだ。
(-“”-;)しまった…。自分でハードルを上げてどうする。
けど、次回取り上げるカトカラも一年半近く前の話だもんなあ…。結構色んなことを忘れてるかもしんない。気合いだけ空回りして、ドツボの回になったりしてさ。
クソッ、いっそ全文小説風、しかも純文学風で押し通してやろうかしら( ̄∇ ̄*)

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット
・『ギャラリーカトカラ全集』インターネット 
・『兵庫県カトカラ図鑑』阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人 きべりはむし
・『Quercusのブログ』インターネット

 

2018′ カトカラ元年 其の十

 
 vol.10 アミメキシタバ

   『網目男爵』

 

採集過程は前々回のクロシオキシタバの回で既に詳しく書いているので、おさらいでサラッと書きます。
あっ、忘れてた。その前に八尾のことを書いておこう。

7月中旬には記録のある大阪府八尾市に行く予定だった。しかし、去年にマルタンヤンマを探しに行った折り、物凄い数の目まといに襲われてエラい目にあった。奴ら、目の中に入ってくるので死ぬほど鬱陶しい。ワシ、サバンナのライオンちゃうぞ、(#`皿´)ボケッ❗

オイちゃん、網を振りまくって彼奴(きゃつ)らを拿捕し、網の上から纏めてグシャグシャに握り潰しまくってやった。殺戮ジェノサイドである。殺意はとどまることを知らず、爆殺💥カーニバル。少なくとも五百匹は殺してやったと思う。
普段は「生き物は大切にしましょう。」なんて言ってるクセにコレである。酷い男なのだ。
世間には、こういう言葉を正義感ぶって吐く者が多いが、ハッキリ言って欺瞞である。アンタら、家にゴキブリが湧いたら殺さへんのかーい❗蚊にたかられたら、叩き潰さんのかーい❗❓
まあいい。そんな事はどうでもよろし。
兎に角そう云うワケで、もうマルタンヤンマどころではなくなって、殺戮に明け暮れてヘトヘトになってしまったのであった。それを思い出して、行くのを躊躇しているうちに、いつしか7月下旬になってしまった。

 
2018年 7月26日。

この日は明石城跡に出掛けた。
ここにアミメキシタバとクロシオキシタバの両方の記録があったからだ。一挙に2つ合わせて採ってやろうと云う算段だった。
しかし、両者とも姿さえ見ず。惨敗を喫する。

 
2018年 8月1日。

取り敢えず先にクロシオキシタバを落とそうと思い、六甲へと向かう。
調べて、ここに幼虫の食樹であるウバメガシが多いと突き止めたからだ。
山中に入り、すぐクロシオを仕留める。その後、予想外のアミメまで採れた。

 
【アミメキシタバ】

 
個体数は多く、殆んどは樹液に飛来したものだった。
尚、途中でクロシオがド普通種のパタラ(C.patala)に見えてきて、アミメがクロシオに見えてきた。で、クロシオを無視してアミメばっか一所懸命に採るという大失態をしでかしてしまった。情けないけど、カトカラ1年生は下翅の黄色いキシタバ類の区別がロクにつかんのだよ、もしぃ~(´∇`)
でも、これからカトカラを集めようと思ってる人は笑ってらんないよー。アンタらもゼッテーにワケわかんなくなっからね。

と云うワケで、ここにはクロシオを採り直しに8月4日にも再訪した。勿論クロシオをシバき倒して、アミメもシバき倒してやった。

以上である。
Σ( ̄O ̄)ワオッ、要約すると、こんなにも短くできるのね。ワシ、どんだけ枝葉の話ばっか書いとんねん。

あまりにも短いので、当時Facebookにあげた記事を一部訂正して再録する。

『アミメキシタバ❗❓ 採った瞬間、直感的にそう思った。
しかし、ウバメガシの森なのにコレばかり飛来するから、次第にコヤツがクロシオキシタバでは?と思い始めてワケわかんなくなってきたなりよ。で、とりあえずコレ中心に採ってた。
でも普通のキシタバ(C.patala)じゃろうと無視してたデカめなのが、今思えばたぶんクロシオに違いない。そんなデカイだなんてネットの記事や図鑑にはどこにも書いてなかったどー(-_-#)
(# ̄З ̄)むぅー、クロシオは夕方に道中で最初に採ったもの(コレも直感的にはクロシオだと思った)と、他にもう1頭しかないから、明日また行くつもり~。

 
【クロシオキシタバ】

 
けど六甲は坂がキツイから憂鬱なんだよなあ…。明日もクソ暑いそうだから熱中症になりかねんわい。
それに、明日は淀川の花火大会だ。まともな脳ミソの持ち主ならば、どう考えてもソチラに行く方が賢明だと判断するじゃろう。せやけど、人が多いのもイヤだしなあ…。(# ̄З ̄)ブツブツ。』

書いたことはすぐ忘れる性質(たち)なので、自分が書いた文章だとは思えなくて、ちょっと面白かった。
書いたばかりの自分の文章を読むのは嫌いだが、時間が経ってから読む自分の文章は割合好きだ。だって、本人が何を書いたのかをあまり憶えてないから、他人が書いた文章のように読めるのである。時々、自分で書いといて、吹き出してしまう事だってある。コイツ、アホちゃうかと思って笑ってしまうのである。でも、よくよく考えてみれば、自分の書いた文章で爆笑とかって滑稽だ。で、何だか変テコな気分になる。

また、前々回のクロシオの文章や今回の要約文とはタッチが微妙に違うのにも驚いた。オイラって、その日の気分で文章を書いてる人なんだろなあ…。プロットとか、あんましないのだ。全体を考えてから文章を書き始めるタイプではなくて、書いてるうちに何となく文章が出来上がってゆく、謂わば行きあたりバッタリの人なのだ。緻密さなんて、全然ないのさ、ぷっぷっぷー。
何か納得したところで、話を前へと進める。

その時に採ったものの一部を並べておく。

 
【アミメキシタバキシタバ♂】

 
展翅、へったクソやなあ。
カトカラ1年生は展翅バランスが分からなくって、上翅を上げ過ぎてるのさ。蝶の展翅とはバランスが違うのに中々気づかなかったのである。前縁と頭部の周辺に空間が開くのが蛾では当たり前だと知らなかったんだもん。秋田さんに言われて、漸く気づいた。言われた時は、ちょっと気色ばんだけど、今では感謝してる。

もう1つ♂っぽい画像が出てきた。↙
けど、これってホンマに♂かいな❓
腹の形が♂っぽいけど、上翅の感じが♂らしくない。

 

 
アミメの♂の上翅はベタな茶色なのだが、この個体は白斑がやや出ていて、コントラストもある。♀には上翅に白斑が入るものが多いが、♂にもそのタイプって、いたっけ❓
単に腹が伸びちゃっただけ❓
それに♂の特徴である尻先の毛束も少ないような気がする。
(;゜∇゜)アカン…、上から三番目も♀に見えてきた。カトカラは基本的には雌雄同型なので、しばしばオスとメスがわかんなくなる。カトカラも雌雄異型なら、更に人気が出るのになあ…。蛾って、フユシャクとかは別にして、あんまし雌雄異型というイメージがない。雌雄が異型のものは進化した種で、同型のものは旧いタイプの種とかっていう見解は無いのかね❓聞いたことないけど。

 
【アミメキシタバ♀】

 
上翅が上がり過ぎだけでなく、触角も酷いことになってるな(笑)
たぶん、カトカラの触角は細くて長いから、すぐ切れるので頑張らなかったんだと思う。蛾の展翅写真って、下手なのが多いし、こんなもんでいっかと思いがちなのだ。べつに上手いと思われなくてもいいやと思ってたフシがある。蝶は好きでも蛾は嫌いという感情が、まだ色濃く残ってたところもあるんだろね。ようするに、対象物に対しての愛が少なかったのである。

多くの♀が上翅に白斑が出て、白いポッチ(腎状紋)がある。それで、雌雄の区別はある程度できる。
♂よりも♀の方がコントラストがあるから、見た目はまだマシかな。あっ、コレってアミメに愛があんまし無いって言い草だな。
認めよう。小さいし、茶色だし、帯が太いから黄色いところが少ないので、あまり魅力を感じない。採れた当初は嬉しかったが、今となってはアミメなんてどうでもいい存在なのだ。

 
【裏面】

 
他のキシタバと比べて、黒い領域が多い。中でも特に上翅の内側が黒いという印象がある。個体によるだろうけど、大体そこで他種とは見分けがつく。

展翅が酷いので、一応今年のものも並べておこう。
展翅によって種のイメージも変わりかねないからね。

 

 
上から♂、♀、裏面。
比較用にクロシオキシタバの裏面画像も貼っつけておこう。

 

 
全然、ちゃいまっしゃろ。
殆んどの図鑑には裏面が図示されていないし、違いについても言及されていない。それって、どうよ❓ダメじゃなくなくね❓
裏面が、種の同定をするにあたり重要な意味を持つ場合だってあると思うんだけど…。

 
【学名】Catocala hyperconnexa(Sugi,1965)

おそらく蛾の高名な研究者である杉 繁郎氏の記載であろう。
御本人に学名の由来をお訊きすれば、簡単で話も早いのだろうが、残念ながら既に他界されておられる。
取り敢えず、自分で調べてみっか…。岸田せんせや石塚さんに訊くのは、それからでも遅くはないだろう。

頼みの綱の平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、残念ながら同じ学名の蝶はいなかった。近いものに、以下のようなものがあった。

[hyperantthus(ヒュペラントス)]
ミヤマジャノメの小種名。ヒュペラントスはアイギュプトスの50人の息子の一人。リンネの命名。

[hypereia(ヒュパレイア)]
トンボマダラ科の1種。

[hyperia(ヒュパリア・ヒュパレイア)]
ヘリアカタテハの小種名。
ヒュパレイアはテッサリアの町ペライの泉の名。ペライはアドメートス王の居所(ラテン語辞典)。なお、ヒュペレイア Hypereiaはギリシア語。一方のHyperiaはラテン語で、大洋神オーケアノスの娘、テッサリアのペライにある泉の精を意味する。

[hypermnestra(ヒュペルネーストラー)]
ルリモンジャノメの小種名。
ヒュペルネーストラーはダナオスの50人の娘の一人。

相変わらず、ギリシア神話って全然アタマに入ってこない。固有名詞がチンプンカンプンである。
それはそうと、読みはハイパーコネックスじゃないんだ。久し振りに学名のことを書くので、無意識に英語読みしてたよ。学名は基本的にラテン語読み、もしくはギリシア語読みなのを忘れてたわ。となると、ヒュパルコネクサ❓ヒュペルコネクサ❓まあ、そんなもんじゃろう。

他にも蝶の属名に Hypermnestra というのがあるようだ。また種名にも hypermnestra が使用されており、マダラチョウ科のIdea属、タテハチョウ科のMestra属にそれぞれいるみたい。

見た感じ、学名の小種名はおそらく何かと何かを組み合わせた造語だろう。たぶん、hyper と connexa という単語が合体したっぽい。和名のアミメと下翅の特徴から、下半分の connexa は、英語のコネクト(connect)を類推させられる。意味も「連結する、接続する、繋げる」といった意味の動詞だから、イメージとも合致する。つまり、アミメキシタバの最大の特徴は下翅下部の黒帯が2ヶ所で繋がるって事ね。ようは日本のキシタバ類の中では、一番繋がってるがゆえの命名なのだろう。

更に調べると、ラテン語に connnexio(コンネクシォ)という言葉があるみたいだ。意味は同じく「絆、共に繋ぐこと」だそうだ。因みにラテン語には、connecto(接続する)という言葉もある。これもまた2つの言葉が組み合わさったもののようだ。con-(一緒に)+necto(結び付ける)➡ gned-(縛る)が語源とされる。「結び合わせること」が、この単語のコアの意味との事。

前半部の「hyper」は、英語だとハイパーだよね。「上」「超越」「向こう側」を意味する英語の接頭語だ。これはギリシャ語のヒュペル ὑπερ (hyper) が語源。似た意味を持つ接頭語に、ラテン語に由来する「スーパー」「ウルトラ」「アルテマ」などがある。いくつかの分野では、やや厳密な意味を持ち、英語の「over」や「above」にあたるとあった。

何だか小難しい表記だなあ。
孫引きばかりで、解りづらくてスマン。
ようは、杉さんはメチャンコ黒帯が繋がっているということを表現したかったのだろう。
多くの学者さん(杉さんの事ではない)は賢すぎて、難解な文章を書かはるから、アタマ悪りぃオイラには何を言わんとしているのかを理解するのは大変だ。
たとえ高尚な文章でも、難解ならば相手に意味が伝わらない。それって、本末転倒だ。アタマいいって、アタマ悪くないか❓

 
【和名】
和名は下翅の黒帯が網目模様のように殆んどが繋がることからの由来だろう。結局、皆そこへ行っちゃうのね。

特に優れた和名とは思わないが、他に適当な和名がないというのも事実だ。
ちなみに、別名にハイイロキシタバなんてのもあったようだが、全く使われていない死語になっている。
そもそも何処が灰色やねん?それに他によく似た名前のハイモンキシタバがいるから、混乱を招きかねない。消えて当然でしょ。

けど、あとで語源がわかった。どうやら腹部が灰黄褐色な事から名付けられたようだ。でも何度と採っているのにも拘わらず、そこには全く気づかなかった。たいたい翅の特徴ではないと云うのが承服しかねる。そもそも余程の色の違いがなければ、そんなもん気づくかボッケーッ(*`Д´)ノ❗❗である。消えて当然の和名ざましょ。

また、学名の小種名をそのまま使うという和名のつけ方があるが、これもアウトだな。ヒュパルコネクサキシタバなんてクソ長いし、舌を噛みそうだ。アミメキシタバで妥当だろう。今のところ、和名に意義なし。

余談だが、こうした後翅の中央黒帯と外縁黒帯が2ヶ所で繋がるパターンのキシタバ類が、近年になって中国やインドシナ半島北部から幾つも発見されているそうだ。何れの種も照葉樹林への依存度が高いと推察されている。
或いは日本にも従来アミメキシタバとされてきたものの中に、隠蔽種の別種が混じっているかもしれない。自分たちが発見した Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバなんかも、その一つの例だろう。黒帯は繋がらないけどさ。

 
【翅の開張】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、前翅長26~28㎜とあったが、これは間違い。3センチって、極小やないけ。それだとカトカラ1のチビッ子になってまうやんけ。
対して岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』には、開張53~59㎜とあった。コチラが正解だろう。
これからは岸田先生の図鑑を参考にしよう。『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は参考にはなるけど、情報を鵜呑みにするとエライ目にあう。とにかくカトカラの仲間の中では小さい部類には入る。近似種のクロシオキシタバは比較的大きいので(58~68㎜)、それで一見して、大体の区別はできる。
付け加えておくと、前述のマホロバキシタバは両者の中間の大きさである。この三者の区別方法は、そのうち纏めて書きます。

 
【分布】
関東以西の本州、四国、九州、対馬。
佐渡島にも記録があるようだ。しかし、屋久島には記録がないという記述が散見される。但し、石塚さんの『世界のカトカラ』の分布図には、生息を示す色付けがなされている。どっちなんだ❓
一応、屋久島に産するとされる文献を探してみたが、見つけられなかった。単に鹿児島県という県単位で色付けされているだけなのかもしれない。だとしたら、ややこし過ぎ。

暖温帯系の種とされるが、地球温暖化に伴い北に分布を拡大しているとも言われている。しかし、これも詳細はわからなかった。

かつては日本の固有種だったが、その後インド北部から中国南部を経て日本にまで広く分布していることが分かったそうな。カトカラの分布って、日本も含めて結構いい加減だよなあ…。蛾の中ではポビュラーなグループだけど、それでも蝶に比べて研究はまだまだ進んでいないように思える。蛾って、それくらいマイナーな存在なのだと理解したよ。そう云う意味では面白い分野だとは思う。蝶みたいに、あらかたの事が調べられているものよりも未知な部分があって、調べ甲斐がある。っていうか、性格的には合ってるかも。

 
【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)、滋賀県:絶滅危機増大種、兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種)
 
兵庫県も含まれているとは意外だった。レッドデータって、案外とアテにならないと思う。但し、分布は局所的な感じはするので、いるとこには沢山いて、いないとこには全然いないと云うのはある。レッドデータも担当者次第では見方も変わるということか…。
因みに、個人的見解としては照葉樹林のカトカラだと思う。豊かな照葉樹林が残る地域では、稀ではないだろう。

 
【成虫の出現期】
早い年には6月下旬から見られるが、平年は7月上旬から現れ、10月上旬まで見られる。寿命は比較的長いようだ。但し、8月を過ぎると新鮮な個体は殆んど見られなくなる。
余談だが、奈良市ではマホロバとは発生が1週間遅れ、7月中旬の後半から現れ始めた。

 
【成虫の生態】
主に暖帯の照葉樹林帯とクヌギ、アベマキ、コナラを主体としたの落葉広葉樹林帯に見られる。しかし、本州中部以北の落葉広葉樹には殆んど見られない。
稀にブナ帯など高標高地や冷温帯でも採集される。これは飛翔能力が高く、酷暑の時期には移動するのかもしれないという見解がある。
前述したが、基本的には照葉樹林のカトカラだと思う。

樹液に好んで集まり、糖蜜にもよく反応する。飛来時刻は日没直後にワッと集まってきて、その後二度ほどの小ピークはあるが、だらだらと飛んで来る印象がある。但し、これは生息地にもよるだろう。あっしの言葉を鵜呑みにされないが宜しかろう。

灯火採集はしたことはないが、よく集まるという。
昼間は頭を下にして静止している。驚いて飛び立つと、上向きに止まり、暫くしてから下向きになる。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ、クヌギ、アベマキが記録されている。ウバメガシは記録されていないようだが、学術上は近い関係なので、利用している可能性はあると思う。いや、その可能性は極めて高いと思われる。実際、蝶のウラナミアカシジミは基本的にはクヌギ、アベマキを食樹としているが、亜種のキナンウラナミアカシジミはウバメガシを利用しているという例もある。
また、クロシオキシタバのいる海岸林には必ずアミメもいるという意見もあるので、ウバメガシとは密接な関係にあるのではないかと推測している。まだカトカラ2年生の言なので、コレまた鵜呑みにされないが宜し。

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には、観察例は少ないものの、幼虫は樹齢15~40年くらいの木を好むそうだ。

                    おしまい

 
追伸
「網目男爵」というフザけた小タイトルは、半分は思いつきのノリでやんす。顔が網目のダンディーな男爵を想像した人はゴメンね。
これは何となくそう感じたというか、そういう単語が浮かんたので、心の中でアミメのことをそう呼んでいたのだ。
だが、人前で口に出して言ったことはない。また、アタマがオカシな人だと思われるのもねぇ…。

とは云うものの、「網目男爵」とタイトルを付けたので、網目男爵物語の捏造を目論みはした。けど、流石に無理がある。アミメキシタバと網目男爵を繋げて、物語として成立させるだなんて云うハイパーコネクトな芸当は不可能に近い。ゆえに早々と断念した。アホな事を考えてるヒマがあるなら、本日の飯の仕込みでもしてた方が良いもんね。

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『蝶の学名-その語源と解説-』平嶋義宏 九州大学出版会
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット