2020’カトカラ3年生 其の壱 後編

 
    vol.24 アズミキシタバ

      『黄衣の侏儒』

 
後編は種の解説編でごわす。
毎度の事ながら、カトカラ界の両巨匠である石塚勝己さんの『世界のカトカラ』と西尾規孝さんの『日本のCatocala』の画像をふんだんに拝借させて戴きます。礼❗m(_ _)m

 
【アズミキシタバ♂❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
小さいけれど美しいカトカラだと思う。
特に下翅のレモンイエローは素敵だね。しかも、その黄色の面積が広い。日本のキシタバ類では、この明るい黄色を有しているのは他にカバフキシタバとハイモンキシタバくらいだ。ジョナスやゴマシオも明るめの黄色だが、その色がくすんでいたり、黒帯が太くて黄色が目立たなかったりするからね。

 
【同♀❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♂❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♀❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
日本では最も小さなカトカラである。
腹部は僅かに黄色味を帯びた灰色。前翅はわずかに金属光沢を帯びた暗い灰褐色で、亜外縁に縦長の灰白紋を有し、ワモンキシタバ(C.xarippe)やキララキシタバ(C.fulminea)のように黒い腎状紋の下の線が大きく湾曲する。後翅はレモンイエロー(明るい黄色)で、中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、外縁黒帯は途中で分離する。また翅頂にはハッキリとした黄斑がある。
前翅はワモン&キララやナマリキシタバと似るが、後翅の柄は何れも似ておらず、また遥かに小型ゆえ、判別は容易。

 
(ワモンキシタバ Catocala xarippe)

(2020.8 長野県木曽町)

前翅の斑紋は似るが、色が違う。

 
(ナマリキシタバ Catocala columbina)

(出典『世界のカトカラ』)

前翅の色は似ているが斑紋が違う。また後翅の帯の形も違う。
大きさは近いものがあるが、相対的にナマリの方が少し大きい。

反対に後翅が似ているハイモンキシタバとは前翅の色柄が全く違う。

 
(ハイモンキシタバ Catocala mabella)

(出典『世界のカトカラ』)

同じく大きさに格段の差もあるから、これまた判別は容易である。

 
【雌雄の判別】

基本的なカトカラの雌雄の違いは、♂は腹部が細くて長い。また尻先に毛が多く、筆状(毛束)に見える。
一方、♀は腹部が太くて短い。そして尻先に毛が少なくて尖って見える。また翅形が丸みを帯びる傾向がある。
しかし現地で採ってても、今イチ雌雄の区別がつかんかった。ならばと『世界のカトカラ』のアズミの写真を見たら、コレが驚いた事に微妙なんである。

 
(♂)

 
腹が細くて細いけど、尻先の毛束の量が思った以上に多くなくて、雌雄に大きな差がなかったりするのだ。
図の右は毛が有るのが明確に分かるが、左はよくワカラン。冒頭の展翅した♂とおぼしきものも、他のカトカラの♂と比べて毛があまり無い。

  
(♀)

(出典 2点とも『世界のカトカラ』)

 
そして、♀は毛束こそ目立たないが腹が細くて長く、一見して♂っぼく見えるのだ。あとは尻先が毛束がない分、尖って見える。これは他のカトカラの♀も同じような特徴を持つものが多いから理解できる。
翅形はやや丸みを帯びるが、例外も多いので決定的な判別には使えそうにない。あくまでも補足事項なのだ。

ならば裏面から尻先を見たらと思った。多くのカトカラの雌雄の違いは此処に縦にスリットが入っているか否かで分かる。スリットが入っており、その下に黄色い産卵管が見えていれば、間違いなく♀だからだ。しかし図鑑やネットで裏面写真を掲載しているものは極めて少ない。そして尚悪いことに干からびたような標本写真が多いので、判別が困難なものばかりなのだ。

取り敢えず冷凍庫にブチ込んだままの残りのアズミを展翅しよう。でないと埓が開かない。まだたったの2頭しか展翅していないのだ。それも3ヶ月も前の話だ。展翅が嫌いなのだ。だから億劫にもなる。
それはそうと、ろくに展翅もせずに文章を書いてるって初めてなんじゃないか❓あっ、言っとくと、この時点では実をいうと後編の解説編の方から先に書きだしておるのだ。で、この項の途中で投げだして前編の採集記の方を書いたのである。たとえ展翅したものが無くても前編は書けたってワケ。

さて、邪魔くさいけど展翅すっか。
その前に、前回載せた展翅個体の展翅する前の画像が出てきたから載せておこう。

 

 
冒頭の♂とおぼしき個体の展翅画像と、おそらく同一個体であろう。
尻先にあまり毛がないから♀に見えなくもない。いや、♀かも…。
何か早くも迷宮世界に入っちゃった気がするぞ(ー_ー;)💦

お次は前回に♀とおぼしきものと書いたものだ。

 

 
何度も画像を貼り付けるのが恥ずかしくなるくらいのハゲちょろけ、MAXハゲだ。
腹が太くて全体的に羽に丸みがあるので♀に間違いないと思うんだよね。
その同一個体がコレ↙。

 

 
画像だと何となく腹が短いような気がする。ならば♀か❓
でも尻先に毛束があるようにも見える。そして、反対側の面の画像を見て、あれっ❓と思った。

 

 
尻が長いので♂にも見える。
いや待てよ。アズミの♀って腹が長かったよね。ならば尻先はどうだ❓
┐(´д`)┌ありゃあー、毛がないように見える。あっ、♀なら無い方がいいのか…。頭の中がグジャグジャで、段々自分でもワケわかんなくなってるぞ。完全にラビリンスだ。

取り敢えず、新たに展翅してみよう。
先ずは腹先にスリットが入っているかどうか確かめよう。

 

 
あちゃま、腹の部分だけ黒く映っとるやないの。
撮り直しだね。

 

 
尻先にスリットは無いように見える。産卵管も見受けられない。けど小さいから、よく分かんねぇぞ。ん〜、毛束も有るみたいだから♂かえ❓

横からの画像も撮る。

 

 
w(°o°)wゲッ、全然ピント合っとらへんやないけー。
尻先は一応、毛束があるように見える。でも他のカトカラの♂と比べて、やっぱり少ない。(´-﹏-`;)何なんだよ〜、おまえー。

展翅してみる。

 

 
しっかり毛束があるから、たぶん♂だね。
となると、♀であると言い切れるようなものを探せば、この迷宮から脱出できるってワケだ。

 

 
毛束が結構あるように見える。
とゆうことは♂❓

ひっくり返す。

 

 
スリットは無い。って事は♂なのか…❓
腹も細くみえるしね。

 

 
コレは腹が細いし、毛束もあるから♂だろう。
ん❓ちょっと待てよ。さっきのは尻先に毛束が有ったけど、腹はもっと太かったような気もするぞ。
まあいい。ならば、♀を早く見つけるのが先決だ。一つ一つアテなくチビチビ展翅してらんない。よし、ここは取り敢えず全部の三角紙を開けて、♀らしきもんを探して展翅していこう。自ずとそれで答えに辿り着けるだろう。

おっ❗、あった。

 

 
ちょっと大きめで腹が太いからコレは絶対♀だろう。鮮度も抜群に良さそうだし、ラッキー✌️

しかし展翅しようと羽を開いたら、ヽ((◎д◎))ゝガビーン❗
何と、まさかのマメキシタバの♀であった。どうりで大きくて裏面の黄色が鮮やかなワケだ。変だなあとは薄々思ってたんだよなあ…。(-_-メ)ケッ、即座に冷凍庫にお帰り願おう。

 
(Catocala duplicata マメキシタバ♀)

(2019.8月 大阪府)

 
そうゆうワケで展翅はしてない。なので、さっきの個体ではないが、代わりの画像を貼っつけておく。コレを見れば、カトカラの♀の典型的な形が御理解戴けるかと思ったのである。
すなわち腹部が太くて尻先の毛が少ない。また毛が少ないゆえに尻の先端が尖ったように見える。
比較のために♂の画像も貼付しておく。

 

(2020.8月 長野県木曽町)

 
既に前述しているが、通常のカトカラの♂は腹部が長くて細く、尻先に毛束がある。ねっ、コレ見ると、アズミが全部♂に見えてくるざましょ。

他に♀っぽいものはないかと探したが、コレというものが見つからない。何かどれも微妙なのだ。
気を取り直して地道に展翅してゆくことにした。

 

 
毛束も無いようだし、胴体に厚みがあるように見えるから♀っぽいような気がする。

反対向きでも撮ってみる。

 

 
えっ❓、何か毛があるように思えてきたぞ。腹部も長く見える。
ん❓、長さは関係ないんだっけか…。
何かまた自信が無くなってきた。

裏返す。

 

 
腹が太いから♀っぽい。
でもスリットは入ってないよなあ…。
もしかしてアズミって、♀もスリットが無いのか❓

展翅してみる。

 

 
♀っぽいような気もするし、♂っぽいような気もする。
もうアンタ、どっちなんだよー(≧▽≦)❓全員、オカマとちゃいますのん❓

脳ミソがパニくりながらも、次へと挑む。

 

 
ヤケに胴体が長いなあ。
尻先は毛があまり無くて、尖ってる。

 

 
コレは♀なんじゃないか。
尻先に僅かにスリットが入っているようにも見える。それに尻先に毛束が無く、先端もカトカラの♀特有の形をしているように見える。もしかしてコレこそが正真正銘の♀❓
早る心で展翅する。

 

 
だから気合入れて触角を真っ直ぐにしたよ。
でもさあ…、特別♀って感じがしないんだよなあ…。

ここで、ふと思う。スリットが入っているように見えたが、単に毛に分け目が出来てただけかもしんない。改めて他の種類のカトカラで、スリットが入っているモノを確認してみよう。

 

 
上がウスイロキシタバで下がハイモンキシタバである。
どちらも縦にスリットが入り、その下に黄色い産卵管が見えるのが御理解いただけるかと思う。とはいえ、分かりづらい種もいたとは思う。何だっけかなあ…、ミヤマキシタバかなあ。ちょっと思い出せないけど、ここではこれ以上触れない。今はスリットが有るのはどんなものなのかと云う話なので、また別な機会にでも取り上げよう。

参考までに、もう一点だけ貼付しておきます。

 

 
中でも最も分かりやすいのが、このムラサキシタバであろう。
これでよく解ったよ。スリットはどれもハッキリと見える。さっきのアズミのスリットとおぼしきものは、これらから見たら、とてもじゃないがスリットが入ってるなんて言えない。ただの毛の分け目だよ。
\(◎o◎)/ゲロゲロー、と云う事はだな、どれもスリットが入っておらん❗とゆう事になる。
何なんだ❓この展開は❗❓
もう1回、ネットで裏面画像を探そう。それでスリットが入ってる奴が見つかれば、今回採ったものは全て♂とゆう事になる。まさかそんな事はあるまいとは思うが、だとしたら奇跡的偶然だろう。いや、背中ハゲちょろけのスーパー落武者の♀とおぼしきものが有るか…。アレは絶対に♀だと思うんだよね。
(+_+)クソー、どちらにせよ、来年また♀を採り直しに行かねばならぬと思うと、暗澹たる気分になるよ。

先ずは『みんなで作る日本産蛾類図鑑』で確認しよう。確か裏面画像があった筈だ。

画像は貼り付けないが、確かにあった…。
しかし、のっけから奈落へ。そこにはオスとの表記があり、確かに腹が細くてオスっぽいのだが、何と尻先に毛束がない。だから『世界のカトカラ』のメスの腹端に似てる。これって或いは♀なんじゃねえの❓もしや誤表示❓でも蛾のプロかプロ的な人が執筆しておられる筈なんだから、そんな事ってある❓
とはいえ、やはり腹先にはスリットも産卵管も認められない。とゆう事は♂で合ってんのか…。
まあいい。それも含めて雌雄が明記されている画像を他から探そう。

(-_-;)…。
しかし、スリットや産卵管がある画像は一つも見つけられなかった。そして驚いたことに標本如何にかかわらず、雌雄が明示されているサイトが殆んどない。怠慢❓いや、皆さん自信がないのかもしれない。それくらい雌雄の判別が難しいとか…❓考えてみれば、そもそもアズミの雌雄の判別について言及された資料を一つも見てないのだ。

そんな中、雌雄が明記されたサイトに漸くヒットした。
2012年に中国から近縁の新種(C.borthi)が記載されており、そこにアズミの画像もあった。


(出典『A new species of Catocala Schrank,1802 from china』)

 
どうやら記載論文のようだ。その”Catocala borthi”が一番上で左が♂、右が♀である。以下各種、雌雄が左右同じ法則の並びになっている。
2列目がアズミキシタバだ。因みに3列目と4列目の左はキララキシタバ、4列目右は C.invasa(ヒカルキシタバ)である。
さて、アズミキシタバである。カトカラを見慣れたものからすると、どう見ても雌雄が逆になっているように見える。すなわち右は腹部が長くて尻先に毛束があり、カトカラ全般の♂の形だ。一方、左は腹部が短くて尻先に毛束がなく、先が尖っていて、♀的な形なのだ。まさか、また誤表示❓
( •́ ε •̀ #)ったくよー。頭の中が益々グシャグシャだ。
尚、この中では交尾器&DNA解析の結果、新種と一番近縁なのがアズミなんだそうだ。

ここで、んなワケなかろうとサイトを見直してみた。どう見ても、左は♀でしょうに。
(´ε` ) あちゃー、驚いた事に何と”C.borthi”の♀以外は全て♂ではないか。キララが3つも並んでいるから当然♀も図示されているかと思いきや、単にリトアニアとロシア、中国の亜種らしきものが並んでいただけだった。そんな表記の仕方なんて全く頭に無かったから、オートマチックで左が♂、右が♀だと思い込んでしもうた。普通、そんな表記の仕方はせんでしょうに…。

だとしても、これで問題が解決したワケではない。解決するどころか、かえって謎はより深まったかもしれん。
なぜなら両方とも♂と言われれば、雌雄の違いが益々ワカランくなってくるからだ。腹部の長さとか、尻先の毛束とか形とかに更なる混迷を呼んどるやないけー。それに右側の♂の翅形は丸くて♀っぽいんだよねー。羽だけみれば、とてもじゃないが♂には見えない。こんなの見ると、また悩まざるおえない。アズミにおいては翅形の違いは雌雄とは関係ないのかもしれん。
ならば『世界のカトカラ』と『みんなで作る日本産蛾類図鑑』のどっちの雌雄表記が正しいのだ❓
どっちも正しかったりして…。もう何を基準にすればよいのかワカらぬよ。

もう1つ雌雄表記が有るものを見つけた。
岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』のものだ。

 

 
しかし、混迷は増すばかり。
図鑑には♂しか載ってないのだ。
でも一応検証しておこう。
腹部は長いが、細いとも太いとも言えない。尻先の形と毛束も微妙で、尖ってるとも丸いとも言えないし、毛束は有るとも無いとも判断し難い。いや、丸いか❓
自分でも何言ってるのかワカラナイ。何か脳が基準を見失って判断不能に陥ってるぞ。

『日本のCatocala』にも裏面画像があった。

 

 
コレは腹が太いから♀だろう。
だとしたら問題はスリットと産卵管だ。画像が小さくて粗いから、腹端にスリットが無いようでいて有るような感じだ。けど、無いと思うんだよなあ。すると、やはり♀はスリットも産卵管も見た目では確認できないのか❓けど、この画像に雌雄の表記は無いから♀とは断定できないんだよね。やれやれである。

一応、小太郎くんに電話で確認したけど、彼もワカランと嘆いておった。小太郎くんでさえも♂♀がワカランのかあ…。
なればカトカラ3年生のワシには、乁( . ര ʖ̯ ര . )ㄏお手上げじゃよ、せにょ〜る。まだまだカトカラ・カーストの底辺に在るアッシには無理ざんす。

と、一旦はクローズしかけたが、ケツまくって敵前逃亡するのも口惜しい。一応、自分なりの見解を述べて、この項をクローズする事にしよう。クソッ、まさか雌雄の違いなんぞに躓くとはね。こんなとこで迷宮徘徊するとは夢にも思わなかったよ。

あえて誤解を怖れずに言えば、たぶん♀のスリットも産卵管もある筈だ。しかし毛に隠れて見えないのではあるまいか。だからパッと見では判別には使えないのかも。
翅形も例外が有り過ぎて使えないだろう。腹部の長さも微妙だから現時点では何とも言えない。腹部の太さは使えそうだけど、これまた微妙。たぶん太ければ♀だと思われるが、展翅して暫くしたら縮む奴もいたりするから困る。展翅をしても萎まなければ、♀と判定してもいいだろう。
あとは尻先の毛束だが、これまた微妙ではある。でも♂の方が僅かだが毛が多いような気がする。横から腹部を見て感じたのは、もしかして先端が尖るのが♀で、毛がやや多いから丸く見えるのが♂ではないかと思う。これとて微妙だけどね。
曖昧な着地点で申し訳ないが、この裏から見た腹部先端の毛の量と形、腹部全体の太さを総合してジャッジメントするしかないのではなかろうか❓
m(_ _)mスマン、こんな事しか言えんよ。

後で、また3つほどアズミが出てきたので展翅した。
ウンザリなところではあるが、再度検証に臨もう。

 

 
先ずは横面。
腹部は短いように思える。尻先には毛束なさそうだ。

 

 
次いで腹を正面から見るためにひっくり返す。
この腹の太さだと♀っぽいなあ…。腹先も尖って見えるしね。
ならばと腹先の毛を掻き分けてみた。しかし、スリットも産卵管らしきものも無さそうだ。とはいえ、アズミって小さ過ぎるし、こっちは老眼が入ってきてるから見落としてるかもしれない。一応、確実を期すために虫眼鏡で見ようかとも思ったが、持っていない事に気づき、もういいやの人になる。もはや全てがウンザリなのだ。

それでは展翅してみよう。

 

 
展翅すると微妙で、同定に自信が無くなってくる。
腹の太さは微妙だし、尻先に毛束が有るようにも見える。
たぶん♀だとは思ってたけど…。でも毛を掻き分けても産卵管が見つけられなかったしなあ…。♂かもしんない。
相変わらず、彷徨いラビリンスだ。

(-_-メ)クソッ、もうこうなったら翅をバラしてやろうか❓
今まで一言も言わなかったけど、実をいうと確実に雌雄を見分けられる方法が無いワケではない。かなり問題ありだけど、有るには有るのだ。
カトカラは基本的に前翅と後翅の根元の境目辺りに刺棘のようなものがあり、その本数に雌雄で差があるのだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
画像をピンチアウトで拡大してみて下され。左の♀の翅の根元には3本の刺棘が有るが、右の♂には1本しかない。
でもそれを調べるためには前翅を切り取らねばならない。コレには流石に抵抗感がある。貴重なアズミちゃんを解体する勇気がないのだ。だいち、それで分かったところでどうなのだ❓
一々、前翅を毎回切り取るだなんて、そんなの識別法としては手軽には使えない。現実的ではないし、だいち邪魔くさ過ぎる。特別なケースでもなければ、ナンセンスだ。

気を取り直して、次へと進もう。

 

 
腹部は長いような気がする。尻先の毛束は微妙。どうやらアズミは他のカトカラみたく、横からは簡単には判別できないような気がしてきた。

 

 
上手くひっくり返せなかったので、腹だけ撮った。
腹は細い。尻先は丸く見える。♂っぼいね。

 

 
腹部が細い。胴も細くて全体的に華奢だ。これは♂だと言い切ってもよさそうだ。

そして、最後となる3頭目。

 

 
腹部はやや長く、尻先にはそんなに毛は無さそうだ。

ひっくり返そう。

 

 
この張った感じの太い腹からすると、♀だね。それに尻先も尖って見えるから間違いないかと思われる。
ここで再度、毛を掻き分けるべきだったのだが、忘れた。この辺がワシの限界だ。こうゆう地道に細かいことを調べるには抜け作で、そもそも向いてない性格なんである。

 

 
 
表から見ても、やはり腹が太くて先が尖ってるから♀じゃろう。
もしかして表から見るよりも、裏から見た方が雌雄は判別しやすいのではなかろうか❓
思うに、裏からの方が腹の膨らみと太さがよく分かる。特に根元付近の張りのある太さは♀を表していると言えよう。
そして尻先は尖る傾向にある。毛が少ない分、そう見えるのだろう。これが表側からだと、よく分からない。裏からだと毛が少なく見えるのに、表からは毛束が有るようにも見えてしまうのである。この辺が雌雄の判別に迷いを生じさせる原因となっているのではあるまいか。

整理しよう。
♂は腹が細い。胴も細くて全体的に華奢に見えるものが多い。但し、腹部の長さはあまり関係がない。普通のカトカラは腹の長さに差異があり、♀は短いのだが、アズミは♀でも腹部が長いものがいるからだ。しかし、♀は腹の根元が太くてガッシリしている。裏から見れば、それが比較的よく分かる。また胴もガッシリしており、裏からだと尻先が尖って見える。毛束の量は表からだと微妙だが、裏側から見ると判別しやすい。但し、微妙なものもいる。これらは他のカトカラほどには明確な差異がないゆえ、補助的な要素として留意しておいた方がいいかもしれない。翅形からの判別もアテにならないから、これもあくまで補助的要素として考えた方がよかろう。尚、他の多くのカトカラのように♀の尻先に明確なスリットは入らなくて産卵管も見えないから、これまた識別には使えない。また横からだと♂の毛束が目立つ筈なのだが、それもアズミには完全には当てはまらないから使えない。
ホント、面倒なカトカラだよ。ようはアズミキシタバの雌雄の判別には、普通のカトカラの識別セオリーは十全には使えないものが多いってことだね。

最後に確実にオスとメスであると今の時点で言い切れる個体を並べてお終いとしよう。

 
(オス)

(メス)

 
絶対にオスとメスだと言い切れるのは、トホホな事にボロとハゲの、この2つしかないというワケだ。
スマンが、もうこれくらいで御勘弁願おう。

とは言いつつも、後悔はある。
今にして思えば、前翅をブッた切っておけば良かった。確実に♂と思(おぼ)しきものと♀と思しきものを解体すべきであったと後悔している。上に図示した奴らとか、ボロとハゲなんだから解体したとしても、そう惜しくはない。もし、それで互いの刺棘の数が違えば、オスとメスが確定できる。確定できれば、両者の特徴の違いを仔細に調べたら答えは自ずと見えて来るのではなかろうか。
とはいえ、もうウンザリMAXだから、そんな事までして確かめる気力がない。どなたか代わりに調べて教えてくんないかなあ…。
けど、刺棘の数がどっちも同じだったりしてね(笑)。

 
【学名】Catocala koreana Staudinger, 1892

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の”koreana”は「朝鮮の」という意味で、最初に朝鮮半島で発見された事に由来する命名だろう。

いつもこの学名の語源で苦しめられるのだが、今回は楽勝だったよ。その代わりに雌雄の判別で苦しめられたけどさ。なかなか上手くはいかないよね。

それにしても、つまんない学名だよなー。

 
【亜種と近縁種】 

日本のものは亜種 azumiensis Sugi,1965 とされる。
記載者は日本の蛾界に多大なる功績を残された杉 繁郎氏。最初は新種として記載されたが、後にシュタウディンガーによって1892年に既に朝鮮半島から記載済みだったことが判明し、亜種へと降格になったそうだ。

 
(原記載亜種 ssp.koreana koreana)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のモノと何処が異なるんだろう❓
細かく見れば、微妙に違うような気もするが、個体変異もあるだろうから何とも言えない。交尾器に差異があるのかな?
因みにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「日本産を別亜種にするかどうかは微妙であり、今後の課題でもある。」と書かれてあった。もしや交尾器を調べてないの❓

また、この朝鮮半島のものはキララキシタバ(C.fulminea)の変種として記載され、その後にヨーロッパに産するイメンキシタバ(C.hymenaea)の亜種としても記載されたことがあるという。

 
(Catocala hymenaea Schiffermuller, 1775)

(出典『世界のカトカラ』)

 
ヨーロッパ南東部からトルコにかけて分布する。アズミに似るが、DNA解析では類縁関係は認められないという。
とはいえ似てる。亜種とした見解もわからないでもない。
こうゆう事があると、種とはいったい何ぞや❓と思ってしまう。果たしてシャカリキになってまで分類する意味ってあんのかなあ…。
勿論、必要ではあるんだけどもね。解っちゃいるが、言いたくもなるくらい「雌雄の判別」のせいで心が疲弊しておるのだ。

シノニム(同物異名)から探してみたら、あった。

◆Catocala paranympha koreana Staudinger、1892
◆Catocala hymenaea ussurica Sheljuzhko、194​​3
◆Catocala azumiensis Sugi、1965

なるほどね。
そう書きかけて引っ掛かる。
一番上の「Catocala paranympha」って何や❓
記載者も記載年も原記載されたものと同じだから、完全に同一のものだろう。
とゆうことは、最初は”paranympha”って奴の亜種として記載されたってワケ❓
あ〜あ、また面倒くさいパンドラの匣をあけちゃったよ。

調べてみると、この”paranympha”ってのは、C.fulminea、つまりはキララキシタバのシノニムみたいだ。わりと簡単に見つかって、何とかパンドラの匣のオープンは回避されたよ。
ついでだからキララキシタバの画像も貼っとくか…。

 
(Catocala fulminea)

(出典『世界のカトカラ』)

 
前翅はそこそこ似てるけど、後翅の柄は結構違う。それに何より大きさが全然違う。こんなの普通ならどう見ても別種と分かるだろうに。何で亜種にしちゃったんだろね❓

参考までに他の近縁種も紹介しておこう。

 
(Catocala invasa Leech, 1900)

(出典『BOLD SYSTEMS』)

 
和名ヒカルキシタバ。中国から朝鮮半島にかけて分布する。
キララキシタバに酷似するが、より大きく、後翅中央黒帯湾曲部が外側に突出する傾向がある。

 
(Catocala borthi Saldaitis,Ivinskis,Floriani & Babics, 2012)

 
「雌雄の判別」の項でも触れた2012年に新たに記載された新種である。
分布は中国・四川省北部の九寨溝付近。それ以外のラベルも見たが、どうやら2000m以上の高地に棲息するようだ。
書き忘れたが、画像の上が♂で下が♀である。アズミに一番近い種とされるが、雌雄の判別は簡単だ。カトカラ属特有の雌雄の差異が見てとれる。
(@_@)クソー、何なんだよ、アズミー。

 
【和名】

アズミキシタバのアズミは安曇野が由来だろうと思っていた(因みに本来の仮名遣いは「あづみの」で「あずみの」は現代的な仮名遣い)。
しかし、白馬村に安曇野と云うイメージはない。安曇野はもっと南の筈だ。違和感を感じたので調べてみると、安曇野は長野県中部(中信地方)にある松本盆地のうち、梓川・犀川の西岸から高瀬川流域の最南部にかけて広がる扇状地全体のことだそうだ。
「安曇野」が指し示す市町村範囲として明確に画定された線引きは無いが、概ね安曇野市、池田町、松川村、大町市南部の4市町村と松本市梓川地区(旧・梓川村)とされているようだ。ほらね。つまり白馬村は含まれていない。
じゃあ何でそんな名前をつけたのだ(・o・;)❓
更に調べてみると、どうやら白馬村は北安曇郡に含まれるんだそうだ。なるほどね。けど奥歯に何かが挟まったようで、完全には納得してない。どこか正確性に欠けるような気がするからだ。嫌いな和名じゃないけど、そんなんでいいのか?…。
でも『キタアズミキシタバ』だと、また変な誤解を生じさせそうだ。まあ、アズミキシタバという言葉の響きは好きだから、べつにいいんだけどね。

 
【分布】


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
例によって上が分布域図、下は県別の分布である。
長野県白馬村、新潟と福島の県境にある奥只見のみに棲息するとされてきたが、2017年に群馬県土合、2018年には長野県伊那谷での採集が報告されている。とはいえ、どちらもその後に追加記録は無いようだ。
おそらく日本では最も分布域の狭いカトカラだろう。おそらくと言ったのは、去年(2019年)にマホロバキシタバが発見されたからだ。現時点では分布の狭小性は同じくらいなのだ。けど、今後マホロバは各地で新たな分布が確認される可能性が高い。ゆえに最終的にはアズミの、その座は揺るがないだろう。

国外では朝鮮半島、アムール(ロシア南東部)、中国東北部に分布する。日本では極めて分布域が狭いけれど、大陸には広く分布するようだ。何で日本だと超局地的分布になるワケ❓全然もって理由がワカラン。
コレについては、世界的なカトカラの研究者である石塚勝己さんも自著『世界のカトカラ』で以下のように述べられている。

「地史的にはナマリキシタバより新しい時代に日本へ侵入してきたと思われるが、何故日本国内の分布がこのように狭いのかは謎である。」

石塚さんでもワカランのだから、ワシに分かるわけがないのである。
幼虫の食餌植物は、やや珍しいものではあるが、アズミほど分布が局所的ではないからね。食樹があって、気候・環境ともあまり変わらない場所は他に幾らでもあるのだ。考えられるとすれば、フォッサマグナとかかなあ…。でもハイモンキシタバとノコメキシタバの回でエラい目にあってるから、アンタッチャブルだ。どうせ素人如きでは話がデカ過ぎて答えは出ないだろうし、徒(いたずら)に文章が長くなるだけだから止めとく。
もしかして日本で独自進化した別種だとかいう論も浮かんだが、コレも深堀りは止めとく。理由は同じざます。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧(NT)
新潟県:準絶滅危惧(NT)

 
【成虫出現月】 7〜8月

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には「白馬村でのピークは7月下旬から8月上旬」とあったが、『世界のカトカラ』では「新鮮な個体は7月一杯である。」となっていた。また、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では「新鮮な個体を採集するには7月中旬頃がよさそうだ。」としている。地球温暖化で発生期が早まっているのかもしれない。
しかし、標高の高い棲息地では8月に入っても新鮮な個体が得られるとマオちゃんから聞いている。
尚、飼育下では寿命が2〜3週間と短く、野外でも発生期はそれくらいだろうと推定されている。
発生期はその年により1週間程度のズレはあるだろうから、寿命が短いだけに適期を当てるのは難しい種かもしれない。

 
【開張】 40〜45mm

日本のカトカラ属の中では最も小さいとされている。
確かにチビッコで、初めて見た時は思ってた以上に小さくて少し驚いた。

たまたま同じ展翅板にチビっ子カトカラの代表であるマメキシタバが乗っていたから、更にその小ささに驚いたよ。

 

 
ほらね。バリ小さいことが解る人には解るっしょ。
最大種であるムラサキシタバと比べればゴジラと人、巨人と侏儒(小人)ほどの差異がある。
ちなみに、真ん中はカトカラとは全然関係ないキバラケンモンでありんす。

 
【成虫の生態】

食樹イワシモツケが群生する蛇紋岩地では比較的多産する。
しかし、白馬村では姫川上流の八方尾根から下流の平川氾濫原まで広く見られたが、1980年代以降は別荘地開発や砂防工事等により激減したという。これは自然破壊により食樹そのものが減ったこともあるが、砂防工事で撹乱が起きなくなってミズナラ等が侵入して森林化が進み、イワシモツケの生育には適さなくなり衰退したからだとも言われている。

奥只見でヤナギの樹液に飛来したものが観察されているが、ごく少数のみのようだ。噂では、あまり樹液には誘引されないと聞く。糖蜜トラップで採集したという話も聞いたことがない。
ちなみに自分は糖蜜を試したことはない。ポイントに着いた頃には真っ暗だったし、荒れ地で周りに糖蜜を噴きつけるような木が見当たらなかったからだ。今思えば、岩や石に噴きつければ良かったのかもしれない。
いや待てよ。2019年に試してるわ。しかし、生息地の崖下で試してみたが、一つも飛んで来なかった。ちなみにベニシタバとキシタバは飛来したから、糖蜜そのものに問題はなかったと思われる。いや、好む配合はあるかもしれないゆえ、断言は出来ないか…。あとは日付が8月日で、しかも最も標高の低いポイントだったせいもあるかもしれない。発生が既に終わっているか、終わりかけていた可能性はある。来年、機会があったら、再挑戦しようと思う。

キク科ヒヨドリバナ属やリョウブの花に飛来した観察例がある。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
もしかしたら、樹液よりも花の蜜を好む種なのかもしれない。
とはいえ、でも生息地に両方ともあったけど、一つも見なかったな。チビだけに、あまり多くの餌を必要としない種なのかもしれない。

またアブラムシのコロニーでの目撃例もある。これはアブラムシの甘露も餌としている可能性を示唆している。

ライトには夜半過ぎに多く飛来するという。
2020年は午後10時20分頃に現れ、次第に数を増し、午前0時過ぎから1時過ぎまでが飛来のピークだった。多くは崖の下から昇ってきて、地面を這うように飛翔してライトに近寄って来た。しかし辿り着けずに地面に静止するものの方が圧倒的に多かった。そしてライトトラップの白布の下部に止まり、上部に止まるものは1つもいなかった。但し、これはブラックライトを下部に設置したのが原因かもしれない。とはいえ、他のカトカラは上部に止まっていたけどもね。印象としては地這いカトカラだ。 
そして極めて落ち着きがなく、近づくと敏感に察知して飛び、ワチャワチャに地面で暴れ回るのでたちまちボロ化する。尚、この日の天候は曇り時々雨で、小雨が降り始めると活性が入る傾向にあった。但し、多く飛んで来る時間と偶々重なっただけかもしれない。

日中は頭を下にして蛇紋岩や木の幹に静止しているが、木の幹で発見されることは少なく、大半は蛇紋岩で見つかる。とはいえ、上翅が岩肌と同化して発見は容易ではないようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
驚いて飛翔した時は、上向きに着地して直ぐに姿勢を下向きに変える。その際、後翅の黄色を見せ、それがよく目立つという。

交尾は深夜午後11時から午前0時の間に行われるようだ。
飼育では羽化時には既に♀の卵巣が成熟しており、羽化直後に交尾・産卵することが確認されている。これは寿命が2〜3週間と短いためだろう。

産卵行動は西尾氏により1993年 8月13日に白馬村で観察されている。1頭の♀がイワシモツケの株の根元のスナゴケに産卵管を差し込んでいたという。よくそんなの見つけられるよね。西尾さんって凄いと思うわ。

 
【幼虫の食餌植物】

バラ科:イワシモツケ


(出典『Wikipedia』)

 
(花)

(出典『山川草木図譜』)

 
(葉)

(裏面)

(出典『三河の植物観察』)

 
学名 Spiraea nipponica。
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字で書くと「岩下野」となる。日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若い枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で、裏面は粉白色はたは淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

幼虫は幼齢木には殆んど付かず、よく繁茂した大きな株に発生する。
野外ではイワシモツケのみからしか幼虫が発見されていないようだが、ヤブデマリ、コデマリ、ユキヤナギでも飼育は可能。累代飼育も容易に出来るようだ。

従来、食樹を同じくするナマリキシタバとの混生地は見つかっていないとされてきたが、最近になって白馬村の高標高地で混生地が見つかっている。

 
【幼生期の生態】

幼生期については、毎度の事ながら『日本のCatocala』に全面的にお頼りする。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver』)

 
卵は背の高いまんじゅう型で、縦隆起条と横隆起条は太い。環状隆起は低いが変異に富み、全く認められないものから3重になるものまである。見た目はナマリキシタバやコガタキシタバに似るが、アズミは横隆起条の間隔が広く、ナマリは狭い。またコガタは気孔がよく目立つことから判別できる。

ナマリキシタバと成虫や卵、幼虫が似ているし、食樹も同じだから両者はてっきり近縁関係にあると思っていたが、どうやら類縁関係は認められていないようだ。(・o・)えっ、そうなのー❓

一応、DNA解析図で確認してみよう。

 

(出典『Bio One complate』)

 
石塚勝己さんが新川勉氏と共にDNA解析した論文の中のものである。
図はピンチアウトして拡大できるが、ピックアップしよう。

 

 
(/ロ゜)/ありゃま。アズミの下には何と”C.nubila”、ゴマシオキシタバの名前があるじゃないか。

 
(ゴマシオキシタバ♀)

(2020.8 奈良県吉野郡)

 
全然、アズミとは見た目が似てない。ホンマに近縁種❓

ナマリ(C.columbina)とはクラスターが違ってて、図では離れた位置にあるように見える(系統図の上部)。
そしてナマリの上には”C.bella(ノコメキシタバ)”があるじゃないか。同じバラ科を食樹とするくらいで、2つの種の見た目は全然似てない。因みにワモン(C.xarippe)&キララ(C.fulminea)も大きな意味で、このクラスターに含まれる。
つまり、この図を信じるならば、アズミとナマリの両者に近縁関係はないと云うことだ。共にカトカラの中では小型だし、前翅もわりと似てるのにね。
DNA解析は、従来の見た目での分類とは随分と違う結果が出るケースもある。蝶なんかはワケわかんなくなってるものが結構いるから、見た目だけで種を分類するのには限界があるのかもしれない。オサムシを筆頭に、違う系統のものが食物や環境を同じくする事によって姿や形が似通ってくるという、いわゆる収斂されたとする例も多いみたいだしさ。
まあ、とは言うものの、DNA解析が絶対に正しいとは思わないけどもね。

飼育条件下での孵化は深夜から夜明け前。孵化時期は冬季の積雪に左右されるが、白馬村では5月下旬から6月上旬。

 
(1齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(終齢(5齢)幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は日本のカトカラでは最も小さく、野外にいる幼虫は多少の色彩変異が見られ、奥只見では黒化したものが見つかっている(白馬村では未発見)。

 
(奥只見産5齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバの幼虫とやや似るが、アズミは赤みがかり、ナマリは灰色がかる。また、頭部の斑紋が異なる。

 
(アズミキシタバ頭部)

 
(ナマリキシタバ頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
似ているが、細かに見るとかなり差異がある。やはりカトカラの幼虫の識別には顔面の模様が重要な鍵となるんだね。

一応、DNA解析では一番近い関係とされるゴマシオキシタバの幼生期も確認しておくか。

 
(ゴマシオキシタバの卵)

 
(終齡(6齡)幼虫)

(終齡幼虫頭部)

(出典 以上4点共『日本のCatocala』)

 
(⑉⊙ȏ⊙)全然、似てへんやないけー❗
こんなの近縁種とは思えない。終齢の齡数も5齡ではなく、6齡だし、そもそも食樹はバラ科ではなくてブナ科のブナだ。
だから、DNA解析って今イチ信用できないんたよねー。

アズミの幼虫の生態の話に戻ろう。
昼間、若齢幼虫は食樹の枝に静止している。6月下旬、終齢になると食樹の下方に降りるようにもなる。4、5齢幼虫は枝先の葉柄部と茎を残すので、食痕を探せは見つけやすいという。
自然状態での蛹化場所については知られていない。

アズミキシタバは分布が局地的で、貴重なカトカラだ。
自分で採っといて言うのもなんだけど、いつまでも命を繋げ続けていって欲しいと思う素敵なカトカラだ。
これ以上「黄衣の侏儒」たちの生息地が破壊されない事を切に願う。

                        おしまい

 
追伸
小タイトルの『黄衣の侏儒』は芥川龍之介の『侏儒の言葉』がモチーフになっている。
「侏儒」とは、背丈が並み外れて低い人。つまり小人の事だ。アズミキシタバは小さいので、それになぞらえたワケだが、別な意味も込められている。侏儒には他の意味もあって、見識のない人を嘲っていう言葉でもある。謂わば、長野県に対しての嫌味である。砂防ダムとオリンピック道路の建設の結果、アズミキシタバが激減したと聞いている。
まあ、砂防ダムは岩石や砂が押し寄せてくるのを防ぐためだから必要だろうし、致し方のない面はあると理解できる。でもオリンピック道路は経済のためだろう。あっ、やめておこう。言い出したら止まんなくなりそうだ。アッチにも色々と事情は有るだろうしね。

追伸を書いてる途中で、思い出した。
そういや、裏展翅した♂らしきものの展翅前の画像を載せるのを忘れてたよ。

 

 
冒頭部分のコレの事ね。
で、展翅前の画像がコレらだ↙

 

 
コレで光明が見えた。
明らかに尻先が尖らず、丸みがある。たぶん毛が多いからだ。

続いて裏返す。

 

 
腹部が細くて、尻先が尖らずに丸みがあり、毛が♀よりもやや多い。
何だよー、これらの画像をもっと早くに載せていたら、こんなに泥沼迷宮にならなかったのにぃー(>o<)ノ

ここに改めて雌雄の識別法を書こう。

 
(アズミキシタバ♂)

 
♂は横から見ると、尻先が尖らずに丸みを帯びる。

 
(アズミキシタバ♀)

 
♀は尻先が尖り、毛束が少ない。
こんなに♀らしきものばかり並べたのは、ようするに♀の時期だったとゆうこともあるが、それなりに意図するところがある。後で、それについては書く。

ひっくり返した画像も検証しよう。
個体の並びは横からの画像と同じ並びである。

 
(♂)

 
同じく尻先は尖らず丸くなり、毛がやや多い。
そして腹部は全体的に細い。

 
(♀)

 
腹部が太く、尻先が尖る。

一応♂の裏展翅の♂を除いて、それぞれの展翅画像も貼りつけておこう。

 
(♂)

 
(♀)

 
改めて展翅画像を見ても、明確な識別法はコレと言えるものがない。腹部の長さはまちまちだし、♂とした中の一番下などは尻先に毛束があるけど腹が太いから♀にも見える。冒頭で♀とした裏面画像(採集当日に野外で撮影したもの)はコレとおそらく同一個体である。もしかして♀だったりしてね。
こうして♀ばかり並べた意図はそこにある。ようするに♂はまだ比較的同定しやすいが、問題は♀なのである。カトカラを見慣れたものが同定に苦しむのは、まさにそこにある。乱暴な言い方をすれば、♂らしい♂は割りかしいても、♀らしい♀があまりいないのだ。完全に♀と言い切れるのは冒頭ハゲちょろけの♀くらいだ。何かのメタファーかよと言いたくもなる。ったくもー。

最後にコレも貼付しておこう。

 

 
方程式に従えば、これは♀とゆう事になる。
因みに上図は冒頭一番最初に♂とした個体である。
コレの事ね↙

 

 
つまりは誤同定だった可能性が高い。思うにアズミは表側からの同定は極めて難しいとも言えよう。どうりで混乱するワケだ。
とはいえ、今もって裏からの識別法が100%と合ってるかどうかはムチャクチャ自信が有るってワケでもないんだよね…。コレ、見当違いだったら相当カッコ悪いけど、そん時はまあ仕方がないよね。

まさか雌雄の識別に、ここまで翻弄され、紙数を費やすとは思いもよらなかった。想定外も想定外である。いっそのことタイトルは『呻吟、オカマ街道2020』とでもすべきだったかもしれない。いやはや、ホント疲れました。

次回、『雷神降臨』。まだ一行も書いてないけど、これまた苦行を強いられる事、想像に難くない。又もや長い道程の回になりそうだ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』

◆石塚勝己『世界のカトカラ』

◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

 
(ネット)
◆カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆Wikipedia
◆『山川草木図鑑』
◆『三河の植物図鑑』