2019’カトカラ2年生 其の六

 
    vol.23 ノコメキシタバ

  『ギザギザハートの子守唄』

 
前々回のハイモンキシタバの採集記と基本的には途中まで同じなので、その続きとして書きます。つまり前々回と連なる文章として読んで戴きたい。
 

2019年 8月6日

闇が、より濃くなっている気がした。
ここにも熊がいることを思い出す。恐怖が心をサッと撫でる。
深夜の森の中は閑としていて、不気味なまでに静かだ。自分の足音だけが空気を震わせている。
真っ暗な道を何度往復しただろうか…。次第に焦りと後悔がどんよりと澱のように心の底に溜まってゆく。

思えば、日没後さして間もない8時15分に奴は糖蜜トラップにやって来た。なのに網を組み立てている刹那に逃げられた。
dont ‘worry.ドン・ウォリー、気にすんな。自分に言い聞かせるように軽く一人ごちる。

まだ早い時間帯だったから、そのうち戻って来るだろうと思ってたら、その5分後にまた同じ木に飛んできた。
( ̄ー ̄)しめしめ。飛んで火にいる夏の虫。食い意地はってっと、アンタ💀死ぬよ。

しかし近づくと、何かさっきのとは違うような気がするぞ。
( ̄□ ̄;)ハッ❗、ノコメキシタバじゃない❗
コレって…、見た目が似ているハイモンキシタバじゃねえの❓

ハイモンも採ったことが無かったから渡りに船ではあるけれど、その瞬間、気分が楽になった。この時点ではハイモンはノコメよりも珍しくないと思い違いをしてたからだ。こっちではハイモンは普通種だから、どうせこのあとには何んぼでも飛んで来ると思ったのだ。しかし本当は逆である。ノコメが普通種で、ハイモンの方が珍しい。それに気づくのは帰ってから暫くしてからである。我ながら情けない。考えが雑いのだ。
そうゆうワケで、リラックスして簡単にゲット。

 
【ハイモンキシタバ Catocala mabella ♀】


(2019.8.9 長野県上田市)

 
ハイモンも一応ターゲットだったのでそれなりに嬉しかったし、前後が逆になっただけで次はノコメだろうと、まだこの時点は気分上々の楽勝気分だった。
けれどその後、全く想像していなかった展開になった。それ以来、何も飛んで来なくなったのだ。
『嘘でしょ❓』と半ば冗談でウソぶくも、少しずつ自信と楽観気分が砂のように削られてゆく。
見たんだから此処に居ることは分かってる。絶対にいるのだ。もしや見間違え❓ そんなわきゃ無かろう。確かに実物を見た。まさか幻でもあるまいに。心が揺れ動く。
(-_-;)クソッ。何であの時、ターゲットから目を離したのだ。悔やんでも悔みきれない。

真っ暗な道を何度往復しただろうか。
時は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
そして、採れない焦燥感と闇の重圧に耐えきれなくなったのか、勝手に歌が口から溢(こぼ)れ出した。ささくれ立った心の声が外に漏れたのだ。

  🎵ちっちゃな頃から悪ガキで
   15で不良と言われたよ
   ナイフみたいに尖っては
   触るものみな傷つけた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

チェッカーズのヒット曲『ギザギザハートの子守唄』だ。
それくらい心はヤサグレていたのである。

深夜午後23時になった。
いよいよ背水の陣を呈してきた。顔が歪んできてるのが自分でもわかる。
俺は深夜の森の中で、いったい一人で何をやっておるのだ❓
次第に何のために此処にいるのかも曖昧になってゆく。
半ばヤケクソで『ギザギザハートの子守唄』を呪文のように歌い続ける。

午後23時15分。
懐中電灯の光の束が指す先、遠目だが何かいるなと思った。木はノコメもハイモンも来た、あの木だ。近づくと、鮮やかな下翅の黄色を覗かせてカトカラが鎮座していた。

来たっ❗❗
でもノコメ❓ハイモン❓どっち❗❓

まだ間隔が離れてるから微妙で、よくワカラン。どっちも上の翅が同じような鈍びた灰色なのだ。
確認のために慎重にゆっくりと距離を詰める。

距離約3m。ようやく上翅に黒いギザギザの線が見えた。ハイモンじゃない。待望のノコメだっ❗
ドクン💕ドクン💕。心臓が急に脈打ち始める。
心を落ち着かせるために『ギザギザハートの子守唄』を再び口ずさむ。でもここは、あえて一番ではなく2番だろう。

  🎵恋したあの娘と二人して
   街を出ようと決めたのさー
   駅のホームで捕ま〜ってー
   力まかせに殴られた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

歌い終わるやいなや、
💥チェ〜スト━━━━━━━━━━❗

気合で網先で幹の下を突き、飛んだところを空中でブン殴る。

入った❗❗
間違いなく網に吸い込まれるのが見えた。

(。•̀ᴗ-)✧やりぃ❗
見ると確かに入っている。しかし、中で狂ったようにメチャンコ暴れてる。慌てて毒瓶を中に突っ込む。しかし更に暴れまくって中々毒瓶に入ってくんない。

(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お願━━━い。
暴れないでぇ━━━❗
ボロボロになっちゃ━━━━う❗❗

すったもんだの末になんとか取り込み、息絶えたところで手のひらに乗せる。

 

 
ハイモンと比べて上翅の黒いギザギザがよく目立つ。間違いなくノコメキシタバだ。
しょこたん(註1)風に言うと、ギザカッコイイ。
とは言っても右側だけだ。左側は擦れ擦れでギザギザが消えかかっている。しかも網の中で大暴れしたので、背中が激禿げチョロケのズルむけスーパー落ち武者にさせてしまった。
まあいい。この際、採れたには採れたんだから良しとしよう。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。
とにかく重圧からやっと解放された。これで自己採集のカトカラは23種目となったわけだ。

裏返してみる。

 

 
裏面はハイモンとは全然違うんだね。外側は白で、内側は明るく鮮やかな黄色だ。コントラストが強くて美しい。こんな裏面のカトカラは見たことないかも。たぶん他にはいないよね。
一見、腹が長いので♂かと思ったが、腹先には毛束がなくて産卵管が見える。どうやら♀のようだ。

最初に採ったハイモンよりもコッチの方が表も裏も断然カッコイイような気がするぞ。まあ、こっちの方が珍しいというし、苦労の末のゲットだから欲目がだいぶ入ってるかもしんないけどさ。

午前0時20分。
さらにもう1頭ゲット。

 

 
これもギザギザだから、ノコメだ。
さっきよりも鮮度はマシで、前翅のギザギザがハッキリと見える。
だが、コヤツも落ち武者になっとる。けんど、もうどうだっていいや。もはや採れればいいのである。

裏返してみる。

 

 
バンザイ姿が可愛いね。
良かった良かったの、ワシも\(^o^)/万歳じゃよ。

こちらは腹が細くて産卵管が無いので♂のようだ。
一応、オスメスの雌雄が揃ったぞい(◍•ᴗ•◍)

見上げると、木々の間から天の河が見えた。
空を見上げる余裕もなかったんだね。

暗闇で見る星空はとても綺麗だ。
スッと力が抜け、これで漸くテントに帰ってグッスリ眠れると思った。

                        おしまい

 
一応、おしまいにしたが、オマケで翌日のことも書く。
ストレージが溜まっているので画像を消したいのである。

 
翌朝、早朝から死ぬほど走らされている高校生たちをあとにして撤収、上田駅まで戻ってきた。
もう蕎麦にはウンザリなので、スーパーで昼飯を買って食う。

 

 
298円の鶏の炭火ハラミ焼(塩ダレ)を食い、🍺ラガーをグビグビいき、百円引きの海鮮バラちらし(¥298)を一口食って、またラガーをグビグビいって、ダアーッ。テーブルに突っ伏す。
途中、1日だけカプセルホテルに泊まったが、これでテント生活も5日目なのだ。うちテント野宿が2回。しかも酷い靴ズレ状態で、足は絆創膏だらけだ。それでも熊の恐怖と戦いつつ夜の森を歩き回り続けておったのだ。身も心もボロボロなのじゃよ。

駅前から巡回バスに乗る。

 

 
行き先はココだ。

 

 
(南櫓)

 
そう、上田といえば真田の上田城跡公園である。
何で城なんかに来たのかというと、単に城好きだからだ。それに上田といえば、戦国武将ランキングの常に上位にランクされる真田幸村(信繁)の故郷でもある。大阪人としては、大阪城を獅子奮迅で守った幸村に強い思い入れがあるのだ。行かねばなるまい。

上田城は天正11年(1583)、幸村の父である真田昌幸によって築城された。日本百名城にも選出されており、第一次・第二次上田合戦で徳川軍を二度にわたって撃退した難攻不落の城として知られる。城マニアの評価も高く、とあるTV番組では堂々の第1位に選ばれたこともあった筈だ。
ここ南櫓の下も、かつて千曲川の緩やかで深い分流があり、天然の堀となっていたそうだ。この場所を「尼ヶ淵」と称したことから上田城は別名「尼ヶ淵城」とも呼ばれていたという。
その後、城主は時代の変遷と共に真田氏から仙石氏、松平氏へと移っていった。

でも、訪れた理由はそれだけではない。この上田城跡に、ケンモンキシタバとエゾベニシタバ、あとノコメキシタバの記録もあるからだ。あわよくばの一石二鳥で昼間の見つけ採りも狙っていたのである。

 

 
櫓らしきものが見えてきた。
ちなみに上田城には元々天守閣がない(註2)。

 
(本丸入口)

 
いいなあ。
やっぱ、城って好きだなあ。
左が南櫓、正面が東虎口櫓門である。写っでいないが、この右側には北櫓がある。

 
(真田石)

 
石垣とかって、ずっと見てれるかもしんない。
左下の大きな石が真田石だ。この大きな石が権力と財力を示すものとして、当時の戦国武将がこぞって櫓門の石垣に大きな石を配したと言われている。

 
(真田神社)

 
真田幸村の神霊を「知恵の神様」として崇めており、試験や就職、スポーツなどの勝利祈願の神社としても知られるそうだ。
今更なあ…。昨日、蕎麦なんか食わずにコッチ来ときゃよかったかもね。

 
(北櫓)

 
(西櫓)

 
城跡だけあって、歩くと結構広い。

 

 
あっ、コレってもしかしてハルニレの大木じゃね❓植物の同定には、あんま自信ないけどさ。とにかくハルニレといえば、ケンモンの食樹だよね。どっか、止まってねぇかなあ…。
城跡の端っこのミニ農園みたいなところには、大きなリンゴの木も2、3本あった。林檎類はノコメとハイモンの食樹だね。
城内にはジョナスの食樹であるケヤキも沢山あり、エゾベニの食樹のヤナギ類も一応あった。
でも、つぶさに木を見て歩いたが、残念ながら何も見つけられなかった。あまり期待はしていなかったから、別にショックは無いんだけどね。

 

 
百日紅(さるすべり)の花が咲いている。
夏も真っ盛りだなあと思う。

 

 
城を出て街なかに戻ると、白い入道雲が湧き上がっていた。
今年のオラの夏休みも、そろそろ終りかなあ…。

                    おしまいのお終い

 
と言いつつ、話は尚も続く。

翌2020年は、8月8日(標高約700m)と8月9日(標高約1300m)に他のカトカラ目的で灯火採集した折りに何頭か見た。だが、既にズタボロばかりだった。だから殆んどスルーした。
唯一持ち帰った個体がコレ↙️

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
尻が細くて長いから♂だね。
採った時はそうでもないと思ったけど、裏を見ると超ボロい。
カトカラの鮮度は表よりも裏の方が如実に出るね。鮮度は裏で見るべしなのだ。

2019年の展翅前の横向き裏面画像も出てきた。
上の個体とは、だいぶ印象が変わる。

 
(♂)

(♀)

 
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅が白くなるんだ。本来の色は淡い黄色、クリーム色なんだね。

♀は横から見ると腹部が太いことがよくわかる。
あと、随分と前翅が丸いように見える。沢山の個体を見たワケではないが、図鑑等の画像を含めて♀にはそうゆう傾向が見受けられるような気がする。微妙な奴もいるだろうから、同定には補足としてしか使えないけどね。

これらの展翅画像は後ほど解説編に貼付します。

               おしまいのお終いのおしまい

 
追伸
今回も1回のみの掲載を試みた。実際に完成もしたのだが、やはり解説編で脱線と迷走を繰り返し、厖大な長文になったゆえに分けることにした。

えー、ハイモンキシタバの回から比較的間隔を置かずに記事をアップできたのは、ハイモンの回と同時進行で書いていたからです。同時進行の方が早く書けて、間違いも少ないと考えたワケやね。

 
(註1)しょこたん
マルチタレント・歌手の中川翔子のこと。

 

(出典『Wikipedia』)

 
『しょこたん』の愛称で知られ、オタクだけでなく一般的な知名度も獲得している。
アキバ系タレントの先駆けの1人として活動を開始した後、自身のブログが爆発的な人気を集め、「新・ブログの女王」と呼ばれた。ネット文化に影響を受けた特有の話し方はしょこたん語と呼ばれている。本文で使った「ギザ」もその一つである。

 
(註2)ちなみに上田城には元々天守閣がない
仙石氏時代の上田城には天守閣が無かったことは明らかではあるが、真田氏時代の有無は定かではなかった。しかし近年、金箔瓦が出土していることから天守が築かれていた可能性が指摘されている。
なお第一次上田合戦の際には「天守もなく小城」と徳川軍が侮ったとする記録があるので、天守があったとすれば、造営はその後だと考えられる。

 
 

2019’カトカラ2年生 其の五

 
    vol.22 ハイモンキシタバ

   『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』

 
 
2019年 8月6日

白馬で3連続惨敗に終わり、別な場所で何とかミヤマキシタバを採って溜飲を下げた。しかし、翌日には松本市でナマリキシタバを狙うも、かすりもせずで再び惨敗を喫した。
ナマリとはメチャメチャ相性が悪い。このままでは再び悪夢のような流れになりかねないので、スパッとリベンジを諦め、この日は上田市へと移動することにした。

電車だと不便そうなので、バスを選択する。

 

 
平日とはいえ、車内はガラガラだった。
途中、ナマリキシタバの産地として知られる三才山を越えて、上田盆地へと入る。

1時間半ほどで上田駅前に到着。

 

 
時刻は昼過ぎ。目的地行きのバスにはまだ時間があるし、昼飯でも食おう。

長野と云えば蕎麦である。ここ上田も蕎麦で有名だ。
観光案内所で、お薦めの蕎麦屋を幾つか教えてもらう。
で、吟味した結果、安くて量が多く、一番流行っているという店へ行くことにした。

 

 
結構、行列が出来ていた。
並ぶのが死ぬほど嫌いな男だが、せっかくここまで歩いてきたし、上田に来るのは初めてで、この先来ることなど滅多とないだろうから我慢して並ぶことにした。

 

 
意外と列は進み、思ってたほど待たなくとも済んだ。

 

 
店内はレトロな感じで好ましい。

 

 
周りの人たちに目を向ける。食べているのをチラッと見ると、田舎そばって感じだ。

 

 
メニューを見る。
ここは矢張り王道の、もりそばだろう。蕎麦といえば、もりそはに決まってんである。
650円也のもりそば(中)をたのむ。長野県にしては良心的な価格設定だ。
 
ハイハイ、きましたよ〜。

 

 
つゆと薬味の設(しつら)えも良い感じだ。期待値が跳ね上がる。

 

 
しかれども、何だかボソボソしてて全然旨くない。麺の太さもバラバラだ。素朴で野趣あふれる感じは嫌いじゃないが、それも旨いという前提があってこその話だ。
ブッちゃけ言っちゃうと、長野で蕎麦食って旨かったためしが一度もない。その上、高い店が多いから腹が立つ。関西人としては、福井のおろし蕎麦や兵庫は出石の皿そばを擁護したくもなる。
小太郎くんも同意見で、この件に関してはいつも文句タラタラだ。その憤りはワシなんかよりも遥かに強く、もう憎悪と言っても差支えないくらいだ。普段、食いもんに文句を言わない人だけに、その怨みは極めて深い。

いったい何があったのだ❓小太郎くん❗

理由は知ってるけどさ(笑)。

これで何か悪い予感がするなと思ったら、案の定、店を出たら天気は下り坂になっていた。
そして、バスに乗ったら、風雲、急を告げるってな感じになってきた。行き先はどうみてもヤバヤバの黒雲ワールドだ。

 

 
おいら、スーパー晴れ男なのに何で❓ポロポロ( ;∀;)
白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。なのに又しても地獄の輪廻の再開かと思うと、戦々恐々だよ。

1時間近くバスに揺られ、午後4時前にバスを降りる。
歩き始めると、雨がポツポツと落ちてきた。これは強くなるなと思ったら、案の定、すぐに本格的に降ってきた。
慌てて出荷作業中のレタス農家に飛び込み、雨宿りさせてもらう。長野県民、特に北側は不親切な人が多いけど、スタッフは皆さん親切で色々気遣いして戴いた。ありがとうございました。

雨がやんだら、急速に晴れ始めた。スーパー晴れ男の面目躍如である。基本、強く願えばワシの居るところは晴れることになっとるのだ(笑)。

ここはラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若きラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだからさ。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。

 

 
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)の木は既に確認済みである。ミヤマキシタバで溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄◇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれようとしていた。
さあ、戦闘を開始だ。ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時半。日没後さして間もなく糖蜜にノコメキシタバがやって来た。幸先がいい。
とっとと採っての、とっとーとで勢いをつけて、そのままエンジン全開といこうぜ。マホロバ発見の呪いだと揶揄する秋田さんや岸田先生の期待を何が何でも裏切らねばならぬ。再び笑い者にされるのは御免蒙りたいのじゃよ。ここからは連戦連勝といこうじゃないか。

しかし、網を組み立てて、よっしゃ行くぞと気合を入れて見たら、忽然と消えていた。
……(。ŏ﹏ŏ)、嘘だろ❓マジかよ❓

おいおいだが、反応があったのは一安心だし、そのうち又飛んで来るじゃろうて。どんまいどんまい、Don’t mind.

取り敢えずは糖蜜を撒いた各所を巡回する。
次に飛んで来たのは8時15分だった。同じ木だったし、さっきのノコメが戻って来たのだろうと思った。しめしめである。
しかし何かさっきのとは、ちょっと違うような気がする。
💡ピコリン。😲あっ、ハイモンかあ…。ホントはノコメが一番欲しいんだけど、ハイモンも採ったことないし、まっ、良しとすっか…。

毒瓶を被せるか、網を使うか迷ったが、一応さっきの事もある。また逃すのは嫌だし、早く初物は何でもいいから採っておきたかったので網を選択する。ゼロと1とでは心の有りようが天と地ほどの大違いなのだ。さっさと採って、一刻も早く心を落ち着かせたい。

慎重に距離を詰め、止まってる下を網枠でコツンと軽く叩く。驚いて飛んだところを瞬時に振り抜く💥。
斜め斬り光速剣ハヤブサ❗
(. ❛ ᴗ ❛.)へへへ、決まったな。

 

 
フラッシュ焚いたら、羽が銀色に輝いた。
でもベタで斑紋にメリハリがないな。それに、けっこう素早く取り込んだつもりだったが、背中の毛を剥げチョロケにさせてしまった。(´-﹏-`;)何だかなあ…。
どうせまた飛んで来るだろうし、まっいっか。

裏返してみる。

 

 
たぶん♀だ。
裏面の外側は黄色が薄くて白っぽいんだね。カトカラではあまり見たことのない裏面かもしれない。
マオくん(註1)は時期的にハイモンは厳しいんじゃないですかね。採れても激ボロですよと言ってたから、ちょい嬉しい。
後で報告したら、お褒め戴いた。でもケンモンキシタバだと思ってた奴がワモンだと指摘されて、スゲー恥かいたけど(笑)。

結局、この日飛んで来たのは、まさかのコヤツ1頭のみだった。
まっ、いっか…。深夜ギリギリになって何とか目的のノコメキシタバが採れたしね。

しか〜し、やっちまったな(-_-;)

撤退する前に何気に戦利品を確認したら、なぜか採った筈のハイモンが無い。

無いっつったら、無いっ❗❗

もしや神隠しにでも遭ったのだろうか❓
ヽ((◎д◎))ゝもうパニック寸前てある。

ここで漸く思い当たる。
写真を撮ったあとに蘇生しそうな感じだったので、もう一度毒瓶にブチ込んだような気がする。もしかして、それを回収してなかったりとかして…(-_-;)
恐る恐る左ポケットから、今回あまり使ってなかった毒瓶を取り出す。

😱NOー❗、ガッデーム❗❗

あろう事か、同定できない程にボロッボロッになっていた。
たぶん歩きまくってたから、毒瓶の中でウルトラシャッフルされたのである。
〇¶〆〓§⊿∞✤□➷✫✘ドギャぶぎゃわ、痛恨の失態なり。

 
ぽ〜い(┛◉Д◉)┛彡┻━┻

怒りに任せて捨ててやってまっただよ。
ゆえに標本は無い。大いなる蹉跌だね。写真は撮ってあるから採ったと云うせめてもの証明にはなるが、大ボーンベッドだ。まあ、ノコメじゃなかったからいいか…。
しかし、これもまた大いなる間違いであった。正直この時点ではハイモンよりもノコメの方が珍しいと誤解してたし、上翅もノコメの方が複雑でハイモンはベタでツマラナイと思ってた。だから、のちに小太郎くんに「鮮度の良いハイモンはギラギラのシルバーでめっちゃカッコイイですよ。」と言われた時は焦った。それにノコメよりも下翅が鮮やかな黄色で美しいことも失念してた。当時は上翅ばかりに目がいってて、下翅をロクに見てなかったし、展翅もしてないから気づかなかったのだ。銀灰の蹉跌である。

だから、2020年は密かに完品を名古屋方面で狙っていた。
現地の交通の便も良さそうだし、大阪からは一番近いからサクッとリベンジしてサクッと帰ってこようと思ってた。しかし連日クソ暑いし、何やかんやとあって、その機をいつの間にか逸してしまっていた。

8月に長野県に行った時に灯火採集の外道で採れたから、一応その時の個体の写真を貼っ付けておく。

 

 
同じ個体を手の平に乗せてみる。

 

 
よりみすぼらしく見えるや(笑)
腹が細長いので♂だすな。
次の個体も♂だった。
 
 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
8月のものだから鮮度は当然良くない。
つーか、標高は1300mくらいあったのに両個体とも酷い有様でボロッボロだ。みすぼらしい事、この上ない。やっぱマオくんの言ってたとおりだね。7月中旬辺りに狙いにいかないとギンギラギンのには会えないってワケやね。
そう考えると、あの2019年唯一のハイモンの鮮度は時期的にみれば、かなり良かったということになる。返す返すも痛恨の極みである。

一応、展翅はした。
個体の順番は上の横向きの画像と同じである。

 

 
まあ、こんなもんじゃよ。
上の個体の上翅なんて銀灰色がほぼ消えて、そこだけ見たら何者かワカランくらいに小汚くて、辛うじて下翅でハイモンだと解るというレベルだ。
そうゆうワケで、情けないことにまともな展翅写真がない。
仕方がござらんので、次回の解説編は画像をお借りして話を進めてゆきます。ぽてちーん(T_T)

                         つづく

 
追伸
今回はワモンキシタバの続編『False hope knight』の文章を一部抜粋して使いました。そのワモンの続編では、このあと更にフザけた文章になっていきます。興味がある方は、そちらも併せて読んで下され。
また、この採集記の部分は前回のミヤマキシタバや次回のノコメキシタバの回にも連なっている。そして、ひいては過去のベニシタバの回や今後登場するカトカラにも連なってゆくものと思われる。謂わば隠れたシリーズものなのだ。

ちなみにタイトルの中の銀灰(ぎんかい)という言葉は世間的には馴染みが薄いが、実際にある色(銀灰色)で、文字通り銀色を帯びた灰色を指す。英語でいうところのシルバーグレーのことですな。ハイモンキシタバの上翅にはピッタリだと思って使用した。
蹉跌の方は分かると思うし、これ以上精神的にエグられるのも嫌なので割愛させて戴く。ワカンない人は自分で調べましょうね。
クソッ、何だか思い出してきて、沸々と怒りが込み上げてきたよ。来年はボッコボコにシバいちゃるからね。

 
追伸の追伸
実をいうと、今回は一回のみで終える予定だった。実際、次の解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これが長い。学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態だ。
なので、2回に分けることにしたってワケ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。