続・カバフキシタバ(後編)

 

『リビドー全開❗逆襲のモラセス』後編

  
2019年 7月4日。

当初は奈良にリベンジしに行く予定だったが、急遽方針を転換して六甲へ。
勘ではあるが、天気予報も含めて考えた結果だ。
予定は未定であって、しばしば変更。虫採りは常にフレキシブルでなくてはならない。特に天候に関してはビビットであるべきだと思う。

今日は下見の時とは違う別ルートを探すも、やっぱり幼虫の食樹であるカマツカの木は見つけられなかった。近くにカバフの記録はあるが、ホンマに此処におるんかいのお❓ このままの流れだと、再び辛酸ナメ子さんになりかねない。見えないけど、恐怖を好物とする性格の悪い小人くんたちが、傍らでクスクス笑いをしてそうだ。テメエら(=`ェ´=)、人の人生に悪さすんじゃねえぞ。

夜がやってきた。
暗い山道を黙々と登る。夜になってもクソ暑い。瞬く間にTシャツが汗でビッチャビチャになる。

午後7時半。
ようやく樹液ポイントに到着した。さあ、今日こそカバフを手ゴメにしてやろう。

が、(◎-◎;)ゲロゲロー。
あろうことか、半月程前にあれほどカトカラが乱舞していたコナラの木の樹液が止まっていた。
(・_・)……。見事なまでに何もいない。嘘でしょ❗❓
三連敗という現実が目の前にグッと迫ってくる。

暫く様子を見てみたが、やっぱ何も飛んで来ーん。
( ̄ロ ̄lll)まさかである。これってさあ、世間的に言うところの、見事に思惑が外れるってヤツだよね…。惨敗の予感は益々濃厚となる。
だが、備え有れば愁いなし。昼間、用心のために別な場所で新たな樹液ポイントを見つけておいた。オデ、だいたいアホだけど、たま~に賢いのである。
僅かな期待を抱き締めて、そちらへと移動する。

Σ(◎-◎;)アキャア━━━。マジかよ❗❓
けんど、糖蜜を吹き掛けるための霧吹きが一回使用しただけで、早々と詰まった。やること為(な)すこと上手くいかない。再び暗雲が垂れ込める。惨敗の予感、ダダ黒モジャモジャだ。

コシュコシュ、コシュコシュ。コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュー…、(ノ-_-)ノ~┻━┻ ダアーッ❗何度やっても霧吹きから何も出てこん(#`皿´)❗
気が短い男ゆえ、ダンダンダーン(*`Д´)ノ❗、思わず破壊の衝動に駆られる。
(; ̄ー ̄A 落ち着け~、(; ̄ー ̄A 落ち着け~、俺。

🎵( ̄ー ̄)落ち着いたあ~、お~れ~。
と云うワケで、わりかし簡単に冷静になったワタクシは、一旦アタマの部分を取り外し(ワシの頭やないでぇ~、霧吹きでっせー)、管も抜いてお茶をブッかけてみた。
でもって、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~。魔法の愛撫をしてやる。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんか、Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんかあ~。

装着しなおして、再度シュコシュコやってみる。
暫くやってたら、ピュッ💦と出た。
❤あっはあ~ん。💕うっふ~ん。とれびあ~ん。
<(`^´)>ふっか~つ❗❗オイラ、🎵\(^o^)/てくにしゃあ~ん。
ぬははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、エロ男の超絶テクニックをナメんなよである。リビドー全開だぜ❗
これで思う存分、ブッカケてやれる。その辺の木を、まみれまみれのヌチョヌチョのネチャネチャにしまくってやらあ。男のリビドー、💥爆発じゃーい❗

だが寄ってくるのは糞キシタバのパタラ(C. patala)とチョコチョコ歩き回る糞ヤガのみ。この歩き回るところが💢癇(かん)に障る。イラッときて、石を投げつけたくなる。
名前はたぶんカラスヨトウって奴だ。ヨトウというのは漢字で書くと「夜盗」らしい。だから泥棒みたく歩き回るのか?、(=`ェ´=)小癪なっ。もしも携帯用殺人レーザービームとかがあったら、1匹1匹ピンポイントで八つ裂きにしてくれるのに(-_-)
人間、焦りが募ると心が荒れてくる。きっと闇の中の今の顔は、焦燥がベットリと貼り付いた醜い顔になっているに違いない。

午後8時26分。
樹液に何やら他とは違うカトカラが飛来していた。
でも結構高い位置だし、角度的にも真横に近くてよく見えない。おまけに手前の葉っぱが邪魔で下側が見えづらい。下翅を僅かに開いていそうだが、それも確認できない。持ってる懐中電灯が100均で買ったモノだから、光量が弱いというのも相俟って(註1)、兎に角よくワッカラーン。
でも消去法でいくと、マメキシタバにしては大きいし、パタラにしては小さい。アサマキシタバやフシキキシタバは季節的にもう終わっているし、ウスイロキシタバもそうだろう。ワモンキシタバも関西では終わりかけの時期だ。見たところ鮮度は良さそうだから、コヤツらも除外していいだろう。反対にアミメキシタバやクロシオキシタバには時期的にまだ早い。となると、残るはカバフキシタバとコガタキシタバしかいない。大きさ的にもそれくらいだ。でもコガタキシタバは最近ちょくちょく見ているから、雰囲気的に違うような気がする。ということはカバフ❓だよね❓
けど、そもそもカトカラじゃないと云う可能性もあるなあ…。上翅の見た目は似てるけど、下翅に色鮮やかさが無い糞ヤガの一種かもしれない。ヤガ科全般の知識がないから、それも充分有り得る。採ってはみたものの、下翅がドドメま○こ色でしたーという残念なパターンは往々にしてある事なのだ。

まあここでグダグダ考えていても埒が開かない。
取り敢えず採ってみっか。4m竿をするすると伸ばす。
それなりに緊張感はあるものの、それは通常のもので、過度な緊張感は無い。どうせ糞ヤガだろうという気持ちが心のどこかに有るからだ。きっと連敗で打ちひしがれていて、マイナス思考になっているのだ。糠喜びで、更なる落ち込み簾(すだれ)男になるのは避けたいという深層心理が無意識に働いてるんだろね。

高さを慎重に合わせて、💥叩く。
飛んで逃げた形跡はないから、たぶん網に入った筈だ。竿をすぼめて、中を覗く。

あらま(@ ̄□ ̄@;)❗、カバフやんかあ。
急に緊張感が高まる。今度は何があっても逃すワケにはいかない。もし又やらかしたら、その場で首カッ切って息絶えねばならぬ。慎重に慎重を期して、毒ビンに取り込んだ。

 

 
とはいえ、思っていた程の高揚感はない。何か拍子抜けした感じだ。奈良と京都の惨敗があったから、次の出会いはもっとドラマチックな展開を想像してたからだろう。背水の陣での戦いを覚悟していたのだ。それがまさかのシチュエーション曖昧の棚ボタ的だったから、どこかガッカリ感は否めない。虫採りにロマンとドラマ性を求める者としては、肩スカシを喰らったような気分だ。
それに背中の毛が落武者禿げチョロケになっているのに、途中で気づいちゃったと云うのもあるかもしれない。憧れていた美人さんが実をいうと円形脱毛症だった…。なんて事は万に一つも無いことだろうから、喩えとしては無理があるとは思うけど、そんな感じだ。

 

 

 
そんなに暴れてなかったし、取り込みも早かったのになあ…。何でやのん…❓

でも1頭いるということは複数いる可能性が高い。気を取り直して、糖蜜を集中的に撒いた場所へと移る。

(@ ̄□ ̄@;)あっ❗こっちにもおった。
今度は糖蜜トラップに来てるから、目の高さだ。
楽勝じゃん。テンション⤴上がるうーっ(о´∀`о)
しかし、ネットを構えかけてやめた。この高さだと毒ビンを直接かぶせる事ができる。ならば暴れる時間も短い。さすれば落武者化も防げる可能性が高い。そう踏んだのさ。

ヘッドライト、スイッチ・オーン。
準備万端。毒ビンを持ち、そっと近づく。
幸い、夢中で甘汁を吸っている。油断しているスキに背後からガバッじゃ❗でもって、カクカクカクカク…、手ゴメにしたるぅー(=`ェ´=)

だが、カブしたが紙一重。すんでのところで飛んだ❗
あちゃーΣ(×_×;)、また失敗かよう。俺、この毒ビンを被せるやり方って苦手なんだよネー。いつも、すんでのところで逃げられる。慣れてないから、下手に緊張感とか殺気が出ちゃうんだろなあ。蝶を手で採るのは得意なのになあ…。心を無にするには、対象に対して、それなりの経験値が必要だ。蝶には慣れていても、カトカラに対しての慣れはない。もう少し時間が必要そうだ。

逃したが、飛び方はパタパタ飛びだから目で追える。懐中電灯を拾って、あとを追う。
普段、カトカラはビュンビュン飛びで、かなり飛翔速度が高い。夜空を飛んでいる時などはスズメガの仲間かと見紛うばかりだ。しかし、なぜか樹液や花に飛来する時や、そこを飛び去る時はパタパタ飛びで遅い。ホバリングや方向転換が下手で、なんか鈍クサイ飛び方なのだ。急発進できないというか、トップスピードになるのに時間がかかり、急にスピードを落とす事も出来ないのだろう。
原因は体が重いのかな?とも思ったが、それほど特別に胴体がデカイわけではないのにナゼ❓胴体はスズメガの仲間とさして変わらんぞ。いや、寧ろスズメガよか細いくらいだ。はて…、何でやろ❓
もしかしたら、翅の形と厚さが関係しているのかも…。種類にもよるが、スズメガの方が上翅がより横に長くて、下翅がコンパクトだ。翅も分厚い。その辺に答えがあるのかもしれない。

目で追っていると、10mほど飛んで木の幹に止まった。
今度もわりと低い位置だ。毒ビンを被せる事も出来よう。しかし、位置をシッカリと確認してから網を取りに戻る。毒ビンで採る自信が無かったのだ。今度またハズせば、せっかく気分が乗りかけてたのに再び暗黒ビチャグチョの精神世界に沈みかねない。もうこれ以上、カタルシスが無い日々が続くのは辛いのだ。虫は採れてこそ、面白い。

幹を💥ブッ叩き、なんなくゲット。
しかし、又もや禿げチョロケ。まあ、いいや。採れないよかマシだろ。仕方なく、裏面写真を撮ることにする。

 

 
カバフは、裏も微妙にいいねぇ。
それを三角紙におさめてる時に、またカバフが糖蜜に飛んで来るのが視界に入った。

 

 
今度は、もっとハゲ~(ToT)
これは裏展翅ゆきだろなあ…。

その後も立て続けに飛んできた。
カトカラ国内No.1の稀種であるカバフキシタバを怒濤の20分間で3♂1♀ゲット❗❗
相変わらず無傷の背中フサフサさんは採れてないが、気分は悪かない。カバフの1日最高ゲット数のレコードをも射程内なんじゃないの~(^o^)v

と思ったけど、それでピタッと止まった。その後、11時前くらいまで粘るも飛来なし。
まあ、一日で複数採るのも難しいとされる稀種がこれだけ採れれば、いいだろ。
ところで、1日最高ゲット数っていくつなのだ❓ 最高ゲット数のレコードも射程内とか言っといて、知らんのだ。所詮は何も考えとらんテキトー男の、テキトー発言なのだ(笑)

 
一応、展翅画像も貼付しておこう。

 
【カバフキシタバ ♂】

 
無惨なハゲ度合いだが、カバフは美しい。
カバフキシタバの特徴と云えば、その特異な上翅のデザインだが、下翅も個性的だ。他のキシタバ類に比して下翅が明るい黄色で、しかもその領域が広い。珍しくて個性的で、しかも美しいとあらば、特別な存在とされるのも理解できる。

 
【カバフキシタバ ♀】

 
何か黄色の色が違うような気がするので、撮り直す。

 

 
( ̄~ ̄;)ん~っ、今イチ再現できてないが、まっいっか…。
 
雌雄の見分け方は、♀の方が♂よりも大きく、翅は全体的に丸みがある。また♀は腹部が太くて短く、先っちょの毛束の量も少ない。

 

 
裏展翅もした。
でも酷い写真だな。

 
【裏面】

 
裏面は他のキシタバ類と比べて劇的に違うワケではない。全体的に黄色みが強くて白っぽいところがあまりなく、領域も広い印象がある。但し、一つ一つ仔細に見たワケではない。同定するにあたって、裏を見る必要性がないし、特異とまで言える程の斬新性はないからである。

 
7月5日。

そこそこ満足したとはいえ、やはり落武者ハゲちょろけじゃない完品が欲しい。
と云うワケで、翌日も六甲に出掛けた。

午後8時17分。
最初の1頭が糖蜜に飛んできた。
その後、立て続けに4頭飛来。何れも糖蜜に寄ってきた。京都で採った最初の1頭も飛んできたのは8時半くらいだったし、どうやらカバフは日没直後には飛んで来ないようだ。基本的には8時を過ぎないと現れないと思われる(註2)。

15分程で一旦飛来が止まり、午後9時過ぎに1頭追加。その後、午後9時50分に1頭、10時15分に1頭が飛来して終了。

 


 

 
Ψ( ̄∇ ̄)Ψふはははは…、糖蜜、樹液に完勝❗
周囲には樹液が出ている木が計3本あるが、今日は樹液には1頭も来ず、7頭全てが糖蜜に寄ってきた。オラの作ったモラセス(糖蜜)ってスゴくねっ❓

レシピはテキトー&且つ複雑過ぎて正確なところは、教えたくともお教えできない。だから、たぶん二度と同じものは作れないだろう。
ベースはカルピス➕麦焼酎。そこに酸味として酢を足し、バヤリースオレンジジュースを加えた。しかし、今一つ匂わない。そこに飲み残しのビールを足したが、やっぱ今一つ。もうヤケクソでバナナを皮ごとグジャグジャにして入れてみた。焼酎も増量。これで香りにエッジが立った。イガちゃんスペシャルモラセスの誕生である。
もし真似するなら、ちゃんと濾してから使いましょうね。ワシみたいにエエ加減に作ると、霧吹きが詰まりもうすぞ。

流石に7頭も採れば、落武者じゃないのも採れる。

 

 
仔細に見たら、ナゼにこんなにも禿げチョロケになるのかが、概(おおむ)ね解ってきた。どうやらカバフちゃんの背中の真ん中の毛が元々薄いようなんである。毛が短くて、他と比べてフサフサ度が低いと思うんだよね。だから、すぐ円形脱毛症みたくなるんじゃないのかなあ…。

比較のために、参考として他のキシタバの画像を貼付しておきませう。

 

 
上がアサマキシタバ、下がコガタキシタバである。
毛が長いのが、お解り戴けるかと思う。
たぶん、普通のキシタバやフシキキシタバなんかも長い方だと思われる。
反対に短いタイプは他にもいるかもしれない。ムラサキシタバなんかも禿げちょろけ易いので、短いのかもなあ…。沢山採ったワケではないので、全然言い切れませんけど…。
或いは毛が長いタイプと短いタイプの2系統に分かれるとかないんだろうか❓
でも書いてて、段々自信が無くなってきた。所詮は印象で言っているだけの事で、数多くの個体を検証したワケではない。それに野外品ではジャッジメントの線引きが難しい。検証には不向きだ。こう云うのは、厳密的には各種を飼育、羽化させて比較してこそ、検証可能なものだろう。だから、この件に関しては半分以上は戯れ言として聞き流して戴けると有り難い。
但し、カバフに関してだけは、そこそこ当てはまってると思うんだけどなあ…。

今回も、展翅した画像を貼っておきます。
但し、便宜的に適当に選んだ写真なので、採集日は違うかもしれないです。

 

 
この時期は触角を自然な感じにするのが、マイ・トレンドだったんだろうなあ…。来年は真っ直ぐにしよっと。

 
7月6日

今日こそ、奈良でカバフをシバく予定だった。
しかし天気予報を見ると、生憎(あいにく)そっち方面の天気は思わしくない。どうやら、にわか雨があるようなのだ。雨はヨロシクない。網が濡れて、取り込む時に翅の鱗粉が剥がれてしまい、ボロ化しやすいのだ。当然、背中の毛も禿げ易いだろう。
それで急遽、昨日、一昨日のポイントにチェンジした。まさかの三連続出勤である。
また、7頭のうちの2頭は♀だと思ったのに、全部♂だったというのもある。これでは10♂1♀じゃないか。蝶や蛾は基本的に同柄ならば、♀の方が圧倒的に魅力があるのだ。♀、ぽちぃ~。

カバフは8時を過ぎないと飛来しないことが解ってきたので、今日は出発を30分ほど遅らせた。
今日もまた、エッチらオイラ…、じゃなくてエッチラオッチラと駅から長い坂道を歩く。

午後7時半、ポイントへと向かう入口に到着。
でも三日目ともなれば落ち着いたもんだ。念入りに全身に虫避けスプレーを散布して、毒瓶二つを両ポケットに捩じ込む。ヘッドライトを装着後、左手に捕虫網と懐中電灯、右手には糖蜜入りの霧吹きを持って夜の山へと入る。

寄って来たがる木にも好みがあるようで、昨日、一昨日を踏まえて、実績のある木を中心に8ヶ所に糖蜜を吹き付けた。辺りに、甘い香りが立ち込める。

2日間で11頭得ているので、気持ちは楽だ。
しかし、不安が全くないワケではない。虫採りに油断は禁物。常に予断は許せぬものなのだ。2日間でそこそこの数を得たからといって、翌日にまた同じように採れるという保証はどこにも無いのである。条件は変わらないのに、なぜだか1頭も採れない、姿さえ見ないということは往々にしてある事なのだ。況(ま)してや珍品で、個体数が少ないと言われているカバフキシタバである。この2日間で採り尽くした可能性も無いワケじゃない。
でも、♀は一つしか採れてないから、これからは♀の時期になってゆく可能性も無きにしも非ずとも考えられる。まだチャンスはある筈だ。

夕焼け空が次第に色を失い、群青色からやがて漆黒の闇へと移りゆく様は、いつ見ても飽きない。このカトカラを待つあいだの時間は、毎回特別な時の流れの中にあると思う。美しい風景と期待や不安が混じった感情が、不思議な感覚を一時(いっとき)与えてくれるのだ。マジックアワーとでも呼びたくなる素敵な時間だ。
少しニュアンスは違うが、これは昼間の蝶採りの時でも基本は同じだ。中学生がデート相手の女の子を待つみたいな気分なのだ。そこには期待と不安、ワクワクとドキドキ、胸を締め付けるようなものがある。
大人になると、そんな心持ちになれる事は滅多に無くなる。この歳になっても、そのワクワクを味わえるのは幸せなことだ。だから、蝶採りにハマったのかもしれない。
但し、待ち人きたらずで、心がズタズタになる事も多いんだけどね。

午後8時過ぎ。
早くも樹液に来ているカバフを発見。今日は飛来が早い。
でも矮小個体の♂だ。驚いたことにマメキシタバくらいしかない。思わず、二度見したよ。
カバフって、大小の個体差が大きい種なのかもしれないないと思う(註3)。

しかし、あとが続かない。
どうやらフライング個体だったようだ。まさか、これでおしまいってワケじゃないよね❓不安が擦過する。

8時22分。糖蜜トラップに漸く1頭が飛来。
この8時半前後が、カバフのゴールデンタイムの口火の時間なのだろう。

昨日、編み出した下コツッの採集方法で、難なくゲット。
そこから怒濤のラッシュが始まった。
9時前まで間断なく糖蜜トラップにやって来て、休む暇も無かった。あっという間に10頭をゲット。
その後も時折飛んできて、そこからあとは数を数えるのも面倒くさくなって、いくつ採ったかわからなくなった。
しかも、最初の矮小個体1頭以外は全部我がスペシャル糖蜜に来たものだ。ほぼ完勝と言っていいだろう。この三日間を合わせれば、モラセス(糖蜜)の圧倒的勝利だ。
ふははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、モラセスの逆襲だぜ❗

 

 
生息地は局所的で個体数も少ないと言われるカバフキシタバを、この日は結局17頭も採ってしまった。
1日で17頭って、それこそレコードじゃねえの❓(註4)

前の2日間も合わせると計28頭だ。
カバフって、ホンマに珍品かいな(;・ω・)❓

 

 
 
7月7日。

カバフをタコ採りしてやったので、溜飲も下がった事だし、この日はお休みにする予定だった。
しかし昨日、調子に乗って小太郎くんに自慢メールを送ってしまった。

小太郎くんは20代後半の若者で、基本的には蝶屋だが、虫全般について詳しい。驚くほど何だって知っているのだ。若いけど、かなりレベルの高いオールラウンダーだ。ゆえに、結構バカにされている(笑)。でも虫歴は向こうの方が長いし、レベルも高いから仕方がないのだ。それにカトカラの最初の先生だしさ。
彼は蛾にもそこそこ詳しくって、カトカラの事も基本的な事はだいたい知っている。最初にカトカラに興味を持ったのも、彼に影響されたところが大きい。中でもカバフの美しさと珍しさについての熱弁は印象に残っている。彼は基本的にカトカラは採らないし、採っても誰かに進呈するみたいだけど、カバフだけは別格らしい。アレだけは、人にはあげないと言ってた。
その彼から案内して下さいと言われて断るワケにはいかない。そう云うワケで、御案内申しあげた。まさか、まさかの四連チャンである。

今宵も我がモラセスは鬼のごたる効力を発揮した。
小太郎くんも、その効果を素直に認めたくらいである。ただし、この日は樹液に飛んできたヤツもそれなりにいた。

この日もそこそこの数が飛んできたが、正確な数はわからない。おそらく10頭ちょっとは飛んできたのではないだろうか❓前半は小太郎くんの採集と撮影のサポートをしていたので、正確な数を把握していなかったのである。

 

(写真提供 小太郎くん)

 
小太郎くんが満足したところで、最後に自分も幾つか採ったと思うけど、数は定かではない。それさえもあんまり憶えてないのだ。たぶん、急速にカバフに対して興味を失っていたのだろう。

カバフキシタバは稀種と言われてるけど、それに対しての疑問を明確に自覚したのは、この日からではないかと思う。本当はそれほど珍品ではなくて、意外と何処にでもいるんではないかと思ったのだ。それと同時に、食樹に対しての疑念も芽生えた。自分の目が節穴という可能性もあるが、随分と注意してカマツカの大木を探したつもりだが、結局1本も見つけられなかった。にも拘わらず、こんなにも成虫が採れたのである。
カバフの幼虫はカマツカの大木を好むと言われ、それが個体数の少なさの原因だと推測されてきた。けど、こんだけ採れりゃあ、別に大木じゃなくても発生するんじゃないかと疑ったのである。大木を意識するあまり、小さな木を見逃していた可能性はある。
また、こうも考えた。或いは此処ではカマツカ以外の植物も食樹として利用していて、見つからないのは、そのせいではないかと。
しかし、これはあくまでも推測に過ぎない。大ハズレの可能性もあるからね。

 
7月10日。

漸く奈良のカバフにリベンジする日がやって来た。
カバフに対するモチベーションは、かなり下がっているけど、奈良で享けた仇は奈良で返す❗やられたら、やり返す。それが人生のモットーだからだ。負けたままでは終われない性格なのだ。
とはいえ、返り討ちにされないとも限らない。勝つパーセンテージは少しでも上げておくべきだ。早めに行って、新たに樹液が出ている木を探しておいた。

この日は、家が近い小太郎くんにも声をかけておいた。日没後に合流する。
そこで、あのカトカラのニュー、マホロバキシタバ(註5)と出会ったのである。アミメキシタバともクロシオキシタバとも違う何じゃこりゃ❓のそれで、その日はカバフどころではなくなった。リベンジする事すら、頭から消えていたのである。

 
7月某日。

マホロバの発見で、蛾界の一部が騒然となった。
完全にカバフどころではなくなって、マホロバの分布調査にいそしむ事となる。
でも心の奥底では、通っているうちにそのうち何とかなるだろうと思っていた。それがこの日だった。

樹液の出ている木のそば、別な木に翅を閉じて静止していた。
でも、リベンジという意識はあまりなくて、『あっ、カバフおるやんか。』と云う感じで、さしたる興奮はなかった。特別緊張も無いから、なんなくゲット。

 

 
でも落武者になっとるー( ̄∇ ̄*)ゞ。
せやけどワシのせいちゃいまっせ。最初からやった。やっぱ、カバフは驚く程すぐ禿げチョロけるのねー。

時間は正確には憶えてないけど、たぶん8時は絶対過ぎていたと思う。
因みに、結局この周辺では糖蜜に飛来したものはゼロだった。もっとも、樹液がバンバン出ていたので、あんまり真面目に糖蜜採集やってなかったけどさ。

ここまで書いて、はたと気づいた。
7月某日だなんて、何で日付がハッキリわからんねやろ?と。
それで、上の展翅写真のデータを見直した。すると、何と日付が7月11日となっていた。と云うことはマホロバを見つけた日、つまりリベンジ初日の7月10日に、ちゃんとカバフを採っていたと云うことになる。Facebookに上げた記事もマホロバの記事を最初にあげた翌日(12日)の昼間になっている。12日は、小太郎くんが用事があるとかで、一人で訪れている。となると、10日に採っている可能性が極めて高い。

慌てて小太郎くんに電話して確認を取ったら、「その日かその前かはどうかは微妙ですけど、マホロバを採る前だったと思いますよ。」と云う答えが返ってきた。このカバフを採った時には、小太郎くんも一緒にいたのだ。
7月7日に彼と一緒にカバフを採りに行ってから、何処にも行ってない筈だ。ましてや奈良に行っていたとしたら、記憶がないワケがない。たとえパープリンの記憶喪失男だったとしても、小太郎くんが一緒に居たことは間違いないワケだから、それは有り得ない。
たぶん、マホロバの発見が強烈過ぎて、その日カバフを採った記憶がフッ飛んでいるのだ。
その後、なかなか次の1頭が得られなかったので、記憶がソチラに引っ張られたのかもしれない。奇しくも、如何に人間の記憶が曖昧なのかの証左を突きつけられた感じだ。思い込みとは恐ろしい。
何はともあれ、リベンジ一発目でカバフを採ったんだね。俺ってやっぱ、やる時はやる男やんか。何かプライドが強化されたようで、得した気分(о´∀`о)

その後、岸田先生がマホロバの分布調査に送り込んできた刺客、小林真大くんが若草山近辺でもカバフを見つけて、複数採った。そういえば、彼が言ってたなあ。糖蜜にソッコー来たそうだが、樹液には一つも来なかったって。カバフは樹液よりも、モラセス好きなのかもしれない。
自分も、後に赤松の幹に止まっているのを見つけた。カバフは赤松の木が好きで、昼間よく止まっていると聞いてたけど、この時初めて見た。真大くんも赤松の木で見つけたと言っていたから、やはり赤松好きなのだろう。もしかして、アカマツも食樹だったりしてね(笑)。日本のカトカラは基本的に針葉樹を食わないだろうから、それは無いとは思うけど…。
それで思い出したが、若草山近辺にもカマツカの木はそれなりにあるようだ。自分も2本くらい見た。探せば、もっと北や東にもあって、カバフもいるんじゃないかと思う。

自分の六甲でのタコ採り、奈良近辺での採集数、それに松尾さんが兵庫県西部で相当数のカバフを見ていることから、今年は大発生なのではと云う意見もあるようだ。しかし、果たして本当にそうなのかな?と疑問に感じている。それ以外で、他にはあまり例を聞かないからだ。たまたま沢山いる所が見つかって、情報が強調されたにすぎないんじゃないかと思ってる。間違ってたら、ゴメンナサイ。

思ったんだけど、大発生とかではなくて、寧ろ今まであまり調査されてこなかっただけの事ではなかろうか。意外とカバフは何処にでもいて、個体数も思われているほど少なくないのではないか。単にベストな採集方法が分かってなかっただけではないかと云う考えに傾き始めている。
今までカバフがあまり目に触れてこなかったのは、採集を主に外灯に来たものやライトトラップ、或いは昼間に静止しているもの、樹液への飛来に頼ってきたせいではなかろうか❓
カトカラの中でも、カバフは特徴的な上翅をしているから見つけ易いとは言われているが、にしても昼間の見つけ採りは決して効率が良いとは言えないだろう。樹液にも、個体数のわりには寄って来ないのかもしれない。自分の経験値と真大くんの見解を併せれば、樹液で採るよか、糖蜜の方が遥かに有効である可能性はあると思う。
しかし、糖蜜トラップでカバフを採ったという話はあまり聞かない。常識的に考えれば、糖蜜よりも樹液の方に寄ってくると考えるのは当たり前だろう。が、その当たり前が常に正しいとは限らないと云うことだ。
ライトトラップにも、そもそもあまり寄って来ない種なのかもしれない。或いは寄って来るのが遅い時間帯と云うのも有り得る。皆が皆、そんなに夜遅くや明け方までライト・トラップをやってないだろうからね。撤収した後がゴールデンタイムと云う可能性も無くはないか❓

結局、奈良でも六甲でもライトトラップを試してないから、ライトへの飛来に関しては本当のところはわからない。あれだけの数が糖蜜で採れて、ライトトラップにはあまり寄って来なかったとしたら、走光性が低いという可能性がある。
同地で、糖蜜とダブルで試してみたら、事実の一端が見えてくるかもしれない。どちらが有効であるか、来年試す価値はあると思う。
でもさあ( ̄∇ ̄*)ゞ、おいらライトトラップの道具持ってないんだよねー。

 
                   おしまい

 
追伸
計3話に渉る長々としたクソ文章にお付き合いくださいました方々、御拝読ありがとうございました。
相変わらずフザけまくるは、生意気に意見するわでスンマセンm(__)m

夏の強烈な日射し、荘厳なる夕暮れ、木々を揺らす風、部活動をする学生たちの声と楽器の音、タールのような漆黒の闇、儚く光る蛍たち、溶けそうな蒸し暑さ、糖蜜の甘い香り、帰り道の静まりかえった夜の街、そして灯りの中で明滅するカバフキシタバの鮮やかな黄色。
この長い文章を書いている間、色んな風景や温度、その他もろもろがフラッシュバックした。
来年も、カバフキシタバに会いに行きたい。

 
(註1)100均の懐中電灯
100均の懐中電灯はショボい。でも、敢えて使っている。何でかっつーと、照らしてもカトカラがあまり逃げないからなのである。カトカラは敏感だ。強い光を当てるとビックリして飛びがちなのだ。光量があって性能が良い懐中電灯は素晴らしいと思う。が、性能が良過ぎて、あまりヨロシクないんである。あくまでワタクシ的感想ですが。

 

 
ただしコヤツ、100均だけあってマジしょぼい。すぐに接触不良を起こして調子悪くなるのだ。で、しばしばブラックアウト。ドツいて、また光だすというポンコツ振り。電池が無くなりかけると、驚くほど光量が落ちるしさ。だから、予備電池は必須アイテム。お陰で、初期の頃は夜の山中で懐中電灯が消えかけて半泣きになったことが何度かある。一人ぼっちだったし、チビりそうになった。

 
(註2)8時を過ぎないと現れないと思われる
そんな事、図鑑とか何処にも書いてないけど、少なくとも関西では間違いなかろう。今夏、他人の採集も含めて知っている範囲では、50近い飛来数のうちで例外は一つもない。

 
(註3)カバフって大小の個体差が大きいのかもしれない

展翅した一部を並べてみた。

 

 
特別そうだとは言えないだろうが、それなりにはあると思う。

それよりも気づいたのは、♂と♀の下翅の斑紋の違いである。
今一度、並べてきた展翅写真を見て戴きたい。下翅の真ん中の黒帯が♂の方が細い傾向がある。だから、♂の方が黄色っぽく見える。そんな事、どこにも書いてなかったよね?
とはいえ、微妙なのもいる。同定の際の決定的な相違点とはならないだろうが、その一助にはなると思う。♂か♀なのか微妙な個体の場合には、使えるかもしんない。

 
(註4)それこそレコードじゃねえの❓
調べたら、石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、島根県で143頭も採れた記録があるらしい。物凄い数だにゃあ。ケタが一桁違うわ。
但し、よくよく見たら外灯(水銀灯)に来たもので、しかも1959年から1960年の二年間での総数のようだ。
成虫の発生期間を少なく見積もって1ヶ月として、2年間で60日としよう。単純に143を60で割ったとしたら、2.83だ。つまり1日3頭も採れていないことになる(それでもスゴい数字とは言える)。となると、1日17頭って、凄くねえか❓レコードも有り得るよね。もちろん単純計算に過ぎないから、天候不順の日だってあるだろうし、飛来日数はもっと少ないかもしれない。けど、カトカラは雨でも全然飛んで来るからね。また、1日3頭ずつコンスタントに飛んで来るワケではなかろう。中には爆発的に集まって来る日もあっただろう。にしても17と云う数字は、かなりいい線いってると思うんだけどなあ。
因みに3日間で28頭だから、それを3で割ると平均は約9である。9×60=540だ。圧勝じゃん❗
小太郎くんと行った日も10頭くらいは採れているから、仮に38÷4としても9.5である。コチラの方がもっと凄いことになる。
まあ、何だかんだ言っても、所詮は机上の理論に過ぎないんだけどね。
とはいえ、少なくとも樹液&糖蜜採集の数としては、レコードに近いんじゃなかろうか❓

 
(註5)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba 。
日本で32番目に見つかったカトカラ。詳しいことは『月刊 むし』の10月号を見てくだされ。不肖ワタクシの発見記も有るでござる。

 

続・カバフキシタバ

  
随分と間があいたが、連載『2018’カトカラ元年』シリーズの再開である。
何でこんなに開いたのかと云うと、日本では未知のカトカラ、Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ(註1)を目っけてしまったからである。
この発見にはカバフキシタバが深く関わっており、それでマホロバの記載が終わるまでは下手な事は書けなくなった。奈良県で見つけたカバフとマホロバの生息地が同一である事から、情報漏れを防ぐために自粛したのである。

と云うワケで、今回は前回のカバフキシタバの続編でありんす。
(-o-;)ん~、何かちょいややこしくなってるかもなあ。いっそ各カトカラの続編は『2019年’ カトカラ二年生』というタイトルに変えてやろうか…。でもそれはそれでゴチャゴチャになって、ややこしくなりそうだ。それに前に書いた続編シリーズのタイトルも全部書き直さないといけないしさ。面倒くさいし、とりあえずは暫くはこのまま2018年版と2019年版を交互に書いていくスタイルでいこう。

前半部は月刊むしの2019年10月号掲載の『マホロバキシタバ発見記』の文章が下敷きになっています。
もちろん「てにをは」を含めて微妙には変えるつもり。というか、遠慮してマイルドになったところも書き直すつもりの増補改訂版になろうかと思う。
完成すれば、たぶん時間が経ってる分、コチラの方が文章はコナれていると思う。ヒマな人は微妙な違いを探してね。とはいえ、書いてるうちに大幅に改変するかもしんないけど。

前置きが長くなった。取り敢えずタイトルを新たにつけて、前へと話を進めよう。

 
『リビドー全開❗逆襲のモラセス』

 
2018年、8月の終わり頃だったと思う。
カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが、Facebookに奈良県でのゴミムシダマシ探査の折りに、たまたまカバフキシタバを見つけたと書いておられた。
その年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は、既に京都でカバフは得てはいたものの、来年はもっと近くで楽に採りたいと思った。それで、秋田さんとは殆んど面識はないものの、勇気を出してメッセンジャーで連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺の昆虫採集禁止区域外だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された。

ところで、奈良県にカバフの記録ってあったっけ❓
ネットで調べてみる。てっとり早いのは『ギャラリー カトカラ全集』だ。このサイトには各都道府県別のカトカラの記録の有無が表にされているのだ。
それによると、奈良県にカバフの記録は無いようだ(註2)。こういう誰も採った事が無い的なものは大好物だ。それで、俄然やる気が出た。根が単純なので、だったらオラが最初に採ったろやないけー❗となるのである。

その年の秋遅くには奈良公園へ行き、若草山、白毫寺と歩き、幼虫の食樹であるカマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ】
(於 奈良公園)

 
この画像を『コレがカマツカで、よござんすか❓』と秋田さんに送ったところ、正解との御墨付きを戴いた。
因みに月刊むしの原稿で、秋田さんが「こやつ、カマツカも知らんとカバフを探しとんのか❓イモかよ。」的なニュアンスの事を書かれていたが、まあその通りかな。
だってカトカラ1年生だし、飼育なんて蝶さえ殆んどしないから、植物には疎い。ましてや蛾の食樹だ。んなもん、知るワケないもーん<(`^´)>
そんなオイラだが、引きだけは強くて日本でも海外でも何か知らんけど珍しい蝶や甲虫だのを採ってきてしまう。海外なんかは現地にいる虫の事をろくに下調べもせず出掛けて行って、ガイドも雇わないというテキトー振りでだ。だから、周りに冷ややかな目で見られ、『おまえ、虫採りナメとんのか。』と御叱りを受けるのである。
まあ、皆さんが怒るのも解るけど、採れるんだから仕方がないのさ( ̄▽ ̄)ゞ。そないに叱られてもなあ…。
 
そんなオイラだが、翌年は秋田さんのお陰もあって、万を持して始動。

2019年 6月25日。

先ずは若草山近辺を攻める。しかし秋田さんに教えて戴いていた樹液の出てる木はゴッキーてんこ盛り。
Σ( ̄ロ ̄lll)キショっ、皮膚が粟立ち、おぞける。
一瞬、意地の悪い秋田さんのことだから、もしかしてワザとゴッキーだらけの木を教えたんじゃないかと疑う。
しかし、悪魔のような秋田さんといえども、たぶんそこまで手の込んだことはすまい。
そう思うが、一応『(=`ェ´=)秋田の野郎~。』と呟いとく(秋田さん、ゴメンナサイ)。

霧吹きで糖蜜を撒き散らすも、全然ダメ。小汚いクソ蛾どもと、ただキシタバ(パタラキシタバ)しか来ない。カバフが飛んで来る気配というものがまるでないのだ。
この気配を感じる感じないかは、謂わば勘みたいなものだ。言葉にするのは難しいが、その勘というものを自分は大切にしている。今回もそれに従おう。ダメなもんはダメ。決断は早い方がいい。チラッと若草山からの夜景を見て、午後9時過ぎには諦めて白毫寺へと向かった。

 

 
周囲は原始の森だ。真っ暗闇の中、長い坂道をひたすら下る。忍耐である。
勿論、人っ子一人いない。闇の奥で、何かあずかり知らぬ者どもが蠢いていそうな気がしてくる。マジで、こういう古い森は精霊とかがいそうだ。でも精霊が皆が皆、良い精霊だとは限らない。中には邪悪な精霊もいるかもしれない。でもって、ゴブリン、ゴブリン。小人で、人相がゼッテー悪いんだな。そうに決まってる。そいでもって滑舌が悪くって、何言ってるか解らないのだ。
一人で暗闇の中を歩いていると、色んな思いが去来して、どんどん心が磨り減ってゆく。コレが結構キツイ。ボディーブロウのように心身を次第に蝕んでゆくのだ。「こんなとこで、ワシ何やっとんねん❓」である。
冷静に考えれば、やってる事が一般ピーポーから見ると狂人の域だ。フツーの人は怖すぎて絶対に夜の森を一人でなんて歩き回りゃしません。そんなの、アタマおかしい人か犯罪者くらいだ。
でも、それに耐え忍ばねば、甘い果実は得られない。虫採りとは、勘と忍耐である。

白毫寺に着いたのは午後10時くらいだったと思う。
目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構カトカラが集まっている。
しかしカバフの姿はない。取り敢えず周辺の木に糖蜜を吹きかけてやれと、大きめの木に近づいた時だった。
高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへ持ってゆく。

そこには、あの特徴的な姿があった。
だが、脳が現実なのか幻なのか直ぐには判断てきなくて、頭の中で時間が止まる。ややあってから、目と脳の認識が漸く一つに重なりあった。
間違いない、カバフキシタバだっΣ( ̄ロ ̄lll)❗
瞬間フリーズ。ゴーゴンかメデューサの凶眼に射すくめられたかのように、その場で石化する。体が動かない。
だからといって、いつまでも🐍ヘビ女の呪縛に雁字搦めに囚われているワケにはゆかぬ。懸命に心を鎮め、ゆっくりと後ずさりする。7、8mほど離れてから反転。音を立てないようにして忍者の如く爪先立ちで走る。心は高揚感で乱れに乱れている。
30mほど後ろの荷物が置いてある場所まで戻った。離れたことにより、少し心を落ち着かせることが出来た。
しかし、ここからが仕切りなおしの本当の勝負だ。大きく一回、深呼吸をして気を整える。
焦ったら負けだ。逸る心を抑えて網を組み立てる。
Σ(T▽T;)ヒッ、でも手が覚束なくてネジに真っ直ぐ入れれな━━い。落ち着こう、俺。ここで焦ってどうする。ネジがバカになったら元も子もないではないか。もう一回深呼吸する。だいたい立ってやってるからダメなんだ。しゃがんでやろう。
それで何とか装着することができた。すっくと立ち上がる。もう大丈夫だ。侍魂がフツフツと甦ってくる。
いよいよ、ここからが本チャンの闘いが始まるかと思うと、背中がブルッとくる。武者震いってヤツだ。このギリギリ感、溜まんねえや。これがあるから虫採りはやめられない。我が愛刀、蝶次郎で必ずや斬る❗
軽く息を吐き、ゆっくりと一歩を踏み出す。落葉がカサカサと乾いた音をたてる。静かな夜の森に、その音が奇妙に誇張されて響く。彼奴を刺激しないように、懐中電灯の光を直接当てずに慎重に近づいてゆく。

この木だったな。
歩みをやめ、ゆっくりと懐中電灯を止まっていた辺りにズラしていく。再び緊張感が高まる。
ピピピピピピッ……、ロックオーン❗
ほっ( ̄▽ ̄)=3、逃げずにまだいる。よっしゃ、ゲーム続行だ。
けれども刹那、どう網を振るか迷う。ダメだ。その一瞬の躊躇が負の連鎖を呼び起こしかねない。自念する。迷いは捨てろ。何も考えるな。メンタルの弱い奴には幸運など降りてきはしない。
蝶次郎の柄を握り締める。そして次の瞬間、息を詰め、大胆に幹をバチコーン💥❗思いっきしブチ叩く。
秘技✴嵐流狼牙斬鉄剣❗❗

手応えはあった。
空中で網を素早く捻り、地べたへと持ってゆく。
どうだ❓ 波立つ心で、慌てて懐中電灯を照らす。
そこには、シッカリ網の底に収まっている彼奴の姿があった。しかも暴れる事なく大人しく静止している。安堵がさざ波のように拡がってゆく。
やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で近づき、ぞんざいに網に毒瓶を差し込んだ。まあまあ天才をナメんなよ(`◇´)、狙った獲物はハズさないのさ。

しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して、毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ、えっ、えっ、マジ❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から抜け出して飛んでゆくのがチラッと見えた。
嘘でしょ❓嘘であってほしい。慌てて周りを懐中電灯で照らすも、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。あんま普段はこういうミスはしないので、ドッと落ち込み、「何でやねん…。」と闇の中で独り言(ご)ちる。己の詰めの甘さに心の中が急速にドス黒い後悔で染まってゆく。

結局、その日は明け方まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。

しかし、その時はまだこのボーンヘッドが後のマホロバキシタバの発見に繋がろうとは遥か1万光年、露ほども想像だにしていなかった。
運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが、その後の結果を大きく左右する。人生は紙一重とはよく言ったものである。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン再びこの地を訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

閑話休題。
でも、この時点では後にそんな大発見に至るとは知らないという前提で話を先に進めまする。

 
2019年 7月2日。

天気や個人的な用事もあり、あれから約1週間のインターバルがあいてしまった。

この日は奈良にリベンジをしに行く事も考えだが、その前に去年カバフを採った京都市左京区へ行くことにした。

  
【カバフキシタバ Catocala mirifica ♂ 】

(2018.7.15 京都市左京区)

 
去年、人為的にボロにしてしまった1♂のみしか採れなかったとはいえ、先ずは実積のある場所で確実におさえておきたかったからである。
ここなら寄ってくる樹液も知っているから、楽勝である。♂♀の完品が採れれば、気分はだいぶと楽になる。その後でジックリ奈良を攻めればいい。

 
今年もまだ有りまんな、ビビらす看板。

 

 
去年の、あの真っ暗闇の世界と謎の動物の咆哮を思い出したよ。超ビビりまくったんだよなあ…。マジあん時は恐かったもんなあ。怖すぎて逆ギレしてたっけ…。
しかし、あれからコチラもそれなりに闇の経験を積んできている。今回は二度めの来訪だし、あの時の恐怖感と比べれば、どって事ない。鬼採りでイテこましてくれるわ。今日こそ、まあまあ天才の実力をとくと見せてくれようぞ(=`ェ´=)

去年、カバフの食樹であるカマツカかなと思っていた木はウワミズザクラだった。

 

 
木肌の感じからしても間違いないかと思われる。
さっきも言ったけど、一年も経てばアチキだってそれなりに進化しているんである。植物の知識も少しは増えているのだ。
だが、その後歩き回るもカマツカの木が一つも見つからない。嫌な予感が、サッと撫でるようにして走る。もしかして、個体数が元々少ない場所だったりして…。

夜の帳が降りると、やっぱ真っ暗になった。

 

 
でも今年は蛍が沢山いた。
去年は一つも見なかったのに、不思議だ。
だから最初見たときは、🔥鬼火かと思って腰くだけになりそうになっただよ。京都って、妖怪だの幽霊だのの魑魅魍魎が跳梁跋扈してそうじゃん。そういうイメージがある。それに、この辺は昔は刑場とか墓場だったと聞いたことが有るような気がしてきた。だから、マジで出たなと思った。
稀代の怖がり屋としては、熊よか鬼火の方が余っぽど怖いんである。もちろん熊も怖いけど、まだ現実の存在だから対処のしようもある。マウントされたとしても、脇に息が出来ない程の強烈なフックをおみまいしてやることだって出来る。けれど、お化けだったら対処のしようがない。いらぬ想像力が増幅して、恐怖が異様に膨れ上がってのお地蔵さんだ。動けるか、ボケッ❗急に得体の知れないものがボオーッと闇から浮き出てきて、口から緑色の液をジャーと吐きでもしたら、どうするのだ❓オチンチン、激りんこメリ込むわい。この世のものならざる者は、あきまへーん(T▽T)

蛍は源氏も平家もいた。川沿いにはゲンジボタル、真ん中の水田にはヘイケボタルと、棲み分けしていて、時々その境界線で両者が絡まって飛ぶ。道ならぬ恋。ちょっとした幻想的風景だ。
それで、心にフッと上手い具合に隙間が空き、何だか心が休まってくる。このリラックスした気分で、カバフをジャンジャン採りまくるけんね。

 

 
(-o-;)……。
夜が明けた。

嫌な予感が当たってしまった…。
夜通し探し回り、明け方まで粘ったのにも拘わらず、1頭たりとも見ることすらできなかった。まさかの返り討ち、又しても大惨敗を喫してしまう。
見もせんもんは、如何にワシでも採れん。やはり、此処は個体数が少ないのかもしれない(註3)

結局、採れたのはコカダキシタバと、まあまあ渋いんでねえのと思って採った、この蛾くらいだった(註4)。

 

 
けど、いまだに展翅すらしていない。
如何せん渋過ぎるのだ。

何にせよ、(◎-◎;)ショックで身も心もボロボロじゃよ。徒労感、半端ない。

やがて、朝日が昇ってきた。
無駄に眩しい。
日の光に照射されたヴァンパイアの如く、いっそ、その場で灰になってしまいたかった。

やはりカバフ採りは、甘くないのか…。
珍品と言われたる所以が解ったよ。

                     つづく

 
追伸
スランプで、思うように筆が進まない。
気に入らなくて何度書き直したことか…。
そう云う時は必要以上に長くなるし、気持ち的にもシンドイ。なので一旦前編で切ることにした。

そういえば思い出した。朝まで粘ったのは、今年はこの連続の二回だけだった。
両日ともに、あまりにも退屈過ぎて、睡魔と戦いながらずっと一人シリトリをやってたんだよね。何処にも到達しない、未来永劫救われることのない無益なシリトリだ。
アレは今思い出しても辛かった。そりゃ、ドラキュラみたく灰になりたくもなるよ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
新種になりかけた時期もあったが、結局は台湾のみに分布が知られていた Catocala naganoi の新亜種におさまった。
マホロバに関しては、またいつか書く機会はあろうが、まだカトカラ No.5なので、まだまだ先のことになりそうだ。

(註2)奈良県にカバフの記録は無いようだ
「大切にしたい奈良県の野生動植物2016 改訂版」には、カバフキシタバが絶滅危惧種としてリストアップされている。記録地の詳細は書かれていないが、大阪と奈良の県境、信貴山辺りでも採れているみたいだし、記録は間違いではないだろう。
「ギャラリー カトカラ全集」の都道府県別のカトカラ記録表は参考にすべきものではあるが、それをそのまま鵜呑みにしてはならないと思う。例えばフシキキシタバは奈良県から記録が無いとされているが、実際にはアホほどいるからね。

(註3)個体数が少ないのかもしれない
もしかしたら、まだ未発生でフライングだった可能性はある。去年の採集日よりも2週間くらい早い出陣だったし、今年は蝶の発生が1週間以上遅れていたようだからだ。それからすると、蛾の発生も遅れていた可能性は充分ある。
とはいえ、今のところ来年リベンジしに行くつもりはない。ごっつ真っ暗なとこだし、謎の動物の咆哮も怖いので、行くとしても来年はもう一人では行かないと思う。

(註4)この蛾くらいだった
たぶん、Phalera minor クロツマキシャチホコという蛾かと思われる。
あまり見かけない蛾だが、幼虫の食樹はブナ科コナラ属のウバメガシ、クヌギ、コナラ、アラカシとなってるから、そんなに珍しくはなさそうだ。

 

カトカラ元年2018′ その五

 

    『孤高の落武者』

       vol.5 カバフキシタバ

 

闇に震撼した…。

2018年 7月14日。
京都市左京区の某所に着いたのは午後の4時だった。
天候は晴れ。とてつもなく蒸し暑い。

この場所は京大蝶研のOBであるTくんに教えてもらった場所だ。無理を言って後輩の蛾屋の子にカバフキシタバの採れる場所を訊いてもらったのだ。
狙ったターゲットは、普段は文献の記録を頼りに探しに行くことが多い。なのに形振(なりふ)り構わずわざわざ訊いたのは、今思えば余程採りたかったのだろう。

自分は不遜で負けず嫌いな男だ。
だから『世界のカトカラ(註1)』では国内最高峰の珍品度★5つ星、カトカラ界きっての稀種となっているカバフキシタバをカトカラ採りを始めて一年目にして採ってやろうと思っていた。最初にライト・トラップに連れていってくれたカトカラ好きのA木くんでさえもまだ採ったことがないと言ってたから、やりがいはある。
オラは人とは違う、( ̄ヘ ̄メ)まあまあ天才をナメんなよである。実績もさしてないのに変な自信だけはあるのだ。国内でも海外でも蝶はそんな感じで採ってきた。だから度々『蝶採りナメてんのか。』と叱られる。でも引きだけは強いから何とかなっちゃうんだよねー(・┰・)

歩きながら、何となく蝶採りを始めた頃の事を思い出す。
オデ、オデ、馬鹿だから、蝶採りを始めた一年目が終わって、周りに「約240種類いるとされる日本の蝶のうちの200種類を三年で、230種類を四年で採ったるわい❗」と宣(のたま)ってしまったのだった。
吐いた言葉は飲み込まない。だから言った手前、必死だった。中盤辺りから難易度がどんどん上がってゆくので、いつも背水の陣で臨んでいた。もし狙いの蝶が採れなければ来年に持ち越しになるから、翌年の日程が苦しくなって益々達成が難しくなる。ゆえに遠征の時などは取りこぼしは許されない。連続惨敗でもしようものなら、取り返しがつかなくなるのだ。スケジュールの組み方を一つ間違えただけでも命取りだ。発生期を外せば採れないし、それに天候だってある。こればかりはどうしようもない。悪ければ、ほぼアウトだ。運も必要なのだ。思えば、ボイントも殆んどが自分で探さざるおえなかったし、ギャンブルの連続だった。とにかく少ないチャンスを確実にモノにしていかなければならない。それに時間的、経済的な面から遠い所へはそう何度も行けはしない。車も持っていなかったから、簡単にリベンジはできないのだ。だいち翌週には次に採らなければならない蝶の発生が迫っている。採れなければ、どんどんスケジュールはカツカツになってゆく。だから、いつも血眼になって探し回ってたっけ…。
愚かな挑戦だったが、結局三年で221種類、四年で238種類が採れた。お陰で苦い思い出にはならずに済んだ。虫は採れなきゃ面白くないのだ。だからカバフも一発で仕止めちゃる。でもって、その勢いで今年中に日本産カトカラ全31種のうちの半分は片付けてやろうじゃないか。

 
早くも汗だくになりながら、山の入口へと辿り着く。
何か看板がある。

 

 
しょえー(|| ゜Д゜)
熊って夜行性だよね❓、絶対そうだったよね❓
一瞬、熊と遭遇した時のことを想像した。マウントされて、上からボコボコにされてる図だ。
で、内臓食われんだ。シクシク(;_;)。んでもって暫く誰にも発見されないのだ。山中、o(T□T)oハッコツシターイ❗ (*ToT)やだよー、白骨死体だなんて。

眦(まなじり)をキッと上げる。
だからといって撤退する気は毛頭ない。熊が怖くて、虫採りがやってられっかいι(`ロ´)ノである。欲望が恐怖をも凌駕するのだ。それが虫屋の性(さが)というものだ。やるっきゃない。

Tくんには詳しい場所は聞いてない。京都市左京区○○とだけしか教えてもらってなくて、その下の町名までは報されていない。といっても○○だけじゃ広過ぎる。よほどTくんにもう一回訊こうかとも思ったが、カッコ悪いのでやめた。ピンポイントで場所を教えてもらったら楽だし、確実ではある。しかし、それじゃ面白くない。予定調和なんぞ、糞喰らえだ。だいち、そんなの狩りじゃない。それにそんなところには浪漫は微塵も無い。自身の全知全能をフル回転して採ってこそ、エクスタシーと云う快楽は与えられる。物語のない虫採りに、ロマンなどありはしない。

場所は国土地理院の地図とGoogleマップを見てエリアを4分割し、最も可能性の高い場所に決めた。それが昔一度だけ来たことのある所と偶々(たまたま)合致した。ちょっと一安心だ。まるで土地勘のない場所よりも効率よく探せる。
ところで、こんなとこ何採りに来たんだっけ(・。・)❓
あっ、オオウラギンスジヒョウモン(註2)か。しかも秋だな。そのうち何処かで採れるだろうと思っていたが、中々出会えなくて結構苦労した記憶がある。ここでも結局会えなかったんじゃないかな。

先ずはカバフの幼虫の食餌植物であるカマツカの木と樹液の出ている木を探そう。無ければ他のエリアを探すしかない。

しばらく歩くと、またしても熊注意の看板が出てきた。

 

 
悪戯に恐怖心を煽るのぅー( ´△`)
前途多難じゃよ。

 

  
これってサクラ類の葉っぱだよね❓
もしかしてカマツカ❓(註3)
結構、大きな木だ。ここも一応チェックポイントにしよう。夜に♀が産卵に訪れるかもしれない。

さらに歩くと、その花らしきものも見つけた。

 

 
ネットで調べたカマツカの花って、こんなだっけ❓
ワカンナイや。植物のトーシロに、んなもん分かるワケねえわ(;・ω・)

いくつか樹液の出ているクヌギの木を見つけた。
だが、左右に分かれた道のそれぞれ2本ずつだけだ。何れも道の奥で、互いの距離はそれなりにある。両者を歩いて移動するのに最低でも15分くらいはかかりそうだ。帰りのバスの時刻を考えると、持ち時間はそうはない。移動の時間が勿体ないから、どちらか一方に絞った方がいいかもしれない。でも、そうなると賭けに負ければ地獄ゆきだな。

 
日が暮れ始めた。
そろそろポイントをどっちにするか決めなければならない。

結局、樹液がより出ている方のポイントを選択した。但し、そちらは一本は崖の上、もう一本は森の奥まで入り込まねばならない。でもって、かなりの急斜面にある。熊が出たら、一貫の終わりだ。それこそ死体は発見されんじゃろう。
一瞬、やはりもう片方のポイントにしようかと心が揺れ動いた。そちらは道沿いだし、もし居たとしたら採り易い場所でもある。更には杉の植林が多いから、熊の出る確率も低そうだ。
いや、よそう。楽して採ろうなんて虫がよすぎる。神様は、きっとチキンハートな者には微笑まないだろう。

 
午後7時10分くらいに日が沈んだ。

 

 
やがて、徐々に風景は色を失い。闇が支配する世界がやって来る。

 

 
おいおい、真っ暗けやないけー。
街灯も一切ないしぃ~。そして、ここは擂り鉢状の地形になっており、市街地の灯りも全く見えないのだ。しかも、今日は新月。月の光もないから漆黒の真っ黒けー。してからに一人ぼっちで真っ暗な森の急斜面を徘徊かよ。アタマがオカシクないと、こんな事は出来しまへん。我ながら完全なおバカさんだ。苦笑する。

森に突入する。
懐中電灯の照らしたところだけが、切り取られたように青白い。背中にベッタリと恐怖が張り付く。
上を仰ぐ。🎵ららら…🌟星き~れぃ~。

樹液の出ている2本の木を行ったり来たりする。
でも行ったり来たりしているうちに新たな恐怖が芽生え始める。考えてみれば、懐中電灯を1本しか持ってない。もしコレが途中で消えたらと思うとチビりそうだ。しかも予備の電池も持ってないときてる。致命的ミスだ。ようはぬけてるというか、なあ~んも考えていないのである。それでも目的のものは大概採れてきたから始末に悪い。蝶採りナメとんかと言われても仕方ないよね。
加えて所詮は百均で買った安物の懐中電灯だ。性能に大いに不安がある。前に突然接触が悪くなり、プッツリ消えたことがあることを思い出し、ゾッとする。その時は小太郎くんがいたからいいようなものの、今夜は一人きりだ。切れた時のことを想像すると、ベソかきそうだ。
道から近い方の樹液の出ている木は、まだいい。灯りが消えてもギリ夜目でも何とかなるだろう。問題は森の奥の木だ。もしそっちでブラックアウトしたら、おしまいだ。道無き複雑なルートなだけに到底戻ってこれない。倒木だって結構あるから、その場から動けなくなる。しゃがみ込み、熊の恐怖に怯え、朝が来るまで(/´△`\)シクシク泣き続けるしかないだろう。
とはいえ、それが一番正しい選択なのだ。下手に動いたら益々ドツボにハマる可能性が高い。それこそ死の危険に近づくことになる。その辺はダイビングインストラクターをしていたので、教えとして骨の髄まで刷り込まれている。水中で迷ったら、慌てて動き回るのが一番してはいけないことなのだ。パニくってかえって事態を悪化させることの方が多い。その場にとどまってよく考え、一度浮上して位置を確認するなり何なり冷静に対処するのが正しい。幸い此処は陸上だ。空気が無くなる心配はない。もっと気楽にいこうぜ、ベイベェ~(*^ー^)ノ♪
(ー_ー;)あかん…。陽気に心を宥めてみたがダメだ。そんな状況で鋼の心を持つことなど無理だね。

 
もう一時間くらいは異次元ワールドを徘徊している。段々、頭がオカシクなってくる。そのうち、この世の者ならざるモノを見るやもしれぬ。お化けとか幽霊が出たら、髪の毛真っ白になって発狂だな。

午後8時半。
道から近い方の崖の上の木を、さして期待もせずに懐中電灯で照らした。
一瞬、幻覚かと思った。突然、下翅を開いた何かカトカラらしきものの姿が目に飛び込んできたのだ。距離は目測7、8m。遠いが、その特徴的な上翅と下翅の明るい黄色で瞬時にして理解した。間違いない。カバフキシタバだ❗( ☆∀☆)カッケー❗
💓ドクン、ドクドクドクドクドクドクドクドク…。
即、心臓の鼓動が早鐘の如く打ち始める。この血が滾(たぎ)るようなワクワク感と是が非でも採りたい、採らねばならぬというプレッシャーがない交ぜになったゾクゾク感、堪んねぇ。肌が粟立つ。久々、気合いがバシバシに入る。
一度、その場で大きくゆっくりと息を吐く。
それでスイッチが入った。さあ、戦(いくさ)の始まりだ。全身に力が漲(みな)ぎってゆく。この戦闘モードに入ってゆく瞬間が好きだ。闘争は恐怖でもあるが、エクスタシーでもあるのだ。ケンカと同じだ。
先ずは慎重に小崖をよじ登る。そして木を掴みながら斜面をそろりそろりと距離を詰めてゆく。
よっしゃ、射程内に入った。でもそこで迷いが生じた。ポケットに捩じ込んだお散歩ネットで仕止めるか、それとも毒瓶を上から被せるかで心が揺らいだ。
毒瓶を直接かぶせるのって、あんまりやったことがないんだよなあ…。ダイナミックな採り方じゃないから好きじゃないのだ。
しかし、出した答えは毒瓶を被せるだった。網だと背中の毛がハゲちょろけになりやすいからだ。カトカラは迅速に〆ないと、すぐ無惨な落武者になってしまうのだ。直接毒瓶でゲットするのが一番ハゲちょろけになりにくいのである。

左手に懐中電灯、右手に毒瓶を持って、息を詰めて近づく。ドキドキの心臓バクバクだぜ。そっと毒瓶を持っていき、一気に被せてやろう。
ハッ(゜ロ゜;、だが被せようと毒瓶の先が僅かに動いた瞬間だった。飛んだ❗
ゲゲッΣ( ̄ロ ̄lll)、逃げよった❗
慌てて懐中電灯で周りを照らす。光がメチャメチャな軌道で激しく闇を切り裂く。しかし、ようやくその姿を捉えた時には、彼奴は既に斜面の奥の闇へと消えようとしていた。最早そのまま見送るしかなかった。
Σ(T▽T;)あーん、やってもたー。ワイ、呆然自失。その場に力なく佇む。
(;・ω・)何でやねん…。めっさ敏感やんけ。何だか泣きたくなってくる。何のために今まで恐怖に耐え忍んできたのだ。全ては無意味だ。ゼロじゃないか。

まあいい。時間はまだある。大丈夫、そのうちまた飛んで来るさ。どんまい、どんまい、ドン・ウォーリー。心の中で自分を励ます。でないと、己の不甲斐なさにその辺の灌木にメガトン級の蹴りを入れそうだった。

しかし、何度も往復するもいっこうに姿を現さない。
暇潰しにでも採ってやろうかと思ったオオトモエ(註4)たちにさえも、近づけば嘲笑うかのように何度も逃げられる。ナメとんのか、ワレ(-_-#)

カチッ。
時々、懐中電灯を消す。暇なのもあるが、少しでも懐中電灯をもたせようと云うセコい計算だ。
それにしても本当に真っ暗だ。鼻を摘ままれそうになってもワカリャしない闇だ。べっとりと塗り込られたような黒には、遠近感が無いのだ。そういえばイランとパキスタンの国境に跨がる砂漠で過ごした夜も、こんな漆黒の闇だった。普段、我々が見ている夜の闇は本当の闇ではない。必ず何処かしらからの人工の光が届いていると云うことを今更ながらに理解する。月明かりのない闇とは本来こういうものなのだ。今、眼前にあるのは、謂わば太古の闇だ。
心と闇の境界線が溶けてゆくような錯覚に襲われる。ともすれば、体も無くなってゆくような不思議な感覚だった。でも五感はある。しかも、より鋭敏になっているような気がする。
( ̄□ ̄;)ハッ、自身が闇と同化して消えて無くなるのではと思い、慌てて懐中電灯を点ける。すると、まるで手品のように森の木立が現れる。と同時に、あの不思議な感覚は消えてしまう。目に見えるものが全てではないのだろう。風が目に見えないように。

そうしてる間も刻一刻と時間は削られてゆく。帰りのバスの事を考えれば、ここを10時15分くらいには離れなければならない。
取り逃がしたことをジクジクと後悔する。1頭目はハゲちょろけになる事など気にせず、確実に採る為に網を使うべきだった…。被せる瞬間に、より照準を確実に定めるために一瞬躊躇しなかったか?…。いや、正面からではなく、下から持っててガッと被せた方が良かったかも…。そんな事をグズグズ考えていると、忸怩たる思いで心が溢れ出しそうになる。

そんな折りだった。
『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
突然、森の奥で得体の知れない何かが吠える声が、闇に谺した。
💥(|| ゜Д゜)ビクッ。ピタリと体の動きが止まり、全身に戦慄が走る。そして、不気味な静寂。
何なんだ❓太い鳴き声だったから鹿ではないことは確かだ。野犬でもあるまい。野犬といえども鳴き声はフツーの犬と同じだ。キツネやタヌキでもなさそうだ。こんな声じゃなかった筈だ。じゃあ何なんだ❓ガルルの穴熊(註5)か❓それとも熊さん❓サンチュウ、ハッコッシターイヽ(ToT)ノ
泣きっ面に蜂ところじゃねえや。
でもゼッテー帰らんぞ(-_-#)、帰ってなるものか。
たとえ死の翳りに伏すとも…。何かの小説の一節が頭を過(よぎ)る。これ、何だっけ?だが何という題名の小説の中の言葉だったか思い出せない。バカか。そんな事、今はどうだっていい。そんな場合ではない。
でも、ここまできたら、引き下がるワケにはいかない。

『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
再び咆哮が闇をつんざいた。背中の毛が逆立つのが自分でもよく解った。恐怖に支配されかかっている。
でも、段々腹が立ってきた。ワケのワカラン奴に脅されるのもムカつくし、それに支配されかかっている自分も許せない。

『うっせぇー、ボケー❗てめえブッ殺すぞ(#`皿´)❗』

気がついたら、大声で叫んでた。
( ̄▽ ̄;)あちゃー、死んだな。愚かだ。アホ過ぎる。全然冷静じゃないじゃないか。
しかし、ナゼかそれきり吠え声は止まった。ワシの気迫にビビったかえ(;・∀・)❓
とはいえ、かえって恐怖は増したりなんかした。熊さまは大変お怒りになって、闇からコチラの動静を伺って、いきなり背後から襲ってくるやもしれぬ。以降、ビビりまくりの全身全霊で気配と野獣臭に気を配った。時々、後ろを振り返ったりなんかしてね。ワシ、本当はごっつ小心もんなじゃよー(T△T)

更に時間は削られてゆく。
午後10時前になった。あと此処にいられるのは10分少々だ。心が悲鳴を上げそうだった。段々、顔が醜く歪んでゆく。あんさん、あんじょう殺したってやあ。

最後の望みをかけて、取り逃がした場所へと行く。
祈るような気持ちで懐中電灯を照らす。
(@ ̄□ ̄@;)ぐわん❗❗その光の束の先に、まさかのカバフがいた。ドラマは急速に動き出す。毎度、毎度のドラマチックな展開だ。有り難いが、何ゆえ神はどうしてこうもワタクシを試されるのだ❓
とにかく、ここであったが百年目、この神に与えられし千載一遇のチャンス、逃してなるものか(=`ェ´=)

悲愴感を振り払うかのように深呼吸する。そして、気合いを入れて崖をよじ登る。慎重に距離を詰める。その刹那も頭の中を考えが答えを求めて目まぐるしく駆け巡る。どうする❓網でいくのか、それとも毒瓶でいくのか❓どっち❓どっち❓どっちが正解なのだ。

出した答えはこうだ。
やはり落武者にしたくないので毒瓶でいこう。しかし、万が一ハズした時のことを考え、左手にお散歩ネットを持つことにした。それでダメなら、熊に喰われて死んでやる(-_-#)

目の前まで来た。
懐中電灯を口にくわえる。汚いが、もうそんなこと言ってらんない。毒瓶の蓋を取り、静かに足元に置く。そして左手に網を持つ。二刀流”羅生門”❗(註4)。ワンピースのゾロ気分で立つ。

慎重度マックスで毒瓶を近づける。
たぶん、初めて見た個体と同じ奴だろう。今度こそ捕らえてやる。もう躊躇はしない。思いきって被せにゆく。

💥カポッ。
だが、ギリギリすんでのところで飛び立った❗
ゲロゲローΣ( ̄ロ ̄lll)❗❗❗❗❗、ハズした❗
糞ッタレがっ❗己に対しての怒りに血流が憤怒の河となって逆流する。急な斜面だがアドレナリン全開。懐中電灯を口にくわえたまま後を追う。殺(や)ってやる。

10mくらい追い掛けたところで、照葉樹の繁みに止まった❗しめた(・∀・*)
しかし、変な所に止まっている。下から網をもってゆくか、横に払うか迷うところだ。いや、横からは枝が邪魔して無理っぽい。どうする❓だが時間は切迫している。迷っているヒマはない。もうボロボロになっても仕方ない。肉を切らして骨を断つ❗
秘技『⚡雷神』❗渾身の一撃を💥”斬”❗上から下へとザックリ振りおろす。

恐る恐る中を見る。( ☆∀☆)入っている❗
でも時間はない。急いで毒瓶を網の中に突っ込み、取り込みにかかる。しかし、お散歩ネットは濃い緑色だ。中を視認しにくい。又しても選択ミス。おまけに暴れて網の中で逃げ回る。ダメダメダメ~(T_T)、ボロボロになっちゃうー。
焦れば焦るほど上手くいかない。汗が滴り落ち、くわえた懐中電灯の横からヨダレが流れ出る。
えーい(*`Д´)ノ、もうどうなっても構わん。おどれ、絶対に捕獲しちゃるわいΣ( ̄皿 ̄;;❗
とぅりゃあー、ヤケクソで半ば無理矢理にネジ込んでやった。

ハー、ハー( -。-) =3、ゼー、ゼー( ̄◇ ̄)=3
その場にへたりこむ。
やったぜ、仕留めた。安堵と達成感がジワジワと全身に拡がってゆく。

 

 
シンプルだがスタイリッシュな上翅と、下翅の鮮やかな黄色。間違いなくカバフキシタバだ。
ふはははは……Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
蛾を本格的に採り始めて1年目にして早くもカトカラの最稀種とも言われるカバフキシタバ様をGETじゃーい❗ 俺って、やっぱ引きだけは強いのれす。(^o^)オホホのホー。

  

 

 
(裏面)

 
とはいえ、見事にハゲちょろけて落武者化している。
だが、むしろ最後まで生き延びようと抗い闘い続けた孤高の侍の証しだと思った。敬意をもって三角紙に収める。
それに、漆黒の闇に震撼し、謎の動物の咆哮にビビりまくりつつも撤退ギリ3分前に仕止めたのだ。コチラだって全身全霊で闘ったのだ。その証しでもある。落武者禿げチョロケも勲章と考えればいい。

超特急で帰り支度をし、真っ暗な坂道を足早に歩く。
この深い闇も、今や怖れるものではない。むしろ、夜の冷気と共に優しく包んでくれているようにさえ感じられる。

やがて、街の灯が見えてきた。
そこには、きっと目映(まばゆ)い光を灯す最終バスが待っている筈だ。
 
                   おしまい

 
 
その時のものがコレだ。

 

 
蛾採りを始めてまだ一年目だとしても、酷い展翅だ。
上翅も上がり過ぎだし、下翅は下がり過ぎだ。触角も酷い。
思い出したけど、コレって下翅が上翅の下にどうしても入らなくて諦めたんだよね。だから下翅を上げられなかった。上げれたら、もう少しマシになってたかもしれない。
兎に角あまりに酷いし、これではカバフの美しさが伝わらないから、今年展翅したのを添付しておきます。

 
(Catocala mirifica ♂)

 
(同 ♀)

 
雌雄の判別は尻の形で、だいたい区別できる。
細長くて、尻先に多めに毛束があるのが♂で、尻が短くて太く、尻先の毛が少ないのが♀である。
あとは比較的♀の方が翅形が丸い。
 
裏面はこんなん。

 

 
いやはや、ちゃんと展翅するとカッコイイねぇ。
こうして改めて見ると、数多(あまた)いるカトカラの中でも特異な姿だ。上翅のシンプルで渋いデザイン、下翅の鮮やかなレモンイエローが異彩を放っている。世界を見回しても、似た者はいない。そういう意味では、孤高のカトカラと言ってもいいだろう。

種の解説もしておこう。

 
【学名】Catocala mirifica (Butler, 1877)

フランス語にミリフィック(Mirific)と云う言葉があるから、おそらくラテン語由来だろう。
フランス語 Milific の意味は「驚くべき」「素晴らしい」など。

蝶にも同じ小種名のものはいないかと探してみたら、ジャノメチョウ科にいた。
豪州とその周辺に Heteronympha mirifica というジャノメチョウ科のチョウがいるようだ。
それにしても、ヘテロナュムパ(Heteronympha)って、なんだか舌を噛みそうな属名だにゃあ。
一応、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』で調べてみたら、ちゃんと載ってた。この本には毎度助けられてるなあ。重宝してます。
それによると、ヘテロナュムパはミナミジャノメ属と訳されておる。mirifica(ミリフィカ)はやはりラテン語で、 milificus の女性形なんだそうな。意味は「驚くべき、不思議な」となっていた。ミリフィカという素敵な響きといい、この佳蛾には相応しい学名だと思う。

 
【和名】
由来は調べたがワカンナイ。カバは樺の木かなあ❓それとも蒲の事なのかなあ❓湿地に生える蒲(ガマ)の事をカバとも言うからね。どちらにしても色は茶色だ。おそらく上翅の先の紋の色を表しているものと思われる。
問題はフだ。斑(ふ、ぶち)なのか布(ふ)なのかなあ。たぶん斑の方だろうけど、ブチといえばブチハイエナとかブチ犬など複数の斑点を持つものを指すイメージが強い。
一応調べてみたら、「斑(まだら)は、種々の色、また濃い色と淡い色とが混じっていること。」ともあるから、あながち間違っているワケではなさそうだ。
まあ、そうだとしても、個人的には何か納得できない和名だけどね。もう少し良い名前をつけて欲しかったなというのが、正直な感想だ。

 
【開帳】
45~58㎜。
基本的にはフシキキシタバやコガタキシタバなどよりも、やや小さい。だが大きさには結構な幅があり、小さいものではマメキシタバくらいしかないものもいる。

 
【分布】
関東以西の本州、四国。
西側に多いが、局所的で稀とされている。また各地で得られる個体数も少ないようだ。但し、島根県浜田市田橋や三重県青山高原では多くの個体が得られている。とはいえ、浜田市田橋は産地が潰れたという噂を聞いているし、青山高原は風力発電の施設が出来てからは激減したそうだ。関東では伊豆半島が確実な産地として知られている。

因みに、長いあいだ日本固有種とされてきたが、近年、中国でも発見されている。

 
【成虫出現期】
6月下旬から現れ、8月下旬まで見られる。
近畿地方での最盛期は7月上、中旬と思われる。

 
【生態】
成虫は好んでクヌギやコナラなどの樹液に集まる。
飛来時刻は他のカトカラと比べて遅く、午後8時を過ぎないと飛んで来ないようだ。京大蝶研のTくんからも事前にそう聞いていた。これは翌年(2019年)に各地で確認しているので、少なくとも近畿地方では安定した生態だと言っても過言ではないだろう。
今年は糖蜜トラップも試してみたが、よく飛来した。糖蜜のレシピにもよるのだろうが、樹液よりも寧ろ糖蜜に反応する事の方が多かった。
主に低山地の落葉広葉樹林帯の開けた二次林に見られる。西尾規孝氏の『日本のCatocala 』によると、飼育経験から低温と高温、乾燥に弱いという。また、良好な発生地の中には湿潤な地方があり、近畿、中国地方のブナ帯下部からコナラ群落を好む狭適温性の可能性があるとしている。
これに関しては当たっているところもあるが、微妙という印象を持っている。たしかに湿潤なところにもいるが、そうでもないところにもいるからだ。狭適温性と云うのにも疑問がある。少なくとも近畿地方では、特別な気候の場所に棲むと云う印象はない。

日中はアカマツなどの木に頭を下にして翅を閉じて静止している。その特徴的な上翅の斑紋から、他のカトカラと比べて比較的見つけやすい。

余談だが、カバフは背中の毛が薄いのか、すぐにハゲちょろける。これは翌年(2019)わかったのだが、落武者化する確率が異様に高いのだ。因みに、このハゲちょろけることを上の世代では「金語楼になる」とおっしゃっているようだ。これは落語家の柳家金語楼がハゲちょろけてるところからきているらしい。でもさあ、柳家金語楼なんて今時の人は誰も知らないよね(笑)

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科 カマツカ(Pourthiaea villosa)。

 

 
漢字で書くと鎌柄となる。これは材を鎌の柄に用いたことによる。材質が硬く、別名ウシゴロシ(牛殺し)とも言われる。

『日本のCatocala』によれば、幼虫はカマツカの大木を好むという。5齢幼虫は花と蕾を摂食し、この事から花を豊富に付けるカマツカの大木が必要のようだ。稀種とされ、個体数も少ないのは、おそらくこの幼虫の嗜好性に因るものではないだろうか。

 
追伸
この時の経験が一つの分水嶺となった。
それ以降、闇に対する畏怖が大幅に軽減したという実感がある。あの時の恐怖に比べれば、他は屁でもない。お陰で余計なことを考える事なく、ターゲットに集中できるようになった。謂わば記念碑的な日でもあったのだ。当ブログに書いた四話構成の2017版『春の三大蛾祭』シリーズ(2018年版ではない)の頃から考えれば、隔世の感がある。
恐怖は想像する事にある。その侵入をブロックすることが出来たら、闇もそれほど恐るるものではない。

実を言うと、この回の草稿は既に7月上旬には出来ていた。でもゆえあってアップを控えていた。
通例ならば、次回は2019年版のカバフ続編になる筈だが、その関連で10月以降になる予定。理由は月刊むしの10月号(9月発売)を見て下されば、いずれ解るかと思われます。それまではカトカラシリーズのvol.6を書くか、休止している『台湾の蝶』シリーズを再開させるかは未定。もしくは他の昆虫の記事になるか、食べ物系になるかもしれない。或いは完全お休みになるかもね。もう一回、長野の行って紫の君に会わなければならないのだ。

言い忘れたが、三角紙上のカバフの一連写真は帰りのバスの中で撮ったものだ。現場で写真を撮っているヒマなど無かったって事だね。それくらいギリギリでのゲットだった。

 
(註1)『世界のカトカラ』

 
月刊むし・昆虫図説シリーズの第一弾(2011)。
カトカラの世界的研究者 石塚勝巳氏による全世界のカトカラを紹介したものだが、同時に日本のカトカラ入門書としても使える本。

 
(註2)オオウラギンスジヒョウモン♀
(2015.6.14 京都府南山城村)

 
ヒョウモンチョウの仲間は結構好き。

 
(註3)これってカマツカ❓
たぶんウワミズザクラ。翌年、確認した。
ウワミズザクラといえば、シロシタバ(Catocala nivea)の食樹だ。時期に行けば、いるかもしんない。行かないけど。

Facebookで、さる方から花の付いてる木はリョウブだと御指摘があった。確かにウワミズザクラの花の時期は5月くらいだから、とっくのに前に終わっているもんね。間違えました( ̄▽ ̄)ゞ

 
(註4)オオトモエ
(2018.8.9 奈良県大和郡山市)

 
普通種だが、デカくて中々立派な蛾だ。こういう黒っぽい個体はカッコイイと思う。

 
(註5)ガルルの穴熊
昔、フジミドリシジミを採りに滋賀県比良山に行った時の話だ。山道を歩いていると、一所懸命に穴を掘っている動物がいて、タヌキかなと思ったが、にしては白っぽくて、どうも違うような気がした。向こうが気がついてくれないので、しようがなしに背後から近づいて行ったら、7、8m手前で振り向かれ、ガルルーとムチャクチャ威嚇されたのだった。マジで怖かったー。
帰ってから調べてみたら、アナグマだった。

 
(註6)二刀流”羅生門”
漫画『one piece』の登場人物ロロノア・ゾロの必殺技の一つ。両腰に一本ずつ刀を構えた居合の構えから抜刀し、対象物を縦に一刀両断にする。技の初登場は「ウォーターセブン編」。