マホロバキシタバ発見記 後編

 
   vol.20 マホロバキシタバ

   『真秀ろばの夏』後編

 
まほろばの夏は終わらない。
その後も奈良通いは続いた。次の段階は、この地域での分布と生態の解明だった。

岸田先生(註1)が帰京したのが7月16日。その2日後には先生肝いりの刺客として、ラオス在住で偶々(たまたま)帰国していた小林真大(まお)くんという若者が送り込まれてきた。彼はストリートダンスをしながら世界中の蛾を採集していると云う異色且つスケールのデカいモスハンターで、体力、運動神経ともに優れ、センス、知識、根性をも持ち合わせた逸材。おまけに男前で性格も良いときている。久々に虫採りの天才を見たと感じたよ。
彼は自分や小太郎くんが家に帰った後も、夜どおし原始林を歩き回って多くの知見をもたらしてくれた。その結果、分布や生態の調査が大幅に進んだ。
 
まだ不確定要素もありますが、それら分かったことを2019年だけでなく、2020年の分も付記しておきます。但し、まだまだ調査不足なので、以下に書かれた事は今後覆される事も有り得ると思って読んで戴きたい。

 
【マホロバキシタバ♂】

 
【同♀】

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
日本では、2019年の7月に奈良市で見つかった。って云うか、見つけた。
アミメキシタバやクロシオキシタバに似るが、表側の後翅中央黒帯と外縁黒帯とが繋がらず、隙間が広く開くことで区別できる。また、三者の裏面の斑紋は全く違うので、むしろ裏面を見た方が同定は簡単だろう。3種の判別法の詳細は前回に書いたゆえ、そちらを見られたし。

 
【雌雄の判別】
♂は腹部が細長くて、尻先に毛束がある。一方、♀は腹が短く、やや太い。また尻先にあまり毛が無くて上から見ると先が尖って見えるものが多い。とはいえ、微妙なものもいる。特に発生初期の♀は腹があまり太くないので分かりづらい。
確実な判別法は、裏返して尻先の形状をみることである。今一度、上記のメス裏面画像を見て戴きたい。尻先に縦にスリットが入り、黄色い産卵管が見えていれば(わかりにくいが尻先の黄色いのがそれ)、間違いなく♀である。

 
(オス)

 
♂は尻先の毛束がよく目立つ。

 
(メス)

 
なぜかメスの腹部が見えている写真が無い。なので、お茶を濁したような画像を貼っ付けておいた。意味ないけどー(´ε` )

 
(オス)

(メス)

 
表よりも裏の方が雌雄の区別はつきやすい事は既に書いた。しかし、時にオスの腹先の毛に分け目ができ、それが縦スリットのように見えてメスと見間違えるケースが結構ある。メスだと思ったら、最後に産卵管の有無を確認されたし。

 
(オス)

(メス)

 
実を云うと、横から見るのが一番わかりやすい。腹の太さと長さ、尻先の形、毛束の量がよく分かるからだ。また、上のようにメスの産卵管が外に飛び出ていれば、一目瞭然だ。

 
【学名】Catocala naganoi mahoroba Ishizuka&Kishida, 2019

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり、下翅が美しいことを表している。マホロバのように黄色い下翅を持つものが多いが、紫や紅色、オレンジ、ピンク、白、黒、象牙色等の種もいて、バリエーション豊かである。

台湾の基亜種は蛾の研究の大家である故 杉繁郎氏により1982年に記載された。
小種名の「naganoi」は「長野氏の」と云った意味である。

「The specific name of the present new species is dedicated to Mr Kikujiro Nagano(1868-1919), a pioneer lepidopterist of Japan, inyrho contributed much to taxonorny and biology at Nawa Entomolegical Laboratory, Gifu.」

記載論文に上記のような文章があったから、日本の鱗翅類研究の黎明期に名和昆虫館を創設した名和靖氏の片腕として働いた長野菊次郎(註2)氏に献名されたものであろう。

亜種名「mahoroba」は日本の古語「まほろば」からで、「素晴らしい場所、住みよい場所、楽園、理想郷」などの意味が込められている。また奈良の都を象徴する言葉の一つでもあり、県内ではポピュラーな名称だというのも命名の決め手となった。コレも詳細は前回を読まれたし。

残念ながら新種ではなく、Catocala naganoiの亜種となったので、小種名「mahoroba」は幻に終わってしまった。
ぶっちゃけ、分布調査をしていたワシと小太郎くんとマオくんとの間では絶対に新種になるだろうと話し合っていた。なぜならば、その時点では奈良県春日山原始林とその周辺でしか見つかっていなかったからだ。原記載亜種のいる台湾と奈良市とでは、海を隔てて遥か遠く離れている。分布が隔離されてから少なくとも30万年以上(註3)の時が経っているわけだから、両者は分化している可能性が極めて高く、ゲニ(註4)には何らかの差異が見い出されて当然だろうと思っていたのである。
また、記載を担って戴いた石塚さんに「その剛腕っぷりで、何とかして新種にして下せぇ。」とジャッキアップ掛けえので懇願してたのもある。石塚さんも「任しときぃー。」ってな感じだったからね。
石塚さんはカトカラの新種記載数の横綱を目指されており、キララキシタバを新たに記載するにあたり、モノ凄い数のゲニを切って執念で別種であることを突き止めたと岸田先生から聞いてたしさ。ならば今回も執念で新種であることを証明してくれるだろうと勝手に思い込んでいたのだ。実際、石塚さんとのメールのやり取りでは、早い段階で「軽微だが違いを見つけた」とも仰ってたからね。その調子で、決定的な差異も見つけてくれはるだろうとタカを括ってたところがある。
亜種に落ち着いたのは、あくまでも推測だが、石塚さんと岸田先生とで話し合った結果なんだろね。オサムシみたいに軽微な差異のものでも無理からに別種にしてしまうのはいかがなものか?と云う事なのだろう。それに関しては自分も以前から同意見だったので、致し方ない結果だとは思っている。両者の見てくれは、普通に見れば同種なのだ。長年、分布が隔離されているゆえ、別種になっている可能性もないではないが、両者の交配実験でもしない限りはワカランだろ。
まだ試みられていないといえば、DNA解析も気になるところではある。但し、DNA解析の結果が絶対だとは思わない。そこに問題点が全く無いワケではなかろう。そりゃあ、DNA解析の結果、マホロバが別種になれば嬉しいけど、ホシミスジの亜種を沢山作っちゃったり、ウラギンヒョウモンを3つに分けたりとか、正直なところ何でも有りかよと思う。DNA解析の結果が何でもかんでもまかり通るんだとしたら、可笑しな話だわさ。

惜しむらくは亜種になったので、女の子にならなかった事だ。自分はカトカラを女性のイメージで捉えている。だから偶然だけど、mahorobaの綴りの末尾が「a」で終わっているのを嬉しく思ってた。学名の綴りの末尾が「a」ならば、ラテン語では女性名詞になるからね。
一方「naganoi」の語尾の「i」は男性単数(1名)に献名する場合に付記されるものだ。ようはオッサンなのだ。菊次郎さんには申し訳ないが、オッサンの蛾なんてヤじゃん。

 
【和名】
前回と学名の項で既に和名の命名由来については述べているが、もう少し詳しく書いておこう。
「まほろば(真秀ろ場)」とは、素晴らしい場所、理想郷、楽園といった意味だが、実際のところマホロバの棲む一帯は素晴らしい場所だ。棲息地は、ほぼ手つかずの太古の森で、ナチュラルに厳かな気持ちになってしまうような巨樹が何本も生えている。何百年、何千年と生き長らえてきた木は特別な存在だ。見上げるだけで理屈なく畏敬の念が湧いてくる。その林内には春日大社があり、森の近くには興福寺五重塔や二月堂、三月堂、そして東大寺があって、大仏様がおられる。他にも名の知れた歴史ある古い社寺が沢山あり、阿修羅像や南大門の金剛力士像、戒壇院の四天王像などの有名な仏像彫刻、また正倉院には数多(あまた)の宝物もある。加えて神様の遣いである鹿さん達も沢山いらっしゃる。謂わば、此処は八百万(やおろず)の神々の宿る特別な場所であり、掛け値なしの「まほろば」なのだ。だからこそ名付けたと云うのが心の根本にある。そして、我々に滅多とない機会と栄誉を与えてくれた素晴らしい場所でもあるという想いも込められている。これらが根底にある偽らざるコアなる想いだ。

だが、そこに至るのにはそれなりの紆余曲折があり、実をいうとマホロバ以外の候補も幾つかあった。

『アオニヨシキシタバ』
青丹(あおに)よし 寧楽(奈良)の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり (万葉集巻三328)

奈良で最初に発見されたので、奈良に因んだ和名にしようと考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、小野 老(おのの おゆ)の有名なこの和歌だった。
意味は「奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである」と謂ったところである。
ここで出てくる「にほう」とは嗅ぐ匂いの事ではなく、赤や黄や白の花の色が目に鮮やかに映えて見えるという奈良の春景色の見事さを表している。色の鮮やかさを「におふ」と表現しているところに、当時の人達の粋と感性の豊かさが感じられる。マホロバキシタバも下翅が鮮やかだし、名前としては悪かないと思った。しかし、一般の人からみれば、アオニヨシと言われても何のこっちゃかワカラナイだろう。語呂もけっしていいとは思えないので断念。

『ウネメキシタバ』
ウネメとは「采女」から来ている。奈良時代に天皇の寵愛が薄らいだ事を嘆き悲しんだ天御門の女官(采女)が猿沢池に身投げしたという。その霊を慰める為に池の畔に建立されたのが采女神社の起こりとされ、入水自殺した池を見るのは忍びないと、一夜にして社殿が池に背を向けたという伝説が残っている。
古(いにしえ)の伝説というのは神秘的な感じがして、いとよろしだすな。マホロバキシタバの発見を伝説になぞらえ、重ね合わせるといった趣きもあるじゃないか。
女性というのもいい。自分の中では、基本的にカトカラは女性のイメージだからね。
それに毎年、秋(中秋の名月)になると「采女祭」が開催され、地元では名のしれた祭だと云うのもある。名前は棲息地近辺に住む人々に愛されるのが理想だからね。
しかし猿沢池となると、棲息地とはちょっと離れていて、森ではなく、町なかだ。さりとて、この神社は春日大社の末社でもあるワケだから、無理からに関連づけてしまう事も可能だ。けんどさあ、よくよく考えてみれば不幸な女の話だ。縁起が悪いのでやめておくことにした。
昔から不幸な女には近づかないようにしている。負のエネルギーの強い女をナメてはいけない。運の太いワシでも負のパワーに引きずり込まれそうになったもん。

ベタなところでは、以下のような候補もあった。

『マンヨウキシタバ』
これは「万葉(萬葉)」からだ。春日山の原始林を万葉の森と呼ぶ人もおり、また棲息地の春日大社の社域には「萬葉植物園」もあるからだ。「万葉集」に繋がるイメージも喚起されるだろうから、雅な趣きもある。
しかし、ベタ過ぎだと思って外した。なんか語呂の響きもダサいしさ。

『カスガノキシタバ』
春日大社一帯は「春日野」と呼ばれ、また住所も春日野町という事からの着想。
名前の響きは悪かない。しかし、春日と名のつく地名は全国に幾つもある。混同を避けるために却下。

そういえば、その関連で、↙こうゆうのもあったな。

『トビヒノキシタバ』
春日野からの連想である。これは棲息地が飛火野に隣接しているからだ。って云うか、少ないながらも飛火野にもいる。
飛火野とは、春日山麓に広がる原野のことを指す。ここは春日野の一部であり、また春日野の別称でもあって、風光明媚なことから鹿たちの楽園としてもよく知られている所だ。和名としては、そう悪かないと思う。しかし、漢字はカッコイイんだけど、カタカナにすると何かダサい。拠ってスルー。
因みに「飛火野」の地名は、元明天皇の時代に烽火(のろし)台が置かれたことに由来する。
ウネメもそうだけど、天皇さんに由縁する言葉は何となく高貴な気がするし、歴史を感じるんだよね。それってロマンでしょう。そこには少し拘ってたような記憶がある。

そう云う意味では「マホロバキシタバ」だって天皇とは関係がある。有名な「倭は 国の真秀ろば 畳なづく青垣 山籠れる 倭しうるわし」という歌は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が詠んだとされているからだ。日本武尊は天皇その人ではないが、天皇の皇子だもんね。つまり皇族なのだ。高貴な身の上でありんすよ。どころか古代史上の大英雄だ。スサノオがヤマタノオロチから取り出して天照大神に献上した伝説の剣「草薙の剣」をアマテラスから貰って、バッタバッタと敵をブッた斬るんだもんね。
余談だが「ヤマトタケルノミコトキシタバ」というのも考えないではなかった。けど長過ぎる。「ヤマトタケルキシタバ」でも長いくらいだ。それに捻りが無くて、あまりにも名前が仰々し過ぎるのでやめた。正直、そこまでマホロバをジャッキアップするのは恥ずかしい。もし伝説の英雄になぞらえるとするならば、よほどデカいとか孤高の美しさや異形(いぎょう)で特異な見てくれでないとダメでしょうよ。日本の何処かで、とんでもなく凄い見てくれの固有のカトカラを見つけたとしたら、つけるかもしんないけどさ(笑)。

ついでに言っとくと、絶対に命名を避けたかったのが「ナラキシタバ」と「ヤマトキシタバ」。
「ナラキシタバ」は、もちろん奈良黄下羽である。全く捻りが無くて、こんなの小学生でも思いつくレベルだ。想像力と語彙力がゼロだと罵られても致し方なかろう。また語源が木のナラ(楢)と間違われる可能性もある。食樹がミズナラやコナラ等のナラ類だと感違いする人だっているかもしれない。二重にダサいネーミングだ。

「ヤマトキシタバ」の「ヤマト(大和)」は、昆虫の名前として使い古されてる感があり、国内新種なのに新しい雰囲気がどこにも感じられない。
「アンタ、考えるのが面倒くさかったんとちゃうかあ❓それって怠慢やろが。」と言われて然りのネーミングだろう。
それに「ヤマトシジミ」や「ヤマトゴキブリ」「ヤマトオサムシ」などのド普通種の駄物イメージ満載である。ヤマトと名の付く虫は「ヤマトタマムシ」だけでヨロシ。
いっそのこと「ヤマトナデシコキシタバ(大和撫子黄下羽)」にしたろかとも思った。けれど長いし、だいち言いにくい。
「ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ」と3回早口で言うてみなはれ。噛む人、絶対おるで。
ならばと「ナデシコキシタバ」も考えてみた。「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこJAPAN」の愛称でもあるし、いい感じではある。しかしヤマトを外してしまったら、奈良は関係なくなるから元も子もない。それこそ本末転倒だ。
それにヤマトナデシコキシタバだと「メルヘンチックだとか、ポエムかよ❗」と笑われそうだから即座に脳内から消した。「フシギノモリノオナガシジミ」とかみたく失笑されるのはヤだもんね。
名前を付けるのって、その人のセンスが問われるから大変なんだと思い知ったよ。「フシギノモリノオナガシジミ」だって、付けた方はウケ狙いではなく、一所懸命に考えられて良かれと思って付けたに違いあるまい。
あんまし人のつけた和名の悪口言うの、やめとこ〜っと…。

(´・ω・`)しまった。どうでもいいような事に膨大な紙数を費やしてもうた。スマン、スマン。話を前へ進めよう。
おっと、そうだ。でも、ちょっとその前に書いておかなきゃなんない事を思い出したよ。申し訳ないが、もう少しお付き合いくだされ。

別種ではなく亜種になったんだから、和名は先に石塚さんが台湾の名義タイプ亜種に名付けた「キリタチキシタバ」なんじゃねえの❓と云うツッコミを入れてる人もいそうだね。私見混じりだが、マホロバキシタバになった経緯についても書いておこう。
これは自分たちが絶対に新種だと思ったから「マホロバキシタバ」と名付けて使いまくってた事に起因する。つまり新種の体(てい)で話が進んでいたのだ。新種ならば、当然名前が必要となるから名づけた。その名前を気に入って戴いた方も多かったようで、やがて関係者の間では「マホロバキシタバ」が当たり前のように使われるようになった。その後、亜種になっても、何となく「マホロバキシタバ」がそのまま使われていた。特にそれについての議論なり、協議は無かったと思う。石塚さんも何も言わなかったしさ。もしかしたら、岸田先生と石塚さんの間では何らかの話し合いがあったのかもしれないけどね。
そして『月刊むし』で発見が公表されるのだが。その際の和名も「マホロバキシタバ」のままだった。結果、キリタチではなく、マホロバの方が世間的にも定着していったってワケ。
又聞きの話だが、キリタチの和名をつけた石塚さんに、そうゆうツッコミを実際に入れた人がいたようだ。でも、ツッ込まれた石塚さんが『いいんだよー、マホロバでぇー。』と仰ったらしい。石塚さん御本人がいいって言ってんだから、それでいいのだ。もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓(註5)
亜種和名があるってのは、すごく光栄なことだと思う。幸せだ。
とはいえ、ヤヤこしいからやっぱ新種になんねぇかなあ(笑)

 
【英名】
英名は勿論ない。ゆえにここでドサクサ紛れに提唱しておこう。
「まほろば」は素晴らしい場所という古(いにしえ)の言葉だから、さしづめ『Great place underwing』といったところだろうか。カトカラは下翅に特徴があるゆえ、「Underwing」と呼ばれているのだ。
しかし外国人からすれば、「Great place」なんて何の事やら分からんだろう。和歌とか知らんし。
となると、やはり形態的特徴を示すような英名が妥当かと思われる。
マホロバキシタバの一番の特徴といえば、やはり下翅の黒帯が1箇所だけ繋がらず、隙間が開いている点だろう。帯が多い系のキシタバで、こういうのは他にあまりいないようだからね。
となると、『Broken chain underwing』ではどうだろうか❓ 意味は「断ち切られた鎖」。
とはいうものの、あくまでもお遊びの範囲内での話だから、他に相応しいモノがあれば、それでも構わない。そうゆうスタンスです。
とここまで書いて、『Great place underwing』でもいいかなあと思い直した。考えてみれば、奈良の都は世界遺産である。その時点でもう世界的に素晴らしい場所だと認定されているじゃないか。昨今は多くの外国人観光客も訪れているワケだから、外国でもかなり認知されてるんじゃないかと思われる。何せ、野生の鹿とあれだけ簡単に触れ合える場所は世界的にみても珍しいからね。我々にはそうゆう概念はあまりないけど、あれは一応野生動物だかんね。野生動物と気軽に触れ合える事のない外国人は大喜びなのさ。
まあ、本音はどっちゃでもいいけどね。どっちも悪くないと思うもん。

 
【変異】
大きな変異幅は見られないが、それなりにはある。
よく見られるタイプの一つは、上翅がベタ柄なもの。

 

 
冒頭に貼付した♂の画像もこのタイプである。
或いは♂に、このタイプが多いのかもしれない。

もう一つのタイプは上翅にメリハリのあるもの。

 

 
何れも♀である。冒頭の♀もこのタイプだし、もしかしたら、ある程度は雌雄の判別に使える形質かもしれない。
でも、微妙なのもいるんだよね。

 

 
コヤツなんかはメリハリがそれなりにあるけど♂である。
まあ、傾向として有ると云う程度で心に留めて下さればよろしかろう。

稀に上翅の中央に緑がかった白斑が入る美しいものがいる。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
コヤツらもメリハリがあるけど、ちょっと自分でも雌雄がよくワカンナなくて、♂か♀かは微妙なところだ。
とはいえ、両方とも♂かなあ…。

また、上翅が蒼っぽくなった個体が1頭だけ採れている。

 

 
コレもどちらかというとベタ柄の♂だ。やっぱ、雌雄の上翅の違いは有るかもしんないね。面倒なので展翅した個体全部の画像は貼付しないけど、傾向としては有ると言ってもいいような気がする。恣意的な部分を差し引いても、そんな気がする。とはいえ、白斑が発達した奴はたぶん♂だもんなあ…。まあ、補助的な要素として頭に入れておいても損はないだろう。

帯に隙間はあるが、上翅の茶色みが強くてアミメキシタバみたいなのもいる。

 

 
と云うか、コレってアミメキシタバそのものかもしんない。或いはハイブリッド❓(笑)。まあ、それは無いとは思うけどさ。アミメかもと思ったのは上翅の柄からだ。色が茶色いというのもあるが、マホロバみたく鋸歯状の柄が目立たず、その形も違うように見えたからだ。
こういうややこしい場合は裏面を見ましょう。それで簡単に判別できるだろう。面倒だから、この個体を探し出してまで裏面写真は撮らないけどさ。前編から長い文章を書いてきて、もうウンザリなのだ。これ以上は頭を悩ませたくない。どうせアミメだしさ。

因みにパラタイプ標本に指定してもらったものは、ちょっとだけ変。だから、展翅が今イチだけど出した。パラタイプは、バリエーションがあった方がいいと思ったのである。

 

 
ベタ柄の♂だが、よく見ると上翅に丸い斑紋がある。

自分らの標本をパラタイプに指定して貰おうと云うのは小太郎くんの発案だった。全くそういう発想が無かったから有り難い。何かタイプ標本を持ってるって、自慢っぽくて(◍•ᴗ•◍)❤嬉しいや。
石塚さん、我々のワガママをお聞き下さり、誠に有難う御座いました。

 
【近縁種】
『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』と云う論文によれば、Catocala naganoi種群には、交尾器、翅のパターン、及びDNA解析(COI 5 ‘mtDNA特性)に基づいて、以下のようなものが含まれるとしている。

■Catocala naganoi Sugi、1982
キリタチキシタバ(マホロバキシタバ)
分布地 台湾・日本
ホロタイプ標本は桃園県。パラタイプには、新竹県のものが指定されている。また有名な昆虫採集地であるララ山でも採集されているみたいだ。ネットで見た限りでは稀な種のようだね。

 
■Catocala solntsevi Sviridov、1997
タムダオキシタバ
分布地 ベトナム〜中国南部
グループの中では一番分布域が広く、最近になって台湾でも見つかったそうだ。マホロバに似るが幾分大きく、前翅亜基線より内側が濃褐色になる傾向がある。
石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、成虫は5〜6月頃に出現し、あまり多くはないという。食樹は不明とのこと。

 
■Catocala naumanni Sviridov、1996
分布地 中国雲南省
雲南省北部の標高2000mを超える地域に見られる。
「naumanni」という小種名が気になる。もしかして、コレってナウマン象とか関係あんのかな?

 
■Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017
分布地 ベトナム中央高地・中国雲南省
外観はマホロバよりもアミメキシタバに似ている。
主な分布地はベトナムで、標高1600〜1700m以上で得られている。食樹は不明。
年一化が基本のカトカラ属の中では珍しく、と云うか驚いたことに新鮮な個体が5月、6月、7月、10月、12月に得られているという。新北区(北米)では、幾つかの大型のカトカラ種が同じような発生パターンを持っているそうだ。多化性だとしたら、俄かには信じ難い。カトカラと云えば、殆んどの種が年一化だ。日本で多化性なのは、今のところはアマミキシタバだけなのだ。
余談だが、学名の小種名は世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに献名されたものである。

 

(出展『Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017』)

 
上の図版には、C.naumanniの画像が入っていないので、別な図版を貼っつけておく。

 

(出展『Catocala naumanni Sviridov、1996』)

 
因みに石塚さんは、C.naumanniを同グループには入れられておられない。とはいえ、DNA解析のクラスター図にはあるので含めた。一応、その図も載せておこう。

 

(出展 2点共『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』)

 
見た目が似ているアミメキシタバやクロシオキシタバは、クラスターには入っていない。つまり似てはいても系統は別だと云うことだ。どうやらキシタバの仲間は見た目だけでは類縁関係は分らないって事だね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(裏面)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(裏面)

 
とはいえ、DNA解析の結果が絶対ではないだろう。クラスターの中に全然見た目の違う C.kishidai なんかが入ってるしね。このアマミキシタバっぽいタイプの奴って、そもそも昔はカトカラ属に入ってなかった筈だしさ。カトカラじゃなくて、クチバの仲間だと考えてる人も多いみたい。こう云うのを見ると、DNAの解析結果を鵜呑みにしてはならないとは思う。

しかし、あとで『世界のカトカラ』を見てて、重要なミステイクに気づいた。Catocala kishidai キシダキシタバについての認識が完全に間違ってました。先の naganoiグルーブの図版の中のキシダキシタバの画像が小さいので、下翅だけを見て、うっかりアマミキシタバみたいだと思ってしまったのだ。でも、『世界のカトカラ』に載ってるキシダキシタバの上翅を見て、アマミキシタバとは全然違うことに気づいた。上翅の色、柄、形は完全にnaganoiグルーブのものだ。前言撤回です。ゴメンなさい。

 
【キシダキシタバ Catocala kishidai】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ミャンマーで発見された極珍のカトカラで、図鑑にはこのホロタイプの1個体しか知られていないと書かれていた。その後、再発見されてるのかなあ❓…。
たぶん学名の小種名は岸田泰則先生に献名されたものだろう。

 
【開張】
52~60㎜。
中型のカトカラにカテゴライズされるが、その中では大きい部類だろう。

 

 
最大級サイズものと最小個体を並べてみた。
結構、差があるね。でも大きさのバラツキは少なく、55mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
岸田先生肝いりの刺客として送り込まれてきたマオくんのおかげで、一挙に春日山周辺の分布調査が進んだ。
因みに虫採り名人秋田勝己さんも一日だけ参戦され、調査に御協力くださった。秋田さんはゴミムシダマシやカミキリムシの調査で原始林内を熟知されており、マオくんとコンビを組んでもらって彼に樹液の出る木を伝授して戴いた。調査地域は北部の若草山とその周辺をお願いした。
小太郎くんには最もしんどくてツマンなさそうな東側を担当してもらい、自分は南部から南東部を担った。
それにより、原始林の南西部や西部の他に、予想通り北西部や北部の若草山周辺、南部の滝坂の道でも見つかった。調査不充分で、まだ南東部や東部では見つかっていないが、そのうち確認されるだろう(とはいえ、個体数は少ないものと思われる)。
おそらく発生地は春日山原始林内で、その周辺の二次林には吸汁に訪れるものと思われる。あくまでも予想だが、それより離れた場所では見つからないだろう。離れれば離れるほど棲息に適した場所が無いからだ。つまり移動性は高くない種だと考えられる。否、飛翔力はあっても、移動したくとも移動できない種と言うべきか…。
尚、奈良公園、春日山原始林、春日大社所有林での昆虫採集は禁じられており、採集には許可が必要となる。

 

(改めて見ると、許可証じゃなくて許可者なんだ…)

 
その後、2020年春に岩崎郁雄氏によって宮崎県でも採れている事が分かり、月刊むし(No.589,Mar.2020)で報告された。氏の標本箱の中から見い出されたという。採集地は以下のとおりである。

「2015.7.25 宮崎県日南市北郷町北河内 1♂」

採集は氏御本人で、宮崎昆虫調査会主催の夜間採集の際に樹液の見回りにて採集されたものだ。ハルニレの樹液に飛来していたそうで、当時はアミメキシタバと同定されていたという。
他に、鹿児島県でも過去の標本から見つかったと聞いている。
どちらの場所にも、今年2020年に蛾類学会の調査が入ったようだし、地元の虫屋も探す筈だから、再発見の報が待たれるところだ。
たぶん九州には豊かな照葉樹林が比較的多いから、他の県でも見つかる可能性は高いと思われる。そのうち多産地も見つかるだろう。採りたい人は、採集禁止区域の多い奈良よりも九州に行った方がいいかもね。

見た目はアミメキシタバとクロシオキシタバに似ているから、標本箱の中をチェックした人は多かったみたいだね。でも紀伊半島南部のアミメやクロシオの標本の中からはまだ発見されていないようだ。
因みに、T中氏が紀伊半島南部にも絶対いる筈だから本格的に探すと言っておられた。しかし、まだ採ったと云う話は聞かない。紀伊半島南部にも居るとは思うけど、九州に居るのなら、むしろ四国に居る可能性の方が大かもね。他には中国地方でも良好な環境の照葉樹林があれば、居ても何らオカシクない。
あくまでも自分の想像だが、好む環境は手つかずの照葉樹林、及びそれに近い自然林で、空中湿度が高く、イチイガシのある森ではないかと思われる。謂わば、ルーミスシジミやヤクシマヒメキシタバが好む環境ではなかろうか❓(かつては春日山もルーミスの多産地だったが、台風後の農薬散布で絶滅したと言われて久しい)。

 
(ルーミスシジミ)

(2017.8.19 和歌山県東牟婁郡古座川町)

 
そう云う意味では、千葉県のルーミスシジミの多産地にも居る可能性はある。確率は低そうだけどもね。

 
【発生期】
日本では年一化と推定される。最初に見つけた7月10日の計9個体のうち、既に2頭がかなり翅が傷んでいた。この点から、おそらく7月上旬からの発生で、早いものは6月下旬から現れるものと思われる。最盛期は7月中旬で、下旬になると傷んだ個体が目立ち始める。
小太郎くんが最後に見たのが8月15日か16日で、♂はボロボロ、♀は擦れ擦れだったそうだ。現時点ではまだハッキリとは言明できないが、たぶん8月下旬くらいまでは生き残りの個体が見られるのではないかと思われる。
尚、此処にはアミメキシタバも生息しており、マホロバに遅れて7月中旬の後半から見られ始めた。他の場所はどうあれ、此処ではアミメの方がマホロバよりも小さい傾向が顕著で、両者の区別は瞬時につきやすい。また驚いたことに7月下旬になるとクロシオキシタバも1個体のみだが見つかった。

『月刊むし』にはこう書いたが、2020年の発生は予想を覆すものだった。6月下旬には見られず、7月に入っても姿が確認できなかった。小太郎くんが7月5日に確認に行っても見られず、ようやく発生が確認されたのは何と7月9日だった。去年に発見した7月10日と1日だけしか変わらない。年により発生期に多少の変動があるのだろうが、これは意外だった。となると、7月上旬ではなく、7月中旬の発生なのだろうか❓
どちらにせよ、来年の調査を待って最終的な結論を出さねばならないだろう。

個体数は2019年は多く、林内ではキシタバ(C.patala)に次ぐ数で、1日平均10頭くらいは見られた。しかし2020年は1日平均3頭以下しか見られなかった。
よくよく考えてみれば、2019年だって厳密的には個体数が多いとは言い切れないところがある。なぜなら、樹液の出てる御神木があって、林内には他に樹液の出てる木が殆んど見られなかったからだ。つまり其処に集中して飛んで来ていた可能性が高いとも言えるのだ。ゆえに、それだけの数が採れただけであって、もしかしたら元々はそんなに個体数が多い種ではないのかもしれない。
ただ、2020年はマホロバだけでなく、他のカトカラの個体数も少なかった。春日山原始林のみならず、関西全体どこでもそうゆう傾向があったから、何とも言えないところはある。春先が暖かくて、その後寒波が訪れた影響かもしれない。食樹がまだ芽吹いていないのに孵化してしまい、餓死したものが多かったのだろう。テキトーに言ってるけど。
個体数についても来年また調査しなくてはならないだろう。来年も少なければ、稀種だね。
それに、たとえ発生数が多くとも御神木の樹液が渇れてしまえば、かなり採集は困難となる(これについては後述する)。たとえ2020年と同じ発生数だったとしても、あんなには採れないだろう。何だかんだ言っても稀種かもね。

 
【生態】
クヌギ、コナラの樹液に飛来する。今のところヤナギや常緑カシ類の樹液では確認されていない。
飛来時、樹幹に止まった時は翅を閉じて静止する。その際、下翅を一瞬でも開くことはない。但し、小太郎くんが一度だけだが見たそうだ。

 

(撮影 葉山卓氏)

 
また更に特異なのは、多くのカトカラが樹液を吸汁時にも下翅を見せるのに対し、一切下翅を開かないことである。その為、木と同化して視認しづらく、しばしば姿を見失う。
樹液にとどまる時間は割りあい短く、警戒心が強くて直ぐ逃げがち。懐中電灯を幹に照らし続けていると、寄って来ない傾向がある。また、御神木ではキシタバ(Catocala patala)が下部の樹液にも集まるのに対して、2.5m以上の箇所でしか吸汁しなかった。
静止時の見た目は他のカトカラと比べて細く見える。これは上翅を上げて下翅を見せないところに起因するものと思われる。他のヤガ、特にヨトウ類とは見間違えやすいので注意が必要である。角度によっては今でも珠にヨトウガをマホロバと見間違える事がある。見たことがない人には、逆にマホロバがヨトウガにしか見えないだろう。
個体にもよるが、懐中電灯の灯りを当てると概ね緑色っぽく見える。飛来時、この点でアミメキシタバや他のカトカラとは判別できる。アミメは上翅が茶色に見えるし、小さいからね。
但し、慣れればの話であって、見慣れていない人には難しいかもしれない。

 
(マホロバキシタバ)

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
昼間の自然光の中では、それほど緑っぽく見えない。

 

 
お次はアミメちゃん。

 
(アミメキシタバ)

(出典『里山ひきこもり−豊川市とその周辺の鳥と虫』)

 
なぜだか夜に撮った写真がないので、画像をお借りした。
懐中電灯で照らすと、大体はこんな風に茶色に見える。

 

 
昼間に見ると、当然の事だがバリ茶色い。
一応、クロシオキシタバの画像も貼っつけとくか。

 
(クロシオキシタバ)

 
クロシオは上翅の変異に幅があるのだが、青緑っぽく見えるものが標準タイプだ。

 

 
デカいので基本的にはマホロバと見間違うことはなく、むしろパタラキシタバ(C.patala)と間違えやすい。小さめのパタラに見えるのだ。但し、マホロバにも珠にデカいのがいるので、注意が必要。

樹液への飛来時刻はパタラ等と比べてやや遅れ、日没後少し間をおいて午後7時半過ぎくらいから姿を見せ始める。以降、数を増やし、8時前後がピークとなり、9時くらいになると急に減じることが多かった。他のカトカラと同じく飛来が一旦止まるのだ。そして10時前後から再び現れ始める。しかし断続的で、最初の飛来時よりも数は少ない。但し、その日によって多少の時間のズレはある。また晴れの日でも小雨の日でも関係なく見られ、天候による飛来数の差異は特に感じられなかった。
とはいえ、2020年は1頭も見られない日や飛来が午後9時半近くになって漸く始まった日もあった。両日共に特に変わった天候でもなかったから、頭の中が(?_?)❓だらけになったよ。我々の預かり知らぬ某(なにがし)かの理由があったのだろうが、全くもって不思議である。

糖蜜トラップも仕掛けたが、フル無視され続けた。マオくんのトラップにもずっと寄って来なかったが、キレて帰り間際に木にバシャっと全部ブチまけたら、一度だけだが来たらしい。彼曰く、酢が強めのレシピには反応するのかもしれないとの事。2019年は、この1例のみだった。
2020年にも糖蜜トラップを試してみた。しかし自分を含め、小太郎くんや蛾類学会の人達も糖蜜を撒いたにも拘わらず、全く寄って来ない日々が続いた。その後、漸く蛾類学会の人の糖蜜に一度だけ飛来し、2日後(7月20日)には自分の糖蜜にも一度だけ飛来した。何れも複数の飛来は無く、1頭のみである。樹液を好むカトカラは糖蜜にも寄ってくるというのが常道だから、ワケがわかんない。これだけ試しても3例のみしかないと云うのは謎である。正直なところ糖蜜で採集するのは、今のところかなり難しいと言わざるおえない。

ここまで書き終えたところで、追加情報が入った。
クワガタ用のフルーツ(腐果)トラップにも来たらしい。但し、2日間で各々1度ずつのみとの事。御神木の樹液が渇れていた状態でもその程度なんだから、やはり餌系トラップで採るのはスペシャルなレシピでも開発されない限りは困難と言えよう。

2019年には大々的な灯火採集は行っていないが、小太郎くんが樹液ポイントのすぐ横に設置した小さなブラックライトに、採り逃がした個体が2度ほど吸い寄せられた事から、おそらく灯火にも訪れるものと予想された。
2020年に蛾屋さん達を中心に調査が行われた結果、灯火トラップにも飛来することが確認されたようだ。灯火には何となく夜遅くに飛来するのではないかと予想していた。理由はユルい。大体において良いカトカラ、珍しいカトカラというものは、勿体ぶって深夜に現れるというのが相場と決まっているからだ。だが、予想に反して点灯後すぐに飛来したと聞いている。飛来数は計3頭だったかな。但し、たまたま近くにいたものが飛来した事も考えられる。詳しいことは後ほど発表があるかと思うので、興味のある方は動向に注視されたし。
尚、春日山原始林内や若草山周辺では、許可なく勝手に灯火採集は出来ないので、その点は強く留意しておいて戴きたい。

昼間の見つけ採りも困難だ。今のところ数例しか聞いていない。羽の模様と木の幹とが同化して極めて見つけづらいのだ。夜間、樹液に来てても視認しづらいくらいなんだから、その辺は想像に難くなかったけどね。
2019年はマオくんがクヌギの大木のそれほど高くない位置に静止しているものを見つけている。小太郎くんも後日、その近くで見たそうだ(何れも若草山近辺)。
2020年の小太郎くんの観察に拠ると、生木よりも立ち枯れの木を好む傾向があり、静止場所はやや高かったという。自分は昼間の見つけ採りはあまり積極的にしていないが、もしかしたら基本的には視認しづらい高い位置で静止するものが多いのかもしれない。
また、木の皮の隙間に半分体を突っ込んでいる個体もいたという。となると、木の皮の下や隙間、洞に完全に隠れている者もいるかと思われる。これらの事から昼間には見つけにくいのかもしれない。

昼間、樹幹に静止している時の姿勢は下向き。非常に敏感で、近づくと直ぐに反応して逃げ、その際の飛翔速度は速いと聞いている。また藪に向かって逃げ、再発見は困難だそうだ。一度だけ追尾に成功した際は、下向きに止まっていたらしい。その際、上向きに着地してから即座に姿勢を下向きに変えたか、それとも直接下向きに着地したのかは定かではないという。

昼間は見つけにくいと言ったが、夜だって同じようなものだ。いや、下手したら昼間よりも見つからん。ヤガの仲間は夜に懐中電灯をあてると目が赤っぽく光る。だから、昼間よりも見つけやすい。なのに、森の中を歩く時は注意して見ているのにも拘わらず、まあ見ない。見られるのは樹液の出ている木の周辺くらいで、しかも珠にだ。他の多くのカトカラと同じく、おそらく樹液を吸汁してお腹いっぱいになったら、近くの木で憩(やす)むのだろう。そして、お腹が減ったらまた吸汁に訪れると云うパターンだ。とはいえ、他のカトカラ、例えばパタラやフシキ、クロシオ、アミメなんかのように樹液の出ている木や周りの木にベタベタと止まっていると云う事はない。
そういえば、日没前に樹液近くの木に止まっている場合もあった。夜の帳が落ちるまで待機していたのかもしれない。こう云う生態はカトカラには割りと見られる。その際の姿勢は上向きだった。夜間の向きは他のカトカラと同じく上向きだから、夕刻や夕刻近くになると上下逆になるのだろう。
昼夜どちらにせよ、視認での採集は極めて効率が悪い。
但し、例外はある。2020年8月6日に小太郎くんが訪れた時は何故か結構止まっている個体がアチコチにいて、計10頭以上も見たという。一日で確認された数としては極めて突出している。見ない事が当たり前で、見ても複数例は殆んど無かったのだ。ちなみに全て飛び古した個体で、不思議なことに全部オスだったそうだ。偶然かもしんないけど、興味深い。尚、御神木の樹液は既に止まっており、そこから約70mほど離れた所から奥側にかけてだったそうな。いずれにせよ、マホロバの行動は謎だらけだよ。

その小太郎くん曰く、♀の腹が膨らむのは7月末くらいからだそうだ。おそらく産卵は8月に入ってから行われるものと思われる。今のところ、産卵の観察例は皆無で卵も見つかっていない。
参考までに言っておくと、二人からそれぞれ石塚さんに生きた♀を7月中旬と8月初旬に送ったが、7月中旬に送ったものは産卵せず、8月のものは産卵したそうだ(孵化はしなかったもよう)。交尾後から産卵するまでには一定の期間を要するものと考えられる。尚、交尾中の個体もまだ観察されていない。

 
【幼虫の食餌植物】
現時点では不明だが、おそらくブナ科コナラ属のイチイガシ( Quercus gilva)だと推察している。中でも大木を好む種ではないかと考えている。
なぜにイチイガシに目を付けたかと云うと、奈良公園や春日大社、春日山原始林内に多く自生し、大木も多く、イチイガシといえば、ここが全国的に最も有名な場所だと言っても差し支えないからだ。しかも近畿地方ではイチイガシのある場所は植栽された神社仏閣を除き、此処と紀伊半島南部くらいにしかないそうだ。つまり、何処にでも生えている木ではない。もしマホロバキシタバの幼虫が何処にでも生えているような木を主食樹としているのならば、とっくの昔に他で発見されていた筈だ。と云う事はそんじょそこらにはない木である確率が高い。ならば、この森の象徴とも言えるイチイガシと考えるのは自然な流れだろう。
また林内には他に食樹となりそうなウバメガシが殆んど自生しないことからも、イチイガシが主な食樹として利用されている可能性が濃厚だと考えた。但し、正倉院周辺にシリブカガシの森があり、ムラサキツバメもいるので、そちらの可能性もゼロとは言えないだろう。シリブカガシも近畿地方では少ない木だからね。
因みに林内にはアラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、シラカシもあるそうだ。でもアラカシとシラカシは近畿地方では何処にでもあるゆえ、主食樹ではないものと思われる。またウラジロガシはヒサマツミドリシジミ、アカガシはキリシマミドリシジミの主食樹だし、けっして多くは無いものの、各地にあるから可能性は高くはないと思われる。

前述したが、マホロバはルーミスシジミなどのように空中湿度の高い場所を好む種なのかもしれない。
とはいえ、これだけでは論理的にはまだ弱い。イチイガシについて、もう少し詳しく調べておこう。

 
【イチイガシ(一位樫) Quercus gilva】

 
ブナ科コナラ属カシ類の常緑高木。
別名:イチガシ。和名はカシ類の中で材質が最も良いこと(1位)に由来する。よく燃える木を意味する「最火」に由来するという説もある。
分布は本州(千葉県以西の太平洋側と山口県)、四国、九州、対馬、済州島、朝鮮半島、台湾、中国。
紀伊半島、四国、九州には多いが、南九州では古くから植栽されて自然分布が曖昧になっているようだ。実際、天然記念物に指定されているイチイガシ林は南九州に多い。と云うことは、南九州の山地では普通に見られる木と考えても良さそうだ。
これはある程度知ってた。だから、この点からも九州を筆頭に紀伊半島南部や四国でもマホロバの分布が確認される可能性はあるだろうとは思ってた。実際、九州南部で過去の標本が見つかったからね。遅かれ早かれ、他の地方でも今後見つかるだろう。
また、イチイガシはマホロバの原記載亜種の棲む台湾にもあるみたいだから、食樹である可能性は更に高まったのではあるまいか。
あっ、そういえば台湾の佳蝶スギタニイチモンジって、イチイガシを食樹としてなかったっけ❓(註6)

低地~山地の照葉樹林に自生し、谷底の湿潤な肥沃地に多いそうだ。と云うことは、ルーミスやマホロバが好む環境とも合致する。春日山原始林内も小さな川が縦横に流れており、基本的には空中湿度が高く、標高も低いから良好な環境なのだろう。

東海~関東地方では少なく、見られるのは殆んどが社寺林である。北限(東限)はルーミスの多産地として有名な清澄山付近。静岡県以西では、ルリミノキ、カンザブロウノキなどを交えたイチイガシ群落を構成する。
神社に植栽されることが多く、特に奈良盆地で多く見られると書いてあった。他のサイトでも奈良公園と春日大社、春日山原始林に多いと書いてあるから、やはり相当イチイガシの多い場所なのだろう。

 

 
幹は真っ直ぐに伸び、樹高は30mに達し、幹の直径が1.5mを超える大木となる。長寿で、寿命は400~600年とされる。

 
(壮齢木)

 
樹皮は灰褐色で、成長するにつれて不揃いに剥がれ落ちる。

 
(若木の幹)

 
(葉)

 
(葉の裏側)

 
葉は先端が急に尖り、縁は半ばから先端にかけて鋭い鋸歯状となる。葉はやや硬く、若葉はその表面に細かい毛が密生し、後に無毛となり深緑色になる。又、裏は白に近い黄褐色の毛で覆われる。その為、木を下から見上げると黄褐色に見える。春先に見られる新芽も同じようにクリーム色で、よく目立つ。

花は雌雄同株で4〜5月頃に開花し、実(どんぐり)は食用となり、11~12月に熟す。カシ類では例外的に実をアク抜きしなくても食べることができ、生でも食べられる。そのため、昔は救荒食として重要な木であった。縄文時代から人間の食糧となっていたことが遺跡からも判明している。

丈夫な材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もある。材は他のカシ類に比べて軽くて軟らかく、加工しやすくて槍の柄など様々な器具の材料に使われた。
和歌山県ではごく限られた地点に点在するのみであるが、遺跡からは木材がよく出土することから、かつてはもっと広く分布していたものと考えられ、人為的な利用によって減少したと見られる。和歌山県は紀伊半島南部なのに、意外と少ないのね。
ちょっと待てよ。紀伊半島の蝶に詳しい Mr.紀伊半島の河辺さんが、紀伊半島南部には意外とイチイガシが少なくて、ルーミスはむしろウラジロガシを利用している場合が多いと言ってなかったっけ❓
だとしたら、紀伊半島南部でのマホロバの発見は簡単ではないかもしれない。
あんまり変な事をテキトーに書くとヤバいので、河辺兄貴に電話した。したら、間違ってましたー。ワシの記憶力は鶏並みなのだ。兄貴曰く、和歌山、三重、奈良県共にイチイガシは多いんちゃうかーとの事。そしてルーミスは標高400m以下ではイチイガシを食樹として利用し、それより標高の高いところではウラジロガシを利用しているらしい。また、アラカシなど他のブナ科常緑樹も食ってるようだ。

イチイガシとアラカシの交雑種(雑種)が大分県で確認されている(イチイアラカシ(Quercus gilboglauca))。この事から、或いはアラカシを稀に食樹として利用しているものもいるのかもしれない。蛾類は蝶よりも幼虫の食樹が厳密的ではなく、科を跨いで広範囲に色んな植物を食すものも多いのだ。同じ科なら、飼育下では平気で何でも食うじゃろて。

一応、2020年の5月下旬に小太郎くんと幼虫探しをした。
しかし、思ってた以上にイチイガシが多く、大木も多かったから直ぐにウンザリになった。自分は、こうゆう地道な事には向いてないなとつくづく思い知ったよ。
小太郎くんは奈良市在住なので、度々探しに行ってたみたいだけど、結局見つけられなかったそうだ。もしかしたら、幼虫はメチャメチャ高いところに静止しているのかもしれない。
また小太郎くん曰く、イチイガシは他の常緑カシ類と比べて芽吹きが大変遅いそうだ。この日(5月27日)で、まだこんな状態だった。

 

 
オラは飼育を殆んどしない人なので、そう言われても正直よくワカンナイ。なので、幼生期の解明については小太郎くんに任せっきりだった。
彼曰く、下枝はこの時期になってから漸く芽吹くそうだ。となると、成虫の発生期と計算が合わなくなってくる。成虫の発生を7月上中旬とするならば、この時期には終齢幼虫になっていないといけない筈なのだ。もし幼虫が新芽を食べるとすれば、成長速度が度を越してメチャンコ早いと云う事になっちゃうじゃないか(# ゚Д゚)
新芽の芽吹きは大木の上部から始まると云うから、それを食ってるのかもしれない。にしても、新芽を食べるのならば幼虫期間は矢張り相当短いと云う事にはなるけどね。
まあいい。高い所の新芽を食べるとして話を進めよう。もし幼虫は高い所にいるのだとしたら、探すのは大変だ。ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の卵さえロクに探しに行った事がないワシなんぞには、どだい無理な話だ。誰かが見つけてくれることを祈ろっと。

いや、待てよ。小太郎くんは新芽を食うと断定していたが、花の時期は4月から5月だ。新芽ではなく、もしかして花を食ってんじゃねえか❓そう考えられないだろうか❓ あるいは花の蕾、または硬い枝芽を食うのなら、辻褄は合う。
待て、待て。こう云う考え方も有りはしないか❓例えば弱齢期は他のブナ科常緑樹の新芽を利用し、終齢に近づくにつれ、食樹転換をしてイチイガシを利用するとかさあ…。所詮は飼育ド素人の考えだけど、ダメかなあ❓

食樹をイチイガシと予想したが、もしかして全然違うかったりしてね。だとしたら、何を食ってんだ❓ これ以上は見当もつかないや。

何れにせよ、まだまだ生態的に未知な面もあり、来年もまた調査を継続する予定である。

 
                       おしまい

        
謝辞
最後に、Facebookにアップした記事にいち早く反応され、迅速に動いてくださった岸田泰則先生、記載の役目を快諾され、ゲニタリアを仔細に精査して戴いた石塚勝己さん、発見のきっかけをくださった秋田勝己さん、分布調査で目覚ましい活躍をしてくれた小林真大くん、またこの様なフザけた文章を掲載してくれることをお許し戴いた月刊むしの矢崎さん、そして今回の相棒であり、共に発見に立ちあってくれ、殆んどの調査行に同行してくれた葉山卓くん、各氏にこの場を借りて多大なる感謝の意を表したいと思います。皆様、本当に有り難う御座いました。

ここからは編集者の矢崎さんに送ったメールです。

矢崎さんへ
奈良公園のイチイガシの大木の写真を添付しておきます。残念ながら葉っぱの写真は撮っておりません。
それから1頭だけ採れたクロシオキシタバ(註7)のことは伏せておいた方がいいかもしれません。採れた場所が採れた場所ですから石塚さんが興味を示されています。新亜種くらいにはなるかもしれません。ゆえに状況次第で、その部分は削って戴いてかまいません。石塚さんに訊いてみて下さい。尚、そのクロシオはマオくんが採り、現在葉山くんが保有しています。

以上、多々面倒かと思われますが、宜しくお願いします。
それとマホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが(註8)、いったい何処まで伏せるのでしょうか? 個人的にはどうせそのうちにバレるんだから、正直に書いて県なり市なりに働きかけて保護するなら保護した方がよいと思うんですが…。
とはいえ、クソ悪法である「種の保存法」とかにはなってもらいたくはないです。禁止区域外でもいるんだから、虫屋の採る楽しみを奪うのもどうかと思うんですよね。

                      
追伸
前編でもことわっているが、この文章のベースは『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものである。

 
【月刊むし】

 
そう云うワケだから、前編も含めて楽勝で書けると思ってた。しかし、いざ書き始めると、前・後編に分けた事もあって、大幅に書き直す破目になった。新しい知見も加わったので、レイアウトも修正しなくてはならず、思ってた以上に苦労を強いられた。たぶん50回くらいは優に書き直したんじゃないかな。文章の端々に投げやり感が出ているのは、そのせいだろう。マジで無間地獄だったよヽ((◎д◎))ゝ。結果、手を入れ過ぎて原形からだいぶと変形した大幅加筆の増補改訂版となった。

えーと、それから月刊むしの記事よりもフザけた箇所は増えちょります(特に前編)。
え〜と、あと何だっけ❓あっ、そうだ。生態面の新たな発見があれば、随時内容をアップデートしてゆく予定です。あくまでも予定ですが…。
それと参考までに言っとくと、当ブログには他にマホロバ関係の記事に『月刊むしが我が家にやって来た、ヤァ❗、ヤァ❗、ヤァ❗』と『喋べくりまくりイガ十郎』と云う拙文があります。

 
(註1)岸田先生
日本蛾類学会の会長である岸田泰則先生のこと。
国内外の多くの蛾類を記載されており、『日本産蛾類標準図鑑(1〜4)』『世界の美しい蛾』など多くの著作がある。
さんまの『ほんまでっか!? TV』で池田清彦(註9)爺さまが岸田先生を評して『アイツ、すっごく女にモテるんだよねー。』と言ってたらしい。きっとオチャメなんだろね。

 
【日本産蛾類標準図鑑(Ⅱ)】

 
【世界の美しい蛾】

 
(註2)長野菊次郎
名和昆虫研究所技師。九州で生まれ、東京の中学校で博物学を教えていたが、岐阜の中学校に移ったのを機に名和靖と交流するようになった。後に名和の研究所の技師となって、最後まで名和の仕事を支えたという。
著書に『日本鱗翅類汎論』『名和昆蟲圖説第一巻(日本天蛾圖説)』などがある。なお、天蛾とはスズメガの事を指す。
またホソバネグロシャチホコの幼性期の解明に、その名があるようだ(1916)。

 
(註3)分布が隔離されてから少なくとも30万年以上前…
おぼろげな記憶から30万年前と書いたが、実際のところはもっと幅が広く、台湾、南西諸島、日本列島の成り立ちは複雑である。

①500万年前は南西諸島全域に海が広がり、日本列島と沖縄諸島・奄美諸島を含む島と八重山諸島を含む島(台湾の一部を含む)があった。
 

(出典『蝶類DNA研究会ニュースレター「カラスアゲハ亜属の系統関係」』以下、同じ。)

 
しかし200万年〜170万年前(第三紀鮮新世末)に隆起して大陸と繋がった。

 

 
②170〜100万年前(第四紀鮮新世初期)、南西諸島の西側が沈降して海になった。だが、台湾から九州までは陸地で繋がっていた。多分この時代に、C.naganoiは台湾から日本列島に侵入したのだろう。他にも多くの種が侵入し、ヤエヤマカラスアゲハとオキナワカラスアゲハの祖先種も、この時期に渡って来たものと思われる。

 

 
③100万年~40万年前(第四紀鮮新世後期)に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、日本列島と奄美の間、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスの分化が進んだのだろう。

 

 
カラスアゲハとオキナワカラス、ヤエヤマカラスは別種化したのに、マホロバは40万年以上も前から隔離されているのに別種にはならなかったのね。もっと進化しとけよ。おっとり屋さんだなあ。
ちなみに記載者の石塚さんは「台湾と日本の地理的位置を考慮すると、別種の可能性が高いが、今のところ決定的な形質の差異が認められないので新亜種として記載した。」と書いておられる(月刊むし 2019年10月号)。しつこいようだが何とか新種に昇格してくんねぇかなあ(笑)。新種を見つけたと云うのと、新亜種を見つけたと云うのとでは受ける印象が全然違うもんなあ…。
とはいえ、小太郎くんもマオくんも「新亜種でも大発見ですよー。国内新種だし、ましてやカトカラなんだから凄い事だと思いますよ。」と言って慰めてくれたので、まあいいのだ。

 
(註4)ゲニ
ゲニタリアの略称。ゲニタリアとはオスの交尾器の一部分で、種によって形態に差異がある事から多くの昆虫の分類の決め手となっている。

 
(註5)もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓
最近発売された岸田先生の新しい図鑑、『日本の蛾』でも和名は「マホロバキシタバ」になっている。

 

 
『日本産蛾類標準図鑑』の1〜4巻を整理して纏めた廉価版で、この中に「標準図鑑以降に公表された種」として追加掲載されている。

 

 
こんだけ既成事実があれば、もう「マホロバキシタバ」で動かないだろう。有り難いことだ。

 
(註6)スギタニイチモンジってイチイガシを食樹としてなかったっけ❓
どうやら自然状態での食樹はまだ解明されていないようだが、飼育では無事にイチイガシで羽化したそうだ。

 
【Euthalia insulae スギタニイチモンジ ♂】

(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷)

 
【同♀】

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

 
大型のユータリア(タテハチョウ科 Euthalia属 Limbusa亜属)で、とても美しい。
しかし生きてる時にしか、この鮮やかな青や緑には拝めない。死ぬと渋いカーキーグリーンになっちゃう。それはそれで嫌いじゃないけどさ。
スギタニイチモンジについては、当ブログの『台湾の蝶』の連載の第5話に『儚き蒼』と云う文章が有ります。
そういえば『台湾の蝶』シリーズ、長い間頓挫したままだ。ネタはまだまだ沢山残ってるんだけど、キアゲハとカラスアゲハの回でウンザリになって、プッツンいってもうて書く気が萎えた。いつかは再開はするんだろうけどさ。
嗚呼、最後に台湾に行ってから、もう3年も経っちゃってるのね。行けば、間違いなく書く気も復活するんだろうな。来年辺り、行こっかなあ…。

 
(註7)1頭だけ採れたクロシオキシタバ
石塚さんは、内陸部で採れた極めて新鮮な個体だったから興味を示されたのではないかと思う。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
コレがその個体だ。
見た目は、どう見てもクロシオではある。
ようは移動個体ではない事が考えられ、棲息地には食樹であるウバメガシは殆んど無い事から、別な種類の木を食樹としている亜種ではないかと考えられたのだろう。しかし調べた結果、ゲニはクロシオそのものだったそうな。
つけ加えておくと、その後、クロシオは2020年も含めて、この1頭だけしか採れていない。
素人目には、この森で発見されたジョナス(キシタバ)の方が衝撃だったけどなあ…。標高が低くて、孤立した分布地だからね。

 

(2019.7月 奈良市白毫寺)

 
何で怒髪天的な触角にしたんだろね。一つしか採れてないのにさ。
因みに、マオくんも採っているから偶産ではなかろう。上の個体は南西部の白毫寺で採れたものだが、マオくんは原始林を挟んだ反対側、北西部の若草山の北側で採っているので広く薄く生息しているのだろう。

しかし「月刊むし」のマホロバ特集号が発売されて石塚さんと岸田先生の記載論文の末尾を読んで、石塚さんの本当の意図するところが解った気がした。たぶんだが、石塚さんはクロシオとは思っていなくて、もしやクロシオの近縁種であるデジュアンキシタバ(C.dejeani)の可能性を考えたのではなかろうか❓

 
【Catocala dejeani Mell, 1936】

(出典『世界のカトカラ』)

 
パッと見、ほぼほぼクロシオである。下翅の帯が太いのかな❓

 

(出典『世界のカトカラ』上がクロシオ、下がデジュアン。)

 
マホロバとアミメよりも、こっちの方が互いにソックリさんだ。こんなの、よく別種だと気づいたよな。いや、古い時代のことだから、どうせ先に記載されていたクロシオの存在(1931年の記載)を知らずに記載したんだろ。ろくに調べず、テキトーなこと言ってるけど。

ここへきて落とし穴と云うか泥沼の予感だ。出来るだけサクッと調べて、サラッと終わらせよう。

1936年にスズメガの研究で知られるドイツ人のルドルフ・メリ(Rudolf Mell)によって記載された。
分布は中国(四川省、陝西省、広西チワン族自治区)と台湾。生息地は局地的で少ないとされている。
一部の研究者は種としては認めず、クロシオキシタバの亜種と見なしているようだ。

Wikipediaによると、亜種として以下のようなものがあるとされている。

◆Catocala dejeani dejeani Mell, 1936
(中国 広西チワン族自治区?)

メリは暫くの間、広州(広東省)のドイツ人中学校の校長だったらしいから、おそらく隣の広西チワン族自治区で採集されたものを記載したのだろう。あくまでも勘だけど。

◆Catocala dejeani chogohtoku Ishizuka 2002
(中国)

ググッても、この学名では産地が出てこなかった。ほらね、やっぱり泥沼だ。
記載は石塚さんだから、御本人に直接お訊きすればいいのだろうが、こんな些事で連絡するのも気が引ける。まあ、四川省か陝西省のどっちかだろう。たぶん原記載から遠い方の四川省かな? ウンザリなので、もうどんどんテキトー男と化しておるのだ。

◆Catocala dejeani owadai Ishizuka 、2002
(台湾)

台湾では最初、クロシオキシタバとして記録されていた。でもって、その後に台湾ではクロシオは見つかっておらず、今のところ台湾にはデジュアンしかいない事になっているそうな。
ようは、石塚さんは台湾にいる C.naganoiが日本にも居たんだから、デジュアンだっているかもしれないとお考えになったのだろう。それにクロシオとデジュアンは中国では同所的に分布するところも多いというからね。日本にデジュアンが居ても不思議ではないってワケだ。

 
【台湾産デジュアンキシタバ】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
裏面画像を見たら、どうやらクロシオとの違いは裏面にあるみたいだ。

 


(出典 2点とも『www.jpmoth.org』)

 
上翅の内側の斑紋がクロシオとは違うような気がする。何だかマホロバっぽい。それにクロシオは翅頂部の黄色い紋が大きく、個体によっては外縁にまで広がって帯状になる。本当にそれが区別点なのかはワカンナイけどさ。
いや、待てよ。下翅が全然違うわ。クロシオは一番内側の黒帯が1本無いが、コヤツにはある。
前から思ってたけど、やはりカトカラを判別するためには裏面が重要だわさ。でも裏面画像は図鑑でもネットでも載ってない事の方が多い。マジで思うけど、裏面の画像も示さないとダメじゃね❓ って云うか鱗翅類を扱った図鑑は本来そうあるべきだろう。だいたい、蛾類は蝶と違って裏面に言及されてる事じたいが少ないってのは、どゆ事❓ 何でこうもそこんとこに無頓着なのだろう。蛾は種類数が多いと云うのは解るけどさ。それに裏まで載せれば、紙数が膨大となり、値段も高くなる。蛾の図鑑なんて誰も買わねぇもんが、益々売れねぇーってか❓ あっ、ヤバい。毒、メチャ吐きそうだ。この辺でやめときます。だいち、これ以上文章が長くなるのは、もう御免なのだ。

と言いつつ書き加えておくと、春日山原始林とその周辺には今のところ14種のカトカラの生息が確認されている。内訳は以下のとおりである。
キシタバ、マホロバキシタバ、アミメキシタバ、アサマキシタバ、フシキキシタバ、コガタキシタバ、カバフキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、クロシオキシタバ、オニベニシタバ、コシロシタバ、シロシタバ。ちなみに絶対いるだろうと思ってたウスイロキシタバは見つけられなかった。とはいえ、都市部に隣接した場所で、これだけの種類がいるのは中々に凄いことだ。それだけ森が豊かな証拠なのだろう。やはり素晴らしい場所だよ。

 
(註8)マホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが…
採集禁止区域が多いので、トラブルを避ける為の配慮かと思われる。
個人的には、四国で新たなルリクワガタが見つかった時に、「生息地 四国」と発表されたことがあったから、ああゆうダサい事だけはしたくないと思った。どうせ自分たち以外の人に採らせたくないとかケチな理由からなんだろうけど、あまりにも雑過ぎる生息域の記述だったので笑ったワ。狭小な根性が丸出しじゃないか。腹立つくらいにセコいわ。だから、ああゆう風な提言となった。
それで、思い出したんだけど、最初に”Facebook”に記事を書いた時は奈良県で採ったと書いたら、誰もが場所は紀伊半島南部を想像したみたいだね。まさか奈良市内だとはワシだって思わんもん。今まで春日山には星の数ほどの虫屋が入ってるからね。そんなもん、とっくに発見されていて然りだと考えるのが普通でしょう。でも、オラの行動範囲を知っていたA木くんだけは見破ったけどね。
因みに、産地については即座に箝口令が敷かれた。と云うワケで、Facebookの記事も奈良県から近畿地方に修正しといた。でも、色んな人が具体的な場所まで知ってたのには笑ったよ。別に誰かを批判してるワケじゃないけど、「人の口には戸は立てられない」って事だよね。まさか身をもって自分がそれを知るだなんて思いもよらなかったから、変な気分だったよ。中々に貴重な体験でした。

 
(註9)池田清彦
生物学者。評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。
ダーウィンの進化論に異を唱え、構造主義を用いた進化論を提唱している。虫好きで、カミキリムシのコレクターとしても知られる。同じく虫屋であるベストセラー『バカの壁』で有名な養老(猛)さんやフランス文学者でエッセイストの奥本大三郎さんとも仲が良い。
御三方の本は昔から結構読んでる。虫屋で頭のいい人の本は面白い。

 

マホロバキシタバ発見記(2019’カトカラ2年生3)

 
   vol.20 マホロバキシタバ

     『真秀ろばの夏』

 
倭(やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山籠(こも)れる 倭し美(うるは)し

 
 ープロローグー

2019年 7月10日。曇り。
この日も蒸し暑い夜だった。

「五十嵐さぁーん、何か変なのがいますー。』
樹液の出ているクヌギの前にいる小太郎くんの声が、闇夜に奇妙に反響した。
「変って、どんなーん❓」
テキトーに言葉を返す。
「カトカラだと思うんですけど、何か細いですー。こっち来てくださぁ~い。」
どうせヤガ科のクソ蛾だと思いながら、足先をそちらへと向けた。
「どれ❓」
「これです、コレ。」
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには、翅を閉じた見慣れない蛾がいた。
「確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。」  

話は去年に遡る。
きっかけは2018年の8月の終わりに、カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが Facebook にアップされた記事だった。そこには奈良県でのゴミムシダマシの探索の折りに、カトカラ(シタバガ)属有数の稀種カバフキシタバを見つけたと書かれていた。

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7.7 兵庫県宝塚市 撮影 葉山卓氏)

 

(2020.7.5 兵庫県六甲山地)

  
まだその年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は既に京都でカバフは得てはいたものの(註1)、来年はもっと近場で楽に採りたいと思い、メッセンジャーで秋田さんに連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺(採集禁止区域外)だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された(何れも採集禁止エリア外)。何れにせよ、カバフの記録はこの辺には無かった筈だ(註2)。俄然、やる気が出る。

その年の秋遅くには奈良公園へ行って、若草山から白毫寺へと歩き、カマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ(鎌束)】

(2018.11月 奈良公園)

 
カマツカは秋に赤い実をつけるから見つけやすいと思ったのだ。ちなみに春には白い花が咲かせるので、そちらで探すと云う方法もある。
   
 
 カバフキシタバを求めて

2019年 6月25日。
満を持して始動。 先ずは若草山周辺を攻める。
しかし、秋田さんに教えてもらった樹液の出る木にはゴッキーてんこ盛りで、飛んで来る気配というものがまるでない。『秋田の野郎〜٩(๑òωó๑)۶』と呟く。
もちろん秋田さんに罪はない。取り敢えず人のせいにしておけば、心は平静を保てるってもんだ。
とにかくコレはダメだと感じた。🚨ピコン、ピコン。己の中の勘と云う名のセンサーが点滅している。このまま此処に居ても多くは望めないだろう。決断は早い方がいい。午後9時過ぎには諦め、白毫寺へと向かう。

真っ暗な原始林をビクつきながら突っ切り、白毫寺に着いたのは午後10時くらいだった。目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構な数のカトカラが集まっている。しかしカバフの姿はない。
取り敢えず周辺の木に糖蜜でも吹きかけてやれと大きめの木に近づいた時だった。高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへとズラす。
w(°o°)wどひゃ❗
そこには、まさかのあの特徴的な姿があった。

 

(こんな感じで止まってました。画像提供 葉山卓氏)

 
間違いない、カバフキシタバだ❗ 後ずさりして、充分な距離を置いてから反転、ザックを置いてきた場所へと走る。
逸(はや)る心を抑えながら網を組み立てる。💦焦っちゃダメだ、焦るな俺。慌ててたら、採れるもんも採れん。
心が鎮まるにつれ、アドレナリンが体の隅々にまで充填されてゆく。やったろうじゃん❗全身に力が漲(みなぎ)り始める。
∠(`Д´)ノシャキーン。武装モード完了。行くぜ。小走りで戻り、目標物の手前7mで足を一旦止める。そこからは慎重に距離を詰めてゆく。逃げていないことを祈ろう。6m、5、4、3、2、1m。目の前まで来た。
(☆▽☆)まだいるっ❗心臓がマックスに💕バクバクだ。この緊張感、堪んねぇ。このために虫採りをやってるようなもんだ。
目を切らずに体を右側へとズラし、ネットを左に構える。必殺⚡鋼鉄斬狼剣の構えだ。武装硬化。心を一本の鋼(はがね)にする。音の無い世界で、ゆっくりと、そして静かに息を吐き出す。やいなや、慎重且つ大胆に幹を💥バチコーン叩く。
手応えはあった。素早く網先を捻る。
ドキドキしながら懐中電灯で照らすとシッカリ網の底に収まっていた。しかも暴れる事なく大人しく静止している。自称まあまあ天才なのだ。我ながら、ここぞという時はハズさない。
移動して正解だ。やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で網の中にぞんざいに毒瓶を差し込む。
しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ❗、えっ、えっ、マジ❗❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から脱け出し、闇の奥へと飛んでゆくのが一瞬見えた。慌てて懐中電灯で周りを照らす。だが、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。大事な時にこういうミスは滅多にしないので、ドッと落ち込み「何でやねん…」と闇の中で独り言(ご)ちる。

朝まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。
しかし、結局このボーンヘッドが後の大発見に繋がる事になる。その時はまさか後々そんな事になろうとは遥か1万光年、想像だにしていなかった。運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが結果を大きく左右する。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン、この地を再び訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

 
 リベンジへ

その後、去年初めてカバフを採った京都市で更に惨敗するものの、六甲山地で多産地を見つけてタコ採りしてやった。思えば、これもまた僥倖だった。直ぐに奈良へリベンジに行っていたならば、彼奴が時期的には発生していたか否かは微妙のところだろう。やはり新しきカトカラの発見は無かったかもしれない。
計30頭くらい得たところで溜飲が下がり、漸くこの日、7月10日に再び白毫寺へと出撃した。屈辱は同じ地で晴らすのがモットーだ。白毫寺で享けた仇は白毫寺で返すヽ(`Д´#)ノ❗

日没の1時間半前に行って、新たに他の樹液ポイントを探す。叶うのならば、常に二の手、三の手の保険は掛けておくことにしている。手数は数多(あまた)あった方がいい。たとえ時間が短くとも下調べは必要だ。
首尾よく樹液の出ている木を数本見つけて、小太郎くんを待つ。彼は奈良市在住なので、奈良県北部方面に夜間採集に出掛ける折りにはよく声をかける。蝶屋だけど(ワテも基本は蝶屋です)、虫採り歴は自分よりも長いし、他の昆虫にも造詣が深いから頼りになる。それに夜の闇とお化けが死ぬほど怖いオイラにとっては、誰か居てくれるだけでメチャンコ心強い。

日没後に小太郎くんがやって来た。 おそらく彼が先にカバフを見つけたとしても譲ってくれるだろう。心やさしい奴なのだ。
しかし、そんな心配をよそに日没後すぐ、呆気なく見つけた。何気に樹液の出てる木の横っちょの木を見たら、止まっていたのだ。
 
難なくゲット。
 

(画像は別な個体です。背中が剥げてたから撮影せずでした)

 
早めにリベンジできたことにホッとする。
これで今日の仕事は終わったようなもんだ。急激に、ゆるゆるの人と化す。
そして、話は冒頭へと戻る。

 
 採集したカトカラの正体は?

新たに見つけた樹液ポイントで、コガタキシタバか何かを取り込んでる時だった。少し離れた小太郎くんから声が飛んできた。
『五十嵐さぁ〜ん、何か変なのがいますー。』
『コレ取り込んだら、そっち行くー。どんな〜ん❓』
『カトカラだと思うんですけど、何か細いですぅー。』
どうせヤガ科のクソ蛾だと思った。カトカラ以外のヤガには興味がない。急(せ)くこともなく取り込んで、小太郎くんの元へと行く。
『どれ❓』
『これです、コレ。』
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには見慣れないヤガ科らしき蛾がいた。しばし眺める。
『確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。』

 

(撮影 葉山卓氏)

 
『見てるヒマがあったら、採りましょうよ。』
小太郎くんから即刻ツッコミを入れられる。
<(^_^;)そりゃそーだー。確かにおっしゃるとおりである。もし採って普通種のクソ蛾だったら腹立つからと躊躇していたけど、採らなきゃ何かはワカラナイ。
止まっている位置を見定め、その下側を網先でコツンと突くと、下に飛んで勝手に網の中に飛び込んできた。カバフをしこたま採るなかで自然と覚えた方法だ。網の面を幹に叩きつけて採る⚡鋼鉄斬狼剣を使わなくともよい楽勝簡単ワザである。あちらが剛の剣ならば、こちらは謂わば静の剣。さしづめ「秘技✨撞擲鶯(どうちゃくウグイス)返し」といったところか。
網の面で幹を叩く採集方法は、その叩く強さに微妙な加減がある。弱過ぎてもダメだし、強過ぎてもヨロシクなくて、網の中に飛び込んでくれない。他の人を見てても、失敗も多いのだ。つまり、それなりに熟練を要するのである。いや、熟練よりもセンスの方が必要かな?まあ両方だ。
一方、網先で下側を軽く突いて採る方法は微妙な加減とか要らないし、視界も広いから成功率は高い。叩く方法でも滅多にハズさないけど、ハズしたらカヴァーは出来ない。横から逃げられたらブラインドになるから、返し技が使えないのだ。とにかく鶯返しの方がミスする率は少ない。飛んで、勝手に網に入ってくる場合も多いし、たとえ上や横に飛んだとしても、素早く反応して網の切っ先を鋭く振り払えばいいだけのことだ。鋭敏な反射神経さえあれば、どってことない。

網の中で黄色い下翅が明滅した。
どうやらキシタバグループのカトカラのようだ。どうせアミメキシタバあたりだろう。余裕で毒瓶に素早く取り込み、中を凝視する。
『五十嵐さん、で、何ですか❓』
小太郎くんが背後から尋ねるも、脳ミソは答えを探して右往左往する。考えてみれば、そもそも此処にアミメがいるなんて聞いた事ないぞ。
『ん~、何やろ❓ \(◎o◎)/ワッカラーン。下翅の帯が太いからアミメかなあ❓ いや、クロシオ(キシタバ)かもしんない。』
『五十嵐さん、去年アミメもクロシオも採ってませんでしたっけ❓』と小太郎くんが言う。アンタ、相変わらず鋭いねぇ。
『そうなんだけど、こっちは去年からカトカラ採りを始めたまだカトカラ2年生やでぇー。去年の事なんぞ憶えてへんがな。特定でけんわ。』と、情けない答えしか返せない。

その後もその変な奴は飛来してきたので、取り敢えず採る。だが、採れば採るほど頭の中が混乱してきた。
冷静に去年の記憶を辿ると、アミメにしては大きい。反対にクロシオにしては小さいような気がする。上翅の色もアミメはもっと茶色がかっていたような記憶があるし、クロシオはもっと青っぽかったような覚えがある。でもコヤツはそのどちらとも違う緑色っぽいのだ。しかし、採ってゆくと稀に茶色いのもいるし、青緑っぽいのもいるから益々混乱に拍車がかかる。
けど冷静に考えてみれば、クロシオは確か7月下旬前半の発生で、分布の基本は海沿いだ。移動性が強くて内陸部でも見つかる例はあった筈だが、にしても移動するのは発生後期であろう。ならば更に時期が合わない。

小太郎くんに尋ねる。
『この一帯ってウバメガシってあんの❓ クロシオの食樹がそうだからさ。』
『ウバメガシは殆んど無かった筈ですね。あるとしても民家の生け垣くらいしかないと思いますよ。』
となると、消去法でアミメキシタバと云うのが妥当な判断だろう。
でもコレって、ホントにアミメかあ❓
心が着地点を見い出せない。
とはいえ、段々考えるのが面倒くさくなってきて、その日は「暫定アミメくん」と呼ぶことにした。けれど、ずっと心の奥底のどこかでは違和感を拭えなかった。
結局、この日はオラが8頭、小太郎くんが1頭だけ持ち帰った。
 
翌日、明るい所で見てみる。

 

 
何となく変だが、どこが変なのかが今イチよく分かんない。
取り敢えず、展翅してみる。

 
【謎のカトカラ ♂】

 
【謎のカトカラ ♀】

 
展翅をしたら、明らかに変だと感じた。
見た目の印象がアミメともクロシオとも違う。確認のために去年のアミメとクロシオの展翅画像を探し出してきて見比べてみた。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(兵庫県神戸市)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(兵庫県神戸市)

 
目を皿にして相違点を探す。
そして直ぐに決定的な違いを見つけた。下翅の黒帯下部が繋がらなくて、隙間があるのだ。ここがアミメはしっかりと繋がり、クロシオも辛うじて繋がっている。たまに少し隙間が開く個体も見られるが、ここまで開くものはいない。それにクロシオとアミメは真ん中の黒帯が途中で外側に突出する傾向があるが、コヤツにはそれが見うけられない。またアミメやクロシオと比べて帯がやや細いような気がする。とはいえ、最初は異常型かな?とも思った。しかし残りを見てみると、全部の個体が同じ特徴を有していた。
大きさも違う。クロシオは相対的にデカい。一方、アミメは相対的に小さい。コヤツは多少の大小はあるものの、相対的に両者の中間の大きさなのだ。

 

(後日、わざわざ神戸にアミメとクロシオを採りに行ったよ)

 
左上がアミメ、左下が別種と思われるもの、右がクロシオだ。
大きさに違いがあるのが、よく分かるかと思う。

裏を見て、更に別物だと云う意を強くした。
裏面展翅をして、比較してみる事にする。

 
【謎のキシタバ 裏面】

 
【アミメキシタバ 裏面】

 
【クロシオキシタバ 裏面】

 
上翅の胴体に近い内側の斑紋(黒帯)が他の2種とは異なる。
アミメは帯が太くて隣の縦帯と連結するから明らかに違う。全体的に黒っぽいのだ。また翅頂(翅端)の黄色部の面積が一番狭い。
クロシオとはやや似ているが、謎のカトカラは内側の黒帯の下部が横に広がり、上部に向かって細まるか消失しがちだ。クロシオはここが一定の太さである。決定的な違いは、その隣の中央の帯がクロシオは圧倒的に太いことだ。逆に一番外側の帯は細まり、外縁部と接しない。だから外縁が黄色い。またクロシオの下翅は帯が互いに繋がらないし、黒帯が一本少なくて内側の細い帯が無い。あとはアミメとクロシオは下翅中央の黒帯が途中で外側に突出して先が尖るが、謎のカトカラは尖らない(註3)。
ようは三者の裏面は全く違うのである。表よりも裏面の方が三者の差異は顕著で、間違えようのないレベルだ。
こりゃエラい事になってきたなと思い、小太郎くんに昨日持ち帰った個体の展翅画像を送ってもらった。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
やはり下翅の帯が繋がっていない。
となると、絶対に日本では未だ記録されていないカトカラだと思った。でも、じゃあコヤツはいったい何者なのだ❓ 新種の期待に心が震える。

何者かを知るにはどうしたらいいのだろう❓
足りない脳ミソをフル回転させて懸命に考える。そこで、はたと思い出す。そういえば去年、図書館で石塚勝己さんの『世界のカトカラ』のカラー図版を見開き3ページ分だけコピーしたのがあった筈だ。アレに載ってるかもしれない。

 
【世界のカトカラ】

 
でも何となく気になったページを適当にコピーしただけなので、確率は極めて低い。図版はユーラシア大陸のものだけでも20ページくらいはあった筈だ。新大陸(北米)のものまで含めると、40ページ近くはあったような気がする。見開きだから、その半分としても3/20。確率は1割5分だ。いや、そのうちの1枚はめちゃんこカッコイイ C.relicta(オビシロシタバ)の図版である事は間違いないから、確率は10%だ。となると、そこにそんなに都合よく載っているとは思えない。
そう思いつつ確認してみたら、(☆▽☆)何とあった❗❗
奇跡的にその3ページの中に同じく下翅の帯が繋がらない奴がいたのである。しかも他の2ページは北米のカトカラの図版だったから、確率は5%。まさに奇跡だ。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
名前は Catocala naganoi キリタチキシタバとなっている。
生息地は台湾で、特産種みたいだ。台湾は日本と近いし、これは有り得るなと思った。昔は連続して分布していたが、様々な理由で棲息地が分断され、辛うじてこの森で生き残ったのかもしれない。だったら同種か近縁種の可能性大だ。
しかし、困ったことに『世界のカトカラ』には裏面の写真が載ってなかった。両面を見ないと本当にコヤツと近縁種なのかは特定できない。ならばと学名をネットでググったら、zenodo(註4)と云うサイトで、らしきものが見つかった。そこには、ちゃんと裏面の画像もあった(下図3列目)。

 

(出展『zenodo』)

 
早速見比べてみると、どう見ても同じ種の裏面に見える。Catocala naganoi と同種か近縁種に間違いあるまい。
小太郎くんに画像を送ったら、彼の見解も自分と同じだった。ならば、こりゃ絶対に日本では未知のカトカラだと思い、夕方にはドキドキしながらFacebookに記事をあげた。

「昨日、奈良県で変なカトカラを採った。クロシオキシタバにはまだ早いし、だいち奈良は海なし県である。おらん筈。となるとアミメキシタバかなと思ったが、下翅下部の帯が繋がっていない。裏もアミメと違う。採ったやつ8つ全てが同じ特徴やった。どう見ても新種か新亜種だと思うんだけど、岸田先生どう思われます? たぶん、台湾の Catocala naganoi とちゃいますかね?」

記事をアップ後、ソッコーで蛾界の重鎮である岸田泰則先生からコメントが入った。
 
「確認しますが、すごいかもしれません。」

蛾のプロ中のプロである岸田先生のコメントだから、ホンマにエライことになってきたと思った。って事は新種ちゃいまんのん❓ 期待値がパンパンに膨れ上がる。
そして、夜9時にはもうメッセンジャーを通じて先生から直接連絡があった。どえりゃあスピーディーさである。ますます夢の新種発見が現実味を帯びてきた。

内容は以下のとおりである。

「五十嵐さん このカトカラですが、専門家の石塚勝巳さんに聞いたところ、やはり、クロシオではないようです。新種または新亜種の可能性もあります。石塚さんを紹介しますので、連絡してみて下さいませんか。」

(☉。☉)ありゃま❗、カトカラの世界的研究者である石塚さんまで御登場じゃないか。蛾の中でも屈指の人気種であるカトカラのニューなんて、蛾界は激震とちゃいまんのん❓ もうニタニタ笑いが止まらない。
それにしても岸田先生の動きの早さには驚嘆せざるおえない。優れた研究者は行動が迅速だ。でないと、多くの仕事は残せない。ところで、石塚さんに連絡せよとは岸田先生御自身で記載するつもりはないのかな❓
先生に尋ねてみたら、次のような返答が返ってきた。
「新種か新亜種の記載には、近縁種を調べないと判断できません。近縁種を一番知っているのは石塚さんです」
なるほどね。それなら理解できる。にしても、記載を人に譲るだなんて、先生って器がデカいよなあ(最終的には共著で記載された。どういう経緯かは知んないけど)。

 
 奈良を再訪

その翌々日の12日。再び奈良を訪れた。
こんな奴が元々あんな何処にでもあるような普通の雑木林にいるワケがない。おそらくすぐ隣の春日山原始林が本来の生息地で、原始林内には樹液の出る木があまりないゆえコッチまで飛んで来たのではあるまいかと考えたのである。

夕方に着き、原始林内で樹液の出ている木を探したら簡単に見つかった。でも結局、樹液の出ている木はその木だけしか見つけられなかった。不安だったが、裏を返せばここに集中して飛来する可能性だってあるじゃないかと前向きに考える。おいら、実力は無いけど、昔から引きだけは強い。どうにかなるじゃろう。

日没後、少し経った午後7時33分に最初の1頭が飛来した。
その後、立て続けに飛来し、午後9時には数を減じた。個体は重複するだろうが、観察した飛来数はのべ20頭程だった。驚いたのは、その全部が樹液を吸汁中に1頭たりとも下翅を開かなかった事だ。大概のカトカラは吸汁時に下翅を見せるから、特異な性質である。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
知る限りでは、そんなカトカラはマメキシタバくらいしかいない(註6)。
そして、ヨトウガ達ほどではないにせよ、樹幹に止まってから樹液のある所まで、ちょっとだけ歩く。だから最初は、どうせ糞ヤガだと思ったのだ。奴らゴッキーみたいにシャカシャカ歩くからね。そういう意味でも、日本では未知のカトカラだと確信した。

この日は岸田先生から電話も戴いた。近いうちに生息地を視察したいとの事。そのレスポンスの早さに再び舌を巻く。
その後、石塚さんとも連絡をとった。石塚さん曰く、やはり見たところ Catocala naganoi に極めて近い新種か、C.naganoiの新亜種になる可能性大だそうだ。
なお、新種の場合は学名と和名は考えてくれていいよと言われた。石塚さんも太っ腹である。
「Catocala igarashii イガラシキシタバとかも有りかな❓」などと考えると、だらしのないヘラヘラ笑いが抑えきれない。
しかし、普段から和名の命名について自身のブログ(註5)で散々ぱらコキ下ろしている身なので、それはあまりにもダサ過ぎる。そんな名前をつけたとしたら、周りに陰でボロカス言われるに決まっているのだ。そんなの末代までの恥である。ゼッテー耐えられそうにない。
それで思いついたのが「マホロバキシタバ」。もしくは「マホロキシタバ」という和名だった。
「まほろ」とは「素晴らしい」という意味の日本の古語である。その後ろに「ば」を付けた「まほろば」は「素晴らしい場所」「住みよい場所」を意味する。謂わば楽園とか理想郷ってところだ。
『古事記』には「倭(大和=やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山隠(籠=こも)れる 倭し美(うる)はし」というヤマトタケルノミコト(註7)が歌ったとされる有名な和歌もあり、これが最も相応しい名ではないかと思った。
そして、この言葉は「JR万葉まほろば線(註8)」など奈良県所在の企業、店舗名、施設等々の名称にもよく使われており、奈良県の東京事務所や桜井市の公式ホームページにも使用されている。つまり奈良県民のあいだではポピュラーで親しみ深い言葉でもある。また虫屋は学のある方が多いゆえ、「マホロバ」という言葉だけでピンときて、奈良県で最初に見つかったものだと容易に想像がつくだろうとも考えた。手垢の付いた言葉ではなく、且つ、そこそこ知っている人もいると云うのが名前の理想だろう。加えて雅な言葉なら、完璧だ。とにかく、出来るだけ多くの人に納得して戴くために心を砕いたつもりだ。
小太郎くんに提案すると、奇しくも彼も同じことを考えていたようだ。「マホロ」よりも「マホロバ」の方がポピュラーだし、発音しやすくて響きもいいと云うことで、すんなり二人の間では「マホロバキシタバ」で決まった。
あとは、この和名を如何にして岸田先生と石塚さんに受け入れてもらうかである。それで一計を案じた。コチラに来るという岸田先生とのやりとりの中で「一々、新種・新亜種のキシタバと言うのは面倒なので、葉山くんとの間では便宜上マホロバキシタバ(仮称)と呼んでおります。いよいよ明日、まほろば作戦決行です❗もちろんこの作戦の隊長は先生です。明日は宜しくお願いします、隊長∠(・`_´・ )❗」というメールを送っておいた。
ようは既成事実を作ってしまおうと云う巧妙な根回し作戦だ。連呼しておけば、先生とて心理的に反対しにくかろう。わしゃ、狡い男なのだ、٩(๑´3`๑)۶ぷっぷっぷー。

 
 強力メンバーで調査

7月16日。午後4時に先生と近鉄奈良駅で待ち合わせる。その後、小太郎くんも加わって、その足で奈良公園管理事務所に調査の許可申請へと向かう。原始林内は採集禁止だから、手は早めに打っておいた方がいいだろう。
その後に白毫寺へ行き、先生に採集してもらった(採集禁止区域外)。虫屋たるもの、自分の手で採らなければ納得いかないものだ。
先生は実物をひと目見て、これは新種か新亜種だねとおっしゃった。小太郎くんが先生に「マホロバを世界で三番目に採った男ですね。」と言う。その言葉に先生も笑っていらした。お陰か、和名マホロバキシタバも気に入って戴いたようだ。自分では考えもしなかったけど、その世界で何番目という称号って、いい響きだねぇ~。ということは、さしづめオラは「新種(新亜種)を世界で一番最初に採った男」ってことかい。何だか気分いいなあ。

後日、石塚さんにも、三人の間では一応仮称マホロバキシタバになっている旨を伝えたら、気に入ってくれたようだった。

早々と切り上げて、三人で居酒屋で祝杯をあげた。
短い時間だったが、とても楽しい一刻(ひととき)を過ごせた。

店の外に出て、何気に空を見上げる。そこには沈鬱な面持ちの雲が厚く垂れ込めていた。
フッと笑みが零れる。
空はどんよりだが、心はどこまでも晴れやかだった。

                       つづく

 
追伸
この文章は『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものを大幅増補改訂したものである。

 

 
普段のブログと構成が少し違うのは気合い入ってたのだ(笑)。
流石にいつもみたいに何も考えずに書き始めるということはせず、先ずは頭の中で構成をシッカリと考えて、文章もある程度繰ってから書きだした。結果、最近はあまり使わない倒置法的な手法になったってワケ。出来るだけドラマチックな展開にしたかったし、珍しく読み手のこともかなり意識して書いたのさ。クソ真面目な報告文なんて自分らしくないし、オモロないもん。
「だったら、毎回そうせいよ」とツッコミが入りそうだが、それは出来ませぬ。性格的に無理なのである。毎回そんな事してたら、書く前に放り出してしまうに決まってるんである。何も考えずに書き始めるからこそ書けるのであって、一行でも書いたら、完成させねばと思って何とか最後まで書き続けられるのである。

改めて記事を読み返すと、つくづく偶然の集積だらけの結果なんだなと思う。そもそもの発端を掘り起こしてゆくと、もし蝶採りに飽きてシンジュサンを採ろうなどと思わなかったら(註9)、この発見は無かった。中々採れなくて、もし小太郎くんに相談していなかったら矢田丘陵なんかには行かなかったし、そこで小太郎くんに偶然いたフシキキシタバやワモンキシタバを採ることを奨められなかったら、カトカラなんて集めていなかっただろう。また彼がカバフキシタバについて熱く語らなかったら、カバフ探しに奔走することもなかっただろう。あとは文中で語ったように、秋田さんのFacebookの記事が無かったら奈良なんて行かなかっただろうし、カバフを逃していなかったら再訪することもなかった。一旦諦めて他の場所にカバフを探しに行ったと云うのも大きい。直ぐにリベンジに行っていたら、マホロバには会えなかったような気がする。結果とは、ホント偶然の集積なんだね。もちろん二人ともボンクラで、ニューのカトカラだと気づかなかったら、この発見は無かったのは言うまでもない。バカだけど、バカなりに一所懸命頑張ってきた甲斐があったよ。
でも、こんだけ偶然が重なると、もう必然だったんではないかと不遜にも思ったりもする。実力は無いけど、昔っから何となく運だけは強いのだ。春日山原始林といえば、カミキリ屋や糞虫屋を筆頭に数多(あまた)の虫屋が通ってきた有名な場所だ。蛾類だって、調査されたことが無いワケがない。なのに今まで見つからなかったのは、奇跡としか言いようがない。申し訳ないけど、きっとワシも小太郎くんも選ばれし人なのだ。
あっ、言い忘れた。小太郎くんと秋田さんには感謝しなくてはならないね。ありがとうございました。
おっと、岸田先生と石塚さんにも感謝しなきゃいけないや。先生が直ぐにFacebookの記事を見て気づいてくれなければ、どうなってたかワカランもん。仲の良い石塚さんにソッコーで連絡して下さり、直ぐに太鼓判を押して戴いたのも大きい。もし御二人が仲が悪かったりしたら、面倒くさいことになってたかもしんないもんね。変な奴がシャシャリ出てきて、手柄を全部自分のモノにしてた事だって有り得るからさ。この業界、人としてダメな人も多いのだ。功名心ゆえのルール無用も普通にあったりするから怖い。お二人の記載で良かった良かった。蛾界の重鎮が記載者名に並ぶというのもバリュー有りだ。御両名とも、改めて有難う御座いました。

次回、後編です。主に知見のまとめ、謂わば種の解説編になる予定です。

 
ー後記ー
この改稿版を書くにあたり、色々ネタを探してたら執筆当時のメールが出てきた。月刊むしの原稿の構成を担当して下さった矢崎さんに送ったメールだ。ちょっと面白いので載せておこう。

日付は、2019年08月04日となっている。
あれからもうきっかり一年経ってるんだね。何だが懐かしい。

 
件名: マホロバキシタバ発見記① 五十嵐 弘幸・葉山 卓
To: 矢崎さん(月刊むし)

五十嵐と申します。
岸田泰則先生から発見記を是非書いて下さいとの御要請を賜り、僭越ながら、わたくし五十嵐が代表して発見の経緯を綴らさせて戴きます。
現在、PCが無いゆえ、失礼乍ら携帯メールで記事をお送りします。多々、不備があるかとは存じますが、何卒御勘弁下さいまし。

と云う前置きがあって、本文を送った。
自分でも忘れてたけど、その最後に以下のような文章が付け加えられていた。

ー矢崎さんへー
当方『蝶に魅せられた旅人(http://iga72.xsrv.jp/ )』というおバカなブログを書いておりまする。堅苦しい文章も書けなくはないのですが、気が進まない。それで岸田先生に御相談したところ『発見記なんだから自由に書けばいいんじゃない?矢崎さんという優秀な編集者もいるし、ダメなら上手く直してくれるよ。』とおっしゃてくれました。結果、こういう勝手気儘な文章になりました。で、勢いで顔文字まで入れちゃいました(笑)。流石に顔文字はマズイと思われるので削除して下さって結構です。本文も不適切なところがあれば、直して下さって構いません。あまり大幅に改変されると悲しいですが…。
とにかく掲載のほど何卒宜しくお願いします。

追伸
えー、添付写真が送りきれないので何回かに分けてお送りします。写真を入れる位置はお任せします。
それと、実を言うと文章はこれで終わりではありません。生態面など気づいたこともありますので、稿を改めてお送りします。本文の後にそれをくっつけて下されば幸いです。

以上なのだが、矢崎さんは有り難い事に「クソ蛾」等の不適切な箇所を除いては、ほぼ原文をそのままで載せて下さった。よくこんなフザけたような文章を載っけてくれたよ。感謝だね。
オマケに読みやすいようにと、各章に「プロローグ」「採集したカトカラの正体は?」などの小タイトルを付けて下さった。これまた感謝である。気にいったので、今回その小タイトルをそのまま使わせて戴いた。岸田せんせの「矢崎さんという優秀な編集者もいるし」と云う言葉にも納得だすよ。
この場を借りて、改めて矢崎さん、有難う御座いました。

 
(註1)京都で既にカバフは得てはいたものの
カバフの採集記は拙ブログのカトカラ元年のシリーズに『孤高の落武者』『続・カバフキシタバ(リビドー全開!逆襲のモラセス)』などの文があります。興味のある方は、そちらも併せて読んで下されば幸いです。

 
(註2)奈良公園のカバフキシタバの記録
小太郎くん曰く、過去に古い記録が残っているそうだ。

 
(註3)謎のカトカラは尖らない
但し、裏面の斑紋に関しては細かい個体変異はあるかと思われる。本当はもっと沢山の個体を図示して論じなければならないのは重々承知しているが、これはあくまでもその時の流れで書かれてある事を御理解戴きたい。

 
(註4)zenodo
https://zenodo.org/record/1067407#.XTkdVmlUs0M
学術論文のサイトみたいだね。
尚、C.naganoiは1982年に蛾の大家、杉 繁郎氏によって記載された。桃園県で発見され、バラタイプには新竹県の標本が指定されている。
台湾名は「長野氏裳蛾」。ネットでググっても情報があまり出てこないので、おそらく台湾では稀な種だと思われる。

 
(註5)自身のブログ
http://iga72.xsrv.jp/ 蝶に魅せられた旅人。
アナタが読まれている、このブログの事ですね。

 
(註6)吸汁に下翅を開かないカトカラ
全てのカトカラを観察したワケではないけれど、文献を漁った結果、マメキシタバ以外にはそうゆう生態のものは見つけられなかった。優れた生態図鑑として知られる西尾規孝氏の『日本のCatocala』にも載ってなかった。

 

 
但し、通常は下翅を開く種でも、ケースによっては閉じたまま吸汁するものもいることを書き添えておく。

 
(註7)ヤマトタケルノミコト
『古事記』『日本書紀』などに伝わる古代日本の皇族(王族)。
『日本書紀』では「日本武尊」。『古事記』では「倭建命」と表記されている。現代では、漢字表記の場合には一般的に「日本武尊」の字が用いられる場合が多い。カタカナ表記では、単にヤマトタケルと記されることも多い。
第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたり、熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄である。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ(八首の大蛇)をブッた斬った時に中から出てきた「草薙の剣」を携えている。この伝説の剣はスサノオが天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上したもので、それをタケルくんが天照大神から貰ったってワケ。ようするに伝説だらけの人が絡んでくるバリバリの英雄なんである。
その倭建命が故郷の大和の国を離れ、戦いに疲れて病に伏す。そのさなかに大和の美しい景色を想って歌ったとされるのが「倭は 国のまほろば…」という歌なんである。
訳すと「大和は国の中で最も素晴らしい場所だ。幾重にも重なり合った青垣のような山々、その山々に囲まれた大和は本当に美しい場所だ。」といった意味になる。

 
(註9)万葉まほろば線
JR桜井線の別称。JR奈良駅から奈良県大和高田市の高田駅までを結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線。

 
(註8)シンジュサンを採ろうなどとは思わなかったら
これについては本ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いた。

  

2019’カトカラ2年生 その弐(4)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

 第四章『瓦解するイクウェジョン』

 

2020年 6月17日

取り敢えずウスイロキシタバの新鮮な個体を雌雄共に確保できたので、新たな産地を探すことにした。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
これまでの結果、ウスイロが樹液、糖蜜トラップ、ライトトラップに飛来することは分かった。となれば残る象牙色の方程式の解明は、その棲息環境だろう。予測ではアラカシの大木が有るような古い起源の照葉樹林で、且つある程度の広さを有する湿潤な環境を好むのではないかと考えていた。
そういう場所となると、近畿地方では何処だろう❓
そこで真っ先に浮かんだのが奈良県の春日山原始林だった。あそこなら、これらの条件が完璧に揃っている。広大な原始林は常緑照葉樹を主体としており、そこに落葉広葉樹が混じる。幼虫の食樹であるアラカシも有り、古い起源の森だから勿論のこと大木もみられる。またイチイガシなどのアラカシ以外のカシ類も豊富だから、それらを二次的に利用する事も充分可能な環境でもある。加えて成虫の餌である樹液の供給源、クヌギやコナラ、アベマキも点在する。そして、原始林内には川も数本流れており、湿潤な環境という要素も満たしている。ようは、ここにいなきゃ何処にいるのだ❓というような場所なのだ。もしかしたらウスイロばかりか、ヤクシマヒメキシタバ(註1)だっているかもしれない。

 
【ヤクシマヒメキシタバ】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
もしヤクヒメが見つかったら、ちょっとしたニュースだろう。マホロバキシタバ(註2)に次ぐ2匹目のドジョウじゃないか。そんな風に想像してたら、ニヤついてきた。今年も連戦、連勝じゃーいヽ(`Д´)ノ❗

ただ、一つ気掛かりなのは此処でのウスイロの記録が探しても見つけられなかった事だ。調べた範囲では奈良県の記録は上北山村ぐらいにしか無い。まあどうせ調査が行き届いてないんだろうけどさ。所詮は世の嫌われ者の蛾だ。調べた人が少なくて、しかもイモばっかだったのだろう。
あっ、でも甲虫屋とか蝶屋もよく訪れるところだから、記録があってもよさそうなもんじゃないか…。
いやいや、だったらマホロバもとっくに発見されて然りだった筈だ。それがあれだけ長年にわたり多数の虫屋が入ってきたのにも拘らず、去年まで見つからなかったのだ。ようは皆さん、蛾なんて無視なのだ。だから記録もない。そうゆう事にしておこう。

この日はマホロバの予備調査も兼ねていたので、小太郎くんも参戦してくれた。勿論、春日山と奈良公園一帯は昆虫採集は禁止されているので、公園事務所の許可を得ての調査だ。

 

 
今年、マホロバの採集を目論んでる方は、採集禁止エリアを調べてから出掛けることをお薦めします。許可なく夜の原始林内をウロウロしてトラブルを起こすリスクをわざわざ冒さなくとも、禁止エリア外でも結構採れますから。

マホロバの事も考えて、原始林とその周辺にかけて樹液の浸出状況を確認してゆく。その経過の中で、どうせウスイロも見つかるだろうと思っていたのだ。

しかし、何処でも姿は全く見られない。どころか、別なカトカラの仲間さえ殆んど見ないし、他の蛾たちも数が少ない。居るのはノコギリクワガタばっか。あまりにも何もいないので、つい普段はムッシングするクソ夜蛾を採ってしまう。

 

 
羽を閉じて止まっているのを見て、体の真ん中の白い線(上翅下辺)が目立ったから、見たことない奴だと思ったのだ。
名前がワカンなくて、Facebookに載っけたら、何と有り難いことに石塚(勝己)さんから、ノコメセダカヨトウだという御指摘を受けた。けんど驚いたでやんす。まさか奴だとは微塵も思ってなかったからね。

ノコメセダカヨトウといえば、だいたいはこんな感じだ。

 

(出展『茨城の蛾』)

 
コヤツなら、何処へ行ってもウザいくらいにアホほどいる。
なので、(⑉⊙ȏ⊙)マジか❓と思ったワケ。でもよく見ると、コヤツの上翅の下辺にも白い縁取りがある。
石塚さん曰く「普通種ですが、色調の変異は多様です。」との事。ふ〜ん、これは謂わば黒化型みたいなもんだね。
けど、ネットで検索しても、ここまで黒いのは見つけられなかった。もしかして、コレってレアな型❓
所詮はデブ蛾だから、どっちゃでもえーけど。

最後に若草山の山頂をチェックして、この日の調査を終えることにした。

 

 
若草山の山頂は夜景スポットとして人気があり、観光客が結構来ていた。
駐車場から山頂までの遊歩道の途中で、小太郎くんが上空を飛ぶカトカラを見つけた。それなりに高くて網が届かない位置だったから見送るしかなかったのだが、アレって何だったんだろう❓という話になった。かなり裏面が全体的に黄色っぽく見えたのだ。
消去法でいくと、キシタバ(C.patala)は特別大きいから可能性は低いだろう。だいち裏面はウスイロとは全然違うから間違えるワケがない。

 
(パタラキシタバ 裏面)

 
因みに、キシタバ(註3)の回で小太郎くんの事をキシタバ虐待男と書いたが、今や蔑視度は更に上がって「デブキシタバ」と呼んでいらっしゃる。但し、その憎悪も突き抜けてしまい、虐待にも値しないようだ。キシタバくん、良かったね。悪いお兄さんは、もう怖くないよ(•‿•)

あと、この時期に此処で見られるキシタバの仲間もいえば、コガタキシタバとフシキキシタバくらいしかいない。
でもコガタは裏面が黒っぽいから、ウスイロと間違うことはない。除外していいだろう。

 
(コガタキシタバ 裏面)

 
となると、フシキかウスイロのどちらかしかない。
けど、ウスイロって飛んでるのを下から見た事って、あんましないんだよね。採ってた場所は木が密生していて、上に大きな空間が無く、皆さん横に飛んで行かはるケースが多かったのだ。
しかし、小太郎くんは、アレはフシキじゃなかったと思うと言う。たしかにフシキならば、もっと黄色が濃くて鮮やかな気がする。

 
(フシキキシタバ 裏面)

 
(ウスイロキシタバ 裏面)

 
ならば、おそらくウスイロだろうと思った。あの飛んでるのを下から見たという一点だけで充分だった。居るならば、そのうち採れる。だからその後、探し回ることも無く、直ぐにワモンキシタバを求めて平群町へと移動した。
時期的に、そろそろワモンを採っとかないとボロばっかになる。優先順位はワモンさんなのだ。ウスイロはもう新鮮な個体は採ったし、ここではボロだって構わない。居るという事実さえ掴めばいいのだ。

で、帰る時間ギリで何とか採って帰った。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♂】

 
ワモンって、渋カッコいいから好きなのだ。
あれっ?待てよ、自分は見たことないけど、そういえば小太郎くんが若草山にもワモンがいるって言ってたな。

あの見送った奴はワモンの可能性もあるかもしれない。たぶんワモンの裏面も黄色は薄かった筈だ。

 
(ワモンキシタバ 裏面)

 
でも、こんなに黒帯は太くはなかった筈だから、ワモンでもなかったと思われる。益々、ウスイロの可能性大だ。
 
 
 
2020年 6月20日

前回は様子見だったが、この日はマジ探しだった。
一番可能性の高そうな春日山遊歩道に狙いをつけて入った。
ここは照葉樹の原始林の真っ只中だし、道の横には川が流れているからだ。予測した環境としては申し分ない。どうせ居るだろうから、まあサクッと居ることを確認して、とっとと帰ろう。

 

 
森の中、真っ暗けー。

そういえば、去年は若草山でカバフキシタバを探したが見つけられず、早めに見切ってこの道を降りたんだよね。その時も真っ暗で、相当ビビりながら歩いた。オマケに思ってた以上に道のりが長かったから、途中でバリ不安になった。もしや別な異次元世界にでも迷い込んだんじゃないかと思って、パニくり寸前の半泣きどした。
そうだ、そうだ。思い出してきたよ。その後にカバフキシタバを採ったのに、あろう事か取り込みで逃しちまったんだよな。まあそれが結局はマホロバの発見に繋がったんだけどね。人生、何が幸いするのかはワカランもんだね。

 
【カバフキシタバ】

 
樹液の出てる木は見当たらないので、取り敢えず糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
しかし、少し時間が経っても何も寄って来ない。いつもなら、このスペシャル糖蜜に何らかの虫が直ぐに寄って来る筈なのだが…。
あっ、霧吹きを振ってから、かけるの忘れてた。下にエキスが沈殿するので、振って混ぜないと効力が半減するんだったわ。
とゆうワケで、今度は振ってから掛けようとしたら、シュコシュコ、シュコシュコ。シュコシュコシュコシュコシュコシュコ…。焦って何度もやるが、暗闇にシュコ音だけが空しく響くだけで液体は全く出てこない。
(-_-;)やっちまった…。こりゃ完全にノズルが詰まったな。
慌てて霧吹きを分解するも、だが事態を打開できない。何度試してもダメ。ただ握力だけが鍛えられるのみである。

まあいい。一回分だけでも、そのうち寄ってくんだろ。我が糖蜜トラップは無敵なのじゃよ。それに今回は採るのが目的ではない。何なら写真だけでもいいのだ。とにかく1頭だけでも飛んで来て、ここに居ることさえ証明できればいいのである。

だが、待てど暮せど、見事なまでに何もいらっしゃらない。
結局、9時過ぎまで待ったが何の音沙汰もなかった。諦めて下山し、樹液や灯火に来ていないかを確認しながら駅まで歩いた。他のカトカラも殆んどおらず、パタラが1頭だけ樹液に来ているのを見たのみで終わった。

 
【Catocala patala】

 
つまり、まさかの大惨敗を喫したってワケ。
あまりの惨事に、たぶん鬼日と言われる異常な日だったんだと思う事にした。でないと、プライドが保てない。

 
 
2020年 6月22日

何で、こないだはダメだったんだろ❓
本当にあの日は、たまたま鬼日に当たっただけなのだろうか❓
もしかしたら、純然たる照葉樹林よりも少しクヌギやコナラ、アベマキなどの広葉樹が混じる環境の方が良いのではと思い始めた。成虫の餌資源が有った方が良好な環境ではないかと思い直したのである。
そうゆうワケで、この日は滝坂の道を選んだ。

ここは道の左側(北)が春日山の原始林で、右側が広葉樹の混じる森だからである。道沿いに川が流れているので、空中湿度も高い。もう此処に居なけりゃ、何処にいるのだ❓という環境なのだ。

しかし、矢張り結果は同じだった。
(・o・;)マジかよ❓である。コレで完全に心が折れた。
で、調査打ち切りにした。何にも採れないって面白くないのだ。面白くない虫探しはしないというのがオラのモットーなのだ。
別に方程式なんて解けなくてもいいや。所詮はアマチュア。そこまで調べる義理は無い。どうせワシ、根性なしの二流虫屋やけん。
(TОT)ダアーッ。

                        つづく

 
追伸
なんとも冴えない終わり方である。
想定していたイクウェジョン、方程式は見事に瓦解した。象牙色の方程式は、また来年に持ち越しだよね。
因みに6月29日にも行ったが、ついぞウスイロを見つけることは出来なかった。こんだけ探しても見つからないということは、いないのかなあ❓…。絶対いる筈なのになあ…。いるけど、めちゃめちゃレアだとか❓
それはそうと、ならば小太郎くんと見送ったアレは何だったのだ❓フシキかなあ?…。でもフシキなんかとは間違えるワケないと思うんだよなあ。
ワテは根性なしなので、もういいやと思ってるけど、誰か根性がある人に是非とも此処でウスイロを見つけて欲しいよね。

次回、解説編で閉店ざんす。

 
(註1)ヤクシマヒメキシタバ
屋久島で最初に発見され、1976年に記載された。その後、九州、対馬、四国、紀伊半島でも分布が確認されている。

 
(註2)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

2020年の7月に春日山原始林とその周辺で新たに見つかったカトカラ。しかし、国内新種にとどまり、最終的には台湾特産のキリタチキシタバ(Catocala naganoi)の新亜種として記載された。

 
(註3)キシタバ

各所で何度も書いているが、Catocala patalaの、このキシタバと云う和名、何とかならんもんかと思う。
毎度説明するのが面倒クセーんだけど、しなけりゃ論が進められないので説明します。カトカラ類の中で、この下翅が黄色いグループのことを総称して、皆さんキシタバと呼んでいる。でも、この C.patala の和名がキシタバだから、誠にもってややこしい。「キシタバ」と言った場合、それがキシタバ類全体を指しているのか、それとも種としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのだ。だから種としてのキシタバのことをいう場合、一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」「糞キシタバ」「屑キシタバ」、又は小太郎くんのように「デブキシタバ」と呼ばねばならんのだ。にしても、人によって普通とか糞とかデブの概念が違ったりするから伝わらないこともあって、それはそれでヨロシクない。
そこで、自分は学名そのままの「パタラキシタバ」を極力使うようにしていると云うワケだ。パタラだったら、パタライナズマ(註4)と云う佳蝶もいる事だし、神話の蛇神様なんだから少しは尊敬の念も出よう。
とはいえ、ずっともっと他に相応しい和名があるのではないかと思ってた。で、こないだ小太郎くんとたまたまオニユミアシゴミムシダマシの話になって、そこから「オニ」と名のつく生き物の話に発展した。そこでワイのオニ和名に対する講釈が爆発したのだが(これについては拙ブログに『鬼と名がつく生物』と題して書いた)、その流れの中で、小太郎くんがボソッと言った。

「キシタバとか、いっそオニキシタバにしたらどうですかね❓」

これには、目から鱗だった。たしかに、このグループの中では圧倒的にデカい。鬼のようにデカいし、上翅は緑っぽいから青鬼と言っても差し支えなかろう。それに鬼のパンツは黄色と黒の縞々だと相場が決まってるんだから、まさに相応しいじゃないかの灯台もと暗し。即座に「それ、いいやんか。」と返した。
だが、言った本人の小太郎くんは奴を憎んでおるから「えー、あんな奴にオニをつけるんですかあ?」と不満そうだったけどね(笑)。

カトカラ界の頂点に立たれる石塚さん辺りが、この和名を改称してくんないかなあ…❓
風の噂では新しい図鑑を出す御予定もあると云うし、ねぇ先生、この際だから和名を改称しませんか。もちろん最初に和名を付けられた方に対しての敬意を失ってはいけないのでしょうが、この問題を解決できる良い機会だと思うんだけどなあ…。
あっ、でもカトカラには他にオニベニシタバってのがいるなあ。まっ、問題はべつにないか…。オニキにオニベニの青鬼と赤鬼の揃いぶみでございやせんか。悪かないと思うよ。

 
(註4)パタライナズマ

【Euthalia patala】

(裏面)

(2016.3月 Thailand)

ユータリア(イナズマチョウ属)属、Limbusa亜属の最大種。
激カッコ良くて、裏まで美しい。そしてデカい。しかも、レアものときてる。
パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称。また、この世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされている。
パタライナズマについては、拙ブログの初期の頃に何編か書いとります。興味がある方は探してみてくだされ。

 

2019’カトカラ2年生 其の1第四章

 
  vol.18 アサマキシタバ(4)

  『ゲシュタルト崩壊』

 

翌朝、展翅しようとしてみて驚いた。
アンモニア注射した最初の1頭以外の全員が、蘇生していらっしゃったのだ。一瞬、墓から一斉にゾンビの如く這い出してくるアサマちゃん軍団の映像が浮かんだよ。
それはもう皆さん、元気、元気。毒瓶に少々ブチ込んだぐらいでは簡単には死なんのだ。恐るべき生命力である。

もう1回、1匹1匹ブチ殺すのも何か気が進まないので、そのまま2日間くらい放置していた。だが、それでもまだお元気でいらっしゃった。段々、不憫に思えてきて、逃してやりたい衝動に駆られそうになったので、全員アウシュビッツ送り。冷凍庫にブチ込んでやった。結局は悪魔の如き所業、虐殺なのである。酷いもんだ。虫屋は死んだら、全員すべからく地獄行きだな。

翌日、冷凍死体安置所から取り出し、遺体解凍を行なう。書いてて、やってる事が変態サイコ野郎だなと思う。やはり虫屋は間違いなく、全員すべからく地獄行きだな。

合掌してから展翅し始める。
しかし、憐憫の情はここまで。死んだもんは、物に過ぎない。(ΦωΦ)フフフ…、これでオスとメスの触角の長さの違いの有無が明らかになるじゃろう。

先ずはオスから。

【アサマキシタバ Catocala streckeri ♂】

(2020.5.24 大阪府東大阪市 枚岡。以下同所)

取り敢えず、触角は自然な感じに仕上げた。
しかし、展翅した後に気づく。今回は触角の長さが重要なのだ。出来るだけ真っ直ぐに伸ばしといた方が比べ易いかもしれん。

で、頑張ってみたのだが、先っちょの湾曲が直せずにどうしても完全に真っ直ぐにはならない。カトカラって生きてる時は触角が真っ直ぐなのに、何で死んだら曲がっちゃうんだろ❓ マジ、面倒くさいわ。

で、頑張り過ぎた結果、右の触角の根元が折れた(TOT)❗
カトカラの触角って細いから、すぐ切れよる。(`Д´#)ムキーッ、いまいましいざんす。
まっ、いっか。触角の長さを比べるにあたって、これくらいなら問題なさそうだ。

♂は3頭いずれも触角が長いねぇ。
目の悪い人は画像をピンチアウトして拡大してネ。

裏展翅したものも貼り付けておこう。

【♂裏面】

♂は前脚がモフモフだね。何かウサギの頬っぺみたいに見えて、ちょっと笑っちゃったよ。
今回、♂は4頭しか採れなかったのて、補足として去年に採った♂個体も幾つか並べておこう。


(2019.5月 奈良県大和郡山市矢田丘陵。以下同所)

右側の触角を見て少し短いかもと思ったが、左側を見ると矢張り長いね。
関係ないけど、♂はモフモフの前脚を思っきし出した方が邪悪度が増して好きかもしんない。

先端の細い部分が湾曲していて少し分かりづらいが、これまた長い。
最初の個体も同様だが、触角は上反りしている方が邪悪な感じがして好きかも。いや、真っ直ぐな方がいいか…。触角の調整の在り方は今でも悩みの種だ。どれが正しいのか、しょっちゅうワカンなくなる。嗚呼、もー。結局、また触角迷宮に迷い込んどるがな。

これまた先が細くて分かりづらいが、コヤツも長い。
以下、酷い展翅だが貼付しておく。

一番下の個体は左側の触角の先が切れているが、右側は切れてないから充分長いでしょう。分かりにくいから、画像を拡大してネ。
アサマの触角の先って、特別に細くねえか❓少なくとも♂はそんな気がする。他のカトカラと比べてないから、断言するのは危険だけどさ。
否、そんなわきゃないか❓早くも混乱が始まってる感じだな。

ともあれ、こうして去年の♂を並べてみても、矢張り♂の触角は長いと云う印象が強い。

さてさて、ここからが本番だ。
続いて、課題だったメスの展翅を始めよう。去年、もしかして♀の触角は♂よか短くね❓と感じた事から端を発した疑問なのだが、メスのサンプルが2、3頭とあまりにも少なかったゆえ、解決には至らなかったのだ。
その疑問の答えが、いよいよ出る。ちょいと💞ドキドキだ。

【アサマキシタバ Catocala streckeri ♀】

(゜o゜;あっ❗、短いかも。
ちなみに右触角の先は見た目よりも、もう少し長くて白いゴミの所で上に湾曲してます。そのままだとマチ針が邪魔して見えにくいので、画像を拡大してみて下され。

でも1頭じゃ、まだ何とも言えないよね。お次はどうだろ❓

これまた短いような気がするぞ。しかし、まだまだ断言は出来ない。更に展翅を続ける。

ここから先は前のスマホで撮った画像を Bluetoothで転送したものだ。最近になってスマホを買い替えたのだが、勝手に画像修整しよるのだ。上の2頭は本当はこんなに黄色くはない。もしも、こんだけ黄色ければ、カトカラ・カーストにおいて、もっと上位にランクされてもいい筈だもんね。カトカラ内におけるアサマちゃんの人気は高くないのだ。

短い。
いやはや、こりゃ♀は♂と比べて絶対に短いぞ❗
待て待て、まだたった3頭だ。検証の数としては少ない。落ち着いて次の個体へとかかる。

ハイ、これもそうだね。
さあ、どんどん行くぞ。

なぜか、どうやっても触角が真っ直ぐにならなかったけど、コレも長いとは言えないだろう。

さっきは触角の調整がままならなかったので、ムカツときた。だから、次は鬼のごたる気持ちで真っ直ぐにしてやっただよ。しかも、早くも遊び心が出て、如何にも蝶屋的な触角の角度にしてやったわい(笑)
こんだけ真っ直ぐにしてやっても短いんだから、そろそろワシの仮説の証明も現実味を帯びてきたんじゃねーの❓
へへへ( ̄ー ̄)、ゴールは近い。

さあ♀は、あと2つだ。ここは完全勝利のパーフェクトゲームといこうじゃないか。
それはちょっと言い過ぎか。もとい。完封勝利といこうじゃないか。

(・o・)へっ❓、コレって長くねえか❓
(゜o゜;えっ❗❓、(☉。☉)えっ❗❓、\(°o°)/えぇーっ❓❗
慌てて、オスの触角と見比べてみる。

(ー_ー;)微妙だなあ…。確認の為に何度も見比べる。
たぶん♂の方が長い。…ような気がする。
でも見れば見るほど微妙な気がしてきて、段々ワケがワカラナクなってきた。いよいよ、ゲシュタルト崩壊の始まりである。きっと脳がパニックを起こして、判定を拒否しておるのだ。

ここは一旦、冷静になろう。
因みに、この個体の右触角は最初から無かった。そうゆうのも何だかミステリアスだ。それって、これからを暗示する何かのメタファー❓

( ゚д゚)ハッ❗、待てよ。
腹が長いし、もしかしてオスの間違い❓ オデって、てーげーな性格だから有り得るぞっ。
そういえば、展翅前に撮った写真があった筈だ。それ見りゃ、オスかメスかが確実に分かる筈だ。

(@_@)れれれれ…❓、どっちだ❗❓
メスにしては腹が長い気がするし、オスにしては短くて腹太のような気がするぞ。
どうぞ、オスであってくんなまし。オスなら触角が長くとも何ら問題なしなんだもーん。

でも、よく見ると腹先が♂っぽくないような…(詳細は後術するが、尻先から産卵管らしきものが出ている)。

ガビ━━━━Σ(゚Д゚))━━━━ン❗❗

ならば、メスだ。
それに前脚も後脚も♂みたくはモフモフじゃないぞ。
メスであれば、メスなのに触角は間違いなく長いじゃないか。
パタッ(ο_ _)ο=З、死んだ。イガ仮説、崩壊。

そうだ❗、オスの写真も撮ってあった筈だぞ。ソイツと比べてみよう。判断はそれからだ。(ノ`Д´)ノまだ死ねん。

(@_@)アチャー、触角の長さは殆んど変わらん。
何度も見比べるが、そうとしか思えん。このままだとゲシュタルト崩壊が止まらなさそうなので、ブレイクアウト。煙草でも吸うことにした。

ぷはぁ〜(-。-)y-゜゜゜
何だかパーフェクトゲーム直前で、センター前にヒットを打たれたみたいな気分だ。
いんや、まだゲームは終わってない。ゲシュタルト崩壊、何するものぞっ❗

落ち着くために、取り敢えず先に最後の8頭目を裏展翅しよう。

【♀裏面】

♀の前脚は、あんまりモフモフじゃないね。これは雌雄を区別する条件の一つと言っていいだろう。

どれどれ触角はどうだ?
見た感じ、それほど短くはないが、♂と比べると矢張り、やや短い。例外はあるものの、これで雌雄の触角の長さに差異がことを、ある程度は証明できたような気がする。とはいいつつも、何となく引っ掛かるものがある。
なので、去年に採った♀と他の展翅前画像も並べてみることにした。
先ずは去年の♀からだ。

2つとも、どう考えても短いよね。まあ、キッカケになった者たちなんだから、知ってて当たり前なんたけどさ。
これだけ条件が揃ってくれば、そうゆう傾向はあるって言ってもいいんじゃね❓
再び乗ってきたところで、次は残った今年の展翅前画像だ。

腹の形や脚のモフモフ度、触角の長さから、これが♂だよね。
w(°o°)wあっ❗ここで気づく。
さっきの♂だと思って貼付した画像は♀だわさ。♂と♀とでは腹の形が違うのだが、あの画像は腹部の横の影のせいで♂に見えたのだ。

その件(くだん)の画像を明るくしてみよう。

ほらね。完全にメスだわさ。
何だか九回裏、パーフェクト目前でレフトのポール際に大ファールを打たれた気分だよ。いや、ホームランの判定が覆ったと言った方がいいか?とにかく首の皮一枚つながったって感じだ。

よっしゃ、試合再開だ。改めてさっき貼付した♂の画像に戻って、触角を見てみよう。

(ー_ー;)……。長いっちゃ長いけど、触角が前にせり出しているので今イチわからない。
ならば、他の♂画像を確認してみよう。

先程の個体は、やや微妙なところもあったが、コレは明らかに♂だろう。腹の形は勿論のこと、前脚と後脚が超モフモフだしさ。

触角はというと…。
かなり長い。長いんだけど、オスと間違えたメスや触角が片方しかないメスとあまり大差ないようにも見える。いや、少し長いか?

しゃあない、次を見てみよう。

左はまだしも、右の触角は角度的に全く参考にならん。使えん。えーい、次だ。

しかし、探しても無い。どうやらこの3個体しか写真を撮っていないようだ。ならばと、去年の画像も探したが、これまた無い。
もわ〜っ(;゚∀゚)=3、イガちゃん仮説に又しても暗雲が垂れ込める。

仕方ない。他の♀からのアプローチを試みよう。

短いね。
それはさておき、この写真を見るとアサマキシタバの触角は先っぽの方が白っぽくなってるのがよくワカル。印象としては特に♀に、こういうのが多いような気がするが、印象なのでハッキリとは断言できないけど…。
おそらく、この白くなるのは触角の上面かと思われる。裏返すと、大体が先まで黒く見えるからだ。つまり下面は黒いってことだ。それらの画像は面倒なので貼り付けないが、気になる方は前回の章で確認されたし。

あと気づいたのは横からでも産卵管らしきものが見えることだ。腹端から少し飛び出ている(以下の画像でも拡大すれば、それとなく確認できる)。

一見これも短く見えるが、こんなに丸まってると何とも言えない。しかも触角が前向きだから、益々ワカラン。またゲシュタルト崩壊が始まりそうな予感がするよ。

コレもパターンは同じだ。
試しに想像力を働かせて、必死に頭の中で触角を真っ直ぐに伸ばしてみる。アホだ。そんな事が出来るワケがない。たとえ出来たとしても、それじゃ何ら科学的根拠は示せない。つくづく、おバカさんだよ。厳密にはゲシュタルト崩壊ではないけれど、また新たなパターンの脳ミソ崩壊が始まったよ。ぽてちーん\(◎o◎)/

話は逸れるが、こうしてメスの前脚をいくつか見てると、やはり♀のお手手はモフ度が低いわ。

コヤツも前向き触角になってもうとる。先っちょも丸まっとるしなあ…。それでも全体的に何となく♀の方が短いような気もしないでもないが、何とも言えないというのが正直な気持ちだ。
もうこうなれば、1個1個の触角を外して軟化させ、真っ直ぐに伸ばしてノギスで計測するしかないだろう。加えて各個体の上翅前縁の長さも測り、触角との比率まで出さなくては違うと断言できまいて。そんな事までしなくてはならぬとなると、テキトー&てーげーな性格なオイラには到底無理だ。そういう事は我慢強くてキッチリした性格の人がやらないと誰もが納得する明確な差異を示す数値は示せない。そうゆうの、誰か替わりにやってくんないかなあ…。

んっ❓、あれっ❓何言ってんだオレ。コイツら既に展翅して触角が短いって分かってる奴らばかりじゃないか。触角を伸ばすとか、ワケわかんないこと言ってんじゃねえよ。完全に脳細胞がイカレポンチになっとるがな。
とは言うものの、ノギスで測って数値化しようという奇特な方かいれば、是非ともやってもらいたいけど。

それに、ここへきて漸く根本的な問題に気づいたよ。そもそも、たかだかこの程度の頭数を比較してアレコレ宣(のたま)ってるのは、賢(かしこ)な人から見れば失笑ものだろう。去年と合わせて雌雄各10頭ずつ程度で結論づけるのは、あまりに乱暴な論理だからだ。やってる事が雑いのである。検証数は少なくとも50体ずつ、いや100体ずつくらいはないと説得力に欠ける。偶然の入る余地を極力減らさねば、結果に信頼性はないとゆうことだ。

ならばとネットでググるが、これが笑けるほど標本画像が無い。有っても触角とかワヤクチャだから、使いもんになんない。カトカラは蛾の中でもトップクラスの人気者だと言われてるが、悲しいけど現状は所詮そんなもんなのだ。最近は蛾もブームになりつつあるそうだが、蛾に興味を持っている人の分母はまだまだ小さいのだろう。

もうコレは図鑑に頼るしかない。
先ずは岸田せんせの『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』の画像をお借りしよう。

図鑑には3点のアサマキシタバの標本が図示されていた。

♂だね。
触角が怒髪天なので分かりづらいが、長いことには間違いないだろう。にしても、何でこないに傾いてはるのん❓

お次は♀だ。

異常型の♀だが、触角は短いように見える。


(以上3点共 出典 岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

う〜ん、長いかも知んない。でも♂よりかは短いと思うぞ。
こうなってくると、最早、願望がそう見せているのかもしれないと云う疑念が芽生える。段々、疑心暗鬼になってきた。脳ミソは、時に見えてる画像を自分の都合のいいように勝手に改変するというではないか。もしそうならば、もうゲシュタルト崩壊どころの騒ぎではない。そのうち人格の崩壊まで起こるやもしれない。ピッチョ§△◆♮〓✮‡ブチャカエ❡‰≒➽∌アビバビブ✔♯✪〄∀ダリャホセ〜。(ㆁωㆁ)オデ、オデ、コワレタ。

一応、『原色日本蛾類図鑑』も見てみるか…。

画像は、↙この1点のみ。

古い図鑑だけあって、酷い展翅だ。それでも左触角を見れば、長いことは想像に難くない。
それはさておき、名前が平仮名の「あさまきしたば」となっているのが何だか新鮮だな。優しい感じがする。これは古い図鑑の特徴でもあるのだが、一周まわって何かオシャレだよ。

石塚さんの『世界のカトカラ』の画像は既に第一章で使わせて戴いた。

でも何となくパラパラ見てると、海外のカトカラの欄に韓国産とロシア産のアサマキシタバがあった。


(以上2点共 出典 石塚勝己『世界のカトカラ』)

上が♂で下が♀である。コレも♂の方が少し長い気がする。
もう、そうゆうことにしておこう❗
考えてみれば、そこまで触角に拘る必要性は無い。だって、そんな不確実な雌雄の見分け方に頼らないなくとも、他の方法、腹先のスリットと産卵管の有無で100%見分けられるのである(詳しくは前章を参照されたし)。
『バッカみたい』。昔の彼女の声が、耳の奥で聞こえたよ。

出来れば、このままフェイドアウトで終わりたい。終わりたいが、それじゃあまりにもグダグダ過ぎる終わり方だ。ここまで読んでくれた人に対しても申し訳ない。壊れたアタマなりに、何とかまとめて終わらせよう。

もう、結論から言っちゃうからネ。
えー、アサマキシタバのメスの触角はオスよりも短い❗
そう言い切ってしまおう。
でも、あくまでそれは傾向的なもので、微妙なものもいる。野外で採集した時の雌雄の同定には、ある程度は使えるが、絶対的なものではない。コレでどうだろうか❓

雌雄の同定をする場合、先ずは裏返して尻先と産卵管の有無を確認しましょう。その2つが有れば、間違いなくメスです。
補足事項として、以下のような特徴が傾向として見受けられる。

①オスは腹部が細くて長い。反対にメスは太くて短いものが多い。

②オスは尻先に毛束がある。メスも無いではないが、その量は遥かに少なく、尻先がより丸くなる傾向がある。

③オスは前脚(第1脚)と後脚(第3脚)が毛に覆われ、モフモフである。特に新鮮な個体ではコレが顕著である。対するメスは毛があるにはあるが、オスよりも明らかに少なく、モフモフ度は低い。

④相対的にメスの方が翅に丸みがある。バランスは横長で、胴体の太さも相俟ってか、ずんぐりむっくりな印象を受ける。オスはそれと比して、細くてシャープに見える。

⑤触角は比較的オスの方が長い傾向にある。

但し、各項ともに例外もあるので、これらを総合的に鑑みて同定することが必要だろう。

こんなもんで許してけれ。

今回の結果はどうあれ、対象に対してどこか変だな、違ってるんじゃないかと感じる心は大事だと思う。
きっと去年、マホロバ(キシタバ(註1))を発見できたのも、そうゆう感性や姿勢があったからなんだと思う。

                        つづく

 
追伸
次回、やっとこさの種の解説編。
まだ続くんである(笑)。自分でも、いい加減にしろと言いたいよ。次回で終えれることを心から願おう。

 
(註1)マホロバキシタバ
2019年に奈良県で発見された、日本では32番目となるカトカラ。

【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】

  

喋くりまくりイガ十郎

   
1週間ちょっと前(12月7日)、日本鱗翅学会の東海支部総会に招待されて、不肖ワタクシなんぞが講演しに名古屋へ行って参りやした。
お題は今年7月に新発見されたカトカラ、マホロバキシタバ(註1)についてである。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】
(2019.7月 奈良市)

 
しか~し、いい加減ちゃらんぽらん男のイガちゃんである。なあ~んも考えずにノープランで大阪からノコノコやって来た。

駅から講演会場に行く道すがら、流石にヤバいと思って話す内容を真面目に考え始めた。
それにしても、名城大学って坂が多すぎ。どうも物事を考えるのに坂道というのは向いていないようだ。考えがまとまらぬうちに会場に着いてしまう。

で、受付でチャラける。
受付が大学院生の可愛い女の子たちだったから、ソッコー笑いを取りにいってしまう。往年の悪いクセが出た。オジサンになってもアホはアホのまんまなんである。

で、調子に乗って話し込む。
一人の女の子は苔とハダニの研究をしているそうだ。
こんな若い娘がハダニとな。世の中、ワカンねえよなあ。

でも今は油を売っている場合ではニャーい(ФωФ)
「早く喋る内容を考えなさいよ、イガ十郎くん。アンタ、名古屋は鬼門やろ。恥かくで。」
心の中で自分で自分に軽くツッコミを入れて外に出る。大学構内は全面禁煙なので、外で煙草を吸いながら考えようと思ったのだ。時間はまだ30分ある。何とかなるだろう。っていうか何とかせんとマズイ。

パンフを改めて見る。
わおっ(゜ロ゜;ノ)ノ、特別講演になっとるやないけー。ちょっと背中がムズ痒い。

 

 
講演名は『マホロバキシタバ発見を振り返って』。
自分で考えたのではない。お任せしたら、そうなっていた。まあ題名としては特に問題はないし、解りやすい題名だ。つまりは、それに従って喋ればいいってだけの事だよね。問題は、最後にどうもっともらしい事を言って壇上を降りるかだ。纏まりのない話を延々して終われば、ノータリンと思われかねない。アホなクセに賢く思われたいのだ。
坂道を下りながら考える。登り坂は物事を考えるのには向いていないが、下りながら考えるのには向いている。何となく考えが纏まってきた。
取り敢えず、アタマの入りとケツの〆だけを決めた。真ん中部分は思い付くままをテキトーに箇条書きでメモっておいた。アタマとケツだけシッカリやっとけば、体裁は何とか保てるだろう。
けど、こんなんで1時間も喋れんのか❓と一瞬思った。講演なんて一度もした事がないのである。だったら、ちゃんと準備しとけよなー、俺。
けんど、アッシは昔から根拠の無い自信に満ちた男なのさ。お気楽なんくるないさで、マイナス思考を打ち消す。幼少の頃より何でもぶっつけ本番で生きてきたもんね。
お題について喋ることが無くなって、早く終わりそうになったら、途中から全然関係ない別の話にすり替えれちまえ。ウケさえすれば、聴衆も文句は無かろう。

会場に戻ると司会の若い子が打ち合わせに来た。
『内容は何をどう話される予定ですか?』
『ワカラン。ノープランでぇーす\(^o^)/。その場で適当に考えて喋りまーす。』
フザけた男である。でも、気がつけば口がそう勝手に動いていた。どうせ、お喋り糞野郎の犬の漫才師なのだ。

考えが今イチ纏まらぬうちに、いよいよ犬の漫才師劇場開幕。
流石に、やや緊張する。マイクを持って人前で喋るだなんて、あんまし有ることじゃないもん。そのまま歌でも歌って帰ったろかしらという考えがチラついたが、そんな事は幾らおバカなアチキでも、ようやりまへん。ここは真面目に話すしかない。肚を据える。

喋り出したはいいが、口の中が直ぐにパッサパッサになる。噛みまくりやがな。
こりゃマジイと思って早々と壇上を降り、持参のお茶を取ってきて飲む。( ̄∇ ̄*)ゞカッコわるぅ~。
でもそれで少し落ち着けた。あとは秋田さんの悪口をちょいちょい挟みつつ笑いを取りながらのマシンガントーク。予定の1時間を越える1時間15分も喋ってしまった。犬の漫才師の面目躍如である。

あっ、秋田さん、尊敬している旨もちゃんと話して、フォローも入れときましたから怒らないでネ(^。^)

 

 
画像はアチキが講演している姿ではないが、会場はこんな感じでありんした。

 
因みに自分のあとの講演は以下のようなものでした。

◆鈴木英文「ラオス10年間の蝶類調査の結果」

◆高橋真弓「蝶はなぜそこに棲むのか」の謎を追って

◆大岡啓二「ベトナム北部クックホン国立公園の蝶 2019」

自分もラオスには三度ほど行っているので、鈴木氏の講演は興味深かった。講演後、ビャッコイナズマのポイントも教えてもらったし、🎵ラッキョンキョンキョン。有意義だった。それだけでも来た意味はある。引きだけは強いから他の稀種には会えるのだが、ビャッコだけがナゼだか会えないのだ。

高橋真弓さんには御迷惑をお掛けした。
自分が15分も超過して喋ったので、講演時間を短くさせてしまった。この場を借りて謝らせて戴きます。先生、申し訳ありませんでしたm(__)m
因みに、せんせは女の子みたいな名前だが、男性のお爺ちゃまです。

高橋真弓さんといえば、蝶界の重鎮である。蝶屋で名前を知らない人はいないだろう。
数々の著書もあり、自分も名著と名高い『チョウ-富士川から日本列島へ』を小学生の時に読んだことがある。大人になって虫採りを再開した時にも読み直した。そんな尊敬する先生の時間を、結果的に削るだなんて恐縮しきりである。
その偉業の中でも特筆されるのは、従来1種類と考えられてきたキマダラヒカゲには実を云うと2種類が混じっていると看破したことだろう。
山地にいるものと平地にいるものとでは羽の模様が微妙に違うが、学者はキマダラヒカゲの単なる山地型と平地型だと片付けてきた。ところがどっこい、高橋先生はこの山地型と平地型を別種だと見抜き、生態や幼虫形態などを精査し、1970年に両種が別種であると証明されたのである。そして、それまで山地型とされてきたものを「ヤマキマダラヒカゲ」、平地型を「サトキマダラヒカゲ」と名付けられた。
この「日本産キマダラヒカゲ属 Neope に属する二つの種について」という論文は、全国の蝶愛好家に衝撃を与えたという。
そりゃそうだ。その年代だと海外を含めてまだまだ新種探しに熱かった時代だ。全く見た目が違う未知なる新種を追い求める虫屋が多かっただろう。そんな中にあって、先生はごく普通種のキマダラヒカゲに疑問を持ち、隠された事実を暴き出してその常識を覆してみせた。そして、それが新種として記載されたワケだから皆がビックリ仰天、灯台もと暗しの目から鱗だったようだ。

 
【サトキマダラヒカゲ】
(2018.5.奈良県 信貴山)

 
なんか、このサトキマって白くねぇかあ?…。
写真撮るのに必死で、その時は気づかんかった。スマホで写真を撮るには相当近寄らなくてはいけないので、大変なのだ。今さらだが、写真なんか撮らずに採れば良かったよ。
でもサトキマなんて、自分的チョウのヒエラルキーの中においては最下層なのだ。普段はフル無視で、ウザい存在でしかない。なので展翅画像もない。ゆえに図鑑からパクらせて戴く。

 
【サトキマダラヒカゲ(里黄斑日陰)】
(出展 以下3点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【ヤマキマダラヒカゲ(山黄斑日陰)】

 
【両種の見分け方】

 
今さらながらに思うけど、見た目が殆んど同じやないけー。バリエーション豊富な同種にしか見えない。
こんなもん、よくぞ別種と見抜いたなあと思う。
高橋せんせは、やっぱ偉いや。

こう云う誰もが見過ごしてきた「当たり前」を覆したという意味では、マホロバキシタバも蛾愛好家たちに同じような衝撃を与えたかもしれない。
蛾の中でも特に人気が高く、愛好者も多いカトカラから今時まさか新種が見つかり、しかも離島や深山幽谷ではなくて、奈良市内で見つかるだなんて誰も想像していなかったのだ。
けんどオラって蛾屋じゃないから、その衝撃度を周りから言われても今イチ実感は湧かなかったんだけどね。
此処は大物のオオトラカミキリやギガンティアもいるカミキリムシ屋の聖地の一つだし、近年ではゴミムシダマシの聖地と言ってもいいだろう。またルリセンチコガネなど糞虫を求めて訪れる人も多い場所だ。蝶屋だって昔はルーミスシジミやオオウラギンヒョウモンを求めて足を運んだ人は相当数いたと思う。そんな虫屋が数多く入ってきた場所にも拘わらず、長い間発見されてこなかったのである。まあ、そこそこ知識のある虫屋なら驚くわな。絶対に、網膜には映った虫屋は何人もいた筈だからね。つまりは、見えてはいるのに見逃してきたのだ。
だから自分の講演の最後には「少しでも変だなと思ったものは採った方がいいっすよ。どんな小さな事でも疑問に思ったことは自分で調べましょう。予断や常識に囚われない事が大事です。そしたら、意外と皆さんの周りでも新たな発見はあるかもしれませんよ。」云々的な事を言って締め括った。

何かさあ、偶然にもさあ、その先駆者である高橋真弓先生を前にしてこんなセリフを喋れてる自分って、超幸せ者だなと思ったよ。会場でコレを堂々と言える特権を有するのは先生とワシだけだと思うと、強い縁を感じたね。コレって、嘘みたいに偶然過ぎやしねえか❓
神様はきっとテキトー過ぎるワシをテキトーに話させないように高橋先生を遣わしたに違いない。今ではそう思ってる。

 
と、カッコつけて、ここで句切りよく「おしまい」としたいところだが、話はもう少し、いやもうそこそこ続く。

そういえば先生は、台湾のキマダラヒカゲについても調べておられ、従来タイワンキマダラヒカゲとワタナベキマダラヒカゲに分けられていたものを1種とし、ワタナベは単なる季節型(註2)だとも看破したんだよね。今度は1種が2種になるのではなく、2種が1種になるというキマダラヒカゲ逆ヴァージョンだね。

 
【タイワンキマダラヒカゲ Neope bremeri 】
(2016.7月 台湾 南投県仁愛郷 alt.1900)

 
う~ん、上翅を上げすぎてんなあ…。
触角は完璧なのにね。まだまだですわ。

 
(裏面)
(2016.7.12 台湾南投県仁愛郷)

 
キマダラヒカゲは日本では何処にでもいる普通種だが、台湾のタイワンキマダラヒカゲは少ない種なのではなかろうか❓
台湾には6月と7月の2度行った事があるが、この蝶にはたったの1回しか出会えていないのだ。その時に訪れた各ポイントの標高は200~3000mに亘るから、この見立ては間違いないと思うんだよね。それぞれ1週間以上は居たしさ。この2回を繋ぎ合わせると、6月中旬から7月下旬になる。発生期としてはド真ん中だと思うんだよね。
台湾にはキマダラヒカゲの仲間は他に明らかに違う別種が3種いるし、ヒカゲチョウの仲間やジャノメチョウ類の種類数は日本よりも遥かに多い。ゆえに食草の競合相手が多すぎるのかなあ…。テキトーに勘で言ってるから間違ってるかもしんないけどさ。まあ何れにせよ、食草を日本ほど独占は出来ないと思う。

珍しい種だと思ったら、途端にカッコ良く見えてくるから不思議だ。いや、違うな。採って見た瞬間には、直ぐに日本のキマダラヒカゲよかカッケーと思った記憶があるぞ。だから、これは後々の印象操作ではないと思う。タイワンキマダラヒカゲは結構カッコいいのだ。

 
最後に講演された大岡啓二氏は全く知らない人かと思いきや、冒頭の自己紹介でアレ?っと思った。面識は無いけれど、お名前は存じている方だったのだ。
まだまだ蝶屋駆け出しだった頃、大岡氏が『みやくに通信』に書かれた「熱帯降雨林における蝶採集法(註3)」と題された文章は何度も読んで参考にさせて戴いたし、ブログ『ジャングルに蝶を求めて!』の海外採集の情報から随分とヒントも得た。特にバンカナオオイナズマとダンフォルディーチャイロフタオの探索に際しては、初動のヒントを貰えたという記憶がある。
それにも増して大岡氏といえば、特異なキマダラルリツバメの発見者として名の通った人だという印象がある。種名は何だったっけ❓ 確か奥さんの名前が付いてたんだよね。

調べてみたら、やっぱそうだった。

 
【Spindasis masaeae マサエキマダラルリツバメ】
(出展『清邁極楽蜻蛉』)

 
(出展『ジャングルに蝶を求めて!』)

  
キマダラルリツバメの仲間の中では異端。一見、異常型に見えるくらいに変わっている。
木村勇之助氏は、図鑑『タイ国の蝶』で、コレに「キッカイキマダラルリツバメ」なる奇っ怪な和名をつけている。まあ、それくらい変なキマルリって事だね。
 
大岡氏によって、1995年の3月にタイ北部チェンマイで2個体が初採集され、2000年4月に関 康夫氏により新種として記載されたものだ。
コレも考えてみれば、きっと目から鱗の発見だったんだろうと思う。まだ蝶採りしてない頃の発見だから、あくまでも想像だけど。

ドイステープ(Doi suthep)はチェンマイの市街地から、かなり近い。中心部からバイクで30分くらいで山の麓まで行ける。上に有名な寺があって観光客も多いからアクセスもいいし、道も良い。そんなワケだから、日本人を含めてかなりの虫屋が訪れている。なのに長年見つかってこなかったのだ。そう云う意味ではマホロバと発見のシチュエーションが似ているかもしれない。つまり、まさかまさかの新発見なのである。つーことは、この会場にはアチキと高橋先生以外に、もう一人同じ立ち位置を経験されてた人がいたんだね。だとしたら、スゴい確率だよなあ…。
大岡さんには怒られるかもしんないけど、神様は更なる一人をアッシの助けに召喚してたんだね。( ̄∇ ̄*)ゞエヘ、どんだけ自分に都合のええ解釈やねん(笑)。

閉会後、真っ直ぐ帰るかどうか迷ったが、結局飲み会にも参加した。
6、7年前だろうか、ヒサマツミドリシジミを京都・杉峠に採りに行った折りに会った若い青年とも再会できた。彼は当時京都在住だったが、その後に名古屋へ居を移したという。とは言っても、彼に言われるまで全然忘れてた。出来事は何とか憶えてはいたものの、顔はのっぺらぼう、おぼろげでしか記憶にない。青年よ、ゴメンね。でも、そんなのはキミに限った事ではない。所詮はニワトリ並みの脳ミソしかない男なのだ。人の事は大概忘れてる。こう云うケースは過去にも多々あるのだ。「どこそこで会いましたよね。」とは、よく言われる。お喋り犬の漫才師の変な人だから、向こうの記憶には残りやすいのかなあ…。

そうだ。あの時の帰りは結構スゴい人に送ってもらったんだよね。
ヒサマツの食樹の発見に関わり、また『楽しい昆虫採集案内』という伝説の採集バイブルの「京都北山」の項を執筆された方に車で出町柳まで送ってもらったのだった。そういえば、オオイチモンジの交尾写真を野外で初めて且つ完璧に撮ったのも自分だと仰って、証拠写真も見せて戴いたっけ…。

飲み会は楽しかった。
知っている人は誰もいないので、名古屋はアウェーなんだけど、全然そういうのは得意というか、物怖じしない。必要以上の気配りは無駄だと思っているのだ。言いたいこと言いまくって、楽しく過ごさせて戴いた。優しき人たちで、良かったー(^o^)

根がミーハーなだけに、最後には高橋先生ともツーショット写真を撮らせて戴いた。

 

 
先生って、柔和で良いお顔をされてるなあ…。
御年80歳だっけ…。まだまだ日本の蝶界には必要な方だから、長生きされてほしいものだ。

 

 
(|| ゜Д゜)ゲッ、それに引きかえアチキの顔が丸い。パンパンやないけー。思ってた以上に太ってんなあ…。
知らんうちに、見た目まで嘗てない程に太っとるわ。今年は夏場でも体重があまり落ちず、ずっと例年よりも5㎏前後オーバーで推移してきてたんだよなあ…。ベスト体重からだと、7㎏オーバーだもんね。
来年は東南アジアに行って、また過酷な旅でもしない限りは戻らんかもなあ…。
そんなことはどうでもよろし。
とにかく東海地区の虫屋の皆様、本当に有り難う御座いました。d=(^o^)=bとても楽しかったです。

                    おしまい

 
追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、他に以前に書いた『月刊むし10月号が我が家にやってきた、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』と云う文章があります。又この文章以後には、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載に2篇書きました。2篇と言っても、マホロバキシタバ発見記『真秀ろばの夏』と題して書いたものの前・後編だけどさ。現時点ではマホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。言い切っちゃうけどね(笑)。

 
(註1)マホロバキシタバ
日本においては、32種目のカトカラ。発見の経緯や生態等については『月刊むし』の10月号に詳しく載っているので、興味のある方はソチラを読まれたし。

(註2)単なる季節型
従来ワタナベキマダラヒカゲと呼ばれていたものは、単なるタイワンキマダラヒカゲの春型、もしくは秋冬型なんだそうな。

(註3)「熱帯降雨林における蝶採集法」
宮国(充義)さんが発行してた蝶のミニコミ誌『みやくに通信』の2012年のNo.195号とNo.196号に前・後編に分けて掲載された。
熱帯ジャングルでの蝶の採集法について、疑問に答える形式で基礎から応用まで細かく書かれている。東南アジアに蝶採りに行く人は必見です。

 

続・アミメキシタバ

 
   『網目男爵物語』

 
網目男爵は孤独だった。
妻には早くに先立たれていて、子供もいなかった。
芦屋の邸宅はいつもひっそりとしており、邸内には男爵と執事の近本しかいなかった。

男爵が再婚しなかったのには理由がある。自分の容貌に自信が無かったのだ。本来の容貌は悪い方ではない、と自分でも思う。中には『端正な顔なのに、勿体ないねぇ。』と言ってくれる人もいる。
しかし、その端正な顔の上に、生まれながらの網目模様の痣(あざ)がある。それが今では男爵にとって大いなる劣等感になっている。
妻と出会った頃は、まだ良かった。人間は見た目ではなく、中身だと信じていたからだ。ゆえに臆することなく自然に振る舞えていた。妻はたぶん、そういうところを気に入ってくれたのだと思う。
しかし、妻が亡くなった後、お見合いの機会があり、その時に相手の女性から『何だか蛇の鱗みたい。』と言われて、心が瞬間的に瓦解した。そこで初めて、改めて自分の容貌の気味悪さに気づいてしまったのだった。
それ以来、男爵は努めて人と極力接触しないように生きてきた。自分の脆弱なガラスのようなコンプレックスに触れられたくはなかったからだ。

そんな男爵にも、唯一の慰み事があった。
それが蛾を蒐集する事だった。皆がチヤホヤする蝶には全く興味は無かった。華やかなものに対する厭世感の投影なのかもしれないと男爵は思う。しかし、同時に男爵は世間に忌み嫌われる蛾の中に、この上もない美を見い出していた。そこには、蝶にはない複雑で変化に富んだ隠微な魅力が在った。控えめでいて、ゆるぎのない美しさを感じたのだった。
ふと、男爵は思う。そういえば妻もそういう人だったのかもしれない。

そんな蛾の中でも、特に男爵のお気に入りのグループがあった。ヤガ科 シタバガ亜科のカトカラ(Catocala属)と呼ばれる蛾たちだった。
シタバガと言うように下羽に特徴があり、普段は上翅に隠された美しい下翅が、時にハッとするような鮮やかさでもって男爵を魅了するのである。黄色、オレンジ、朱色、ピンク、紫、白、紺といった豪華絢爛とも言える色が闇の絵巻のように明滅するのだ。
だから毎年夏になると、度々その美を求めて執事の近本を従えて夜の山へと訪れる。

或る夏の日の出来事だった…。
その日は体調が悪いと言う近本を伴わず、男爵は一人で山に入った。

荘厳な夕焼けが色を失った直後だった。何気に振り返ると、若い女性が立っていた。夕暮れの柔らかい風に、辛子色のワンピースの裾が静かに揺れている。
年齢は20代後半くらいだろうか、ほっそりとしており、どこか嫋(たお)やかな佇まいがある。残光に照らされた横顔は憂いを帯びて美しい。
男爵は一瞬、その姿に魅入られた。しかし、すぐに訝(いぶか)る心が芽生えた。こんな時刻のこんな場所に、なぜ若い女性がいるのだろう❓ 夕焼けを見に来た❓ まさかこんな場所に一人で❓ どうにも違和感が有り過ぎる。
男爵は不安を打ち消すかのように、彼女に声をかけようとした…。

と、ここまで書いて、何やってんだ俺❓と思う。
全ては酔っ払いの為せるわざだ。何となく試しに網目男爵の物語を書き始めたら、気がつけば勝手に筆が動いていた。妄想まで出だしとあらば、病院に行った方がいいかもしれない。オラも網目男爵と同様に、心に深い疵(きず)を負っているのやもしれぬ。

気を取り直して、本来書くべきことに戻ろう。
象は草原に帰り、オランウータンは深い森に帰る。誰しもが本来あるべき場所に戻らなければならない。

 
2019年 7月17日。
奈良でマホロバキシタバの分布調査をしている折りに、アミメキシタバも採れた。
マホロバにしては小さいし、何か変だなと思ってよく見たら、アミメだった。ここにはアミメなんていないと思っていたから、ちょっと驚いた。
7月10日にマホロバを発見して以来、毎日のように此処を訪れている。なのに見ないから、いないと思っていたのだ。それに奈良市にいるなんて聞いたことがない。知っている一番近い産地は生駒山系南部の八尾市。そのすぐ東側の矢田丘陵では、去年足繁く通ったのにも拘わらず一度も見ていない。生駒山地北部の四條畷周辺の山でも見ていない。八尾市に連なる山地に分布しないのならば、そこからそう離れていない奈良でもいないだろうと考えるのが自然な流れでもあった。

 

 
この日は2頭採れたから偶産ではなさそうだ。鮮度が良いことからも此処で発生したものだろう。遠方からの飛来ではないと言い切ってもいい。鮮度もあるし、遠くに移動するならば、もっと遅い時期だろう。

にしても、何か変だ。発生時期としては遅くないか❓ 八尾市では7月上旬辺りから発生しているという。八尾のポイントは詳しくは知らないが、大体の予測はついている。因みに麓にある恩智神社で標高約100m、奈良で採れた所が約110mだ。さして標高は変わらないのにナゼに発生期がそんなにズレるの❓
いや、待てよ。今年は蝶の発生が1週間以上遅れているとも聞く、ならば蛾の発生も遅れているのかもしれない。
まあ1週間程度なら物凄く発生が遅いと云うワケではないから、取り立てて言う程のことではないかもしれない。とにかくマホロバと比べて1週間遅い発生のお陰で助かったと云う思いはある。
もしもマホロバを発見した日にアミメも同時に採れていたなら、気づくのはもっと遅れたかもしれない。例えば、もし最初に採ったものがアミメならば、他も全部アミメだと思い込んでいたに違いない。
否、そんなワケないな。展翅したら同じだ。同じように変だと気づいてた筈。むしろ両者が並んでたら、もっと気づき易いやね。そこに「If」は殆んど無いと言っていい。アミメが居ようが居まいが見つけてたわ。

 
2019年 7月20日。
この日も奈良市で、いくつか採れた。
これで偶産ではないことは決定的と言えよう。アミメはここで間違いなく発生している。そう断言してもいい。

 

 
ポイントは前とは違う場所だ。つまり、この山系には広範囲に居る可能性が高いと推測される。

では、ここではアミメの幼虫は何を食樹としているのだろう❓
アミメキシタバの幼虫の食樹の項を見ると、大概のものには「アラカシ、クヌギなど」、もしくは「アラカシ、クヌギ、アベマキなど」と書いてある。「など」が無いのは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の「これまで幼虫はアラカシ及びクヌギで得られている」という記述くらいだ。
この「など」って、何なのだ❓ その「など」については何ら言及されてはいない。何を指して「など」なんぞと書かれてあるのだ❓ ワカラン。それってみんな、孫引きなんじゃありゃしませんか(# ̄З ̄)

この地域の植物相は、中央に古い照葉樹林があり、それを囲むようにしてクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹を主体とした雑木林が広がっている。あっ、ワシも早々と「など」を使ってしまったなりよ。コレは説明しなくとも解るとは思うけど、特定の樹種のことを言いたいワケではなくて、単に落葉広葉樹が多い植物相だって事を示したいだけだす。

調べたら、この地域には一応、以下のようなブナ科植物があった。

アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、シリブカガシ、アカガシ、ツブラジイ、スダジイ、シラカシ、クヌギ、コナラ、アベマキ。
他にツイッターにマテバシイというのもあったが、見たことも聞いたこともないし、疑わしいところがある。どちらにせよ、有ったとしても少ないだろうから、メインの食樹としては除外してもよいだろう。

有望じゃないかと思ったウバメガシは、小太郎くんを始め、色んな人に尋ねたみたが、此処には自生する木は殆んど無いそうだ。あるとしたら、民家の生け垣なんかに使われているものくらいとの事。と云うことは、ウバメガシの可能性は除外せざるおえない。

スダジイは多く見られるが、こちらは元々海岸沿いに自生するもので、おそらく植栽されたものだろう。利用している可能性は無いことはないが、元々の食樹ではなかろう。

シラカシは近年街路樹等を中心に植栽される事が多く、家の近所でもよく見かける。だが、これも本来は関東周辺から東に自生するもので、元々西の地域には少ないものだ。除外しよう。

シリブカガシは北部に纏まって自生しており、ムラサキツバメの食樹にもなっている。しかし、他ではそんなにあるようには思えない。可能性はあるが、印象的には無いと思う。シリブカガシもあまりポピュラーな木じゃない。

ツブラジイ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシは結構自生しているそうだ。これも利用している可能性はあるかもしれない。しかし、何れもカトカラの食樹として記録された例が無い。予断は禁物だが、主たる食樹ではないだろう。

残るはイチイガシ、アラカシ、クヌギ、コナラである。
イチイガシは利用している可能性はある。しかし、この木は、そうどこにでもある木ではない。アミメキシタバの他の分布域で見られることは少ないだろう。ゆえにこれも主食樹からは除外してもよさそうだ。

コナラは何処にでもあるが、今までアミメの食樹としては記録されていない。何処にでもあると云うことは、コナラで幼虫を探した人はそれなりにいた筈だ。にも拘わらず発見されていないと云うことは、外してもいいだろう。

逆にアベマキはあまり見ない。利用しているのだろうが、コレまた主要な食樹ではないとみる。

残ったのは二つ。アラカシとクヌギだ。
どちらも地域内には有り、食樹としても記録されてもいる。だが、クヌギは意外と少ない。コナラの方が多いように思う。
たぶん、クヌギは二次的利用で、多くはアラカシを利用しているものと思われる。
何か印象でばっか言ってて、あまり科学的な検証とは言えまいが、おそらく合っているのではないかと思う。

でもなあ…、クヌギは北海道には自生していないから、アミメは分布していないとは知っているけれども、アラカシの分布はどうなんだろ❓
しゃあない、調べてみっか。

Wikipediaによると、クヌギは日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布し、アラカシの北限は宮城-石川とあった。
アミメの分布図を見ると、大体それと合致する。

 
(出典『世界のカトカラ』)

 
(出典『日本のCatocala』)

 
より踏み込んで言えば、アラカシとアミメの分布の方が、より重なっているように思える。
勝手に解釈すると、やはり幼虫はアラカシを主食樹としており、二次的にクヌギを利用しているのではないかと思う。

あっ、思い出した。
そういえば、今年はナマリキシタバを探しに兵庫県の武田尾渓谷に行った時もアミメを採ったなあ…。あそこも全体的にアラカシが多いもんなあ。よし、アラカシで決まりだーいd=(^o^)=b

でもアラカシって、何処にでもあるんだよなあ…。
その割りにはアミメの分布は局所的とされる。
( ´△`)うわ~、何かメンドクセー。また、変なところに首突っ込んじゃったよ。
よし、こうしよう。アミメはアラカシが沢山ある所には大概いる。でも単に探してる人が少ないだけで見つかっていないだけだ。そういう事にしちまおう。
ガ好きはチョウ好きと比べて圧倒的に少ない。人気者のカトカラと言えども、愛好者の数はたかが知れている。分布調査が進んどらんのだろう。

シャンシャンで、これでクローズできたかと思った。
けんど、この後で西尾規孝氏の『日本のCatocala』の中に、こんな記述を見つけてしまった。

「(食樹は)アラカシ、クヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラなどでコナラ属全般を食餌植物としているとみられる」

(ФωФ)ニャーゴー、また1からやり直しだ。
ウバメガシも食樹としているというならば、やはりオイラの予想は的中だね。それは嬉しい。しかし、コナラというのが気にかかる。また、ややこしいのが出て来ましたなあ…。
クソッ、コナラの分布も確認しまんがな。

コナラは北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するとある。北海道にも有るんだね。と云うことは、もしアミメの主要食樹なら、もっと北に分布を拡大しててもおかしくない筈だ。いや、アミメは南方系の種だから無理か…。けど、分布を拡大してるとかって何かに書いてなかったっけ?
しかし、コナラは無いな。コナラが主要食樹ならば、もっと普通種であってもいい筈だ。そうゆう事にしておこう。

それはさておき、何でこの『日本のCatocala』にだけウバメガシとコナラが食樹に入れられてんだ❓
他の図鑑等の文献には出てこんぞ。この図鑑は自費出版で刷数が少なく、値段も8万円くらいと高価だから読んだ人があまりいなくて孫引きされてないだけ❓
にしても、ウバメガシ、コナラというのは、どこからの情報なのだろう?著者御自身で確認されたのだろうか?またそれは自然状態での事なのか、飼育実験での事なのか、どっちなのだ?気になるところではある。

それはそうと、やっぱりここでも「……、ウバメガシ、コナラなど」と「など」が出てくる。「など」の中身は何やねん❓他にもあるのか❓アカガシか❓、それともウラジロガシかあ❓

えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、アカガシもウラジロガシも分布を調べたろやないけー❗
とはいえ、だいたいの想像はつく。アカガシはゼフィルス(蝶=シジミチョウの1グループ)のキリシマミドリシジミ、ウラジロガシはヒサマツミドリシジミの主要な食樹だ。
ヒサマツの分布が神奈川県丹沢山系と新潟県の糸魚川辺りが東限とか北限ではなかったかと思う。キリシマは太平洋側が伊豆半島以西(丹沢かも)、北限はどこだっけ?新潟とか石川なんかにはいなかった筈だ。となると滋賀県か?いや、島根県の隠岐の島❓何かどうでもよくなってきたぞ。とにかくキリシマもヒサマツも本州の西側が分布の中心だ。
Wikipediaによれば、アカガシの北限は本州の宮城県・新潟県以西、ウラジロガシは本州の宮城県・新潟県以南とあった。同じってことだ。蝶よか、もっと北まで自生しているんだね。ヒサマツ、キリシマの分布とは微妙に異なり、ピッタリ一致はしないってワケだな。むしろアミメの分布と重なっているような気がする。
(◎-◎;)何か頭がこんがらがってきたぞ。ちょっと頭の中を整理しよう。
ヒサマツもキリシマミドリも奈良市、六甲山地には分布していない。でも、どちらの地域にもアカガシ、ウラジロガシ共に自生しているようだ。つまり、ヒサマツもキリシマも分布は局所的であり、食樹以外の条件も整わないと棲息できない特殊な蝶と言えよう。だから、この際ヒサマツもキリシマも頭から除外しよう。こんなもんと絡めてしまうから、ややこしくなるのだ。
と言いつつ、ここでまた蝶を持ってくる。しかも特殊な蝶であるルーミスシジミだ。奈良のこの森は、絶滅してしまって久しいが、かつてはルーミスの多産地であった。ルーミスの食樹といえば、イチイガシとウラジロガシである。しかし、どちらも自生する場所が少ない。ゆえにルーミスは分布が極限されると言われている。けれど、此処には両者とも沢山自生する(因みに、ルーミスがアカガシに産卵した例やアラカシより幼虫が得られたという報告もある)。
ここから強引に結論に持ってゆく。つまり、アミメキシタバは此処ではイチイガシもウラジロガシも食樹として利用している。アカガシ、アラカシ、クヌギ、コナラも食っている。六甲のものは、アラカシ、クヌギ、コナラ、ウバメガシ、アカガシを食樹として利用している。それで、もういいじゃないか。

そういう観点で冷静に見ると、この『日本のCatocala』の中の「など」は、少し他の「など」とは使い方のニュアンスが違うような気がする。後に続く言葉「コナラ属全般を食餌植物としているとみられる」と関連づけた「など」であれば理解できる。ようするに、コナラ属なら何でも食うという前提のもとでの「など」ならば、文章として辻褄が合ってると解釈できるって事だね。

それを確認するために、もう一度文章を読み直すと、その後ろに更なる文言が付け加えられている事に気づいた。
そこには「本来の食樹は成虫の分布から、カシ類、アベマキとみられる。」と続けられていたのだ。
Σ(T▽T;)ワキャー、マジ最悪の展開になってきた。
実をいうと、この食樹のくだり、あとがきも含めた全体の文章の最後に書いている。ここを書き終えさえすれば、フイニッシュだったのだ。サクッと終わらせるつもりが、何なんだ❓、この泥濘(ぬかるみ)ノタ打ち具合は❓

カシ類ってのは、あまりにザックリだし、ここへきてアベマキとは驚きだよ。
カシ類の何なんすか❓特定して下さいよ。
アベマキ❓何でクヌギではなくてアベマキなのだ❓
(# ̄З ̄)もー、アベマキについても調べなくてはならぬよ。

日本、中国、台湾、朝鮮半島に多く自生している。日本では、関東地方から四国・九州の山地に自生し、西日本では雑木林に普通にみられる。

普通に見られる❓
そうだっけ?関西ではクヌギの方が多いイメージがあるんだけど…。気になるので更に調べてゆくと、驚くべき事実が解ってきた。
関西ではアベマキと云う言葉はあまり聞かないし、名前さえ知らない人が多いと思うけど、アベマキは関西ではクヌギよりも多く自生している木らしい。ネットの素人っぽい方の情報だから鵜呑みは禁物だけどさ。

クヌギとアベマキはとても似ていて、混同されやすい。たぶん小さい時から、周りの大人にカブトムシが集まる木はクヌギだと教えられてきたので、それらしきものは全部クヌギだと脳が判断するように出来てしまっているのだろう。確かに自分の頭の中では、クヌギもアベマキもコナラもゴッチャになっている。区別せよと言われれば、一応蝶屋だから区別できるが、樹液が出てる木なら何だっていいと云う見方しかいていないのだ。これは自分が蝶の飼育をしないからだろう。木を何かの食樹としては、あまり見ていないのだ。だから特別な場合を除き、普段は似たような木を厳密的に区別する必要性を感じていないのである。

一応、クヌギとアベマキの違いを書いておこう。
ネットに『Quercusのブログ』という優れたブログがあったので、その解説をお借りしよう。

①クヌギの葉裏は無毛で緑色。アベマキは星状毛が密生し、白っぽい。また、アベマキの葉はクヌギよりもやや幅広である。

②クヌギの樹皮は灰褐色で、指で押しても硬い。アベマキの樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、コルク層が発達し、指で押すと弾力がある。

③どんぐりはクヌギは球形、アベマキは楕円形であることが多い。アベマキのどんぐりはクヌギよりも色が濃く、殻斗の鱗片は長い。どんぐりはクヌギの方が大きい。

解り易い説明だね。

自分的には、アベマキはクヌギよりも樹皮がゴツゴツしている事。葉がクヌギは細長く、アベマキはそれに比べて幅広な事。アベマキはクヌギよりも樹高が高く、大木が多いって感じで区別している。

このサイトには、他にも重要なことが書いてあった。

「クヌギ、アベマキの国内での分布は以下の通り。
クヌギ:岩手県・山形県以南~屋久島・種子島。沖縄県まで植栽。(クヌギは薪炭材を得る目的で植栽されたものも多く、自然分布ははっきりしない)
アベマキ:山形県・長野県・静岡県以西(紀伊半島を除く)~九州。
両者はすみわけをしており、東日本にクヌギ、静岡県(大井川流域以西)・石川県より西がアベマキの林になる。
大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所があるという。
また、紀伊半島にアベマキは自生しないらしい。
このように、アベマキは特異的な分布をしている。」

大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所というのは、よく解る。だから、あまりアベマキのイメージが強くないのかもしれない。知らなかったが、紀伊半島にアベマキは自生しないと云うのもアベマキの印象を薄くしているのだろう。
アミメキシタバって、紀伊半島にはバリバリいるよなあ…。って事は、紀伊半島のアミメの食樹は別に有るって事だね。やはり一番利用されているのはアラカシ、もしくはウバメガシなんでねーの。

続きを読もう。
「また、クヌギは朝鮮半島からの移入種であり、日本にあるものは全て植栽されたものという説もある。
中国では標高600~1500mにアベマキ、標高900~2200mにクヌギが生育しているという。
私の推測の域だが、元々日本にはクヌギはなく、暖地性のアベマキが分布しない地域(静岡県・石川県以東)に薪炭材を得る目的でクヌギを植林し、現在のようなすみわけになったのかもしれない。」

クヌギは昔の里山では薪や炭として利用価値が大きく、植栽が進んだとは知っていたが、完全な移入種とする説があるとは知らなかった。
もしそうならば、クヌギはアミメの本来の食樹ではないと云う事になる。となると、西尾氏のアベマキを本来の食樹の1つとする言は慧眼かもしれない。
しかし、やはり生息環境からみれば、基本的な食樹は常緑カシ類だろう。アラカシを中心に常緑カシ類、特にコナラ属ならば何でも食うのだろう。で、二次的に落葉性のコナラ属も利用している。そうゆう事にしておこう。もう、ウンザリなのだ(ノ-_-)ノ~┻━┻
でも、そうなると、カシワ、ナラガシワ、ミズナラも利用しているの❓
(-“”-;)もう、やめとこ。

 
2019年 7月21日。
去年に引き続き、クロシオキシタバ狙いで六甲方面へ行った。

夕方前、木に静止しているアミメを見つけてゲット。

 

 
静止位置は目線のやや上、上下逆さまてはなく、頭を上向きにして止まっていた。
カトカラたちは、昼には頭を下にして逆さまに止まっているが、夜は普通に頭を上にして止まっている。
では、いつ逆さま止まりから上向き止まりになるのだろう❓ そもそも、何故に昼間は逆さまに止まるのだ❓しかも昼間に驚いて飛んだ場合、上向きに着地して一旦静止。暫くしてから、また逆さまになるという。ワザワザもう1回逆さまになると云うことは、そこには何らかの意味があるということだ。
でも、考えても意味も必要性も全くワカラーン。
この逆さまになる理由については、誰も何処にも言及していないと思う。誰か、解りやすく説明してくれんかのぅー( ̄З ̄)

夜になって、シッチャカメッチャカになったけど、それなりの数のアミメを確保できた。その辺の顛末は、前回の『網目男爵』、前々回の『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』に詳しく書いたので、ソチラを読んで下され。

何度も使っている写真だが、この日採ったものの一部を貼付しておく。

 
【Catocala hyperconnexa アミメキシタバ♂】 

 
【同♀】

 
【同裏面】

 
それなりに採った筈なのに、画像があまり無い。
おそらく面倒臭いので、展翅はしていても写真には撮っていないのだろう。やっぱりアミメキシタバに対しての愛が少ないのかなあ❓

 
                    おしまい

 
追伸
いやはや、冒頭部がまさかの小説風の入りになろうとは自分でも予想外の展開だった。
網目男爵とカトカラを引っ付けた話だなんて、メチャメチャ過ぎて最初から無理だと思っていた。しかし、アルコールの力、恐るべしである。突然、何かが降りてきて、一気に書いた。
翌日に、誤字脱字「てにをは」句読点は一部修正したものの、あとは全文ほぼその時のままである。
また何かが降りてきてくれたら、続きを書けるかもしれない。まあ、どうせ泥酔酒バカ男と化すだけで、そんな都合よくいく事なんて有り得ないと思うけど(笑)。

今回は、かなり短くなると思ってた。それゆえの網目男爵の冒頭文の発想も出てきた。相当短いツマンナイ回になると思ったから、潜在意識の中に何かしらアクセントをつけようという考えがあったのかもしれない。駄文製造家にも、少しでも面白くしようと云うそれなりの気づかいがあるのだ。結局、最後に食樹のところで躓いて、又しても長文になっちゃったけどね。

次回は、やっと書きたかったカトカラについて書ける。謂わば、ソレとアレの2種類についての採集記が書きたくて、この『2018’カトカラ元年』のシリーズを始めたのである。
でも、思った以上に書くのは大変で、始めた事を後悔している。ソレとアレの事だけを書いときゃよかったのに、下手に完璧主義的なところがあって、前後時系列の中での、その文章であって欲しい。そういう無意識下の願望があったのかもしれない。謂わば、ソレとアレを書くために今まで駄文を重ねて来たのだ。
(-“”-;)しまった…。自分でハードルを上げてどうする。
けど、次回取り上げるカトカラも一年半近く前の話だもんなあ…。結構色んなことを忘れてるかもしんない。気合いだけ空回りして、ドツボの回になったりしてさ。
クソッ、いっそ全文小説風、しかも純文学風で押し通してやろうかしら( ̄∇ ̄*)

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット
・『ギャラリーカトカラ全集』インターネット 
・『兵庫県カトカラ図鑑』阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人 きべりはむし
・『Quercusのブログ』インターネット

 

続・カバフキシタバ(後編)

 

『リビドー全開❗逆襲のモラセス』後編

  
2019年 7月4日。

当初は奈良にリベンジしに行く予定だったが、急遽方針を転換して六甲へ。
勘ではあるが、天気予報も含めて考えた結果だ。
予定は未定であって、しばしば変更。虫採りは常にフレキシブルでなくてはならない。特に天候に関してはビビットであるべきだと思う。

今日は下見の時とは違う別ルートを探すも、やっぱり幼虫の食樹であるカマツカの木は見つけられなかった。近くにカバフの記録はあるが、ホンマに此処におるんかいのお❓ このままの流れだと、再び辛酸ナメ子さんになりかねない。見えないけど、恐怖を好物とする性格の悪い小人くんたちが、傍らでクスクス笑いをしてそうだ。テメエら(=`ェ´=)、人の人生に悪さすんじゃねえぞ。

夜がやってきた。
暗い山道を黙々と登る。夜になってもクソ暑い。瞬く間にTシャツが汗でビッチャビチャになる。

午後7時半。
ようやく樹液ポイントに到着した。さあ、今日こそカバフを手ゴメにしてやろう。

が、(◎-◎;)ゲロゲロー。
あろうことか、半月程前にあれほどカトカラが乱舞していたコナラの木の樹液が止まっていた。
(・_・)……。見事なまでに何もいない。嘘でしょ❗❓
三連敗という現実が目の前にグッと迫ってくる。

暫く様子を見てみたが、やっぱ何も飛んで来ーん。
( ̄ロ ̄lll)まさかである。これってさあ、世間的に言うところの、見事に思惑が外れるってヤツだよね…。惨敗の予感は益々濃厚となる。
だが、備え有れば愁いなし。昼間、用心のために別な場所で新たな樹液ポイントを見つけておいた。オデ、だいたいアホだけど、たま~に賢いのである。
僅かな期待を抱き締めて、そちらへと移動する。

Σ(◎-◎;)アキャア━━━。マジかよ❗❓
けんど、糖蜜を吹き掛けるための霧吹きが一回使用しただけで、早々と詰まった。やること為(な)すこと上手くいかない。再び暗雲が垂れ込める。惨敗の予感、ダダ黒モジャモジャだ。

コシュコシュ、コシュコシュ。コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュー…、(ノ-_-)ノ~┻━┻ ダアーッ❗何度やっても霧吹きから何も出てこん(#`皿´)❗
気が短い男ゆえ、ダンダンダーン(*`Д´)ノ❗、思わず破壊の衝動に駆られる。
(; ̄ー ̄A 落ち着け~、(; ̄ー ̄A 落ち着け~、俺。

🎵( ̄ー ̄)落ち着いたあ~、お~れ~。
と云うワケで、わりかし簡単に冷静になったワタクシは、一旦アタマの部分を取り外し(ワシの頭やないでぇ~、霧吹きでっせー)、管も抜いてお茶をブッかけてみた。
でもって、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~。魔法の愛撫をしてやる。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんか、Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんかあ~。

装着しなおして、再度シュコシュコやってみる。
暫くやってたら、ピュッ💦と出た。
❤あっはあ~ん。💕うっふ~ん。とれびあ~ん。
<(`^´)>ふっか~つ❗❗オイラ、🎵\(^o^)/てくにしゃあ~ん。
ぬははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、エロ男の超絶テクニックをナメんなよである。リビドー全開だぜ❗
これで思う存分、ブッカケてやれる。その辺の木を、まみれまみれのヌチョヌチョのネチャネチャにしまくってやらあ。男のリビドー、💥爆発じゃーい❗

だが寄ってくるのは糞キシタバのパタラ(C. patala)とチョコチョコ歩き回る糞ヤガのみ。この歩き回るところが💢癇(かん)に障る。イラッときて、石を投げつけたくなる。
名前はたぶんカラスヨトウって奴だ。ヨトウというのは漢字で書くと「夜盗」らしい。だから泥棒みたく歩き回るのか?、(=`ェ´=)小癪なっ。もしも携帯用殺人レーザービームとかがあったら、1匹1匹ピンポイントで八つ裂きにしてくれるのに(-_-)
人間、焦りが募ると心が荒れてくる。きっと闇の中の今の顔は、焦燥がベットリと貼り付いた醜い顔になっているに違いない。

午後8時26分。
樹液に何やら他とは違うカトカラが飛来していた。
でも結構高い位置だし、角度的にも真横に近くてよく見えない。おまけに手前の葉っぱが邪魔で下側が見えづらい。下翅を僅かに開いていそうだが、それも確認できない。持ってる懐中電灯が100均で買ったモノだから、光量が弱いというのも相俟って(註1)、兎に角よくワッカラーン。
でも消去法でいくと、マメキシタバにしては大きいし、パタラにしては小さい。アサマキシタバやフシキキシタバは季節的にもう終わっているし、ウスイロキシタバもそうだろう。ワモンキシタバも関西では終わりかけの時期だ。見たところ鮮度は良さそうだから、コヤツらも除外していいだろう。反対にアミメキシタバやクロシオキシタバには時期的にまだ早い。となると、残るはカバフキシタバとコガタキシタバしかいない。大きさ的にもそれくらいだ。でもコガタキシタバは最近ちょくちょく見ているから、雰囲気的に違うような気がする。ということはカバフ❓だよね❓
けど、そもそもカトカラじゃないと云う可能性もあるなあ…。上翅の見た目は似てるけど、下翅に色鮮やかさが無い糞ヤガの一種かもしれない。ヤガ科全般の知識がないから、それも充分有り得る。採ってはみたものの、下翅がドドメま○こ色でしたーという残念なパターンは往々にしてある事なのだ。

まあここでグダグダ考えていても埒が開かない。
取り敢えず採ってみっか。4m竿をするすると伸ばす。
それなりに緊張感はあるものの、それは通常のもので、過度な緊張感は無い。どうせ糞ヤガだろうという気持ちが心のどこかに有るからだ。きっと連敗で打ちひしがれていて、マイナス思考になっているのだ。糠喜びで、更なる落ち込み簾(すだれ)男になるのは避けたいという深層心理が無意識に働いてるんだろね。

高さを慎重に合わせて、💥叩く。
飛んで逃げた形跡はないから、たぶん網に入った筈だ。竿をすぼめて、中を覗く。

あらま(@ ̄□ ̄@;)❗、カバフやんかあ。
急に緊張感が高まる。今度は何があっても逃すワケにはいかない。もし又やらかしたら、その場で首カッ切って息絶えねばならぬ。慎重に慎重を期して、毒ビンに取り込んだ。

 

 
とはいえ、思っていた程の高揚感はない。何か拍子抜けした感じだ。奈良と京都の惨敗があったから、次の出会いはもっとドラマチックな展開を想像してたからだろう。背水の陣での戦いを覚悟していたのだ。それがまさかのシチュエーション曖昧の棚ボタ的だったから、どこかガッカリ感は否めない。虫採りにロマンとドラマ性を求める者としては、肩スカシを喰らったような気分だ。
それに背中の毛が落武者禿げチョロケになっているのに、途中で気づいちゃったと云うのもあるかもしれない。憧れていた美人さんが実をいうと円形脱毛症だった…。なんて事は万に一つも無いことだろうから、喩えとしては無理があるとは思うけど、そんな感じだ。

 

 

 
そんなに暴れてなかったし、取り込みも早かったのになあ…。何でやのん…❓

でも1頭いるということは複数いる可能性が高い。気を取り直して、糖蜜を集中的に撒いた場所へと移る。

(@ ̄□ ̄@;)あっ❗こっちにもおった。
今度は糖蜜トラップに来てるから、目の高さだ。
楽勝じゃん。テンション⤴上がるうーっ(о´∀`о)
しかし、ネットを構えかけてやめた。この高さだと毒ビンを直接かぶせる事ができる。ならば暴れる時間も短い。さすれば落武者化も防げる可能性が高い。そう踏んだのさ。

ヘッドライト、スイッチ・オーン。
準備万端。毒ビンを持ち、そっと近づく。
幸い、夢中で甘汁を吸っている。油断しているスキに背後からガバッじゃ❗でもって、カクカクカクカク…、手ゴメにしたるぅー(=`ェ´=)

だが、カブしたが紙一重。すんでのところで飛んだ❗
あちゃーΣ(×_×;)、また失敗かよう。俺、この毒ビンを被せるやり方って苦手なんだよネー。いつも、すんでのところで逃げられる。慣れてないから、下手に緊張感とか殺気が出ちゃうんだろなあ。蝶を手で採るのは得意なのになあ…。心を無にするには、対象に対して、それなりの経験値が必要だ。蝶には慣れていても、カトカラに対しての慣れはない。もう少し時間が必要そうだ。

逃したが、飛び方はパタパタ飛びだから目で追える。懐中電灯を拾って、あとを追う。
普段、カトカラはビュンビュン飛びで、かなり飛翔速度が高い。夜空を飛んでいる時などはスズメガの仲間かと見紛うばかりだ。しかし、なぜか樹液や花に飛来する時や、そこを飛び去る時はパタパタ飛びで遅い。ホバリングや方向転換が下手で、なんか鈍クサイ飛び方なのだ。急発進できないというか、トップスピードになるのに時間がかかり、急にスピードを落とす事も出来ないのだろう。
原因は体が重いのかな?とも思ったが、それほど特別に胴体がデカイわけではないのにナゼ❓胴体はスズメガの仲間とさして変わらんぞ。いや、寧ろスズメガよか細いくらいだ。はて…、何でやろ❓
もしかしたら、翅の形と厚さが関係しているのかも…。種類にもよるが、スズメガの方が上翅がより横に長くて、下翅がコンパクトだ。翅も分厚い。その辺に答えがあるのかもしれない。

目で追っていると、10mほど飛んで木の幹に止まった。
今度もわりと低い位置だ。毒ビンを被せる事も出来よう。しかし、位置をシッカリと確認してから網を取りに戻る。毒ビンで採る自信が無かったのだ。今度またハズせば、せっかく気分が乗りかけてたのに再び暗黒ビチャグチョの精神世界に沈みかねない。もうこれ以上、カタルシスが無い日々が続くのは辛いのだ。虫は採れてこそ、面白い。

幹を💥ブッ叩き、なんなくゲット。
しかし、又もや禿げチョロケ。まあ、いいや。採れないよかマシだろ。仕方なく、裏面写真を撮ることにする。

 

 
カバフは、裏も微妙にいいねぇ。
それを三角紙におさめてる時に、またカバフが糖蜜に飛んで来るのが視界に入った。

 

 
今度は、もっとハゲ~(ToT)
これは裏展翅ゆきだろなあ…。

その後も立て続けに飛んできた。
カトカラ国内No.1の稀種であるカバフキシタバを怒濤の20分間で3♂1♀ゲット❗❗
相変わらず無傷の背中フサフサさんは採れてないが、気分は悪かない。カバフの1日最高ゲット数のレコードをも射程内なんじゃないの~(^o^)v

と思ったけど、それでピタッと止まった。その後、11時前くらいまで粘るも飛来なし。
まあ、一日で複数採るのも難しいとされる稀種がこれだけ採れれば、いいだろ。
ところで、1日最高ゲット数っていくつなのだ❓ 最高ゲット数のレコードも射程内とか言っといて、知らんのだ。所詮は何も考えとらんテキトー男の、テキトー発言なのだ(笑)

 
一応、展翅画像も貼付しておこう。

 
【カバフキシタバ ♂】

 
無惨なハゲ度合いだが、カバフは美しい。
カバフキシタバの特徴と云えば、その特異な上翅のデザインだが、下翅も個性的だ。他のキシタバ類に比して下翅が明るい黄色で、しかもその領域が広い。珍しくて個性的で、しかも美しいとあらば、特別な存在とされるのも理解できる。

 
【カバフキシタバ ♀】

 
何か黄色の色が違うような気がするので、撮り直す。

 

 
( ̄~ ̄;)ん~っ、今イチ再現できてないが、まっいっか…。
 
雌雄の見分け方は、♀の方が♂よりも大きく、翅は全体的に丸みがある。また♀は腹部が太くて短く、先っちょの毛束の量も少ない。

 

 
裏展翅もした。
でも酷い写真だな。

 
【裏面】

 
裏面は他のキシタバ類と比べて劇的に違うワケではない。全体的に黄色みが強くて白っぽいところがあまりなく、領域も広い印象がある。但し、一つ一つ仔細に見たワケではない。同定するにあたって、裏を見る必要性がないし、特異とまで言える程の斬新性はないからである。

 
7月5日。

そこそこ満足したとはいえ、やはり落武者ハゲちょろけじゃない完品が欲しい。
と云うワケで、翌日も六甲に出掛けた。

午後8時17分。
最初の1頭が糖蜜に飛んできた。
その後、立て続けに4頭飛来。何れも糖蜜に寄ってきた。京都で採った最初の1頭も飛んできたのは8時半くらいだったし、どうやらカバフは日没直後には飛んで来ないようだ。基本的には8時を過ぎないと現れないと思われる(註2)。

15分程で一旦飛来が止まり、午後9時過ぎに1頭追加。その後、午後9時50分に1頭、10時15分に1頭が飛来して終了。

 


 

 
Ψ( ̄∇ ̄)Ψふはははは…、糖蜜、樹液に完勝❗
周囲には樹液が出ている木が計3本あるが、今日は樹液には1頭も来ず、7頭全てが糖蜜に寄ってきた。オラの作ったモラセス(糖蜜)ってスゴくねっ❓

レシピはテキトー&且つ複雑過ぎて正確なところは、教えたくともお教えできない。だから、たぶん二度と同じものは作れないだろう。
ベースはカルピス➕麦焼酎。そこに酸味として酢を足し、バヤリースオレンジジュースを加えた。しかし、今一つ匂わない。そこに飲み残しのビールを足したが、やっぱ今一つ。もうヤケクソでバナナを皮ごとグジャグジャにして入れてみた。焼酎も増量。これで香りにエッジが立った。イガちゃんスペシャルモラセスの誕生である。
もし真似するなら、ちゃんと濾してから使いましょうね。ワシみたいにエエ加減に作ると、霧吹きが詰まりもうすぞ。

流石に7頭も採れば、落武者じゃないのも採れる。

 

 
仔細に見たら、ナゼにこんなにも禿げチョロケになるのかが、概(おおむ)ね解ってきた。どうやらカバフちゃんの背中の真ん中の毛が元々薄いようなんである。毛が短くて、他と比べてフサフサ度が低いと思うんだよね。だから、すぐ円形脱毛症みたくなるんじゃないのかなあ…。

比較のために、参考として他のキシタバの画像を貼付しておきませう。

 

 
上がアサマキシタバ、下がコガタキシタバである。
毛が長いのが、お解り戴けるかと思う。
たぶん、普通のキシタバやフシキキシタバなんかも長い方だと思われる。
反対に短いタイプは他にもいるかもしれない。ムラサキシタバなんかも禿げちょろけ易いので、短いのかもなあ…。沢山採ったワケではないので、全然言い切れませんけど…。
或いは毛が長いタイプと短いタイプの2系統に分かれるとかないんだろうか❓
でも書いてて、段々自信が無くなってきた。所詮は印象で言っているだけの事で、数多くの個体を検証したワケではない。それに野外品ではジャッジメントの線引きが難しい。検証には不向きだ。こう云うのは、厳密的には各種を飼育、羽化させて比較してこそ、検証可能なものだろう。だから、この件に関しては半分以上は戯れ言として聞き流して戴けると有り難い。
但し、カバフに関してだけは、そこそこ当てはまってると思うんだけどなあ…。

今回も、展翅した画像を貼っておきます。
但し、便宜的に適当に選んだ写真なので、採集日は違うかもしれないです。

 

 
この時期は触角を自然な感じにするのが、マイ・トレンドだったんだろうなあ…。来年は真っ直ぐにしよっと。

 
7月6日

今日こそ、奈良でカバフをシバく予定だった。
しかし天気予報を見ると、生憎(あいにく)そっち方面の天気は思わしくない。どうやら、にわか雨があるようなのだ。雨はヨロシクない。網が濡れて、取り込む時に翅の鱗粉が剥がれてしまい、ボロ化しやすいのだ。当然、背中の毛も禿げ易いだろう。
それで急遽、昨日、一昨日のポイントにチェンジした。まさかの三連続出勤である。
また、7頭のうちの2頭は♀だと思ったのに、全部♂だったというのもある。これでは10♂1♀じゃないか。蝶や蛾は基本的に同柄ならば、♀の方が圧倒的に魅力があるのだ。♀、ぽちぃ~。

カバフは8時を過ぎないと飛来しないことが解ってきたので、今日は出発を30分ほど遅らせた。
今日もまた、エッチらオイラ…、じゃなくてエッチラオッチラと駅から長い坂道を歩く。

午後7時半、ポイントへと向かう入口に到着。
でも三日目ともなれば落ち着いたもんだ。念入りに全身に虫避けスプレーを散布して、毒瓶二つを両ポケットに捩じ込む。ヘッドライトを装着後、左手に捕虫網と懐中電灯、右手には糖蜜入りの霧吹きを持って夜の山へと入る。

寄って来たがる木にも好みがあるようで、昨日、一昨日を踏まえて、実績のある木を中心に8ヶ所に糖蜜を吹き付けた。辺りに、甘い香りが立ち込める。

2日間で11頭得ているので、気持ちは楽だ。
しかし、不安が全くないワケではない。虫採りに油断は禁物。常に予断は許せぬものなのだ。2日間でそこそこの数を得たからといって、翌日にまた同じように採れるという保証はどこにも無いのである。条件は変わらないのに、なぜだか1頭も採れない、姿さえ見ないということは往々にしてある事なのだ。況(ま)してや珍品で、個体数が少ないと言われているカバフキシタバである。この2日間で採り尽くした可能性も無いワケじゃない。
でも、♀は一つしか採れてないから、これからは♀の時期になってゆく可能性も無きにしも非ずとも考えられる。まだチャンスはある筈だ。

夕焼け空が次第に色を失い、群青色からやがて漆黒の闇へと移りゆく様は、いつ見ても飽きない。このカトカラを待つあいだの時間は、毎回特別な時の流れの中にあると思う。美しい風景と期待や不安が混じった感情が、不思議な感覚を一時(いっとき)与えてくれるのだ。マジックアワーとでも呼びたくなる素敵な時間だ。
少しニュアンスは違うが、これは昼間の蝶採りの時でも基本は同じだ。中学生がデート相手の女の子を待つみたいな気分なのだ。そこには期待と不安、ワクワクとドキドキ、胸を締め付けるようなものがある。
大人になると、そんな心持ちになれる事は滅多に無くなる。この歳になっても、そのワクワクを味わえるのは幸せなことだ。だから、蝶採りにハマったのかもしれない。
但し、待ち人きたらずで、心がズタズタになる事も多いんだけどね。

午後8時過ぎ。
早くも樹液に来ているカバフを発見。今日は飛来が早い。
でも矮小個体の♂だ。驚いたことにマメキシタバくらいしかない。思わず、二度見したよ。
カバフって、大小の個体差が大きい種なのかもしれないないと思う(註3)。

しかし、あとが続かない。
どうやらフライング個体だったようだ。まさか、これでおしまいってワケじゃないよね❓不安が擦過する。

8時22分。糖蜜トラップに漸く1頭が飛来。
この8時半前後が、カバフのゴールデンタイムの口火の時間なのだろう。

昨日、編み出した下コツッの採集方法で、難なくゲット。
そこから怒濤のラッシュが始まった。
9時前まで間断なく糖蜜トラップにやって来て、休む暇も無かった。あっという間に10頭をゲット。
その後も時折飛んできて、そこからあとは数を数えるのも面倒くさくなって、いくつ採ったかわからなくなった。
しかも、最初の矮小個体1頭以外は全部我がスペシャル糖蜜に来たものだ。ほぼ完勝と言っていいだろう。この三日間を合わせれば、モラセス(糖蜜)の圧倒的勝利だ。
ふははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、モラセスの逆襲だぜ❗

 

 
生息地は局所的で個体数も少ないと言われるカバフキシタバを、この日は結局17頭も採ってしまった。
1日で17頭って、それこそレコードじゃねえの❓(註4)

前の2日間も合わせると計28頭だ。
カバフって、ホンマに珍品かいな(;・ω・)❓

 

 
 
7月7日。

カバフをタコ採りしてやったので、溜飲も下がった事だし、この日はお休みにする予定だった。
しかし昨日、調子に乗って小太郎くんに自慢メールを送ってしまった。

小太郎くんは20代後半の若者で、基本的には蝶屋だが、虫全般について詳しい。驚くほど何だって知っているのだ。若いけど、かなりレベルの高いオールラウンダーだ。ゆえに、結構バカにされている(笑)。でも虫歴は向こうの方が長いし、レベルも高いから仕方がないのだ。それにカトカラの最初の先生だしさ。
彼は蛾にもそこそこ詳しくって、カトカラの事も基本的な事はだいたい知っている。最初にカトカラに興味を持ったのも、彼に影響されたところが大きい。中でもカバフの美しさと珍しさについての熱弁は印象に残っている。彼は基本的にカトカラは採らないし、採っても誰かに進呈するみたいだけど、カバフだけは別格らしい。アレだけは、人にはあげないと言ってた。
その彼から案内して下さいと言われて断るワケにはいかない。そう云うワケで、御案内申しあげた。まさか、まさかの四連チャンである。

今宵も我がモラセスは鬼のごたる効力を発揮した。
小太郎くんも、その効果を素直に認めたくらいである。ただし、この日は樹液に飛んできたヤツもそれなりにいた。

この日もそこそこの数が飛んできたが、正確な数はわからない。おそらく10頭ちょっとは飛んできたのではないだろうか❓前半は小太郎くんの採集と撮影のサポートをしていたので、正確な数を把握していなかったのである。

 

(写真提供 小太郎くん)

 
小太郎くんが満足したところで、最後に自分も幾つか採ったと思うけど、数は定かではない。それさえもあんまり憶えてないのだ。たぶん、急速にカバフに対して興味を失っていたのだろう。

カバフキシタバは稀種と言われてるけど、それに対しての疑問を明確に自覚したのは、この日からではないかと思う。本当はそれほど珍品ではなくて、意外と何処にでもいるんではないかと思ったのだ。それと同時に、食樹に対しての疑念も芽生えた。自分の目が節穴という可能性もあるが、随分と注意してカマツカの大木を探したつもりだが、結局1本も見つけられなかった。にも拘わらず、こんなにも成虫が採れたのである。
カバフの幼虫はカマツカの大木を好むと言われ、それが個体数の少なさの原因だと推測されてきた。けど、こんだけ採れりゃあ、別に大木じゃなくても発生するんじゃないかと疑ったのである。大木を意識するあまり、小さな木を見逃していた可能性はある。
また、こうも考えた。或いは此処ではカマツカ以外の植物も食樹として利用していて、見つからないのは、そのせいではないかと。
しかし、これはあくまでも推測に過ぎない。大ハズレの可能性もあるからね。

 
7月10日。

漸く奈良のカバフにリベンジする日がやって来た。
カバフに対するモチベーションは、かなり下がっているけど、奈良で享けた仇は奈良で返す❗やられたら、やり返す。それが人生のモットーだからだ。負けたままでは終われない性格なのだ。
とはいえ、返り討ちにされないとも限らない。勝つパーセンテージは少しでも上げておくべきだ。早めに行って、新たに樹液が出ている木を探しておいた。

この日は、家が近い小太郎くんにも声をかけておいた。日没後に合流する。
そこで、あのカトカラのニュー、マホロバキシタバ(註5)と出会ったのである。アミメキシタバともクロシオキシタバとも違う何じゃこりゃ❓のそれで、その日はカバフどころではなくなった。リベンジする事すら、頭から消えていたのである。

 
7月某日。

マホロバの発見で、蛾界の一部が騒然となった。
完全にカバフどころではなくなって、マホロバの分布調査にいそしむ事となる。
でも心の奥底では、通っているうちにそのうち何とかなるだろうと思っていた。それがこの日だった。

樹液の出ている木のそば、別な木に翅を閉じて静止していた。
でも、リベンジという意識はあまりなくて、『あっ、カバフおるやんか。』と云う感じで、さしたる興奮はなかった。特別緊張も無いから、なんなくゲット。

 

 
でも落武者になっとるー( ̄∇ ̄*)ゞ。
せやけどワシのせいちゃいまっせ。最初からやった。やっぱ、カバフは驚く程すぐ禿げチョロけるのねー。

時間は正確には憶えてないけど、たぶん8時は絶対過ぎていたと思う。
因みに、結局この周辺では糖蜜に飛来したものはゼロだった。もっとも、樹液がバンバン出ていたので、あんまり真面目に糖蜜採集やってなかったけどさ。

ここまで書いて、はたと気づいた。
7月某日だなんて、何で日付がハッキリわからんねやろ?と。
それで、上の展翅写真のデータを見直した。すると、何と日付が7月11日となっていた。と云うことはマホロバを見つけた日、つまりリベンジ初日の7月10日に、ちゃんとカバフを採っていたと云うことになる。Facebookに上げた記事もマホロバの記事を最初にあげた翌日(12日)の昼間になっている。12日は、小太郎くんが用事があるとかで、一人で訪れている。となると、10日に採っている可能性が極めて高い。

慌てて小太郎くんに電話して確認を取ったら、「その日かその前かはどうかは微妙ですけど、マホロバを採る前だったと思いますよ。」と云う答えが返ってきた。このカバフを採った時には、小太郎くんも一緒にいたのだ。
7月7日に彼と一緒にカバフを採りに行ってから、何処にも行ってない筈だ。ましてや奈良に行っていたとしたら、記憶がないワケがない。たとえパープリンの記憶喪失男だったとしても、小太郎くんが一緒に居たことは間違いないワケだから、それは有り得ない。
たぶん、マホロバの発見が強烈過ぎて、その日カバフを採った記憶がフッ飛んでいるのだ。
その後、なかなか次の1頭が得られなかったので、記憶がソチラに引っ張られたのかもしれない。奇しくも、如何に人間の記憶が曖昧なのかの証左を突きつけられた感じだ。思い込みとは恐ろしい。
何はともあれ、リベンジ一発目でカバフを採ったんだね。俺ってやっぱ、やる時はやる男やんか。何かプライドが強化されたようで、得した気分(о´∀`о)

その後、岸田先生がマホロバの分布調査に送り込んできた刺客、小林真大くんが若草山近辺でもカバフを見つけて、複数採った。そういえば、彼が言ってたなあ。糖蜜にソッコー来たそうだが、樹液には一つも来なかったって。カバフは樹液よりも、モラセス好きなのかもしれない。
自分も、後に赤松の幹に止まっているのを見つけた。カバフは赤松の木が好きで、昼間よく止まっていると聞いてたけど、この時初めて見た。真大くんも赤松の木で見つけたと言っていたから、やはり赤松好きなのだろう。もしかして、アカマツも食樹だったりしてね(笑)。日本のカトカラは基本的に針葉樹を食わないだろうから、それは無いとは思うけど…。
それで思い出したが、若草山近辺にもカマツカの木はそれなりにあるようだ。自分も2本くらい見た。探せば、もっと北や東にもあって、カバフもいるんじゃないかと思う。

自分の六甲でのタコ採り、奈良近辺での採集数、それに松尾さんが兵庫県西部で相当数のカバフを見ていることから、今年は大発生なのではと云う意見もあるようだ。しかし、果たして本当にそうなのかな?と疑問に感じている。それ以外で、他にはあまり例を聞かないからだ。たまたま沢山いる所が見つかって、情報が強調されたにすぎないんじゃないかと思ってる。間違ってたら、ゴメンナサイ。

思ったんだけど、大発生とかではなくて、寧ろ今まであまり調査されてこなかっただけの事ではなかろうか。意外とカバフは何処にでもいて、個体数も思われているほど少なくないのではないか。単にベストな採集方法が分かってなかっただけではないかと云う考えに傾き始めている。
今までカバフがあまり目に触れてこなかったのは、採集を主に外灯に来たものやライトトラップ、或いは昼間に静止しているもの、樹液への飛来に頼ってきたせいではなかろうか❓
カトカラの中でも、カバフは特徴的な上翅をしているから見つけ易いとは言われているが、にしても昼間の見つけ採りは決して効率が良いとは言えないだろう。樹液にも、個体数のわりには寄って来ないのかもしれない。自分の経験値と真大くんの見解を併せれば、樹液で採るよか、糖蜜の方が遥かに有効である可能性はあると思う。
しかし、糖蜜トラップでカバフを採ったという話はあまり聞かない。常識的に考えれば、糖蜜よりも樹液の方に寄ってくると考えるのは当たり前だろう。が、その当たり前が常に正しいとは限らないと云うことだ。
ライトトラップにも、そもそもあまり寄って来ない種なのかもしれない。或いは寄って来るのが遅い時間帯と云うのも有り得る。皆が皆、そんなに夜遅くや明け方までライト・トラップをやってないだろうからね。撤収した後がゴールデンタイムと云う可能性も無くはないか❓

結局、奈良でも六甲でもライトトラップを試してないから、ライトへの飛来に関しては本当のところはわからない。あれだけの数が糖蜜で採れて、ライトトラップにはあまり寄って来なかったとしたら、走光性が低いという可能性がある。
同地で、糖蜜とダブルで試してみたら、事実の一端が見えてくるかもしれない。どちらが有効であるか、来年試す価値はあると思う。
でもさあ( ̄∇ ̄*)ゞ、おいらライトトラップの道具持ってないんだよねー。

 
                   おしまい

 
追伸
計3話に渉る長々としたクソ文章にお付き合いくださいました方々、御拝読ありがとうございました。
相変わらずフザけまくるは、生意気に意見するわでスンマセンm(__)m

夏の強烈な日射し、荘厳なる夕暮れ、木々を揺らす風、部活動をする学生たちの声と楽器の音、タールのような漆黒の闇、儚く光る蛍たち、溶けそうな蒸し暑さ、糖蜜の甘い香り、帰り道の静まりかえった夜の街、そして灯りの中で明滅するカバフキシタバの鮮やかな黄色。
この長い文章を書いている間、色んな風景や温度、その他もろもろがフラッシュバックした。
来年も、カバフキシタバに会いに行きたい。

 
(註1)100均の懐中電灯
100均の懐中電灯はショボい。でも、敢えて使っている。何でかっつーと、照らしてもカトカラがあまり逃げないからなのである。カトカラは敏感だ。強い光を当てるとビックリして飛びがちなのだ。光量があって性能が良い懐中電灯は素晴らしいと思う。が、性能が良過ぎて、あまりヨロシクないんである。あくまでワタクシ的感想ですが。

 

 
ただしコヤツ、100均だけあってマジしょぼい。すぐに接触不良を起こして調子悪くなるのだ。で、しばしばブラックアウト。ドツいて、また光だすというポンコツ振り。電池が無くなりかけると、驚くほど光量が落ちるしさ。だから、予備電池は必須アイテム。お陰で、初期の頃は夜の山中で懐中電灯が消えかけて半泣きになったことが何度かある。一人ぼっちだったし、チビりそうになった。

 
(註2)8時を過ぎないと現れないと思われる
そんな事、図鑑とか何処にも書いてないけど、少なくとも関西では間違いなかろう。今夏、他人の採集も含めて知っている範囲では、50近い飛来数のうちで例外は一つもない。

 
(註3)カバフって大小の個体差が大きいのかもしれない

展翅した一部を並べてみた。

 

 
特別そうだとは言えないだろうが、それなりにはあると思う。

それよりも気づいたのは、♂と♀の下翅の斑紋の違いである。
今一度、並べてきた展翅写真を見て戴きたい。下翅の真ん中の黒帯が♂の方が細い傾向がある。だから、♂の方が黄色っぽく見える。そんな事、どこにも書いてなかったよね?
とはいえ、微妙なのもいる。同定の際の決定的な相違点とはならないだろうが、その一助にはなると思う。♂か♀なのか微妙な個体の場合には、使えるかもしんない。

 
(註4)それこそレコードじゃねえの❓
調べたら、石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、島根県で143頭も採れた記録があるらしい。物凄い数だにゃあ。ケタが一桁違うわ。
但し、よくよく見たら外灯(水銀灯)に来たもので、しかも1959年から1960年の二年間での総数のようだ。
成虫の発生期間を少なく見積もって1ヶ月として、2年間で60日としよう。単純に143を60で割ったとしたら、2.83だ。つまり1日3頭も採れていないことになる(それでもスゴい数字とは言える)。となると、1日17頭って、凄くねえか❓レコードも有り得るよね。もちろん単純計算に過ぎないから、天候不順の日だってあるだろうし、飛来日数はもっと少ないかもしれない。けど、カトカラは雨でも全然飛んで来るからね。また、1日3頭ずつコンスタントに飛んで来るワケではなかろう。中には爆発的に集まって来る日もあっただろう。にしても17と云う数字は、かなりいい線いってると思うんだけどなあ。
因みに3日間で28頭だから、それを3で割ると平均は約9である。9×60=540だ。圧勝じゃん❗
小太郎くんと行った日も10頭くらいは採れているから、仮に38÷4としても9.5である。コチラの方がもっと凄いことになる。
まあ、何だかんだ言っても、所詮は机上の理論に過ぎないんだけどね。
とはいえ、少なくとも樹液&糖蜜採集の数としては、レコードに近いんじゃなかろうか❓

 
(註5)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba 。
日本で32番目に見つかったカトカラ。詳しいことは『月刊 むし』の10月号を見てくだされ。不肖ワタクシの発見記も有るでござる。

 

続・カバフキシタバ

  
随分と間があいたが、連載『2018’カトカラ元年』シリーズの再開である。
何でこんなに開いたのかと云うと、日本では未知のカトカラ、Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ(註1)を目っけてしまったからである。
この発見にはカバフキシタバが深く関わっており、それでマホロバの記載が終わるまでは下手な事は書けなくなった。奈良県で見つけたカバフとマホロバの生息地が同一である事から、情報漏れを防ぐために自粛したのである。

と云うワケで、今回は前回のカバフキシタバの続編でありんす。
(-o-;)ん~、何かちょいややこしくなってるかもなあ。いっそ各カトカラの続編は『2019年’ カトカラ二年生』というタイトルに変えてやろうか…。でもそれはそれでゴチャゴチャになって、ややこしくなりそうだ。それに前に書いた続編シリーズのタイトルも全部書き直さないといけないしさ。面倒くさいし、とりあえずは暫くはこのまま2018年版と2019年版を交互に書いていくスタイルでいこう。

前半部は月刊むしの2019年10月号掲載の『マホロバキシタバ発見記』の文章が下敷きになっています。
もちろん「てにをは」を含めて微妙には変えるつもり。というか、遠慮してマイルドになったところも書き直すつもりの増補改訂版になろうかと思う。
完成すれば、たぶん時間が経ってる分、コチラの方が文章はコナれていると思う。ヒマな人は微妙な違いを探してね。とはいえ、書いてるうちに大幅に改変するかもしんないけど。

前置きが長くなった。取り敢えずタイトルを新たにつけて、前へと話を進めよう。

 
『リビドー全開❗逆襲のモラセス』

 
2018年、8月の終わり頃だったと思う。
カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが、Facebookに奈良県でのゴミムシダマシ探査の折りに、たまたまカバフキシタバを見つけたと書いておられた。
その年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は、既に京都でカバフは得てはいたものの、来年はもっと近くで楽に採りたいと思った。それで、秋田さんとは殆んど面識はないものの、勇気を出してメッセンジャーで連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺の昆虫採集禁止区域外だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された。

ところで、奈良県にカバフの記録ってあったっけ❓
ネットで調べてみる。てっとり早いのは『ギャラリー カトカラ全集』だ。このサイトには各都道府県別のカトカラの記録の有無が表にされているのだ。
それによると、奈良県にカバフの記録は無いようだ(註2)。こういう誰も採った事が無い的なものは大好物だ。それで、俄然やる気が出た。根が単純なので、だったらオラが最初に採ったろやないけー❗となるのである。

その年の秋遅くには奈良公園へ行き、若草山、白毫寺と歩き、幼虫の食樹であるカマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ】
(於 奈良公園)

 
この画像を『コレがカマツカで、よござんすか❓』と秋田さんに送ったところ、正解との御墨付きを戴いた。
因みに月刊むしの原稿で、秋田さんが「こやつ、カマツカも知らんとカバフを探しとんのか❓イモかよ。」的なニュアンスの事を書かれていたが、まあその通りかな。
だってカトカラ1年生だし、飼育なんて蝶さえ殆んどしないから、植物には疎い。ましてや蛾の食樹だ。んなもん、知るワケないもーん<(`^´)>
そんなオイラだが、引きだけは強くて日本でも海外でも何か知らんけど珍しい蝶や甲虫だのを採ってきてしまう。海外なんかは現地にいる虫の事をろくに下調べもせず出掛けて行って、ガイドも雇わないというテキトー振りでだ。だから、周りに冷ややかな目で見られ、『おまえ、虫採りナメとんのか。』と御叱りを受けるのである。
まあ、皆さんが怒るのも解るけど、採れるんだから仕方がないのさ( ̄▽ ̄)ゞ。そないに叱られてもなあ…。
 
そんなオイラだが、翌年は秋田さんのお陰もあって、万を持して始動。

2019年 6月25日。

先ずは若草山近辺を攻める。しかし秋田さんに教えて戴いていた樹液の出てる木はゴッキーてんこ盛り。
Σ( ̄ロ ̄lll)キショっ、皮膚が粟立ち、おぞける。
一瞬、意地の悪い秋田さんのことだから、もしかしてワザとゴッキーだらけの木を教えたんじゃないかと疑う。
しかし、悪魔のような秋田さんといえども、たぶんそこまで手の込んだことはすまい。
そう思うが、一応『(=`ェ´=)秋田の野郎~。』と呟いとく(秋田さん、ゴメンナサイ)。

霧吹きで糖蜜を撒き散らすも、全然ダメ。小汚いクソ蛾どもと、ただキシタバ(パタラキシタバ)しか来ない。カバフが飛んで来る気配というものがまるでないのだ。
この気配を感じる感じないかは、謂わば勘みたいなものだ。言葉にするのは難しいが、その勘というものを自分は大切にしている。今回もそれに従おう。ダメなもんはダメ。決断は早い方がいい。チラッと若草山からの夜景を見て、午後9時過ぎには諦めて白毫寺へと向かった。

 

 
周囲は原始の森だ。真っ暗闇の中、長い坂道をひたすら下る。忍耐である。
勿論、人っ子一人いない。闇の奥で、何かあずかり知らぬ者どもが蠢いていそうな気がしてくる。マジで、こういう古い森は精霊とかがいそうだ。でも精霊が皆が皆、良い精霊だとは限らない。中には邪悪な精霊もいるかもしれない。でもって、ゴブリン、ゴブリン。小人で、人相がゼッテー悪いんだな。そうに決まってる。そいでもって滑舌が悪くって、何言ってるか解らないのだ。
一人で暗闇の中を歩いていると、色んな思いが去来して、どんどん心が磨り減ってゆく。コレが結構キツイ。ボディーブロウのように心身を次第に蝕んでゆくのだ。「こんなとこで、ワシ何やっとんねん❓」である。
冷静に考えれば、やってる事が一般ピーポーから見ると狂人の域だ。フツーの人は怖すぎて絶対に夜の森を一人でなんて歩き回りゃしません。そんなの、アタマおかしい人か犯罪者くらいだ。
でも、それに耐え忍ばねば、甘い果実は得られない。虫採りとは、勘と忍耐である。

白毫寺に着いたのは午後10時くらいだったと思う。
目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構カトカラが集まっている。
しかしカバフの姿はない。取り敢えず周辺の木に糖蜜を吹きかけてやれと、大きめの木に近づいた時だった。
高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへ持ってゆく。

そこには、あの特徴的な姿があった。
だが、脳が現実なのか幻なのか直ぐには判断てきなくて、頭の中で時間が止まる。ややあってから、目と脳の認識が漸く一つに重なりあった。
間違いない、カバフキシタバだっΣ( ̄ロ ̄lll)❗
瞬間フリーズ。ゴーゴンかメデューサの凶眼に射すくめられたかのように、その場で石化する。体が動かない。
だからといって、いつまでも🐍ヘビ女の呪縛に雁字搦めに囚われているワケにはゆかぬ。懸命に心を鎮め、ゆっくりと後ずさりする。7、8mほど離れてから反転。音を立てないようにして忍者の如く爪先立ちで走る。心は高揚感で乱れに乱れている。
30mほど後ろの荷物が置いてある場所まで戻った。離れたことにより、少し心を落ち着かせることが出来た。
しかし、ここからが仕切りなおしの本当の勝負だ。大きく一回、深呼吸をして気を整える。
焦ったら負けだ。逸る心を抑えて網を組み立てる。
Σ(T▽T;)ヒッ、でも手が覚束なくてネジに真っ直ぐ入れれな━━い。落ち着こう、俺。ここで焦ってどうする。ネジがバカになったら元も子もないではないか。もう一回深呼吸する。だいたい立ってやってるからダメなんだ。しゃがんでやろう。
それで何とか装着することができた。すっくと立ち上がる。もう大丈夫だ。侍魂がフツフツと甦ってくる。
いよいよ、ここからが本チャンの闘いが始まるかと思うと、背中がブルッとくる。武者震いってヤツだ。このギリギリ感、溜まんねえや。これがあるから虫採りはやめられない。我が愛刀、蝶次郎で必ずや斬る❗
軽く息を吐き、ゆっくりと一歩を踏み出す。落葉がカサカサと乾いた音をたてる。静かな夜の森に、その音が奇妙に誇張されて響く。彼奴を刺激しないように、懐中電灯の光を直接当てずに慎重に近づいてゆく。

この木だったな。
歩みをやめ、ゆっくりと懐中電灯を止まっていた辺りにズラしていく。再び緊張感が高まる。
ピピピピピピッ……、ロックオーン❗
ほっ( ̄▽ ̄)=3、逃げずにまだいる。よっしゃ、ゲーム続行だ。
けれども刹那、どう網を振るか迷う。ダメだ。その一瞬の躊躇が負の連鎖を呼び起こしかねない。自念する。迷いは捨てろ。何も考えるな。メンタルの弱い奴には幸運など降りてきはしない。
蝶次郎の柄を握り締める。そして次の瞬間、息を詰め、大胆に幹をバチコーン💥❗思いっきしブチ叩く。
秘技✴嵐流狼牙斬鉄剣❗❗

手応えはあった。
空中で網を素早く捻り、地べたへと持ってゆく。
どうだ❓ 波立つ心で、慌てて懐中電灯を照らす。
そこには、シッカリ網の底に収まっている彼奴の姿があった。しかも暴れる事なく大人しく静止している。安堵がさざ波のように拡がってゆく。
やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で近づき、ぞんざいに網に毒瓶を差し込んだ。まあまあ天才をナメんなよ(`◇´)、狙った獲物はハズさないのさ。

しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して、毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ、えっ、えっ、マジ❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から抜け出して飛んでゆくのがチラッと見えた。
嘘でしょ❓嘘であってほしい。慌てて周りを懐中電灯で照らすも、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。あんま普段はこういうミスはしないので、ドッと落ち込み、「何でやねん…。」と闇の中で独り言(ご)ちる。己の詰めの甘さに心の中が急速にドス黒い後悔で染まってゆく。

結局、その日は明け方まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。

しかし、その時はまだこのボーンヘッドが後のマホロバキシタバの発見に繋がろうとは遥か1万光年、露ほども想像だにしていなかった。
運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが、その後の結果を大きく左右する。人生は紙一重とはよく言ったものである。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン再びこの地を訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

閑話休題。
でも、この時点では後にそんな大発見に至るとは知らないという前提で話を先に進めまする。

 
2019年 7月2日。

天気や個人的な用事もあり、あれから約1週間のインターバルがあいてしまった。

この日は奈良にリベンジをしに行く事も考えだが、その前に去年カバフを採った京都市左京区へ行くことにした。

  
【カバフキシタバ Catocala mirifica ♂ 】

(2018.7.15 京都市左京区)

 
去年、人為的にボロにしてしまった1♂のみしか採れなかったとはいえ、先ずは実積のある場所で確実におさえておきたかったからである。
ここなら寄ってくる樹液も知っているから、楽勝である。♂♀の完品が採れれば、気分はだいぶと楽になる。その後でジックリ奈良を攻めればいい。

 
今年もまだ有りまんな、ビビらす看板。

 

 
去年の、あの真っ暗闇の世界と謎の動物の咆哮を思い出したよ。超ビビりまくったんだよなあ…。マジあん時は恐かったもんなあ。怖すぎて逆ギレしてたっけ…。
しかし、あれからコチラもそれなりに闇の経験を積んできている。今回は二度めの来訪だし、あの時の恐怖感と比べれば、どって事ない。鬼採りでイテこましてくれるわ。今日こそ、まあまあ天才の実力をとくと見せてくれようぞ(=`ェ´=)

去年、カバフの食樹であるカマツカかなと思っていた木はウワミズザクラだった。

 

 
木肌の感じからしても間違いないかと思われる。
さっきも言ったけど、一年も経てばアチキだってそれなりに進化しているんである。植物の知識も少しは増えているのだ。
だが、その後歩き回るもカマツカの木が一つも見つからない。嫌な予感が、サッと撫でるようにして走る。もしかして、個体数が元々少ない場所だったりして…。

夜の帳が降りると、やっぱ真っ暗になった。

 

 
でも今年は蛍が沢山いた。
去年は一つも見なかったのに、不思議だ。
だから最初見たときは、🔥鬼火かと思って腰くだけになりそうになっただよ。京都って、妖怪だの幽霊だのの魑魅魍魎が跳梁跋扈してそうじゃん。そういうイメージがある。それに、この辺は昔は刑場とか墓場だったと聞いたことが有るような気がしてきた。だから、マジで出たなと思った。
稀代の怖がり屋としては、熊よか鬼火の方が余っぽど怖いんである。もちろん熊も怖いけど、まだ現実の存在だから対処のしようもある。マウントされたとしても、脇に息が出来ない程の強烈なフックをおみまいしてやることだって出来る。けれど、お化けだったら対処のしようがない。いらぬ想像力が増幅して、恐怖が異様に膨れ上がってのお地蔵さんだ。動けるか、ボケッ❗急に得体の知れないものがボオーッと闇から浮き出てきて、口から緑色の液をジャーと吐きでもしたら、どうするのだ❓オチンチン、激りんこメリ込むわい。この世のものならざる者は、あきまへーん(T▽T)

蛍は源氏も平家もいた。川沿いにはゲンジボタル、真ん中の水田にはヘイケボタルと、棲み分けしていて、時々その境界線で両者が絡まって飛ぶ。道ならぬ恋。ちょっとした幻想的風景だ。
それで、心にフッと上手い具合に隙間が空き、何だか心が休まってくる。このリラックスした気分で、カバフをジャンジャン採りまくるけんね。

 

 
(-o-;)……。
夜が明けた。

嫌な予感が当たってしまった…。
夜通し探し回り、明け方まで粘ったのにも拘わらず、1頭たりとも見ることすらできなかった。まさかの返り討ち、又しても大惨敗を喫してしまう。
見もせんもんは、如何にワシでも採れん。やはり、此処は個体数が少ないのかもしれない(註3)

結局、採れたのはコカダキシタバと、まあまあ渋いんでねえのと思って採った、この蛾くらいだった(註4)。

 

 
けど、いまだに展翅すらしていない。
如何せん渋過ぎるのだ。

何にせよ、(◎-◎;)ショックで身も心もボロボロじゃよ。徒労感、半端ない。

やがて、朝日が昇ってきた。
無駄に眩しい。
日の光に照射されたヴァンパイアの如く、いっそ、その場で灰になってしまいたかった。

やはりカバフ採りは、甘くないのか…。
珍品と言われたる所以が解ったよ。

                     つづく

 
追伸
スランプで、思うように筆が進まない。
気に入らなくて何度書き直したことか…。
そう云う時は必要以上に長くなるし、気持ち的にもシンドイ。なので一旦前編で切ることにした。

そういえば思い出した。朝まで粘ったのは、今年はこの連続の二回だけだった。
両日ともに、あまりにも退屈過ぎて、睡魔と戦いながらずっと一人シリトリをやってたんだよね。何処にも到達しない、未来永劫救われることのない無益なシリトリだ。
アレは今思い出しても辛かった。そりゃ、ドラキュラみたく灰になりたくもなるよ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
新種になりかけた時期もあったが、結局は台湾のみに分布が知られていた Catocala naganoi の新亜種におさまった。
マホロバに関しては、またいつか書く機会はあろうが、まだカトカラ No.5なので、まだまだ先のことになりそうだ。

(註2)奈良県にカバフの記録は無いようだ
「大切にしたい奈良県の野生動植物2016 改訂版」には、カバフキシタバが絶滅危惧種としてリストアップされている。記録地の詳細は書かれていないが、大阪と奈良の県境、信貴山辺りでも採れているみたいだし、記録は間違いではないだろう。
「ギャラリー カトカラ全集」の都道府県別のカトカラ記録表は参考にすべきものではあるが、それをそのまま鵜呑みにしてはならないと思う。例えばフシキキシタバは奈良県から記録が無いとされているが、実際にはアホほどいるからね。

(註3)個体数が少ないのかもしれない
もしかしたら、まだ未発生でフライングだった可能性はある。去年の採集日よりも2週間くらい早い出陣だったし、今年は蝶の発生が1週間以上遅れていたようだからだ。それからすると、蛾の発生も遅れていた可能性は充分ある。
とはいえ、今のところ来年リベンジしに行くつもりはない。ごっつ真っ暗なとこだし、謎の動物の咆哮も怖いので、行くとしても来年はもう一人では行かないと思う。

(註4)この蛾くらいだった
たぶん、Phalera minor クロツマキシャチホコという蛾かと思われる。
あまり見かけない蛾だが、幼虫の食樹はブナ科コナラ属のウバメガシ、クヌギ、コナラ、アラカシとなってるから、そんなに珍しくはなさそうだ。

 

月刊むし10月号が我が家にやって来た、ヤア❗ヤア❗ヤア❗

  
ポストに郵便物が届いていた。
見ると『月刊むし』だった。一瞬、購読してないのに何で❓と思った。けど、直ぐに解った。10月号に原稿を書いたんだわさ。
やったぜ、タダで貰えるとは思わなかったから嬉ぴーよ~ん\(^o^)/

💓ドキドキしながら、封筒から出す。

 

 
表紙は、かなりカッコイイd=(^o^)=b
幻想的で、お洒落だ。センスいい。
でも、惜しむらくはカトカラではなくて、ヒメヤママユとウチスズメだ。日本で32番目のニューのカトカラの特集号なのになあ…。
(・o・)あっ❗、巻頭の記事も岸田先生と石塚さんの記載文ではない。ヒメアトスカシバとか云う聞いたこともない蛾の幼生期についての記事だ。何故に❓綴じ方の関係で、そうせざるおえなかったのかな❓
まあいい。今の自分にとって、そんなのは些末な事だ。この号が世に出たことの喜びの前では、どって事ない。

でも、嬉しいんだけど、何だか怖いような恥ずかしいような変な気持ちで、まだ中を開いてない。
書いた内容は結構忘れているので、逆にとんでもないおバカ文章炸裂なのではないかと不安になってきたのである。
段々思い出してきたよ。かなりフザけたことを随所に書いた記憶がある。
取り敢えず、3日ほど寝かしてから読も~っと。

誌の発売日は25日の筈だけど、岸田せんせも石塚さんもFacebookに記事を既にあげておられるので、もう解禁という事でもいいのだろう。書いちゃえ。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】

 
新種ではなく、新亜種になった時はガックリきたけど、周りが新亜種でもスゴい事だとおっしゃるので、そうなのぉー( ̄∇ ̄*)ゞ、じゃ、まっいっかと今は納得している。誰も興味のない矮小昆虫ではないし、あの毒舌家の秋田さんだって悔しがっているんだから、それだけでもう充分なのだ(^-^)v

上が♂で、下が♀である。
特徴は下翅の黒い帯が下部で繋がらない事である。
他の黄色い系統のカトカラはここが繋がるか、もしくは近接しているので、見分けるのは比較的簡単。
因みに、この♂は通常の型とは違い、上翅が蒼っぽい個体。普通は淡い緑色か茶色です。

和名は概ね好評のようで、イガラシキシタバなんてダサい名前をつけなくてよかったよ(笑)

一応、これでホッとした。
三ヶ月くらい箝口令が敷かれてたしね。

この場を借りて、もう一回お礼を言っておこう。関係各位の皆様方、色々と御尽力有難う御座いました。

 
                   おしまい

 
追伸
えー、つーワケで、『2018′ カトカラ元年』の連載を再開します。次の回の内容が、モロこのマホロバの発見と被ってて書けなかったのだ。
けど、まだ一行たりとも書いてないっす。下書きくらい書いとけゃよかったのにと思うが、その日暮らしのキリギリスにはそんな事できるワケがないのだ。

追伸の追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、その後に当ブログにて三編書きました。一つは『喋くりまくりイガ十郎』と云うタイトルで、請われて名古屋でマホロバについて講演してきた話です。あと2つは、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載、マホロバキシタバ発見記の『真秀ろばの夏』の前・後編です。現時点では、マホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。自分で言っちゃったけど、そうなんだから仕方がないのさ(笑)