天鵞絨(びろうど)の葉巻

 
前回(『あおはる1day trip 其の1~お城とデジタル蛾』)で、ビロードハマキについて少し触れた。それで何となく気になったので、ビロードハマキについて調べてみた。ちょっと面白かったので、この蛾のことを書く気になった。

先ずは、その前回の記事からビロードハマキの部分を抜粋してみよう。いや、どうせなら書きなおそう。

 
表御門跡・馬屋の横だった。
木のベンチに座ろうとしたら、その上で何かがピョンと跳んだ。で、ズズズイと動いた。クソ暑過ぎて頭がぼおーっとしてるし、幻覚でも見たかなと一瞬思った。だが、確かに何かが動いたように見えた。ベンチを凝視する。

 

 
(・。・;何だこりゃ❓
3~4センチ程と小さいが、よく見ると其所にはデジタル模様のカラフルなものが場違い的に静止していた。
はて(゜〇゜;)?????…。暫し固まる。
カラフルなウミウシの仲間(註1)にこんなのって、いなかったっけ❓
いや、でも海の中の生物がこんな所にいる筈がない。
そもそもコレって生き物なのかよ❓
誰かが服を釘とかに引っ掻けて、その千切れた切れ端が偶然にベンチに落ちて、それが風に飛んだとか❓
いやいや、そもそもこんな柄の服を着ている奴なんているのか❓ それにこんなド派手な柄の服なんて、そうは売ってないぞ。
じゃあ、てめえは何者なのだ❓
もしや、まさかの矮小型の👽宇宙人ではあるまいな❓ そのうち喋りだすかもしれん。
アホか俺。それこそ幻覚の白昼夢だ。一刻も早く病院に行った方がいい。
でも、何処かで見たことあるような無いような…。何か記憶の奥底にムズムズするものがある。何だっけ❓えーと、コレ何だっけ…❓そのもどかしさに脳ミソが右往左往する。しかし、何らかの答えを出さねばならない。頭の中でカチャカチャ計算が始まる。そして、脳は矢張り見たことがあるぞと認識した。そして、パラパラと記憶の中の映像の海を辿ってゆく。

一拍おいてから、ようやく思い至った。
シナプスが固有名詞とも繋がった。

(;・ω・)コレって、もしかしてビロードハマキじゃなくなくね❓

蛾に見えないけど、コヤツは蛾だ。葉巻みたいな形をしている蛾の仲間をハマキガというのだ。
記憶が次々と数珠繋ぎに溢れ出す。
だとしたら、蝶採りを始めた2009年とかそれくらいの頃に生駒の枚岡で見た時以来、二度目の遭遇だ。
確かオオムラサキを採りに行った時だから、6月か7月だ。何かの葉っぱの上に止まっていた。この派手な色柄だ、否応なく目に入った。そうだ、蛾だと本能的に感じてΣ( ̄ロ ̄lll)キッショ❗と言って飛び退いたのだった。その頃は大の蛾嫌いだったので、全身オゾ気(け)づいたっけ。走ったねー、悪寒。
でも毒々しくはあるものの、美しいといえば美しい。デザインがドットで構成されているのにも斬新さを感じた。気持ちが悪いっちゃ悪いけど、お洒落ちゃお洒落だ。デジタル模様の生き物がこの世に存在するとは想像だにしていなかったので、衝撃的でもあった。そうだ、己の審美眼がどう扱っていいのか判断出来ずに軽い目眩(めまい)を覚えたような記憶があるぞ。

もちろんその時は持ち帰らなかった。当時は蛾を触るどころか、近づく事さえも出来なかったのだ。
でも気になる存在だったので、名前は後で調べたんだと思う。だから、ビロードハマキと云う名前をちゃんと知っているのだろう。

それにしても、改めて見てもインバクトのある蛾だなあ。伊藤若仲の、あのデジタルな画を想起させられるようなデザインだ。

 
【樹花鳥獣図屏風】
(出典『ART LOVER』)

 
この屏風は方眼紙のように細かい四角の集合体から成っている。江戸時代にドットでモザイク画を描くデジタル的発想って、天才若沖ならではだ。微視的であり、巨視的な稀有な作品と言えよう。

ともかく、こんな蛾を世に産まれ落とせし神のデザインセンスには感服せざるおえんよ。

ベンチの上から毒瓶を被せる。
虫屋の性で、目的が虫採りじゃなくとも虫捕り道具一式は持ってたりするのだ。コレは虫捕りという一種のビョーキだ。このビョーキに罹患すると、救いようのないおバカになるのである。少なくとも世間一般的に見れば、およそ理解されない病理じゃろう。

 

 
んっ、どっちが頭なのじゃ❗❓
一瞬ワカンなくなるが、先がオレンジじゃない方が頭だ。思うに、コッチが頭だと鳥が勘違いして啄んだ隙に逃げるのじゃろう。ビロードちゃん、賢いねー(^o^)
それにしても、一般ピーポーからすれば蛾とは思えないような謎の形だ。自分でも本当に蛾なのか自信が無くなってきて、確認のために裏返してみた。

 

 
やっぱ蛾だな。下翅はどんなんだろ?と思っていたけど、鮮やかな橙(だいだい)色だ。表側は確認してないけど、おそらく蛾にしては綺麗なんじゃなかろうか。
蛾ってのは一部を除き、大体においては下翅が汚ない。上翅はそこそこキレイでも、下翅が汚くてガッカリさせられる事が多い。そこが今一つ蛾の世界に踏み入れられない理由かもしれない。

一応、展翅してみたが、蝶とは違い変な形なのでバランスがワカンナイ。
でも、たぶんコレで合ってんじゃないかな❓

 
【Cerace xanthocosma (Diakonoff,1950)】

 
上翅をもっと上げたい衝動に駆られるが、上辺の基点の位置からすると、これが正しいかと思われる。

触角が右片方ないのは残念だけど、まあいいっしょ。蛾はカトカラとヤママユくらいしか集めてないから、特段執着心はない。

たぶん♂だと思う。♀はもっと白斑が発達するようだ。気になる人はネットに画像が沢山あるので、そちらで見てけれ。

ネットで調べたら、漢字だと「天鵞絨葉巻蛾」と書くそうだ。これはビロードの漢字が「天鵞絨」だからだね。皆さん知ってるとは思うけど、ビロードとは織物の一つで、綿、絹、毛などを細かい毛を立てて織ったものだ。なめらかで艶があるのが特徴である。
ビロードはポルトガル語で、英語圏ではこれをベルベットと呼んでいる。似たような生地にベッチンがあるが、これは別物。

ビロードハマキはビロードの布地ほどには羽に艶がないのに、何でビロードなのかな❓
まあ、ノリみたいなもんで名付けたんだろね。きっと単に美しい様を表現したかっただけなのだろう。厳密的にはそぐわないけど、語感がいいから許す。

以下、ネットで調べた事とその感想を書こうと思う。

【分類】
ハマキガ科(Tortricidae)
ハマキガ亜科(Tortricinae)

日本のハマキガ科の中では最大種のようだ。

 
【学名】
Cerace xanthocosma(Diakonoff,1950)

軽く調べてみたが、よくワカンナイ。
唯一、わかるのは小種名の xanthocosma の一部のみ。おそらく前半部はギリシア語の xanthos(黄色の)で、それに他の語を足した造語であろう。

 
【分布】
従来は、本州(関東南部以西)、四国、九州、対馬、屋久島とされてきたが、近年は北上しており、東北地方にまで分布を拡げているようだ。ようするに元々は南方系の蛾なんだね。
平地から山地にかけて見られるが、主に低山地に分布し、照葉樹林帯を好むようだ。
国外では、樺太、中国(東北部~南西部)にも棲息するという。

 
【成虫発生期】
年2化。6~7月と9~10月に見られる。
へぇー、年2化なんだ。想像してなかったよ。つまり初めて見た奴は夏型で、今回見たのは秋型ってワケだね。

 
【開張】
♂34~40㎜ ♀40~59㎜。
♂より♀の方が大きいんだね。また、6~7月に現れる第1化は、第2化より遥かに大型なんだそうな。

 
【変異】
地理的変異は知られていないが、斑紋には比較的顕著な個体変異があるようだ。

 
【生態】
昼行性で、主に午後に活動するが、飛翔は緩やかで、あまり活発でない。夜間に灯火に飛来することもある。

どこかのサイトには歩くと書いてあったから、ズズズ…ズイと動いたのは錯覚ではなかったのね。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ、アカガシ、シラカシなどのカシ類、ツバキ科のヤブツバキ、ツツジ科のアセビ等の常緑樹のほか、カエデ科カエデ類などの落葉樹。
或るサイトでは、第1化の幼虫が常緑樹、第2化の幼虫が落葉樹を食べる傾向があると書かれていたが、別なサイトでは、1化はカエデを、2化はツツジ科のアセビ、ツバキ科のツバキ、ブナ科カシ属のカシ、カエデ科のイロハモミジ、ヤマモモ科のヤマモモ、モクレン科のオガタマノキを食するという記述もあって、よくワカラナイ。意外と本当は季節によって食性なんて変えてなくて、それぞれの個体が、それぞれ勝手に好きなもんを食べてるだけだったりしてね。

越冬態は幼虫で、食樹の葉を数枚綴って簡単な巣を作り、その中に潜むという。

そういえば思い出したけど、初めて会った翌年から、またビロードハマキには会いたいなと心の底のどこかで思っていたふしがある。枚岡なんかでは、今年も見ないなあと時々思ったからね。
もしビロードハマキにまた会ったなら、今度も採ろう。そして、雌雄完璧な展翅標本を作って、蛾ギライな女に送りつけてやろう。

                   おしまい

 
(註1)カラフルなウミウシの仲間
例えば、こんなんと言いたいところだが、セキュリティの問題で「世界のウミウシ」という素晴らしいサイトの画像が使えなかった。世界のウミウシで検索すれば、カラフルなウミウシが沢山出てきます。
ウミウシは多用で面白い。バリエーションが有り過ぎて分類は相当錯綜しているのではないかと想像するよ。