台湾の蝶11 オスアカミスジ(後編)

       タテハチョウ科8

   第11話『豹柄夫妻の華麗なる生活』

 
オスアカミスジの後編である。
今回は生態を中心に書きたいと思う。

前回と重複するが、先ずはオスアカミスジの画像を添付しておこう。

【Abrota ganga オスアカミスジ♂】
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷)

【同♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

♂♀異形のイナズマチョウの仲間である。
色は違えど、ネコ科肉食獣柄の夫婦だね。
もし豹柄と虎柄紋を着たオバチャン&オッチャン夫婦がいたら、さぞや強烈だろうなあ…。キャラもコッテコテのエッジの立った夫婦に違いない。まあ大阪とかには、現実にいそうだけどさ(笑)

学名の属名のAbrotaはキリシア語のabrotos(不死の、神の、神聖な)をラテン語化したもの。
このAbrota属は、調べた限りでは1属1種。オスアカミスジのみで構成されている。
小種名のgangaはインドの聖なる川、ガンジス川の事である。そういえばインドの聖地ベナレスでは、ガンジス川のことを皆ガンガーと呼んでいたなあ…。インド、ムカつくけど、また行きたいな。

台湾での名称は「瑙蛺蝶」。
瑙というのは瑪瑙(メノウ)のことである。
英語だとAgate(アゲート)だっけか…。鉱石の1種で、縞模様が特徴である。よくパワーストーンとして売られているから、見たことがある人も多いかと思う。

(出典『ヤフオク』)

中々センスのある美しい名前だ。
オスアカミスジよか余程いい。おーっと、早くも和名文句たれ病が始まったよ。けど、またクソ長くなりそうだから今回はやめとく。
あー、でも一言だけ言わしてくれ。ミスジチョウの仲間じゃなくイナズマチョウのグループだと判明したんだから、せめて「オスアカイナズマ」としてくれよな。ややこしくてかなわん。

因みに蛺蝶と云うのは、中国語圏ではタテハチョウの事を指します。
他に雌紅三線蝶、大吉嶺橙蛺蝶、黃三帶蛺蝶という別称もある。
婀蛺蝶というのも良いね。婀は訓読みするとたお(やか)だ。しなやかで美しいさまを表す。
大吉嶺橙蛺蝶と云うのも仰々しい感じがして悪くない。大吉山の橙色の蝶なのだ。

【分布】
台湾以外では、中国(東部、南部、西部)、インドシナ半島北部、ヒマラヤなどに生息し、5亜種に分けられている。

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

▪Abrota ganga ganga(ブータン,シッキム,アッサム,ミャンマー,メトック)
▪Abrota ganga formosana Fruhstorfer, 1909(台湾)
▪Abrota ganga flavina Mell,1923(中国:広東省)
▪Abrota ganga pratti Leech,1891(西中国: 四川省,雲南省)
▪Abrota ganga riubaensis Yoshino,1997 (中国:陝西省)

一応、各地の標本をネットでいくつか見たが、そう大きな違いは感じられなかった。♂は同じ場所でも個体差に富み、1つとして同じ斑紋のものはいないというから、どちらにせよ素人のワシなんぞにはお手上げじゃよ。
但し、♀は海南島のものなどは白い紋がオレンジ色になるようだ。だから、別称に黃三帶蛺蝶というのもあったんだね。

【生態】
開長65~75mm。
台湾全土に見られるようだが、普通種というワケではなさそうだ。実際、埔里周辺では1ヶ所でしか見かけなかった。タイやラオスでも一度も見たことがない。もっとも、これは夏に行った事がないからなのかもしれないけどね。

垂直分布は、図鑑などでは標高300m前後から2100mまで見られるとなっていたが、おそらく中低山地が棲息域の中心だろう。
因みに自分は1000m前後でしか見たことがない。常緑広葉樹林を好むというから、標高以上に環境が重要なファクターなのだろう。結構深い森の中にいたから、環境条件は思われているよりも限定的なのかもしれない。

♂♀ともに樹液,獣糞や発酵した果実に集まり、地面に吸水におりる。
杉坂美典さんの台湾の蝶のサイトには「各種の花によく集まる。」とも書いてあった。だが、これは聞いた事がないし、そのような生態写真も見たことがない。イナズマチョウ類の生態としては考えにくいし、何かの間違いではないだろうか?
また、「♂は渓流や樹林内の開けた場所で占有行動をする様子を確認することができた。占有行動では,全ての蝶を追い回し,順位的には最も強かった。♀は,林道上によく止まり,吸水行動をしていた。♂も吸水のために地上に下りることはあったが,非常に敏感で,近づくことは容易ではなかった。」とも書いておられる。

占有行動に関しては、他に言及している文献は知り得ないが、それらしき行動は見たことがある。
樹林内のぽっかり開けた場所に如何にもテリトリーを張ってますといった体の♂が葉上に止まっていた。実際占有行動は見ていないが、捕らえて先に進み、暫くして引き返してきたら、また別な♂が同じような所に止まっていた。それも捕らえて、翌日にそのポイントに行ったら、またもや別な♂がいた。これは占有活動を示唆しているとも思える。
但し、同じ場所にタイワンコムラサキもいたが、特に追いかけ回すというワケでもなく、仲良く繁みの端と端にちょこんと止まっていた。

果実トラップには、林縁に仕掛けたものには来ず、♂♀ともに暗い森の中に設置したものに集まった。

♂の飛翔力については文献によってまちまちだ。
台湾のネット情報では、「成蝶飛行快速」と書いてあった。また「原色台湾蝶類大図鑑」には、飛翔はヒョウモン類に似ているとあった。ヒョウモンチョウの仲間は種類によって飛翔力にかなり差があるが、そこそこ速いと云う意味なのだろう。
一方、「アジア産蝶類生活史図鑑」には、「飛翔力はあまり活発ではなく、地上低く滑空方式のものが多い。」と書いてある。
自分の見た印象ではイナズマチョウにしてはトロいが、そこそこ速い。確かにヒョウモンチョウと言われれば、そんな気もする飛翔スピードだ。
敏感さは、タカサゴイチモンジくらい。つまり、イナズマチョウにしては鈍感な部類に入る。

林道上によく止まり吸水するというのは、他の文献でも記述があるから、割りと普通に見られる行動なのだろう。
けれど、吸水も含めて自分は一度も林道上で見たことがない。♂は森の中でしか遭遇した事がないのだ。10頭以上は見たが、全部そうだった。自分としては、ホリシャイチモンジと同じような生態に感じた。
一方、♀は林内よりも林縁で見受けられた。但し、地面に止まっているのは見たことがない。大概は林道を歩いていたら、樹木から驚いて飛び出すというパターンだった。高さはだいたい2m以内。その際、緩やかに飛び、すぐに枝先などに止まる。正直、トロいから、採集は容易だ。

但し、とは言ってもこれらはケースバイケースだろう。飛翔は速い時もあれば遅い時もあるだろうし、敏感さも羽化仕立ての個体と飛び古した個体とでは違う事は有り得る。

【発生期】
年1化。5月の下旬より羽化し始め、7月最盛期。♀は10月下旬まで見られるという。

【幼虫及び食餌植物】
マンサク科 ナガバマンサク Eustigma oblongifolium。
『アジア産蝶類生活史図鑑』には、「台湾と香港に限り自生する植物で、台湾での分布は狭く、日月潭、埔里周辺以外では見出されていない。にもかかわらず、この蝶の分布は台湾ではかなり広いという事実、また中国からインド北部にわたる広汎な分布を考えあわせると、本種は他にも食餌植物を有するのではないかと考えられる。」と書いてあった。
その後、新たな食樹は見つかったのだろうか❓

ネットで探すと、次のような食樹が見つかった。

青剛櫟 Cyclobalanopsis glauca glauca
秀柱花 Eustigma oblongifolium
赤皮 Quercus gilva
青剛櫟 Quercus glauca

上から2番目がナガバマンサクだ。
他は属が違う植物みたいだね。漢字の字面からすると、どうやらカシ類みたいだ。って云うか、この学名は見たことあるぞ。何だっけ?、アラカシ?
あれっ( ゜o゜)❗❓、1番目と4番目は属名は違うけど、どちらも青櫟と書いてある。小種名も同様にglaucaとなっている。これは多分シノニム(同物異名)だね。
で、確認してみたら、やはりアラカシでした。
そして、3番目はイチイガシでありんした。

そうでした。そうでした。
アラカシはタカサゴイチモンジの食樹で、スギタニイチモンジはアラカシとイチイガシの両方ともを食樹としているんでしたね。
ここからもオスアカミスジがAdoliadini(イナズマチョウ族)の一員であることがよく解る。
きっとナガバマンサクは食樹としてはイレギュラーで、基本的にはブナ科カシ類が食餌植物なのだろう。

でも、ヘ(__ヘ)☆\(^^;)ちょっと待ったらんかい❗
たしか『アジア産蝶類生活史図鑑』には、何かカシ類で飼育したけど死んでもうたと書いてなかったっけ❓
慌てて確認してみる。

「Quercus acuta アカガシで採卵、飼育を試みたところ、多数の卵を得て2齢まで成育したが、越冬中に死滅。その後、中齢幼虫、5齢幼虫にこの植物を与えるという試みがなされたが、摂食はするが成育せず、蛹化にいたったものは1匹もいなかった」。

そっかあ…、アカガシはダメだったけど、アラカシとイチイガシはOKだったのね。
また、迷宮に迷い込むかとビビったけど、セーフだ。

幼虫はイナズマチョウ軍団特有の邪悪🐛ゲジゲジさんだ。
気持ち悪いので、ここから先は🚧閲覧注意だすよ。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『生物多様性資訊入口網』)

スギタニイチモンジやタカサゴイチモンジの幼虫に似ているかな?
どちらにせよ、(|| ゜Д゜)鳥も逃げ出しそうな悪虐非道的な見てくれじゃよ。

前回にイチモンジチョウ類Athyma属との関係性について触れたが、画像を添付し忘れた。

【タイワンイチモンジの幼虫】
(出典『圖録検索』)

(出典『圖録検索』)

(出典『生物多様性資訊入口網』)

Athyma属の幼虫は、ゲジゲジではなくトゲトゲなのだ。これまた毒々しくて邪悪じゃのう(  ̄З ̄)
オニミスジ Athyma eulimeneは、果たしてどんな幼虫なんでしょね?

オスアカミスジに戻りましょう。
卵は1ヶ所にまとめて産みつけられるようだ。
イナズマチョウの仲間は、葉っぱに1卵、1卵分けて産むのが基本だから変わっている。そういう産み方をするのは、他にタカサゴイチモンジくらいしかいないそうだ。

(出典『圖録検索』の画像をトリミング。)

複雑なデザインで美しい。
イナズマチョウといい、Euthalia類の卵はまるで宝石みたいだ。

蛹も美しい。

(出典『生物多様性資訊入口網』)

(出典『圖録検索』の画像をトリミング。)

多分、イナズマチョウの中では最も美しい蛹なのではないかと思う。ガラス細工のようだ。ガレ(註1)が見たら物凄く興奮したに違いない。

                  おしまい

 
追伸
ようやくイナズマチョウのグループが終わった。
でも、まだ9種類の蝶しか紹介していない。台湾の蝶は約350種類もいるのだ。二度の採集行で100
種類しか採っていないとしても、まだまだ先は長い。
正直、うんさりだ。続けていく自信無しである。

今回のタイトルは、最初『豹柄夫婦』であった。
それが夫妻になり、そこに生活が加わり、最後は華麗なるという形容までついてしまった。
「華麗なる」は乗りでつけちゃいました。本文とは何ら関係ないです。どこが華麗やねん!とツッコミが入りそうだが、文句、苦情等は一切受け付けませんので、あしからず。

採集記はアメブロにあります。
『発作的台湾蝶紀行』第9話 空飛ぶ網
例によってURLの貼り方を忘れたので、読みたい方は誠に恐縮ですが、自分で探して下され。

(註1)ガレ
フランスの著名なガラス工芸家、エミール・ガレ(1946~1904)のこと。
生物をモチーフとした作品を数多く残した。
作品はどれも美しい。同時にグロテスクな魅力を放っている。
多分、夏あたりに東京で大きな展覧会(サントリー美術館?)があるのではないかと思う(間違ってたら御免なさい)。関東近辺に住まわれる方は、是非足を運ばれることをお奨めします。

 

台湾の蝶6 タカサゴイチモンジ

 
     タテハチョウ科 その5

      第6話『碧緑の銀河』

  
緑系イナズマチョウの第3弾である。

【Euthalia formosana タカサゴイチモンジ♂】
(2017.6.20 台湾南投県仁愛郷南豊村)

この蝶も前回とりあげたスギタニイチモンジと同じように、光の当たる条件によって色が幻妖に変化する。

(2017.6.15 台湾南投県仁愛郷南豊村)

特に羽化後間もないものは鱗粉に蒼がのり、美しい。
しかし、その蒼はやがて失われ、すぐに白茶けた色に変わってしまう。

(2015.7.13 台湾南投県仁愛郷親愛村)

2016年は採れども採れどもそんな擦れた♂ばかりだった。仕方なく殆んどはリリースした。
ようやく2017年に綺麗な個体を拝めたのだが、2、3日後にはもう羽が擦れ始めていた。たぶん♂はテリトリーを張って他の個体を追い回したり、樹林内を縫うようにして飛ぶので羽の損傷が早いのだろう。

裏面の画像も添付しておきましょう。

タカサゴイチモンジは淡いグリーンがかった色だったが、こちらは黄色い。
これはこれで美しくはあるが、何とも惜しい。
個人的には裏が淡いグリーン系のユータリアであって欲しかった。もし翡翠色だったら、ユータリア有数の美蝶となってたのにね。

参考までに淡いグリーン系の裏面とは、こんな感じ。

【Euthalia Patala パタライナズマ 裏面】
(2014.4 Laos oudmxay)

美しい。
まるで冥界を彩る幽玄なる翠だ。この世の色とは思えない。

タカサゴイチモンジもスギタニくんと同じで、標本になってしまえば独特の輝きを失ってしまう。色も何だか地味な感じになっちゃう。渋いっちゃ、渋いんだけどね。

比較的まだ美しさは残っているが、たぶん時間が経てば色褪せてしまうに違いない。

一応、去年の擦れた個体も添付しておくか。

帯が白くなっちゃうんだよね。
ちよっと別種に見えなくもない。それくらい印象に差がある。やはり、タカサゴイチモンジは是非とも鮮度の良い実物を見てほしい。でないと、その本当の魅力は解らない。

( ; ゜Д゜)あっ!、胴体に黴が生えとるぅ~。
完品じゃないし、まっいっか…。

さあ、続いてはメスでごしゃるよ。
スギタニもそうだったけど、タカサゴもメスが白眉だ。ユータリアの魅力の真髄はやはりメスにある。

(2017.7.4 台湾南投県仁愛郷南豊村)

♂よりもかなり大きいし、帯が太くなる。
スギタニイチモンジの回で、飛ぶさまはオオイチモンジを彷彿とさせると書いたが、本当はこっちの方がオオイチの♀っぽい。梢の上を雄大に飛んでいるのを見掛けると、ワタクシ、オートマチックに萌えまする。

その蒼によろめきそうだ。

(2016.7.15 台湾南投県仁愛郷南豊村)

美しいよねえ…。
下翅の帯の周辺は、まるで天の川に散りばめられた銀河のようだ。碧緑が妖しく耀いている。
或いは、天の蒼白きカーテン。オーロラにも見える(画像は拡大できます。鱗粉がヤバイです)。

実を言うと個人的な好みとしては、台湾のLimbusa亜属(緑系イナズマチョウ)の中では、このタカサゴイチモンジが一番好きだ。これだけ帯が広いユータリアは、たぶんタカサゴ以外にはいないのではないかと思う。イナズマチョウ分布の東端、極東に棲むユータリアだけあって、独自進化した特異な存在といえよう。似たようなもんだらけのリンブサ界(緑系イナズマ)にあって、ソックリさんがいないというのは、極東特産種の面目躍如ってところでしょう。

他にも、好きがゆえなのか♀の写真は沢山ある。

(2016.7.5 台湾南投県仁愛郷南豊村)

たぶん、下3つは初めて採ったメスだな。
この時も、感動と安堵で指先が震えたよね。
個体差はあるけれど、総じてオオイチの♀よりも大きいのではないかと思う。立派なのですよ。
その迫力と玉虫色の翅に( ☆∀☆)萌え~なのだ。

まだまだ画像はある。
お次は黄色く写ったヴァージョン。

(2016.7.7)

(2016.7.29)

(2017.6.26)

(2017.6.20)

飽きた…。画像はまだまだあるけど、もうええやろ。

こんなにも色が変わって写るのは、たぶん背景の色と無関係ではないと思う。にしても、カメラがそんなにビビットに反応すると云うことは、よほど鱗粉が複雑な色の組み合わせで成り立っているのだろう。

一応、裏面の画像も添付しておきましょうネ。

♂の時に黄色いとコメントしたが、厳密的には緑がかった黄色と云うのが正しい。

おっと、忘れてはならぬ。♀の標本写真も添付じゃけえ。

しもた。翅がちょこっと欠けとるやんか。
ならば、これで許してけろ。

触角がやや気になるが、まあまあの出来だね。
もっと完璧な奴もある筈だが、探すのはメンドーだからヤメ。筆を前へ進めよう。

忘れてはならぬ。裏面画像も添付じゃよ。

さてと、そろそろ出口が見えてきた。今回はどうやら迷宮にハマらずに済みそうだ。このまま怒濤のガブリ寄りで乗り切ろう。
ではでは、最後に種解説をしときますね。

【生態】
台湾特産種。学名の小種名formosanaは「台湾の」と云う意味。補足すると、formosa(フォルモサ)とはヨーロッパでの台湾の別称で、ポルトガル語から来ており、「麗しき島」を意味する。
そういえば前回書き忘れたけど、スギタニイチモンジの小種名の「insulae」はラテン語で「島」を意味します。奇しくも、両種とも島に関連した学名がついているんだね。

台湾での呼称は「臺灣(台湾)綠蛺蝶」。
如何にも台湾の固有種だと解るネーミングだ。
他に、臺灣翠蛺蝶、高砂綠一文字蝶、臺灣綠一字蝶、臺灣蛺蝶と云う呼び名もあるようだ。

図鑑によると、台湾全土(厳密的には中北部から中南部)の低中山地に分布するが、中部の山地に多く見られるという。
しかし、中部でも何処にでもいるというワケではなく、その分布はある程度局所的なのではないだろうか。まあ、ホリシャイチモンジやスギタニイチモンジと比べると、会える確率は遥かに高いけどね。
垂直分布はスギタニイチモンジに比べて低く、標高150~2700mの間の常緑広葉樹林周辺に見られるとあった。
自分の経験では、標高800~1300mの間でしか見た事がない。中でも1000m前後で多く見うけられた。低山地には、あまりいないんじゃないかと思う。
また、拓けた場所ではあまり見られず、生息環境は樹林帯が中心だろう。しかし疎林には見られず、樹の密生した深い森を好む。
そういえば渓では殆んど見たことがなく、尾根や山頂、林道で見かける事が多かった。

年1回の発生で、早いものは4月から現れ、11月まで見られるが、6~8月に多い。
しかし完品を観察したければ、8月は厳しいかと思われる。埔里周辺では、♂は6月上~中旬、♀は6月下旬~7月上旬が適期かと思う。とはいえ、年によって発生がズレる場合もあるかと思われるので、鵜呑みにはしないように。文句は一切受け付けませんから、あしからず。

♂♀ともに梢上を飛び、飛翔は敏速と書かれているサイトもあったが、イナズマチョウの中では圧倒的にトロい。飛ぶスピードがマッハのユータリア軍団(イナズマチョウ属)にしては遅いし、それに超敏感なこの種群にあっては明らかにアホだ。

♂は午前中に林縁でテリトリーを張る。高さはそれほど高くなく、だいたい3~5mくらいの場合が多かった。但し、その地の樹高の高低もあるので、これがノーマルな生態とは断言できないところはある。
埔里周辺での観察では、午後になると♂が林縁やその内部を縫うようにして緩やかに飛び始める。多分、メスを探す探雌行動ではないかと推測される。
♀は林縁から少し入った暗い環境にいる事が多かった。飛翔は緩やかで、すぐ止まるので捕獲はユータリアの♀にしては容易。とはいえ、♂よりも敏感だし、森の奥に入られると厳しい。
♂♀ともに落下発酵した果実、獣糞、樹液に集まる。又、たま~に林道上に翅を広げて止まっている。

アメブロに書いた『発作的台湾蝶紀行』では、第8話「麗しき女王、フォルモサ」、第13話「歪む空間、痛恨のバックファイアー」等々の回に登場します。興味のある方は、探してみてちょ。

【幼虫の食餌植物】
五十嵐 邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』には、こうあった。

「トウダイグサ科 Matllotus philippensis クスノハガシワに産卵するものが内田春男により採集され(1999年)、飼育に成功した。この他、ブナ科のLithocarpus ternaticupulus ナンバンガシから数個の蛹の脱け殻が発見されており、この植物が本種の食餌植物であることはほぼ確実と考えられる。アラカシ、アカガシを用いてもきわめて良好な結果が得られることから推察して、さらにトウダイグサ科、ブナ科の食餌植物が発見されることはありうる。」

ネットで見つけた『DearLep 圖録検索』のページには、以下のものが食樹として列記されていた。

・Cyclobalanopsis longinux longinux
・粗糠柴 Mallotus philippensis
・三斗石櫟 Pasania hancei ternaticupula naticupula
・青剛櫟 Quercus glauca

1番目は和名を特定できないが、ブナ科 カシ類だね。2番目はトウダイグサ科のクスノハガシワで、3番目は属名は違っているが、たぶんナンバンガシの事だろう。そして、4番目はブナ科 アラカシの事だね。
ようするに、幼虫くんはブナ科とトウダイグサ科の植物を広く餌にしているのだろう。
それにしても、幼虫の邪悪度が凄いわ。
画像、添付しちゃうかどうか迷ったが、えーい載せてやれ!
女子やお子ちゃまは、閲覧注意じゃよ。

(出典『臺灣生物多様性資訊入口網』)

(出典『DearLep 圖録検索』)

何度見てもユータリア属の幼虫は、Σ(-∀-;)ワチャーってなるわ。
スーパーにゲジゲジで、いかにも毒がありそうだ。
そういえば、毒があると書いてる論文があったような気がするなあ…。ラオスの変人さんのだっけ?
もしこんなのが、ふと見たら目の前に止まっておったりしたら、おいちゃん、\(◎o◎)/発狂するね。
今、想像してΣ(´□`;)ゾクゾクッって背中に悪寒が走ったわ。

                  おしまい

 
追伸
今回のタカサゴイチモンジは台湾特産種であり、亜種も無いので、めでたしめでたしの迷宮は無しで、すんなりとクローズできました。
この先も平穏無事に文章が書けることを祈ろっと。