奄美迷走物語 其の九

 

 第9話『誤算のドミノ倒し』

 
2021年 3月26日

翌日も快晴だった。
でも予報では明日からまた天気が崩れるらしい。と云うことは今日もしもフタオチョウやアカボシゴマダラが採れなければ、ワヤムチャ暗黒星雲の只中に呑み込まれるやもしれぬ。こっちへ来てからの天気は基本的にグズつきがちだから、この先ずっと雨が続くことだって有り得るのだ。
そうと解っているだけに気合を入れねばイケんところだが、気持ちは「なんくるないさ」だ。昨日、フタオの飛行ルートは読めたし、経験上アカボシは発生し始めさえすれば楽勝で採れると思ってるから全然追い込まれていないのだ。サクッと終わらせて、とっととイワカワシジミの探索に力を注ごうとさえ思ってた。でもって夜にはアマミキシタバも落として、今日一日で目標を全部達成してやろうとまで企んでいたのである。

 
【Polyura weismanni フタオチョウ 春型♂】

【同♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【夏型♂】

【同♀】

 
【アカボシゴマダラ Hestina assimilis 春型♂】

【同♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【夏型♂】

【夏型♀】

 
午前10時前に根瀬部に到着。

 

 
とりあえずバナナトラップをかけて回る。昨日、用意しなかったのは単に二日酔いで頭が回らず、持って来るのを忘れたからだ。べつになくても採れると思ってたから、さして気にも留めてなかったけどさ。それにそもそも春はフタオもアカボシもトラップにあまり誘引されないと言われている。それを知っていたのも大きな精神的瑕疵にはならなかったのだ。
でも今日は確実を期してトラップを用意した。奄美在住の標本商Fさんも春はトラップには来ないと言っていたが、全く誘引されないなんて事はないだろう。春型だけが餌を摂らないなんて事は有りえへん。エナジー補給なしでは活動でけんがな。何かは食っている筈だ。だいたい春と夏とで習性がそんなにも変わるだなんて俄(にわか)には信じ難い。そんなもん、蝶における都市伝説みたいなもんじゃないのぉー(´ε` )❓
それに『蝶屋(Tefu−ya)のブログ』には、春型のフタオチョウについて、こうも書かれてあった。

「しかし、習性は異なり、1化(春型のこと)は極端に敏感で、上空を旋回、飛翔する個体に合わせてネットを持った採集者など、地上で動く人がいたら100%近くトラップどころか下方には降りてこない傾向のため、トラップ設置場所から多少離れた周辺のミカン畑でカラスアゲハ、ミカドアゲハ、ジャコウアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハ、また、林道沿いの林縁などではスミナガシ、アオバセセリ、クロセセリ、イワカワシジミなどを採集し、1時間前後してからトラップを見回る。一方2化は周辺に採集者がいても仕掛けたトラップ前方空間を低空で旋回し、空中戦でも容易にネットイン可能である。」

ようするに春には来ないワケではなくて、単に用心深くて中々寄ってこないって事だ。ならばコチラも用心深くしていれば、何とでもなる。テリトリー待ち採集とバナナトラップの2本立てでいけば、どちらかで採れるだろう。

さておき腹が減っては戦はできぬ。
トラップをかけ終わっところで腹ごしらえ。

 

 
今日はカツカレーにした。
カツと勝つをかけたワケやね。我ながら古典的な願掛けだと思うけど、気持ちを少しでもアゲアゲにしようというささやかな努力なのだ。こういう細かな事が意外とメンタルを底支えしてたりもするからね。
しかし、テンションは1ミリも上がらない。見た目が旨そうだったから期待したのに、味は可もなく不可もなくってところで見事に裏切られた。これまた誤算だよ。旨かったら、よし今日はイケるぞ!とか士気も少しは上がるのにさ。こういう小さな躓きばっかで、今一つ波に乗れないのかもなあ。

午後11時になった。
そろそろ飛び始める時刻だが、でもフタオちゃんは姿を現さない。まあ、そのうち飛んでくんだろ。なんくるないさ。

午後12時を過ぎた。
それでも飛んで来ない。絶好の採集日和なのに、まさか1つも飛んで来ないだなんて想定外の誤算だ。( ;∀;)なしてー❓いったい何が起きているのだ❓理由がワカラナイ。まさかの鬼日❓蝶採りをやってると、たまに天気、気温、湿度、時期など全ての条件が揃っているのに、全くターゲットが姿を現さないことがある。そうゆう日を業界では鬼日と呼ぶのである。

村のおじーとおばーが歩いてきたので挨拶する。
『何、採っとるのー❓』
『蝶ちょですぅー。でも目的の奴が全然飛んできまへーん。』
『頑張りんさいねー。』
『ハーイ、頑張りますですぅー。』

ちょっと元気が出た。旅での現地の人とのふれあいは心が和むものだ。だから挨拶は大切だ。なのにロクに挨拶もできない虫屋が多すぎる。ゆえに現地の人に嫌われて採集禁止に繋がったりもするのだ。見ず知らずの人間が挨拶もなく自分の土地をウロウロしてたら、誰だっていい気はしないだろう。
過去にも度々言っているが、挨拶できない奴はクズである。

午後1時。
(◎o◎)ほぇ〜、ホント何が起こっておるのだ❓全く飛んで来ないし、トラップも閑古鳥だ。フタオどころかハエ1匹寄って来ない。
トラップに何か不具合でもあるのかと思って鼻を近づけて匂いを嗅いでみるが、良い感じに発酵していて申し分ない状態だ。なして❓ やはり春はバナナトラップに寄って来ないというのはホントだったんだね。解せないが、事実として受け容れざるおえない。
そうゆうワケで、あまりにもヒマなので少し周囲を歩き回ることにした。

道に出て暫く歩くと、木の梢から蝶が飛び立った。

( ゚д゚)いたっ❗❗

ひと目みてフタオだと解った。もう昨日みたいに他の蝶と間違うことはない。アホはアホなりにちゃんと学習しているのだ。
多分、昨日の個体に違いない。キミ、ここに居たのね。
しかし軽く旋回したかと思うと、直ぐにまた梢に戻って静止した。

 

(正面の木、右梢の一番高い所の右端に羽を閉じて止まっている。画像を拡大すると止まっているのが辛うじてわかります)

 
結構、高そうだ。とりあえず長竿を伸ばしてみる。
でも最初から薄々感づいていた事だが、6.3mでは全然もって届かない。という事は、止まっている位置は優に8m以上はありそうだ。
図鑑等には高い位置に静止すると書いてはあったが、予想以上に高い。まさかの誤算だ。誤算、誤算と、さっきからバカの1つ覚えみたいに並べ立ててる自分に情けなくなってくる。これでは、まるで自分のおバカぶりを自ら喧伝しているみたいじゃないか。いっそ情けないついでに、言い訳をカマしておこう。
実を言うと、海外を含めてもフタオの♂がテリトリーを張っているのを採った事は一度もない。吸水やバナナトラップ、獣糞に来た奴しか採ったことがないのだ。それでも充分採れるから、そんな効率の悪い採り方なんぞ試みたことさえないのだ。そもそもテリトリーを張っているところを見たことさえ殆んどない。
あっ、思い出した。そういやタイとミャンマーとの国境で見たな。あの時も10m以上の梢でドロンかエウダミップスかが何頭かで猛スピードで追い掛け合ってたわ。いやネペンテスだっけか❓まさかのホウセキフタオだったりして…。兎に角、ありゃ採れんわと思ったよ。全然、話にならないって感じ。

 
【エウダミップスフタオ Polyura eudamippus ♂】


(2016.4.14 ラオス バンビエン)

 
【ドロンフタオ Polyura dolon ♂】

(2014.4.13 タイ ファン)


(2016.4.22 ラオス ウドムサイ)

 
画像のドロンフタオのラベルを見て記憶が甦ってきた。エウダミップスの可能性もないではないが、たぶんドロンだ。なぜならタイ北部のFang(ファン)で初めてドロンに遭遇したから、よく憶えているのだ。但し、此処にはエウダミップスもいる。だから最初はエウダミップスだと思った。しかし止まっている姿に違和感があったので、再度仔細に見て『コイツ、違う奴っちゃ❗』と気づいた時には結構な衝撃だった。
海外に蝶採りに行く時は、何がいるかロクに調べて行かないので、こうゆう事はチラホラあった。ちゃんと調べてから行けよと、よくお叱りをうけるが、そっちの方が面白いから今もスタイルは変わっていない。予定調和がない分、楽しめるのだ。今回みたく目的がハッキリしている方が、採れないという事にかえって苦しめられたりもする。それはそれで楽しいのだが、その場合はあくまでも採れてこそのカタルシスであり、エクスタシーなのだ。今みたいな状態だと、殆んど拷問だ。

ネペンテスとホウセキフタオの画像も用意しちゃったんで、せっかくだから貼付しておこっと。

 
【Polyura nepenthes ♂】


(2016.3.11 タイ チェンマイ)

 
【Polyura delphis ♂】

(2015.5 マレーシア キャメロンハイランド)

 
余談だが、ホウセキフタオは裏面に宝石のような鮮やかな色が散りばめられていることから名付けられた和名です。

 

(2011.3.1 マレーシア ランカウイ島)


(2011.2 マレーシア キャメロンハイランド)

 
話を奄美のフタオに戻そう。

(-_-;)参ったなあ…。この状態だと、指を咥えて見ているしかない。再び飛んで、そのうち低いとこに止まるだろうという希望的観測で待つしかあるまい。
だとしても、今できうる事は全てしておこう。
先ずは網の色を赤から白に替える。ラオスやタイで2度ほどフタオが白網に止まったのを思い出したのだ。ちなみに赤網にはアゲハ類やツマベニチョウが寄って来るから使ってた。ターゲットのアマミカラスアゲハにはフル無視されてたけどさ。

 

 
次にトラップを全て回収してきて、フタオの止まっている木の周囲に掛け直す。目の前にいるんだからトラップの匂いに感づかない筈がなかろう。フタオといえば、食いもんに意地汚い事で知られている。吸水に来た時は夢中になってるから手掴みでも採れるし、トラップに来た時は吸汁し過ぎて腹がパンパンになって飛べなくなり、ボトッと下に落ちたりするのだ。そんな食い意地の張った奴に、目の前の御馳走を我慢できるワケがなかろう。

しかし相変わらず止まったまんまで、微動だにしない。他のオスが飛んで来ないせいもあるのだろうが、アオスジアゲハが近くを飛んでも無視だ。オスが縄張り争いをするチョウの大概はライバルである同種のみならず、縄張り内に入って来る別な種でも追い立てるのが普通だ。国蝶オオムラサキなんぞは、自分よりも大きい鳥まで追い掛け回す始末なのだ。

 
【オオムラサキ Sasakia charonda ♂】

(2020.6.26 東大阪市枚岡公園)

 
気まぐれに、たまに思い出したように飛ぶが、あまり遠くへは行かず、直ぐにまた梢に止まる。
これまた誤算である。テリトリーを張るチョウの殆んどはせわしない。興奮気味で頻繁に飛び立ち、あちこちに止まるケースが多いのだ。それによってチャンスも生まれてくる。たまに低い位置にも止まるからね。それがこんなにも不活発だなんて思いもよらなかったよ。そういや昨日も過ごした時間のわりには飛んでる姿を見た回数は少ない。ワケわからんぞ。そんなにも懶惰(ものぐさ)なチョウなのか❓ たまたまこの個体がそうなのかもしれないが、サボんなよなー、働けよ。そんなんじゃメスをゲットできひんぞ。

午後2時前。
トラップはフル無視され続けている。コレまた誤算だ。まるっきり相手にされてない。寄って来る素振りさえ見せないのだ。

午後2時15分。
そろそろテリトリーを張る時間も終わりに近づいている。悲痛な思いで、飛び立つことを願う。
したら、通じたのか飛んだ❗そしてスピードを上げて木からどんどん離れてゆく。すかさず後を追う。
見てると、昨日、Fさんと見た場所で旋回しだした。採るチャンスを求めて裏側に回る。しかし間に合わなかった。左側に旋回して奥へと飛んで行く。またあの木に戻るつもりか❓だがそっちは行き止まりになってて、追い掛けられない。慌てて来た道を引き返す。
走って元の場所まで戻ると、やはりいた。止まらすにまだ上空を飛び回っている。なるほど、ルートは読めたぞ。この木を拠点にして、時折足を伸ばしてパトロールに出るのだろう。しかし、こんな珠にしかパトロールに出ないとなると、蝶道で待つ方法は使えない。あまりにも効率が悪過ぎる。そしてトラップでも採集は望めないとなると、八方塞がりだ。ならば、ここで何とか仕留めておきたい。
やがて白き騎士は左の木に移り、少し高度を下げた。そしてチラチラと細かく羽ばたき始めた。止まりたがってるように見える。止まればチャンス到来だ。あそこならギリギリで届くかもしれない。

止まれ。
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれー

心の中で、エヴァンの「ダメだダメだ逃げちゃダメだ」の碇シンジばりに連発で唱え続ける。

(☆▽☆)止まった❗
この千載一遇のチャンス、逃してなるものか❗大急ぎで長竿をスルスルと伸ばす。

Σ(゚口゚;)ギャヒーン❗でも微妙に届かん❗

30cmだか50cmだか、あと少しだけ届かんのだ。
クソッ、なり振り構ってらんない。かくなる上は恥も外聞も捨てちゃるわい。スクーターの置いてあるもとへと走る。

─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ ブゥィーン
乗って戻って来て、道路の端ギリッギリに停める。そしてキッと上を見据えて、まだ同じ場所に止まっているかを確かめる。
(◠‿・)—☆いるっ❗
驚かせないようにゆっくりとバイクをさらに前へと進め、位置を調整する。心の中のわさわさ感が急沸騰する中、焦るように長靴を脱ぎ、シートの上によじ登る。
だがスペースは思ってた以上に狭い。おまけに真っ平らではなくて微妙に傾いている。慎重にバランスをとりながら竿をそろりそろりと上へと伸ばしてゆく。しかし竿を伸ばせば伸ばすほどバランスを取るのが難しくなってくる。竿を一段伸ばすごとに重さが腕に乗しかかり、少しの風にもあおられて、生まれたての子鹿みたく足がワナワナするのだ。焦るなオレ、落ち着けオレ。ここで落っこちるワケにはゆかぬ。

あと一段を残したところで、止まっている位置を確かめる。
(*゜0゜)ゲッ❗真下すぎて枝先が被さって蝶の姿が見えない。

だからといってバイクの位置を後ろに下げれば、今度は届かない可能性が出てくる。それに、そうなると竿を一旦縮め直してから再度伸ばさねばならない。もしも、あたふたしている間に飛ばれでもしたら、泣くに泣けない。

肝を据える。ゆっくりと息を吐き、最後の一段を伸ばす。
えーい(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ままよ。
伸ばしきったところで、だいたいのアタリをつけてバサッと上から被せた。

コンマ何秒かが過ぎた。
入ったのか…❓
そう思ったのも束の間、真上をゆっくりとスローモーションのように飛び立ってゆく姿が見えた。


∑( ̄皿 ̄;;)ヒィーッ、やらかしイガ十郎(༎ຶ ෴ ༎ຶ)

採れたと思ったのに、大大誤算じゃないか。

彼はさして驚かされたという風でもなく、王者の如くゆっくりと旋回して、また最初の高い梢に戻って静止した。
なぜハズした❓コースは間違ってなかった筈だ。だとすれば高さだ。もしかしたらアレでもまだ届いていなかったのかもしれない…。となれば、あの位置でも7mはあった事になる。クソッ、持ってくる長竿の選択を完全にミスった。6.3mもあれば充分だろうとナメてかかったのが激しく悔やまれる。

茫然とその場で立ちすくんでいると、さっきのおばーが又戻って来た。
『採れたかねぇ❓』
『採れましぇーん。今さっき逃げられましたー༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

その後、30分近く待ったが、彼は眠りについたかのように強い風が吹いても微動だにせず、二度と舞い上がることはなかった。

                         つづく

 
ここで、キリよく終わりたいところなのだが、話はまだ続く。
2回に分けるとレイアウトをやり直さなければならないし、他にも何だかんだと面倒ごとが増えるのだ。

ショックを引きずったまま、あかざき公園へと向かう。

  

 
慰霊塔でアカボシを待つ。でも心ここにあらずで、半ば呆けてベンチに座っていた。さっきのショックを引き摺ったままで、気力萎え萎えである。

午後4時。
そんな状況下、奥から格子模様の大型の蝶が飛んできた。
でも緩やかな飛び方だったし、リュウキュウアサギマダラだと思った。大きさ的にもそう見えた。アカボシのオスは、もう少し小さかった筈だ。それに此処でメスを見た事はないし、時期的にも未だメスは発生していないだろう。ということは、やっぱリュウアサだろう。だったら無視だ。リュウアサなんて何処にでもいる普通種だから、んなもんを採るためにわざわざ立つ気にもなりゃしない。

 
【リュウキュウアサギマダラ】

 
けど近づいて来たら、にしては地色が白いような気がしてきた。でも立ち上がるのが邪魔くさかった。心が折れているので「わざわざ行ってみたら、リュウキュウアサギマダラでしたー」じゃ、傷口に塩を塗るようなものなのだ。下手すりゃ、立ち直れなくなる。
蝶は6、7m横を通り過ぎて東屋に向かって飛んでゆく。アホ蝶だな、そのまんまだと壁にぶつかるぞと思ってたら、直前で慌てたように左に軌道を変えた。ざまあない。
だが次の瞬間、赤い紋がハッキリと見えた。
(,,゚Д゚)ハッ、じゃなくてアカボシだ❗
そう気づいた時には、時すでに遅し。
慌てて追い掛けるが、早くも壁の左側の空間を抜けようとしている。必死で距離を詰めたはものの、どうみても届きそうにない。網を振るチャンスを逸して見送るしかなかった。

誤算のドミノ倒し。誤算も極まれりの大誤算だ。
そして、フタオの♀が飛んで来た時と同じようなシチュエーションでもあった。つまり初動が遅れて、大チャンスをみすみす逃してしまったワケだ。学習能力ゼロじゃないか。アホは、やっぱり何処までいってもアホだ。
あれだけ大きかったという事は、たぶん♀だったのだろう。♂さえまだ見てないのに、やや遅れて発生する♀がまさかもう飛んでいるだなんて、これっぽっちも考え及ばなかった…。痛恨のボーンベッドである。♀は♂と比べて、そうは採れない。♂ならば、まだまだチャンスもあるだろうが、♀に又会える保証はないのである。それを考えると忸怩たる思いだ。ここぞという時に力を発揮できない者には、神様はけっして果実をお与えにはならないのだ。
アカボシの♀は毒のあるリュウキュウアサギマダラに擬態していて、飛び方までソックリ似せていると言われている。その擬態精度は高いと評価されており、標本商の森さんでさえも騙されたと言ってた。けれど、自分は一度も奄美で騙された事はなかった。んなもん、楽勝で見破れるわいと思っていたのだ。その後、台湾のアカボシゴマダラ(註1)の擬態精度の高さには一瞬は騙されたものの、ソレとて直ぐに違うと気づいた。だから騙されるワケがないという自負があったのだ。

 
【台湾産アカボシゴマダラ♂】

【同♀】

(2016.7 台湾南投県仁愛郷)

 
それがこの期に及んで騙されるとは何たる恥辱、まさかの失態だ。我が絶不調ぶりに、もう膝から崩れ落ちそうだよ。認めたくなかったけど、珍しいくらいに今のオラって何やってもダメダメだ。メンタルとか、もうそうゆうレベルの話ではない。たぶんメフィラス星人(註2)が、何らかの理由でワシのことを悪質な手で妨害しているのだろう。

その後、予想通り二度とアカボシは姿を見せなかった。
これを予想通りって言ってる時点で、メンタルが破壊されてる証拠だ。
もう、┐(´д`)┌お手上げでござんすよ。

                         つづく

 

女の子たちが使いきれなかったタコと伊勢エビを冷蔵庫に残していったので、折角だから調理することにした。
ここ「ゲストハウス涼風」には台所と冷蔵庫があって、自分で食材を持ち込んで料理をすることもできるのである。
とはいうものの、心はボロボロなのだ。わざわざ買物にまで行く気は起こらない。とりあえずは誰かが残していった調味料と食材とで何とかしよう。

①これまた女の子たちが残していったサラダ用の野菜があったので、それをサッと洗ってザルにあげ、水を切って皿に盛っておく。

②伊勢海老を一口大に切る。そこに辛うじて残っていた小麦粉を申し訳程度にまぶす。ちなみに、有れば片栗粉を使ってたと思う。

③フライパンを弱火にかける。温まったところで胡麻油を入れる。そしてそこに冷蔵庫の隅で1万光年は忘却されていたであろうチューブ生姜を少量入れる。

④香りが立ったところで、ガチ戦闘態勢に入る。さあ、こっからが本番だ。一気呵成に攻めねばならぬ。伊勢海老を半生に仕上げたいから、時間との勝負なのだ。
火を強め、煙が出たら伊勢海老を投与。続けて塩、黒胡椒、オイスターソースを怒涛の如く立て続けにブチ込み、奥義を繰り出す。アタタタタタタタ…、電光石火で炒める。おそらくこの間、30秒くらいだったろう。気分は超絶高速で両腕を動かし、残像で千手観音みたくなっとる感じだ。

 

(出展『満天握り月太郎』)

 
千手観音の如くフライパンを振ってる漫画を探したが、見つかんなくて『満天握り月太郎』から拝借させて戴いた。
月太郎は満月の夜にしか必殺技「満月握り」が出せないサイコパス寿司職人なのら〜。
ちなみに本日は満月で、しかもスーパームーンの皆既月蝕だという稀有な日である。何と24年振りの事らしい。
おそらく月太郎は超絶奥義の「月蝕スーパー満月握り」を繰り出すことであろう。

 

 
たぶん、これくらいのサイコ野郎にはなってくれるだろう。

⑤あとは野菜の上に盛って出来上がり。

  
【伊勢海老の怒涛千手観音炒め】

 
(◠‿・)—☆我ながら上出来だ。美味い。制約ある中でのベストなプレーだろう。中々にフレキシブルなパフォーマンスだったと思う。
食べながら、ぼんやりと思う。その優れた資質がナゼにフィールドでは反映されないのだ。今日もスクーターの上に乗っかるとか柔軟でフレキシブルな対応はしていた筈だ。なのに結果が伴わない。
考えてみれば、奄美に来てからずっと誤算続きだ。この迷走のループ、いつまで続くのだろう。

                         つづく

 
追伸
「つづく」が連続して続くという異例の展開だったが、今回は註釈が少ないので、書くのは楽だった。
でも古い展翅標本を多く載せたので、別な意味でのストレスがあった。気にくわない展翅画像がいくつかあるのだ。例えばリュウキュウアサギマダラなんて、今だったら前翅をあんなにも上げないからさ。
それで思い出したよ。後々わかるのだが、この日に見たアカボシは、よくよく考えてみれば、メスではなくてオスだった可能性もある。春型は夏以降に出てくるものよりもデカいのだ。夏以降の個体しか見たことがない者には、その大きさから初見はオスでもメスに見えてしまうのである。もしそれに直ぐ気づいていたならば、リュウアサと見間違うなんていう恥ずかしいミステイクは犯さなかった筈だ。

 
(註1)台湾産アカボシゴマダラ
学名「Hestina assimilis formosana (Moore,1895)」。台湾特産の亜種として記載されている。
台湾産のアカボシについては、拙ブログの『発作的台湾蝶紀行』の42話「気分は上々」等に書いとります。興味のある方は、読まれたし。

 
(註2)メフィラス星人

(出展『メタボの気まぐれ』)

 
『ウルトラマン』の第33話「禁じられた言葉」をはじめ、ウルトラシリーズに度々登場する宇宙人。別名「悪質宇宙人」。
ボスキャラ的存在で、知能が高くて紳士的だが、自分の思い通りに事が運ばないと激昂する。
名言も多く、ハヤタ隊員(ウルトラマン)に対して『お前は宇宙人なのか❓、人間なのか❓』と問いかけたり、『宇宙人同士が戦ってもしようがない。私が欲しいのは地球の心だったのだ。だが私は負けた。子供にさえ負けてしまった。しかし私はあきらめたわけではない。いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。また来るぞ。』と言い残して去ったりもする。
だが、一方では『卑怯もラッキョウもあるものか❗』という知性のカケラもない迷言も残している。

 

奄美迷走物語 其の八

 
  第8話『白き騎士』

 
2021年 3月25日

今日も腐ったアタマで起きる。
時計を見ると既に10時。また痛飲でござるよ。
まあどうせ予報通り雨だろうと思ってカーテンに目を移すと、何だか様子がオカシイ。もしやと思ってベランダに出ると、何と快晴だった。

 

 
そういえば昨夜、酔っ払って小池くんに『明日は晴れる❗まっかせなさーい❗』とか言ってたが、半分希望的観測で言ってただけなのだ。何となくそんな気がして口走ったのだが、夜は採集に出ずで空を見てないから確信があったワケではない。スーパー晴れ男の面目躍如と言いたいところだが、南国の天気はワケわからんわい。こっちの天気予報って何なん❓全然信用でけんやないの。

大急ぎで支度してバイクを駆って西へ。
今回は知名瀬林道をスルーして、更に西へと進む。
毎回、同じポイントに行くのは、実を言うと好きではない。本来的には飽き性なのだ。何度も通ったのは単に知名瀬がアマミカラスアゲハの♀が採れる可能性が一番高いと判断したからにすぎない。でも♀は昨日採れたから、自分的にはもう行かなくても済むやって気持ちなのだ。

やがて、右手に海が広がり始めた。
まだ白波が立っているから奄美本来の海の青さではないが、それでも青い。ワンテンポ遅れて潮の香りが鼻腔にカウンターパンチを送ってくる。海だなあ…。心がほわっとゆるむ。
いい感じに地平線の上も青空だ。本来は海の男ゆえ、俄然テンションが上がる。やっぱ南の島は、こうでなくっちゃね。

午前11時過ぎ、根瀬部の集落へと入ってゆく。
懐かしい風景だ。昔と殆んど変わっていない。

林道の入口横にバイクを停め、小道に入る。先ずはイワカワシジミを探そう。この道の途中にイワカワシジミの食樹であるクチナシがあった筈だ。
足元が覚束ない。何だかヽ((◎д◎))ゝフラフラする。正直言って、体調は奄美に来てから最悪のコンディションだ。まさか晴れるとは思っていなかったら、調子に乗って飲み過ぎた。風景は微妙にゆらゆらするし、自分でもまだ酔っ払ってるのがワカる。
腐った脳ミソで川沿いに歩くと、フェンスのある明るい場所に出た。そこにはまだクチナシの木があった。この木で何度かイワカワシジミを採っているのだ。

 
【イワカワシジミ各種】

 
しかし上から見下ろしたところ、姿は見えない。
仕方なく引き返そうとしたところで、フェンスの向こうから猛烈な犬の吠え声が飛んできた。見ると、奥の檻の中で2、3匹の犬が狂ったように吠えている。
檻の中にいるから恐怖心はない。しかし犬は大っ嫌いだ。天敵と言っていいほどに相性が悪い。何処へ行っても吠えられるから、いつも憎悪を滾(たぎ)らされてる。東南アジアでは犬が放し飼いになってる事が多いから、常にバトルだもんね。
吠えられてるうちに沸々と怒りがせり上がってきた。背中からメラメラと青白き焔が沸き立ち、💢プッツンいく。

(`Д´#)黙れ❗テメェ、ブッ殺すぞー❗

大声で激烈に叫んだら、吠え声がピタリとやんだ。
(`Д´)ボケがっ❗、気合勝ちじゃ。ワシの覇王色の覇気をナメんなよ。今後ワシにまた吠えたら、あらゆる方法で恐怖を骨の髄まで植えつけてやるわ。

道路に戻って少し歩くと、川向うの木で何かが飛んで直ぐに着地した。見ると蝶が羽を広げて日光浴している。
脳ミソが腐ってるから、最初はそれが何なのか理解できなかった。ムラサキツバメ❓ムラサキシジミ❓ウラギンシジミ❓記憶のシナプスが繋がらない。
5秒ほどしてから、漸くそれが何であるのかが解った。イワカワシジミの♂だ。けど尾状突起が無くて羽も擦れてる。
少し迷ったがスルーすることにした。あんなの採っても、どうせ展翅しないだろうから無駄な殺生になる。それに欲しいのは♀なのだ。

さらに進むと曲がり角に網を持ったオジサンが立っていた。

『こんにちわー。何、採ってはるんですかあ❓』
『フタオチョウだよ。』
『えっ、此処にもいるんですか❓』
『いる、いる。分布をドンドン拡大してて、最近では瀬戸内町でも見つかってるよ。』
『もう発生してるって事ですよね。例年、春型はいつくらいから発生してるんですかね❓』
『今年は20日くらいから発生してたね。もう4♂1♀ほど採ってるよ。』
そっか♀まで発生しているのか…。そういや自分もあかざき公園で見たもんなあ。と云うことは時期的にはまだ最盛期ではないにせよ、鮮度的にはベストな時期かもしれない。

 
【フタオチョウ Polyura weismanni ♂】

(裏面)

 
【同♀】

(裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
フタオチョウ(註1)は奄美大島には本来いないチョウだった。
てっとり早く説明する為に奄美新聞社の記事をお借りしよう。

「沖縄県の県指定天然記念物のチョウ・フタオチョウが近年、奄美大島でもよく目撃されるようになってきている。奄美市笠利町から名瀬までの広範囲で目撃情報があり、特にヤエヤマネコノチチなどの樹木の周りで見られやすいという。
フタオチョウはタテハチョウ科フタオチョウ亜科フタオチョウ属のチョウ。台湾や東南アジアに生息する。幼虫のエサはヤエヤマネコノチチやクワノハエノキといった植物。成虫は樹液や腐敗した果物に飛来する。
日本では従来、沖縄本島のみに生息し、同県の指定天然記念物となっていた。2016年ごろから奄美大島北部でも目撃・捕獲されるようになった。
奄美昆虫同好会の富川賢一郎会長によると、沖縄から何らかの原因で迷蝶として飛来した可能性もあるとのこと。」

補足すると、迷蝶ではなくて誰かが沖縄産を放蝶したものが増えたと考える意見の方が多いようだ。自分もその見解を支持する。なぜならフタオチョウが迷蝶として採集された記録が少ないからだ。台湾と与那国島は近いが、台湾のフタオチョウが与那国島で見つかった例はない筈だし、沖縄本島のものが別な島で見つかった例も極めて少ないからだ。たぶん石垣島の1例のみしかなかったんじゃないかな。それも目撃情報で、しかも2018年だから奄美のモノを石垣に放した事が疑われる。
そもそもフタオチョウのような森林性の蝶はオープンランドの蝶みたく海を越えるような大移動はあまりしないと言われている。ゆえに沖縄本島から奄美まで飛んで来たという可能性は極めて低いと考えるのが妥当だろう。両島は距離にして340kmも離れているのである。
他に可能性が考えられるのは、たまたま卵や幼虫・蛹が付いた食樹が植栽されたというパターンだが、ヤエヤマネコノチチやリュウキュウエノキなんて誰も他から持ってきて植栽しないだろう。花がキレイなワケでもなく、食用にされるワケでもないから、植栽する価値のない植物だし、そもそも両方とも奄美には自生しているのだ。

ヤエヤマネコノチチには馴染みがないので、Fさんにどんな木ですか?と尋ねたら、わざわざ生えている場所まで案内してくださった。いい人である。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
奄美に入って、たぶんコレなんじゃないかと思ってた植物とは全然違ったものだった。ワシって飼育をしないから植物の同定能力がアッパッパーなのである。

ポイントに戻ってきたら、Fさんが空を指さした。
『ほらほらアソコ❗、フタオが飛んでるよ❗』
見ると、青空をバックに白い蝶が高速で飛んでいる。しかし、グルッと一周すると反転して、アッという間に何処かへ消えてしまった。
形と大きさからして、たぶんオスだろう。
いる事が分かったら何だか安心した。いる場所さえ分かれば、楽勝で採れると思ったのだ。ゆえにフタオの事はさておいて、Fさんと暫く雑談する。ここは情報収集の方が大事だろう。

Fさんは奄美在住で、標本商をされているという。奄美のフタオの最初の発見者ではないが、2017年には逸早くフタオについての報文を書いておられ、土着している事実を突き止めたのは氏らしい。
また、奄美で日本屈指の美迷蛾であるベニモンコノハ(註2)を見つけて、大量に採ったのもFさんなんだそうな。

 
【ベニモンコノハ】

(出展『世界の美しい蛾』)

 
ベニモンコノハについては、当ブログにて『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』と題して書いたから、その時に論文を読んでいる。たぶん20頭くらいタコ採りされたんじゃなかったかな。
蝶だけでなく蛾も採られるというのは渡りに舟だ。せっかくだからアマミキシタバの事も訊いておくことにした。

 
【アマミキシタバ Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
『アマミキシタバって根瀬部にもいるんですかね❓』
『いるよ。数は多くないけど、この辺だったら何処にでもいるよー。』

『灯火採集だと、何時くらいに飛んで来るんすかねー❓』
『基本的には11時を過ぎないと飛んで来ないかなあ。』

『あと糖蜜とかバナナトラップにも来ますかね❓』
『来る、来る。全然寄って来るよ。』

『ところで幼虫の食樹が去年判明したみたいですけど、アレって何の木ですかね❓』
長年、アマミキシタバの幼虫の食樹は不明とされてきたが、去年に飼育下においてだが判明したそうなのだ。しかし論文が見つけられず、詳細は分からなかったのである。
『たぶん、ウドだったんじゃないかなあ。』
『えっ、ウド❗❓ウドってあのウドの大木のウドですか❓』
『いや、そのものじゃなくて、別種のウドの仲間じゃなかったかなあ。』
ウドなんて全く想定外の植物だったから驚いた。
『あともう一つ別な系統の植物を食ってた筈だよ。けど思い出せないなあ。何だったっけかなあ❓』

結局、Fさんは思い出せなかった。ウドというのも俄に信じ難いところもあるから、本当の事はワカラナイ。Fさんの記憶違いかもしれないし、自分の聞き間違いというかメモリーエラーかもしれない。何せ二日酔いで脳ミソが腐ってたからね。

他に行く所があるからと、Fさんは昼過ぎには去って行った。
色々と御教示下さり、有り難う御座いました。礼(`・ω・´)ゞ
正直、ラッキーだった。数々の重要な情報を得られたからね。昨日、アマミカラスの♀が採れた辺りから流れが良くなってきてる。Fさん曰く、オスがテリトリーを張るのは午前11時くらいから午後2時くらいまでらしい。つまり、まだまだ時間的余裕がある。この調子で楽勝街道爆進じゃい❗

誠に恥ずかしい話だが、正直に吐露しておくとフタオがテリ張りするのは、アカボシゴマダラやオオムラサキ、スミナガシなんかと同じく午後3時前くらいから夕方にかけてだとばかり思い込んでいた。タテハチョウ科のオスの縄張り争いは時刻のズレこそ多少あるものの、知る限りでは全てそうなのだ。ゴマダラチョウ然り、コムラサキ然りだし、他にもアカタテハ、ルリタテハ、メスアカムラサキ、リュウキュウムラサキも夕方なのである。だから昼間に占有行動するなんてコレっぽっちも考えなかったのだ。
それに図鑑によってはフタオチョウが占有行動をする事が書かれていない事もあり、また書かれていても時刻については言及されていないのである。あの蝶の生態について最も詳しく書かれていると云う『原色日本蝶類生態図鑑』の第2巻 タテハチョウ編でさえ占有時間帯は書かれていないのである。

雑談中もフタオは何度か飛んで来たが、何れも高い位置を飛んでおり、全く止まらなかった。とゆう事は、もっと他に採り易いポイントを探した方が良さそうだ。
とりあえず裏へ回ってみたら、ミカン畑になっていた。コチラ側の方が見通しがいい。おそらく飛び回っていた個体はコチラ側の何処かに止まっており、時折飛び出して辺りを見回っていたのだろう。ならば此処で待ってれば採れそうだ。
麓の林縁もチェックしようとしたら、左手から白い蝶が猛スピードで飛んで来た。高さは2mから3mくらい、届く範囲だ。しかし振ろうとした瞬間に軌道を変えて、射程外になった。
後ろ姿を見送りながら、❗❓と思った。大きさ的には♂のフタオと同じか少し小さいくらいだろうが、フタオにしては白すぎる。黒い紋が殆んど入っていないように見えた。とゆうことは、たぶんフタオではない。おそらくウスキシロチョウかウラナミシロチョウだろう。でもウスキシロならば、もっと黄色いからウラナミシロの可能性大だ。

 
【ウラナミシロチョウ♂】

【同♀】

(出展『Aus−lep』)

 
林縁まで来ると、今度は頭上5mくらいをタテハチョウらしき白い蝶が滑空していた。何だよコッチだったかと思ったが、飛び方が滑るようだし、フタオほど高速ではない。
暫く下から様子を見て、漸く気づいた。たぶんガッキー、イシガケチョウだろう。

 
【イシガケチョウ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何かヤキが回ってるなあ…。
どうしようもなく感覚が鈍(なま)ってる。考えてみれば、去年は蝶採りに行ったのは数えるほどだ。ギフチョウが3回、スミナガシの春型が1回、夏に長野県で小太郎くんとムモンアカシジミ&オオゴマシジミで2日間、あとは同じく小太郎くんと行った蝶採りとしてはユルい河川敷のミヤマシジミ&クロツバメシジミくらいだ。そういやルーミスにも行ったな。でも3人で行って3人とも1頭たりとも見なかったから、網を振った回数はゼロだから、行ったうちに入らない。ようは何が言いたいかというと、実戦から遠ざかると腕も鈍るという事だ。野球でも何でもそうだけど、振り込まないと実力は上がらないし、サボると下手ッピーになるのだ。

また裏側ポイントに戻ると、突然、梢から蝶が飛び出して来た。逆光だが飛び方を見てコイツかあ❗と身構えたが、直ぐにその姿はアオスジアゲハに変わった。

 
【アオスジアゲハ】

 
アゲハの仲間(Graphium)だから、厳密的にはタテハチョウとは飛び方が少し違うのだが、かなり近い飛び方なのだ。大きさ的にも同じくらいだし、逆光もあったから見間違えたのだ。逆光だと緑色が飛んで白っぽく見えてしまうのである。緑色のとこを白に塗れば、デザイン的に両者は案外似ていなくもないしさ。とはいえ、アオスジアゲハと間違えるだなんてダサ過ぎ。ヤキまわりまくりである。

そのうち曇り始めた。おいおいである。フタオチョウは基本的には光が射していないと飛ばないのだ。

いたずらに時間が過ぎてゆく。
暇つぶしにアマミカラスの♀をいくつか採った。ここはブヨもいないし、知名瀬よりも安心して採れる。先にこのボイントを見つけていれば、あんなに苦労しなかったのにね。
ガックリだが、あれはあれでいっか…。あれキッカケで奄美の教会の美しさや、その悲しい歴史を知ることができたからね。

午後2時半。
また晴れ始めたと思った途端、白い蝶が現れた。南国の青い空を背景に悠然と飛翔している。2つの剣のように尖った尾状突起もハッキリと見えた。まるで誇り高き白き騎士だ。相手にとって不足なし。瞬時に戦闘態勢に入る。
だが、睥睨するかのように頭上を飛び、飽きたように突然プイと踵(きびす)を返して梢の向こうへと消えていった。
間違いなくフタオチョウだ。もうインプットした。これから先は他の蝶と間違うこともないだろう。高さも一番低いところでは5mくらいだったから、今回持ち込んだ6.3mの長竿でも届く。たぶん此処はパトロールのルート上にあるに違いない。

その後、フタオは2度と飛んで来なかったが、これで心には余裕が生まれた。飛んで来るルートが解り、採集可能な場所さえ見つければ、コッチのものだ。明日には間違いなく採れるだろう。まあまあ天才をナメてもらっては困るのだ。

午後3時半に、あかざき公園に移動してきた。
フタオチョウが発生しているのは解った。あとはアカボシゴマダラが発生していれば、目的は果たされるだろう。居ないもんは採れんが、居るとわかればどうにかなる。
だが、慰霊塔で待つも、ついぞアカボシもフタオも姿を現さなかった。たぶんフタオよりもアカボシの方が発生は少し遅れるのだろう。とはいえ、もうそろそろ発生するだろうから明日辺り両方まとめて採れんだろ。そう、いつものメンタルならば、いつも通りの結果が出るっしょ。

宿に帰る。
今日の宴会は蛸パーティらしい。
昨日、女の子たちのために地元のアンちゃんたちがタコと伊勢海老を獲ってきたのだ。可愛くて明るい女の子は得だよね。
その女の子たちが作ってくれた蛸の刺身を食う。

 

 
旨いんだが、少し生臭い。
たぶん塩揉みが足りなかったのだろう。タコは大量の塩でシツコイくらいに揉まないと生臭みが取れないのだ。だから一番簡単な方法は洗濯機にブチ込むことだ。とはいえ家庭では精神衛生上、中々できるものじゃないけどね。自分もそれは無理だわさ。もしシャツやパンツが生臭かったら泣くもんね。生のタコって、下手すれば魚よりも生臭かったりするのだ。

🐙蛸パーティということは、今日はたこ焼きパーティなのかなあ❓でも関西ならまだしも、奄美大島なんかにタコ焼き器とか売ってんのかね❓御存知な方もいるだろうと思うけど、関西地方、特に大阪では一家に一台たこ焼き器があるのだ。たこ焼きパーティならば、またワイの腕の見せどころだな。でもどうせ今日は夜間採集に出るから、たこ焼きパーティなろうとなかろうと関係ないか。

他の料理はまだ出てきなさそうなので、『ホームラン軒』なるカップ麺を食う。

 

 
行ったことはないけど、大阪に『ホームラン軒』という有名ラーメン店がある。そこの監修のカップ麺じゃないかと思って買ったけど、百円だったから違う可能性大だ。味もどってことない。百円で買ったカップ麺に期待してはいけないね。

再び根瀬部を目指す。
今回も日没前にポイントに入った。
先ずは林道を少し入った所に「何ちゃってライトトラップ」を設置する。でもって周囲2箇所にバナナトラップも仕掛けた。

お次は、昼間にフタオチョウが飛んでいたポイントの林縁3箇所にバナナトラップを仕掛ける。Fさん曰く、ここにもアマミキシタバがいるということだから、今日こそはお会いしたいものだ。今夜アマミキシタバが採れれば、明日にはフタオとアカボシが採れるだろうから、一挙にほぼミッション完遂だ。夜に山を徘徊しなくとも済む。

犬に吠えられるのにビクビクしながらも、バイクで2地点を行ったり来たりする。まあ吠えられれば吠えられたで現実世界にいる事が確かめられるし、お化けを追い払ってくれるかもしれないから別に構わないんだけどもね。お化けよりかはまだしも犬の方が友だちになれる。暗黒世界の住人とは、一生友だちにはなれぬよ。
とはいえ、今日はそれほど闇に対する恐怖心はない。慣れてきたというのもあるけれど、人里から近いし、ライトを設置した場所も林道に入ってからすぐの所だからだ。真っ暗な林道を奥へ行けば行くほど恐怖感が澱のように積もってゆくのだ。夜の森では、想像力を逞しくすることは禁物なのだ。

大川ダムよりかはマシだが、集まって来る蛾の数はショボい。
バナナトラップにはオオトモエだけが何頭も寄ってくる。勿論のこと無視である。コッチへ来てからずっとコヤツしか来ないってのは何なのだ❓ 呪われてんのかよ。

 
【オオトモエ】

 
午後11時。
いよいよアマミキシタバが飛んで来る時間帯に入った。
ライトに集まる蛾の数も増えてきた。否(いや)が応でも期待値もハネ上がる。

午後11時20分。
ライトに見たことのないシャクガ(註3)が飛んで来た。

 

 
普段はシャクガなんぞ無視する事が多いのだが、寄って来るのは小汚いチビ蛾ばっかだから退屈でつい採ってしまう。

シャクガを三角紙に収め、ふとバナナトラップの方に目をやると、明らかにオオトモエじゃない大型の蛾が寄ってきてる。

もしやヒメアケビコノハ❓
もしヒメアケビコノハならば、採った事がないから欲しい。
ゆっくりと近づく。この旅での4度の夜間採集の中では初めてのドキドキかもしれない。この感覚が享受できなくっちゃ、夜の森に来る意味なんてゼロだ。

目の前まで来た。いやアケビコノハか❓とも思ったが、アケビっちよりも明らかに小さい。とゆうことはヒメアケビコノハか❓
えーい、グチュグチュ考えたところで蛾のとーしろ(素人)のオイラにワカルわけがない。ここは採って確かめるしかない。

網先で蛾の止まってる少し下を軽く突っつく。

(# ゚Д゚)わりゃ、逃がすかい❗

驚いて飛んだ瞬間に、マッハロッドで💥ズババババーン❗(註4)、電光石火⚡で網を下から上へとシバキ上げる。

 

 
(・∀・)うにゃにゃ❓
何だかアケビコノハっぽいぞ。ヒメアケビコノハの前翅は、こんなに枯れ葉っぽくなかったような気がする。
裏返してみよう。

 

 
(-_-;)う〜む。アケビコノハっぽいかも…。ヒメアケビコノハは外側の黒帯がもっと太かったような気がする。でも記憶は定かでない。アケビコノハにしてはかなり小さいし、脳はヒメアケビコノハだと信じたがってる。もしそうなら、此処へ来た意味もある。
ネットで調べようかとも思ったが、どうせ山の中だから電波が届かないだろうし、帰ってからのお楽しみにしよう。

その後、アマミキシタバどころか目ぼしいモノは何も飛んで来なかった。
午前0時半には諦めて撤退。
相変わらず、今一つ波に乗れないなあ…。

                         つづく

 
追伸
宿に帰って調べてみたら、やはりヒメアケビコノハではなくて、ただのアケビコノハであった。

 
【アケビコノハ Eudocima tyrannus】

 
ヒメアケビコノハは、もっと後翅外縁の黒帯が太いし、裏面も黒っぽいのだ。

 
【ヒメアケビコノハ Eudocima phalonia ♂】

【同♀】

【裏面】

(出展『jpmoth.org』)

 
調べたら、開張は90〜100mmもあり、アケビコノハと大きさは殆んど変わらないらしい。じゅあ、何で「ヒメ」なんて小さいことを表すような和名を付けたのよ❓解せんわ。

主に南西諸島で見られる南方系の蛾だが、本州,四国,九州,対馬,北海道でも記録がある。元々は迷蛾(偶産蛾)とされていたようだが、2000年代に入ってから採集例が増えており、本州でも見つかる機会が増えているそうだ。但し、確実に土着している場所は未だ見つかってないという。
国外では、台湾,インド,南大平洋諸島,オーストラリア,アフリカなどに分布している。広域分布だし、きっと移動性が強い種なのだろう。海の真っ只中で、船の甲板から見つかった例もあるようだしね。
主に8〜10月に見られ、樹液や果物に吸汁に集まる。
幼虫の食餌植物はツヅラフジ科のコウシュウウヤク、コバノハスノハカズラ、オオツツヅラフジ。

 
(註1)フタオチョウ
フタオチョウについては、台湾の蝶のシリーズの第2回で『小僧、羽ばたく』と題して書いたものを筆頭に『エウダミップスの憂鬱』『エウダミップスの迷宮』『エウダミップスの呪縛』と全部で4編も書いている。そちらの方を読んでもらいたいのだが、長いので要約して書いておく。

 
【学名】Polyura weismanni (Dobleday, 1443)
従来まではインドを基産とする「Polyura eudamippus」とされ、日本産には”weismanni”という亜種名が宛てられていた。尚、Polyura eudamippusは、ヒマラヤ西北部(ネパール,インド北東部)からインドシナ半島,マレー半島(キャメロンハイランド),ブータン,雲南省と海南島を含む中国西部,中部,南部,台湾まで分布する。日本産はそれに連なる最東端のモノだと位置づけられていたワケだ。しかし近年になって成虫や幼虫の形態、食樹が他の産地のものとは異なる事から別種となり、学名は亜種名が小種名に昇格した形になっている。
でも、この事実を知っている蝶愛好家はまだ少ないようで、ネットに掲載されている情報では、ほぼほぼ学名が以前の古い学名のままになっている。たぶん今ある図鑑も旧学名のままの筈だ。
尚、インドの原記載亜種(基産地アッサム)やインドシナ半島のもの(亜種 nigrobasalis)と基本的には同じデザインなのだが、実際にフィールドで見ると、かなり違った印象を享ける。

 
【Polyura eudamippus nigrobasalis♂】

(2011年 4月 ラオス・タボック)

 
とにかくバカでかいんである。♂でもこの大きさなのだ。
そして白くて、尾状突起が剣のように鋭く長い。日本のモノより先にインドシナ半島の奴に会っているので、その時に白い騎士のイメージが植えつけられた感がある。

 

 
裏面は日本のものと比べて帯が細く、色も黄色みが強くなる。
個人的にはコッチの方が美しいし、迫力があるから好きだ。

 
【和名】フタオチョウ
別種となったが、和名はそのままで「ニッポンフタオチョウ」や「リュウキュウフタオチョウ」「オキナワフタオチョウ」にはなっていない。正直、ダサいから変えないのが正解だね。
逆に従来フタオチョウと呼ばれていた原名亜種には「タイリクフタオチョウ」なる和名が提唱されている。微妙な和名ではあるが、解りやすいので受け容れてもいいかなあ。

和名は「双尾蝶」「ニ尾蝶」の意で、後翅にある2本の尾状突起に基づく。
尚、日本産のタテハチョウ科の中ではニ双二対の尾突を持つものは他にはいない。日本産の全ての蝶を含めても2本以上の尾突を持つものは、他にはキマダラルリツバメしかいない。
また前翅も特異な翅形であり、色柄デザインも特異である点からも他に類する種はいない。つまり日本では唯一無二の存在であり、沖縄の天然記念物に指定されている稀少性も相俟ってか愛好家の間では人気の高い蝶の一つである。

 
【分布】沖縄本島,古宇利島,奄美大島
現在のところこうなっているが、奄美大島では分布を南部に拡大しており、そのうち加計呂麻島や徳之島でも発見されるかもしれない。
尚、近似種”Polyura eudamippus”の一番近い分布地は台湾で、かなり見た目は近い。

 
【Polyura eudamippus formosana ♂】


(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

 
weismanniに似ているが、白い部分が少し広がり、尾状突起もやや長いから、慣れれば区別できる。
違いは裏面の方がより顕著だ。”weismanni”の帯は太いが、それに対して台湾産は細い。その色も微妙も違うような気がするが、個体差にもよるし、自分の印象も多分に入っているので断言はできない。
大きさ的には同じようなものだろう。さっきの項で画像を載せ忘れたが、インドシナ半島のものと比べて遥かに小さい。

 

 
おそらく大陸のモノが台湾に隔離され、さらにそれが沖縄に隔離されて長い年月の中で少しずつ形を変えていったのだろう。

 
【生態】
沖縄本島では3月下旬〜5月、6月下旬〜8月、9月〜10月の年3回見られるが、秋は個体数が少ない。
成虫の飛翔は敏速で、梢上を高飛する。樹液や腐果(パイナップルなど果物が発酵したもの)に好んで集まり、吸汁する。吸汁し始めると夢中になり、鈍感なので手で摘める事さえある。また、時に吸汁し過ぎて飛べなくなり、地上にボトッと落ちる個体もいたりする。結構、アホなのである。
オスは占有活動を行い、高い木の梢や突出した枝先などに静止して、同種の♂のみならず他の蝶が飛んで来ても追尾して追い払う。
尚、eudamippusは台湾産を含めて動物の糞尿やその死体、湿地に吸水(♂のみ)によく集まるが、weismanniでの観察例は少ない。この点からも別種説を推したい。中には、まだ別種とは認めないという人もいるのだ。

 
【幼虫の食餌植物】
ヤエヤマネコノチチ(クロウメモドキ科)
リュウキュウエノキ(ニレ科)

元々の食樹はヤエヤマネコノチチであったが、沖縄本島では食樹転換が起きており、リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)も食するようになった。それによってヤエヤマネコノチチが自生しない南部にも進出、分布を拡大している。
奄美大島ではリュウキュウエノキを食樹にするアカボシゴマダラが生息する事から競合が予想され、アカボシゴマダラの個体数に影響を及ぼすのではないかと心配されているが、今のところ特には減っていないようだ。尚、奄美にはヤエヤマネコノチチも自生しており、主にそちらを食樹としているようだ。競合を避け、棲み分けをしているのかもしれない。
参考までに書いておくと、ネットなんかの飼育例をみるとヤエヤマネコノチチでは無事に羽化するが、リュウキュウエノキで飼育すると羽化しないという記事があった。或いは先祖帰りと云うか、本来の食樹帰りしているのかもしれない。
しかし、奄美在住のFさんはリュウキュウエノキでも難なく飼育できると言ってはった。

付け加えておくと、Polyura eudamippusの食樹はマメ科である。そして多くのフタオチョウ属(Polyura属)がマメ科の植物を食樹としている。この点からも、日本の”weismanni”は特異で、別種とされたのも頷ける。

 
【幼生期の形態】


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)


(出展『浦添大公園友の会』)


(出展『(c)蝶の図鑑』)

 
見た目はプレデターだ(笑)
或いはコレがプレデターのモチーフになってたりしてね。

最も近縁とされる台湾の Polyura eudamippus formosanaの幼虫も貼付しておこう。

 


(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

 
日本のフタオの終齢幼虫には帯がないが、台湾のものには帯がある。また顔面の模様も異なる。幼虫の食樹もマメ科だし、これはもう別種レベルに分化が進んでいると言っていいだろう。

 
(註2)ベニモンコノハ
学名 Phyllodes consobrinus Westwood, 1848
Noctuidae(ヤガ科)・Catocalinae(シタバガ亜科)に分類される。

 

(出展『断虫亭日乗』)

 
(;゜∇゜)ワオッ❗、馬鹿デカイね。
開張120〜130mmもあるらしい。

宮崎県,鹿児島県(九州本土),種子島,トカラ列島宝島,奄美大島,沖縄本島などからの記録があり、従来は土着種とされ、小型なことから別亜種として記載された。しかし二町一成氏の論文によると、2011年に奄美大島で纏まって採れたのは、たまたま海外から飛来したものが、その年に二次発生した可能性が高いと述べており、現在では偶産蛾とする見解が優勢のようだ。
国外では台湾,中国南部,ベトナム,インド,インドネシアなどに分布する。尚、日本での記録は7〜8月に多い。
下翅にある紋が日の丸みたいだなと思ってたら、岸田先生の『世界の美しい蛾』には、その紋様から標本商の間では「日の丸」と呼ばれることもあると書いてあった。
生態的にちょっと変わってるなと思ったのは、ライトトラップには誘引されなくて、バナナやパイナップルなどのフルーツトラップに集まるそうだ。
ちなみに幼虫は無茶苦茶エグキモくて笑える。
気になる人は、拙ブログにある『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』を閲覧されたし。

 
(註3)見たことないシャクガ
帰ってから調べてみると、アサヒナオオエダシャクという蛾の♂であった。

 

 
アサヒナオオエダシャク
科:シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
属:Amraica Moore, 1888

 
【学名】 Amraica asahinai (Inoue, 1964)】

小種名の”asahinai”は、トンボやゴキブリの研究で有名な朝比奈正二郎博士に献名されたものである。おそらく和名もそれに準じてつけられたものだろう。

とくに亜種区分はされていないようだ。だがウスイロオオエダシャクと似ているため、最初はその南西諸島亜種として記載されたそうだ(ウスイロは屋久島以北に生息する)。しかし下甑島と屋久島では同所的に生息していることが判明し、別種になったと云う経緯がある。

 
【ウスイロオオエダシャク Amraica superans】

(出展『むしなび』)

 
相前後するが詳細に説明すると、日本のウスイロオオエダシャクは従来ではインドの”Amraica recursaria (Walker)と同一種とされ、本土の個体群は”ssp.superans”、屋久島以南の個体群は”ssp.asahinai”として扱われてきた。
だが下甑島と屋久島にて、それぞれ同一地点で両亜種が同時に採集された事から再検討が行われた。結果、共に独立種として扱うべきであり、更にそれらは”recursaria”とも異なる種であることが明らかになった。
またウスリー・朝鮮半島の”confusa”は、”superans”の亜種であり、台湾のものも”superans”ではあるが、色彩斑紋に明らかな差があることから別亜種として扱うべきことも判明した。これによりインド北部〜インドネシアに分布するものが原名亜種(Amraica recursaria recursaria)となった(Sato,2003)。

何でこんな事が起こったのかというと、Amraica属の各種は外観に比較的安定した違いがあるにも拘らず、種による交尾器の差異が雌雄ともに少ないそうだ。その上、個体変異も多いから、この属は種の見きわめは大変難しいようなのだ。だから、こうゆう記載のバタバタが起こったんだろうね。

尚、アサヒナオオエダシャクとウスイロオオエダシャクとの違いだが、アサヒナは前翅の外縁が反り、細長く見えるのに対してウスイロは前翅の外縁が反らない等の点で区別できる。

 
【開張】 ♂49〜66mm ♀69〜88mm
雌雄の判別は、大きさ以外に前翅からも可能。♂の前翅にはメリハリのある斑紋があるが、♀は全体的に暗色で斑紋が目立たない。
決定的な違いは触角の形状。♂の触角は鋸歯状になるが、♀はそうならなくて糸状なので判別は容易である。

 
【分布】
九州(宮崎県・鹿児島県),下甑島,種子島,屋久島,トカラ列島(中之島),奄美大島,徳之島,沖縄本島,久米島,伊江島,宮古島,石垣島,西表島,与那国島。
国外では、台湾,中国南部,ミャンマー,ベトナム,ネパールに分布する。

 
【生態】
3月と8月を中心に採集されているが、徳之島で6月、石垣島では12月にも得られている。この事から年2〜3化の発生だと考えられている。
♂は灯火によく飛来するが、♀が飛来することは稀である。
ちなみに、♂は稀に黒化した個体が得られる。

 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では不明となっているが、『日本産蛾類標準図鑑』にはリョウキュウマユミ(ニシキギ科)とある。尚、おそらく標準図鑑の表記は誤植で、本当はリュウキュウマユミのことだろう

 
(註4)マッハロッドで💥ズババババーン
マッハロッドとは、特撮TVドラマ「超人バロム・1」に登場するバロム・1の乗り物であるスーパーカーの事である。

 

(出展『メタボの気まぐれ』)

 
健太郎と猛がバロム・1に合体変身する際に使用するアイテムのボップが変形したもので、バロム・1が「マッハロッド、ボーップ❗」と叫んで空中に投げることで出現する。
最高速はマッハ2。飛行も可能で、水中や地中も走行できる。
マッハ2って、どないやねん(笑)。オープンカーなんだから、マッハで走ればワヤムチャになってまうやないの。空中とか水中、地中走行なんかは、もっとツッコミどころ満載である。
ちなみに画像は番組前期の車両で、ベースの車は NISSANのフェアレディZなんだそうだ。

マッハロッドはオープニングの唄に矢鱈と登場する。歌詞にも出てきて、そこに「マッハロッドでズバババーン」という文言が出てくるのだ。

You Tubeの動画を貼っつけておきます。

  

 
歌うのは、あの『ゼーット❗』の水木一郎である。
ありゃ❗、でも「マッハロッドでブロロロロー」だわさ。完全に歌詞を間違えて記憶してたわ。
歌詞を載せておきまーす。レジェンド水木さんの独自に語尾を伸ばすところが堪りまへん。
あと、擬音が萌え〜(人´∀`)。

 
『ぼくらのバロム1』
https://youtu.be/BdegVh82aFA
『ぼくらのバロム1』
 
ズババババーンは「やっつけるんだズババババーン」でごわした。スマン、スマン。

 
ー参考文献ー
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
◆保育社『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆手代木求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 1 タテハチョウ科』
◆手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』
◆五十嵐邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑(Ⅰ)』
◆岸田泰典『世界の美しい蛾』
◆2020.8.9『奄美新聞』
◆二町一成,柊田誠一郎,鮫島 真一『2011年奄美大島にて多数採集されたベニモンコノハ Phyllodes consobrinus Westwood, 1848』やどりが 236号(2013年)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『ピクシブ百科事典』
◆Wikipedia
◆You Tube

 

エウダミップスの憂鬱

 
       台湾の蝶 番外編
    『エウダミップスの迷宮』後編

 
もう主タイトルも「エウダミップスの迷宮」から「エウダミップスの憂鬱」に変わっとるやないけー(笑)
迷宮で彷徨(さまよ)っているうちに嫌んなってきて、ポチは憂鬱になりましたとさ。
でも、とにかく何らかの形で終わらせねば仕様がないのだ。頑張って書きましょうぞ。

え~と、何だっけ?
ごめん、アマタが上手く働かないのである。脳ミソが思考を拒んでいるのやもしれぬ。
まあいい。その整理出来てない腐った脳ミソで、ポンコツはポンコツなりの気概を持ってフォースの暗黒面に立ち向かおうぞ。

先ずは前回のおさらい。
従来、日本のフタオチョウは台湾や大陸に広く分布するフタオチョウ Polyura eudamippus の亜種とされてきた。しかし、ごく最近になって日本のフタオチョウがそこから独立して別種 Polyura weismanni となった(でも誰がいつどこで記載したのかは不明。謎です。)。

(;゜∇゜)ほんまかえー?と思ったポチは、成虫のみならず幼虫・卵、蛹、幼虫の食餌植物、生態等々あらゆる面からその検証を行った。
そして、ポチ捜査員が出した見解はこうだった。

『問題点は幾つかあるが、取り敢えずは別種でエエんとちゃいまっしゃろか。まあ、厳密的にいえば別種になる一歩手前の段階と言えなくもないんだけどね…。
でもさー、そんなことを言い始めたら収拾がつかん。
別種、別種~、日本のフタオチョウは独立種です❗』

だが、オラにここで新たな疑問が湧いてきた。
台湾のフタオチョウと日本のフタオチョウは似ているが、原名亜種(名義タイプ亜種)を含むインドシナ半島から西に分布するものは、同種とは思えんくらいに見た目も大きさも全然違うんだよなあ…。

と、ここまでが前回までのあらすじ。
で、こっからが新たなる展開なのだ。

オイチャンは思ったね。
だったら、そのインドシナ辺りから西の奴らと台湾とその周辺の中国の奴らもさー、この際、別種として分けちやってもエエんとちゃうのん❓

でもポチ捜査員、冷静にカンガルー。もとい、考える。
とは言うものの、たぶん台湾からインドまで連続して分布するから、明確には分けられないのだろう。
つまり、分布の東から西へ少しずつ見た目が変わってゆき、その境界線が判然としない。だから、別種とまでは言えなくて、全部を亜種扱いにせざるおえないと思われる。
しかし、だとしたらどこいら辺りに台湾とインドシナとの中間的な特徴を持つ個体群がいるのだろうか❓
そういえば、そういうオカマちゃん的な標本を見た記憶がないんだよなあ…。

取り敢えず、参考までにインドシナ半島、台湾、沖縄の個体を並べておこう。

先ずはタイ・ラオス北部等に分布する亜種から紹介しよう。

【Polyura eudamippus nigrobasalis 】

【裏面】

(2点共 2011.4.1 Laos Tadxaywaterfall )

続いて台湾亜種。

【Polyura eudamippus formosana 】

【裏面】
(2点共 2016.7.7 台湾南投県仁愛郷)

続いて沖縄のフタオチョウ。

【Polyura weismanni 】

【裏面】
(2点共 出典『ニライカナイの女王』)

ねっ、インドシナ半島のものは、見た目がだいぶ違うでしょ?
もう断トツに白いのである。尾状突起も遥かに長くて優美だ。そして、大きさがまるで違う。日本や台湾のものと比べて圧倒的にデカイんである。
個人的にはコッチの白い奴の方がカッコイイと思う。
双尾と呼ぶに相応しい尾突といい、そのタージ・マハルを連想させる白といい、断然ソフィスケートされてる。迫力も雲泥の差だ。体はゴツいし、飛翔力も半端ねぇ。

上の画像では大きさがわからないだろうから、採集した時の写メを添付しておこう。

【台湾産フタオチョウ】

【ラオス産フタオチョウ】

これで大体の大きさは理解してもらえたかと思う。
けどなあ…ちよっと解りづらいかもしれないなあ…。
面倒くさいけど、もっとハッキリ解るように両者の標本を並べておきましょう。

順番が逆になったが、上がラオス産フタオチョウで、下が台湾産である。
もう説明は不用だろう。まるで大人と子供だ。勿論、両方とも♂である。因みにラオス産フタオの♀はバカでかい。Polyura界の女王様だ。
但し、オラは野外で姿を見た事は一度たりともない。
メスは珍品なのである。オスはそこそこいるんだけど、メスはトラップにも殆んど来ないし、いったい何処で何してんだろ?大いなる謎だよ。
そういえば沖縄や台湾のフタオは、そう機会は多くないとはいえ、それなりにメスは見られるようだ。
生態的に違えば、それ即ち別種だとは言い切れないけれど、それも別種とする一因として考えられなくはない。とにかく、メスの生態は日本や台湾のフタオとは違い、今のところ未知に近いのだ。

あっ、幼虫はどうなのだ❓
台湾と沖縄のフタオは、幼虫の形態がかなり違ってた。それも別種とされた理由の1つに違いない。ならば、もしラオス産フタオの幼虫形態が全然違ってたら、別種となりはしないか❓

いかん(;゜∀゜)、カウパー腺液チョロチョロの先走りじゃよ。
取り敢えず、幼虫云々は後回しだ。その前にエウダミップスの分布と各亜種を整理しておこう。そこんとこ、ちゃんと言及しておかないと、後々、益々何が何だか解らなくなる。

【フタオチョウの分布図】
(出典『原色台湾産蝶類大図鑑』)

古い図鑑なので日本産も地図に入っている。
それはさておき、分布が西北ヒマラヤからインドシナ半島、マレー半島、中国を経由して台湾にまで達しているのがお解りになられるかと思う。
但し、実際にはこんなにベタに何処にでもいるワケではなく、分布の空白地帯もある筈だ。わかる範囲ではマレー半島の産地は飛び離れていて、高所にのみ分布していたと記憶する。
だいたい分布図なんてものは、大まかなんである。
特に広い範囲を示す分布図はざっくりだ。情報を鵜呑みにしてはならない。

あっ、そういえば『アジア産蝶類生活史図鑑』にも分布図があった筈だ。そちらの方が新しいから、まだしも正確だろう。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

あっ、やっぱりマレー半島だけ分布か飛び離れている。あとは中国北部が少し膨らむ程度で、大体同じだね。

ここまで書いて、不意に微かな記憶が甦る。
そういえばエウダミップスには乾季型と雨季型というのがあって、雨季型は小型になり、且つ黒っぽくなって尾突も短くなる。そうどこかで聞いた事があるような気がする。
おいおい、亜種に加えて更に季節型まであるとなると、ワケがわからぬわー(ノ-_-)ノ~┻━┻

この際、それは取り敢えず置いておこう。シッチャカメッチャカになるから、先ずは亜種区分からだ。

『原色台湾産蝶類大図鑑』では、以下のように11亜種に分けられていた。

①Polyura eudamippus eudamippus(原名亜種)
西北ヒマラヤ、ネパール、シッキム、ブータン、Naga Hills、Khasia Hills。
最後2つの横文字は、おそらくインド東部の地名のことだろう。

②P.eudamippus jamblichus
テナッセリウム(アンナン)。
テナッセリウムは、たぶんミャンマー南部の街の事かな?でも、アンナンというのがわからない。

③P.eudamippus nigrobasalis
シャム、ビルマ(Shan States)、カンボジャ。
シャムは現在のタイのことだろう。かなり古い図鑑である事を実感するよ(1960年発行)。ビルマも現在はミャンマーという国名である。Shanというのはおそらく北東部のシャン州の事を指していると思われる。カンボジャはカンボジアの事だね。

④P.eudamippus celetis
アンナン。
はあ?、またアンナンが出てきた。ワケわかんねえよ。

⑤P.eudamippus peninsularis
マレイ半島。
マレー半島の事だね。

⑥P.eudamippus whiteheadi
海南島。
中国南部のハイナン島の事だろう。

⑦P.eudamippus kuangtungensis
南支那(広東省北部)。
勿論、支那とは現在の中国の事だけど、それっていつの時代の呼び名やねん!とツッコミたくなるよ(笑)

⑧P.eudamippus cupidinius
雲南。
中国の雲南省の事だろね。

⑨P.eudamippus rothschildi
西~中部支那。
中国西部から中部でんな。

⑩P.eudamippus formosana
台湾。

⑪P.eudamippus weismanni
琉球(沖縄本島)。

最後の⑪は別種になったから、全部で10亜種って事か。結構、思っていた以上に多い。

一応、ネットでも調べてみたら、wikipediaに解説があった。

へぇー、英名は『Great Nawab』っていうんだね。
Nawabって聞いたことあるなあ…。何か地位ある偉い人の事だったと思う。気になるので、そちらを先に調べてみる。
辞書には、Nawabとはインド・ムガール帝国時代の地方長官(代官)、知事、太守、領主、蕃王とある。
頭にグレイトと付くんだから、この場合は蕃王や領主を表しているとみえる。日本人には、大名とでも訳すのが解りやすかろう。
たぶん最初にインドで見つかって記載された(原名亜種)から、こういう英名がついたんだろうね。

亜種の話に戻ろう。
ウィキペディアでも、日本の「weismanni」を除けば10亜種になっていた。

③の「e.nigrobasalis」の分布は、タイ、ミャンマーときて、なぜかカンボジアが消えてて、他にインド、中国、雲南省南部が加えられている。カンボジアが消えたのは解せないが、他は単に新たな産地が見つかったから加えられたのだろう。
でも近隣のベトナムがスコッと抜けてるなあ。ベトナムだけいないということは考えられない。それに分布図では、しっかりベトナムの所にも生息を示す斜線が引かれてたぞ。謎だよなあ…。

あれれー(@ ̄□ ̄@;)!!
しかし、ウィキには④の亜種「celetis」ってのが無い❗ 分布がアンナンとある亜種だ。
その替わりに「splendens」という未知の亜種があった。分布は雲南とある。
ワケわかんねえや。そもそもアンナンって何処や?
ミャンマー南部とちゃうんけ?
だいたい雲南省とミャンマー南部はかけ離れているじゃないか。という事は、両者は全くの別物と云うことになる。
これで、産地に雲南省とある亜種が3つもある事になるやんけ(-“”-;)…。
もしかして、雲南省ってバカみたいに広いの?
はてな、はてな(??)❓の嵐が吹き荒れる。
シクシク(ノ
<。)、また迷路じゃよ。

取り敢えず、アンナンを調べてみた。
ここは小さな疑問から片付けていくしかあるまい。

あっ、アンナン(安南)ってベトナムやん!
フランス統治時代のベトナム(北部~中部)の事を、そう呼んでいたらしい。
でも、ベトナムって越南じゃなかったっけ?

アンナンが判明したはいいけど、今度は②の亜種「jamblichus」のテナッセリウム(アンナン)という表記がワケワカメじゃよ。
だってミャンマー(ベトナム)って事になるじゃないか。そこ、どこやねん(@_@;)❓

何だかテナッセリウムまで何処なのか不安になってきたよ。しゃあない、これも調べよう。

コチラはあっていた。テナッセリウムはミャンマー最南部地方の旧名のようだ(現在の地名はタニンダーリ地方)。近くの山脈にテナッセリウム山脈と云う名が残っている。

まあ、ウィキペディアでは、亜種「jamblichus」の分布は南ミャンマーとなっているから、アンナンはたぶん誤記ということにしておこう。

それよりも問題なのは、分布地が雲南とある亜種が3つもあるという事である。
③の亜種「nigrobasalis」はタイ北部とラオスが分布の中心で、それが雲南省南部にも及んでいると解釈すればいいか…。

⑧の亜種「cupidinius」は、図鑑もウィキペディアも分布地は雲南省とだけある。それが雲南省の何処を指すのかは特に書いていない。そして、ウィキペディアに載っている「splendens」と云う亜種も産地は雲南省としかない。そこにはやはり北部とも西部とも書いていないのだ。
もう(◎-◎;)何のコッチャかワカラン。少なくとも3つの亜種がモザイク状には分布しているワケはないから、それぞれ南部なり北部なりの東西南北の何処かに棲み分けてるという事か…。
いや待てよ、この雲南とある2つの亜種のどっちかが高地に隔離されたもので、独自に進化した奴と云う可能性もありはしないか?
何れにせよ、そんだけ雲南省に亜種が幾つもあると云う事は、もしかしたらエウダミップスの祖先種が此処で生まれ、ここから亜種分化が始まったのかもしれない。そして、やがて東西南北に拡がっていき、それぞれの地で更に亜種分化していったとは考えられないだろうか?

(* ̄◇ ̄)=3ふぅ~。ここいらまでが、オラのパープリン頭で考えられる限界だ。
いよいよ自然史博物館にでも行って、塚田図鑑(東南アジア島嶼の蝶)で調べるしかないか。
まあそれで、大概の事は片がつくだろう。

げげっΣ( ̄ロ ̄lll)、アカンわ。
よくよく考えてみれば、塚田図鑑はジャワやスマトラ、ボルネオ、小スンダ列島等に分布している蝶しか載っていないのだ。そこにさえ分布している蝶ならば、マレー半島やインドシナ半島に分布する亜種も解説されているだけだと云うことをすっかり忘れてた。
頼みの綱の塚田図鑑が使えないとあらば、取り敢えずググって探すしかないか…。何だかエライところに足を突っ込んじやったなあ。

それはさておき、先ずは原色台湾産蝶類大図鑑にしか載ってない「celetis」と云う謎の亜種だ。
だが、ググっても「splendens」は出てきても、「celetis」は全く出てこない。
コヤツは、分布がアンナン(ベトナム)となっている事だし、大方は近隣の「nigrobasalis 」に吸収合併されて消えた亜種名なのだろう。もう、そう解釈させて戴く。
その証拠にウィキペディアでは、「nigrobasalis」の分布に中国、雲南省が加わっている。ベトナムはラオスにも雲南省にも極めて近いのだ。

それはそうと、この「nigrobasalis」、ウィキではインドにも分布するとある。えっ、でもインドには名義タイプ亜種の「eudamippus」がいるじゃないか。
ハイハイ、「eudamippus」の分布域より更に東のインド東部の端っこに辛うじて分布が掛かっていることにしよう。
もう勝手に都合よく解釈していくことにした。
でないと、正直、やっとれんのである(# ̄З ̄)

さあ、前へ進もう。フォースの暗黒面に囚われてはならぬ。ルーク・スカイウォーカーは前進あるのみ。

あとは各亜種がどんな姿なのか確認していこう。
それによって、黒っぽくて小型の台湾産と白っぽくて大型のインドシナタイプの中間的な亜種が見つけられるかもしれない。そもそもは両者の分水嶺を知り得る事が最大の目的なのである。でないと、別種だとかどーだとかは論じられない。

各亜種の画像を探していこう。
先ずは原名亜種(名義タイプ亜種)から。

(出典『Annales de Lasociete entomologique 』)

(出典『insectdesigns.com』)

これは原名亜種だけに簡単に見つかった。
パッと見は、図示したラオス産のモノとさして変わらない。強いて言えば、白い部分が多いかな?
あと上翅の白い所にある黒いL字紋の形も特徴的かもしれない。

あっ、そういえばラオスかタイだっけかで、変なエウダミップス(nigrobasalis)を採ったなあ…。

(2011.4.7 Laos vang vieng)

小型で翅形が縦型なんである。
あっ、いらんもん出してもた。これは自分レベルでは言及でけまへん。変異として片付けてしまおう。

次に反対側の、台湾から近い中国の亜種の画像を探そう。

【e.rothschildi 中国・北中西部亜種】
(出典『ebay』)

ハッキリ亜種名は書いてないけど、思った通りに台湾のモノと近い黒いタイプだ。
あれっ?、よく見ると台湾の奴よりも黒っぽいぞ。むしろ日本のモノに近い印象だ。
多分、「rothschildi」だろう。
黒いのは、分布緯度が同じくらいだからなのかもしれない。北に行くと黒化する特性とかがあんのかなあ?

こんな画像も見つかった。

(出典『Bulletin of British Museum』)

図版の47が『rothschildi』だ(画像をタップすると拡大できます)。
これでさっきの黒っぽいのは、「rothschildi」とほぼ言い切ってもよいだろう。
因みに48は台湾の「Formosana」で、46は名義タイプ亜種の「eudamippus」です。

裏面の画像もあった。

図版63が「rothschildi」、64が「formosana」だ。そして、62が「eudamippus」。
w(゜o゜)wありゃま、表は似てても、裏面が台湾の奴とは全然違うじゃないか❗
「rothschildi」の裏面は、どっちかというとインドシナ寄りだなあ…。
そっかあ…、まさかそんな事は考えもしなかったよ。
表と裏の特徴が一致しないとは夢にも思わなかった。
ん~、似てるから中国の亜種も台湾の亜種も同じ亜種に含めてもいいんじゃないかと思っていたが、こりゃ別亜種にもなるな。
それにしても、この事実をどう解釈すればよいのだろうか❓(-.-)ワカラン。

次にその南側の中国亜種「kuangtungensis」を探そう。

だが、画像が全然見つからなくて、ようやくらしきモノにヒットしたのがコレ。

【e.kuangtungensis? 中国南部亜種】
(出典『www.jpmoth.org』)

亜種名の表記が無く、ただchinaとしか書いていないし、画質が悪くて右下の字も読めない。
けんど、先程の「rothschildi」よりも白い部分が多くて台湾産に似ている。「kuangtungensis」の分布域は台湾から一番近いし、両者が似るのは自然だ。ゆえにコレで間違いないと思うんだよね。

裏面もあった。

これも、どう見ても白系エウダミップスの裏面だ。
と云う事は、台湾や日本のフタオの裏面の方が特異なんだね。迷路がまた1本増えましたとさ。

お次は海南島の「whiteheadi」だね。

【e.whiteheadi 海南島亜種】
(出典『proceedings of general meetings』)

印象的には、中国のモノよりもインドシナに近い。
でも、よく見ると前翅の白い部分はインドシナ辺りのモノと比べて減退している。上翅の基部が黒いのも目立つ。しかし、これは雨季型の特徴なのかもしれない。
これがもしかしたら、黒いのと白いのの中間的な亜種になるのかもしれない。
あとは下翅外縁の青みが強いか…。
これだけ青いと美しいな。乾季型の白いのがいるとしたら、見てみたいね。最も美しいエウダミップスになるかもしれない。

他の亜種も探すが、中々画像が見つからない。
もう、うんざりだ。

そして、ようやく見つかったのが、この白黒の古い図版。

(出典『Bulletin of the British Museum 』)

ここに雲南亜種「cupidinius」とマレー半島亜種の「peninsularis」がおった。

図版154が原名亜種「eudamippus」。
以下、155 タイ・ラオス亜種「nigrobasalis」。
156 雲南亜種「cupidinius」。
157 海南島亜種「whiteheadi」。
158 日本「weismanni」。
159 マレー半島亜種「peninsularis」。

こうして並ぶと、別種となった「weismanni」って、やっぱり相当変わってるように見えるなあ。

「peninsularis」は、唯一他の亜種とは分布域が連続しない亜種で、種内では最も南のキャメロン・ハイランドなどの高地に局所的に棲んでいる。
他と形態的差異が大きければ別種となりそうだが、見た目は白系エウダミップスだ。しかし、よく見ると前翅の黒い部分の中にある白斑が著しく減退している。百万年後には、別種だな(笑)

注目は、雲南の「cupidinius」だ。
この亜種と「splendens」がどんな姿をしているのかが、一番知りたかったのだ。

でも、一見したところ「nigrobasalis」とあまり変わらない。やや黒い印象があるくらいだ。
まあ、タイ・ラオスと雲南なんだから地理的には近い。代わり映えしないのも当たり前か…。
しかし、よくよく見ると下翅の黒帯が明らかに太い。全体的にもやや黒っぽくは見える。そう云う意味では中間的特質であると言えなくもない。
もう1つの雲南亜種「splendens」が気になるところではあるが、多分さして変わらないんだろなあ。
もうちよっと劇的な結果を期待してたけど、まあ納得はできたよ。
台湾からインドにかけて少しずつ形態が変わっていってるワケだから、まとめてeudamippusとせざるおえず、それなりに違いのあるものを亜種としたのは妥当な分類だと言わざるおえない。

Σ(◎o◎lll)ぎょへー❗❗
一応、残りの亜種「splendens」と「jamblichus 」の画像を探してたら、エライもんにブチ当たってしまった。
何と他にも亜種記載されているもんが有ったのである。
光が見えたと思ったら、再びダークサイドの真っ只に引き摺りこまれてもうたやんけ。
「エウダミップスの泥沼」、いや底無し沼じゃよ。

分布域はわからないが、以下の5つの亜種を見つけた。亜種名の後ろの()内は記載年と記載者の名前である。

◇ e.lemoulti(1916 Joicey&Talbot)
◇ e.major(1926 Lathy)
◇ e.nigra(1926 Lathy)
◇ e.noko(1939 Matsumura)
◇ e.eclpsis(1963 Murayama&Shimonoya)

(# ̄З ̄)ざけんなよー。5つってかあー?
もう迷宮どころじゃない。ホント、マジ憂鬱。

でも記載年が古いところからみると、結局は誰も認めずに消えていったものだろう。
( ̄∇ ̄)気にしない、気にしない。
「celetis」が見つからないのも、(* ̄ー ̄)気にしない、気にしない。

その後、結局「splendens」の画像は、ついぞ見つけられなかった。
(○_○)気にしない、気にしない。
もはや、達観の域なのだ。

「jamblichus」は、或る文献から辛うじて一点だけ見つかった。
その文献で「lemoulti」、「major」、「nigra」の謎も一応解けた。

画像を取り出せないので、URLを添付しておきます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/yadoriga/1977/91-92/1977_KJ00006297222/_pdf

森下和彦さんが日本鱗翅学会の機関誌『やどりが』91・92号に書かれた「フタオチョウ」と題した記事です。
白黒のかなり古い記事で、発行は1977年とある。
そこにエウダミップスの分布図があった。

それによると、「major」は北ベトナム亜種となっており、「nigra」は南ベトナム亜種となっていた。
但し、「nigra」は、差異が軽微で強いて亜種区分するものではないと書いてあった。
もっとも「major」も特に形態的特徴は書かれておらず、「北ベトナム Tonkin」と産地名だけしか無かった。
多分、「major」も「nigrobasalis」とさして変わらず、吸収されて名前が消えたのだろう。
因みに、両者とも画像は無しでした。

「lemoulti」は、原名亜種eudamippusの北部に分布するようだ。「rothschildi」に似るが大型、尾突も長いと書いてあった。
あれー、白い「eudamippus」に近い場所なのに、何で黒系の「rothschildi」に似てるの?
何か、それもワケワカメだよなあ。
何れにせよ、両者の中間的な姿なのだろう。でも画像が添付されてないんだよねぇ…。

南ミャンマー亜種「jamblichus」の画像はあった。
一見して特に白いことが解る。解説には「小型で黒色部は少なく、後翅亜外縁の白紋は大型」とあった。
確かに外縁部の白帯が他と比べて太い。

この結果、さらにそれぞれの亜種の特徴が連続した中での変異である事が解った。
中国の亜種が絶滅でもして、ポッカリと分布に空白域でも出来ない限りは、別種には出来ないだろう。

ところで、幼虫形態の方はどうなのだ❓
けど、『アジア産蝶類生活史図鑑』には、日本と台湾でしか食樹が見つかっていないと書いてあったしなあ…。期待は出来ないだろう。
まあ一応、調べてみっか。

わちゃ!Σ( ̄□ ̄;)、あった❗❗
げげっ(@ ̄□ ̄@;)!!、沖縄のものとも台湾のものとも明らかに違う❗
胴体の帯が1本じゃよ。沖縄のP.weismanniは帯なし。台湾のe.formosanaは帯が2本なのだ。
顔も他は模様があるのに、コヤツには全然無い❗

No.28 Great Nawab Caterpillar (Charaxes (Polyura) eudamippus, Charaxinae, Nymphalidae)

画像をそのまま添付出来ないので、見れない人は上のURLをクリックね。

表記には「yunnan」とあるから、産地は中国・雲南省だろう。
葉っぱは、何食ってんだ?
マメ科か?それともニレ科?、クロウメモドキ科?
植物の知識が無いから、さっぱりワカラン。

あっ、でも台湾の奴って、若令期に帯が1本しか無い時期ってなかったっけ?

その前に日本のP.weismanniと台湾のe.formosanaの終令幼虫の画に、再度御登場願おう。

【Polyura weismanni 沖縄】

(出典『日本産蝶類図鑑 幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科編』)

【Polyura formosana 台湾】

(出典『世界のタテハチョウ図鑑』)

あった❗
1本の奴がいる。

(出典『flikr.com』)

やっぱ、3令幼虫は帯が1本だ。
でも、同じ帯が1本でも感じはだいぶと違う。帯がショボいのだ。とても同じ種だとは思えない。

あー、も~、七面倒クセー(#`皿´)。
どりゃー(ノ-_-)ノ~┻━┻💥
知るか、ボケーΣ( ̄皿 ̄;;
別種、別種。もう別種でいいじゃん。
少なくとも、ワシの中ではそうとしよう。
もう、それでええやん。

                 おしまい

 
追伸
( ̄∇ ̄*)ゞいやあー、とうとう最後は匙を投げちまいましたなあ(笑)

それにしても、出口の見えない長いシリーズでした。
正直、書いている意味を見い出だせなくなった時もしばしば御座いました。

赤ん坊はもう疲れたよ。
いつまでも壊れたオモチャで遊びすぎたからね。
もう、サヨナラをするよ。

追伸の追伸
フタオチョウの研究で有名な勝山礼一朗さんから、Facebookにて御指摘がありました。

亜種splendens、celetis、nigra、majorは、全てssp. nigrobasalisのシノニム(異名同種)とするのが一般的だそうです。
因みに斑紋構成上、沖縄のものに最も近いと思われるのはssp. rothschildiとの事。
あと、rothschildiとして引用した一番目の画像(出典『ebay 』)は、ssp. kuangtungensisの間違いだそうです。Ssp. rothschildiに似るが、白色帯がより白く、前翅の基部の黒色部が青い幻光を発すらしい。
確かに画像をよく見ると、青い幻光色らしきものがある。カッコ良かとです。

また新海彰男さんから、ssp.eudamippusだけが年1化(春期)の発生で、他の亜種は皆、多化性だと御教授戴きました。

御指摘、御教授くださいました両氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
有難う御座いました。

エウダミップスの迷宮

 
 
       台湾の蝶 番外編
     『エウダミップスの迷宮』

 
前回本編第2話の『小僧、羽ばたく』と重複する所があるが、おさらいの意味もあるので了承されたし。

『台湾の蝶』第2話で、Polyura eudamippus フタオチョウを取り上げた。しかし、手に余って頓挫してしまった。分類につい触れてしまい、無間地獄(むけんじごく)に嵌まってしまったのだ。
けれど、このまま終えるのも何だか癪だ。素人は素人なりに出来る範囲の中で解説していこうと思う。

2016年に台湾で初めてフタオチョウを採った時は、日本のものとさして変わらないなと云う印象だった。
だが帰国後、日本のフタオチョウと比べてみて、細かいところがかなり違う事に気づいた。そこで本当に同種なのかな?と云う疑問が湧いてきた。
当時、その疑問をFacebookにまんま書いたところ、その道の研究者として名高い勝山(礼一朗)さんからの御指摘があった。
なんと日本のフタオチョウは最近になって、Polyura weismanni と云う別種になったというのだ❗
因みに学名は、亜種名だった「weismanni」がそのまま小種名に昇格した。
この2016年の時点では、まだ日本のフタオチョウは台湾や大陸のものと同じエウダミップスフタオで、その1亜種にすぎないとばかり思っていたから驚いた。

百聞は一見にしかず。ゴチャゴチャ言ってるより、先ずは台湾のフタオチョウと沖縄のフタオチョウの画像を並べて、改めて比べてみよう。

【Polyura eudamippus formosana 台湾亜種】

(2016.7.9 台湾南投県仁愛郷)

 
【Polyura weismanni 沖縄本島産】

(出典『日本産蝶類標準図鑑』。日本では天然記念物に指定されているので、図鑑から画像を拝借です)

パッと見は同じ種類に見える。
だが、じっくりと見比べてみて、だいぶ違ったので思いの外(ほか)驚いた。
沖縄産のフタオは黒いのである。白い部分が少ない。
それに下翅の双つの尾状突起が明らかに短い。プライドある日本男児としては、慚愧に耐えない短小さだ。
ハッΣ( ̄ロ ̄lll)!、また危うく脱線するところだった。今は、んな事はどうでもよろし。

他にも相違点はある。
裏面上翅の黄色い帯が太いし、色も黄色いというよりかオレンジに近い色だ。
細かな点を見ていけば、まだまだ相違点があって、下翅の外縁が青緑色ではなく白い。また、白紋の形や大きさにも差があって、(◎-◎;)あらあら、(・。・)ほぉ~の、(;゜∀゜)へえ~なのだ。

そういえば両者の幼虫の食樹も全く違う。
噂では幼虫形態も違うと聞いた事がある。だから、一部では別種説も囁かれていたのは知ってはいた。
けんど、天然記念物がゆえに許可が降りないと大っぴらには研究は出来ないし、飼育も出来ない。だから研究結果の発表も気軽には出来ないというのが現状なのだ。
そういう理由から日本のフタオチョウの幼生期の情報は少ない。日本の自然保護行政は、クソ問題有りで、色々と難しいところがあるのだ。

また話が逸れていきそうなので、話を元に戻そう。
エウダミップスフタオも含めて、フタオチョウグループの幼虫の食樹はマメ科の植物が基本だ。
台湾のフタオチョウもマメ科のムラサキナツフジが食樹である(与えれば同じマメ科のタマザキゴウカン(アカハダノキ)やフジ(藤)でも飼育可能らしい)。

なのに日本のフタオチョウは、食べる植物の科さえも違っていて、クロウメモドキ科のヤエヤマネコノチチを主食樹にしている。近年は、サブ的食餌植物だったニレ科 クワノハエノキ(リュウキュウエノキ)を積極的に食うようになり、沖縄本島南部にまで分布を拡大しているという(南部にはヤエヤマネコノチチが殆んど生えて無いようだ)。
どちらにせよ、両植物ともフタオチョウグループとしては異例の食樹である。
食べ物が違えば、見た目が変わってくるのも頷ける。
多分、台湾のフタオチョウと遠く離れて分布する事により(日本のフタオチョウは八重山諸島にはおらず、沖縄本島のみに分布する)、長い隔離の中で独自に進化していったのだろう。

でも、何で全く違う系統の植物に食樹転換しちやったのかなあ?マメ科の植物なら、沖縄にだって他にも沢山あるでしょうに?
なぜに猫の乳なのだ?

いや待て待て。そもそも沖縄にはムラサキナツフジやタマザキゴウカン、フジは自生してないのかな?
(ー_ー;)あ~あ。又ややこしい話しになってきたよ。いらん事に気づくのも、どうかなと思う。

調べてみると、フジ(藤)は日本本土の固有種で、南西諸島は分布には入っていない。
ムラサキナツフジの分布は、台湾から中国にかけてだが、既に園芸種として日本に入って来ているようだ。
となると、フジもムラサキナツフジも、園芸種として沖縄本島にも間違いなく入って来てると思う。
ならば、そのうち先祖帰りする奴とかいないのかね?
絶対いるよね。藤やムラサキナツフジが野生化して増えたら、そっちを積極的に食い始める奴がいるのは充分に考えられる。
そうなったら百年、千年後には、また台湾のフタオチョウみたくなっちやって、再び亜種に格下げされたりしてね(笑)

3つめ、最後はついつい脳内で「玉裂き強姦」に変換されちゃうタマザキゴウカンの事を調べましょうね。
あっ!Σ( ̄□ ̄;)、おいおい何とタマザキゴウカン(アカハダノキ)は、石垣島と西表島に自生しているというじゃないか。
多分、フタオチョウは台湾から南西諸島沿いに分布を拡げていき、沖縄本島にまで達したのだろう。
だが、なぜだか他のところでは絶滅してしまい、食樹転換をした沖縄本島のものだけが生き残ったとゆう事か…。

いや、ちょい待ちーや。八重山諸島にも、まだフタオチョウが生き残ってる可能性だってあるかもしれないぞ。
開発が進んだ石垣島は、まあ有り得ないとしても、西表島は人跡未踏のジャングルだらけだ。どこか山奥で生き残っている可能性は無いとは言えないんじゃないか?
見つけたら、国内的には大発見だ。功名心がある人はトライしてみませう。ロマンでっせ。

次は、形態も違うと噂される幼虫を検証してみよう。
たしか『アジア産蝶類生活史図鑑』に台湾のフタオチョウの幼生期の写真が載っていた筈だ。早速、探してみる。

おうーっと、その前に言っとかなきゃなんねー。
えー、一般ピポー、特に女子はこの先閲覧注意です。
ハイ、もう間違いなく仰け反るであろうグロい芋虫さんが登場します。
( ̄ロ ̄lll)ゾワゾワされても、当方としては責任は持てませんからネ。ホント、知りませんからネ。
あっ、でもさー、意外と男子より女子の方が免疫力があるかもしんない。『あら、❤可愛いじゃないのよ。』などと云う前向きなコメントが発せられるとも限らん。その辺、女子の方が視野が広いというか、何でも可愛い化させてしまうのはお上手なのだ。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

!Σ( ̄□ ̄;)うわっ、頭が邪悪じゃよ。
もうエイリアン。まるでプレデターだな。
あっ、そういえば昔、『エイリアンVSプレデター』という映画があったなあ…。
たしかプレデターの方が知能が高くて、エイリアンを狩る側なんだよね。そもそもシュワちゃんを窮地に陥れた強敵だもんね、強いわ。
こういうのを英語だと、ドラゴンヘッドと呼ぶらしい。プレデターの方がピッタリだと思うんだけど、プレデターを知らん人もおるもんなー。どう考えてもドラゴンの方が知名度が圧倒的に高いでしょう。仕方あるまい。

一応、プレデターの画像も添付しておきますか。
きっと、こういう寄り道ばっかしてるから、文章が長くなる原因になってんだろなあ…。
まっ、いっか。

【プレデター】
(出典『キャラネット』)

でも、これほど邪悪ではないよね。
見慣れると、イモムシさんも結構可愛く見えてきたりするものだ。

それはさておき、問題は日本のフタオチョウの幼虫である。探そうとも、幼虫の画像があんま無いのだ。

あっ、ラッキー(о´∀`о)
『イモムシ ハンドブック③』の表紙に、らしき姿があるじゃないか(上段の右端です)。

(出典『うみねこ通販』)

やったぜーd=(^o^)=b、これで簡単解決だ。
早速ページをめくる。

おっ、( ☆∀☆)あった、あった。

(出典『イモムシ ハンドブック③』)

あっ、体に帯が無い❗

いや待てよ。
でも、これってヒメフタオチョウの幼虫じゃないの❓
さっき見た『アジア産蝶類生活史図鑑』の台湾のフタオチョウの隣のヒメフタオの欄に、こんなのがいたような気がする。
だいち、どう見ても成虫写真が明らかにヒメフタオじゃないか。改めて、図鑑に記述されてる事が全て正しいワケではないと認識する。

『アジア産蝶類生活史図鑑』で、再び確認してみよう。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

ほらあ~、やっぱそうじゃんかー❗
『イモムシハンドブック③』の監修者には御大・高橋真弓さんの名前もあったから、つい信用したけど、こりゃ間違いだね。出版社は、即刻なおされたし。

次に見つけたのが、蛭川憲男氏の『日本のチョウ 成虫・幼生図鑑』。

(出典『日本のチョウ 成虫・幼虫図鑑』)

画像、ちいせぇなあ。
あっ、でも全然台湾のとは違うぞ。
やっぱ、帯みたいなのが日本のフタオには無い❗
けど、画像が小さいだけに画質悪いよね。これも又、もしかしてヒメフタオと間違えてんでねえか?
黄色い側線が目立たないから、それは無いとは思うけど、この一点の写真だけでは何とも言えない。

そこで、💡ピコリーン。不意に記憶のシナプスが繋がった。たしか手代木さんがタテハチョウの幼虫図鑑を書いておられた記憶がある。それがたぶん中央図書館の蔵書にあった筈だ。

(^^)vありました。
飼育にはまるで興味が無いからサラッとしか見てなくて、うろ憶えだったけど、ちゃんとフタオチョウの幼虫の細密画がありました。

【終令(5令)幼虫】

【各令の顔面と卵】

【蛹】
(以上4点とも、手代木求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

やっぱり、幼虫に帯紋が無い❗

こうなると今度は逆に、もっと台湾のフタオチョウの幼虫の事を知りたくなってくる。
手代木さんで思い出した。そういえばここ最近、2016年に新著『世界のタテハチョウ図鑑』を上梓された筈だ。
勿論、そんな高い図鑑を持っているワケがない。
知りあいをあたって、見せてもらう。

(二点とも出典『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

ほらほらあ~、全然違うじゃないかあー。
日本のフタオは帯紋ねえし、お顔の柄も全然違う。
卵の色だって、日本のは黄緑色だけど、台湾のは黄色い。面倒くさいので割愛したが、蛹もやや違う。
こりゃ、別種とするのも致し方ないところではある。それくらいに明らかな形態的差異はあると思う。

もっとも、個人的な種の概念としては微妙かも…。
さんざんぱら別種説で進めてきたにも拘わらず、言ってしまおう。本能的に、種として完全に分化する前の進化途中の段階、モラトリアムな状態にあると感じている。それが正直な見解なんだよね。

ここまで書いて、やっとネットで幼虫の写真が見っかった。
別にわざわざなんだけど、可愛いので添付。

(出典『(C)蝶の図鑑』)

それはそうと、フタオチョウの和名の方はどうなってんだ?
別種になったんだから、当然の事ながら和名も二つに分けなければならない。でないと区別できない。

でも日本の蝶愛好家だって、まだ多くの人が別種になったとは知らないようだ。その証拠にネット情報では、学名は以前のまま、和名も「フタオチョウ」のままだ。「オキナワフタオチョウ」とか「リュウキュウフタオチョウ」、「ニッポンフタオチョウ」とかの表記は見受けられない。
しかし、一つだけ別種として新学名に変えてあるサイトがあった。
『ぷてろんワールド』である。流石だねd=(^o^)=b

そこには和名も付けられてあった。
( ・∇・)ふむふむ。日本のフタオチョウは「フタオチョウ」、台湾やユーラシア大陸に棲むものは「タイリクフタオチョウ」となっておる。
えっ(;・ω・)❓、原名亜種は大陸にいる奴だから、そっちの方が本家本元だぞ。ならば、そっちを「フタオチョウ」とすべきで、日本のものは「ニッポンフタオチョウ」とかにするのが妥当なんじゃないの❓

でも、暫し考えて納得。日本では「フタオチョウ」という和名が既に浸透している。ならば、混乱を避ける為にそのままにしておく方が得策だろう。それに和名が新しくなれば、図鑑だって何だって今までの表記を全部変えなくてはならなくなる。これまた混乱が起きるし、無駄な労力を生じさせるだけだ。良い御判断だと思う。
しかし、「タイリクフタオチョウ」は一考の余地がありそうだ。台湾は大陸ではないし、大陸って何処の大陸やねん?とツッこむ輩もいるでしょうよ。
個人的には、ここはあえて無理に和名をつけなくてもいいんじゃないのと思う。もう「エウダミップスフタオチョウ」でエエのとちゃいまんのん。

あ~、ユーラシア大陸の原名亜種が出てきたから、コッチも説明せざるおえないじゃないか。これがまた、姿かたちが日本のフタオや台湾のフタオとは全然違うのである。

【Polyura eudamippus nigrobasalis 】
(2011.4.1 Laos Tadxaywaterfall)

だから、ここからが更にややこしい話になってくるんだよなあ…。

オダ、オダ、もうダメだあ~o(T□T)o
ここで再び力尽きる。

これ以上、迷宮にいると危険だ。
脳ミソ、グシャグシャなのである。精神の崩壊も近い。
ここは一旦、『待避~❗、待避~❗全軍撤退❗❗』

というワケなので、部隊を立て直してまた戻ってきます。

                  つづく

追伸
すんません。また頓挫です。

それはさておき、このあと今日(1月2日)午後2時から何とBSーTBSで映画『プレデター』を放映するじゃないか。
いやはや、何というグッドタイミングだ。面白い映画なので、暇な人は見ませう。