カトカラ元年2018′ その五

 

    『孤高の落武者』

       vol.5 カバフキシタバ

 

闇に震撼した…。

2018年 7月14日。
京都市左京区の某所に着いたのは午後の4時だった。
天候は晴れ。とてつもなく蒸し暑い。

この場所は京大蝶研のOBであるTくんに教えてもらった場所だ。無理を言って後輩の蛾屋の子にカバフキシタバの採れる場所を訊いてもらったのだ。
狙ったターゲットは、普段は文献の記録を頼りに探しに行くことが多い。なのに形振(なりふ)り構わずわざわざ訊いたのは、今思えば余程採りたかったのだろう。

自分は不遜で負けず嫌いな男だ。
だから『世界のカトカラ(註1)』では国内最高峰の珍品度★5つ星、カトカラ界きっての稀種となっているカバフキシタバをカトカラ採りを始めて一年目にして採ってやろうと思っていた。最初にライト・トラップに連れていってくれたカトカラ好きのA木くんでさえもまだ採ったことがないと言ってたから、やりがいはある。
オラは人とは違う、( ̄ヘ ̄メ)まあまあ天才をナメんなよである。実績もさしてないのに変な自信だけはあるのだ。国内でも海外でも蝶はそんな感じで採ってきた。だから度々『蝶採りナメてんのか。』と叱られる。でも引きだけは強いから何とかなっちゃうんだよねー(・┰・)

歩きながら、何となく蝶採りを始めた頃の事を思い出す。
オデ、オデ、馬鹿だから、蝶採りを始めた一年目が終わって、周りに「約240種類いるとされる日本の蝶のうちの200種類を三年で、230種類を四年で採ったるわい❗」と宣(のたま)ってしまったのだった。
吐いた言葉は飲み込まない。だから言った手前、必死だった。中盤辺りから難易度がどんどん上がってゆくので、いつも背水の陣で臨んでいた。もし狙いの蝶が採れなければ来年に持ち越しになるから、翌年の日程が苦しくなって益々達成が難しくなる。ゆえに遠征の時などは取りこぼしは許されない。連続惨敗でもしようものなら、取り返しがつかなくなるのだ。スケジュールの組み方を一つ間違えただけでも命取りだ。発生期を外せば採れないし、それに天候だってある。こればかりはどうしようもない。悪ければ、ほぼアウトだ。運も必要なのだ。思えば、ボイントも殆んどが自分で探さざるおえなかったし、ギャンブルの連続だった。とにかく少ないチャンスを確実にモノにしていかなければならない。それに時間的、経済的な面から遠い所へはそう何度も行けはしない。車も持っていなかったから、簡単にリベンジはできないのだ。だいち翌週には次に採らなければならない蝶の発生が迫っている。採れなければ、どんどんスケジュールはカツカツになってゆく。だから、いつも血眼になって探し回ってたっけ…。
愚かな挑戦だったが、結局三年で221種類、四年で238種類が採れた。お陰で苦い思い出にはならずに済んだ。虫は採れなきゃ面白くないのだ。だからカバフも一発で仕止めちゃる。でもって、その勢いで今年中に日本産カトカラ全31種のうちの半分は片付けてやろうじゃないか。

 
早くも汗だくになりながら、山の入口へと辿り着く。
何か看板がある。

 

 
しょえー(|| ゜Д゜)
熊って夜行性だよね❓、絶対そうだったよね❓
一瞬、熊と遭遇した時のことを想像した。マウントされて、上からボコボコにされてる図だ。
で、内臓食われんだ。シクシク(;_;)。んでもって暫く誰にも発見されないのだ。山中、o(T□T)oハッコツシターイ❗ (*ToT)やだよー、白骨死体だなんて。

眦(まなじり)をキッと上げる。
だからといって撤退する気は毛頭ない。熊が怖くて、虫採りがやってられっかいι(`ロ´)ノである。欲望が恐怖をも凌駕するのだ。それが虫屋の性(さが)というものだ。やるっきゃない。

Tくんには詳しい場所は聞いてない。京都市左京区○○とだけしか教えてもらってなくて、その下の町名までは報されていない。といっても○○だけじゃ広過ぎる。よほどTくんにもう一回訊こうかとも思ったが、カッコ悪いのでやめた。ピンポイントで場所を教えてもらったら楽だし、確実ではある。しかし、それじゃ面白くない。予定調和なんぞ、糞喰らえだ。だいち、そんなの狩りじゃない。それにそんなところには浪漫は微塵も無い。自身の全知全能をフル回転して採ってこそ、エクスタシーと云う快楽は与えられる。物語のない虫採りに、ロマンなどありはしない。

場所は国土地理院の地図とGoogleマップを見てエリアを4分割し、最も可能性の高い場所に決めた。それが昔一度だけ来たことのある所と偶々(たまたま)合致した。ちょっと一安心だ。まるで土地勘のない場所よりも効率よく探せる。
ところで、こんなとこ何採りに来たんだっけ(・。・)❓
あっ、オオウラギンスジヒョウモン(註2)か。しかも秋だな。そのうち何処かで採れるだろうと思っていたが、中々出会えなくて結構苦労した記憶がある。ここでも結局会えなかったんじゃないかな。

先ずはカバフの幼虫の食餌植物であるカマツカの木と樹液の出ている木を探そう。無ければ他のエリアを探すしかない。

しばらく歩くと、またしても熊注意の看板が出てきた。

 

 
悪戯に恐怖心を煽るのぅー( ´△`)
前途多難じゃよ。

 

  
これってサクラ類の葉っぱだよね❓
もしかしてカマツカ❓(註3)
結構、大きな木だ。ここも一応チェックポイントにしよう。夜に♀が産卵に訪れるかもしれない。

さらに歩くと、その花らしきものも見つけた。

 

 
ネットで調べたカマツカの花って、こんなだっけ❓
ワカンナイや。植物のトーシロに、んなもん分かるワケねえわ(;・ω・)

いくつか樹液の出ているクヌギの木を見つけた。
だが、左右に分かれた道のそれぞれ2本ずつだけだ。何れも道の奥で、互いの距離はそれなりにある。両者を歩いて移動するのに最低でも15分くらいはかかりそうだ。帰りのバスの時刻を考えると、持ち時間はそうはない。移動の時間が勿体ないから、どちらか一方に絞った方がいいかもしれない。でも、そうなると賭けに負ければ地獄ゆきだな。

 
日が暮れ始めた。
そろそろポイントをどっちにするか決めなければならない。

結局、樹液がより出ている方のポイントを選択した。但し、そちらは一本は崖の上、もう一本は森の奥まで入り込まねばならない。でもって、かなりの急斜面にある。熊が出たら、一貫の終わりだ。それこそ死体は発見されんじゃろう。
一瞬、やはりもう片方のポイントにしようかと心が揺れ動いた。そちらは道沿いだし、もし居たとしたら採り易い場所でもある。更には杉の植林が多いから、熊の出る確率も低そうだ。
いや、よそう。楽して採ろうなんて虫がよすぎる。神様は、きっとチキンハートな者には微笑まないだろう。

 
午後7時10分くらいに日が沈んだ。

 

 
やがて、徐々に風景は色を失い。闇が支配する世界がやって来る。

 

 
おいおい、真っ暗けやないけー。
街灯も一切ないしぃ~。そして、ここは擂り鉢状の地形になっており、市街地の灯りも全く見えないのだ。しかも、今日は新月。月の光もないから漆黒の真っ黒けー。してからに一人ぼっちで真っ暗な森の急斜面を徘徊かよ。アタマがオカシクないと、こんな事は出来しまへん。我ながら完全なおバカさんだ。苦笑する。

森に突入する。
懐中電灯の照らしたところだけが、切り取られたように青白い。背中にベッタリと恐怖が張り付く。
上を仰ぐ。🎵ららら…🌟星き~れぃ~。

樹液の出ている2本の木を行ったり来たりする。
でも行ったり来たりしているうちに新たな恐怖が芽生え始める。考えてみれば、懐中電灯を1本しか持ってない。もしコレが途中で消えたらと思うとチビりそうだ。しかも予備の電池も持ってないときてる。致命的ミスだ。ようはぬけてるというか、なあ~んも考えていないのである。それでも目的のものは大概採れてきたから始末に悪い。蝶採りナメとんかと言われても仕方ないよね。
加えて所詮は百均で買った安物の懐中電灯だ。性能に大いに不安がある。前に突然接触が悪くなり、プッツリ消えたことがあることを思い出し、ゾッとする。その時は小太郎くんがいたからいいようなものの、今夜は一人きりだ。切れた時のことを想像すると、ベソかきそうだ。
道から近い方の樹液の出ている木は、まだいい。灯りが消えてもギリ夜目でも何とかなるだろう。問題は森の奥の木だ。もしそっちでブラックアウトしたら、おしまいだ。道無き複雑なルートなだけに到底戻ってこれない。倒木だって結構あるから、その場から動けなくなる。しゃがみ込み、熊の恐怖に怯え、朝が来るまで(/´△`\)シクシク泣き続けるしかないだろう。
とはいえ、それが一番正しい選択なのだ。下手に動いたら益々ドツボにハマる可能性が高い。それこそ死の危険に近づくことになる。その辺はダイビングインストラクターをしていたので、教えとして骨の髄まで刷り込まれている。水中で迷ったら、慌てて動き回るのが一番してはいけないことなのだ。パニくってかえって事態を悪化させることの方が多い。その場にとどまってよく考え、一度浮上して位置を確認するなり何なり冷静に対処するのが正しい。幸い此処は陸上だ。空気が無くなる心配はない。もっと気楽にいこうぜ、ベイベェ~(*^ー^)ノ♪
(ー_ー;)あかん…。陽気に心を宥めてみたがダメだ。そんな状況で鋼の心を持つことなど無理だね。

 
もう一時間くらいは異次元ワールドを徘徊している。段々、頭がオカシクなってくる。そのうち、この世の者ならざるモノを見るやもしれぬ。お化けとか幽霊が出たら、髪の毛真っ白になって発狂だな。

午後8時半。
道から近い方の崖の上の木を、さして期待もせずに懐中電灯で照らした。
一瞬、幻覚かと思った。突然、下翅を開いた何かカトカラらしきものの姿が目に飛び込んできたのだ。距離は目測7、8m。遠いが、その特徴的な上翅と下翅の明るい黄色で瞬時にして理解した。間違いない。カバフキシタバだ❗( ☆∀☆)カッケー❗
💓ドクン、ドクドクドクドクドクドクドクドク…。
即、心臓の鼓動が早鐘の如く打ち始める。この血が滾(たぎ)るようなワクワク感と是が非でも採りたい、採らねばならぬというプレッシャーがない交ぜになったゾクゾク感、堪んねぇ。肌が粟立つ。久々、気合いがバシバシに入る。
一度、その場で大きくゆっくりと息を吐く。
それでスイッチが入った。さあ、戦(いくさ)の始まりだ。全身に力が漲(みな)ぎってゆく。この戦闘モードに入ってゆく瞬間が好きだ。闘争は恐怖でもあるが、エクスタシーでもあるのだ。ケンカと同じだ。
先ずは慎重に小崖をよじ登る。そして木を掴みながら斜面をそろりそろりと距離を詰めてゆく。
よっしゃ、射程内に入った。でもそこで迷いが生じた。ポケットに捩じ込んだお散歩ネットで仕止めるか、それとも毒瓶を上から被せるかで心が揺らいだ。
毒瓶を直接かぶせるのって、あんまりやったことがないんだよなあ…。ダイナミックな採り方じゃないから好きじゃないのだ。
しかし、出した答えは毒瓶を被せるだった。網だと背中の毛がハゲちょろけになりやすいからだ。カトカラは迅速に〆ないと、すぐ無惨な落武者になってしまうのだ。直接毒瓶でゲットするのが一番ハゲちょろけになりにくいのである。

左手に懐中電灯、右手に毒瓶を持って、息を詰めて近づく。ドキドキの心臓バクバクだぜ。そっと毒瓶を持っていき、一気に被せてやろう。
ハッ(゜ロ゜;、だが被せようと毒瓶の先が僅かに動いた瞬間だった。飛んだ❗
ゲゲッΣ( ̄ロ ̄lll)、逃げよった❗
慌てて懐中電灯で周りを照らす。光がメチャメチャな軌道で激しく闇を切り裂く。しかし、ようやくその姿を捉えた時には、彼奴は既に斜面の奥の闇へと消えようとしていた。最早そのまま見送るしかなかった。
Σ(T▽T;)あーん、やってもたー。ワイ、呆然自失。その場に力なく佇む。
(;・ω・)何でやねん…。めっさ敏感やんけ。何だか泣きたくなってくる。何のために今まで恐怖に耐え忍んできたのだ。全ては無意味だ。ゼロじゃないか。

まあいい。時間はまだある。大丈夫、そのうちまた飛んで来るさ。どんまい、どんまい、ドン・ウォーリー。心の中で自分を励ます。でないと、己の不甲斐なさにその辺の灌木にメガトン級の蹴りを入れそうだった。

しかし、何度も往復するもいっこうに姿を現さない。
暇潰しにでも採ってやろうかと思ったオオトモエ(註4)たちにさえも、近づけば嘲笑うかのように何度も逃げられる。ナメとんのか、ワレ(-_-#)

カチッ。
時々、懐中電灯を消す。暇なのもあるが、少しでも懐中電灯をもたせようと云うセコい計算だ。
それにしても本当に真っ暗だ。鼻を摘ままれそうになってもワカリャしない闇だ。べっとりと塗り込られたような黒には、遠近感が無いのだ。そういえばイランとパキスタンの国境に跨がる砂漠で過ごした夜も、こんな漆黒の闇だった。普段、我々が見ている夜の闇は本当の闇ではない。必ず何処かしらからの人工の光が届いていると云うことを今更ながらに理解する。月明かりのない闇とは本来こういうものなのだ。今、眼前にあるのは、謂わば太古の闇だ。
心と闇の境界線が溶けてゆくような錯覚に襲われる。ともすれば、体も無くなってゆくような不思議な感覚だった。でも五感はある。しかも、より鋭敏になっているような気がする。
( ̄□ ̄;)ハッ、自身が闇と同化して消えて無くなるのではと思い、慌てて懐中電灯を点ける。すると、まるで手品のように森の木立が現れる。と同時に、あの不思議な感覚は消えてしまう。目に見えるものが全てではないのだろう。風が目に見えないように。

そうしてる間も刻一刻と時間は削られてゆく。帰りのバスの事を考えれば、ここを10時15分くらいには離れなければならない。
取り逃がしたことをジクジクと後悔する。1頭目はハゲちょろけになる事など気にせず、確実に採る為に網を使うべきだった…。被せる瞬間に、より照準を確実に定めるために一瞬躊躇しなかったか?…。いや、正面からではなく、下から持っててガッと被せた方が良かったかも…。そんな事をグズグズ考えていると、忸怩たる思いで心が溢れ出しそうになる。

そんな折りだった。
『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
突然、森の奥で得体の知れない何かが吠える声が、闇に谺した。
💥(|| ゜Д゜)ビクッ。ピタリと体の動きが止まり、全身に戦慄が走る。そして、不気味な静寂。
何なんだ❓太い鳴き声だったから鹿ではないことは確かだ。野犬でもあるまい。野犬といえども鳴き声はフツーの犬と同じだ。キツネやタヌキでもなさそうだ。こんな声じゃなかった筈だ。じゃあ何なんだ❓ガルルの穴熊(註5)か❓それとも熊さん❓サンチュウ、ハッコッシターイヽ(ToT)ノ
泣きっ面に蜂ところじゃねえや。
でもゼッテー帰らんぞ(-_-#)、帰ってなるものか。
たとえ死の翳りに伏すとも…。何かの小説の一節が頭を過(よぎ)る。これ、何だっけ?だが何という題名の小説の中の言葉だったか思い出せない。バカか。そんな事、今はどうだっていい。そんな場合ではない。
でも、ここまできたら、引き下がるワケにはいかない。

『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
再び咆哮が闇をつんざいた。背中の毛が逆立つのが自分でもよく解った。恐怖に支配されかかっている。
でも、段々腹が立ってきた。ワケのワカラン奴に脅されるのもムカつくし、それに支配されかかっている自分も許せない。

『うっせぇー、ボケー❗てめえブッ殺すぞ(#`皿´)❗』

気がついたら、大声で叫んでた。
( ̄▽ ̄;)あちゃー、死んだな。愚かだ。アホ過ぎる。全然冷静じゃないじゃないか。
しかし、ナゼかそれきり吠え声は止まった。ワシの気迫にビビったかえ(;・∀・)❓
とはいえ、かえって恐怖は増したりなんかした。熊さまは大変お怒りになって、闇からコチラの動静を伺って、いきなり背後から襲ってくるやもしれぬ。以降、ビビりまくりの全身全霊で気配と野獣臭に気を配った。時々、後ろを振り返ったりなんかしてね。ワシ、本当はごっつ小心もんなじゃよー(T△T)

更に時間は削られてゆく。
午後10時前になった。あと此処にいられるのは10分少々だ。心が悲鳴を上げそうだった。段々、顔が醜く歪んでゆく。あんさん、あんじょう殺したってやあ。

最後の望みをかけて、取り逃がした場所へと行く。
祈るような気持ちで懐中電灯を照らす。
(@ ̄□ ̄@;)ぐわん❗❗その光の束の先に、まさかのカバフがいた。ドラマは急速に動き出す。毎度、毎度のドラマチックな展開だ。有り難いが、何ゆえ神はどうしてこうもワタクシを試されるのだ❓
とにかく、ここであったが百年目、この神に与えられし千載一遇のチャンス、逃してなるものか(=`ェ´=)

悲愴感を振り払うかのように深呼吸する。そして、気合いを入れて崖をよじ登る。慎重に距離を詰める。その刹那も頭の中を考えが答えを求めて目まぐるしく駆け巡る。どうする❓網でいくのか、それとも毒瓶でいくのか❓どっち❓どっち❓どっちが正解なのだ。

出した答えはこうだ。
やはり落武者にしたくないので毒瓶でいこう。しかし、万が一ハズした時のことを考え、左手にお散歩ネットを持つことにした。それでダメなら、熊に喰われて死んでやる(-_-#)

目の前まで来た。
懐中電灯を口にくわえる。汚いが、もうそんなこと言ってらんない。毒瓶の蓋を取り、静かに足元に置く。そして左手に網を持つ。二刀流”羅生門”❗(註4)。ワンピースのゾロ気分で立つ。

慎重度マックスで毒瓶を近づける。
たぶん、初めて見た個体と同じ奴だろう。今度こそ捕らえてやる。もう躊躇はしない。思いきって被せにゆく。

💥カポッ。
だが、ギリギリすんでのところで飛び立った❗
ゲロゲローΣ( ̄ロ ̄lll)❗❗❗❗❗、ハズした❗
糞ッタレがっ❗己に対しての怒りに血流が憤怒の河となって逆流する。急な斜面だがアドレナリン全開。懐中電灯を口にくわえたまま後を追う。殺(や)ってやる。

10mくらい追い掛けたところで、照葉樹の繁みに止まった❗しめた(・∀・*)
しかし、変な所に止まっている。下から網をもってゆくか、横に払うか迷うところだ。いや、横からは枝が邪魔して無理っぽい。どうする❓だが時間は切迫している。迷っているヒマはない。もうボロボロになっても仕方ない。肉を切らして骨を断つ❗
秘技『⚡雷神』❗渾身の一撃を💥”斬”❗上から下へとザックリ振りおろす。

恐る恐る中を見る。( ☆∀☆)入っている❗
でも時間はない。急いで毒瓶を網の中に突っ込み、取り込みにかかる。しかし、お散歩ネットは濃い緑色だ。中を視認しにくい。又しても選択ミス。おまけに暴れて網の中で逃げ回る。ダメダメダメ~(T_T)、ボロボロになっちゃうー。
焦れば焦るほど上手くいかない。汗が滴り落ち、くわえた懐中電灯の横からヨダレが流れ出る。
えーい(*`Д´)ノ、もうどうなっても構わん。おどれ、絶対に捕獲しちゃるわいΣ( ̄皿 ̄;;❗
とぅりゃあー、ヤケクソで半ば無理矢理にネジ込んでやった。

ハー、ハー( -。-) =3、ゼー、ゼー( ̄◇ ̄)=3
その場にへたりこむ。
やったぜ、仕留めた。安堵と達成感がジワジワと全身に拡がってゆく。

 

 
シンプルだがスタイリッシュな上翅と、下翅の鮮やかな黄色。間違いなくカバフキシタバだ。
ふはははは……Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
蛾を本格的に採り始めて1年目にして早くもカトカラの最稀種とも言われるカバフキシタバ様をGETじゃーい❗ 俺って、やっぱ引きだけは強いのれす。(^o^)オホホのホー。

  

 

 
(裏面)

 
とはいえ、見事にハゲちょろけて落武者化している。
だが、むしろ最後まで生き延びようと抗い闘い続けた孤高の侍の証しだと思った。敬意をもって三角紙に収める。
それに、漆黒の闇に震撼し、謎の動物の咆哮にビビりまくりつつも撤退ギリ3分前に仕止めたのだ。コチラだって全身全霊で闘ったのだ。その証しでもある。落武者禿げチョロケも勲章と考えればいい。

超特急で帰り支度をし、真っ暗な坂道を足早に歩く。
この深い闇も、今や怖れるものではない。むしろ、夜の冷気と共に優しく包んでくれているようにさえ感じられる。

やがて、街の灯が見えてきた。
そこには、きっと目映(まばゆ)い光を灯す最終バスが待っている筈だ。
 
                   おしまい

 
 
その時のものがコレだ。

 

 
蛾採りを始めてまだ一年目だとしても、酷い展翅だ。
上翅も上がり過ぎだし、下翅は下がり過ぎだ。触角も酷い。
思い出したけど、コレって下翅が上翅の下にどうしても入らなくて諦めたんだよね。だから下翅を上げられなかった。上げれたら、もう少しマシになってたかもしれない。
兎に角あまりに酷いし、これではカバフの美しさが伝わらないから、今年展翅したのを添付しておきます。

 
(Catocala mirifica ♂)

 
(同 ♀)

 
雌雄の判別は尻の形で、だいたい区別できる。
細長くて、尻先に多めに毛束があるのが♂で、尻が短くて太く、尻先の毛が少ないのが♀である。
あとは比較的♀の方が翅形が丸い。
 
裏面はこんなん。

 

 
いやはや、ちゃんと展翅するとカッコイイねぇ。
こうして改めて見ると、数多(あまた)いるカトカラの中でも特異な姿だ。上翅のシンプルで渋いデザイン、下翅の鮮やかなレモンイエローが異彩を放っている。世界を見回しても、似た者はいない。そういう意味では、孤高のカトカラと言ってもいいだろう。

種の解説もしておこう。

 
【学名】Catocala mirifica (Butler, 1877)

フランス語にミリフィック(Mirific)と云う言葉があるから、おそらくラテン語由来だろう。
フランス語 Milific の意味は「驚くべき」「素晴らしい」など。

蝶にも同じ小種名のものはいないかと探してみたら、ジャノメチョウ科にいた。
豪州とその周辺に Heteronympha mirifica というジャノメチョウ科のチョウがいるようだ。
それにしても、ヘテロナュムパ(Heteronympha)って、なんだか舌を噛みそうな属名だにゃあ。
一応、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』で調べてみたら、ちゃんと載ってた。この本には毎度助けられてるなあ。重宝してます。
それによると、ヘテロナュムパはミナミジャノメ属と訳されておる。mirifica(ミリフィカ)はやはりラテン語で、 milificus の女性形なんだそうな。意味は「驚くべき、不思議な」となっていた。ミリフィカという素敵な響きといい、この佳蛾には相応しい学名だと思う。

 
【和名】
由来は調べたがワカンナイ。カバは樺の木かなあ❓それとも蒲の事なのかなあ❓湿地に生える蒲(ガマ)の事をカバとも言うからね。どちらにしても色は茶色だ。おそらく上翅の先の紋の色を表しているものと思われる。
問題はフだ。斑(ふ、ぶち)なのか布(ふ)なのかなあ。たぶん斑の方だろうけど、ブチといえばブチハイエナとかブチ犬など複数の斑点を持つものを指すイメージが強い。
一応調べてみたら、「斑(まだら)は、種々の色、また濃い色と淡い色とが混じっていること。」ともあるから、あながち間違っているワケではなさそうだ。
まあ、そうだとしても、個人的には何か納得できない和名だけどね。もう少し良い名前をつけて欲しかったなというのが、正直な感想だ。

 
【開帳】
45~58㎜。
基本的にはフシキキシタバやコガタキシタバなどよりも、やや小さい。だが大きさには結構な幅があり、小さいものではマメキシタバくらいしかないものもいる。

 
【分布】
関東以西の本州、四国。
西側に多いが、局所的で稀とされている。また各地で得られる個体数も少ないようだ。但し、島根県浜田市田橋や三重県青山高原では多くの個体が得られている。とはいえ、浜田市田橋は産地が潰れたという噂を聞いているし、青山高原は風力発電の施設が出来てからは激減したそうだ。関東では伊豆半島が確実な産地として知られている。

因みに、長いあいだ日本固有種とされてきたが、近年、中国でも発見されている。

 
【成虫出現期】
6月下旬から現れ、8月下旬まで見られる。
近畿地方での最盛期は7月上、中旬と思われる。

 
【生態】
成虫は好んでクヌギやコナラなどの樹液に集まる。
飛来時刻は他のカトカラと比べて遅く、午後8時を過ぎないと飛んで来ないようだ。京大蝶研のTくんからも事前にそう聞いていた。これは翌年(2019年)に各地で確認しているので、少なくとも近畿地方では安定した生態だと言っても過言ではないだろう。
今年は糖蜜トラップも試してみたが、よく飛来した。糖蜜のレシピにもよるのだろうが、樹液よりも寧ろ糖蜜に反応する事の方が多かった。
主に低山地の落葉広葉樹林帯の開けた二次林に見られる。西尾規孝氏の『日本のCatocala 』によると、飼育経験から低温と高温、乾燥に弱いという。また、良好な発生地の中には湿潤な地方があり、近畿、中国地方のブナ帯下部からコナラ群落を好む狭適温性の可能性があるとしている。
これに関しては当たっているところもあるが、微妙という印象を持っている。たしかに湿潤なところにもいるが、そうでもないところにもいるからだ。狭適温性と云うのにも疑問がある。少なくとも近畿地方では、特別な気候の場所に棲むと云う印象はない。

日中はアカマツなどの木に頭を下にして翅を閉じて静止している。その特徴的な上翅の斑紋から、他のカトカラと比べて比較的見つけやすい。

余談だが、カバフは背中の毛が薄いのか、すぐにハゲちょろける。これは翌年(2019)わかったのだが、落武者化する確率が異様に高いのだ。因みに、このハゲちょろけることを上の世代では「金語楼になる」とおっしゃっているようだ。これは落語家の柳家金語楼がハゲちょろけてるところからきているらしい。でもさあ、柳家金語楼なんて今時の人は誰も知らないよね(笑)

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科 カマツカ(Pourthiaea villosa)。

 

 
漢字で書くと鎌柄となる。これは材を鎌の柄に用いたことによる。材質が硬く、別名ウシゴロシ(牛殺し)とも言われる。

『日本のCatocala』によれば、幼虫はカマツカの大木を好むという。5齢幼虫は花と蕾を摂食し、この事から花を豊富に付けるカマツカの大木が必要のようだ。稀種とされ、個体数も少ないのは、おそらくこの幼虫の嗜好性に因るものではないだろうか。

 
追伸
この時の経験が一つの分水嶺となった。
それ以降、闇に対する畏怖が大幅に軽減したという実感がある。あの時の恐怖に比べれば、他は屁でもない。お陰で余計なことを考える事なく、ターゲットに集中できるようになった。謂わば記念碑的な日でもあったのだ。当ブログに書いた四話構成の2017版『春の三大蛾祭』シリーズ(2018年版ではない)の頃から考えれば、隔世の感がある。
恐怖は想像する事にある。その侵入をブロックすることが出来たら、闇もそれほど恐るるものではない。

実を言うと、この回の草稿は既に7月上旬には出来ていた。でもゆえあってアップを控えていた。
通例ならば、次回は2019年版のカバフ続編になる筈だが、その関連で10月以降になる予定。理由は月刊むしの10月号(9月発売)を見て下されば、いずれ解るかと思われます。それまではカトカラシリーズのvol.6を書くか、休止している『台湾の蝶』シリーズを再開させるかは未定。もしくは他の昆虫の記事になるか、食べ物系になるかもしれない。或いは完全お休みになるかもね。もう一回、長野の行って紫の君に会わなければならないのだ。

言い忘れたが、三角紙上のカバフの一連写真は帰りのバスの中で撮ったものだ。現場で写真を撮っているヒマなど無かったって事だね。それくらいギリギリでのゲットだった。

 
(註1)『世界のカトカラ』

 
月刊むし・昆虫図説シリーズの第一弾(2011)。
カトカラの世界的研究者 石塚勝巳氏による全世界のカトカラを紹介したものだが、同時に日本のカトカラ入門書としても使える本。

 
(註2)オオウラギンスジヒョウモン♀
(2015.6.14 京都府南山城村)

 
ヒョウモンチョウの仲間は結構好き。

 
(註3)これってカマツカ❓
たぶんウワミズザクラ。翌年、確認した。
ウワミズザクラといえば、シロシタバ(Catocala nivea)の食樹だ。時期に行けば、いるかもしんない。行かないけど。

Facebookで、さる方から花の付いてる木はリョウブだと御指摘があった。確かにウワミズザクラの花の時期は5月くらいだから、とっくのに前に終わっているもんね。間違えました( ̄▽ ̄)ゞ

 
(註4)オオトモエ
(2018.8.9 奈良県大和郡山市)

 
普通種だが、デカくて中々立派な蛾だ。こういう黒っぽい個体はカッコイイと思う。

 
(註5)ガルルの穴熊
昔、フジミドリシジミを採りに滋賀県比良山に行った時の話だ。山道を歩いていると、一所懸命に穴を掘っている動物がいて、タヌキかなと思ったが、にしては白っぽくて、どうも違うような気がした。向こうが気がついてくれないので、しようがなしに背後から近づいて行ったら、7、8m手前で振り向かれ、ガルルーとムチャクチャ威嚇されたのだった。マジで怖かったー。
帰ってから調べてみたら、アナグマだった。

 
(註6)二刀流”羅生門”
漫画『one piece』の登場人物ロロノア・ゾロの必殺技の一つ。両腰に一本ずつ刀を構えた居合の構えから抜刀し、対象物を縦に一刀両断にする。技の初登場は「ウォーターセブン編」。