2018′ カトカラ元年 其の15

  vol.15 ゴマシオキシタバ
  『風のように、曇の如く』

 
 
2018年 9月1日

この日は植村を焚き付け、兵庫県のハチ北へライトトラップをしに行った。狙いはムラサキシタバである。

 

 
天気は曇りで、時折霧雨が降るような灯火採集には絶好のコンディションだった。
植村の持ってきたツインターボ水銀灯ギャラクシーセットは強力で、超明るい。当然、ブラックライトも備えておるから万全の体制だ。

おまんら、ι(`ロ´)ノジャンジャン飛んでこいやー❗

とかフザけて言ってたくらいだから、もう勝ったも同然の気分だった。

しかし、蛾はアホほど飛んで来るのに、なぜかカトカラの飛来は少ない。パタラ(C.patala)だけで、ムラサキシタバどころか、ベニもシロもジョナスも飛んで来ない。
場所の選定を間違ったのかもしれん。やっぱ日没前に余裕をもって現地に着いて、設置場所を吟味して考えなきゃダメだね。

飛んで来るのは、相変わらずただキシタバ(C.patala)ばっかで、時間は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
午後10時前後、漸くパタラとは違うカトカラが飛んできた。尖った翅の形で、すぐに分かった。ジョナスキシタバだった。
そういえばこの時は、植村が『いいなあ、ジョナス。いいなあ、ジョナス。』と連発してたんだよなあ。

その後、ライトトラップをそのままにして外灯回りに行った。
たいした成果もなく、11時くらいに戻った。
したら、植村が白布に止まっているカトカラらしき奴を見つけた。
それが人生で初めて見るゴマシオキシタバだった。

植村が『コレ、何すかね❓』と言うので、『どうせ、ゴマシオなんじゃねえの。』とぞんざいに答えた覚えがある。
正直、第一印象は、あまり特徴のないツマンねぇカトカラだなと思った。ムラサキシタバに比べれば、雑魚みたいなもんだ。
植村も初めて採ったのにも拘わらず、『ジョナスの方がいいなあ~。』と又も言っていたくらいだから、彼も多分しょーもないカトカラだと思ったに違いない。

これで少し期待したが、その後ジョナスもゴマシオも1頭も飛んで来ず、午前0時半に撤退した。

 

2018年 9月8日
 

お馴染みの「ペンションすずらん」の画像だから、今回も山梨県甲州市での話。

 

 
この日の昼間はキベリタテハを探しに大菩薩峠まで足を伸ばした。
でも、この年は大不作だったようで1頭たりとも会えなかった。

森の写真は峠の下の環境で、ブナとミズナラの混交林が広がっている。

 

 
これまたお馴染みの、ペンションすずらんに常設されているライトトラップ。
ここにゴマシオが複数飛んで来たのだが、何の感動もなかった。どうせ採れるだろうと思ってたし、ボロばっかだったせいもあるが、やっぱりどこか魅力に欠けるのだ。だからか、当時の写真は1枚もない。おそらく撮っていないのだ。

この時は4、5頭は見ている筈だが、1頭しか持ち帰らなかった。別にカトカラにまだハマっていたワケではなかったから、どーでもいい存在には興味が薄かったのだ。どーでもいい存在のボロを持って帰る気にはなれなかったのだろう。一応、採ったという証拠があればいいと云う感じだ。
その時の、それがコレ↙

 

 
展翅、下手クソだなあ…。カトカラ1年生、まだまだ上翅と触角を上げた蝶屋的なクセが出てる。

これで話は大体終わっちゃう。
実を云うと、2019年には1頭も見ていないのだ。
一応、2019年の事も書いておくか。

正直、ゴマシオを狙うと云う意識は全く持っていなかった。ブナがあるところではド普通種だと聞いていたからだ。そのうちどっかで採れるだろうとタカを括っていたのだ。
しかし、他のカトカラ狙いで猿倉、平湯温泉、新穂高左股、白骨温泉とブナがある場所に入ったものの、全く糖蜜トラップには寄って来なかった。今考えると、何でだろ❓と思う。
理由は、そもそも分布していなかったのか、糖蜜トラップに全然反応しなかったかのどちらかだろう。

但し、三角紙に入った手持ちのゴマシオは幾つか持っている。小太郎くんがくれたのだ。
白川村周辺に蝶採りに行った折りに、沢山いたのでお土産に採ってくれたのである。優しい男なのだ。
昼間、蝶採りをしていたら、驚いてジャンジャン飛ぶので、ついでに採ってきたそうだ。結構敏感で、沢山いたけど、大半はどっかに飛んで行ったらしい。

 
(2019.8.2 岐阜県白川村平瀬)

 
ずっと、放ったらかしだったが、この為に今日ようやく展翅することにした。興味の無さが見てとれるよね。

 

 
カトカラ歴二年目の終わりともなれば、上翅を下げ、触角も寝かせ気味にしたカトカラ屋の展翅になってきてる。

♂だな。
それにしても地味だなあ。
テンション、⤵だだ下がるわ。

 

 
(・。・)おっ、お次は上翅が黒い個体だ。
中々にカッコイイじゃないか。
ワザと上翅を少し上げた蝶屋的展翅にしたけど、正解だったかもしんない。黒っぽいだけに、ちょいワル感が出てて、コレはコレで有りだとは思うけどね。

展翅する前は横から見て腹が短いから♀だと思ったけど、展翅したら♂に見えてきたぞ。どっちだコレ❓

 

 
横から見て、コヤツは腹がもっと短いし、間違いなく♀だと思ったんだよね。けど展翅してみたら、やはり腹が細い。だいたい♂にしても、腹先にあまり毛束が生えてないんである。カトカラの仲間の♂は、大概が腹先に毛束が多めに生えている。それで大概は判別できるのだ。
♀はまだ卵を持ってないから、腹がパンパンに膨らんでないのかなあ?
まさかコヤツも♂だったりして…。

 

 
コレも横から見て腹が短いから♀かなと思ったけど、微妙。ワケ、わかんねえや(◎-◎;)
どいつもコイツも上翅が汚いし、雌雄はワカランし、段々腹立ってきたよ( ̄皿 ̄;;

  

 
コレは腹が長いから、絶対に♂だな。腹先の毛も少し多めなような気がする。

どれも鮮度は悪くないのに、やはり魅力に欠けるなあ。大半の個体が上翅にメリハリが無くて、ベタだ。もしも、最も見た目がツマンナイ黄下翅(キシタバ)選手権があったとしたら、間違いなく上位に食い込むね。変異が無いと、ホントつまらんカトカラだな。
展翅も、ぞんざいになってきたわ。体が縒れてるけど、もういいや。なおしません❗
よし、次はもう少し見栄えよく展翅してみよう。

 

 
触角を段階的に上げてきて、ザ・蝶屋風の展翅にしたった。
少しは上翅の柄はマシだけど、こんなもんか…。

あっ、裏展翅したのを忘れてた。

 
(裏面)

 
脚も整えて、完璧してやろうかとも思ったが、たかだかゴマシオなので、やめた。

それにしても何か今イチだ。下翅の内側が擦れてる。
一応、他からも画像を引っぱっとくか。

 
(出展『日本のCatocala』)

 
西尾規孝氏の『日本のCatocala』の標本写真をトリミングしたもの。この図鑑は唯一裏面の画像も載せてくれている図鑑だから助かる。
でも自分の写真の撮り方が悪いせいか、実物より黄色く写っている。
まっ、いっか。んな事よりも斑紋の方が大切だ。それさえ見比べらればいい。あとは雰囲気さえ解ってもらえればええやろ。

さてとー。そろそろ解説編、始めますかあ。

 
【学名】Catocala nubila Butler, 1881

最初に学名を見た時は「nubile」に見えた。
nubileといえば、英語だと性的魅力のある女性とか色気がある女性という意味だ。ようするにエロい女のことである。
だから、(|| ゜Д゜)えぇーっと思った。
記載者のバトラー(Butler)って、ゴマシオキシタバの何処に色気を感じたのだ❓変態じゃねえの❓と思った。しかもマニアックな。
でも、nubileには「年頃の、結婚適齢期の」という意味があるのも直ぐに思い出した。にしても、ゴマシオにつけるには、とても相応しいようには思えない。やっぱり、このロリコン爺じいめっがっ(# ̄З ̄)❗と思ったよ。

しかし、よ~く見ると綴りが違う。最後の文字は「e」ではなくて「a」で終わってる。何だかホッとしたような、ツマンナイような妙な気持ちになったよ。エロ爺じいの性的歪みを暴いてやろうと思ったのにぃー。

お決まりの平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、同じ学名のものは載っていなかった。
ゆえに仕方なく、ネットで探す。アタマから苦労してるなあ…。

で、出てきたのが、Post nubila Phoebus.(ポスト・ヌービラ・ポエブス)。これがズラズラズラーッと並んでた。どうやら有名な言葉のようで、諺(ことわざ)の定番らしいね。

少し長くなるが、説明しよう。
「post」は対格を支配する前置詞で「後、後ろに」という意味。英語でいえば「behind」と「after」の2つの意味を持ち併せてる言葉のようだ。
「nubila」は中性名詞の nubilum「雲・雨雲」の複数主格/呼格/対格。
「Phoebus」は、太陽神アポロと太陽の2つの意味を持っている。
動詞は省略されているが、estを補うと「雲の後(あと)の太陽」もしくは「雲の後ろにある太陽」という意味になり。これを日本語風に勝手に意訳すると「雨(曇り)のち晴」とか「雨降って地固まる」って云う辺りになる。
さらに意訳すれば、今はどんなに不幸であっても、いつか必ず光が射す。未来に希望を持とうではないか。「人生、苦あれば楽あり」みたいな感じだすな。

他に、nubilaで出てくるのは、キューバロックイグアナの学名「Cyclura nubila」である。キューバに棲むイワイグアナの1種だ。
ゴマシオキシタバと何か共通点がないかと探してみたが、残念ながら見つけられなかった。

nubilaは「雲」もしくは「雨雲」って云うことでいいのかな❓
となると、何ゆえバトラーはそのような学名をつけたのだろう❓
あっ、ヤバイ。こないだ変なとこに足を突っ込まないようにしようと誓ったばかりなのに、またしても泥沼迷宮になりかねない。しかも、まだ解説欄を書き始めたばかりじゃないか。嫌な予感がするよ。

考えられうるのは、先ずは上翅の斑紋だろう。その斑紋をバトラーは、雲に見立てたのではあるまいか。
あー、また始めちった。
しかし、ゴマシオの上翅だけが特別に雲の柄というワケでもない。他のカトカラだって、雲と見れば雲みたいな柄なのは沢山いる。名付けた理由としては弱い。説得力にやや欠けるし、決定打とまではいかない。

次に候補として浮かんだのが生息環境。ゴマシオの棲息場所は主に食樹のあるブナ林帯だ。ということは、標高1000m以上で、上は1500~1600mくらいだろう。そうなれば、雲や靄(もや)が掛かることも多かろう。悪くない理由だ。しかし、これも弱いっちゃ弱い。ゴマシオだけの特性だとは言えないからだ。それくらいの標高を中心に生息するカトカラは他にも幾つかいるのである。

三番目は「Post nubila Phoebus.」という諺だ。ラテン語なんだから、きっと古い諺の筈。バトラーが生きていた時代にもポピュラーで、誰しもが知っていたものと推測される。この馴染みのある諺とリンクさせたとかは考えられないだろうか❓
けど、どうリンクさせんの❓
ダサいカトカラだから不憫に思って、そのうちに良い事あるよと優しい気持ちを込めてつけたとか?
それは理由としては流石に苦しいなあ。コジツケにしても無理が有りすぎる。
ならば、ギアチェンジ。想像力をフル回転させよう。

来日したバトラーは採集に出掛けたものの、悪天候によりブナ林帯の山中で何日も停滞を余儀なくされた。その間、めぼしい採集品は殆んどなかった。数日後、やがて天候が回復し、その最初に採れたのがこのゴマシオキシタバだった。雲の如き上翅をそっと持ち上げると、下から明るい黄色が目に飛び込んできた。まるで雲に隠れていた太陽が顔を出したかのようだった。
それに感激したバトラーは「Post nubila Phoebus」の言葉の一部を、この蛾の学名に宛てましたとさ。
というのは、でや(・。・)❓
想像力が逞し過ぎるか(笑)。

これ以上踏み込みたくないけど、ちょっとだけバトラーさん本人についても調べてみよっと。

Arthur Gardiner Butler(アーサー・ガーディナー・バトラー)。
生没年 1844年6月27日~1925年5月28日
イギリスの昆虫学者、クモ学者、鳥類学者。大英博物館で鳥類、昆虫、クモ類の分類学を研究した。

( ̄O ̄)ほおーっ。生没年からすれば、ゴマシオキシタバの記載は1881年だから、37歳の時の記載なんだね。思ってた以上に若い。変態ジジイじゃなくて、変態オヤジだな。あっ、失敬。語源はエロい女じゃなくて、雲だったね。スマン、スマン。

バトラーといえば、蝶の図鑑を見ていると、やたらと記載者にその名前が出てくる。数えてないけど、たぶん日本の蝶の記載数はバトラーがトップだろう(註1)。

ネットサーフィンをしてたら、そのワケとゴマシオキシタバを解き明かす鍵となりそうなものを見つけた。
『佐賀むし通信19 日本産蝶の命名者のプロフィル(註2)』の中に、以下のような記述があった。要約しよう。

「バトラーは大英博物館で Fenton、その他の日本在住の採集家や旅行家によって送られてきた材料を記載していた。1876年、石川千代松が採集したミスジチョウの標本が1頭しかなく、Fentonが石川千代松が写生した図だけをButlerに送ったところ、Butlerはその図をもとに、Neptis excellens と命名記載した。このexcellensは図が優れていると云う意味からの命名である。
中略。
これが、のちに実物を見ずに図だけで新種を記載したと問題になった。また明治期に来朝した英国のPryerは、Butlerは博物館的分類学者であると、鋭い批判を加えている。」

ようするに、これはバトラーはフィールドに出ずに記載をしていたと云う批判である。
又この文章には、江崎悌三博士が明治の初期に活躍した来朝(来日?)外人に興味をもち、優れた記事を多く書いている(『江崎悌三著作集』1984)とあるが、バトラーが来日したような事は一言も書いていない。Fenton、その他の日本在住の採集家や旅行家によって送られてきた材料を記載していたとも書いてある事からも、おそらくバトラーは、日本には来日していないものと思われる。
だとするならば、バトラーは日本での生息環境を知らずに名前をつけていたと云うことになる。つまり、バトラーは棲息環境を見て名付けたという仮説は成り立たない。もちろん三番目のワタクシが想像力を駆使した物語風仮説も成立しえない。
となると、残るは一番最初の、上翅の斑紋からのネーミングであるというシンプルな仮説だ。
よし、今一度、そこに立ち返ってみようではないか。

(ФωФ)🎵ニャニャニャニャニャーニャニャ、ニャンカニャンニャンニャーニャニャ、ニャンニャンニャーニャニャ、ニャンニャカニャンニャンニャー🎉
🎊ども~、今回もニヒルでお茶目なカトカラ探偵、白毫寺伊賀蔵の登場だぁーす。京極堂の如く(註3)、ホイホイ解決しまっせ、しまくりまっせの憑き物落としじゃ❗

バトラーってさあ、他にも日本のカトカラを記載してるよね。一応、彼が記載した日本の他のカトカラとその記載年を洗い直してみよう。
シロシタバ(1877年)、ミヤマキシタバ(1877)、ノコメキシタバ(1877)、ジョナスキシタバ(1877)、ワモンキシタバ(1877)、ヨシノキシタバ(1881)、マメキシタバ(1885)と7種もいる。このうちゴマシオの記載年である1881年よりも以前の記載は、シロ、ミヤマ、ノコメ、ワモン、ヨシノである。

石塚先生、毎回パクりまくりですが、又もや『世界のカトカラ(註5)』から画像を拝借させて戴きやんす。すんません。

 
上記にあげた各種カトカラの上翅を並べてみよう。

 
(シロシタバ)

 
(ミヤマキシタバ)

 
(ノコメキシタバ)

 
(ワモンキシタバ)

 
(ジョナスキシタバ)

 
(ヨシノキシタバ)

 
そして、最後にゴマシオくん。

 
(ゴマシオキシタバ)
(以上全て出展『世界のカトカラ』)

 
(ー_ー;)う~ん、こう云うのって人によりけりで認識の差がありそうだけど、これらの上翅の柄を見比べてみれば、ゴマシオが一番雲っぽいかもしれない。というか曇天、曇り空っぽい。前翅の斑紋が明瞭でない個体が多く、ベタでメリハリがないのだ。雲と考えれば、どの種も雲に見えるが、曇り空と考えれば、ゴマシオが最もそれに合致しているのではなかろうか。

それにだ、別な観点でこうとも考えられはしまいか。
のちに詳細は後述するが、ゴマシオキシタバはカトカラの中でも特に上翅のデザインのバリエーションが豊富な種なのだ。変異の幅が広いのである。つまり、バトラーは日本から送られてきた複数のゴマシオキシタバの標本を見て、そのバリエーションの多さに驚いた。そこに、雲の如く変幻自在に変わる様を感じたのではないだろうか❓そして「nubila=雲」と名付けた。

こんなもんでどうかね❓、金田一くん。

半分、やっつけ仕事みたいなもんだが、もうウンザリなのだ。ゴマシオに対しての愛がないから、この辺で幕を下ろさせていただく。

 
【和名】
ゴマシオといえば、胡麻塩。あの御飯にかけたり、🍙おにぎりに乗ってるアレだよね。
日本人なら誰もが知っている、焼き塩と炒った黒ゴマを混ぜ合わせた定番のふりかけの1種だすな。
あとは考えられるとしてら、坊主頭に白髪とかが混じったゴマシオ頭のこってすな。ヒゲなんかも白髪混じりだと、ゴマシオ髭なんて言ったりもする。ようは黒と白が点々で混じるものの喩えとして使われる言葉だ。
他は言葉的に、どう考えてもないな。ならば、語源は、そのどっちかだろう。
ふりかけのゴマ塩は黒と白のコントラストがハッキリし過ぎているし、名付けられた時代に調味料としてゴマ塩があったかどうかも怪しい(註4)。あったとしても、今ほどポピュラーなものではなかったろう。
上翅の柄からすると、ゴマシオ頭のゴマシオの方が近いし、多分そっちのゴマシオ起源なんだろな。それでいいと思う。

まあ、和名として、それってワカンなくもないんだけど、クールに言うとダサい名前だよな。名前だけ聞いて、それが良い虫だとは絶対思えないもん。どう足掻いても脇役の名前で、メインキャラであるワケがない。ネーミングって大事だと、今更ながらに思うよ。
かといって、他に良い名前が浮かばないのも確かだ。たぶん、名付けた人も苦し紛れにつけたんだろな。同情するよ。それだけこのカトカラには、コレといった特徴がない。そりゃ人気も出んわな。東では普通種みたいだし、雑魚扱いになってるというのも解るわ。

 
【変異】
前翅斑紋の個体変異が激しく、多様なんだそうな。

 
(出展 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
上のなんかは黒化型みたいなもんなのかな❓
変異を沢山見ているワケではないから、よくワカンナイ。

翅の中央が黒化する型もいる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
こう云う型を、f.fasciataと呼ぶそうだ。
ふ~ん、型にまで名前が付いてるんだ。
これはカッコイイかもね。

「fasciata(ファスキアタ)」はラテン語で「縞模様とか「ストライプ」を意味する。生物の学名としてはわりかしポピュラーな方で、蝶や蛾の他にも植物とか貝とかにも使われている。
そういや「包帯」なんて意味もあったな。そう考えれば、この型の上翅はまさしく包帯みたいだもんね。

んっ❗❓、でも、f.fasciataの前の「f」って何だ❓ 最初はシノニムなのかな?と思ったが、属名の「Catocala」の略ではないし、亜種のシノニムにしても「nubila」の頭文字の「n」の略でもない。
やめとこ~っと。こんなの調べ始めたら、ロクな事ない。たかが、型の1フォームにズブズブになってたまるかである。

ワオッ❗スゴい異常型もおる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
ここまでくると、もはやパッと見では、どのカトカラの異常型なのかもワカランわ。
因みに、何故か九州では変異幅が小さいそうだ。

亜種は記載されていないようだが、極く近縁な種が中国にいる。

 
【Catocala ohshimai タイリクゴマシオキシタバ】
(出展『BOLDSYSTEMS』)

 
ゴマシオよりも後翅黒帯が発達する傾向があるという。

また中国・四川省には、やや大型のジョカタキシタバ という近縁種もいる。

 
【Catocala joyokata ジョカタキシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
石塚さんが2006年に記載した極珍のカトカラ。
『世界のカトカラ』が刊行された2011年の時点では、Holotypeの1♂しか知られていない。ボロしか載せられていないと云うことは、それだけ珍品度が高いことを示している。他にキレイな個体は無いということだ。但し、ボロボロなのは9月に採集されたものだからみたい。発生は7~8月だろうと推察されている。
記載論文は読んでいないが、四川省北部の標高4500mの高地(宝山?)で得られたようだ。飛んでもねぇ高さだ。そういうのって、浪漫を掻き立てられる。調べた限りでは、他の個体の画像は見つけられなかったから、今も珍品の座にあるのかもしれない。

参考までに言っとくと、DNA解析の結果ではアズミキシタバ(Catocala koreana)に近いようだ。両者の見た目は全然似てないから、ホントかよー❓と思う。DNA解析って、どこまで信じていいのかワカランよ。

 
【開張(mm)】

『原色蛾類図鑑』には、50~57㎜とあり、『日本産蛾類標準図鑑』には、50~62㎜内外とあった。
手持ちのものを計ったら、一番大きなもので58㎜。あとはだいたい55㎜前後だった。

 
【分布】北海道、利尻島、本州、四国、九州

日本の特産種とされているようだ。
北海道ではブナの北限である南西部に多いが、ブナの自生していない東側でも散発的な記録が各地にある。この事からも移動性が高い種だとされるのだろう。日本での北限記録は利尻島、南限は九州の霧島山塊(高隈山)とされている。
本州では中部以北に多い。西日本では、ブナ林が少ないことから分布は高所に限られる。しかし棲息地では個体数が少なくないようだ。シロシタバなど、九州では珍品になるカトカラが多いが、このゴマシオだけは比較的多く採れるみたいである。

四国では、愛媛県石鎚山成就杜、高知県手箱、香川県大滝山、徳島県剣山など全県に記録がある。剣山見越付近(標高1500m)では、本種の発生量はカトカラの中では少なくなく、成虫が見られる期間も一番長いようである(「四国の蛾の分布(Ⅲ)」増井 1978))。
ゴマシオって、発生地では何処でも多いカトカラなのかなあ…。

近畿地方では記録が少なく、『ギャラリー・カトカラ全集』では大阪府と京都府に記録がない。ザッと調べたところ、和歌山県では田辺市に記録があり、奈良県でも上北山村大台ヶ原に記録があることから、紀伊半島南部のブナ帯には広く分布しているのかもしれない。
滋賀県での記録は拾えなかった。だがブナは豊富にあるので、分布はしているだろう。確実に産するのは兵庫県で、西播北部,但馬のブナ帯に分布している。
中国地方でも全県に記録があるようだ。
何か面倒くさくなってきたので、分布図を貼り付けておく。

 
(出展『日本のCatocala』西尾規孝)

 
おいおい、近畿地方に空白地帯が無いぞ。
『世界のカトカラ』の分布図ではどないなっとんのやろ❓

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
一見、かなり違うように見えるが、こちらは県別の分布図であることに留意されたし。
見ると、こっちは大阪府と京都府は空白になっている。
この2つの分布図に対しては特に言及はしない。まっ、いっかなのだ。ゴマシオの分布概念が解りゃいいだろう。

日本の固有種だが、国外にも記録がある。朝鮮半島、鬱陵島、ロシア南東部、樺太などだが、偶産的な扱いになっているようだ。これはブナ属の植物が、これらの場所には無いからだと思われる。
しかし、鬱陵島(ウルルン島)の記録は偶産ではない可能性もあるようだ。
朝鮮半島から東、沖合い約130kmに位置するこの島には、ブナ属が自生しているらしい。島の最高峰は聖人峯(ソンインボン 성인봉)で、標高は984mというから、ブナが生えていてもおかしくないよな(註6)。

 
【レッドデータブック】

香川県では、絶滅危惧II類に指定されている。

 
【成虫出現月】

成虫は7月の上旬から出現し、11月上旬まで見られるが、新鮮な個体が得られるのは8月中頃まで。9月以降に見られる個体は翅の損傷が激しい。

 
【生態】

ろくに自分では採っていないワケだから、独自の知見はない。ほぼ他人の文章からのパクりであることを御断りしておく。

本州では、主に標高900m程度の山地から標高1700m程度の亜高山帯に見られ、ブナ帯では最も多く見られるカトカラである。
ただし本種はブナやイヌブナが全くない場所やブナの生育していない低地でも採集されることがよくあり、かなりの距離を飛翔すると考えられることから、強い移動性を持つ種と位置づけられている。特に9月中旬を過ぎると移動性が高まり、低山地だけでなく、時には市街地でも見つかるという。

夜間、灯火によく集まり、東日本では多数の個体が飛来することがしばしばある。東北地方では、一晩に数百頭ものゴマシオが押し寄せたこともあるらしい。
主な飛来時刻は分からない。けれど、特に言及されているものは見ないので、時間にあまり関係なく飛来するのだろう。
また、盛夏に灯火採集をすると、標高2700mの高地でも多数が飛来することがあるそうだ。そういう日は、下界が猛暑日である事が多いという。おそらく暑さを嫌って移動するのではないかと推測されている。

樹液にも集まるというが、『日本のCatocala』で、西尾規孝氏は低地でクヌギの樹液に来ているものは観察したことはあるが、ブナ帯にいる成虫の餌は観察していないという。
ネットで、樹液や糖蜜・果物トラップに飛来した例を探してみたが、青森県での、ダケカンバの樹液での吸汁例しか見つけられなかった。
自分も吸汁しているのを見たことがない。2018年 山梨県甲州市の大菩薩山麓の標高1200~1400mでは、2本のミズナラから樹液が出ていたが見ていないし、果物トラップにも寄って来なかった。高校生が糖蜜を撒いていたが、そちらにも飛来は無かった。
2019年は、長野県の猿倉荘周辺、白骨温泉と岐阜県平湯温泉、新穂高左股わさび平小屋周辺で糖蜜トラップを撒いたが、やはり1頭たりとも見ていない。もしかしたら、1000m以上の比較的高標高地では、あまり餌を摂らないのかもしれない。西尾氏も他のカトカラの解説欄で、そのような旨のことを書いておられる。
或いは、灯火にあまり集まらないカトカラがいるように、樹液や糖蜜にはあまり集まらないカトカラなのかもしれない。
但し、西尾氏は「(ゴマシオキシタバの)成虫を解剖すると、白い糖の液体が入っているので花蜜か甘露を摂食していると推定される。」とも書かれている。
じゃあ、何を栄養にしているのだ❓
因みに、図鑑の中の「日本産Catocala 成虫の餌」という表のゴマシオキシタバの欄には、樹液の項のみにしか○がなく、花蜜の項など他は空欄になっていた。つまり、花への飛来も観察されていないと云うことだ。謎だわさ。

真面目にゴマシオなんて採ろうと思っていなかったから、真剣にトラップで狙ったワケではない。正直、今でも別に採りたいとは思わない。だって、全然魅力がないんだもーん。
とは云うものの、気にはなる。一度、多産地で糖蜜やフルーツトラップを使って実験しないといけんね。
でも、それって誰か今まで実験したことないのかね❓
無いとしたら、驚きだよな。

成虫は日中、頭を下にしてブナなとの樹幹に静止している。静止場所は暗い場所が多い。わりかし敏感で、驚いて飛び立った時は10~30mほど飛翔して樹幹に上向きに着地し、暫くして下向きになる。

西尾氏が解剖した結果、交尾は羽化後、間もなく行われると推定されている。

 
【幼虫の食餌植物】

ブナ科ブナ属 ブナ・イヌブナ。
クヌギが代用食になると云う記録があるようだ。

一応、ブナとイヌブナについて解説しておきます。

ブナ(山毛欅、橅、椈、桕、橿)。
学名:Fagus crenata。 
日本の北海道南部から九州南部に分布。都道府県でブナが自生していないのは千葉県と沖縄県のみ。落葉高木広葉樹で、温帯性落葉広葉樹林の主要構成種であり、日本の温帯林を代表する樹木。

 
(ブナの分布図)
(出展『東北森林管理局』)

 
本州中部では、ほぼ標高1000~1500mまでの地域がブナ林となる。日本の北限のブナ林は、一般的には北海道黒松内町のものが有名であるが、実は最北限のブナ林は隣町の寿都町にある。また、日本のブナの離島北限は奥尻島である。一方、南限のブナ林は鹿児島県高隈山にある。

 
イヌブナ(犬橅)。
学名:Fagus japonica Maxim。
岩手県花巻市以南の本州、四国、九州に分布し、一般にブナよりも温暖で雪の少ない土地を好む。中部地方より寒さの厳しい地域の日本海側では、ほとんど見られない。和名はブナより材質が劣ることから名付けられた。

 
(イヌブナの分布図)
(出展『神戸の自然シリーズ10』)

 
今一度、ブナとイヌブナの違いを整理しよう。

ブナの樹皮は「シロブナ」と呼ばれる事もあるほど樹皮は白っぽくて美しい。樹高は30mほどになり、北海道~鹿児島に分布する。
一方、イヌブナの樹皮は別名「クロブナ」と呼ばれる事もあるほど樹皮は黒っぽく、ザラついた感じ。樹高は25mほどになり、岩手県より南の太平洋側、四国、九州に分布する。

 
(ブナの幹)

 
(イヌブナの幹)
(出展 2点共『Quercusのブログ』)

 
ブナは見慣れているが、イヌブナはこんな幹なんだね。知らなかったよ。
この「Quercusのブログ」というサイトは詳しくて優れているから、葉っぱとか他は、そっちで見てね。

 
(ブナとイヌブナの分布図)
(出展『黒松内町ブナセンター』)

 
一応、他の主な違いも書いておこう。

①葉脈の側脈の数
 ブナ=7~11対
 イヌブナ=10~14対
②葉の質感
 イヌブナの方がやや葉質が薄い
③葉の裏
 ブナ=脈と縁以外は、ほぼ無毛
 イヌブナ=細くて柔らかい長い毛が生える

 
【幼生期の生態】

ここは今回も西尾氏の『日本のCatocala』に全面的にお助けもらおう。
幼虫は壮齢木から大木まで見られる。終齢は6齢で、室内飼育では稀に7齢にまで達するという。これには少し驚いた。多くのカトカラの幼虫の終齢は5齢だからだ。しかも7齢に達するものまでいるというじゃないか。変な奴だな。
野外での幼虫の色彩は、やや緑色を帯びるものや淡色化する個体などがあるくらいで、変異は微少。
多くのカトカラの幼虫が色彩変異に富むから、これも変わっている。
昼間、幼虫は伸びた枝の先の方に静止しており、時に地上10数メートルの高さにいる個体も観察されている。樹幹には降りてこないそうである。

蛹化場所については知られていないが、おそらく落葉の下で蛹化するものと考えられる。でも変な奴だから、変なところで蛹化しているかもしれない。

                    おしまい

 
追伸
ソッコーで終われる回だと思っていたが、解説欄が長くなってしまい、結局長文になってしまった。
今まで記載者なんて気にならなかったのに、前回のオオシロシタバ、いや、その前のエゾシロシタバ辺りから気になり始めてドツボにハマってる。よろしくない傾向だ。

今回のタイトルは、決めるのに随分と時間がかかった。書いている途中もコレといったものが浮かばなかったのだ。
で、つけた最初のタイトルは『胡麻塩少将』。大将には役不足だし、少将にしといた。それに、どっかでゴマ塩を少々ふりかけてぇー的な駄ジャレもカマしたろかいなと考えていたしね。
次に暫定タイトルになったのが『曇りのち晴』。
これはもうお分かりだろう。ラテン語のことわざである「Post nubila Phoebus.」がモチーフだ。
で、その次が『あの雲のように』。イワ(岩)イグアナの件(くだり)で、猿岩石のヒット曲『あの白い雲のように』がピーンと浮かんだのだ。
作詞は藤井フミヤ、作曲は藤井尚之の元チェッカーズの藤井兄弟。プロデュースは秋元康という豪華ラインナップ。曲も風を感じる浪漫溢れる良い曲だ。
この時代の後に一旦消えたけど、有吉も出世したなあ…。
でも「白い」と云う部分の替わりとなる他の言葉が思いつかなかったので却下。ゴマシオキシタバって、どう誤魔化したって、白くないんだもん。まさか「ドドメ色の雲のように」とか「胡麻塩色の雲のように」とは付けれんだろ。だいたい胡麻塩色って、どんな色やねん。
で、そこからマイナーチェンジして『雲の如く』になり、それに落ち着いていた。
しかし、記事のアップ直前に突然閃いて『風のように、曇の如く』に変えた。ロマンがあって、ちょっとカッコいいんでねえの?と思ったのだ。それによくよく考えてみれば、ゴマシオは生まれた場所から離れて遠くへと移動する事が特徴の一つのカトカラだ。きっと、風のように旅するのだろう。
目を閉じ、ゴマシオが風に乗って旅する姿を想像する。なかなか素敵な光景だ。そこには、それぞれの物語があるに違いない。
くれぐれも鳥には気をつけてね。
頭の中で飛ぶゴマシオくんに向かって、そう呟いた。

 
(註1)日本の蝶の記載数はバトラーがトップだろう
佐賀むし通信によると「原色昆虫大図鑑1(蝶蛾編) 北隆館1962)に掲載された211種の蝶の学名の命名者を調べてた結果、多い順から記すと、Butler 38、Fruhstorefer 26、Matsumura 23、Linné 14、Ménétriès 9、Shirôzu 6、C.et R.Felder 6となるそうである。
バトラーさん、断トツである。
 
(註2)プロフィル
資料の原文にはそうあった。間違いか誤字脱字、誤植だろう。でも、これってプロフィール?それともプロファイル?どちらの間違い?

 
(註3)京極堂の如く
京極夏彦の推理小説、京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)の終盤に主人公の中禅寺秋彦(別称 京極堂)が、憑き物落としの名の下に「この世には、不思議なことなど何もないのだよ」と言って、事件を鮮やかに解決してゆくこと。電話帳みたく分厚い本で、長々と綴られた文章を読み続ける苦痛のあとにやっと来るそれは、大いなるカタルシスとなっている。

京極さん、いつになったらシリーズの新作『鵺の碑』を出してくれるのかしらね?次回のタイトルを予告してから、もう10年以上も経つぞ。

 
(註4)胡麻塩ふりかけの起源
調べたところ、御飯に塩を振りかけて食べるようになったのは16世紀に「焼塩」が作られるようになってからのことであり、そのバリエーションとして「ごま塩」や「しそ塩」などのふりかけが誕生したと考えられている。
起源は、かなり古いのだ。戦国時代の武将たちは、にぎりめしに胡麻や塩、昆布、または味噌などを混ぜこんで戦場食としていたそうだ。「ごま塩」というふりかけのルーツとは言い難いところもあるが、ひとつの組み合わせとして「ごま」と「塩」が「ごま塩」になるきっかけになった可能性はある。ただ、当時から「ごま塩」と呼ばれていたかどうかは分からない。

でも、ここまでしか分からなかった。胡麻の歴史も塩の歴史も数多の文献があって知ることができるが、ごま塩の歴史に関する情報は殆んどなかったのである。

余談だが、市販品は塩が顆粒状になってゴマと混ぜ合わせられている。これは塩が小さい粒のままではゴマと比べ小さく、比重も大きいため。つまり、次第に塩が下に沈み、振ってもゴマのみが出てくることになるからである。塩を顆粒状にすることでゴマと比重を同程度にし、均等に出てきやすくしたんだね。賢い。

ついでに言っとくと、「胡麻塩頭」は、ふりかけのゴマ塩が起源なんだそうな。塩の白とゴマの黒との対比から、白と黒が混じったものの比喩に用いられ、白髪混じりの黒髪の頭髪を「胡麻塩頭」と呼ぶようになったそうだ。

 
(註5)世界のカトカラ
石塚勝己さんの世界中のカトカラを紹介した図鑑。日本のカトカラの入門編としても優れた内容になっている。

 
(発行元 むし社)

 
(註6)鬱陵島のブナ
タケシマブナ Fagus multinerというブナが自生しているみたい。因みにタケシマはあの韓国と領土問題で揉めてる竹島のことではないようだ。別な竹島みたいだね。