2018′ カトカラ元年 其の16 後編

    
   vol.16 ベニシタバ
      解説編

     『紅、燃ゆる』

 
【Catocala electa ベニシタバ ♂】 
(2019.9.3 岐阜県高山市新穂高 )

 
(同♀)
(2019.9.3 岐阜県高山市新穂高)

 
(裏面)
(2019.8.2 長野県大町市)

 
世界有数のカトカラ研究者である石塚勝己さんは、ベニシタバのことをこう評しておられる。

「新鮮な個体の後翅は、息を呑むほど綺麗な淡紅色で、目本産の鱗翅類で敵うものはない。まさに日本で最も美しい鱗翅類である(やどりが 217号,2008)」

そこまでは美しいとは思わないけど、言わんとしておられることは解る。確かに鮮度が良い個体はハッと目を見張るほどの美しさだ。羽化後、間もないものを見た時は、闇夜に燃ゆる紅の炎を見たような気がした。暫し見惚れたのを思い出したよ。
ピンクとグレーの組合わせと云うのもベストな配色だろう。ピンクを最も美しく見せる色といえば、グレーなのだ。しかも、この明るいグレーとの組合せが一番キレイだ。
ここで、『ι(`ロ´)ノそれって白か黒でしょうよ!』と云うツッコミが入りそうだが、白と黒は他の色でも抜群に合う組合わせなので除外しての話だ。白と黒は赤であろうと青であろうが何にでも合うからだ。黄色だって、緑だって、果ては茶色やドドメ色にだって合うのだ。そこは、あえて言う程のことではないと思ったのさ。
蝶には、こういう鮮やかなピンク色の翅を持つものは殆どいないから(註1)、素直にこんなピンキーな蝶が日本にも居たらいいのにな。

ふと思ったんだけど、美の概念は世評や常識に邪魔されやすい。例えば蝶と蛾の中で美しいと言われているものを蝶蛾の区別なくアトランダムに一同に並べたとしよう。それを愛好家ではなく、一般ピーポーに見せて美しいと思うものに投票してもらったとしたら、どうだろう❓意外な結果になるかもしれない。
あえて愛好家を外したのは、業界で言われている評価、既存の概念に左右され易いからだ。そこには純粋な美しさ以外の珍品度とか、採集の難易度、個人的な思い入れ等が加味されがちだ。また、蛾というだけで、美しさが毒々しいという感情に反転することもあるだろう。
知識のない一般ピーポーならば、その心配はない。
そうなると、ベニシタバなんかは若い女の子たちから高評価を得て、上位に食い込むかもしれない。普通種のベニシジミ(春型)なんかも票を集めるかもね。

好みは男女の差もあるゆえ、評価が割れるものもあるだろう。ベニシタバも乙女のカッちゃん辺りだと高い点数をつけそうだが、普通の男性の評価は低いかもしれない。男でピンク好きは乙女かロリコン星人だと相場が決まっているのだ。
それに男なのにピンクを好きだと公言したら、何言われるかワカンナイ。たとえ好きでも、隠れキリシタンみたく地下に潜るだろう。エロエロエッサイム、エロエロエッサイム、きっとそこで夜な夜なピンクのド派手な衣裳を纏った者どもが狂乱の宴にトチ狂うのだ。きっと淫靡なことも行われているに違いない。羨ましい限りである。ピンク色は人を惑わせ、狂わせる色なのかもしれない。

一方、自分は青系に極めて反応する人なので、青とか青緑色のモノを選ぶんだろな。冷静沈着の男なのだ(笑)
人の好みって千差万別だよね。

こうなってくると、世間一般の男女別好きな色はどうなってるんじゃろ❓と気になってくる。調べよっと。

ネットで見た或るアンケート調査によれば、こないになっていた。

男性の好きな色 ━ 青、赤、緑、黒、水色
女性の好きな色 ━ ピンク、青、水色、緑、赤

ほおーっ、やっぱり女性はピンクが好きなんだね。
とはいえ、これは2006年と少し古いアンケート結果みたいなので、最新のもの(2019年)も見てみた。

男性の好きな色 ━ 青、緑、黒、赤、白
女性の好きな色 ━ ピンク、白、青、オレンジ、緑

少し変わっているが、やはりピンクは強いね。女性がこんなにもピンク好きだとは思ってもみなかったよ。思ってた以上に好きなんだね。

参考までに嫌いな色も書いとこう。

男性の嫌いな色 ━ 無し、ピンク、紫、金、茶色
女性の嫌いな色 ━ 無し、ピンク、紫、赤、灰色

男性が嫌いな色の上位にピンクが入るのは予想通りだったけど、何と女性の嫌いな色でも単独だと1位に入っている。ピンクって、そんなにも好き嫌いがハッキリしている色なのね。驚いたよ。

前置きが長くなった。毎度の事ではあるが、またしても話が大幅に逸脱。しかものっけからでスマン、スマン。

それでは、そろそろ解説編を始めよう。

 
【学名】Catocala electa zalmunna Butler,1877

今回も頼みの綱である平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には同じ学名が載っていなかった。
仕方がないので、今回もネットでググる。

最初に見つけたのは、植物の学名に関するサイトだった。
キク科に、Tagetes erecta センジュギク(千寿菊)、クワ科イチジク属には、Ficus erecta イヌビワに同じ小種名が付けられている。イヌビワといえぱ、イシガケチョウの食樹だったね。
それによると、erectaは「直立した」を意味するラテン語なんだそうだ。ソレって、エレクトしたアレの事とちゃうん❓ 基本、頭の中がエロ妄想充満だから、即そう思ったよ。
妄想はどんどん膨らんでゆく。ベニシタバがピンクでエロチックだから、記載者のバトラーが興奮してオッ勃てたのか❓ バトラー、やっぱり変態やんけー❗

でも何のことはない。語源は、木が真っすぐなことに由来しとるんだそうだ。左曲がりのダンディー、先走りのエロバカである。

早々と解決。めでたし、めでたしである。
しかし、どこか違和感を感じた。
( ̄O ̄)あらま❗、よく見ると綴りが微妙に違うわ。ベニシタバは綴りの2番目が「l」だけど、コヤツらは「r」になっとるがな。そうすっと、全然意味が変わってくるじゃないか。またイチからやり直しだ。ゲンナリする。この作業って、結構大変なんだよね。

しかし、( ´△`)あらら。ネットには、ゼニアのスーツのことがズラズラと出てきよる。道、険し。苦難が待っていそうだ。

エルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)といえば、イタリアを代表する世界的ファッションブランドだ。
このロゴマークを見たことがある人もいるだろう。

 

 
高級紳士服ブランドであり、高級スーツの最高峰としても有名だ。スーツは持ってないけど、ネクタイは何本か持ってる。非常に上質な織りで、質感が何段も上だ。手触りが違い、触るだけで幸せになれる。

内容を見ると、思った通りのスーツの広告だった。
あまり期待してなかったけど、そこには「electa」の意味もちゃんと書いてあった。

『「エレクタ」とは、ラテン語で高品質で優れた素材という意味があり、完成度が高く、高級感があります。」

何となく意味は解るが、「高品質で優れた素材」と言われてもなあ…。どう繋げてよいものやら…。
ちょっとここで、一旦頭の中を整理しよう。解りやすく説明する為に、どなたかがゼニアのスーツに関して書いた文章を添えておこう。
「ゼニアのスーツを着てみてわかるのが、スーツ生地の上質さ。軽くてなめらかで、生地の表面には上質なツヤがあります。あらゆる良質なものを知り尽くしたエグゼクティブたちが魅了されてしまうほどの質感なのです。」

「electa」は、如何にベニシタバが素晴らしい種なのかを讃えるに、悪い言葉ではない。しかし「高品質で優れた素材」というには抵抗感がある。なぜなら、ベニシタバは人工的に作られたものじゃないし、素材でもないからだ。言葉としてはそぐわない。
もっと彼女にとって相応しい言葉が他にある筈だ。探そう。

こんなんが出てきた。

主格 女性 単数形のēlēctus
主格 中性の 複数のēlēctus
対格 中性の 複数のēlēctus
呼応 女性 単数形のēlēctus
呼応 中性 複数のēlēctus

ēlēctusの女性形ってことか。女性と云うのは納得だが、あとは解るようでよくワカラン説明だ。だいたい「e」の上のウニウニの棒線って何なのだ?オデ、バカだからワカンねぇよ。もっと解りやすいのを探そう。

それで、やっと辿り着いたのが、コレ。

「候補者、選ばれた」。

何だそりゃ(;・∀・)❓である。
何の候補者で、誰に選ばれたのだ❓

ここで漸くラテン語「electa」が英語の「elect」の語源だと気づく。意味は「(投票で)選挙する、~に選ぶ、~を選ぶ、決める、選択する」。
同時に植物の学名の「erecta」は英語の「erect」の語源だとも気づいたよ。おバカちゃんである。

更に調べると、英語に対応した翻訳もあった。
「candidate」とあるから、コレは候補者でいいだろう。けど候補者って、いったいベニシタバとどうリンクするんだ❓ カトカラ人気投票でもあったんかい?何かズレてる感じで、シックリこない。
次の「選ばれた」は「one chosen」になっていた。これで納得がいった。翻訳すると、意味は「選ばれし者」だからである。これならゼニアの説明とも繋がる。高品質で優れた素材とは、謂わばオンリーワン、唯一の「選ばれし者」なのである。そして、そのスーツを着た者はエグゼクティブであり、また「選ばれし者」でもあると云うことだ。
つまり、この学名は美しきベニシタバに対する「選ばれし者」という最大の賛辞なのである。そう解釈すれば、スッキリする。間違ってたら、ゴメンだけど。

ついでに日本産に宛がわれた亜種名「zalmunna」についても調べてみよう。

一応、旧約聖書に出てくるコレかな❓

「Zalmunna(ツァルムナ)。ミディアンの王たちの一人。その軍と同盟者たちは、ギデオンが裁き人になる前の7年間、イスラエルを虐げました。ギデオンの少人数の部隊はこの侵略者たちを敗走させ、逃げる軍勢を追跡し、王のゼバハとツァルムナを捕らえて殺しました。」

誰かの翻訳だろうが、キリスト教徒じゃないから何を意味してるのかがサッパリわからん。
オマケに、おいおいの、王様だけどツァルムナ、ブチ殺されとるやないけー\(◎o◎)/

何で、Butlerがこう名付けたのかは皆目わからない。スンマヘン、匙を投げさせていただく。

 
【英名】The rosy underwing

underwingはカトカラのことを指すから、「薔薇色のカトカラ」ってところか。異論なしである。

 
【亜種】

Wikipediaには、以下の亜種が並べられていた。

・Catocala electa electa(原記載亜種)
・Catocala electa tschiliensis Bang-Haas, 1927
・Catocala electa zalmunna Butler, 1877

しかし、亜種の生息域は書いていなかったので、自分で調べたよ。

1番上は、ヨーロッパに分布するもので、これが原記載亜種(名義タイプ亜種)となる。
記載者は、Verbreitungで、記載年は1790年になっていた。

2番目の「tschiliensis(註2)」は、語尾に「ensis」とあるから、どこか場所を指しているものと思われる。
やや苦労したが、以下のような記述を見つけた。

Horae macrolep. pal. reg. 1: 89, Taf.11: 4, (Holot.: China, Chingan-Berge, Tschili, MNHU, Berlin)

「China, Chingan」は中国の長安のことだろう。長安は古い都の名前で、現在は西安と名前を変えている。西安は中国中央部にある陝西省の省都で、「Berge,Tschili」は5つの聖なる山の一つである華山(华山)の事を指しているのではないかと思う。

これが果して、その亜種なのかどうかはわからないが、一応中国産ベニシタバの画像を貼り付けておこう。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
画像を見ても、日本のものとどこがどう違うのかワカラン。

3番目は日本の亜種ですな。但し『ギャラリー・カトカラ全集』に拠ると、アジアのものは別種である可能性が高いらしい。根拠は特に書かれてないけどさ。

 
【シノニム(同物異名)】

・Noctua electa Vieweg、1790
・Catocala zalmunna Butler、1877

Butlerの記載はシノニムになってるんだね。
これを見ると、バトラーは「Catocala zalmunna」の学名で記載したって事かな❓でも既にViewegによって百年近く前に記載されていたことが分かり、亜種名に降格されって事かいな❓

けど、Viewegの記載もシノニムになっている。
何かややこしくねぇか❓
まあ、たぶん属名が「Noctua」から「Catocala」に変更になったことに伴うものだろう。

 
【開張(mm)】

岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』によれば、69~82㎜内外とあった。『原色日本蛾類図鑑』には、75㎜内外とだけあった。真面目に採った個体を一々測ってはいないが、たぶんそれくらいの大きさが平均だろう。

 
【分布】北海道、本州、四国、九州

西日本では少なく、四国、九州では極めて稀。
四国では剣山、天狗高原、瓶ヶ森林道などに記録がある。ブログ『高知の自然』によると「1960年代は夏に四国中央山地に行くと当時の弱い光源にもかかわらずいつも一夜に10頭近くも飛来するごく普通種だった。しかし年々数が減り、近年は図鑑の通りなかなか出会えないまれな種となってしまったことは残念で寂しい。」と記述されている。気候変動とか環境の変化とか色々あるんだろね。
九州では、福岡市脊振山,糸島市雷山,添田町英彦山,北九州市大蔵,久留米市高良山,八女市熊渡山、釈迦岳など福岡県を中心に九重・阿蘇の山地帯に記録があるが、他では散発的な記録しかないようだ。
中国地方では、ググると冠高原(広島県)、高梁市(岡山県)などに記録かあるようだが、他はようワカラン。
ι(`ロ´)ノえーい、面倒クセー。分布図を貼り付けとく。

 
(出展『日本のCatocala』)

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
微妙に違うけど、下の分布図は県別なので注意されたし。
一応、両方とも中国地方には全県に記録かあるようだね。

近畿地方でも、奈良県以外は記録があるものの少ない。和歌山県では、護摩壇山から数例の記録がある。京都府は、京大の芦生演習林で記録されている。滋賀県と大阪府の記録は拾えなかった。兵庫県には比較的多くの記録があり、氷ノ山やハチ北高原など西播磨から但馬にかけての山地帯における個体数は少なくないという。但し、低地での記録は少ない。
気になったのは、その出現期で、8月中旬~9月下旬に見られるとあった。発生期としては、かなり遅めだからだ。まだよく調べられていない可能性もあるが、もしそうなら、興味深い。気温と何らかの関係があるかもしれないからだ。低地での記録が少ないと云うのが、解明の鍵となるのかな?

国外の分布は、ヨーロッパからウクライナ、中国、朝鮮半島、ウスリー、アムールと広いが、途中の中間地帯では分布を欠くという。

この下翅が赤系統のカトカラは、海外ではユーラシア大陸や北米に何種類もいて、そこそこ繁栄している。日本にも赤系のカトカラは、ベニシタバの他にオニベニシタバ、エゾベニシタバがいる。但し、系統はそれぞれ違うようだ。オニベニは幼虫の食樹がコナラ属なので、ベニ、エゾベニとは全く違うから容易に想像がつくが、食樹が同じであるエゾベニとも系統はかけ離れているという。

 
(オニベニシタバ)
(2019.7月 奈良市)

 
(エゾベニシタバ) 
(出展『世界のカトカラ』)

 
近縁種には、中国四川省や雲南省にハイイロベニシタバ(S.martyrium)が、中国南部からインド北部にかけて、アカハラベニシタバ(C.sponsalis)がいる。

 
(ハイイロベニシタバ)

 
(アカハラベニシタバ)
(出展 2点共『世界のカトカラ』)

 
アカハラベニシタバって、最初はキレイだなと思った。けど、何かに似てるんだよなあ…と思ってよくよく考えてみれば、あの気色の悪くて大っキライなカシワマイマイ(註3)の♀に似てる。そう思ったら、急激に嫌いになったよ。

北米には近縁種が4種(C.amatrix、C.cara、C.carissma、C.concumbens)いて、これらは地史を考えれば、古い時代に北米大陸に渡って本種群から分化したと推察されるそうだ。因みに古い時代とは、第三紀中新世あたりかを推測されている。
補足すると、これはカトカラにはユーラシア大陸とアメリカ大陸に共通種がいないことからの推論だろう。
例えばチョウでは、パルナシウス(ウスバシロチョウ属)やコリアス(モンキチョウ属)は両大陸に共通種が幾つかいる(ウスバキチョウやミヤマモンキチョウなど)。この違いは何かと云うと、幼虫の食餌植物に起因するものと想像される。すなわちカトカラの食樹は木本植物であり、地史的に古い時代にユーラシアから北米へと適応放散していった(ユーラシア大陸と北米大陸が繋がっていた時代があった)。カトカラはそれに連動して分布を拡げ、進化したものと考えられる。一方、ウスバキチョウ属やモンキチョウ属の食餌植物は草本植物(ケマン亜科コマクサとスノキ科クロマメノキ)で、もっと後の新しい時代に適応放散したものと考えられている。それに伴いチョウも分布を拡大、進化した。この食性の違いが、両大陸に共通種の有り無しの差となっているというワケだね。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
上から、C.cara、C.carissma、C.amatrix、C.concumbensの順になる。

 
【レッドデータブック】

和歌山県:学術的重要
宮崎県:絶滅危惧II類(VU-R)

 
【成虫出現月】7~9月

成虫は7月初め頃から出現し、10月下旬まで見られるが、新鮮な個体が見られるのは8月中旬頃まで。
しかし、7月から9月に発生すると云う文献もあった。ちょっと信じがたいが、言われてみれば9月初旬に新鮮な個体を幾つか見てる。冒頭の展翅したものも9月の採集だが、鮮度が良い。標高は1500mだった。或いは、標高の高い発生地では羽化が遅れるのかもしれない。
何れにせよ、新鮮な個体を得たければ、基本的には7月から8月中旬に探しに行かれるのがよろしかろう。美しさのレベルが一段違うからね。
あっ、冒頭でベニシタバの美しさについて書いたが、言い忘れた。残念ながらその鮮やかなピンクは、鮮度が落ちると色褪せてくる。新鮮なものでも標本にすると、時間と共にその美しさが褪せてきて、十全には残らないのだ。

 
【生態】

垂直分布はエゾベニシタバよりも低く、エゾベニほど低温は好まないようである。自分が見た地点の標高は、750、820、830、1200、1250、1400、1500mだった。但し、環境は渓谷、高原、山麓、湖、湿原などと様々だった。

灯火にも樹液にも飛来する。珍品という程のものではないが、一度に多数が採集されることはあまりないようだ。自分も色んなところで見ているが、多くて2、3頭で、一度に多数の個体を見たことがない。
理由は色々考えられるけど、どれも弱くて決め手に欠け、結局よくワカンナイ。分布は広いが、どこでも個体数が少ないと言われる鱗翅類は他にもいるけど、その理由について述べられてるものをあまり見たことがない。本当は個体数は多くて、他に効率の良い採り方が判ってないだけだったりしてね。

灯火で見たのは1ヶ所だけだから、これについてはたいしたことは言えない。
9月の中旬に灯火採集に連れて行ってもらったのだが、その時に数頭見た。飛来時刻は比較的早く、8時台だったと思う。印象的だったのは、ライトトラップの周辺まで飛んで来るものの、そばまでは近寄って来なくて、光に照らされた夜空をビュンビュンに飛んでいたことだ。かなりのスピードで、飛ぶことが速いことで知られるスズメガの仲間とさして変わらないと思った。カトカラはマジ飛びすると、速いのだ。

樹液やフルーツ(腐果)トラップ、糖蜜トラップにも好んで集まる。樹液への飛来はミズナラで何度か見ている。時刻は午後9時くらいだったと思う。トラップには、8月だと早いもので日没直後に飛来したものもいたが、殆んどは午後8時を過ぎてからの飛来だった。深夜までポツポツと飛んで来る。9月は午後10時台以降にしか寄って来なかった。けんど、これはたまたまかもしんない。飛来条件は、気温や湿度、天気、標高などのその他諸々が複雑に絡まっているのだろう。
一つのトラップに、複数の個体が同時に集まったケースは一度もなく、全て単独での飛来、吸蜜だった。
但し、これもまだまだ経験値としてのサンプルは少ないので、飛来する時間や生態については断言は出来ないところがある。そういう傾向があったと云うくらいにとどめておかれたい。
文献によれば、果実への飛来例もあるようだ。ただ、何の果物かは書かれていなかった。
ベニシタバは、わりかし食いしん坊なカトカラなんだと思う。

長野県でサラシナショウマの花に訪れた例があり、兵庫県でもリョウブの花での吸蜜例がある。他に、山地高原で日中に花に訪れたという観察例もある。また、川原の砂地での吸水も観察されている。

成虫は日中、岩やカラマツ、アカマツなどの幹に頭を下にして静止している。『日本のCatocala』では、地面が明るい砂地だと、地面に近いヤナギに上向きに静止している事があるという。これは光の方向で止まる向きを定位させているとみられると書いてあったが、何のこっちゃやら意味があんましワカラン。地面からの光の反射の影響って言いたいのかな❓

静止時は他のカトカラと比べて鈍感なんだそうだ。トラップに飛来した時も、特に敏感だと云う印象を受けたことはないし、それほどビビッドなカトカラではないのだろう。
因みに、驚いて飛び立つと、着地時は上向きに止まり、一瞬紅色の後翅を見せて下向きになるそうだ。

発生初期に川沿いの小屋などの壁面に一時的に多数の個体が静止している事があるという。羽化直後の行動とみられ、その数日後には分散していたそうだ。エゾベニのように岩面に多数の個体が長期間見られることはなく、どちらかと云うと岩面よりも樹幹で見掛ける事の方が多いみたいだね。

 
【幼虫の食餌植物】

ヤナギ科のイヌコリヤナギ、バッコヤナギなどのヤナギ属(Salix属)全般を食樹としている。

 
(イヌコリヤナギ)
(出展『三河の植物観察』)

 
(出展『鎌倉発”旬の花”』)

 
余談だが、ガーデニングで人気のハクロニシキ(白露錦)は本種の園芸品種である。

他にケショウヤナギ、オオバヤナギ、ウラジロハコヤナギ、セイヨウハコヤナギ(ポプラ)でも幼虫が見つかっている。
ふと思ったんだけど、その辺に植わってるシダレヤナギ Salix babylonica は食わないのかな?また、飼育する場合の代用食にはならないのかな?一応同じSalix属だしさ。でも、そげな事は調べた限り、何処にも書いてなかった。

ヤナギ科でググってみると、ヤナギ類の同定は極めて困難みたいだ。日本には30種を軽く越えるヤナギ属の種があり、これらは全て雌雄異株。花が春に咲き、その後に葉が伸びてくるもの、葉と花が同時に生じるもの、展葉後に開花するものがある。同定のためには雄花の特徴、雌花の特徴、葉の特徴を知る必要がある。しかも、自然界でも雑種が簡単にできるらしい。
食樹をヤナギ属全般としているのは、そう云う事情もあるのかもしれない。植物のプロレベルでもないと、正確な同定は困難なのだろう。
少し気になるのは、ポプラを食うことだ。ポプラを食うのなら、同じヤナギ科ヤマナラシ(Populus)属のヤマナラシやドロノキにも付く筈だが、調べた限りでは何処にもそげな事は書いてなかった。

前述したが、因みに日本にいる後翅が赤系統の他のカトカラは、オニベニシタバがブナ科のQuercus属、エゾベニシタバがヤナギ科全般を食樹にしている。しかし、食樹の違うオニベニだけでなく、食樹が同じであるエゾベニとも系統は違うみたい。見た目だけでは測り知れないところがあるのね。

石塚勝己氏の『日本で最も美麗な鱗翅類、ベニシタバ(やどりが 217号,2008)』に拠ると、北米にいる後翅の赤いカトカラはヤナギ科やブナ科の他、マメ科、バラ科を食樹にしているものもいる。ユーラシア大陸には食樹は不明だが、形態等からバラ科食と予想されているものが幾つかあるという。
ベニシタバとエゾベニシタバは、何れもヤナギ科食で あるが、系統的にはかなり離れているそうだ。またヤナギ科食のカトカラには、ベニシタバともエゾベニシタバとも異なる系統のベニシタバ類もいる。ブナ科食の赤系カトカラ類にしても、オニベニシタバ種群と異なるいくつかの系統があるそう。ややこしいねぇ。
カトカラは食樹からある程度の系統が推測できるもの(北アメリカのクルミ科食のものなど)もいくつかあるが、全く推測できないものも多い。
このようにベニシタバと称されるカトカラでも、いくつもの系統があり、それらの系統ごとの関係もまだ明らかでないそうだ。

ベニシタバ種群は現時点でヨーロッパからウクライナ辺りに1種(東アジア産とは別種に分けてる?)、東アジアに3種、北アメリカに4種が知られている。これに対してエゾベニシタバ種群の種数は圧倒的に多いようだ。

 
【幼生期の生態】

(出展『イモムシ ハンドブック』文一総合出版)

 

今回も、この項は西尾規孝氏の『日本のCatocala』のお力を借りよう。

幼虫は比較的若い木に発生するが、エゾベニシタバが発生しないような低木にも発生する。また植栽されたポプラの老齢木でも発生することもある。
幼虫は5齢を経て蛹化する。幼虫の色彩は変異があるが、エゾベニシタバほどではなく、全体が白化したものや暗化したものがいる。
低山地にもよく発生し、エゾベニシタバよりもやや低標高地を好む。本州中部地方で多く見られるのは標高700~1500m。生息地は高原のイヌコリヤナギの灌木林からヤマナラシ・ドロノキ林、河川沿いのケショウヤナギ群落、崩壊地や河川の氾濫跡に繁茂し始めたヤナギ類の幼木など様々。
あっ、ヤマナラシとドロノキが出てきた。でも食樹としてはハッキリ書いてないんだよね。

卵で越冬し、長野県の標高1000mでの幼虫の孵化は5月上旬。1、2齢幼虫は葉裏や葉柄にいる。移動する際は尺取り虫にやや近い動きをするみたい。補足すると、尺取り虫も蛾の幼虫で、その姿が親指・人差し指で長さを測る様子を連想させることから「尺取り虫」と呼ばれいる。英語においても同様の発想から inchwormと呼ばれる。その特有な歩み方は、見る人によってはユーモラスで可愛らしい。
2齡期の途中から枝に静止している。5齢(終齡)幼虫は6月中旬から下旬に見られ、自身と同じ太さの枝や直径20㎝以下の幹に降りる。エゾベニのようにヤナギ類の大木の樹幹下部には降りない。
蛹化場所についての知見は無いそうだが、おそらく落葉の下で行われるものと思われる。

                    おしまい

 
追伸
次回、いよいよこの連載のシリーズ最終話になります。
しかし、ワードプレスのブログは金がかかるので、今日でお終いにします。たぶんまたアメブロに書きます。

 
(註1)ピンク色の翅を持つ蝶は殆んどいないから
全世界の蝶を知っているワケではないけど、鮮やかなピンク色の翅を持つ蝶といえば、アグリアス(ミイロタテハ)とスカシジャノメくらいしか頭に浮かばない。
日本にも、一応ベニモンアゲハというのが沖縄方面にいる。だけど、ピンクが印象的なのはベニモンアゲハくらいで、しかも裏面。ベニモンアゲハで、台湾固有種のアケボノアゲハの存在を思い出したが、これとて鮮やかなピンクは裏面である。

(註2)亜種「tschiliensis」
カトカラの世界的研究者である石塚勝己さんから、有り難いことに以下のような御指摘を戴いた。

「ブログ読ませていただきました。ベニシタバでtschiliensisという亜種は記載されたことがありません。間違いだと思います。おそらくケンモンキシタバの亜種として記載されたものです。」

ウィキペディアの野郎~Σ( ̄皿 ̄;;、騙しやがって。
前から解ってたけど、ウィキペディアの記述が全て正しいというワケではない。間違いも多いのだ。
一応、「Wikipediaによると…」と、一言ちゃんと書いといて良かったよ。

(註3)大っキライなカシワマイマイ
拙ブログにある『人間ができてない』の回を読まれたし。

  

日本の美しい蛾

 
岸田先生の『世界の美しい蛾』には、日本の美しい蛾も紹介されている。

 

 
数えると、偶産も含めて23種類もあった。
意外とオラ、知らないうちに結構採ってるぞ。

 
【エゾヨツメ Aglia japonica ♂】
(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

 
年に1回、春先に現れる夜のスプリングエフェメラルだ。青い瞳のような紋が美しい。

 
(2019.4月 大阪府箕面公園)

 
画像は去年のものだが、初めて出会ったのは2017年の春だった。初の灯火採集に連れていってもらった時の事だ。
その辺のくだりは、『春の三大蛾祭』と題して当ブログに二年連続で書いているので、是非読んで戴きたい。特に2017年版がお薦めです。蛾の話だけど、闇について語ったホラーな物語で、自分的には好きな文章だ。

 
【ヨナグニサン♀ Attacus atlas】
(2010.10.22 沖縄県 与那国島)

 

 
沖縄県の天然記念物である。
二度目の与那国島に行った時にいた。いたというか道の真ん中に落ちてた。林道の小道をレンタルバイクで走ってたら、転がっていたのだ。
WAO(゜ロ゜;ノ)ノ❗、思わず急ブレーキをかけたよ。
で、ギリギリ停まった。危うく天然記念物を轢き殺すところじゃったよ。
バイクを脇に停めて近づき、Σ( ̄ロ ̄lll)ギョッとする。そのあまりのデカさに、その場で固まった。

軽く小枝で突っつくと生きてた。そのままにしておくと車に轢かれそうなので、避難させることにした。
で、掴んだらモノごっつデカかったので、ちょっと感動して撮ったのが上の写真である。

 

 
道路脇のシダに止まらせて、再度パチリ。
いやはや、こうして改めて見ると笑けるほどデカイよねー。いや、一人だったけど実際声に出して笑った記憶有りだ。デカイしデブだから多分♀だったんだろなあ。
そういうワケで展翅写真は無い。勿論、標本も無い。持って帰ってたら犯罪者なのだ。だいち持ち帰るにしても三角紙には到底入りきらない。そこまでデカイ三角紙は市販されとらんのじゃ。だから三角紙を収める三角ケースにも入らん。収納不可だ。また、代用になる紙をそんな都合よく持ち合わせているワケもない。たとえ採集禁止じゃなくとも持って帰らなかったと思う。蛾だしさ。

知ってる事はこれくらいで、考えてみればヨナグニサンの事はそんなに詳しいワケじゃない。本来は蝶屋で、蛾屋じゃないからね。一応ググッとこっと。

『鱗翅目ヤママユガ科に分類されるガの一種。前翅長は130~140mmほどで日本最大、昆虫の中で翅の面積が最大のガとして知られているが、近年の研究によりオセアニアに分布するヘラクレスサン(Coscinocera hercules)に次ぐ2位の大きさであることが明らかとなった。』

ほおーっ、もっとデカイのがいるのね。知らなかったよ。
そういえば、ヨナグニサンってゴジラ怪獣のモスラのモデルと言われてるんだよね。

 
(出展『M-ARTS』)

 
モデルと言われてるわりにはヨナグニサンとあまり似てない。翅の柄なんて、かなり違う。たぶん大きさ由来だけなんじゃねえの?

モスラって、ダサいからあんまり好きじゃない。バトラの方がカッコイイ。バトラとは、モスラの対となる破壊神のことね。

 
(出展『魂ウェブ』)

 
黒くて邪悪な感じがいい。
自分で言うのも何だが、邪悪な感じがするものには心惹かれがちなとこあるんだよねぇ~。

『与那国島で初めて発見されたことから「ヨナグニサン」という和名が付けられた。
日本の沖縄県八重山諸島(石垣島、西表島及び与那国島)のものは、亜種ryukyuensisとされ、漢字では「与那国蚕」と書く。ヤママユガ科の蛾は、漢字にするとクスサン(楠蚕)、シンジュサン(新樹蚕)など大体この「蚕」の字が宛がわれる。
与那国島の方言では「アヤミハビル」と呼ばれる。 「アヤミ」とは「模様のある」。「ハビル」とは「蝶」を意味する。』

蝶じゃないけどさ。

『学名のAttacus atlasは、その体が巨大であることから。ギリシア神話の巨人アトラースに起因する。
また英名 atlas moth(アトラスガ)も同じ理由からの命名。中国では「皇帝の様な蛾」を意味する「皇蛾(拼音:huáng’é)」と呼ばれている。
インドから東南アジア、中国、台湾、日本にかけて幅広く分布し、いくつかの亜種に分けられている。日本のものは分布の北限にあたる。日本国外の亜種は日本産と比べて羽の三角模様が少し小さいという特徴を持つ。フィリピン産のカエサルサン、ニューギニアやオーストラリア北部のヘラクレスサンはヨナグニサンよりはるかに大型の別種である。
口器(口吻)は退化して失われているため、羽化後は一切食事を取れない。幼虫の頃に蓄えた養分で生きるため、成虫寿命は長くても1週間ほどと短い。
成虫の前翅先端部には、蛇の頭のような模様が発達し、これを相手に見せて威嚇すると言われているが、定かではない。灯火によく飛来する。』

纏めると、こんなところかな。
この蛇の頭に擬態していると云うのは昔からよく言われているが、大いに疑問だ。たぶんそれを証明した者は誰もいないだろう。個人的見解では、あんなもんが威嚇になるとは思えない。鳥の目は無茶苦茶いいから、この程度では騙されんじゃろう。コレは最初に言い出した人のコジツケだろうと思う。でも、そうゆう風に想像することじたいは悪くないと思うけどね。発想が豊かで想像力が逞しい方が面白いじゃないか。時に、それが正しいことだってあるだろう。クソ真面目を否定するつもりはないが、クソ真面目ばっかだと、ツマラン。

あっ、幼虫の餌を書くのを忘れてた。
『森林域に生息し、幼虫はアカギやモクタチバナ、フカノキ、カンコノキ類、トベラ、ショウベンノキなどを食草とする。』

やっぱ蛾って、何でも食うんだな。蝶と比べて蛾の方が食樹や食草の領域が広い傾向が強い。蛾の進化したものが蝶だと云う説を聞いたことがあるけど、こういう食の嗜好性が広いモノの方が進化してると言えまいか❓蝶好きは蛾嫌いの人が多いから、蝶の方が優れていると思いたいんだろね。

『年に3回(4月、7月下旬~8月上旬、10月中旬頃)発生する。卵の期間は11から12日、幼虫期は摂氏20度で57日、25度で43日、30度で46日、蛹は24度で28日、30度で46日。熱帯産にもかかわらず、高温だと成長が遅い。2齢までの幼虫は2から5頭の群れを作る。』

へぇ~、年三回も発生するんだ。日本のヤママユガ科の多くは年1化のものが多く、一部が年2化だから、意外だった。まあ、南方系だから、そうなるか。だいたい南の暖かい場所の昆虫は多化性になるのだ。

参考だが、ネットの「みんなで作る日本産蛾類図鑑」のヨナグニサンの項に興味深い記述があった。

繭の写真について述べられたものだ。
『写真は与那国島のもので、中はすでに空。繭にヨナグニサンの脱出坑が無いので、コロギスに寄生された疑いが濃厚。コロギスは繭に卵を産みつけ、初齢で繭に潜り込み、ヨナグニサンの蛹を食し成虫に至る。食糧が無くなると、適当に繭を食い破り、脱出するらしい。』

コロギスってバッタ、いやさキリギリスの仲間だろ❓
そんなもんが寄生するなんて、俄には信じがたい。だとしたら、無茶苦茶に面白い。でもググっても他に関連した記事は見つけられなかった。

 
【オキナワルリチラシ Eterusia aedea】
(2010.5.27 沖縄県 与那国島)

 
与那国島に蝶採りに行った時に結構飛んでた。
綺麗だなと思いつつも蛾だからずっと無視してた。蝶好きだからといって、綺麗でも蛾はダメなのだ。

コレって、そういえば大人になって初めて採った蛾だ。でも、あまりにも綺麗なので、つい採ってしまった。
けど、採っても恐くて三角紙に翅をたたまずに放り込んで厳重に何重にも包んだ。もしも這い出してきたら、発狂すると思ったのだ。してからに、宿の冷凍庫に放り込んでもらい、完全にブッ殺したのだった。

 
(出展『yohbo.main.jp』)

 
これも綺麗だけど、岸田先生の本には凄いのが載ってるので、ソチラも添付しておこう。

 

 
配色が素晴らしい上に、メタリック。仰け反る美しさだ。

オキナワルリチラシといえば、昼間に飛んでることくらいで、詳しいことは殆んど知らない。
んなワケで、Wikipediaで調べてみた。

『スリランカ、インド、ネパール、ミャンマー、タイ、中国、台湾にかけてのアジア一帯と、日本では琉球列島から本州中部まで広く分布しており、名にオキナワとあるが南西諸島特産種ではない。ただし、南西諸島産のものは多くの亜種に細分される。また本州のうち温暖でない地域では個体数が極めて少ないため、自治体によっては絶滅危惧種としてレッドリストに掲載しているところもある。
成虫は開翅長30-35mm ほどの小さなガであるが、名にあるとおり前後翅、頭胸部及び脚に見る方向によって緑から瑠璃色に変化する金属光沢を有し、日本産のガとしてはサツマニシキと並ぶ美しいガである。ただし、体のどの部位にどのくらいの金属光沢が出るかは亜種により異なり、八重山産種は前後翅のほぼ全部が光り輝くが、本州に産する亜種は地味な赤褐色にしかならない。
オス、メスともに櫛型の触角を有する。オスの触角の櫛歯はメスよりはるかに長く、先端が扁平となり広がる。
幼虫は、ヒサカキやツバキなどを食草とする。人の手で捕えるなど、体表に何か触れると外敵から身を守るため青酸系の毒物を含んだ液体を出す習性がある。 成虫は、チョウのように昼間飛ぶことが多い。また、捕まえると胸部から青酸系の毒物を含んだ白い泡のような液体を出す習性がある。』

久米島亜種 Eterusia aedea azumai Owada, 2001
徳之島亜種 Eterusia aedea hamajii Owada, 2001
中之島亜種 Eterusia aedea masatakasatoi Owada, 2001
屋久島種子島亜種 Eterusia aedea micromaculata Inoue, 1982
八重山亜種 Eterusia aedea okinawana Matsumura, 1931
沖縄本島亜種 Eterusia aedea sakaguchii Matsumura, 1931
本土亜種 Eterusia aedea sugitanii Matsumura, 1927
奄美亜種 Eterusia aedea tomokunii Owada, 1989

ものすごく亜種があるんだね。海外にも亜種が沢山いるみたいだけど、面倒なので端折(はしょ)る。

 
【サツマニシキ Erasmia pulchella】
(出展『おきなわカエル商会』)

 
(出展 岸田泰則『世界の美しい蛾』)

 
美しくもあるが、毒々しくもある。
元々は蛾嫌いだから、偏見なんだけどもね。
でも捕まえると、コヤツも体から青酸の泡を噴き出しよるから、やっばおぞましいわい。

和名は漢字で書くと『薩摩錦』。どなたが名付けられたか知らないが、優美な名前でセンスあると思う。

コヤツもオキルリと同じく昼行性の蛾で、目にする機会は、そこそこある。だから、採ったことは日本でも海外でも何度かある。けれど、画像が一つもないので、図鑑からパクらせて戴いた。展翅もしていないから、そっちの方の画像もないのだ。
採ったものは全てどなたかに御進呈申しあげた。

ついでに岸田先生の解説文も、そのまま使わせて戴こう。

『数多くの個体変異や地理的変異が見られる。例えば後翅の白色部が拡大したものや、まったく失ったものなど様々である。幼虫は双子植物の「ヤマモガシ」を食す。生息域はインド、中国南部、インドシナ半島、台湾、日本などのアジア各地で、いくつかの亜種が認定されている。日本では近畿地方以西の暖地に生息。南西諸島のものは特に美しい色が特徴だ。』

多分、日本には本土亜種と屋久島亜種、南西諸島亜種に分けられてたんじゃないかな。海外の亜種はもう面倒臭いので割愛させて戴きやす。

 
【キオビエダシャク Milionia basalis】
(2017.6.台湾 南投県埔里)

 
台湾で採ったものだ。町中の花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまった。
メタリックで美しいとは思いつつも、蛾アレルギーなので、背中がゾワゾワで採ってた。

シャクガ科の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが名前の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年は九州で定着、生息域を拡大させている。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では旧武家屋敷などに生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。

因みに、日本では採ったことがない。
あれ❓展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。多分、冷凍庫で眠ってるな。

 
【イボタガ Brahmaea japonica】
(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

 
エゾヨツメと同じ日に採ったものだ。
運が良ければ、春の三大蛾のエゾヨツメとイボタガ、オオシモフリスズメが同時に採れる。

 
(2018.4月 大阪府箕面公園)

 
中でも、このイボタガが飛んで来るとテンションが上がる。
鱗翅類で唯一無二のスタイリッシュなデザインでカッコイイ。モノトーンの美しさの極みだろう。
岸田先生も、「国鳥」や「国蝶」があるように、もしも「国蛾」を制定するならば、このイボタガが一番の候補だろうとおっしゃっておられる。

分布は北海道・本州・四国・九州・屋久島。
日本の固有種だが、近縁なものが世界に15種類ほどいるようだ。

幼虫の食樹は、イボタノキ、モクセイ、トネリコ、ネズミモチ。近年は各地で生息数を減らしているようだ。

展翅は、まだ蛾の展翅に慣れていなかったので上翅が上がり過ぎてる。今年はもっと完璧な展翅をしてやろっと。

せっかくだから、春の三大蛾のもう1つも紹介しておくか。

 
【オオシモフリスズメ Langia zenzeroides】(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

美しいと云うか、禍々(まがまが)しくてカッコイイ。悪の魅力に満ち満ちているのだ。

最初に見たときは、ステルス戦闘機かと思ったのを、よく憶えているよ。
デカイし、迫力も半端ない。翅はギザギザで鋭利な刃物のようだし、鈍色のネズミ色も強者の雰囲気を醸し出しておる。触角も悪魔的だ。脚は太く、クワガタムシ並みに強力で、手から剥がす時は痛い。オマケに鋭い棘があって、最初は咬まれたかと思って、メッチャびっくりした。
それに、尻を上げ、気持ちの悪い形になって威嚇しよる。

 

 

 
こんな奴、普通は気持ち悪くて触れんやろ。

頭の方に⚡雷的というか、ソリコミというか、ヤバイ系の柄まである。

 
(以上3点共 画像提供 森博司氏)

 
掴むとキューキュー鳴くしね。悪魔の落とし子かよ。
何か全てが規格外と言えよう。最初は度肝抜かれたけど、慣れたら可愛いんだけどね。

この蛾も春先の3月から4月だけに現れるものだ。
分布は本州・四国・九州・対馬。西日本に多く、中部地方から東ではあまり見られない。
幼虫の食樹はサクラ類である。

イボタガとオオシモフリスズメの事も『春の三大蛾祭り』に書いてあるので、読んでね。っていうか、コッチが主役なんだけどもね。

思った以上に長くなったので、今回はここまでにしておこう。但し、続けるかどうか気分です。

                    おしまい

 

2018′ カトカラ元年 其の16

 
   vol.16 ベニシタバ

   『薄紅色の天女』

 

 2017年 9月23日

蛾は気持ち悪くて嫌いだったけど、誰もが賞賛するムラサキシタバは一度見ておきたかった。蛾屋じゃない蝶屋の人でも、アレは別格だと言ってる人が何人かいたので前から気になっていたのだ。
そういうワケで、蝶と蛾の二刀流のA木くんにせがんで灯火採集に連れて行ってもらった。
といっても、この時はカトカラ全体に特別興味はなかった。黄色いキシタバグループなんて、どれがどれだか全然区別がつかんのである。何で人気なのかサッバリわからんかった。

 

 
場所は兵庫県の但馬地方だった。
その時にベニシタバにも会えた。ちょっとだけ嬉しかった。ベニシタバも綺麗だと云う話は聞いていたからだ。
それに、こういう色を持つ蝶は日本にはあまりいない。強いていえば、南国にいるベニモンアゲハくらいだろう。それとて裏面下翅の外縁くらいにしか紅色は配されていない。だから、実物の色をちょっと見てみたかったのだ。

ライト・トラップに2つほど飛んできたのだが、持って帰る気はさらさらなかった。ムラサキシタバでさえ、その気はなかった。所詮は蛾だからだ。蛾って、デブだし、大概は色が汚ない。夜に活動するのも気味悪いし、鱗粉を撒き散らすのも許せない。おいら、ガキの頃から蛾に対しての心理的アレルギーが強いのである。だから、写真さえ撮ってない。

ライト・トラップに飛んできたのは2頭だけで、あと1、2頭はトラップの近くをビュンビュン飛んでた。夜空をスゴいスピードで飛んでて、ちょっと驚いた。そんなに高速で飛ぶものだとは全然知らなかったのである。高速で飛ぶことで知られるスズメガと、さして変わらん。カトカラに対しての興味がそれで上がったワケではないが、アスリートの魂は刺激された。蝶採りは半分スポーツだと思ってるところがあるから、おいちゃん、空中でバチコーン💥シバくのが大好きなのである。そこに大いなるエクスタシーとカタルシスがある。

しかし、見てるだけー(;・∀・)
高さは6、7mくらいで、網が届かん。一瞬でも降りてきたら、その瞬間に電光石火で💥バチーッしばいたろかと構えていたが、全く降りてこんかった。

A木くんに、白布に寄って来たベニシタバを『記念に持って帰れば❓』と言われた。逡巡はあったが、持ち帰ることにした。折角連れてきてもらったのに、礼を欠くのではないかと思ったのだ。下手に断って、気まずくなるのも何だしね。正直、持って帰ってから捨てても、バレなきゃOKじゃろうと思ってた。

翌日、一応三角紙を開いてみた。

 

 
ボロボロだな。
こうして見ると、カトカラの鮮度の良し悪しは表よりも裏面の方がよくわかるかもしれない。

捨ててやろうかとも思ったが、折角だから展翅してみた。

 
(2017.9.23 兵庫県香美町ハチ北高原)

 
上が♀で、下が♂だ。
上翅を上げ過ぎてる蝶屋的な酷い展翅だすな。
秋田さんにボロクソ言われそうだ。
蝶は蛾みたいに両上翅の間の空間が、こんなにも空かない。蝶と蛾の一つ大きな違いだろう。全ての種がそうではないにせよ、蛾と蝶の翅のバランスは全然違うのだ。ゆえに蝶の展翅の時と同じような感覚で展翅してしまった。クセで左右の上翅との空間と触角のバランスを重視してしまうから、それに伴って上翅もつい上げてしまったのだろう。

その後、カトカラの事は完全に忘れてた。
この日は、所詮は一日限りの遊び、ヒマ潰しでしかなかったのだ。カトカラなんぞ、正直どうでもよかった。

しかし翌年、シンジュサンを探しに行った折りに、たまたまフシキキシタバやワモンキシタバが採れた。それで、少し興味を持ち始めた。小太郎くんの惹句のせいである。彼は人を乗せるのが上手い。
とはいえ、まだカトカラに完全に嵌まっていたワケではない。

   
 2018年 9月6日

翌年の9月初旬、ムラサキシタバを求めて山梨を訪れた。その数日前に兵庫県のハチ北高原にムラサキを求めて行ったのだが、惨敗に終わり、すこぶる口惜しかったのだ。負けることは大嫌いだ。だから、これを採らないと終えれないと思っていた。裏を返せば、ムラサキシタバさえ採れれば、カトカラを追いかけるのも、この年でお終いにする予定だった。外野が蝶屋じゃなくて、蛾屋だと囃し立てるのに我慢ならなかったのだ。

 

 
久し振りに青春18切符を使った旅だった。
線路の両側に広がる金色の稲穂に、何だかホッとした。
遠くへ行くのは好きだし、知らない場所に行くのも好きだ。旅人の時の自分は悪くない感じだ。キツいけど、らしい自分だと思える。きっと生来、放浪とか流浪が好きなのだ。多くの生物には、そういう遺伝子を持つ者が何パーセントかいるらしい。死滅海遊魚とかもそうだけど、そう云う一部の者が分布の拡大に寄与しているらしい。けど、だいたいがオッ死ぬけどね。所詮は死屍累々の特攻隊なのだ。

 

 
大阪駅から米原、大垣、名古屋、中津川、塩尻、甲府と乗り継いで、やっとこさ着きました。

 

 
こうして見ると、意外と東京と山梨って近いんだね。
高尾や八王子まで、あとちょっとだ。

ペンションのお姉さんに駅まで迎えに来てもらった。
このお姉さんが良い人で、後々世話になった。こういう奥さんだったら、旦那も幸せだろう。

 
【ペンションすずらん】

 
この連載ではもう、お約束みたいな画像だ。
関東方面の虫屋には知れた場所で、大きなライト・トラップが常設されている。

 
【ライト・トラップ】

 
これ又コメントは毎回ほぼ同じだ。
皆さん、もうウンザリのくだりだとは思うが、こっちはもっとウンザリなのだ。アンタらより、こっちはとうに一番に飽きとるわい。

この初日に、ベニシタバは見てる。
樹液の出ているミズナラを見つけたら、そこに来ていたのだ。

この日は蛾屋の人が二人ほどいて、その話をしたら、よく樹液の出てる木なんて見つけられたよねと褒められた。
(;・∀・)えっ❓、そんな事で褒められんの❓と思ったことを憶えてる。
批判を恐れずに言うが、蛾屋って、たいしたことないなと思った。勿論、そうじゃない人も当然いるとは思う。でも全体的にはライト・トラップに頼り過ぎな人が多すぎる。歩き回る人が少ないわ。だから、そんな弛いコメントが出てくるのだろう。

話を戻す。
結果を先に言うと、でもそのベニシタバは採れなかった。やる気というか、必死さも足りなかったのだろうが、状況が悪かった。あまり太くない木で、細い枝が沢山横から出てて、さらに周りからは他の木の枝が張り出してた。ようするに藪だ。おまけに樹液が出ている場所が少し裏側に被ってて、ブラインド気味だから視認しづらい状態だった。
まあ、それでも自信過剰な男は、何とかなると思ってた。刺激を与えて驚いて飛んだところを空中でシバく予定だった。しかし、網の先で突っついたら、あろうことか、藪の奥の方へと逃げていった。脳は反応してても、網先は1センチたりとも動かせなかった。振っても、無駄だと思ったのだ。下手に強引に振れば、網が破けかねないと判断したのである。
まあいい。ターゲットはベニシタバじゃなかったから、特に悔しいとも思わなかった。去年採ってるしね。たとえボロだろうと、一度でも採った事のあるものに対してのモチベーションは低い。そういう性格なのだ。一度、寝た女に対して急速に興味を失うのと似たようなもんだ。
それに、どうせそのうち又会えるだろうと思った。樹液が出てる木を見つけたんだから、その確率は低くない。

 
 2018年 9月9日

そのうち採れるだろうと思っていたが、翌日は姿を見なかった。そして、3日目のこの日が最終日だった。

 

 
昼間は、大菩薩峠方面にキベリタテハを探しに行ったが、惨敗。1頭たりとも見なかった。何か、よろしくないよね。流れが悪い。

昨日は、高校生の蛾屋の子に周辺を案内してもらった。他にも蛾の採り方とか道具とかアレコレ教えてもらう。前言半分撤回。蛾屋も、ちゃんとそれなりに色々工夫してるのを知ったよ。
とっておきのポイントも教えてくれた。そこは、まさかのペンションすずらんのライト・トラップの真裏の森だった。灯台もと暗しだね。
彼がトラップを仕掛けた場所は特別良い場所だとは思えなかったが、蝶屋目線のトラップの設置場所とは違っていたことには目から鱗だった。考えてみれば、夜は昼間とは全然違う世界なのだ。蝶採りのイメージでしか、物事を考えていなかったよ。

高校生が東京に帰ったので、そこにフルーツトラップをかけさせて戴いた。知らない者は知ってる者に対して、基本的に謙虚であるべきだ。彼はそこでムラサキシタバも採ったと言ってたしね。

そのムラサキシタバがやって来たと教えられた同じ木に、ベニシタバがやって来た。時刻は午後10時頃だった。

 

 
嬉しかったのか、他のカトカラは無いのにベニシタバの写真だけはあるんだよね。
これで、カトカラ元年16種類目だ。ホッとしたような記憶がある。当時は日本のカトカラは全部で31種類だったから、その半分くらいは一年目で採っておきたいなと思っていたからだろう。
とはいえ、この年はまだまだカトカラに嵌まっていたワケではない。蝶の時みたいに、日本の蝶を3年で200種類、4年で230種類以上採ってやろうとかと云うギラギラした野心は無かった。もし本気で採りたいと思っていたなら、シーズン頭のアサマキシタバを採りに行っていただろうし、ウスイロキシタバも狙いに行ってた筈だ。でも行かなかった。さらにいうと、もし真剣に取り組んでいたならば、関西では殆んど記録のないノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ケンモンキシタバ、ミヤマキシタバ、エゾベニシタバ辺りも狙いに行ってた筈だ。しかし、シーズン真っ只中の7、8月には甲信越方面には行っていない。行く気もさらさらなかった。マジで採ってやろうと思ったのは、カバフキシタバとシロシタバ、そしてムラサキシタバだけだったのだ。

その時に採ったベニシタバがこれかな。

 

 
♂だね。印象に無いから、たぶん♂♀とかもどうでもよかったんだろう。

上翅は去年よりだいぶ下がってるけど、まだまだ上がり気味だし、触角の整形が全然ダメだな。
当時は蛾の触角を、蝶みたく真っ直ぐにする必要性を感じていなかったからだろう。美人の代名詞に「蛾眉」という言葉もあるし、真っ直ぐじゃない方が自然だと思っていたのだ。

たまたま、上はオニベニシタバだったみたいね。

 

 
オニベニも採った時は綺麗だと思ったけど、こうして並べてみると、やはりベニシタバの方が断然美しい。
あっ、大きさは同じくらいと思ってたが、ベニシタバの方が大きいんだね。これは多分、オニベニの方がデブで重量感があるからだろう。身長は低いけど、圧が強い人がデカく見えるのと同じだ。
それにしても、オニベニの展翅が酷いな(笑)

今回も纏めて2019年のことも書いちゃいます。
疲れた人は、読むのをここで一旦やめて。あとでまた続きを読みましょうね。

 
 2019年 8月1日

青春18切符で信州方面に旅した。
これで二年連続だ。

 

 
大阪駅から米原駅まで行き、大垣、名古屋、中津川、松本と乗り換え、大糸線に入った。もう1回、信濃大町で乗り換えて、ようやく簗場駅に着いた。
11時間くらいかかっとるやないけー。青春18切符の旅も、そろそろ考えなくっちゃいけない歳だよなあ。オジサンにはキツいわ。

 

 
駅から青木湖まで歩く。
下車したのは、自分一人だけだった。遠くまで来た感、あるなあ…。

地図で見たよりも遠くて、日没間近になってやっとキャンプ場に着いた。

 

 
画像は翌日に撮ったもので、予想外の水の美しさに驚いたっけ。

慌てて一人用のテントを組立て、下見に行く。
今回の狙いはミヤマキシタバだった。ポイントを教えてくれたMくんによると、ライトトラップした時はケンモンキシタバやエゾベニシタバも飛んで来たらしい。

だが、全然下見の時間が足りなかった。ミヤマの食樹であるハンノキが沢山ある場所が見つからないうちに暗くなってしまう。
見つけたのは熊出没注意の看板くらいだ。まさか、こんな標高の低いとこにも熊が出没するとはね。(-“”-;)マジかよ。

仕方なく、湖畔を中心に糖蜜を木に吹き付けてゆく。
まあ何とかなるだろう。実力はないけど、引きだけは強いのだ。

しかし、飛んで来るのは糞ただキシタバ(C.patala)や憎っくきフクラスズメばっかで発狂しそうになる。そして、シクった感がどんどん濃厚になってゆく。

午後10時半前、やっと違うカトカラが飛んできた。
裏面から下翅が赤系のカトカラである事は間違いない。エゾベニ❓ と思った次の一瞬、下翅が見えた。
いや、薄紅色の天女だ。優雅にゆっくりと舞いながらトラップに近づいてゆく。闇の中で見るそれは、一種幻想的な光景だった。ちょっと夢まぼろしっぽい。闇夜にうろうろしていると、段々と心が通常の感覚から逸脱してくる。そもそもが、やってることオカシイよな。狂ってるわ。そう思うと、何だか笑けてきた。

トラップに止まり、下翅を開いた。鮮やかな桃色が目に飛び込んでくる。やっぱエゾベニじゃなく、ベニシタバかあ…。ベニがいるなんて想定外だったわ。
一瞬、ガックリくるが、こんなに新鮮なベニシタバを見るのは初めてだ。美しい。そして、セクシーだ。
そう思うと、テンションが上がった。それにこれを逃したら、今日の収穫はゼロだ。何としてでも採らねばならぬ。わりかし緊張感が全身に走る。

必死こいて採ったよ。
写真には、その場にヘタりこんで撮った感がある。
でもそんな事、自分しかワカンナイか…。

  

 
あっ、フラッシュ焚くの忘れてた。

 

 
でも、反対に真っ白になった。
手のひらに乗せ、今度はまたフラッシュなしで撮る。

 

 
こっちの方が質感があっていい。

そう、このピンクだ。( ̄∇ ̄)美しいねぇ。
暫し、見惚れる。

そう云えば、シロシタバが下翅を開くことをパンチラと呼んでいたのを思い出す。
純白パンティーならぬ、妖艶ピンクパンティーのパンチラだ。❤エロだね。
闇の中で、その馬鹿馬鹿しい発想にケラケラ笑ってしまう。ホント、阿呆だ。

  

 
一応、もう1回フラッシュ焚いて撮る。
こっちの方が上翅は美しく写る。明るいグレーがキレイだ。

 
(裏面)

 
裏面は、オニベニとさして変わらないね。エゾベニも多分そう変わらんだろう。

 
 2019年 8月2日

翌日、白馬村へ移動。

駅近くのスーパーで、発泡酒とカツカレーを買い、半分食ったところで、テーブルに突っ伏す。

昨日からのあまりに過酷な旅に、ドッと疲れが出たのだ。長い長い移動と残念な結果に心は擦り減っている。それに、テントの下に敷くマットを忘れたので背中が痛くてあまり眠れなかった。おまけにド・ピーカンで死ぬほどクソ暑いときてる。バロムワンのエネルギーメーターの針も、限りなくゼロに近いところを指しとるのだ。

 

 
バスで移動し、キャンプ場に入った。
狙いはアズミキシタバ。上手くいけばヒメシロシタバも採れるだろうと考えていた。

 

 
夜まで時間があるので、サカハチチョウと遊ぶ。

 

 
手乗りサカハチチョウだ。
10分以上はいた。
手乗り蝶は昔から得意。心頭滅却、良い人になれば、わりかし友達になれる。

この辺までは、まだ余裕があったんだよね。

アズミキシタバのポイントはすぐ近くだ。有名な崖下の周辺に糖蜜を吹き付ける。サラシナショウマも咲いてることだし、いい感じだ。アズミは花に吸蜜に来るというから、楽勝やんけと思った。どうせ時期的にボロだろうが、この際、採れたという事実があればよい。

しかーし、日没後すぐにベニシタバを採って間もなく、✴ピカッ⚡ゴロゴロガッシャーン❗ザーザー降り。
(-o-;)終わったな…。

 
 2019年 8月4日

🎵ズタズタボロボロ、ズタボロロ~。
泥沼無間地獄の3連敗。
昨日はヨシノキシタバ狙いで猿倉まで行くも、糖蜜に他の蛾はぎょーさん寄って来るのに、カトカラはこのズタボロのクソただキシタバだけ。ゴマシオキシタバやエゾシロシタバさえ見なかった。

 

 
泣きたくなる。こっちのハートがズタボロじゃい。

熊の恐怖と闘いつつ歩いて麓まで戻り、夜中にキャンプ場に着いた。新しい靴のせいで足を痛めてて、靴を脱いだら血だらけ。これまた地獄。これほどボコられてるのは海外だってない。

朝起きたら、テントにセミの脱け殻が付いていた。
ここまで登ってきて、羽化したのだろう。

 

 
何かバカにされたみたいで、ガックリくる( ´△`)

今日も大いなる惨敗の予感。
3日連続で連敗が続くと、ここまで弱気になるのね。初めて知ったよ。
虫採りやってて、こんなに絶不調は嘗て記憶にない。(@_@;)ぽてちーん。

白馬駅まで戻ってきた。
一昨日と同じスーパーへ行く。

 

 
今回は「デミグラスハンバーグステーキ弁当」をチョイスした。

 

 
枝豆を2鞘(ふたさや)食って、金麦飲んで突っ伏す。
ハンバーグ弁当を半分食って、再び突っ伏す。

電車に乗り、午後4時くらいに目的の駅に着く。
そこから歩いて湿原へ移動せねばならない。レンタカーを借りればよかったかなあ…。でも今さらどうしようもない。それに今はボンビーおじさんなのだ。

相当歩くことを覚悟していたが、意外と早く着いた。

 
【ハンノキ林】

 
狙いは、ミヤマキシタバ。初日のリベンジである。
ここは文献で調べた所だから、確実にいる筈である。
いなきゃ、もう呪われているとしか思えない。

宿泊施設は無いので、近くにテントを張る。

 

 
ここも熊がいるらしいから💕ドキドキもんだが、最早そんな事は言ってらんない。何も結果が出てないのだ。熊が恐くて、虫捕りがやってられっかであるι(`ロ´)ノ

広範囲に糖蜜かけまくりのローラー作戦で、1ヶ所だけヒットした。もう意地である。

ここでもベニシタバが飛来した。
日没後、暫くして飛んで来た。あとは8時台に複数頭が飛んで来た。しかし、今やどうでもいい存在だ。写真も撮ってない。どんだけ綺麗な女の子でも、結構早めに飽きるという酷い男なのである。

冷や冷やの綱渡りだったが、何とか目的を達成した。
秋田さんや岸田先生にFacebookで『マホロバ(キシタバ)を発見したから、今年の運、全部使い果たしたんじゃないのー?』と笑われていたが、これで公約通りに連敗脱出である。阪神タイガースとは違うのだ。
夜中まで粘って、テントで昏倒、💤爆睡。

その後、3日ほどいて各地を転戦し、怒濤の巻き返しをするもベニシタバは見てない。で、結局最後は力尽きて突っ伏し、帰阪した。

 
 2019年 9月2日

青春18切符の旅、再び。

 

 
今回は大阪駅から米原、大垣、岐阜、美濃太田と乗り継いで、高山までやって来た。

高山駅が改築されて、メチャお洒落になってるのに驚く。

 

 
噴水まで出よる。

 

 
でも、昔の駅舎の方が好きだ。新しい建物には風情というものがない。

 

 
バスに乗り換える。

1時間ほどバスに揺られて、やっと目的地の平湯温泉までやって来た。今回は約8時間の移動だった。

 

 
既に陽は沈んでいる。
常宿に旅装を解き、温泉に直行。
で、すかさず居酒屋でキンキンに冷えた生ビールを頼む。

 

 
 
でも、そのキンキンに冷えた生を飲んで、やる気をなくす(笑)

嗚呼、蛾採りなんかやめて、ビール飲んで旨いツマミ食って、ヘラヘラしていたい。
でも、それじゃ何しに来たかワカラナイ。重い体を引き摺って出陣。
探すはエゾベニシタバ、目指すは白谷方面。
しかし、真っ暗けー。

 

  
ここには妖精クモマツマキチョウを採りに何度か訪れているが、夜はこんなにも真っ暗だなんて予想だにしていなかったよ。

 
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】

 
【裏面】
(2019.5.26 岐阜県高山市新穂高)

 
【展翅画像】

 
そういえば思い出した。白谷では、そのクモツキ採りの時に熊の親子連れを見てるわ。つまり、此処には確実に森のくまさんがいるのである。
真っ暗だし、熊は黒い。背後から襲われでもしたら、お手上げだ。((((;゜Д゜)))ブルッとくる。

🎵ラララ…星き~れい~、とか何とか口に出して歌ってはみるが、恐い。マジ卍で熊も闇も恐い。
幸い❓なことに川沿いの道にトラップを噴きつけるのに適した木がないので撤退。温泉の反対側に行くことにした。
言っとくけど、チキンじゃないからね。いや、本当はチキンだけど、目的の前ではチキンじゃないぞ。何か言い訳がましいが、そんなに悪い判断ではなかったと思う。

午後10時半くらいに漸くカトカラが飛んで来た。
しかし、エゾベニではない。低い位置、地表近くを飛んでいたので、すぐにベニだとわかった。
けど、トラップには寄り付かず、笹藪の端をちまちまとホバリングしながら飛んでいる。見たところ♀だ。もしかしたら、卵を産みに来たのかもしれないと思った。でも近くに食樹であるヤナギ類なんてないぞ。暫く見てたが、笹藪の中に入りそうになったので、網を一閃。ゲットしてしまった。

糖蜜には他にシロシタバが1頭飛んで来ただけで、クソ蛾さえも殆んど寄り付かずだった。糖蜜のレシピを間違ったやもしれぬ。いい加減に作ったもんなあ…。
ましてやヨシノやエゾベニには糖蜜はあまり効果がないとされている。序盤から劣勢だわさ。
そうだ、ワシってキベリタテハを採りに来たのじゃ。カトカラ採りはついでだ。
そゆことにしておこう( ̄∇ ̄*)ゞ

 
 2019年 9月3日

平湯から新穂高・わさび平小屋へ。
ターゲットはヨシノキシタバとエゾベニシタバ。あとはムラサキシタバとゴマシオキシタバってところか。
ここは大きなブナ林があるし、その下部にはドロノキやヤナギ類もある。わさび平にヨシノがいると聞いたことはないけど、絶対いるじゃろうと思ったのだ。もしダメでも、このどれかは採れるだろうと読んだのである。効率重視の男なのだ。

 
【わさび平小屋】

 
この右横の奥のサイトにテントを張った。

 

 
アサマイチモンジと遊ぶ。

 

 
でも手乗り蝶をやると、前みたいにその後は悲惨な結果になるんじゃないかと云う思いがよぎった。
こういう事を思うじたい、絶不調なのだろう。らしくない。メンタル弱ってんなあ。

ここには熊が沢山いる事は周知の事実である。ワシも此処のすぐ近くで見たことがある。前日以上に恐怖に怯えながら、夜道を歩き回った。
しかし、ブナ林は不気味なまでに静かで、糖蜜トラップには何も来ん。泣きたくなる。
東日本では、糖蜜トラップがカトカラにはあまり通用しないことをひしひしと痛感する。ヨシノやエゾベニどころか、ゴマシオ、エゾシロさえも寄って来んかった。
やっぱライト・トラップが無いとアカンわ。だいぶと前に遡るけど、前言撤回。灯火採集は蛾採りには必要不可欠だ。
蛾屋の皆様、m(__)mゴメンなさい。

結局、来たのはベニ2頭のみ。

 

 
それと、なぜか標高1500mに桃色クソ蛾ムクゲコノハちゃん(註1)が複数飛来。
何処にでもおるやっちゃのー(=`ェ´=)、💧涙チョチョギレそうやわ。(*ToT)ダアーッ。

 

 
雨が降り始めたので、小屋で雨宿りする。
暗闇で飲むビールは苦かった。

                     つづく

 
追伸
雨はやがて激しくなった。
テントの下は川となり、凍えながら眠った。ボロボロの大惨敗である。
その後、1ヶ所だけ転戦して大阪に帰った。

一応、2019年に採ったベニシタバの展翅画像のいくつかを貼り付けておこう。

 
【Catocala electa ベニシタバ】

 

 

 
【同♀】

 

 
【裏面】

 
展翅もだいぶ上手くなっとる。
幾つかは『ひゅう~、完璧じゃねえのd=(^o^)=b』と勝手に自画自賛しちゃうぞ。
これからは、上翅を心持ち上げえーの、触角を真っ直ぐしいーの、やや上げえーの路線でゆきまーす。

触角に関しては、以前に蛾眉的な形の方が自然で良いだとか何だとかホザいたが、撤回。よくよく考えてみれば、生きてるカトカラの触角は真っ直ぐだと気づいたのである。つまり、むしろ真っ直ぐな方が自然なのだ。

次回、ベニシタバの種解説編の予定っす。

 
(註1)ムクゲコノハちゃん

 
同じピンクでも毒々しいなあ。
おらにとっての、ザ・蛾だよ。正直、背中がおぞける。