奄美迷走物語 其の16

 
第16話『月とデブいアンタと狼男』

 
2021年 3月30日

泥のように眠り、起きたら昼前だった。
外は雨が降っている。
残されたチャンスは少ないから複雑な気持ちだが、心の底ではどこかホッとしている自分がいる。
昨日は、というか今朝まで虫採りしてたから身も心もボロボロなのだ。正直、ここまで全く採集に出なかった日は1日たりともなかったから休みたかった。でも晴れていたら、そうゆうワケにもゆかない。行かなきゃ、逃げた事になるからだ。
とにかく、これでセコい言い訳をカマさなくてすむから心置きなく休養する事ができる。

 

 
今朝、夜明け前にファミマで買ったはいいが、力尽きて食べれなかった中 孝介(註1)監修の鶏飯(註2)を食うことにする。

 

 
ハッキリ言って全然旨くない。及第点にも遥かに及ばない。こんなのよく鶏飯のお膝元で発売したよなと思う。しかも、わざわざ「奄美鶏飯」と名打ってる厚顔無恥っぷりじゃないか。もしワシが島民だったら、絶対怒るね。最近はファミマも味のレベルがだいぶ上がったと言われるが、やっぱセブンイレブンと比べるとクオリティーが低いわ。スイーツばっか頑張ったところでダメだよ。

食い終わって、薬局に買おう買おうと思っていた塗り薬を買いに行く。
泊まっている「ゲストハウス涼風」は周辺に飲み屋があまりないのが難点だが、それ以外は何かと便利だ。歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあるし、コンビニもある。その横にはチェーン店らしき大型薬局店だってあるから、薬以外にもインスタント食品やスナック類、雑貨も買える。

 

(出展『ゲストハウス涼風』)

 
熱湯を胸に浴びて、北斗の拳みたく斜めザックリの傷跡になった火傷がまだ治ってなくて、ヒリヒリするのである。

メンタムを買おうかと思ったが、考えてみれば自宅にあるし、効能を見るとコッチの方が良さげだった。

 

 
一家に一つ、オロナインH軟膏である。
帰って薬つけて、もう一回💤寝よ〜っと。

だが帰って昨日の採集品を整理してたら、気づけば午後2時半。いつしか雨は上がっていた。
ベランダに出て、空を見る。晴れ間はないが、何となく天気が回復する兆しを感じた。勘で僅かな時間だけど晴れるんじゃないかと思った。その間隙をぬって起死回生の一発を放てるかもしれない。アカボシゴマダラは、ほんのひと時でも晴れてくれさえすれば、飛ぶだろう。ワンチャンあるかもしれない。

 
【アカボシゴマダラ 春型♀】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
この天気と予報ならば、殆どの人が今日の採集を諦めている筈だ。だとするなら、上手くすれば採集者全員を出し抜いてベストポジションが取れるやもしれん。思い立ったが吉日だ。ならばと慌ただしく長竿とザックを引っ掴み、バイクを駆ってあかざき公園を目指す。

走り始めて暫くしたら、サッと上から光が射した。
予測通りだ。さすが俺様である。

けどバイクを停めてポイントまで降りて行ったら、既に先客がいた。昨日、同じ場所でワシのブログを読んでいると言ってた若者だ。(´ω`)むにゅー、同じような事を考えてる人間は他にもいるんだね。
それにしてもレスポンスがいいね。彼は名瀬に泊まっていた筈だから、ワシより判断が早かったということだ。それって大切な事だよ。加えて、若いけど見た目以上に読みのセンスがある。この2つがあれば、結果も自ずと付いてくるだろうから、頑張って続けてもらいたいよね。

先を越されたが、まあいい。柿澤仙人は来てないし、奥の東屋のポイントを占有できそうだから今日こそは採れんだろ。

訊いたら、まだアカボシの姿は見ていないと言う。
でも、そろそろお出ましだろう。自然と気合が入る。二人で独占、鬼採りといこうじゃないか。

しかし立ち話を始めて5分くらいで曇り始めた。おいおいである。けど曇っていても飛ぶ時には飛ぶから何とかなるっしょ。

だが暫く待つも、飛んで来る気配がまるでない。期待だけが虚しく空回りする。忸怩たる想いで、木々の梢を睨む。

やがて二人組の採集者が上から降りて来た。
けど、二人とも全然オーラがない。採りたいという強いハートも伝わってこない。そんなんじゃ1つも採れんぞ、兄ちゃん。
10年ちょっとも蝶採りをやってると自然と解る。採るのが上手くてライバルになりそうな奴には独特のオーラがある。デキる奴には、それなりの雰囲気というものがあるのだ。

ここじゃダメだと判断して、塔のあるポイントへと移動する。
本来、待つのが死ぬほど嫌いな男なのだ。待ってもダメだと感じたら転戦も厭わない。だからこそ常に他の場所も頭の隅に入れて行動している。

 

 
着いて直ぐ、らしきもんが飛んで来た。ザマー見さらせ、読み的中じゃい❗鬼神の如くダッシュする。
だけれども、目の前まで行って気づく。似てはいるが、そやつは赤紋のない全くの別種、リュウキュウアサギマダラだった。

 
【リュウキュウアサギマダラ♀】

 
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。
逆光のせいではあったが、我ながら情けない。勿論アカボシが毒のあるリュウアサに擬態しているという説は知っている。けど、常々あんなもん見間違うかね❓、アンタらの目は節穴かよと思ってた。ゆえに今まで見間違った事なんぞ殆んどないのだ。あったとしても一瞬だ。直ぐに違うと見破ってきた。それがコレだ。もうヤキ、回りまくりである。絶不調ここに極まれりの象徴みたいな出来事じゃないか。

その後、さっきの二人組が上がってきた。 
周りの空を見回しても晴れそうにないから、退屈しのぎに話をする。 

彼らは近畿大学の研究者だった。
なぁ〜んだ、オーラがなかったのはそうゆう事だったのね。狩猟が目的ではないからガツガツしたものを感じなかったのだ。同じ虫屋でも学究肌タイプと狩猟肌タイプがいて、両者は全く目指すベクトルが違う。当然、両者の性格の傾向も異なる。私見だが、学者肌の人は往々にして性格が穏やかな人が多い。一方、狩猟肌の人間は負けず嫌いで押し出しが強く、自分を曲げない人が多い。勿論コレはあくまでも傾向であって、例外は沢山あるだろうけどね。

二人の話によると、先輩の研究者がゴマダラチョウの幼虫を研究していて、2本の頭部突起がどうゆう役割を果たしているのかを調べたそうだ。

 
【ゴマダラチョウ♀】

(2021.5.30 東大阪市枚岡。この♀、何と開張82mmもあった)

 
世の中にはヒマな人もいるんだなと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。ゴマダラチョウの他にもアカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキ、スミナガシ、フタオチョウetc…タテハチョウ科の幼虫の多くは頭部に角状の突起を持っている。何で皆、頭にそんなもん付けとるんや?とは、おぼろげながらにもワシだって疑問には思っていたのだ。

 
【ゴマダラチョウの幼虫】

(出展『芋活.COM』)

 
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラ、オオムラサキなどコムラサキ亜科の幼虫って、(・∀・)ほよ?顔で可愛いよね。可愛い過ぎて、オジサンだって胸キュンだよ。

 
【オオムラサキ♂】

(2021.6.17 東大阪市枚岡)

 
話を戻そう。
で、調べた結果、角を振り回して天敵のアシナガバチから身を守っている事が証明されたらしい。それを二人はフタオチョウの幼虫でも証明しようとしているという。今のところまだ結果は出てないそうだけどね。

 
【フタオチョウ♂】

(2021.3.29 奄美大島)

【フタオチョウの幼虫】

(出展『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』)

 
完全にプレデターだよな(笑)。
にしても、こんなもん振り回したところで、はたして蜂を追っぱらえるのかね❓ゴマダラチョウの角にしてもそうだけど、蜂を半殺しにできる程の殺傷力があるワケでなし、武器としては弱すぎやろが。んなもん、後ろからブスリとかガブリとかいかれたら一貫の終わりやがな。

結局、二度と太陽は顔を出さず、アカボシもフタオも、その姿を見ることすら叶わずだった。一発逆転を狙ったが、完全に骨折り損のくたびれ儲けに終わったってワケやね。まだまだ絶賛連敗街道爆走中っす。

昼は雨模様の天気予報だったが、各サイトの予報を改めて確認すると、夜は概ね曇りになっている。とゆう事は夜間採集に出動しなければならぬ。昨日の疲れがまだズッシリと残ってるし、またしても惨敗を喰らったから気が重いが、行くっきゃないだろなあ…。
行くにしても、奄美に来てから天気予報は全然当たらないし、コロコロと目まぐるしく変わる。せめて雨にならない事だけを祈ろう。これ以上、泣きっ面に蜂みたくなるのは御免蒙りたい。ヤケクソで、露払いに角でも振り回したろかい。角、ないけどー。

腹ごしらえは今回もカップ麺。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛り 塩担々麺』。
最後に残っていたニラもブチ込む。

味は可もなく不可もなくって感じ。まあ、百円だから期待はしてなかったけどさ。とはいえ、心の底では旨かったら気分が乗るから、それでメンタルが少しでも上がる事を期待してたんだけどね。ボコられ過ぎて、もう神頼みの領域なのだ。

午後6時過ぎ、知名瀬に向けてバイクを走らせる。
今日こそ、アマミキシタバを仕留めてやろう。

 
【アマミキシタバ】 

(出展『世界のカトカラ』)

【裏面】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
そうは言いつつも、最も有望な場所である湯湾岳に行って惨敗して今朝方帰って来たばかりなのだ。言ってる言葉に力がない。もう、何をどうすればいいのかが分からなくなってる。

 

 
Sくんがハグルマヤママユ採集の折りに陣取ったポイントに、何ちゃってライトトラップを設置する。
ライトを取り付けた三脚の後ろに網を立てかける。
アマミキシタバが飛んで来たら電光石火、空中でシバいたろという算段だ。取り敢えず、らしきもんが飛んできたら迷わず何でも採る体制でいこう。ようは、もう形振(なりふ)り構ってらんないのである。

何か大型の蛾が飛んで来た。でも何ちゃってライトは暗いから、何が飛んで来たかはワカラン。アマミキシタバにしてはデカ過ぎるから心は躍らないが、一応シバく。

 

 
また、おまえかよ(´ε` )❓
毎度お馴染みのオオトモエさん(註3)だった。中々に立派だし、デザインもマスカレードみたいで渋カッコイイのだが、如何せん何処にでもいる普通種なのだ。採っても最早、喜びは皆無である。

午後10時。
あれれ❓山の向こうが何だか明るくなってきたぞ。
予報は、どのサイトでも完全に曇り。もしくは曇り時々雨だったが、又しても「スーパー晴れ男」の力を無駄に発揮してしまうのかあ❓
昼間、蝶を採る場合には断然晴れた方が良いんだけど、夜に灯火採集する時には晴れるのはヨロシクないのだ。詳しくは書かないけど、大まかな原理はこうだ。
通常、夜行性の昆虫は月光を頼りに移動している。だが、月が見えないと事情は変わる。人工光に強く影響され、やがては誘引されてしまうのだ。

 

 
午後22時12分。
遂に月が昇ってきた。どんだけ晴れ男やねん❗である。でも、全然もって嬉しくないや。

 

 
どんどん晴れてきた。
しかも満月じゃないか❓
悔し紛れで、狼の遠吠えでもしたろかと思う。
さすがにそれは思いとどまったでしょう。そう皆さん、思っただろうが、ところがどっこい。思いきし月に向かって『🐺ワォ━━━━ン❗』と遠吠えしてやった。
我ながら、かなり上手い。気分は完全に狼男。調子に乗って、もう一発吠えてやった。この森の全ての生き物たちよ、我に震撼せよ。森の王者たるワシを畏れ崇めるのだ〜。
完全にイカれポンチの阿呆だが、コレが半分冗談じゃなく真面目にやってるんだから怖い(笑)。

落ち着いたところで、静かな心持ちで月と対峙する。

 

 
原生林の上で煌々と輝く月は幻想的で美しい。そして月光は、こんなにも明るいのかと改めて思う。
懐中電灯を消しても、周囲の風景が肉眼でもよく見える。
「月夜の晩ばかりではないよ(註4)」という古い言葉を思い出す。街灯などない昔は、それくらい夜は真っ暗だったのだ。もし江戸時代の人が現代にタイムスリップすれば、その明るさにドびっくりーだろね。逆に現代人が江戸時代にタイムスリップしたとすれば、あまりの暗さにビビるだろう。現代人は夜に出歩くことに何ら恐怖を感じないが、夜の闇は本来的には恐ろしいものなのである。だからこそ妖怪や幽霊、お化けなどという魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する世界がリアルに成立しえたのだ。そうゆう畏怖すべき謎の世界がある方が世の中、面白いのにね。明るさは、時に人の想像力を奪う。
(  ̄皿 ̄)アンタら、いっぺん山奥で懐中電灯なしで歩いてみぃーや。
(´༎ຶ۝༎ຶ)チビるで。

そんな時だった。月光が降り注ぐ中、何かデカい飛翔体が林道の左奥からコチラに向かって真っ直ぐに飛んで来た。ちょっとビビるが網を構える。もしも此の世の者ならざる存在ならば、袈裟がけで叩き斬る所存だ。
採ってみたら、悪魔の化身みたいな奴だったらどうしよう❓畏怖しつつも一歩踏み込み、前で左から右へキレイにさばいた。

網の底に手応えがある。かなりの大物だ。
中を恐る恐る見て、驚く。
\(◎o◎)/何じゃこりゃ❗❓

  

 
(☉。☉)デカっ❗
&アンタ、デブいねー❗
 

羽の柄は何日か前に似たようなのをどっかで見た事があるぞ。
たぶんアサヒナオオエダシャク(註5)って奴だ。にしても、それよか遥かに巨大だし、形も違う。

良い兆しと期待したが、その後は目ぼしいものは何も飛んで来なかった。
又しても惨敗濃厚だ。いつになったらアマミキシタバに会えるのだ❓ねぇー、ねぇー、そんなに珍しいモノなのー(ToT)❓

午前0時過ぎ。
(-_-;)終わったな…。

どうせ待ってもダメだと判断して、そろそろ店じまいしようとした時だった。
何か裏面がアマミっぽいのが飛んで来た❗俄然、心がザワつく。でも大きさ的に違うような気がする。けど採ってみないと何とも言えない。慎重に距離を詰める。
だが追い詰めたところで、暗くて見失った。
(´-﹏-`;)むぅ…、とっとと網を振っておけば良かった。判断が鈍いや。こうゆうところが絶不調の原因だろう。何でもそうだけど、躊躇して良い結果が出た試しなどないのだ。
どうあれ、今さら嘆いたところで遅い。やれる事は、また飛んで来るのを願って待つことだけだ。

15分後、たぶん同じ奴が飛んで来た。
今度は迷わず網でブン殴る。

 

 
裏の柄はアマミキシタバっぼい。
でも、にしては地色が汚い。アマミならば、もっと鮮やかな黄色の筈だ。それに大きさ的にも小さい。とはいえ、矮小個体の可能性だってある。僅かな望みを託して表に返す。

 

 
もの凄く(◡ ω ◡)ガックリくる。
全然、別物の汚い蛾だ(註6)。とんだ似非者(えせもの)じゃないか。こんなもんに少しでもワクワクした己を呪いたくなる。
帰ろう。何もかんも上手くいかないや。

月光に照らされた林道を帰る。
幽玄で美しかったが、そんなのどうでもよかった。

                   つづく

 
追伸
狼男のくだりとか、今回はバカ回でしたな。
でも久々に楽しめて書けたかも。連載が当初予定したいたよりも長丁場になって、ここんとこ書くのが苦痛だったのだ。
でも上手くいけば、あと2、3回で、その苦痛からも開放されそうだ。

 
(註1)中 孝介(あたり こうすけ)
奄美大島名瀬出身の男性歌手。その声は「地上で最も優しい歌声」とも称される。

2006年 EPIC RECORDS JAPANよりシングル「それぞれに」でデビュー。
2007年「花」をリリースし、世代を超えたヒット曲となる。
2007年 1stアルバム『ユライ花』をリリース。オリコンチャートで初登場7位を記録し、ロングセラーとなる。
2007年 台湾での単独公演も成功させる。また、台湾で公開された映画『海角七号』に中孝介本人役として出演。映画は台湾歴代興行収入を塗り替える大ヒットとなる。
2008年 中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』がヒットし、台湾ヒットチャートの1位を獲得する。

 
(註2)鶏飯(けいはん)
奄美大島の郷土料理。鶏のほぐし身など数種の具が入った出汁茶漬けみたいなもの。詳しくは連載第1回で書いた。

 
(註3)オオトモエさん
羽に巴紋がある大型のヤガ。

【オオトモエ】

ねっ、マスカレードでしょ。仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだ。

多分、兵庫県武田尾で採ったものかな?
まあ、オオトモエの産地なんて知りたい人などいないだろうから、何だっていいか。

何処にでもいるが個体数はそんなに多くなく、敏感で逃げ足が早い。だから採りたい人には意外と難易度は高い種かもしれない。おまけに驚くとブッシュに潜り込んだりするから、殆んどの個体が翅のどこかを損傷していて、完品を得るのはかなり難しい。

 
(註4)月夜の晩ばかりではないよ
月夜は明るいので、まだしも警戒のしようもあるが、毎日が月夜ではないから、せいぜい身の回りには気をつけなさんな。」という意味。脅し文句の一つで、ヤのつく自由業の方々がお使いになられる常套句でもある。

 
(註5)アサヒナオオエダシャク
調べたら、やはりアサヒナオオエダシャクの♀だった。

笑けるほどデカくてデブい。

あまりにもデブだったので期待していなかったが、展翅してみるとデカいゆえかデブさがあまり気にならない。翅形も中々カッコ良くてバランスも悪かない。
で、測ってみたら開張92mmもあった。『日本産蛾類標準図鑑』では最大が88mmになっていたから、レコードになりそうなくらいにデカいかも。

比較の為に♂の画像も貼っておこう。

形が♂と♀とでは、かなり違う。

♂もそれなりに大きいが、♀は比じゃないくらいに馬鹿デカい。
ちなみに、アサヒナオオエダシャクの♀は♂と違って灯火には誘引されないそうだ。だから、そこそこの珍品とされるようだ。もしかしたらアマミキシタバよりも余程価値はあるかもしれない。
確かに見たところでは、ライトトラップに誘引されたような感じではなかった。ただ単に移動するために林道を飛んでいたのが偶々採れたというのが正しいかと思われる。或いは森の王者狼男にすり寄ってきたのかもしれない。ワシ、メスにはモテるからさ(笑)。

尚、アサヒナオオエダシャクについては第8話で解説しているので、詳しく知りたい方はソチラも合わせて読まれたし。

 
(註6)全然、別物の汚い蛾だ
Facebookに「これ、何〜❓」とあげたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。どうやらウスアオシャクという名前の蛾らしい。まさかシャクガの仲間だとはね。しかもアオシャクの系統だ。思いもよらなかったから軽く驚いた。

【ウスアオシャク】

展翅してみたら、形が良くて意外と渋カッケー。
触角の先がグッと細まるのも良い。
苔みたいな渋い緑色だけど、一応は緑色だし、アオシャクの仲間だと云うのも何とか理解できる。

(学名) Dindica virescens (Butler, 1878)

(分類)
シャクガ科(Geometridae)
アオシャク亜科(Geometrinae)
Dindica属

(開張)
♂35〜42mm ♀38〜45mm
♂の触角は櫛歯状、♀は糸状。

翅形も違うね。♀の翅には丸みがあり、♂のようなシャープさはない。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

となれば、ワシが採ったのは♂だね。

(分布)
北海道南部,奥尻島,本州,四国,九州,対馬,トカラ列島(悪石島・中之島),奄美大島,徳之島。
国外では朝鮮半島に産する。Dindica属は東南アジアの亜熱帯から熱帯域に約20種が分布するが、本種のみが温帯域にまで分布している。
垂直分布は幅広く、低山地から亜高山帯まで見られる。

(成虫の出現期)
関東周辺では4月下旬から9月下旬の間に2〜3回発生する。
春に出現するものは翅表が淡く、夏に現れるものは濃色となる傾向がある。
北海道や奥尻島のものは極めて淡色で、外横線が明瞭となる。だが、同様な個体は本州の山地帯でも得られている。また、九州南部や奄美・徳之島産は暗色となる傾向があるが、関東でも暗色の個体はそれなりに得られているようだ。

(幼虫の食餌植物)
クスノキ科のダンコウバイ、クロモジ、ヤマコウバシ、アブラチャンが記録されている。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蛾類標準図鑑』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『OFFICE WALKER OFFICIAL SITE』
◆『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』
◆『芋活.COM』
◆『www.jpmoth.org』
◆『ゲストハウス涼風』ホームページ