銀星天蛾と楮を巡るあれこれ

 
連載中の『奄美迷走物語』の最終回の予定だったが、ギンボシスズメの解説をするのを忘れていた。と云うワケで、迷走物語の番外編として書きます。

 
2021年 3月31日
上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも今度は新鮮な個体だ。下から見ても羽に破れがない完品だ。おそらく時間的にみて、コレが最後のチャンスだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

しかし、結果は見事な惨敗だった。

宿に戻ったら、午後5時半を過ぎていた。
夜間採集をするなら飯なんぞ食っているヒマなどない。今夜は朝戸峠に行くのである。今まで避けてきたのは、奄美でも超一級の心霊スポットと名高い場所だからだ。それだけに何としてでも日没前に着いておきたい。休む間もなく用意して出る。

朝戸トンネルの手前の道を右に上がってゆく。
上から朝戸トンネルの入口が見える。あのトンネルも異様に長くて充分ホラーだったが、今から行く旧朝戸トンネルはそんなの目じゃない弩級のヤバさだろう。そう思ったら背中がゾクゾクしてきた。
バイクは不安なまでにグングンと高度を上げてゆく。
眼下には亜熱帯特有のモコモコした森が見える。街のすぐそばなのに、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美有数の原生林として知られる金作原の裏側にあたるのだ。初めて来るが、環境が良いのも納得だ。

屋台を構える場所を吟味しながら走る。
午後6時半前。旧朝戸トンネルまでやってきた。

異様だ。まだ明るいのにトンネルの入口周辺だけがメチャンコ暗い。チビりそうだ。
行き交う車両は、ここまで皆無だったな…。こんなとこ誰も訪れないのだろう。とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも、ただならぬものを感じる。

昨日、一応ネットで旧朝戸トンネルの心霊現象についてチェックした事を否応なしに思い出す。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

原文そのままである。句読点が少なくて無茶苦茶だ。なだけに、かえってテンションが掛かったような文章だ。書いた本人も狂っているのでは❓と不安にさせるのだ。
流石にそんな恐ろしきトンネルの横でライト・トラップをやる勇気はない。
なのにトンネルの向こうの環境が見たくなる。もしかして何かに誘(いざな)われているのか…❓魔がさすと云う言葉があるが、それがこうゆう時なのかもしれない。ワシはドがつく程の超ビビリな男なのである。そんな怖がりのオラが、こんなトンネルを潜(くぐ)るのか❓しかも一人で❓
でも、ナゼかトンネルを潜る事を選択してしまう。

けど入ってすぐに後悔した。急に温度が下がり、あまりの冷んやりさにビクッとなった。そして、中は信じられないくらいに真っ暗だ。照明が全くないのだ。しかもピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。
でも引き返す気はない。性格的に出来ないのだ。それにトンネルは短い。たぶん50mもないだろう。日が暮れていたら怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。環境を確認しに行くなら今しかない。

抜けたら辺りは鬱蒼としており、見通しが悪くて湿度も高い。典型的にヤバい場所だ。怖くてライトトラップなんぞやれるワケがない。一秒たりともこんな所には居たくない。そう、本能が言っている。
ヾ(・д・ヾ))))))))=3=3=3 ぴゅう━━━━
デンして帰って来た。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、闇夜であのトンネルの前を通るのだけは避けたいと思ったのだ。

日没直後に道路沿いに屋台を構える。少しでも光が届くようにと、ガードレールにベタ付きだ。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た。
だが、白布の手前で反転してどっかへ消えた。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。狙いはアマミキシタバなのだ。たとえキミが採れなくても悔しくはない。

【アマミキシタバ】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

したら、5分後に又やって来た。今度はシッカリと姿を見た。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾だ。迷彩柄の戦闘機みたいなのだ。気分が⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、胴体も、もっと太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかに小さいし、翅の柄も図鑑等で見て記憶しているのとは違う。
とにかく見たことのない蛾である事は確かだ。もしかして、大珍品の迷蛾だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄まで知らしめられているのだ。

慎重に毒瓶を被せる。
しはらく放置して、気絶したところでアンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。

何者かはワカランが、(☆▽☆)渋カッケーぞー。
でも、こんなスズメガって、日本に居たっけ❓
オラ、もってる人だから大金星の大発見だったりしてね。

大阪に帰ってから調べてみると、どうやらギンボシスズメという奴みたいだ。(´ε` )なぁ〜んだである。大発見でも大金星でもない。

【ギンボシスズメ】

緑色を帯びた前翅は美しく、幾何学的模様でカッコイイ。前翅の中に色んな図形と線が入っている。
その幾何学模様に、抽象絵画の創始者とされるカンディンスキーの絵のイメージが重なる。

(カンディンスキー『On WhiteⅡ』)

(出展『note.com』)

カンディンスキーみたく原色多めじゃないけど、デザインは近いものがある。
(・o・)あっ❗、もっと近いのもあったぞ。

(カンディンスキー『インプロヴィゼーショ7』)

(出展『JUGEM』)

兎に角、このギンボシちゃんには一発でファンになったよ。
でも時間が経つと、美しい緑色は失われ、褐色に変色してしまうそうだ。残念至極である。
蛾には、蝶にはあまり見られない美しい緑色を有した種類が多い。だが、大概のモノが同じように色が保たれないみたいだ。惜しいよね。もしも緑色が保たれたなら、蛾の人気はもっと高かったろうに。実に惜しい。薬品とか使って、この美しい緑色を残す方法とか無いのかね❓マニアな人が何とかしてくれんかのう。それを切に願うよ。

これは多分♂だから、♀ってどんなだろ❓

(-_-;)ゲッ、でも頼みの綱の『日本産蛾類標準図鑑』には♂1点のみしか図示されていなかった。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

しかも汚い。死ぬと色褪せるというのは、こうゆう事なのね。
それにしても1点しか図示されてないという事は、やはりレアなのかな❓でも同亜科内だと、ハガタスズメ、ヒメウチスズメ、アジアホソバスズメ、モンホソバスズメ、フトオビホソバスズメ、タイワンクチバスズメも1点しか図示されていない。どれもソコソコ珍しいような気もするが、スズメガに詳しいワケではないから正直、レア度はワカラン。それに別な亜科であるホウジャク亜科では、普通種のブドウスズメとかハネナガブドウスズメも1点しか図示されてない。と云うことは、単にスペースの問題かもしれない。図鑑というものは効率良く並べて、スペースを上手く埋めなければならないからだ。

仕方なく他を探したら、Wikipediaにあった。


(出展『Wikipedia』)

基本的に色彩斑紋は雌雄変わらないようだが、♀の方が大型で、腹部が太くて前翅が全体的に丸み帯びる。腹先の形も違うような気がする。
比較のために、同じ並びにあった♂の画像を貼っつけておく。

裏面画像もあった。♀の方を載せておく。


(出展『Wikipedia』)

基本は表のデザインと同じだが、後翅は表側よりも複雑な斑紋となり、前翅は逆に表側の中心がシンプルになっている。あべこべで、ちょっと面白い。

和名の由来は、前翅中室に銀白斑が有ることからだろう。
漢字だと『銀星天蛾』と書くらしい。何か高貴で格調高い感じがするね。
嗚呼、でも漫画『北斗の拳』に、
「👊=3👊=3👊=3 アタタタタターッ❗、銀星天蛾昇流拳❗❗」
とか必殺拳を使う奴がいそうでもある。
でも漢字を見てから実物を見させられたらガッカリするかもしれない。漢字から受けるイメージはミッドナイトブルーみたいな濃紺の地色に、ピカピカの銀紋が散りばめられてるって感じなのだ。

余談だが、中国や台湾では『構月天蛾』と呼ばれているようだ。意味はワカランけどー。

 
【分類】
スズメガ科(Sphingidae)
ウチスズメ亜科(Smerinthinae)
Parum属

日本にはスズメガ科は76種おり、そのうちウチスズメ亜科は19種を占め、ギンボシスズメの他に以下の種が含まれる。

・ウチスズメ
・コウチスズメ
・ヒメウチスズメ
・ウンモンスズメ
・エゾスズメ
・ノコギリスズメ
・ホソバスズメ
・フトオビホソバスズメ
・モンホソバスズメ
・アジアホソバスズメ
・トビイロスズメ
・ハガタスズメ
・モモスズメ
・クチバスズメ
・ヒメクチバスズメ
・タイワンヒメクチバスズメ
・オオシモフリスズメ
・ヒサゴスズメ

わりかしカッコいいスズメガが多いグループだ。

Wikipediaに拠れば、このうち”Parum属”とされるのはギンボシスズメのみである。というか、日本だけでなく、世界を見回してもギンボシスズメだけみたい。つまり、1属1種だけで構成される属ということになるのか。だとしたら、何か孤高って感じでカッケーじゃん。
けど『日本産蛾類標準図鑑』には「Parum属は本種をタイプ種として創設された属で、アジア東部に3種が既知である‥」と書いてあった。
(-_-;)うーむ、残念だ。でもここはウィキペディアなんかよりも岸田先生を信用しよう。

 
【学名】Parum colligata (Walker, 1856)
イギリス人昆虫学者フランシス・ウォーカーによって記載された。タイプ標本の産地は中国北部。

属名の”Parum”はラテン語で「親和力」「親和性」を意味するものと思われる。
余談だが、この「Parum」はパラフィン(Paraffin)の語源になってるそうな。レピ屋ならパラフィンといえば、三角紙の素材であるパラフィン紙だよね。同じものでいいのかな❓

小種名の”colligata”は、ラテン語の動詞”colligo”に由来するものと思われる。
colligoは大きく分けて多分2つの方向性の意味がある。

①「結びつける・繋ぐ・接続」「まとめる・結合的」「引き止める」
②「集める」「得る・獲得する」「気を取り直す」「数える」「熟考する・考察する」

並べてみても、種ギンボシスズメのイメージとは今ひとつ繋がらない。何故この小種名になったのか、その意味が全然ワカランぞ。

語尾が「〜ta」に変化するのに対しても脳味噌は沈黙だ。何か法則が有りそうだけど、意味するところが探しても見つからん。何となく「〜的な」って感じがするけど、だとしても明確な意味が掴めない。前翅のデザインが図形と線とで構成されているから「結合、結びつける、繋ぐ」と云うイメージをウォーカーに喚起させたのかもしれない。全然、スッキリしないけど。

参考までにシノニム(同物異名)も並べておく。

・Daphnusa colligata Walker, 1856
・Metagastes bieti Oberthür, 1886
・Parum colligata saturata Mell, 1922
・Parum colligata tristis Bryk, 1944

下2種は亜種記載されたが、無効になったものかな❓

 
【開張(mm)】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では65〜80mmとあったが、『日本産蛾類標準図鑑』では70〜90mmとなっていた。また『Wikipedia』では69〜90mmとあった。

 
【分布】
北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島。
しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。もっと言うと、ネットで記事が出てくるのは九州・対馬以西のみだ。
思ってた以上に、そこそこ珍しいのかもなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も九州・南西諸島を含めても相対的には少ない方だからね。まあ所詮は虫、しかも蛾だから、情報量はそんなもんかもしんないけど…。

一応、レッドデータブックのリストもチェックしておこう。

大阪府:絶滅危惧種Ⅰ類
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
兵庫県:絶滅危惧種Ⅱ類
宮城県:準絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:情報不足
福島県:情報不足
島根県:情報不足

微妙なところだ。そこそこ珍しいような、そうでもなさそうな…そんな感じである。まあ、最近は蛾に興味を持つ人も増えているみたいだから、そのうち細かい分布も解明されていくだろう。
猶、国外では台湾,朝鮮半島,中国東北部〜南部,マレー半島北部,インドシナ半島,フィリピン(ルソン島)に分布する。


(出展『www.jpmoth.org』)

垂直分布は『DearLep 圖錄檢索』によると、台湾では低中海抜森林となっていた。おそらく他地域でも同じようなものだろう。食樹の植生を考えれば、あまり高所には棲息しないと思われる。

 
【成虫の出現期】 6〜9月
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そう書いてあった。
でも自分が採ったのは3月31日だから、全然時期が合致しないぞ。このサイト、重宝しているが鵜呑みにするといけんね。アップデートされてないので、情報が古いのだ。
(・o・)あれれ❗❓『日本産蛾類標準図鑑』でも年2化 6〜9月となってるぞ。どゆ事(?_?)❓
けど、ネットの『服部貴昭の忘備録』というサイトには、4月15日の日付で沖縄県国頭村での画像がアップされていたよな。しかも、幼虫の食樹であるカジノキが多い国頭村では個体数が多いとも書いてあったぞ。とゆうことは間違えて早めに羽化しちゃいましたというような個体ではなく、通常の発生と考えられる。ワケわかんねぇーぞ。
けど、先を読み進むと直ぐに問題は一件落着した。標準図鑑には「南西諸島では多化性の可能性がある。」という追加コメントが載っていたのである。

中国北部では年に1〜2化、5月から7月に成虫が見られる。韓国では5月中旬から9月下旬にかけて記録されている。さらに南の亜熱帯、熱帯地域では最大で年4化するのではと推測されている。
でも、台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』では5〜10月となっていた。台湾は亜熱帯で南西諸島と気候が変わらんけど、コレって合ってのかな❓

 
【成虫の生態】
『服部貴昭の忘備録』には、早い時間帯から灯火に飛来すると書いてあった。確かにワシの時も7時台の終わりに飛んで来た。

スズメガの仲間だから、どうせ花の蜜とか樹液でも吸っとるんじゃろう。そう思ったが、何とウチスズメ亜科の蛾は種により度合いの差はあるものの、口吻が退化傾向にあるらしい。とゆうことは、種によっては全くエサを摂らないということだ。尚、ギンボシスズメの口吻が他と比較してどれくらい退化しているのかを調べたら、短いとは書いてあった。けど、餌を摂る摂らないについての言及はなかった。

面白いのは止まる姿勢である。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

海外のサイトも見たが、こうゆう止まり方をしている画像が結構多い。威嚇なのかなあ❓
指に止まらせると、絶対この止まり方になるようだ。
今度会ったら、自分も試してやろう。

 
【幼虫の食餌植物】
カジノキ、コウゾ (クワ科 コウゾ属)

コウゾといえば、紙の材料となる「コウゾ、ミツマタ」が真っ先に頭に浮かぶけど、そのコウゾなのかな❓

取り敢えず、ウィキペディアでググったら、やはりそのコウゾであった。
以下、要約、文章組み換えーの、ちょいちょいコメント挟みぃーので進めてゆく。

(コウゾ Broussonetia kazinoki )

(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

あれれ❓、学名の小種名が、もう1つの食樹であるカジノキの綴りになっておるではないか。
でも確認したら、間違いなくコレが学名のようだ。何だか錯綜してんなあ。なぞなぞかよ❓


(出展『Wikipedia』)

果実は、何か桑の実みたいだね。アレ、美味いんだよなあ。
でも考えてみれば当たり前かあ。そもそもがコウゾはクワ科の植物だもんね。

漢字だと「楮」と書く。
タイトルの漢字を読めなかった人が大半だと思うけど、「楮」はコウゾなのだ。
してからに、何とコウゾはヒメコウゾとカジノキの雑種らしい。
(☉。☉)えっ❗、雑種なの❓だったらカジノキの方が偉いじゃんか❗
でも、事はもっと複雑で、そう簡単な事でもないようだ。

雑種が作られた起源はかなり古く、いつからかも詳しくは分かっていないようなのだ。
紙の起源は中国で、紀元前2世紀頃。紙の製法が確立されて日本に伝わったのが610年とされる。つまり、大化の改新よりも前だ。その後、日本での製造が確認されているのが702年。ということはコウゾを使って本格的に紙が作られ始めたのは、おそらくそれ以降の奈良時代から平安時代だろう。ようは古すぎて、コウゾを栽培され始めた正確な記録が曖昧なのだろう。
ワザワザ雑種を作った理由は、低木のヒメコウゾをやや大型になる近縁のカジノキと掛け合わせることで、より大きく成長させ、紙を大量生産しようという試みだったのではないかと考えられる。そして雑種であるにも拘らず、コチラの方が価値が高くなり、あたかも母種であるかのごとく単にコウゾと呼ばれるようになったものと思われる。で、いつしか小さい方が元々コウゾなのにヒメコウゾと呼ばれるようになったのではあるまいか。それゆえか、ヒメコウゾの別名をコウゾとする場合もあるようだ。たぶん地方によっては本来の呼び名が残った所もあったのだろう。
ヒメコウゾは雌雄同株異花、カジノキは雌雄異株。よってコウゾはカジノキの性質である雌雄異株を継承していたり、ヒメコウゾのように雌雄同株であったりするという。そうなると、雌雄同株のコウゾとヒメコウゾの判別は難しく、よりカジノキっぽいのか、ヒメコウゾっぽいのか全体的に特徴を捉えて分類するよりない。だから情報が錯綜している感が否めないのだ。
でも所詮は雑種だ。神経質に判別して名前を付けようとする行為自体がナンセンスなのかもしれない。

(雌花)

(出展『Wikipedia』)

(雄花)

(出展『Wikipedia』)

コレが雌雄異株タイプのコウゾ。
ちなみにヒメコウゾの特徴である雌雄同株異花とは、1つの株に雄花と雌花とが両方咲くものをいう。


(出展『植物写真鑑』)

コレがその雌雄同株タイプのコウゾである。

高さ2〜5mの落葉低木で、古来から和紙の材料として知られており、今日でも和紙の主要な原料になっている。
幹の皮を剥いで、それを色んな工程を経て紙にするそうだ。

樹皮は褐色。葉は互生する。6月頃にキイチゴ状の実をつける。赤く熟したものは甘味があって食べられる。ただし、花糸部分が残っていて、ネバ付いて舌触りが悪い。なのでクワの実のような商品価値はない。

扠て、次はカジノキだ。
 
(カジノキ Broussonetia papyrifera)

(出展『Wikipedia』)

何かスゴい見てくれだな。実は、かなり変わってる。

(葉)

(出展『Wikipedia』)

(雌花)

(出展『Wikipedia』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

(雄花)

(出展『松江の花図鑑』)

このように雌雄異株である。

(幹)

(出展『Wikipedia』)

漢字では梶の木と書き、単にカジ(梶)、コウ(構)とも呼ばれる。
梶って、梶原さんとか名字でよく見掛けるけど、そんな木は見たことないぞと思ってた。それが、まさかのカジノキの事だったんだね。

落葉高木とされるが樹高はあまり高くならず、10mほど。葉は大きくて、浅く三裂するか、楕円形。毛が一面に生える。左右どちらかしか裂けない葉も存在し、同じ株でも葉の変異は多い。大木になればなるほど、葉は楕円形になるみたいだけどね。

神道では、古代から神に捧げる神聖な木として尊ばれている。その為、神社の境内などに多く植えられた。主として神事に用いられ、葉が供え物の敷物として使われた。
また、その葉を象った紋様が諏訪神社などの神紋や武家の家紋(梶紋)としても描かれている。


(出展『Wikipedia』)

江戸時代には諏訪氏をはじめ、松浦氏、安部氏など四家の大名と四十余家の幕臣が用いている。また、苗字に「梶」の字のある家が用いる場合もある。

樹皮はコウゾと同様に紙の原料となる。中国の伝統紙である画仙紙(宣紙)は主にカジノキを用いる。又、昔は七夕飾りの短冊の代わりとしても使われたそうだ。
葉は豚や牛、羊などの飼料(飼い葉)になる。また中国では、煙に強いことから工場や鉱山の緑化にも用いられている。

ここまで書いて気づく。
(・o・;)あれれ❓、ウィキペディアには、カジノキもコウゾも分布が書かれてないぞ。コウゾはカジノキとヒメコウゾとの雑種だから、それも理解できるけど、カジノキまで記述がないのはおかしいよね。

『庭木図鑑 植木ペディア』というサイトで確認したら、ありました。本州中南部から九州にかけて自生するらしい。
おいおい、奄美大島とか沖縄本島が含まれていないぞ。コレって、どゆ事〜(´ε` )❓
でも「同類のコウゾ、ヒメコウゾと共に樹皮が和紙や縄、布等の材料になるため各地で栽培され、後に野生化した。」とも書いてあった。けど、奄美や沖縄で紙が作られていたなんて聞いたことがないぞ。

別なサイトでも確認しておこう。
『植物図鑑 エバーグリーン』というサイトには、こう書いてあった。
「中国中南部~マレーシア、太平洋諸島などで広く栽培され、野生化し、正確な原産地は不詳です。日本以外にもアジア全般に分布する。」
ところで、奄美や沖縄にカジノキやコウゾって自生してるのかな❓
いや、待てよ。その前に元々自然状態で自生するヒメコウゾはどうなんだ❓図鑑では食樹には挙げられてないけど、幼虫は間違いなくヒメコウゾも利用している筈だ。ならば、ヒメコウゾの分布もチェックしといた方がいいだろう。

(ヒメコウゾ Broussonetia monoica)

(出展『mirusiru.jp』)

花は雌雄同株だ。


(出展『北信州の道草図鑑』)

ヒメコウゾの分布は、本州(岩手県以南)、四国、九州、奄美大島、朝鮮、中国中南部とあった。
(◠‿◕)やりぃ❗、読み通りだ。奄美には生えてる。
因みに奄美にはコウゾは見られず、カジノキは限られた場所にしか生育していないようだ。となると、奄美に生息するギンボシスズメはヒメコウゾを食樹としている可能性が極めて高い。
ついでに沖縄県での分布についても調べてみた。
結果は、ヒメコウゾは分布しないようだ。でもコウゾはあるみたい。カジノキは成虫の出現期でも触れたように国頭村に自生していて、ギンボシスズメの発生地ともなっている。沖縄ではカジノキのことを古くからガビキと呼んでいるそうだから、今でも各地に見られるのだろう。とゆうことは、ギンボシスズメは沖縄本島では主にカジノキを食樹としていると思われる。

でも、ここで大きく躓く。
『Wikipedia』でのヒメコウゾの学名を見ると、何とコウゾと同じ「Broussonetia kazinoki」という学名になっているではないか❗
気になるから他のサイトを片っ端に見たら、学名がそうなってるものが大半だった。おいおいである。
まあ、コウゾは雑種だし、何かと問題ありなのかもしれないなあ…。雑種の場合は学名はどうなるのだ❓そもそも雑種に学名とか普通に付けていいものなのか❓だったら園芸種のバラなんて無数の雑種があるじゃないか。それらにも学名が付いているのか❓その辺のルールはどうなってるのかね❓もしかして学名に雑種を表す特別な表記法とかあるのかな❓

捜しまくって、漸く『広島の植物ノート』と云うサイトで、その謎が解けた。
江戸を訪れたシーボルト(1830)が日本のコウゾやカジノキに学名を付けて発表した際、彼が聞いた日本名に混乱があったようで両者を混同してしまい、日本名のカジノキの名がコウゾの学名に付けられてしまったようなのだ。
その後、Blume(1852)が、Broussonetia sieboldiiというシーボルトの名を冠した名をコウゾの新たな学名として発表した。しかし、命名規約上は先に発表された名が優先されるため、これは無効となり、錯綜した学名がそのままとなった。
後々、当時実際にコウゾと呼ばれていた植物は純粋な野生種ではなく、カジノキとの雑種である事が判明した。拠って現在では野生種にはヒメコウゾの和名を与えて、栽培種と区別している。
そして、シーボルトが記載した B.kazinokiは、ヒメコウゾにあたるものと考えられていたが、Ohba & Akiyama (2014)によれば、これは雑種のコウゾであることが分かった。それにより雑種コウゾが、B.kazinokiとなり、野生種のヒメコウゾの学名は、Broussonetia monoica Hance(1882)となったそうだ。
『Wikipedia』も十全ではない。100%信用は出来ないという事だ。

台湾のサイトには、以下のものが食樹として挙げられていた。

・小構樹 Broussonetia kazinoki
・Broussonetia monoica
・構樹  Broussonetia papyrifera

一番上が、ようするにコウゾだ。二番目がヒメコウゾ、そして三番目カジノキである。やっぱヒメコウゾも食べるようだね。

それと、これでギンボシスズメの台湾名が、なぜに「構月天蛾」なのかも分かったね。ようするに食樹を指していたワケだ。補足すると、月天蛾は属名である。

 
【幼生期】
(卵)

(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

(幼虫)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

いわゆるイモ虫型である。
一番上が弱齢幼虫、二番目が中齢幼虫、三番目が終齢幼虫かと思われる。頭はそれぞれ右側、下側、左側です。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

これを見ると、齢数は全部で4齢(終齢)かなあ❓
でも、5齢の可能性もありそうだ。

(蛹)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

蛹は所謂スズメガ型で、土中で蛹化する。

                  おしまい

 
追伸
えー、前半の採集シーンは前回の『奄美迷走物語』18話の縮小版です。しかし、お気づきの方もいるかもしれないが、同じ内容だが文章は結構書き直している。ヒマな人は見比べてくれれば、言葉のチョイスが違うことがワカルだろう。

それから、ギンボシスズメの解説がこのような別稿になったのは、ひとえにこの長くなった食樹の部分のせいです。こりゃ迷宮になるなとすぐに思ったので、いったん切り離して他の部分を書いた。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』

インターネット
◆『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』
◆『服部貴昭の忘備録』
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『Wikipedia』
◆『みんなで作る日本産蛾類標準図鑑』
◆『www.jpmoth.org』
◆『広島の植物ノート』
◆『松江の花図鑑』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『植物写真鑑』

 

奄美迷走物語 其の18

 第18話『呪われた夜』

 
2021年 3月31日(夜編)

上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも下から見ると羽には全く損傷がない。今度こそ完品だ。おそらく時間的にコレが最後のチャンスとなるだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

【フタオチョウ♀】

だが、逆光で見えにくい。しかも止まる素振りはあるものの、止まりそうで止まってくれない。そのせいか飛ぶ軌道が不安定だ。読み切れない。どうする❓判断に迷う。最後のひと振りだと思っているから中々踏ん切りがつかない。ヘタに振れば、どっかへ飛び去って二度とチャンスはないのだ。でも時間のリミットは近づいている。夕暮れ近くの今が、そろそろ飛び終わる時間なのだ。
焦る中、網の切っ先がキッと動いた。でも、急に軌道を変えやがった。振りかけてグッと手首と腕で急制動させる。経験で、このまま振っても空振りすると感じたからだ。
でもこの10数秒後には突然プイと舞い上がり、山に向かって勇壮に飛び去って行った。それを茫然と見送る。
ネットを振る事なく、勝負は終わった。慚愧に堪えない。

その後、30分ほど粘ったが、待ち人来たらず。ついぞチャンスは巡っては来なかった。
(´-﹏-`;)惨敗だ…。
暮れゆくトパーズ色の光の中、立ちすくむ。
こんな事ってあるか❓…。蝶採りをやってきて最も半端な終わり方だったかもしれない。状況的に致し方なしと何とか言い訳はできるかもしれないが、自分自身では無理があると認識している。逃した時には人に言い訳しがちだけれど、極力、他人から見て無理があるようなダサい言い訳だけはしないようにしている。口には出さなくとも、意外と人はそれが事実なのか苦し紛れの嘘なのかを見抜いているものだ。
今日の敗因は、ずっと今回の旅で自分に言い聞かせてきた迷わずに振り抜くという当たり前の事が出来なかったからだ。迷ってはならないと頭では解っているのに、いざという時には決断できなかった。結局、メンタルをいつものように余裕のヨッチャン無敵モードには持っていけなかったのだ。
考えてみれば、2019年の夏に日本で初めてマホロバキシタバを採ってから何だかオカシクなったと云うか、潮目が変わったような気がする。その後、何となくスランプ気味なのだ。狙った獲物が全く採れてないワケではないのだが、前みたく連戦連勝とまではいかない。今にして思えば、あの時を境に憑き物が落ちたように虫へのモチベーションが下がった気がする。欲しいと強く思わない者には、欲しい物は手に入らない。なのに希求する心は以前ほどには強くはない。正直なところ、滅多な事では心が跳ねないのだ。
とはいえ、何と言おうがコレとて言いワケだ。ここぞと云うところで、ここぞと云う力を発揮できない人間はニ流だ。そうゆうことだ。オリンピックしかり、最高クラスのカテゴリーのプロスポーツの世界しかり、結局は己のメンタルの強さと迅速な判断が勝敗を分けるのだ。
歳、喰ったかなあ…。老いると云う事は、人を肉体面だけでなく、精神面をも衰退させるのかもしれない。
認めよう、惨敗だ。嘗て最終戦で言いワケ出来ずに惨敗に終わった事などあったっけ…❓あのキリシマミドリシジミの時の5連敗に近い屈辱だ。でも、アレはまだ言いワケできた。どの場所でも一緒に行った人は誰も採れていないのだ。
所詮はコレもまた言いワケにすぎないんだけどもね。とにかく己の虫を採る能力は確実に落ちてきてる。その証左のような終わり方だった。

宿に戻ったら、5時半を過ぎていた。
心は重い。灯火採集に行く気も萎えている。ここは飯でも食ってリセットする事が必要だが、もし予定していた場所に行くならば、飯なんぞ食っているヒマはない。行くなら、今日だけは何があっても日没前にポイントに着いておきたいのだ。
なぜなら、遂に今までは恐ろしくて避けてきた朝戸峠へ行くのである。そしてそこには、奄美でも超一級の心霊スポットとして名高い「旧朝戸トンネル」がある。場合によっては其処を通り抜けねばならないのだ。日があるうちならまだしも、日没後なら絶対に無理だ。きっと背中に天井から何か得体の知れないモノがパサリと落ちてきたりするのだ。そして密かに背中に宿り、人面瘡となるのだ。そんなの想像するだに怖ろしい。
自分で言うのも何だが、アチキは超怖がり男なんである。怖い系のテレビ番組は絶対に見ないし、たまたま映ろうものならマッハでチャンネルを変える。映画も、そうゆう系はできるだけ避ける。観に行くとしても、若い女の子、しかも美人限定だ。なぜなら、怖いから女の子の方から寄ってくるし、じゃない場合は素直に「僕、超怖がり屋さんでしゅー」などと正直に吐露すればよいのだ。
意外と女の子の方が♘ホワイトナイト、白い騎士だから『アタシがついてるからね。』とか言ってくれるのだ。そんな状況下なだけに『😍守ってね。』とでも言って手を握ることなんて事も容易いのだ。流石にオジサンになった今ではキモ過ぎて使えないけど…(笑)。
また👻怪談話も絶対に耳には入れない。ワシにはタブーだ。過去には、ワイが怖がるのを面白がって無理やり耳元で話そうとしてきた輩をタコ殴りにしてやった事だってある。恐ろしさが怒りに転化したのだ。そんなだから、心霊スポットに行く事も殆んどなかった。ワザワザ自分からそんな所に行く気がしれん、バッカじゃないのーと、ずーっと思ってた。
それが何の因果か、今や自分から夜の山に入り、遂には自ら心霊スポットへ行こうとしているのだ。それも、たった一人で。
げに恐ろしきは、憧れの虫を採りたいという強い欲望だ。採りたいという欲望が恐怖をも凌駕してしまっているのである。
それほどまでに、アマミキシタバ(註1)を採りたいのだ。

【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

にも拘らず、奄美大島に来て6回も灯火採集をしているのに、いまだ1頭たりとも見ていないのだ。いくらライトトラップが何ちゃっての簡易なもので戦力が低いとはいえ、カスリもしてないのだ。だから今日こそはと思ってる。というか願ってる。チャンスはもう今日しかないんである。明日には大阪に帰らねばならんのだ。

超特急で用意して出る。
無事、日没前までに到着できることを祈ろう。

名瀬市街を抜け、朝戸トンネルの手前を右に入り、坂道を上がってゆく。
上から、あの長い朝戸トンネルの入口が見える。このトンネルも充分ホラーだったが、今から行くトンネルはそれを遥かに超える恐ろしき隧道の筈だ。そう思ったら、背中がビビビッときた。武者震いってヤツだ。
バイクはグングン高度を上げてゆく。
眼下には、こんもりとした森が見える。街からは近いが、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美でも有数の原生林として知られる金作原のちょうど裏側にあたる。環境が良いのも納得だ。あとは灯火採集の屋台を何処に据えるかだ。場所を吟味しながら走る。

候補地を2箇所ほど見つけ、更に上へと登る。
それにしても、さっきから行き交う車やバイクが1台もない。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで響く。それがホラー映画の何かが起こる前の雰囲気みたいで、ゾワゾワくる。

午後6時半前。
旧朝戸トンネルまでやってきた。

暗渠。地獄の口がパックリとあいている。
まだ明るいのに相当に暗くて、佇まいは異様だ。そして行き交う車は皆無だから、とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも辺りに何かただならぬものが漂っているような気がする。

暗すぎてトンネルの入口がよく見えない。ネットで見た画像よか凄くね❓
参考までにネットの画像を貼付しておきます。


(出展『わきゃしま大好き』)

この画像よりもだいぶ木が大きくなってて、入口を隠すように繁ってるって事だね。下草もボーボーだ。益々、😱怖なっとるやないけ。

因みに、もし何か起こってもいけないと思って、昨日にどのような心霊現象が起こっているのかチェックしておいた。原文のまま貼っつけておく。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

何だ、この違和感バリバリの変な文章は。書いてる奴まで狂っとるやないけ。トンネルの呪いかね❓
流石に、このようなトンネルのすぐ近くで灯火採集をやる勇気はない。採集中にトンネルの奥からオドロオドロしい呻き声が聞こえてこないとも限らないし、闇の中から白装束のお歯黒の女がボワ〜っと浮いて出てきたりしたら阿鼻叫喚、ムンクちゃんだ。

【上村松園『焔』】

(出展『東京国立博物館』この絵の実物の存在感は凄いです)

でも、もしかしたらトンネルの向こうに灯火採集するのには絶好のポイントがあるかもしれない。そう思うと、どうしてもトンネルの先の環境が見たくなってきた。日が暮れていたら、怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。行くなら今しかない。中々の緊張感だが、勇気を振り絞って潜(くぐ)る事にする。

けど、入ってすぐ後悔した。中は驚くほど冷んやりとしており、信じられないくらいに真っ暗なのである。照明が全くないのだ。
下に何が横たわっているかワカランので、ゆっくりとバイクを走らせる。死体なんかあったら、動物や鳥でもコトだ。チビるよ。
ピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。マジで気持ち悪い。
でも、ここまで来て引き返すのは癪だ。入った勇気が無駄になる。それにトンネルは短い。たぶん50mくらいだろう。いや、もっと短いかもしれない。ここは我慢だ。

トンネルの向こうに出ると、辺りは驚くほど鬱蒼としており、暗くてジメジメだった。その先には荒れた林道が続いている。不気味さ、マックスである。こんなとこ、怖すぎて夜には居れるワケがない。2秒で撤退を決意し、ゾクゾクしながら、もう1回トンネルを潜って戻る。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、暗い中であのトンネルの前を通るのだけは何があっても避けたいと思ったのだ。

午後6時40分、日没時刻になった。
慌てて道路沿いの開けた場所に、ガードレールにベタ付きでライトを設置する。
正面には原始の森が上から下まで広がっている。ここなら、アマミキシタバも絶対にいるだろう。そもそも日本で最初に彼奴(きゃつ)が発見されたのは此処なのだ。
幸いにも空はいつしか雲に覆われている。天気は下り坂だ。流石に今日は月に邪魔されないだろう。何か採れるような気がしてきた。フタオチョウの完品の♀は採れなかったが、♂は採れてるし、アカボシゴマダラは♂♀両方採れているのだ。まだ運は残ってる筈だ。

【フタオチョウ♂】

【アカボシゴマダラ♂】

【アカボシゴマダラ♀】

それにフタオの♀が採れなくとも、アマミキシタバさえ採れればいい。それで帳消しどころか、お釣りがくる。そもそも奄美に来た理由の第一義はアマミキシタバのゲットなのである。そのミッションさえ果たされれば、他の事には目をつむれる。

後ろ側、道路の山側の枝にはバナナトラップを吊り下げた。
辺りに甘い香りが広がる。発酵が進んで、虫を呼び寄せるのには最高の状態だ。アマミキシタバもこれならライトには寄ってこなくとも、こっちには寄ってくるだろう。

闇の侵食が強くなり始めたところで、ライトを点灯する。
さあ、最後の夜会の始まりだ。

真っ暗になったら、すぐに蛾どもがワンサカ飛んで来た。
ライトが一灯だけになってるのにも拘らず、なんか良さげな兆候だ。最終日で一発逆転があるかもしれない。って云うか、そうなるっしょ❗ものすごく採れそうな気がしてきた。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た(註2)。
だが、白布の手前で反転してどっかへ飛んで行っちゃう。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。スズメガなんぞ二の次だから、そうガッカリする程の事ではない。

したら、5分後に又やって来た。今度は姿がちゃんと見えた。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗(註3)
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾の一つだ。迷彩柄の戦闘機、いや重爆撃機みたいでカッケーのだ。テンションが急激に⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、もっと胴体も太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかにキョウチクトウにしては小さいし、翅の柄も図鑑等で見た記憶とは違う。
兎に角、見たことない蛾である事は確かだ。もしかして大珍品の迷蛾(註4)だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄の髄まで知らしめられているのだ。それにコレを逃したら、また流れは確実に悪い方向へ行くだろう。何としてでもそれは阻止せねばならぬ。

慎重に毒瓶を被せる。
暫く放置して気絶したところで、アンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。気分はマッドサイエンティストだ。

何者かはワカランが、カッコいいぞー(☆▽☆)
気分は上々。今日こそ、この調子で辛酸の日々に幕を下ろそうぞ。

8時過ぎ。
気づいたら、白布に苺ミルクみたいなのがいた(註5)。

とても小さくて可愛い。

プリティーちゃんだ。
こういうのを見ると、蝶よりも蛾の方がデザイン性は高いのではないかと思う。バリエーションも豊富だしさ。

8時15分。
もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た(註6)。

柄が何だかウルトラマン怪獣のシーボーズみたいだね。
あの回は『ウルトラマン』の中でも最も心あたたまるストーリーだろう。シーボーズが駄々をこねてイヤイヤするのが可愛いかったよね。

【シーボーズ】

(出展『怪獣ブログ』)


(出展『円谷プロ』)

下の画像は、たぶん拗ねて土とか蹴ってトボトボ歩いてるシーンだよな。
えー、シーボーズとは第35話「怪獣墓場」に登場する亡霊怪獣。「怪獣墓場」から月ロケットにしがみついて地球に落ちてきた迷い子の怪獣だす。戦闘意欲は全くなく、単に宇宙に帰りたがっていただけなのに、パニくって建物とか壊してしまう。やがてそれが解って、科学特捜隊が月ロケットをウルトラマンの姿に変えた「ウルトラマンロケット」で宇宙へ帰す作戦を実行。ウルトラマンの協力もあり、無事に宇宙へと帰っていったのらー。
いい奴だけど、もしも今この姿で現れられたら、メチャメチャ怖いだろうなあ…。いい奴とはいえ、見た目は完全に骸骨だもん。シーボーズだと解ってても、腰抜かすわ。
いかん、いかん。また話が逸れた。シーボーズの事など、どーでもよろし。

その後も何かと飛んで来たが、肝心のアマミキシタバは現れない。バナナトラップの方も閑古鳥だ。まあ、オオトモエしか寄って来ないんだから、コチラにはホントはあまり期待してなかったんだけどもね。
それにしても何でこうも効果がないんだろう❓フタオもアカボシもフル無視だったし、そういやスミナガシも来てない。春にはどれも寄って来ないとは聞いてはいたが、その理由がサッパリわからない。
まあいい。ライト・トラップの方は良い感じなんだから何とかなるだろう。時間はまだまだあるし、アマミキシタバが飛んで来る時間は午後11時以降が多いというから気長に待とう。大体いつでも最後の最後には何とかなって、大団円で終わるのだ。だってオラ、引きが強いもーん<( ̄︶ ̄)>

9時を過ぎると、急に風が出てきた。
おいおい、よろしくない兆候だぞ。ライト・トラップには月が一番よろしくないが、風が強いのもあまりよろしくないのだ。飛来する蛾の数が滅法減るのだ。

9時10分。
突然、突風が吹いた。と思ったら、三脚がグラリと傾いた。慌ててコケるすんでのところでギリで手で抑えた。流石、反射神経の良いオイラだ。危ねえ、危ねえ。危うく大惨事になるところじゃったよ。神様は悪戯好きだよね。意地悪にも程があるよ。でもそんなもんには負けないのだ。

しかし暫くして気づいた。何か寄って来る蛾の数が極端に減ってきてねぇか❓
何気にライトを見る。

ガビ━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━ン❗❗
ライト、消えとるやないけー❗

道理で飛んで来なくなったワケだ。
たぶん、倒れはしなかったが、手で抑えた時に何らかの衝撃を与えてしまったのだろう…。

配線とかイジるも、灯りは点かない…。
( ꒪⌓꒪)…やっちまったな。

唖然とする。
まさかのサドンデス。突然降って湧いたようにゲームセットになった。想像だにしてなかった何という終わり方なのだ…。心を何処に持っていけばいいのかワカラナイ。
でもどんだけ嘆こうが現実を受け容れるしかない。バナナトラップだけで最後まで闘おうかとも思ったが、そこまで暢気になれる強靭なメンタリティーは持ち合わせてはいない。心は完全にバンザイしていた。お手上げだ。
早々と白旗をあげるなんて、らしくない。けど今回の旅で続いてきた酷い体たらくの流れだと、半ば納得の結末だ。
結局、アマミキシタバの姿を一度も見る事なく、奄美大島を去ることになりそうだ。それが信じられない。頭の中のストーリーには全く無かったからだ。でも結果は厳然と出たのだ。どれだけ受け容れ難くとも事実からは目を背けられない。

脳が停止したままの状態で、のろのろと後片付けをし、さらに思考を凍土化してバイクに跨がる。これで、敗残者確定だ。
大きく息を吐き出し、エンジンをかける。認めたくはないけど、長い勝負の11日間が、今ここに完全に終わった。屈辱感と、これから先はもう頑張らなくともいいのだと云う安堵感とが入り混じるが、その感情も捨てた。無になる。

それでも、山を降りる途中、ずっと頭の中で何故かイーグルスの『呪われた夜(註7)』がリフレインで流れ続けていた。

 
https://youtu.be/ESc2Tq2HzhQ
イーグルス『呪われた夜』リンク先

 
ワン オブ ディーズ ナイト……
ドン・ヘンリーが嗄(しゃが)れた声で何度もシャウトする。
そして途中、狂おしいギターソロが入る。
頭の中を、ソリッドなギターのメロディーがズタズタに切り裂く。そして、歌詞も相俟ってか、奄美大島での夜会の日々が走馬灯のようにコマ切れでフラッシュバックしてゆく。
ワン オブ ディーズ クレイジー、クレイジー クレイジー ナイツ……。数多(あまた)ある夜の中の一夜(ひとよ)。そのたった一つの夜なのに何かが狂っちまってる…

空を見上げる。
夜空はどこまでも暗く、梢を渡る風は強かった。

                   つづく

 
追伸
フタオの♀に関しては、前回から引っ張いといて、こんなカタルシスのない結末で誠に申し訳ないと思ってる。
言いワケだらけでスマンが、この回との連続性を重視したのだ。夕方の惨敗が夜の惨敗と通底しているという一連の流れは必要だと思ったのだ。それが今回のラストとも繫がる。惨敗で始まり、惨敗で終わるのが、今回の採集行を象徴しているように思えたからだ。
また、前回は結末を先延ばしにして期待を持たせる事によって、次回も読んでもらおうというセコい下心もあった。スンマセン。

この日の、その後の話を少し付け加えておきます。

午後10時前には、ゲストハウスに帰り着いた。
空しさに包まれて晩飯の用意をする。

誰かが冷蔵庫に置いていった豆腐があった。
賞味期限を2日ほど過ぎていたが、火を入れれば大丈夫だろう。取り敢えず、他にも誰かが置いていったものを駆使して何かを作ることにした。

何ちゃって麻婆豆腐、完成。
調味料は何を入れたか全然憶えてないが、置き去りにされたスルメを前日に出汁か何かに入れて、ふやかしたものを使ったのだけは記憶にある。

ご飯は何日か前に自分で買ったものだ。
これをレンチンする。
二度と作れない『何ちゃって麻婆豆腐定食』だ。

食べてみると、自分がいつも作っている麻婆豆腐には遥かに劣るが、それなりに旨い。誰か居たら、そこそこ褒めてくれたかもしれない。でも、宿の共有スペースには誰もいない。ワシ、一人だ。虫屋の若者二人は今朝には帰ったし、この宿に泊まっているのはワシとSくんだけなのである。そのSくんは、おそらく夜間採集に出掛けているのだろう。
とにかく不必要なほどに、シーンとしている。
静寂の中、何ちゃって麻婆豆腐を力なく口に運ぶ。
改めて、全て終わったんだなあ…と思った。

 
(註1)アマミキシタバ
学名 Catocala macula (Hampson, 1891)
屋久島、奄美大島、沖縄本島に分布する”Catocala属”の蛾。
国外ではインドシナ半島北部から中国南部、フィリピン、台湾などに分布する。
以前は、Ulothrichopus属に分類されていたが、近年になってカトカラ属に編入された。しかし、この種をカトカラとして扱うかどうかについては今だに議論がある。

 
(註2)見慣れないスズメガが飛んで来た
帰ってから調べると、どうやらコイツみたいだ。

【ギンボシスズメ】

北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島に記録がある。しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。
そこそこ珍しいのかもしれないなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も相対的に少ないからね。
この後、書いてるうちに様々な疑問が生じ、解説があまりにも長くなってしまった。なので、この項は別個に回を設けてソチラに詳しく書く予定です。

 
(註3)キョウチクトウスズメ
漢字で書くと「夾竹桃雀蛾」となる。和名は、幼虫の食樹がキョウチクトウであることから名付けられた。
南方系の蛾で、開張約10センチ。アフリカからインド、東南アジアなどの熱帯に分布し、日本では九州以南に生息している。しかし飛翔力が強く、四国や紀伊半島南部でも珠に採集され、時に繁殖する事もある。

学名 Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)
記載はリンネだね。コレもアカボシと同じくリンネが1758年に出版した『自然の体系』第10版で創設したニ名式学名の最初の記載種の中の1つってワケだね。その後、このニ名式学名があらゆる生物の学名の命名法を統一させる事になってゆくのである。
尚、リンネは最初、鱗翅目を「Papilio(蝶)」「Sphinx(スズメガ)」「Phalenae(その他の蛾)」の3つの属に分類している。
つまり、キョウチクトウスズメの最初の学名は今とは違っていて、Sphinx nerii (Linnaeus, 1758)だったと云うワケだ。
Sphinxは、あのスフィンクスの事だよね。何かカッコイイぞ。スズメガの蛹はエジプトの棺の中のグルグル巻きにされたミイラみたいな形だから、それと関係あるのかな❓

英名 Oleander Hawk-moth
Oleanderとは夾竹桃のこと。だから幼虫が夾竹桃を食う鷹みたいな蛾って意味だね。

(分類)
スズメガ科 Sphingidae
ホウジャク亜科 Macroglossinae
Daphnis属

幼虫の食樹は、キョウチクトウの他にニチニチソウ(キョウチクトウ科)が知られている。キョウチクトウには毒があり、それを体内に取り込むことによって鳥の捕食から身を守っているものと考えられている。勿論、幼虫は毒に対する耐性を持っているために中毒死することはない。

 
(註4)迷蛾
本来はそこには分布しない蛾が台風や偏西風等に乗って、遠方地や外国から運ばれてきた場合、その蛾を迷蛾と呼ぶ。したがって蝶の場合は迷蝶となる。
生存戦略の1つともされ、時にその地に定着し、更には分布を拡大する場合もある。しかし、大概は気候風土に適応できずに死滅する。

 
(註5)苺ミルクみたいのがいた。
調べたら、アマミハガタベニコケガという種だった。


(出展『www.jpmoths.jp』)

ギザギザ模様からの歯型紅苔蛾ってワケね。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

昔は、アマミハガタキコケガ(奄美歯型黄苔蛾)と呼ばれていたそうな。黄色というよりも紅色が印象的だから、改名は妥当だよね。

学名 Miltochrista ziczac (Walker, 1856)
ヒトリガ科(Arctiidae) コケガ亜科(Lithosiinae) Miltochrista属に分類されている。

展翅すらしてないけど、分布は奄美大島と徳之島のみだから結構レアな奴かもしれない。ちなみに以前は奄美大島のみに分布するとされてきたが、2009年に徳之島でも見つかっている。
国外では台湾、朝鮮半島、中国に分布しているが、特に亜種区分はされていないようだ。
4月と8月に採集されているので、おそらく年2化だろう。幼虫の食餌植物は未知。
開張20mm。♂は前翅前縁が中央で出っ張る。
出っ張る❓よくワカラン。図鑑には♀1つのみしか標本が図示されていなかったから、何を言わんとしてるのかが掴めない。

でも調べ直したら、らしき画像を台湾のサイトで見つけた。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

確かに出っ張ってる。とゆうことは、採ったのは♀かな❓
でも同じサイトの標本画像を見たら、今一つよくワカラン。


(出展『DearLep圖錄檢索』画像はトリミング拡大している)

腹部の形からすれば、おそらく上が♂で下が♀だろうが、出っ張りがそれほど顕著には見えないのだ。

 
(註6)もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た
Facebookで、この画像をアップして「コレ、何すかぁ❓」とコメントしたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。ムラサキアミメケンモンという名の蛾らしい。
早速でネットでググったら、情報量が極めて少なくて、たった4点しかヒットしなかった。案外、かなりのレア物なのかもしれない。でも先生からは他に特にはコメントがなかっから、そうでもないのかもしれない。

【ムラサキアミメケンモン】


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

学名 Lophonycta nigropurpurata Sugi, 1985
ヤガ科 アミメケンモン亜科 Lophonycta属に分類されている。
開張33〜35mm。近縁種のアミメケンモンと比べて前翅の地色は暗い紫灰色。環・腎状紋が明瞭。翅幅は少し狭く、後角の淡色紋は小さい。後翅は純白で外半が翅脈に沿って暗色となり、わずかに横脈紋と外横線が認められる。
奄美大島と沖縄本島に分布する日本固有種。分布域が狭いから、やはりレアものなのかもしれない。
成虫は4〜5月と8〜10月に見られ、少なくとも年2化以上の発生と考えられている。
幼虫の食餌植物は未知。

コチラも展翅すらしてないと思ってたが、してた。

たぶん、♂だろう。
(・o・)んっ❓でも(-_-;)あれれ❗❓、後翅が白くねぇぞ。
もしかして、まさかのアミメケンモン❓

(アミメケンモン Lophonycta confusa)

(出展『www.jpmoth.org』)

でも、細かく柄を比べて見たが、下翅は白くはないものの、他の特徴はムラサキアミメケンモンだ。特に後角の淡色紋はアミメケンモンと比べて明らかに小さいことで判別できる。自分の採ったものはムラサキアミメケンモンで間違いなかろう。

ところで、下翅が茶色ってのはどうゆう事かな❓
異常型❓それとも褐色型と云う型があるのかな❓

 
(註7)呪われた夜

(出展『hmv.co.jp』)

このオドロオドロしいアルバムジャケットは印象深くて、よく憶えている。山羊の骸骨といえば、悪魔だもんね。鷲鷹的な翼と髭みたくになってる羽根(おそらく鷲鷹のもの)は、よくワカランがインディアン関係か❓
インディアンは鷲を崇めており、最も空高く飛ぶことができる鳥であると信じられている。ゆえに神に最も近づける生物だとも考えられている。そして、鷲こそが人間と絶対神である太陽とを繋ぐ存在であり、又その間を取りもつ役割を担っていると思われているそうだ。それが呪いとどう関係するのかは知らんけどー。あっ、呪いは邦題だから関係ないか。骸骨も山羊じゃなく、牛とかバッファローだったりしてね。

原題『One of These Nights』。
アメリカのロックバンド、イーグルスの1975年に発表されたアルバム第4作『呪われた夜(One of These Nights)』のタイトル曲。
アルバムはバンド初の全米No1を獲得、シングルカットされたタイトル曲も全米ビルボードチャートの1位に輝き、名実ともにビッグバンドへ昇り詰めるキッカケとなった。
作詞ドン・ヘンリー、作曲グレン・フライ。
リード・ボーカルはドン・ヘンリー。イントロのベースとギターをファンキーなリズムにアレンジしたのは、ドン・フェルダー。

尚、最初は本文にYou Tubeと歌詞の和訳を付けていたけど、著作権法上、問題があるようなので削除しました。気になる人はネットで楽曲と訳詞を探してね。

更にクレームがきたので、英歌詞も削除です。世知辛い世の中ですなあ…。とはいえ、理解はしてる。ルールは大事だし、著作権と言われれば致し方ないもんね。

 
追伸の追伸
次回、いよいよの最終回っす。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『奄美市雑談』
◆『Wikipedia』

 

奄美迷走物語 其の16

 
第16話『月とデブいアンタと狼男』

 
2021年 3月30日

泥のように眠り、起きたら昼前だった。
外は雨が降っている。
残されたチャンスは少ないから複雑な気持ちだが、心の底ではどこかホッとしている自分がいる。
昨日は、というか今朝まで虫採りしてたから身も心もボロボロなのだ。正直、ここまで全く採集に出なかった日は1日たりともなかったから休みたかった。でも晴れていたら、そうゆうワケにもゆかない。行かなきゃ、逃げた事になるからだ。
とにかく、これでセコい言い訳をカマさなくてすむから心置きなく休養する事ができる。

 

 
今朝、夜明け前にファミマで買ったはいいが、力尽きて食べれなかった中 孝介(註1)監修の鶏飯(註2)を食うことにする。

 

 
ハッキリ言って全然旨くない。及第点にも遥かに及ばない。こんなのよく鶏飯のお膝元で発売したよなと思う。しかも、わざわざ「奄美鶏飯」と名打ってる厚顔無恥っぷりじゃないか。もしワシが島民だったら、絶対怒るね。最近はファミマも味のレベルがだいぶ上がったと言われるが、やっぱセブンイレブンと比べるとクオリティーが低いわ。スイーツばっか頑張ったところでダメだよ。

食い終わって、薬局に買おう買おうと思っていた塗り薬を買いに行く。
泊まっている「ゲストハウス涼風」は周辺に飲み屋があまりないのが難点だが、それ以外は何かと便利だ。歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあるし、コンビニもある。その横にはチェーン店らしき大型薬局店だってあるから、薬以外にもインスタント食品やスナック類、雑貨も買える。

 

(出展『ゲストハウス涼風』)

 
熱湯を胸に浴びて、北斗の拳みたく斜めザックリの傷跡になった火傷がまだ治ってなくて、ヒリヒリするのである。

メンタムを買おうかと思ったが、考えてみれば自宅にあるし、効能を見るとコッチの方が良さげだった。

 

 
一家に一つ、オロナインH軟膏である。
帰って薬つけて、もう一回💤寝よ〜っと。

だが帰って昨日の採集品を整理してたら、気づけば午後2時半。いつしか雨は上がっていた。
ベランダに出て、空を見る。晴れ間はないが、何となく天気が回復する兆しを感じた。勘で僅かな時間だけど晴れるんじゃないかと思った。その間隙をぬって起死回生の一発を放てるかもしれない。アカボシゴマダラは、ほんのひと時でも晴れてくれさえすれば、飛ぶだろう。ワンチャンあるかもしれない。

 
【アカボシゴマダラ 春型♀】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
この天気と予報ならば、殆どの人が今日の採集を諦めている筈だ。だとするなら、上手くすれば採集者全員を出し抜いてベストポジションが取れるやもしれん。思い立ったが吉日だ。ならばと慌ただしく長竿とザックを引っ掴み、バイクを駆ってあかざき公園を目指す。

走り始めて暫くしたら、サッと上から光が射した。
予測通りだ。さすが俺様である。

けどバイクを停めてポイントまで降りて行ったら、既に先客がいた。昨日、同じ場所でワシのブログを読んでいると言ってた若者だ。(´ω`)むにゅー、同じような事を考えてる人間は他にもいるんだね。
それにしてもレスポンスがいいね。彼は名瀬に泊まっていた筈だから、ワシより判断が早かったということだ。それって大切な事だよ。加えて、若いけど見た目以上に読みのセンスがある。この2つがあれば、結果も自ずと付いてくるだろうから、頑張って続けてもらいたいよね。

先を越されたが、まあいい。柿澤仙人は来てないし、奥の東屋のポイントを占有できそうだから今日こそは採れんだろ。

訊いたら、まだアカボシの姿は見ていないと言う。
でも、そろそろお出ましだろう。自然と気合が入る。二人で独占、鬼採りといこうじゃないか。

しかし立ち話を始めて5分くらいで曇り始めた。おいおいである。けど曇っていても飛ぶ時には飛ぶから何とかなるっしょ。

だが暫く待つも、飛んで来る気配がまるでない。期待だけが虚しく空回りする。忸怩たる想いで、木々の梢を睨む。

やがて二人組の採集者が上から降りて来た。
けど、二人とも全然オーラがない。採りたいという強いハートも伝わってこない。そんなんじゃ1つも採れんぞ、兄ちゃん。
10年ちょっとも蝶採りをやってると自然と解る。採るのが上手くてライバルになりそうな奴には独特のオーラがある。デキる奴には、それなりの雰囲気というものがあるのだ。

ここじゃダメだと判断して、塔のあるポイントへと移動する。
本来、待つのが死ぬほど嫌いな男なのだ。待ってもダメだと感じたら転戦も厭わない。だからこそ常に他の場所も頭の隅に入れて行動している。

 

 
着いて直ぐ、らしきもんが飛んで来た。ザマー見さらせ、読み的中じゃい❗鬼神の如くダッシュする。
だけれども、目の前まで行って気づく。似てはいるが、そやつは赤紋のない全くの別種、リュウキュウアサギマダラだった。

 
【リュウキュウアサギマダラ♀】

 
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。
逆光のせいではあったが、我ながら情けない。勿論アカボシが毒のあるリュウアサに擬態しているという説は知っている。けど、常々あんなもん見間違うかね❓、アンタらの目は節穴かよと思ってた。ゆえに今まで見間違った事なんぞ殆んどないのだ。あったとしても一瞬だ。直ぐに違うと見破ってきた。それがコレだ。もうヤキ、回りまくりである。絶不調ここに極まれりの象徴みたいな出来事じゃないか。

その後、さっきの二人組が上がってきた。 
周りの空を見回しても晴れそうにないから、退屈しのぎに話をする。 

彼らは近畿大学の研究者だった。
なぁ〜んだ、オーラがなかったのはそうゆう事だったのね。狩猟が目的ではないからガツガツしたものを感じなかったのだ。同じ虫屋でも学究肌タイプと狩猟肌タイプがいて、両者は全く目指すベクトルが違う。当然、両者の性格の傾向も異なる。私見だが、学者肌の人は往々にして性格が穏やかな人が多い。一方、狩猟肌の人間は負けず嫌いで押し出しが強く、自分を曲げない人が多い。勿論コレはあくまでも傾向であって、例外は沢山あるだろうけどね。

二人の話によると、先輩の研究者がゴマダラチョウの幼虫を研究していて、2本の頭部突起がどうゆう役割を果たしているのかを調べたそうだ。

 
【ゴマダラチョウ♀】

(2021.5.30 東大阪市枚岡。この♀、何と開張82mmもあった)

 
世の中にはヒマな人もいるんだなと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。ゴマダラチョウの他にもアカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキ、スミナガシ、フタオチョウetc…タテハチョウ科の幼虫の多くは頭部に角状の突起を持っている。何で皆、頭にそんなもん付けとるんや?とは、おぼろげながらにもワシだって疑問には思っていたのだ。

 
【ゴマダラチョウの幼虫】

(出展『芋活.COM』)

 
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラ、オオムラサキなどコムラサキ亜科の幼虫って、(・∀・)ほよ?顔で可愛いよね。可愛い過ぎて、オジサンだって胸キュンだよ。

 
【オオムラサキ♂】

(2021.6.17 東大阪市枚岡)

 
話を戻そう。
で、調べた結果、角を振り回して天敵のアシナガバチから身を守っている事が証明されたらしい。それを二人はフタオチョウの幼虫でも証明しようとしているという。今のところまだ結果は出てないそうだけどね。

 
【フタオチョウ♂】

(2021.3.29 奄美大島)

【フタオチョウの幼虫】

(出展『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』)

 
完全にプレデターだよな(笑)。
にしても、こんなもん振り回したところで、はたして蜂を追っぱらえるのかね❓ゴマダラチョウの角にしてもそうだけど、蜂を半殺しにできる程の殺傷力があるワケでなし、武器としては弱すぎやろが。んなもん、後ろからブスリとかガブリとかいかれたら一貫の終わりやがな。

結局、二度と太陽は顔を出さず、アカボシもフタオも、その姿を見ることすら叶わずだった。一発逆転を狙ったが、完全に骨折り損のくたびれ儲けに終わったってワケやね。まだまだ絶賛連敗街道爆走中っす。

昼は雨模様の天気予報だったが、各サイトの予報を改めて確認すると、夜は概ね曇りになっている。とゆう事は夜間採集に出動しなければならぬ。昨日の疲れがまだズッシリと残ってるし、またしても惨敗を喰らったから気が重いが、行くっきゃないだろなあ…。
行くにしても、奄美に来てから天気予報は全然当たらないし、コロコロと目まぐるしく変わる。せめて雨にならない事だけを祈ろう。これ以上、泣きっ面に蜂みたくなるのは御免蒙りたい。ヤケクソで、露払いに角でも振り回したろかい。角、ないけどー。

腹ごしらえは今回もカップ麺。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛り 塩担々麺』。
最後に残っていたニラもブチ込む。

味は可もなく不可もなくって感じ。まあ、百円だから期待はしてなかったけどさ。とはいえ、心の底では旨かったら気分が乗るから、それでメンタルが少しでも上がる事を期待してたんだけどね。ボコられ過ぎて、もう神頼みの領域なのだ。

午後6時過ぎ、知名瀬に向けてバイクを走らせる。
今日こそ、アマミキシタバを仕留めてやろう。

 
【アマミキシタバ】 

(出展『世界のカトカラ』)

【裏面】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
そうは言いつつも、最も有望な場所である湯湾岳に行って惨敗して今朝方帰って来たばかりなのだ。言ってる言葉に力がない。もう、何をどうすればいいのかが分からなくなってる。

 

 
Sくんがハグルマヤママユ採集の折りに陣取ったポイントに、何ちゃってライトトラップを設置する。
ライトを取り付けた三脚の後ろに網を立てかける。
アマミキシタバが飛んで来たら電光石火、空中でシバいたろという算段だ。取り敢えず、らしきもんが飛んできたら迷わず何でも採る体制でいこう。ようは、もう形振(なりふ)り構ってらんないのである。

何か大型の蛾が飛んで来た。でも何ちゃってライトは暗いから、何が飛んで来たかはワカラン。アマミキシタバにしてはデカ過ぎるから心は躍らないが、一応シバく。

 

 
また、おまえかよ(´ε` )❓
毎度お馴染みのオオトモエさん(註3)だった。中々に立派だし、デザインもマスカレードみたいで渋カッコイイのだが、如何せん何処にでもいる普通種なのだ。採っても最早、喜びは皆無である。

午後10時。
あれれ❓山の向こうが何だか明るくなってきたぞ。
予報は、どのサイトでも完全に曇り。もしくは曇り時々雨だったが、又しても「スーパー晴れ男」の力を無駄に発揮してしまうのかあ❓
昼間、蝶を採る場合には断然晴れた方が良いんだけど、夜に灯火採集する時には晴れるのはヨロシクないのだ。詳しくは書かないけど、大まかな原理はこうだ。
通常、夜行性の昆虫は月光を頼りに移動している。だが、月が見えないと事情は変わる。人工光に強く影響され、やがては誘引されてしまうのだ。

 

 
午後22時12分。
遂に月が昇ってきた。どんだけ晴れ男やねん❗である。でも、全然もって嬉しくないや。

 

 
どんどん晴れてきた。
しかも満月じゃないか❓
悔し紛れで、狼の遠吠えでもしたろかと思う。
さすがにそれは思いとどまったでしょう。そう皆さん、思っただろうが、ところがどっこい。思いきし月に向かって『🐺ワォ━━━━ン❗』と遠吠えしてやった。
我ながら、かなり上手い。気分は完全に狼男。調子に乗って、もう一発吠えてやった。この森の全ての生き物たちよ、我に震撼せよ。森の王者たるワシを畏れ崇めるのだ〜。
完全にイカれポンチの阿呆だが、コレが半分冗談じゃなく真面目にやってるんだから怖い(笑)。

落ち着いたところで、静かな心持ちで月と対峙する。

 

 
原生林の上で煌々と輝く月は幻想的で美しい。そして月光は、こんなにも明るいのかと改めて思う。
懐中電灯を消しても、周囲の風景が肉眼でもよく見える。
「月夜の晩ばかりではないよ(註4)」という古い言葉を思い出す。街灯などない昔は、それくらい夜は真っ暗だったのだ。もし江戸時代の人が現代にタイムスリップすれば、その明るさにドびっくりーだろね。逆に現代人が江戸時代にタイムスリップしたとすれば、あまりの暗さにビビるだろう。現代人は夜に出歩くことに何ら恐怖を感じないが、夜の闇は本来的には恐ろしいものなのである。だからこそ妖怪や幽霊、お化けなどという魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する世界がリアルに成立しえたのだ。そうゆう畏怖すべき謎の世界がある方が世の中、面白いのにね。明るさは、時に人の想像力を奪う。
(  ̄皿 ̄)アンタら、いっぺん山奥で懐中電灯なしで歩いてみぃーや。
(´༎ຶ۝༎ຶ)チビるで。

そんな時だった。月光が降り注ぐ中、何かデカい飛翔体が林道の左奥からコチラに向かって真っ直ぐに飛んで来た。ちょっとビビるが網を構える。もしも此の世の者ならざる存在ならば、袈裟がけで叩き斬る所存だ。
採ってみたら、悪魔の化身みたいな奴だったらどうしよう❓畏怖しつつも一歩踏み込み、前で左から右へキレイにさばいた。

網の底に手応えがある。かなりの大物だ。
中を恐る恐る見て、驚く。
\(◎o◎)/何じゃこりゃ❗❓

  

 
(☉。☉)デカっ❗
&アンタ、デブいねー❗
 

羽の柄は何日か前に似たようなのをどっかで見た事があるぞ。
たぶんアサヒナオオエダシャク(註5)って奴だ。にしても、それよか遥かに巨大だし、形も違う。

良い兆しと期待したが、その後は目ぼしいものは何も飛んで来なかった。
又しても惨敗濃厚だ。いつになったらアマミキシタバに会えるのだ❓ねぇー、ねぇー、そんなに珍しいモノなのー(ToT)❓

午前0時過ぎ。
(-_-;)終わったな…。

どうせ待ってもダメだと判断して、そろそろ店じまいしようとした時だった。
何か裏面がアマミっぽいのが飛んで来た❗俄然、心がザワつく。でも大きさ的に違うような気がする。けど採ってみないと何とも言えない。慎重に距離を詰める。
だが追い詰めたところで、暗くて見失った。
(´-﹏-`;)むぅ…、とっとと網を振っておけば良かった。判断が鈍いや。こうゆうところが絶不調の原因だろう。何でもそうだけど、躊躇して良い結果が出た試しなどないのだ。
どうあれ、今さら嘆いたところで遅い。やれる事は、また飛んで来るのを願って待つことだけだ。

15分後、たぶん同じ奴が飛んで来た。
今度は迷わず網でブン殴る。

 

 
裏の柄はアマミキシタバっぼい。
でも、にしては地色が汚い。アマミならば、もっと鮮やかな黄色の筈だ。それに大きさ的にも小さい。とはいえ、矮小個体の可能性だってある。僅かな望みを託して表に返す。

 

 
もの凄く(◡ ω ◡)ガックリくる。
全然、別物の汚い蛾だ(註6)。とんだ似非者(えせもの)じゃないか。こんなもんに少しでもワクワクした己を呪いたくなる。
帰ろう。何もかんも上手くいかないや。

月光に照らされた林道を帰る。
幽玄で美しかったが、そんなのどうでもよかった。

                   つづく

 
追伸
狼男のくだりとか、今回はバカ回でしたな。
でも久々に楽しめて書けたかも。連載が当初予定したいたよりも長丁場になって、ここんとこ書くのが苦痛だったのだ。
でも上手くいけば、あと2、3回で、その苦痛からも開放されそうだ。

 
(註1)中 孝介(あたり こうすけ)
奄美大島名瀬出身の男性歌手。その声は「地上で最も優しい歌声」とも称される。

2006年 EPIC RECORDS JAPANよりシングル「それぞれに」でデビュー。
2007年「花」をリリースし、世代を超えたヒット曲となる。
2007年 1stアルバム『ユライ花』をリリース。オリコンチャートで初登場7位を記録し、ロングセラーとなる。
2007年 台湾での単独公演も成功させる。また、台湾で公開された映画『海角七号』に中孝介本人役として出演。映画は台湾歴代興行収入を塗り替える大ヒットとなる。
2008年 中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』がヒットし、台湾ヒットチャートの1位を獲得する。

 
(註2)鶏飯(けいはん)
奄美大島の郷土料理。鶏のほぐし身など数種の具が入った出汁茶漬けみたいなもの。詳しくは連載第1回で書いた。

 
(註3)オオトモエさん
羽に巴紋がある大型のヤガ。

【オオトモエ】

ねっ、マスカレードでしょ。仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだ。

多分、兵庫県武田尾で採ったものかな?
まあ、オオトモエの産地なんて知りたい人などいないだろうから、何だっていいか。

何処にでもいるが個体数はそんなに多くなく、敏感で逃げ足が早い。だから採りたい人には意外と難易度は高い種かもしれない。おまけに驚くとブッシュに潜り込んだりするから、殆んどの個体が翅のどこかを損傷していて、完品を得るのはかなり難しい。

 
(註4)月夜の晩ばかりではないよ
月夜は明るいので、まだしも警戒のしようもあるが、毎日が月夜ではないから、せいぜい身の回りには気をつけなさんな。」という意味。脅し文句の一つで、ヤのつく自由業の方々がお使いになられる常套句でもある。

 
(註5)アサヒナオオエダシャク
調べたら、やはりアサヒナオオエダシャクの♀だった。

笑けるほどデカくてデブい。

あまりにもデブだったので期待していなかったが、展翅してみるとデカいゆえかデブさがあまり気にならない。翅形も中々カッコ良くてバランスも悪かない。
で、測ってみたら開張92mmもあった。『日本産蛾類標準図鑑』では最大が88mmになっていたから、レコードになりそうなくらいにデカいかも。

比較の為に♂の画像も貼っておこう。

形が♂と♀とでは、かなり違う。

♂もそれなりに大きいが、♀は比じゃないくらいに馬鹿デカい。
ちなみに、アサヒナオオエダシャクの♀は♂と違って灯火には誘引されないそうだ。だから、そこそこの珍品とされるようだ。もしかしたらアマミキシタバよりも余程価値はあるかもしれない。
確かに見たところでは、ライトトラップに誘引されたような感じではなかった。ただ単に移動するために林道を飛んでいたのが偶々採れたというのが正しいかと思われる。或いは森の王者狼男にすり寄ってきたのかもしれない。ワシ、メスにはモテるからさ(笑)。

尚、アサヒナオオエダシャクについては第8話で解説しているので、詳しく知りたい方はソチラも合わせて読まれたし。

 
(註6)全然、別物の汚い蛾だ
Facebookに「これ、何〜❓」とあげたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。どうやらウスアオシャクという名前の蛾らしい。まさかシャクガの仲間だとはね。しかもアオシャクの系統だ。思いもよらなかったから軽く驚いた。

【ウスアオシャク】

展翅してみたら、形が良くて意外と渋カッケー。
触角の先がグッと細まるのも良い。
苔みたいな渋い緑色だけど、一応は緑色だし、アオシャクの仲間だと云うのも何とか理解できる。

(学名) Dindica virescens (Butler, 1878)

(分類)
シャクガ科(Geometridae)
アオシャク亜科(Geometrinae)
Dindica属

(開張)
♂35〜42mm ♀38〜45mm
♂の触角は櫛歯状、♀は糸状。

翅形も違うね。♀の翅には丸みがあり、♂のようなシャープさはない。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

となれば、ワシが採ったのは♂だね。

(分布)
北海道南部,奥尻島,本州,四国,九州,対馬,トカラ列島(悪石島・中之島),奄美大島,徳之島。
国外では朝鮮半島に産する。Dindica属は東南アジアの亜熱帯から熱帯域に約20種が分布するが、本種のみが温帯域にまで分布している。
垂直分布は幅広く、低山地から亜高山帯まで見られる。

(成虫の出現期)
関東周辺では4月下旬から9月下旬の間に2〜3回発生する。
春に出現するものは翅表が淡く、夏に現れるものは濃色となる傾向がある。
北海道や奥尻島のものは極めて淡色で、外横線が明瞭となる。だが、同様な個体は本州の山地帯でも得られている。また、九州南部や奄美・徳之島産は暗色となる傾向があるが、関東でも暗色の個体はそれなりに得られているようだ。

(幼虫の食餌植物)
クスノキ科のダンコウバイ、クロモジ、ヤマコウバシ、アブラチャンが記録されている。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蛾類標準図鑑』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『OFFICE WALKER OFFICIAL SITE』
◆『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』
◆『芋活.COM』
◆『www.jpmoth.org』
◆『ゲストハウス涼風』ホームページ

 

奄美迷走物語 其の15

 

第15話『奄美ドン底迷走物語』後編

 
2021年 3月29日(夜編2)

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽってちーん。死んだ。

一旦、他のルートがあるかもしれないと先に進んでみたが、直ぐに無理だと悟った。道は益々荒れてきて、どう考えてもそんなもんはありそうにない。
仕方なくバリケードのところまで戻る。

改めて並んでいるバリケードをよく見ると、左端に空間が空いている。隙間は結構あって、スクーターなら何とか通り抜けられそうだ。
入るのは気が引けるが、んなこと言ってる場合ではニャい。
こんな時間に誰かが見回りに来るとは思えないし、それにもし誰かが来て叱られたとしても『すんませーん。暗くてよくワカンなかったでしたー。』とでも言い訳をカマせばいい。あー、でもこんなに目立つバリケードを「目に入りませんでした。」では理屈が通らんか。更に大目玉を喰らいかねない。
(ノ`Д´)ノえーい、ままよ。見つかったら見つかった時のことだ。
『(。ŏ﹏ŏ)オデ、オデ、ワガンね。』
などと脳ミソの足りない言語障害のオジサンの振りをするか、もしくは、
『リップヴァーンウィンクルの話って知ってますかあ❓』
と『野獣死すべし』の松田優作みたく瞬きなしの狂気じみた無表情で言ってやろう。不気味過ぎて向こうの方がビビるに違いない。夜の、しかもこんな人気のない場所で気が狂ってる男と対峙するのは相当恐いだろう。何なら懐中電灯を下から照らしながらでセリフを言ってやってもいい。
あっ、それはやり過ぎか…。フザけんな❗と、かえってメチャクチャ怒られかねない。

勾配のキツい坂道を一気に上がると、目の前がパッと開けた。
手前に駐車場があり、その向こうは展望広場になっている。新しく改装されたみたいで立派なテーブルと椅子が並び、全体的にとてもキレイだ。有り難いことに清潔なトイレもある。

時計を見ると、何と驚きの午後8時45分になっていた。どんだけ時間かかっとんねん。予定していた所要時間は1時間半だったのに、3時間半も要しているではないか。
大幅に時間をロスしたが、今さら悔いたところで仕方がない。辿り着けただけでも良しとしよう。

慌てて灯火採集の用意をする。
問題は何処にライトを設置するかだが、もう四の五と言ってらんない。危ないが先っちょギリギリ、防護柵を越えて設置した。落ちたら間違いなく大怪我だが、なんちゃってライトトラップなんだから、これくらいでもしないとアマミキシタバは採れやしないと思ったのだ。

午後9時過ぎ。
やっとライトを点灯することができた。

 

 
点灯と同時に蛾どもがワッと飛んで来た。
今回の旅では一番飛来数が多い。さすが世界遺産に地域指定されるであろう湯湾岳だ。なんちゃってライトでも効力ありだ。それだけ自然度が高くて、生物相が豊かなのだろう。
さあ、リベンジだ。ここから盛大な祭りといこうじゃないか。

名瀬や知名瀬とは飛んで来る蛾の種類が少し違っていて、見たことのない種類も多い。名前は全然ワカランけどー。
点灯時刻が遅かったせいなのかハグルマヤママユは飛んで来なかったが(註1)、何かと飛んで来るのでそれなりに楽しい。純粋な蛾屋ではないから各種の稀度はワカンナイ。だから殆んどの種類は採らずに無視だけどもね。
とにかく数さえ飛んで来れば、それに応じて確率も高まる。ならば、否応なしに期待値も上がろうというもの。そのうちアマミキシタバだって飛んで来るかもしれない。今までの苦労が報われることを切に祈ろう。

しかし、1時間程でピタリと飛来が止まる。光が弱いから遠くのものは引き寄せられず、周辺にいる奴しか惹きつけられないのだろう。なんちゃってライトトラップの悲しいところだ。
一応バナナトラップを柵にいくつか括り付け、背後の森にもぶら下げていたが、コチラもダメ。相変わらずの閑古鳥だ。寄ってきたのは、お馴染みのオオトモエのみ。
またしても惨敗かと、ポトリと落ちた墨汁がジワジワと広がってゆくように心が黒く染まりはじめる。見上げるこの漆黒の夜空のようにならないうちに何とかせねば…。そう思うが、思ったところで特にやれる事はない。やれる事は全部やっているのだ。あとは運まかせだ。あっ、神頼みがあるか…。
神様〜、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)なんとかしてくだせぇーよ。
ワシ、メチャメチャ頑張ってるやないすかあ。努力もしてますやん。もうそろそろ報われたっていい頃じゃありませぬか❓

祈りが通じたのか、次第に辺りに白いヴェールのようなものが掛かってきた。霧だ。もしかして絶好のコンディションになるかも…。ガスれば光が拡散するせいなのか、格段に灯りに寄ってくる蛾の数が増えるのだ。ワチャワチャに寄ってきてくれよー。
とはいえ、天候が悪化してゆくのは好ましくない。雨にならないことを祈ろう。雨でも蛾は寄って来るのだが、アマミキシタバがベチョベチョになったら元も子もない。濡れて鱗粉がハゲちょろけになったとしたら、死んでも死にきれない。

 
【アマミキシタバ】

(出展『DearLep圖錄檢索』)

 
それに雨が降ると帰りが大変だ。雨の中、あの滑りやすい林道を降りるのはゾッとするし、なんと言っても帰り道は長いのだ。長時間にわたって雨に濡れ続ければ、体温を奪われるし、精神的にも相当辛くなる事は火を見るよりも瞭(あき)らかだ。

名前は知らんけど、見たことのないごっつカッコイイ蛾が飛んで来た。

 

 
画像は後日撮った写真である。その時は頭の中がアマミキシタバの事でいっぱいで余裕がなく、写真を撮るのをすっかり忘れていたのだ。

この画像じゃワカランので、いつも参考にしている『蛾色灯』というサイトから画像をお借りしよう。

 

(出展『蛾色灯』)

 
止まっている時は、こんな風に三角形の姿をしている。
蝶は羽を立てて止まるが、蛾の多くはこのように開いて止まるのが定番で、コレが蛾と蝶を見分けるコツの1つとされている(例外は結構ある)。だからワシの手乗り横画像は自然な状態ではない。羽の表面の鱗粉を傷めたくないゆえ、無理矢理あの形にして三角紙に入れていたので、ああなったのである。つまり自然状態では羽を立てて静止することはない。但し、羽化時に羽を伸長させる時は立てている可能性が高い。そうしないと羽をキレイに伸ばせないだろうからね。

捕まえた時に驚いたのは、身体がゴツかった事である。

 

(出展『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』)

 
胸部の体高が高くて厚みがある。横幅も広い。
そして、もふもふだ。マジ(◍•ᴗ•◍)❤可愛いっす。

帰ってから調べてみたら、どうやらタッタカモクメシャチホコ(註2)の♂のようだ。
何じゃそりゃ❓というくらいインパクトのある和名じゃないか。最初に「立ったか❓木目鯱鉾❗」と脳内変換が行われたよ。でもって『立てへんのかーい❗』という吉本新喜劇的ツッコミを入れてしまったなりよ。
次に西川のりおがオバQの姿に扮して『🎵ツッタカター、🎵ツッタカター、🎵ツッタカタッタッター』と行進する姿が目に浮かんだ。今思い返しても『俺たちひょうきん族』は凄い番組だった。面白キャラクターの宝庫だったわ。

 

 
絶対、それ由来なワケないけど…(笑)

 

(出展 2点共『エムカクon Twitter』)

 
のりおのセリフじゃないけど、
『あほ〜ぉ〜。』
である。

ネットでアレコレ見ていると、そこそこの珍品のようで「憧れの」とか「恋焦がれた」だの憧憬や称賛の修辞句が並んでいるから、蛾屋の中でも評価が高い種みたいだ。とにかく採った人は皆さん、嬉しそうなのだ。名前も知らんのに、ワシも嬉しかった。スター性があるモノは、何だってひと目で人を惹きつけるのだ。

次のコヤツも印象深かった。

 

(画像は後日展翅時に撮ったもの)

 
ユウマダラエダシャク系の白黒蛾(註3)だ。
実を言うとこの蛾は、最初に着いた時にトイレの外壁に止まっていて気にはなっていた。ユウマダラエダシャク系は本能的にキモいので普段は絶対に採らないのだが、黒っぽくてカッコイイかもしれないと思ったのだ。
しかし一刻も早くライトを設置しなければならなかったからスルーした。設置後はバナナトラップを見回る際にトイレの前を通る折にふれ、採るかどうか迷ってた。でも白黒エダシャクはキモいという概念が邪魔して踏ん切りがつけれないでいた。触るのが嫌だったのだ。で、そのうちいつの間にか姿を消していた。
だから、後々ライトに飛来した時は迷わず採った。

午後11時。
(・∀・)よっしゃー❗、いよいよアマミキシタバが飛んで来るゴールデンタイムに入った。
霧は益々濃くなってきたし、この条件なら採れるかもしれない。いや、採れるっしょ。

しかし、暫くして風も出てきた。
ちょっとヤバいかも…と思った瞬間だった。不意にブワーッと突風が吹いた。
ガッシャーン❗
\(°o°)/エーーーッ❗❗
風で三脚が倒れよった❗
一応、ビニールテープで防護柵と三脚とを繋いでいたので谷底には落ちなくて、(´ω`)セーフ。繋いどいて良かったよ。
でも、立て直した時に気づいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン❗❗
ライトが1個消えとるやないけー❗

2個あるチビライトの1つが点灯していないではないか。
(ㆁωㆁ)…白目男、茫然と立ちつくす。

戦闘力、大半減だ。でも、やっちまったもんは仕方がない。まあいい。もう1つは生きてて光ってるんだから何とかなるだろう。
だが、明らかに寄って来る蛾の数が目減りしていってる。又もやの想定外のアクシデントに、ドス黒い諦念が広がり始める。
(╯_╰)なしてー。どこまで悪い流れが続くねん。

その後、何も起こらなかった。
午前1時まで粘ったが、ついぞアマミキシタバは飛んで来ずだった。今回も擦りもせずの惨敗である。
期待値が高かっただけにショックは大きい。数々の困難を乗り越えて、こんだけ頑張っても報われないのかよ…。

1時15分。
ズタボロの心と身体を引きずるようにして撤退。

濃い霧で驚くほど前が見えにくいので、山道を慎重且つゆっくり、のろのろ運転で降りてゆく。間違ってカーブで真っ直ぐ行ってもうて、崖から落ちでもしたら洒落になんないもんね。
別に道に迷っていたワケではないのだが、次第に山を彷徨しているような気分になってきた。
あなたが落とした斧は金の斧はですかー❓ それとも鉄の斧ですかあ❓
突然、山の神様が霧の向こうからニュッと現れてもオカシクないような状況なのだ。それくらい現実離れしたような幻想的な風景が続く。
そして、山は息苦しくなるくらいに静寂だ。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで谺している。ハッキリ言って不気味だ。映画やドラマだと絶対何か良くない事が起こりそうなシチュエーションである。
いつしかエンジン音は脳内で変換され、耳の奥ではお約束のように恐ろしげな重低音の音楽が流れている。しかもそれはワシが生涯で最も怖かった映画『シャイニング(註4)』のオープニングで流れていた曲だ。カメラは上空から俯瞰で、山奥の古ホテルへと向かう一家族の車を淡々と追い続けるんだよね。ただそれだけの映像なのに、執拗にリフレインされる不気味な音楽が、これから起こるであろう惨劇を暗示しているようでメチャクチャに怖いのだ。

そんな時だった。
バサバサバサー❗
突然、その静寂を何かが破った。
ヽ((◎д◎))ゝしょえー❗
不意の金切り声と大きな羽ばたき音に激ビビる。
ヤバいもんだったら、発狂しかねないので見ちゃイケないと頭では思うのだが、裏腹に目が勝手にソチラの方を見てしまう。

照らされた方向には鳥がいた。
邪悪な怪鳥だったら、💧涙チョチョギレもんだが、結構デカいものの、ただの鳥じゃないか。驚かせやがってアホンダラー。ホッとして、強張っていた身体の力が一挙に弛む。
とはいえ、顔だけは強張ったままだ。だいたいにおいて夜に鳥が羽ばたいて鳴く時は映画でもドラマでも何かが起こる前兆と相場が決まっている。鵺の鳴く夜は恐ろしいのだ。

見慣れない鳥だが、思い出した。写真で見たことがある。たぶんアマミヤマシギ(註5)っていうシギ(鴫)の1種だ。
そうと分かれば、さらに心は落ち着く。名前なき未知なる異形のモノは恐ろしいが、名前が特定されてしまえば怖るるに足りずである。

その後もアマミヤマシギは現れた。でもって、その度に驚かされた。けど何度も驚かされてると、そのうち慣れてくる。そうなると次第に沸々と怒りが込み上げてきた。
このバカ鳥ども、結構そこいらにいて、誠にもってウザい。敏感にすぐ飛んで逃げてくれればいいのだが、バカだから直前になって目の前で飛びよる。だから瞬間こっちの方がビックリして、その度に肝が冷やされる。コッチは霧で前が見えないゆえ、鳥がいるだなんてワカランのだ。一方、オマエらはバイクのエンジン音が遠くからでも聞こえてる筈だから事前に逃げれんだろうに。鈍クサいこと、極まりない。そんなだからマングースや猫に食われるのだ。おバカ鳥めがっ💢
心がササくれだっているから、マジで轢いたろかと思う。まあ、人として流石にそれはしないけど。

時間はかかったものの、何とか麓まで下りてきた。
でも帰る場所は気が遠くなる程、まだ遥か先だ。
そして眼前には大きな問題が立ちはだかっている。ずっとどっちにするか迷ってた帰るコースを、いよいよ決断せねばならぬ時が来たのだ。
問題は来しなに使った北側のルートと半分未知の南側ルートのどちらで帰るかなのだが、選択を間違えれば地獄が待っている。
そう言いつつも、どちらを選んでも地獄である事には変わりはないんだけどもね。少しだけ、どちらかがマシなだけである。でもその少しの差が今は大きい。それだけ弱っているのだ。少しでも楽な方法で帰りたいという思いが強い。
はてさて、どうしたものか(-_-;)…。
又あの山道を登り降りして帰るのは正直しんどい。どころか道はグネグネでカーブが多いから危険さえ感じる。それを、この心身ともに衰弱しきった状態で走りきる自信はない。
となれば南側ルートだが、コチラは長いトンネルが何本もある。コレがホント長くて辛い。いつまで経っても出口が見えてこないので、心が徐々に蝕まれてゆき、気づいた時には鈍くて重い精神的ダメージをうけているのだ。
それに長いトンネルは睡魔を呼ぶ。ましてや丑三つ時のこの時間帯だ。眠くならないワケがない。けど眠ったら確実に事故る。側溝に突っ込んでバイクもろとも💥大破。運が悪けりゃ、あの世ゆきだ。
あの世で思い出した。こんな夜更けに、そんなトンネルを走るのは全然もって気が進まない理由が他にもある。山のトンネルといえば、イコール心霊スポットだ。あたしゃ、自慢じゃないが、お化け大嫌いの超怖がり男なのだ。
チキンハート野郎は想像する。奄美の妖怪ケンムンを筆頭に魑魅魍魎どもがワンサカ湧いて出てきて、追いかけ回されでもしたら、チビる。いや、チビるどころか小便垂れ流しで泣きじゃくりながら逃げるよ。
ほらね、どっちを選んでも地獄じゃないか。
嗚呼、何もかもがウンザリだ。できれば、その辺に倒れ込んじまって、そのまま深い眠りに落ちてしまいたい。
そうしたくなるような心を必死に抱きかかえて、のろのろと南に向かって走り出す。

南側ルートを選んだのは、アップダウンと急カーブが少ない事と、単に同じルートを走りたくなかったからだ。
あと付け加えると、コチラのルートだと最後には名瀬を通るので、コンビニが幾つかあり、24時間スーパーまであるからだ。酒とツマミを買って帰らないとやってらんない気分だし、酒の力を借りなければ今夜は眠れそうにない。

先ずは住用町役勝を目指す。だが北に行きたいのにルートは一旦、反対方向の南へと針路をとる。コレがスゲー遠回り感がある。ルートはかなり南に下ってから一転、今度は北へ向かうという道筋になっているのだ。理不尽にも、無駄にV字の軌跡を描いて走らねばならない。宇検村から住用町西仲間までを直線距離で結ぶと12kmくらいだが、このルートだと倍以上の30kmくらいを走らねばならんのだ。大きな山塊があるから仕方がないんだけどさ。そもそもアソコにトンネルを通すのは無理があるだろう。技術的には可能だろうが、莫大な費用が掛かるだろうし、通したところで見合うような経済効果は有りそうにない。それに世界遺産になった今なら、そんな計画には許可がおりないだろう。

役勝トンネル辺りで早くも睡魔が襲ってきた。
そして、道は街灯が少なくて暗いから、遠近感までオカシクなってくる。
ワシ、実を言うと夜の運転は苦手がち。鳥目ではないと思うけど、夜はモノを認識する能力が格段に落ちる。で、挙げ句の果てには時々幻覚を見たりもする。トンネルの入口が巨神兵や超巨大なC3POに見えたり、ガードレールにゴブリンが座っていたりするのだ。だからスピードも出せない。

それにしても笑っちゃうくらいに対向車がいない。もちろん人など誰一人として歩いていない。時空が歪んだ別な世界、まるてバラレルワールドにいるような錯覚を覚える。いよいよもってヤバい事になってきた。

住用町の三太郎トンネルの手前辺りで、睡魔が猛烈にやって来て朦朧となる。
意識が半分飛んだまま、トンネルに入る。
この長いトンネル、アホほど長いと知ってるだけに辛い。知らぬまに蛇行運転になってて、堪らずトンネルの真ん中の退避スペースで停まる。

 

 
トンネルの真ん中で停まるのって、あまり気持ちがいいものではない。こうゆう時にもしケンムンや魑魅魍魎どもが襲ってきたりしたら最悪じゃないか。死を覚悟して戦うか、恐怖で脱糞しながら必死で逃げるしかない。何か、さっきも同じような思考回路になっていなかったか❓たぶん、そうだろう。脳ミソが溶け始めている証拠だ。
でも怖いもんは怖い。怖さに耐えきれず、大声を出してみた。自分の声が洞内に反響して奇妙に増幅され、やがて壁に吸い込まれていった。
少しだけだが気分が落ち着き、思い出したように煙草に火を点ける。

煙草を吸いながら、ぼんやりと思う。この上の三太郎峠でもアマミキシタバが採れてる記録があるんだよなあ…。三太郎峠で灯火採集しとけば良かったかなあ…。近くはないが、湯湾岳よりもだいぶ楽な距離だ。
だが、すぐさまその考えを否定する。今さら後悔したってしようがないのだ。それに、こんなに悪い流れ続きだったら、どうせ採れなかっただろうし、また別な大きなトラブルに見舞われてたに違いない。
あー、ダメダメだ。珍しく完全にマイナス思考に囚われているよ。

この時点で、既に時計の針は午前3時を指そうとしていた。ここまで2時間か…。思ってた以上に時間を費やしている。

次の新和賀トンネルは何とか通り抜けたが、朝戸トンネルで再び強い睡魔に見舞われて停車した。
まあいい。今さら急ぐ理由なんて無いのだ。それにこのクソ長いトンネルさえ抜ければ、名瀬の街だ。宿までそう遠くはない。

午前4時。
やっとこさ朝仁まて戻ってきた。安堵と疲労とが同時に全身の隅々にまで広がってゆく。
コンビニの駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いだら、更なる安堵と疲労感、そして敗北感とが加わった何とも形容し難いような感情に包まれた。
或る種のトランス状態だったのかもしれない。全身がヘトヘトだけど、ヘラヘラ半笑いで、ふらつきながらコンビニに入る。
で、酒を買って、ついこんなもんまで買っちまう。

 

 
結局、マイフェバリットの鶏飯屋『みなとや』には行けてないし、無性に鶏飯を食いたくなったのだ。
だが、宿に帰って敗北感にまみれて酒を飲み始めたら、秒殺でそのまま昏倒してしまった。

しょっぱい夜だった。

                    つづく

 
追伸
この日が、奄美大島で最も過酷な1日だった。
昼間は蝶を採りいーの、夜は蛾を採りいーのの二足の草鞋は正直キツイ。体力的にも精神的にもシンドイのだが、中でも夜に酒飲みに行けないのが辛い。店で美味いもん食いながら酒を飲み、地元の人とワーワーやるのが大いなるカタルシスになっていたんだなと今更ながらしみじみ感じる。虫ばっか採ってると旅が味気なくなる事を痛感したよ。

 
(註1)点灯時刻か遅かったせいかハグルマは飛んで来なかった
Sくん曰く、ハグルマヤママユの灯火への飛来は日没後から1時間くらいが勝負らしい。エゾヨツメと同じで、それ以降は殆んど飛んで来ないらしい。もちろん例外も有るんだろうけどさ。

(エゾヨツメ♂)

(ハグルマヤママユ♂)

 
(註2)タッタカモクメシャチホコ
シャチホコガ科(Notodontidae)に属する中大型蛾。
前翅の地色は純白で、黒い内横線はジグザクで太い。

展翅してみてもカッコイイ。こうゆう白黒のスタイリッシュな蛾はノンネマイマイやキバラケンモンなど科を跨いでいくつかいるが、中でもコヤツはデカくてゴツいから他とは存在感がまるで違う。圧倒的な風格があるのだ。しかも他のものは下翅が純粋に白黒ではなくて、上翅とのデザインの連動性をあまり感じない。一方タッタカは下翅も白黒柄で上翅とデザインが一体化していて、全体に違和感がない。それに背中の柄の黒は、よく見ると群青色なのだ。これが高貴な感じがして♥️萌える。尚、展翅画像はピンチアウトで拡大できるので、そのコバルトブルーを是非とも確認されたし。

(ノンネマイマイ)

(2019.8月 長野県松本市新島々)

(キバラケンモン)

(2020.8月 長野県木曽町開田高原)

(ニセキバラケンモン)

(2020.9月 長野県松本市白骨温泉)

キバラケンモンとニセキバラケンモンは好きだけど、ノンネマイマイはキショイ。カッコイイかもと思って採ったけど、展翅してみたら残念な形と下翅でガッカリした。オマケに腹がピンク色で妙に色っぽいのが許せない。言ってしまえば安っぽい遊女みたいなのだ。
しかも大嫌いなマイマイガの仲間だと知ってからは憎悪さえ抱くようになった。マイマイガは大嫌いだから、成虫も幼虫も一切関わりたくない。
(´ε` )そんなこと言うなよーと言う人もいると思うけど、生理的に受け付けないんだから仕様がないんである。断固、キミたちとは袂を分かつ。

ノンネさんの事はどうでもいい。タッタカさんに話を戻そう。

【学名】Paracerura tattakana (Matsumura,1927)
小種名は、台湾の立鷹峰に由来する。おそらく最初に採集されたのが其処だったのだろう。和名もそれに連動しての命名だと思われる。
立鷹峰は台湾中部の南投県仁愛郷にある山で、蝶の採集地として有名な翠峰や梅峰近辺にあるようだ。ということは標高2000m以上ってことだ。おそらく2300m前後くらいはありそうだ。
尚、この地域にはホッポアゲハやアケボノアゲハ、アサクラアゲハ、スギタニイチモンジ、ダイミョウキゴマダラ、タカサゴミヤマクワガタなどがいる。

余談だが、台湾では「尖鋸舟蛾」と呼ばれている。
も1つピンとこないネーミングだが、コレは触角が鋸状なところからきているようだ。で、舟蛾はシャチホコガ全般を指す言葉なのだろう。確かに横から見れば、舟だと言われれば、そう見えなくもない。

本土産のものが、magniguttata (Nakamura,1978)として亜種記載された事があるが、現在はシノニム(同物異名)扱いになっている。

【開張】 ♂65〜72mm内外。 ♀72〜80mm内外
自分の採ったものは68mmだったから、矢張り♂だろう。

一応、♀の画像も貼り付けておこう。


(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

どうやら♀は♂と比して大きく、上翅の幅が広くて翅形が全体的に丸くなるようだ。

【分布】
分布は意外にも広く、ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』によると、本州、四国、九州、対馬、屋久島、沖縄本島、西表島、台湾とあった。おいおい、奄美大島が抜けとるぞー。
このサイトは蛾を種名で検索すると、どの種でも必ずと言っていい程に真っ先に出てくる。だから基本情報を知るのには重宝するし、有り難いのだが、重大な問題点もある。どうやら全くアップデートがなされていないようで、情報が致命的に古いのだ。ゆえに概要を知るのはいいとは思うけれど、それをまるっきり鵜呑みにする事はお勧めできない。一応フォローしておくと、何千種といる蛾の殆んど種の画像と解説があるから、その執筆の労苦たるや大変なものだったろう事は想像に難くない。それには素直に頭が下がるし、立派な業績だと思う。礎の役割は十ニ分に果たされておられると言っていいだろう。でもだからといってアップデートされないままの弊害は見過ごせない。間違った情報が流布し、混乱を引き起こすからだ。改善されることを望みます。

そうゆうワケなので、ここからは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の解説を混ぜて書き進めていく。この図鑑の情報が現在のところ最も信頼できるからだ。
その標準図鑑によると、分布は上記の他に「奄美大島とその属島」とシッカリ書いてあった。ほらね。
主に西日本に多く見られるが、分布は局所的。国外ではミャンマー、タイ、ベトナム、中国南東部、台湾に分布している。
知る限りでは垂直分布について言及されている文献は見当たらない。唯一見つけられたのが、ブログの記事で、『高知の自然 Nature Column In Kochi』というサイトに「高知県では低山地から標高の高い山まで広く分布している。」書いてあった。図鑑等で垂直分布についての記述がないのは、低地から高地まで広い範囲で得られているからなのだろう。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)
京都府:要注目種
岡山県:希少種

【成虫の出現期】 5〜8月
アレっ❓、採ったのは3月下旬だから、かなりズレがある。だから、みんなで作る図鑑は鵜呑みにはできないのだ。
コレに関しても直ぐに標準図鑑で解決した。南西諸島では3月と6月に採れ、本土では6月に出現するとあった。

【成虫の生態】
大概の文献には、夜間に灯火に誘引される事くらいしか書かれていない。それとて、飛来時刻の傾向さえも特には言及されていない。たぶん飛来はアトランダムで、傾向と言えるようなものはないんだろうけどさ。
昼間の静止場所とかも書かれてあるものは知り得ないし、成虫が何を餌にしているのかもワカラナイ。まあ、タッタカに限らず、蝶と違って蛾の生態はまだまだ解明されてない種類だらけなんだけどもね。
んっ❗❓、待てよ。とはいうものの、🎵もしかしてだけどー、🎵もしかしてだけどー、🎵シャチホコ蛾って何も食わんないんじゃないの〜❓

調べてみたら、何と近縁のオオモクメシャチホコの成虫は何も餌を摂らないそうだ。だからタッタカも何も食べない可能性が高い。どうやらシャチホコガ科全般がそうみたい。へぇー、デカいクセに何も食べないんだ…。
更にデカいヤママユの仲間は何も食わないとは知ってたけど、シャチホコくんもそうなんだ…。蝶をやってきた者としては、餌を摂らないなんていう概念は無いから驚きだよ。蝶で餌を摂らない種はいない筈たもんね。だから思ってしまう。
ヤママユもシャチホコも大型蛾だから、そんなんでエナジー保つのかよ❓ある意味、蝶よか進化しているのかもしれない。
ということは、タッタカって寿命は短いのかなあ❓

唯一、成虫の生態の一端を見つけられたのがネットからだ。
ブログ『昆虫ある記』に、タッタカちゃんを手に取ると、時に脚を縮めて腹部を大きく内側に曲げた状態が長く続く事があり、どうやら擬死行動のように見受けられるとの印象が書かれている。


(出展『昆虫ある記』)

自分が採った時には、そのような傾向は一切みうけられなかったが、画像を見ると自分にもそのように見える。
死んだふりする生き物って、わりと好感がもてる。何か健気で可愛いもんね。

【幼虫の食餌植物】ヤナギ科 イイギリ属:イイギリ(飯桐)
葉が大きく、昔は飯をこの葉でくるんだ事から名付けられたようだ。また別名にナンテンギリ(南天桐)があり、コチラは実が南天の実に似ていることに由来する。

標準図鑑によると、イイギリの分布とタッタカの分布は、ほぼ重なるらしい。だから主に西日本に見られるんだね。

(イイギリの分布)

(出展『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」』)

コレを見て、西日本ではこんなにも普通に生えてる木なのかと思った。だったら探せば意外と何処にでもいて、新たな産地がジャンジャンに見つかるんじゃないかと思った。
しかし調べ進めると、わりかし珍しい木のようで、山地でもあまり見られないそうだ。でないとタッタカが珍しいという説明がつかないもんね。但し、最近は公園樹として植栽されることも増えているらしい。
垂直分布はブナ帯下部らしい。もしタッタカの分布もそれに準ずるならば、標高1200m以下に棲息するものと考えられる。

(イイギリ)

(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『葉と枝による樹木図鑑』)


(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

多分、この木の実は見たこと事がない筈だから、やはり珍しい木なのかもしれない。因みに葉の印象は見たことがあるような無いような微妙な感じだ。でも桐の葉か何かと混同しているかもしれない。ようは同定に自信がないのだ。言い訳させて戴くと、植物の葉は遠縁の種であっても似たような形のものがワンサカある。どころか同じ種内であっても葉の形に変異が多いから、ワシらみたいな素人には植物の同定は容易(たやす)くはないのだ。

幼虫は、どんなだろ❓
でも蛾の幼虫は邪悪な姿をしたものが多いんだよねー。どうせ怖気(おぞけ)るから探すのやめとこっかなあ…。とはいえ気になり始めたら捨て置けない。恐る恐るで探してみたら、😱スゲーのが出てきた。


(出展『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』)

\(◎o◎)/何じゃ、こりゃ❗❓
である。見た瞬間は変過ぎてどっちが頭なのかさえ解らなかった。左側が頭なのだが、ワケわからんくらいに形が歪(いびつ)で、ニョキっとした手を含めての姿勢も何だか変だ。そして何よりも変なのは、その尾っぽである。まるで『帰ってきたウルトラマン』の怪獣、ツインテールみたいな奴ではないか。

(ツインテール)

(出展『怪獣ブログ』)

ツインテールって相当に変テコな奴だと思っていたが、タッタカベイビーの前では地味にさえ感じるじゃないか。自然が造りしもののデザインは、人間の想像力なんぞ遥かに超越しているのである。だいたいツインテールのデザインだって、そのオリジナル性は疑わしい。きっと何かの生物をモチーフにしたパクリもんだろう。
余談だが、ツインテールには「三つ編み(おさげ)」という意味もある。小さい女の子から女子高生とかまでに見られる髪型の事ね。そういや最近は三つ編みの女子高生って見掛けないよね。きっと絶滅危惧種だやね。

越冬態は蛹で、木の枝を噛み砕いて繭を作り、その中で蛹化するそうだ。全然関係ないけど、繭の中でひと冬を越すのって、どうゆう気分なのだろう❓
快適に惰眠を貪れて幸せそうだが、実際はそうでもないかもね。外の気象状況が気になって、おちおち眠れやしなかったりして…。寒波が来襲したり、大雨が降ったり等々、状況如何によっては生死に関わるからさ。生きるって大変なのだ。

尚、言い忘れたが、残念なことに標本からは油が大変出やすいそうだ。だとしたら悲しいよね。今のとこ、出てないけど。

 
(註3)白黒のユウマダラエダシャク系の蛾
このタイプの斑紋を持ったエダシャクは沢山いるからややこしいのだが、どうやらクロフシロエダシャクという種のようだ。

どうやらと書いたのは、にしては黒っぽいからだ。でも調べ進めると、この種は黒色斑紋の大小にかなりの変化があり、個体によっては外縁部が広く暗色で、白色の部分が極めて狭い者もいるらしい。で、ネットで色々と画像を見ると、確かに皆こんなに黒くなくて、そこいらにいる白黒エダシャクとさして変わらないように見える。正直なところ、ワシの嫌いなタイプの白黒エダシャクそのものだ。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

これがノーマルタイプだろう。もしも黒さがこの程度だったならば、絶対に無視していた筈だ。

似ていて同定間違いしやすいのが、クロフオオシロエダシャクとタイワンオオシロエダシャク。こっちの方が基本的に黒い。

(クロフオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
(タイワンオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

この2種と比べてクロフシロエダシャクは、前翅の横脈紋がより明瞭で、その外側の黒色の小紋からなる外横帯をそなえる。後翅は外縁部と亜外縁部がより小型で、並び方は不規則。
専門用語だらけでワケわからんが、ようするに違いは後翅には黒斑が少なくて白い部分が多い。あと一番わかり易いのが、背中側から見た腹部の地色が黄色いことである。他2種は、ここの地色が白いから容易に区別できる。ただ、ボロ個体だと色褪せするから同定は困難になるかもしれない。
変わった見分け方もあって、灯火採集などの折に白布に静止している時は多くの個体が触角を後ろ向き(背中側)にしている事だ。大概の蛾は静止時には触角を前側か真横にしている。エダシャク亜科に属する蛾も、その例に漏れない。だからコレは例外中の例外の事らしい。但し全ての個体がそうではなく、たまに横向きにしているものもいるようだ。

一応、♀の画像も貼付しておこう。

(クロフシロエダシャク♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

雌雄の違いは♂の触角は繊毛状なのに対し、♀は微毛状。また♂の前翅基部に刻孔があり、中脚の基部と腹部基部側面に一対の黒い毛束があるそうだ。
本文中の横向き画像だけでは心許ないので、参考までに反対側の横向き画像も貼り付けておく。

見ると、厳密には確認できないものの、♂っぽい。また♂には脚に毛束があるとも言うし、それはあるみたいだから♂かなあ…。
触角は繊毛っぽいけど、微毛にも見えなくもない。そもそもが繊毛と微毛の定義って何じゃらホイ❓どこまでが繊毛で、どこからが微毛なのだ❓両者の境界が今イチわからん。まあ、♂で間違いなかろうかとは思うけど。

後回しになってしまったが、主たる種解説をしておく。

【学名】Dilophodes eleganus (Butler,1878)
日本産が原記載亜種で、中国西部、インド、ボルネオ島から、それぞれ別亜種が記載されている。
参考までに付記しておくと、Dilophodes属の基準となるタイプ種は本種で、他に本属に含まれるものはインド北部から1種が知られているのみである。

【開張】35〜48mm
『日本産蛾類標準図鑑』ではそうなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には39〜43mmとなっている。
因みに今回採集したものを測ると49mmもあった。とゆう事は、もしかして♀❓まあ、どっちだっていいけど。

【分布】
本州、御蔵島(伊豆諸島)、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、石垣島、西表島で、関東地方より西に多産するそうだ。
(´ε` )チッ、何だ普通種かよ。ガッカリだな。きっと黒いタイプじゃないノーマル型は、知らぬうちに何処かで見ているのだろう。たぶん興味がないから頭の中では厳密には区別されておらず、皆同じに見えているものと思われる。
参考までに書いておくと、以前は北海道も分布地に挙げられていた。しかし確実に分布する地域が見つかっておらず、よって除外されたという経緯があるそうだ。
国外では、台湾、中国、インド、ボルネオ島に分布する。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)

【成虫の出現期】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、4E-7E,9Mとなっていた。つまり4月下旬から7月下旬と9月中旬に見られるということだ。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には3〜5月と7〜8月となっていた。但し、発生は地域によって多少異なるとも書かれてある。おそらく標準図鑑の方が概ね正しく、一部が9月にも見られるのだろう。ザツいけど(笑)。
尚、2化目の個体は1化目と比べて明らかに小型らしい。見つけたのが1化目で良かったよ。これよか小さかったら、たとえ黒くとも無視だったろう。

 
(註4)『シャイニング』


(出展『映画.com』)

1980年に劇場公開されたホラー映画の金字塔。ホラー映画のみならず、ジャンルを超えて、その後の多くの作品に多大な影響を与えたと言われている。
監督は、巨匠スタンリー・キューブリック。天才キューブリックがホラー映画を撮ると、こうなるんだと感銘を受けたのをよく憶えている。キューブリックは難解だとよく言われるが、この作品は比較的わかり易い方なので猿でも楽しめるだろう。
主役を演じるのは、名優であり、怪優でもあるジャック・ニコルソン。あの鬼気迫る表情が、まさかのノーメイクで演じられていたという伝説が残っている。

この映画、何が怖いかって、先ずは子供の乗る三輪車がホテルの廊下を走るシーンだろう。それを背後から追いかけるローアングルの映像が心臓バクバクものなのだ。
幻のBarのシーンも怖い。ジャックとバーテンダーの交わされる会話は一見普通なのだが、ズレがあって、それが見てる側の動揺を誘う。そして、そこには何とも言えない静謐な緊張感が漂っており、表面的な驚かし系の怖さとはまた違ったうすら寒いような怖さがあるのだ。
勿論、徐々に気が狂ってゆくジャック・ニコルソンも怖い。あまりにも怖すぎて、それが突き抜けてしまい、笑っちゃうくらいだ。奥さんの絶叫する顔も恐ろしい。けど一番怖いのは、何といっても双子の女の子だ。アレにはマジで心臓が止まりそうになった。

言い忘れたが、原作はこれまた巨匠であるスティーブン・キングだ。但し小説と映画とでは内容が異なり、キューブリックによって大幅にストーリーが改変されている。キングはコレに激怒し、事あるごとに、この映画とキューブリックを執拗に攻撃し続けている。まあ、全然別な話にすり替えられたようなもんだから、キングが怒るのも理解できる。キングが小説で伝えたかった事が完全に無視されてるからね。
尚、小説の方も読んだけど面白かった。内容は映画と比べて、もっとスピリチュアルな話で、超能力を題材にしたものだったという記憶がある。そうゆう意味では小説の方が奥深い内容ではある。だいぶ昔に読んだので、間違ってたらゴメンナサイだけど。

 
(註5)アマミヤマシギ

(出展『おきなわカエル商会BLOG』)

全長約40cm程のシギ科の鳥で、全身は茶色、頭部に黒い横斑をもつ太ったシギである。日本の固有種で、奄美群島と沖縄諸島にのみ分布する。だが繁殖が確認されているのは奄美群島だけで、同島で繁殖したものの一部が沖縄に渡るのではないかと推測されている。
成熟した常緑広葉樹林に生息し、冬の終わりから春にかけて地上で営巣する。活動は主に夜間で、ミミズなどを捕食する。個体数に関するデータは乏しいが、1990年代になって激減している事が推察され、特に名瀬や龍郷町ではほとんど見られなくなったという。減少要因として、森林の伐採、ネコやマングースなどの外来種による捕食が指摘されている。種の保存法により、1993年に国内希少野生動植物種に指定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種II類(VU)に指定されている。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑1』
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『蛾色灯』
◆『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』
◆『昆虫ある記』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『DearLep圖錄檢索』
◆ Wikipedia
◆『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」
◆『葉と枝による樹木図鑑』
◆『plantidentifier.ec.ne.jp』
◆『エムカクon Twitter』
◆『怪獣ブログ』
◆『映画.com』
◆『おきなわカエル商会BLOG』

 

奄美迷走物語 其の14

 

第14話『奄美迷走ドン底物語』前編

 
2021年 3月29日(夜編)

『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』
『\(◎o◎)/マジー❗』

この期に及んで約束反故かよ。(´ω`)そりゃないよ。
口には出さなかったが、そう思った。若い頃のオラなら『おどれ、キンタマついとんかい❗❗』とか凄んでたかもね(笑)。
きっと今時の若者の間では、今や「男の約束」とかって言葉は死語なんだろね。昔は男同士の約束はそう簡単には破れなかったものだ。男の約束は絶対だとガキの頃から教えられてきたからね。破ったら男としての価値がダダ下がりになった。彼女との約束よりも男同士の約束の方が重要視されていたりしてたのだ。そもそもが幼少の頃からオカンとかに『アンタ、男でしょう❗泣きなさんなー❗❗』と言われ続けてきたのだ。他の家庭でも大体そんな感じだった。男は人前で泣いてはならない時代でもあったのだ。とはいえ、ワシらの世代が成人した前後くらいから泣く男が急増したんだけどもね。いかんいかん、いつもながらの事だが完全に脱線マンじゃよ。m(_ _)mすまぬー。
まあ、昔とは時代が違うからね。今の若者には理解不能のルールだから仕方ないよね。怒ることじゃない。とにかく、彼は断る理由を言わなかったし、コチラも訊かなかった。大方、行くのが面倒くさくなったのだろう。それは理解できる。湯湾岳までは遠いのだ。だから『マジー❗❓』とは言ったが、それ以上は何も言えなかったのだ。
まあ言ったところでどうにかなるとも思わなかったし、ごちゃごちゃ文句を垂れれば垂れるほどカッコ悪いだけだ。また、どれだけ巧妙に説得したところで、Sくんみたいなタイプは意志が固そうだから説得するだけ時間の無駄だとも感じた。
そもそも東京の人は情が薄いもんね。十年住んだから身に沁みて知っているのだ。いや、そうゆう言い方はヨロシクないな。単に大阪が他よか情を重視する土地柄だから、そう思ってしまうのだろう。それにドライにハッキリと物事を言うのは悪い事ではないからね。あっ、付け加えておくと、もちろん東京時代にも情に厚い人は結構いました。薄いと行ったのは、あくまでも相対的にって事ね。

(-_-;)むぅ…。やっと良い流れになったかと思ったら、フタオチョウの♀を逃して再び悪い流れに逆戻り。その後、アカボシは振り逃すし、「蝶屋(てふや)」のブログの内容(註1)が眉唾濃厚だと判明するという最悪の流れになってきてる。でも今さら湯湾岳に行かないワケにはいかない。どうしてもアマミキシタバ(註2)を採らねばならぬのだ。その可能性が一番高そうなのが湯湾岳なのである。たとえSくんの車と強力なライトがなくても行くっきゃない。条件は厳しくなるが、原チャリで行って、なんちゃってライトで勝負するしかあるまい。
正直、苦難が待ってるのが解っているのに立ち向かうってのはキツいよなあ…。

呪わしくも、腹ごしらえに出発前に急いで食ったカップ麺まで今イチだった。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛 塩担々麺』。スーパーマーケットのタイヨーで特売の98円で売っていたものだ。

 

(出展『グルコミ』)

 
今まで書いてこなかったが、食いもんやお茶はこのスーパーかコンビニ(ファミマ)で買う頻度が圧倒的に多かった。どちらも幹線道路沿いにあり、知名瀬方面に行く時はタイヨーへ、名瀬方面に行く時はファミマを利用していた。

まだ残っていたニラを使い切るためにブチ込んでやった。

 

 
けど、たいして旨くない。何か今を象徴しているようで泣きたくなってくる。この先、ロクな事がなさそうなことを暗示しているようではないか。前途多難だ。

奄美大島最高峰の湯湾岳のある宇検村に行くには大きく2つのルートがある。

 

(出展『ねりやかなや』)


(画像はピンチアウトすると拡大できます。)

 
朝仁からそのまま北側の道路を走るルートと朝仁から一旦名瀬に戻ってから南側を走るルートだ。どちらも距離的には同じようなものだから(註3)、どちらを選択するかは悩むところだ。北側ルートは海岸線の道で曲がりくねっており、アップダウンも多いから疲れる。一方、内陸を通る南側のルートはアップダウンが少なくて直線が多いがトンネルだらけだ。しかも長いトンネルが多いから、これまた疲れる。精神的にキツいのだ。尚、北側のルートは戸内までしか行った事しかなく、南側のルートは西仲間までしか行ったことがない。つまり、どちらもルート半ばくらい迄であり、その先は未知の世界なのだ。時間的な余裕はないだけに、ここは思案のしどころである。できれば日没前までに到着しておきたいのだ。
朝に宿のオジーとオネェーに、どっちが時間的に早いかと訊いたら、どちらも同じくらいで1時間から1時間半くらいだと言ってた。しかし二人ともあえて言うと北ルートかなと言う答えだった。地元の人がそう言うんだから、ここは素直に北側ルートを選択すべしという結論に至った。悪い流れになってるが、気持ちを切り替えて気合いを入れていこう。

午後5時15分。
大きく息を吐き、スロットルをグッと回した。

戸円までは順調だった。海沿いを走るのは気持ちがいいし、気分はアゲアゲ⤴️の御機嫌だった。この調子でいこう。良い流れになってきたんじゃないのー❓
そして名音を過ぎたところで標識が目に入った。そこには「←奄美フォレストポリス・湯湾岳」とあった。どうやら左の林道を走れば、ショートカットになりそうだ。日没前までに湯湾岳展望台に着けるかどうかはギリギリだろうと思っていたので、渡りに船だ。ラッキ〜(◍•ᴗ•◍)❤、迷わず林道に突っ込んでゆく。

20分程走ったところで、段々不安になってきた。道は次第に荒れ始め、ドンドンうら寂しくなるし、道標が出てこないのである。そんな折、前から軽トラックが走ってきた。慌てて止めて道を尋ねる。
『この道って湯湾岳に行きますか❓』
『行くよ。でも湯湾岳には行けないよー』
一瞬、オジーの野郎、この期に及んでナゾナゾをフッ掛けてきたのか❓と思った。
(?_?)はあ❓キョトン顔になる。
『✦§∇♪€#○÷<崖崩れ■〆☆¶♬∞』島言葉なので何言ってるのかよくワカンなかったが、辛うじて崖崩れという言葉を拾えた。
『崖崩れで行けないって事ですか❓』
オジーはそれに対して再び島言葉でまくし立てた。意味不明だが、ニュアンスで通れないとゆうことは理解できた。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻ガッデーム❗
完全にやっちまったな。今から引き返すとなれば、時間的ロスは40〜50分くらいになる。どう考えても日没までには着けそうにない。

幹線道路に戻るが、既に日没が近づいていた。
午後6:25。そして志戸勘で壮絶な夕暮れになった。

 

 
怖いほどに美しい。
そして、前途を不安にさせる空だ。

程なく山道になった。きっと海岸線の地形が険しくて道路が作れず、山越えになったのだろう。しかも本格的な山越えのようだ。グングンと高度が上がってゆく。
登りきる手前で対面交通の信号で止まった。奄美って崖崩れが多いんだよなあ…、そう思った時に急に違和感を覚えた。
(゜o゜;レレレ❗❓、なーい❗
背中に袈裟がけで背負っていた筈の長竿がないのである。
おそらく夕陽の写真を撮る時に邪魔なので下にでも置いたのだろう。そして慌てていたので、そのまま地面に置きっぱなしにして出てしまったのだ。
仰天して山を下りる。更なるロスに心が折れそうになるが、そんな事よりも誰かに持って帰られる事の方が遥かに心配だった。もしも失くしたら、ただでさえ弱い戦闘能力が大幅に削がれる。となれば、惨敗色がいよいよもって濃厚になる。

(☆▽☆)あった❗❗
夕闇の中、慌てて駆け寄り、拾いあげる。
辛うじて首の皮一枚で繋がった。とはいえ、又しても大きな時間ロスである。行き場のない感情に深い溜息をつく。余程このまま帰ってやろうかとも思った。でも敵前逃亡、戦(いくさ)もせずにおめおめと帰るのは末代までの恥だ。たとえ負け戦であろうとも戦って散った方が、まだしも魂は救われる。

再び、山を登り返す。
しかし登りきっても下りにはならず、尚も山パートは続く。
そして、気がついたときには辺りは完全に闇の世界に支配されていた。心細いくらいに真っ暗だ。対向車も全くない。
いつ終わるか、いつ終わるかと思いながらスロットを開け続けるが、山道は延々と続いた。不安と焦燥で心がズタズタになってゆく。

やっと海岸に出たのは30分以上あとであった。こんなに遠いとは思いもよらなかった。ところでこの道って本当に宇検村に向かっているのか❓もしかしてタヌキ…否、奄美の妖怪ケンムン(註4)に化かされていて、永久に着けないんじゃないかとさえ思えてきた。
集中力が切れかけていたし、自分が今何処を走ってるのかさえも分からなくなっていたので、トンネルを抜けたところでバイクを停めた。
表示を見ると、生勝トンネルとなっていた。
地図で場所を確認する。宇検村までは近い。遠目に、らしき町の灯りも見える。
しかし、そこからが思った以上に遠かった。道は海岸線に沿ってウネウネと続くので、宇検村の町の灯りが全然近づいてこないのだ。しかも街灯が殆どなくて真っ暗けなので、心細さで気力が砂のように削り取られてゆく。

30分程かかって、やっとこさ宇検村に入った。さあ、あとは湯湾岳の展望台まで登るだけだ。
だが、今度は展望台に繋がる道が見つからない。そして道を尋ねたくとも人っ子一人いない。またまたの想定外の連続に💧涙チョチョギレそうになる。
入る道が見つからないまま、村を通り抜ける寸前で犬の散歩をしている御夫婦を見つけた。藁をも掴む気持ちで道を訊く。
そこで驚愕の事実が伝えられる。
『展望台へ行く道は崖崩れで通れないよ。』
ヽ((◎д◎))ゝマジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗
冗談を言ってる場合ではない。やっとの事でここまでやって来たのに、その苦労が全て水の泡になってしまうではないか。もう死にたいよ。
呆然としていると、お姉さんが少し考えてから言った。
『でも別なルートでも上がれた筈』
お姉さん曰く、遠回りだけど、この先に上がれる道が他にあるらしい。但し、そっちの道も土砂崩れで行けるかどうかの保証はないとの事。

道の入り方を詳しく訊き、礼を言って走り出す。
これこそ首の皮一枚である。運はまだある。どうなるかは分からないが、その道に賭けよう。

街灯が殆どなくて暗いので見つけられるかどうか不安だったが、わりと簡単に見つかった。この道が本当にそのルートなのかはワカンナイけど…、行くっきゃない。

最初のうちは走りやすい広めの道だったが、そのうち森深い林道になって、深山幽谷の趣きを呈してきた。道は落葉だらけで走りにくい。
途中、黒いものが道を横切って振り向いた。
特別天然記念物のアマミノクロウサギちゃん(註5)だ。奄美大島来訪4度目にして初めてお目にかかった。
しかし感動は薄い。それどころではないのだ。一刻も早く展望台に着いて灯火採集をしなければならんのだ。
されど、この道も長かった。走っても走っても辿り着かないのである。40分近く走って漸くらしき場所に差し掛かった。

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽてちーん。死んだ。

                              つづく

 
追伸
一回で終わる予定が、書いてるうちに当時の事が甦ってきて長くなった。なので2回に分けます。

 
(註1)「蝶屋(てふや)」のブログの内容
フタオチョウは、夏型はフルーツトラップに誘引されるが、春型は寄って来ないとされている。しかしブログには春型も寄って来るような事が書いてあった。稀に寄って来る事もあるのかもしれないが、基本的にはアカボシゴマダラも含めて来ないと思っていた方がいい。

 
(註2)アマミキシタバ

(出展『世界のカトカラ』)

学名 Catocala macula
ヤガ科カトカラ属の蛾で、現在のところ奄美大島、徳之島、沖縄本島、屋久島、鹿児島本土から記録がある

 
(註3)どちらも距離的には同じようなものだから
調べてみたら、南側ルートは48.4km。北側ルートが58.9kmであった。何と10kmも差があるじゃないか。おいおいである。南の島の人が言うことは、てーげー(テキトー)だという事を忘れてたよ。

 
(註4)ケンムン
奄美大島のカッパに似た伝説の妖怪。詳細は第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』に書いた。

 
(註5)アマミノクロウサギちゃん

(出展『あまみっけ』)

学名 Pentalagus furnessi
ウサギの1種で、奄美大島と徳之島だけに分布する。普通のウサギと比べて耳や鼻骨が短く、足も短い。この短い後肢は急峻な山を登り降りするのに適している。原始的なウサギと考えられており、メキシコウサギやアカウサギと共にムカシウサギ亜科に属し、「生きた化石」的な存在である。1921年(大正10年)に動物では初めて国の天然記念物に指定された。また1963年(昭和38)には特別天然記念物にも指定されている。夜行性で岩の下や地中に穴を掘って棲む。10~11月と4~5月の年2回の繁殖期があり、通常は1頭、稀に2頭の子供を産む。生息数は2000〜4800頭と推定されるが、森林破壊などで絶滅が心配されている。但し、最近は増加傾向にあるという。

 

奄美迷走物語 其の12

 
第12話『手のひらの中の黄色いモスラ』

 
2021年 3月28日 ―夜編―

昨晩、虫屋ツイッター界で有名なSくんに、明日は灯火採集へ連れていってくれとせがんだ。自分の何ちゃってライトトラップよりも遥かに強力なライトセットを持っていると知ったからである。彼は基本的には蝶屋で、今回の主目的はフタオチョウ&アカボシゴマダラ採集のようだが、蛾のハグルマヤママユ(註1)も狙っていて、その為にライトを持参していたのだ。
正直、度重なる惨敗により、自分のライトでは限界を感じていた。何ちゃってなだけに光が届く範囲がメチャンコ狭いのだ。

 

 
となれば、遠くの者は惹き寄せられない。イコール、集まって来る蛾の数や種類数もたかが知れている。徒手空拳だ。日々、その絶望的なまでの貧果に半ば途方に暮れていたのである。ようするに、メインターゲットの1つであるアマミキシタバを採るのは極めて困難な状況下におかれているという事だ。

 
【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

 
このままだと惨敗必至だ。負け犬という名の犬が、舌を出してヘラヘラ笑いながら近づいて来るのが目に浮かぶ。いくら上手い言いワケで取り繕ったところで、採れなければ💩ウンチくんだ。もう形振(なりふ)りなんて構ってらんない。どんだけカッコ悪かろうとも千切れんばかりに尻尾を振ってやるぜ。
それに自分もハグルマヤママユは一度は見てみたかった。ヤママユの仲間は蛾にしては好きな方だし、恋い焦がれるという程ではないにせよ、そこそこには憧れてはいたのだ。アマミキシタバが採れて、ハグルマヤママユまで見られれば、万々歳じゃないか。加えて、もう夜の森に一人ぼっちで行くのはウンザリなのだ。マジ怖くて嫌なのだ。
頼むぅー、連れてってくれよー(´ε` )
心の声を、そこまで露骨には言っていないが、それとなくストレートには言った。

『自分のライトでは2時間しか保ちませんが、それでもいいですか❓ 夜遅くまでは付き合いませんよ。』
(☆▽☆)よろしゅうございますとも旦那様。連れて行って下さるのなら何だっていいでがんす。

雨が心配だったが、予報では何とかなりそうな雰囲気だったので出動決定。Sくんの車で知名瀬林道へと向かう。

午後6時半頃、日没と同時にライト点灯。
HIDライトは想像以上に強烈だった。光の束の指先が遠く離れた山肌にまで届いている。コレだけ強い光ならば、かなり遠くにいる蛾も呼び寄せることができるだろう。

実際、すぐにライトの周りは蛾だらけになった。ワシの何ちゃってライトとは効力に天と地ほどの差がある。やっぱ軽くて安いアイテムで、お手軽に済まそうなどというセコい根性では良い虫は採れない。

点灯後、10分と経たずに真っ黄っきーの蛾が向こう正面から近づいて来た。(・o・)何じゃらホイ❓ 遠いし、直ぐには脳のシナプスが繋がらなかった。

Sくんが声を上げる。
『あっ❗、ハグルマヤママユ❗❗』
(☉。☉)えっ❓、あれがそうなの❓もっと大きいものを想像してたよ。

それにしても飛び方がワチャワチャで軌道が無茶苦茶だ。ヤママユガの仲間は飛び方が雑(ザツ)くて、落ち着きがない。最後は地面を転げ回るようにしてライトへ近づいて来るケースも多い。ひっくり返ってジタバタしてたりもするからソッコーで回収しなければならない。でないと、あっという間にボロボロになりかねないのだ。
Sくんも、そのワチャワチャに翻弄されてキャッチできない。ボロにしたくはないから焦ってSくんまでもワチャワチャな動きになっとる(笑)。でも人のことは笑えない。ワシだってエゾヨツメ(註2)の時は、あんな風にドジョウすくいのオッサンみたくなってた可能性が高いからね。
彼が数度空振りして見失った。でもってライトから離れて飛んで行きそうだったゆえ、咄嗟に網を伸ばして入れてしまった。
フォローのつもりだったので、網のままSくんに差し出す。
『悪かったかな❓逃げそうだったからさ。』
人によっては自分で採らないと気が済まなくて、他人が網に入れたものを貰うのを嫌がる人もいるからね。
幸いSくんはそうゆう人ではなくて、問題なく素直に受け取ってくれた。めでたし、めでたしである。アマミキシタバが飛んで来たら貰おうという下心があるから、彼の機嫌を損なうことは絶対に避けねばならぬのじゃ。あっし、アマミキシタバの為なら滅私奉公するのも厭わない所存でごわす。

せっかくだから、写真を撮らせてもらう。

 

 
黄色いチビっ子モスラだ。
思ってた以上に鮮やかな黄色で、思ってた以上に小さい。大きさはヒメヤママユくらいだろう。いや、もっと華奢なような気がする。

彼が直ぐに2頭めを採ったところで、また飛んで来たのでネットイン。
したら、Sくんが
『いいですよ。持ってて下さい。』
と言ってくれた。
優しいねー。アリガトねー(☆▽☆)

 

 
掌の中におさまってしまうサイズだ。
ミニチュアの黄色いモスラみたいでカワイイ💖
さあ、あとはアマミキシタバ様だ。五感爆発、目を皿のようにして飛んで来る蛾たちを素早くチェックする。先に見つけて採ってしまえば、Sくんも進呈してくれるだろうというセコい算段なのだ。まあ、Sくんはアマミキシタバにはあまり興味がなさそうだから、彼が採ったとしても恵んではくれそうなんだけどもね。
でもさあ…、貰うと流石に自分で採ったとは言えないよな。あっ、この言い草ではワシの方が余っぽど自分で採らないと気が済まない主義の人じゃないか。幾つになっても心に余裕が無いわ。誠にお恥ずかしいかぎりである。

そういえばこのあと、自分に向かって飛んで来た大型の蛾がいたなあ…。まだまだ蛾は恐いので、一瞬ビビッて後ろにバックステップしたんだよね。しながらも網先は反応していて、右から左に撫で斬りにしてやった。目ぼしいものがいたら採ってお渡しするという滅私奉公の気持ちを忘れるところじゃったよ。気持ちが悪いので危うくスルーするところだったわい。
Sくんに、「こんなん採れたよー」と網ごと持ってったら、
『コレ、友だちに頼まれてたんですよー。しかも♀じゃないですかあ❗』
という意外な返答が返ってきた。まさか、んなもんに価値があるとはね。何だか知んないけど、お手柄やん、オラ。
どうぞどうぞ、持ってておくんなせぇーだったけど、今にして思えば、アレっていったい何だったのだろう❓
Sくんは種名を口にした筈だが、興味が無かったからインプットされていないのだ。シャチホコガの仲間だったような気がするが、南方系のヤガだったかもしれない。今になって急に気になってきたよ。結構、レアな奴だったかもしれん(-_-;)
べつに惜しくはないけれど、何だったかを知りたいよ。

午後8時過ぎ。月が昇ってきた。

 

 
天気予報では晴れるだなんて情報は皆無だったから驚きだ。
昼間ならば、スーパー晴れ男の面目躍如だと宣いところだが、最悪だ。Sくんも嘆いている。灯火採集に月はヨロシクないのだ。月の光に影響されて、ライトに飛んで来る虫の数がガクンと減るのである。だから曇りの日や新月などの月が隠れた条件の方が断然に良いとされている。
ってことは、
ダァーッ(T0T)、
アマミっち、飛んできぃひんがなー❗

案の定、ピタリと飛来が止まった。
そして、ついぞアマミキシタバはその姿を現す事はなかった。
又しても敗北である
でも、そんなに悪い気分ではなかった。
初めてハグルマヤママユが見れたのは嬉しかったし、Sくんが湯湾岳の灯火採集にも連れてってくれると約束してくれたからね。湯湾岳が一番アマミキシタバが採れる可能性が高いのだ。あそこに行ってSくんのライトがあれば、勝利は半分は約束されたようなものだ。月さえ出なければ何とかなるだろう。
流れは良くなってきている気がするし、
シャアー(ノ`Д´)ノ❗
明日こそは絶対にリベンジしてやる❗

まあるい月を眺めながら、そう心に固く誓った。

                         つづく

 
追伸
午後9時過ぎには撤退した。
この日に採れたハグルマヤママユは、Sくんが4♂、自分が2♂の計6頭で、♀の飛来は無かった。♂の鮮度は良かったような気がするから、或いは♀は未だ羽化していなかったのかもしれない。あくまでも素人的な考えだけどさ。

どうでもいいような事だが、この日に帰って来て食ったものを載せておく。

 
【イカ下足(げそ)とニラの炒め】

 
夕方、キオビエダシャクを採った帰りにスーパーに寄って値引されていた烏賊ゲソを買ったのだ。ニラは前日に2束60円で買ったものの残りだ。
味付けの詳細は忘れたが、旨かったという記憶だけはある。そういや「サトウの御飯」的なものをレンチンしたなあ。たぶん最初は酒の友で、最後には御飯のお友になったんだろね。
あっ、ゴメン。もといです。それは翌日だったわ。残ったものを白飯に乗っけて食ったのだ。この日の炭水化物は↙️コレでげす。

 
【高菜ラーメン】

 
コレもスーパーで買ったものだ。
値段は確か98円だったと思う。安かったのもあるが、九州ローカルのカップ麺だったからだ。
旅に出ると、日本でも海外でも割りと積極的にカップ麺を食う事にしている。その地でしか中々出会えないものだし、現地で食うと旨いような気がするのだ。遠く離れた場所にいるという確固たる証拠みたいなものだから、あ~遠くまで来たんだなあ…というしみじみ旅情にも浸れるしね。

 

 
九州といえば、高菜漬けである。と思って買ったのだが、可もなく不可もなくのフツーの味でした。っていうか、何だか虚しい気持ちになったのを思い出したよ。
考えてみれば全然外に飲みに行けてないじゃないか。行ったのは来島初日の「脇田丸」だけだ。それも小1時間だけで、タケさんも辞めてて全然楽しくなかった。改めて気づいたけど、旅の醍醐味は晩飯を何処で、そして何を食うかなんだよなあ。美味いもん食って、酒をガンガンに飲んで、現地の人たちと話すのが楽しいのだ。それが結局はカタルシスにもなっていたのだ。ひいては翌日の採集にも良い影響を与えていたに違いない。

 
(註1)ハグルマヤママユ
ヤママユガ科(Saturniidae)
ヤママユガ亜科(Saturniinae)
Loepa属

 

 
🥰美しいねー。
鮮やかな黄色にピンク色の眼状紋が配されている。このビビットなコントラストがいい。ボップだ。黄色にピンクというのは可愛らしさ感が満載なのだ。
それを引き締めるかのような黒い波状線がまた何とも心憎い。しかも波状線は黒だけでなく、白や青みを帯びた銀もある。艶やかにして粋(いき)。この美しさには誰しもが瞠目せざるおえないだろう。
ヤママユガ科の蛾は美しいものが多いが、中でもハグルマヤママユはトップクラスに美しいと思う。ヤママユガの中では小さいと云うのもキュートな感じがして好ましい。惜しむらくは尾状突起がない事だ。もしも長い尾っぽがあれば、世界の美しいヤママユたちにも引けを取らない存在になっていただろう。

 
【♂】

 
触角が上手く整形できてないから65点の展翅だな。
なんか面倒くさくなってきて、妥協したのだ。蛾の殆んどの種が触角整形ウザすぎ。ビシッと蝶みたくには決まってくれないのである。たとえ決まったとしても、時間が経つと狂ってくるしさ。そうゆうとこも忌々しい。

【学名】Loepa sakaei Inoue, 1965
属名”Loepa”の由来は調べたがワカラン。
小種名”sakai”は、たぶん人名由来で、坂江?栄?坂枝?漢字はワカランがサカエさんという方に献名されたものだろう。

【和名】
漢字で書くと、たぶん「歯車山繭」となるのだろう。
ヤママユの仲間は皆さん眼状紋があるけど、周りの波状の線のせいで動的に見えるから歯車ってつけたのかな❓いや、単純に波状線がギザギザだから、それが歯車みたく見えるって事か…❓
由来はさておき、中々良い和名だと思う。早口言葉で三回続けて言うと絶対に噛みそうだけどね。
っていうか、ワシなんて早口だと1回だけでも「ハグルママヤヤム」になってしまう。
そういや、ヒメヤママユの事を何度も「ヒメマヤヤム」と発音してしまって、小太郎くんに『それってワザとでしょう❗』とツッコまれたなあ…。しかし、断じてそのような事はござらん。少なくとも最初の頃は完全にナチュラルです。

【英名】GOLDEN EMPEROR MOTH
ゴールデンエンペラーモスということは「黄金の皇帝蛾」ってワケか…。「黄金の」というのはまだ理解できるが、「皇帝」というには小さすぎるよね。せめて”small”は入れて欲しかった。それならば、逆説的な含蓄もあって、惹きつけるネーミングだと思うけどね。

【分布】 奄美大島,徳之島,沖縄本島北部
他に最近では宮古島でも採れているみたいだ。
ハグルマヤママユの類は東南アジアに広く分布しており、似たようなのが沢山いて、従来は”tkatinka”としてひと纏めにされていた。日本のものも、その1亜種とみなされてきたのだが、近年になって分類が進み、その多くが種に昇格したという。日本産も現在は別種とされ、日本固有種となったようだ。

【レッドデータブック】
・国:準絶滅危惧(NT)
・沖縄県:D(希少種)

【開張】♂80mm内外。♀83mm内外。
♀は、より大型で翅に丸みを帯び、触角の枝が短い。また腹部も太いことから、判別は比較的容易みたいだ。

【成虫の発生期と生態】
3月から11月まで見られ、数度にわたって発生を繰り返すという。発生回数と時期は図鑑によって微妙に異なるが、概ね3〜4月、5月下旬〜6月、8〜9月の発生が基本で、10〜11月にかけても少数が発生するのだろう。だが、年3化なのか4化なのかはハッキリわかっていないらしい。
尚、個体数が多いのは5月下旬と9月だという見解があるが、鵜呑みにはしていない。場所やその年の天候にも左右されるだろうし、蛾は有名種でも蝶みたく生態が詳細には解明されていないものが多いからね。
さておき、改めて思ったんだけど、南方系の種だけあって年3化以上もするんだね。本土のヤママユガの仲間は年1化が基本で一部が2化だから、何だかイメージに齟齬を感じるよ。

山間部に見られ、麓ではあまり見られないそうだ。
灯火採集をすると、日没後すぐに飛んで来る。Sくん曰く、一挙に飛んで来て、その後は次第に数を減らし、午後9時を過ぎると殆んど飛んで来ないらしい。だとしたら、エゾヨツメと飛来パターンの傾向が同じだね。個人的見解だが、おそらく採集するには日没後1時間が勝負なのだろう。
 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、ブドウとあり、ヤブカラシ(ブドウ科)でも飼育できるとあった。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には、シマサルナシ(マタタビ科)とあった。補足すると『いもむしハンドブック』には、ツタ(ブドウ科)でも飼育可能と書いてあった。
幼虫は5齢が終齢で、カレハガの幼虫に似ている。ヤママユらしからぬ茶色モジャだす。かなり厳(いか)つくて😱恐いだすよー。
尚、越冬態は何でか知らんけど不明のようだ。

 
(註2)エゾヨツメ


(2017.4 兵庫県宝塚市 武田尾)


(2018.4 兵庫県宝塚市 武田尾)

 
ヤママユガ科(Saturniidae)
エゾヨツメ亜科(Agliinae)
Aglia属

【学名】 Aglia japonica Leech, 1889
属名の”Aglia”は、おそらくギリシャ神話の、輝きを象徴する女神である「Aglaea(アグラエア)」あたりが語源だろう。間違ってたらゴメンやけど…。
小種名の”japonica”は「日本の」という意味である。たぶん最初に日本(北海道)で発見されたからだろうね。
以前は北海道のものを原記載亜種とし、それより南に分布するものには「microtau」という亜種名が与えられていた。しかし明確に区別が出来ない事から、現在では原記載亜種に統一され、この亜種名は使われていない。

【和名】
漢字で書くと「蝦夷四ツ目」となる。つまり北海道で最初に発見され、青い眼状紋が4つあることからの命名でしょう。

【開張】 ♂65mm内外 ♀95mm内外
♀は♂よりも大型で、地色がくすんだ茶色なので雌雄の判別は容易。
とはいえワタクシ、恥ずかしながら未だに♀を採った事がない。だから展翅画像もないんである。
一度、外灯で♂が♀を追いかけ回してるのを見た事があるんだけど、思わずキレイな方を採ってしまったなりよ。採ってから汚い方は♀だったんだと気づいたんだよね。(・o・;)あちゃーって感じだったけど、♀は汚いんでガッカリ感はあまりなかった。だからリベンジしにも行ってないんである。

【分布】 北海道,本州,四国,九州
北海道産はやや小さいそうだ。

【成虫の出現時期】 4〜5月
春の三大蛾の1つとされ(他の2つはオオシモフリスズメとイボタガ)、ヤママユガの仲間では最も早くに現れる。年1化。
猶、エゾヨツメと春の三大蛾については、拙ブログに2017年版と2018年版を書いているので、ヒマな人は読まれたし。

【幼虫の食餌植物】
カバノキ、イヌシデ、ハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)、カエデ(カエデ科)などが記録されている。

 

奄美迷走物語 其の11

 
 第11話『ラーメンとゴア様』

 
2021年 3月28日

この日は朝から完全に雨模様だった。
当然ながら採集には出れないのだが、心の底では少しホッとしていたりもする。目的の蝶が採れない日々が続いているので心が疲れきっているのだ。むしろブレイクが入ることで、かえって気持ちがリセットされるかもしれない。心がリセットされれば、この悪い流れも良い方向へと変わるかもしれない。

午前11時前にリビングに降りる。
昨日、若者二人とラーメンを食いに行く約束をしたのだ。
そのラーメン屋というのは、第3話の『ラーメン大好き小池くん』の回でも書いたが、ゲストハウスのオジー曰く、最近できた店で行列が絶えないんだそうだ。しかし一週間ほど前の月曜にラーメン大好き小池くんと来た時は定休日で食べられなかった。今日はそのリベンジというワケである。店頭に貼ってある写真を見た限りでは二郎系の店っぽかった。
ちなみにニ郎系ラーメンとはラーメンニ郎の系列店、及びそのリスペクト店の事を指し、平打ち太麺で、野菜てんこ盛りのガッツリ豚骨醤油ラーメンの系統の事をいう。

だが、リビングの直ぐ横の若者の泊まっているドミトリー部屋からは何の物音もしない。明らかに起きている気配がない。たぶん💤絶賛爆睡中なのだろう。
外で煙草を1本吸って戻ってきたが、相変わらず中はシーンとしているのでドアを叩いて起こした。
待たされるのは死ぬほど嫌いな性格だから💢イラッときた。けれどメシは一人で食うよりも誰かと食う方が旨い。それに、よくそんだけ爆睡できるなあと思うと何だか怒るのがアホらしくなってきた。
爆睡できるのは若者の特権である。オジさんなんて直ぐに目が醒めてしまう。5時間以上は眠りたくとも眠れないのだ。きっと眠るのも体力がいるのだ。羨ましいかぎりだ。

 

 
『自家製麺 きんぐす豚』。
名前はキングストンに掛けているのだろう。キングストンとは「王の町」という意味で、アメリカをはじめ世界各地に同様な名称の土地がある。また人名にも付けられる事があるから、店主はそのどちらかに強い思い入れがあるのだろう。

 

 
午前11:15くらいに着いたが、我々が一番乗りだった。
ちなみに右が若者Aのドロムシ屋の子(東京在住)で、左の若者Bがカブクワ屋の大阪の子だ(註1)。

改めて店先に貼ってあるラーメンの写真を見ると、やはりビジュアルは二郎系に見える。3月3日にオープンしたらしいが、まさか奄美大島に二郎系のラーメン屋ができるとはね。全く頭になかったから、ちょっとした驚きだよ。きっと島民にとってはもっと衝撃的だったろうから、行列になるのも頷ける。
とはいうものの、開店15分前で一番乗りってどうよ❓通常は行列のできるラーメン屋だったら、15分前には長蛇の列になってて然りだろう。もしや早くも島民に飽きられたのか❓となると、一回食えばいい程度のクオリティーのラーメン❓
しかし10分前になると続々と客がやって来て、開店前には20人くらいの行列になった。なるほど島人のおおらかな性格が表れてるんだね。そうゆう「てーげー(テキトー)」な土地の方が好きだなあ。自分は時間にルーズではないけれど、それはあくまでも表向きであって、根はルーズだ。ゆるい方が心地よいのだ。だから南の島が好きだ。沖縄とかサイパンの時間の流れの方が自分には合ってる。

 

 
Iターンで開業した店だけあって時間通りに開店。一番に店内に入る。もしかしたら行列の先頭で店内に入るだなんて、人生初なんじゃないか❓なんだかプチ嬉しいぞ。一番を目指して前日の夜から並ぶ人の気持ちがチ○チンの先っちょ5ミリ分だけ解ったよ。そこには、確かにカタルシスとかエクスタシーがあるのだ。

店内は最近のラーメン屋らしく、そこそこにお洒落だ。今や女性が入りやすい店作りは当たり前の時代なのだ。それを否定するつもりはないが、昔ながらのラーメン屋の方が断然落ち着くんだよなあ。

席に座ると、先にこのラーメン屋に行った小池くんの感想が思い返された。
『やはり二郎系でしたね。けど二郎系にしては少し味が薄めでしたね。俺、二郎系についてはウルサイんすよー。テーブルに醤油ダレみたいなのがあるので、それ入れたら丁度良くなりました。』
流石、ラーメン大好き小池くんである。コメントからラーメン偏差値の高さが伺える。バカにしていたが、小池くんは本当にラーメン大好き小池さんだったのだ。

メニューは『豚そば』と『まぜそば』の2種類のみ。
値段はどちらも¥850。小盛は50円引きで大盛は100円増し。肉増しは+200円とある。
ここはポピュラーに定番の『豚そば』だろう。若者Bくんも同じく豚そばを選択。若者Aくんは『まぜそば』をオーダーした。えっ❓、この期に及んで❓と思ったが、さすがマイナーなドロムシなんかに興味を持つ男だ。凡人のワシとは脳ミソの構造が違うのである。ちなみにAくん曰く、まぜそばはかなり旨かったらしい。そういえば、まぜそばナゼか大盛りができなかったんだよね。彼がそれを嘆いてから憶えているのだ。

店員に背脂と野菜を増し増し(無料)にするかと尋ねられる。
ここはノーマルかなと思った。モヤシが塔のようにそそり立ってたら食えるかどうか自信かないし、背脂ギトギトだとコッテリすぎてオジサンにはキツイかもと思ったのだ。だが、若者Bの大阪の子が即座にキッパリと「お願いします❗」と言ったので、つられて「ワシもお願いします。」と言ってしまった。

 

 
想定内ではあるが、\(◎o◎)/けっこうガッツリだ。普通の店なら間違いなく大盛り仕様だ。
言っとくと、味玉はオープン記念ということで無料でした。

先ずはスープを飲む。
小池くんは薄いと言っていたが、自分にとっては濃いめかな。でも丁度良い濃さの範疇内で、期待に違わぬ味だ。旨いわ。
自家製の麺は太くて食べ応えがある。歯を押し返す弾力が心地よい。自分好みの麺で、これまた旨いと思う。
チャーシューは薄くもなく、分厚くもない。旨いが、特筆する程のものではない。味玉は、中の黄身がドロッで(≧▽≦)うみゃーい。

全体的にバランスが良くて、量に苦しむことなくワッシワッシと食べ進むことができて苦労せずに完食。スープまで飲み干してやったわい。これで¥850は安い❗ 腹パンパン、満足至極だ。
でも今後、味玉がトッピングになって+150円とかだったら安くないよなあ…。ラーメンで千円以上したら、心情的に許せないのだ。そんなの、もはや庶民の食いもんではない。だから納得できない。ラーメンが高級化していってる昨今の風潮には疑問を持たざるおえない。

店を出て歩き始めたら、すぐ目の前をキオビエダシャク(註1)が飛んでいった。
一瞬、心が曇る。そういやフタオチョウ、アカボシゴマダラ、イワカワシジミだけでなく、楽勝だろうと思っていたコヤツでさえも採れていないのだ。あかざき公園や根瀬部で、それなりの数を見ているのだが、1頭も採れていないのである。他の蝶待ちだったし、飛ぶ位置が高くて結構スピードも速いから気づいた時には射程外で見送る機会が多かったのだ。ターゲットとしては六の次くらいで、真剣には狙っていなかったとはいえ、我ながら情けない。
だが、さして悔しくはない。殴られっぱなしのような結果が続いているから心が鈍感になっているのだ。パンチドランカーは、どうせ曇ってるから活発に飛んでるんだろう程度にしか思わなかった。台湾では今日みたいな雨上がりの日に沢山飛んでいたのだ。当時は大の蛾嫌いだったから、けっこう怖気(おぞけ)る記憶だった。

宿に帰ったら、再び雨が降り出した。
今日は完全休業日だね。体も心も休めてリフレッシュしよう。

夕方に雨が上がった。
そこで、ハタと思った。もしかしたら、キオビエダシャクは住宅街の方が簡単に採れるんじゃないか❓考えてみれば、台湾でも住宅街にいたのだ。今頃気づくとは、やっぱりヤキが回ってる。

午後5時。
住宅街に入って、すぐに飛んでいる個体を発見。あとをついてゆくと複数が飛んでいる場所に出た。
そして、食樹のイヌマキもあった。家々の、そこかしこに植えられている。

 

 
九州や奄美では、イヌマキが庭木や生け垣として植栽されているようだ。ようは住宅街が発生地だったというワケだね。
で、一部の個体が山を昇ってあかざき公園にまで飛んで来るんだろうね。٩(๑`^´๑)۶よっしゃ、害虫駆除じゃ❗

あかざき公園よりもかなり低い位置を飛ぶが、それでも基本的な高さは3〜4Mくらいだ。飛ぶ速度も、そこそこ速い。おまけに蛾道みたいものはあるのだが、蝶道ほどにはコースが明確でなく、待つ立ち位置を絞り込むのに苦労する。
あとは心理的な障壁も邪魔した。大の大人が住宅街で大きな網を振り回していたら、誰しもが奇異な目で見るだろう。完全にアタマがイカれた変人のオジサンだ。恥ずかしさも相俟って集中できない。人に会えば、勿論のこと挨拶はしていたが、遠目に人の姿が見えたら、物陰にコソコソ隠れたりしていたのだ。
しかし、そんなんでは採れない。それに時刻が進めば、基本的には昼行性の蛾だから、そのうち居なくなりかねない。
恥も外聞もかなぐり捨てる。こんなもんも採れないようなら、フタオチョウもアカボシゴマダラも採れるワケがない。そんな奴は馬に蹴られて、とっとと引退した方がよかろう。

気合い一発、💥空中でシバく。

 

 
美しいとは思うが、ちょっとキショイ。どこか毒々しいのだ。おそらく体内に毒を有しているのだろう。派手な出で立ちをする事によって鳥の捕食を免れようとする生き残り戦略だ。つまり毒有りならば、当然ながら食べても不味い。知らずに食べた鳥は、その見た目と共に強烈に学習する。よって以降は見向きもしないという事だ。最初の1頭は犠牲になるものの、他は襲われにくくなるってワケだ。

この蛾を見ると、なぜかゴア様(註2)を思い出す。幼少の頃、最も怖かった存在だ。
オカンに『アンタ、そんな悪さばっかりしてたらゴア様が来るでぇー。』と言われたら、即座にいうことを聞いたらしい。ワシにとっては、それくらい恐ろしかったのだろう。

 
【ゴア】

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

 
この顔面のラメラメの感じとオバハンパーマに瞬きしないギョロ目、そして迫力あるガタイに超ビビッてた記憶がある。

 

 
♀かなあ❓

次第に慣れてきて、恥ずかしさも薄れてきた。
挙げ句には、住民に会っても、
(`・ω・´)ゞ、イヌマキの害虫のクソ蛾を採っとりまんねん。
とか言って、イヌマキがどれかを説明してたりしてた。
えー、皆さん、もしも住宅街で網を振る場合は、ちゃんと挨拶だけはしましょう。あとは住民の迷惑となる行為は慎みましょうね。それが出来ない人が多いから、虫屋は敵視されるのだ。ただでさえ虫採りなんて一般ピーポーのあいだでは市民権ゼロなんだから、これ以上嫌われるような行為はよしましょう。
それが出来ない人は、クズです。

                         つづく

 
追伸
この日は灯火採集にも行ったが、次回に回すことにしました。
思ってた以上に長くなったからです。まあ、想定以上に長くなるのは、いつもの事だけどね。

 
(註1)ドロムシ屋とカブクワ屋
水性甲虫のドロムシの愛好家とカブトムシ&クワガタ類の愛好家の呼称。

(註2)キオビエダシャク

 
シャクガ科の昼行性の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが和名の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年になって生息域を拡大させており、九州では定着しているようだ。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では、旧武家屋敷などで生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。


(2017.6.台湾 南投県埔里)
 
台湾で採ったものだ。町なかの花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の採集初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまったのだ。メタリックで美しいとは思いつつも、当時は精神的な蛾アレルギーだったので、背中がゾワゾワで採ってたっけ…。

あれ❓、そういや展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。たぶん冷凍庫で眠っておられるな。
それはさておき、奄美のものとは下翅の帯部分の感じが違うんじゃね❓黄帯が細くて、外縁にまで達していない。或いは黒斑が連なって帯状になっている。コレって亜種区分とかされてるのかな❓…。
この程度で解説を終えようと思っていたが、気になるから調べておくか…。でもメンドクセーからウィキペディアから引用&編集しよう。

【分類】
シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
Milionia属

【学名】Milionia basalis Walker, 1854
成虫の開帳は50~56mm。光沢を帯びた濃紺の地色に鮮やかな黄色の帯状斑紋のある翅を有する。
幼虫はシャクトリムシ型で、終齢時の体長は45~55mm。頭部、前胸、脚および腹脚、腹部側面、尾端の橙色が目立つ。

【分布】インド、マレー半島、台湾、日本
日本には亜種”ssp. pryeri”が分布する。南西諸島および九州で発生が認められるほか、四国でも成虫が確認されたことがある。

Wikipediaの英語版には、以下のものが亜種として列記されていた。

■Milionia basalis basalis
■Milionia basalis sharpei (Borneo)
■Milionia basalis guentheri (Sumatra)
■Milionia basalis pyrozona (Peninsular,Malaysia, Burma)
■Milionia basalis pryeri (Japan)

台湾のは亜種じゃないのかな❓ Wikipediaの情報って結構間違い多いんだよなあ。だから鵜呑みにするとロクな事はないから、怪しいと思えば調べ直した方がいい。もー、メンドクセーなあ。

調べてみると、変なのが出てきたよ。

「橙帶枝尺蛾 Milionia zonea pryeri Druce, 1888」

台湾の蝶と蛾を調べる時に最も利用する「DearLep圖錄檢索」というサイトに書いてあったのだが、小種名が違うから一瞬別種かと思ったよ。だが亜種名は日本のものと全く同じだ。つまりはコレはシノニム(同物異名)って事なのか❓ クソー、又しても迷宮に足を突っ込んだみたいだ。毎度の事だが、藪ヘビ🐍だよなあ。

英語版のWikipediaにシノニムがズラリと並んでおり、そのものではないが、らしきものがあった。

Milionia zonea Moore, 1872
Milionia guentheri Butler, 1881
Milionia latifasciata Butler, 1881
Milionia pyrozonis Butler, 1882
Milionia butleri Druce, 1882
Milionia sharpei Butler, 1886
Milionia pryeri Druce, 1888
Milionia ochracea Thierry-Mieg, 1907

一番目と下から二番目が、それにあたる。
にしても、そうなるとだな、台湾のものと日本のものは同じ亜種となる。ならば、帯の相違はどう解釈すればいいのだ❓また新たなる藪ヘビ迷宮地獄じゃよ。

しかし、もしやと思い再度「DearLep圖錄檢索」にアクセス。画像を見てみると、簡単に問題解決した。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

なんの事はない。日本のモノと同じだ。つまりは自分が台湾で採って撮影したものが、たまたま変異個体だったという可能性大だ。そうゆう事にしておこう。行方不明の台湾のキオビエダシャクを冷凍庫から探し出してきて確認なんざあ、絶対やめておこう。探すこと自体がかなりの労苦だし、それをまた軟化して展翅するのが面倒だというのもある。だが何よりも恐れているのは、複数ある個体の全部が同じような特徴を有しているケースだ。もしもそうなら、亜種群の可能性が出てきて、新たな迷宮に突っ込んでゆく事になる。スマンがキオビエダシャクのために、そこまでの労苦を負いたくはないのだ。

【生態】
成虫は昼行性。花蜜を摂取するため、さまざまな植物に訪花する。夜間、人工の灯りにも飛来する。産卵は主に食樹の樹皮の裂け目や枝の付け根に行われる。
幼虫はナギ、イヌマキ、ラカンマキの葉を摂食するほか、マレーシアでは Dacridium属(マキ科)の摂食が確認されている。幼虫は振動に敏感で、振動を感知すると吐いた糸にぶら下がって植物上から離れる。また、食草から二次代謝産物のイヌマキラクトンおよびナギラクトンを取り込み、外敵に対する防御に役立てている可能性が示されている。成熟した幼虫は土中で蛹化する。
思った通り、やっば毒持ち風情なんだね。

【人との関係】
突発的に大発生し、食草を大規模に食害する傾向があり、特に生垣や防風林などに用いられるイヌマキの害虫として重要視されている。大発生時は樹皮にまで食害が及び、被害を受けた木は枯死する。南西諸島では古くから大発生が起きていたと考えられ、1910年代から断続的な大発生の記録が残されている。九州南部では1950年代ごろに初めて侵入・発生が確認されたが、当時の侵入個体群は数年で絶滅したとされる。その後、再度侵入した個体群は近年、不安定ながら継続した発生が認められている。沖縄および九州南部では最大で年4回の発生が可能であることが明らかになっているが、九州南部では、本来南方系である本種の発育調整メカニズムが気候に適応できておらず、成虫越冬ができない。にも拘らず、冬に羽化する個体が出るなどの不安定な季節消長が見られる。

 
(註3)ゴア様

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

このラメラメ顔が超絶怖かったのだ。

ゴアとは、手塚治虫の漫画『マグマ大使』を原作としたテレビ特撮番組に登場する悪役のこと。
2〜3億個の星を乗っ取り、悪事を尽くしてきた征服者。アース(30億年前に地球を作った創造者で、マグマ大使も作った)と同じくらい長く生きている。人間体はあくまで仮の姿で、本体は肉食恐竜型とクモ&ムカデ合体型の2パターンを持つ。宇宙の悪魔と言われる反面、子供には甘いという一面がある。

 

奄美迷走物語 其の八

 
  第8話『白き騎士』

 
2021年 3月25日

今日も腐ったアタマで起きる。
時計を見ると既に10時。また痛飲でござるよ。
まあどうせ予報通り雨だろうと思ってカーテンに目を移すと、何だか様子がオカシイ。もしやと思ってベランダに出ると、何と快晴だった。

 

 
そういえば昨夜、酔っ払って小池くんに『明日は晴れる❗まっかせなさーい❗』とか言ってたが、半分希望的観測で言ってただけなのだ。何となくそんな気がして口走ったのだが、夜は採集に出ずで空を見てないから確信があったワケではない。スーパー晴れ男の面目躍如と言いたいところだが、南国の天気はワケわからんわい。こっちの天気予報って何なん❓全然信用でけんやないの。

大急ぎで支度してバイクを駆って西へ。
今回は知名瀬林道をスルーして、更に西へと進む。
毎回、同じポイントに行くのは、実を言うと好きではない。本来的には飽き性なのだ。何度も通ったのは単に知名瀬がアマミカラスアゲハの♀が採れる可能性が一番高いと判断したからにすぎない。でも♀は昨日採れたから、自分的にはもう行かなくても済むやって気持ちなのだ。

やがて、右手に海が広がり始めた。
まだ白波が立っているから奄美本来の海の青さではないが、それでも青い。ワンテンポ遅れて潮の香りが鼻腔にカウンターパンチを送ってくる。海だなあ…。心がほわっとゆるむ。
いい感じに地平線の上も青空だ。本来は海の男ゆえ、俄然テンションが上がる。やっぱ南の島は、こうでなくっちゃね。

午前11時過ぎ、根瀬部の集落へと入ってゆく。
懐かしい風景だ。昔と殆んど変わっていない。

林道の入口横にバイクを停め、小道に入る。先ずはイワカワシジミを探そう。この道の途中にイワカワシジミの食樹であるクチナシがあった筈だ。
足元が覚束ない。何だかヽ((◎д◎))ゝフラフラする。正直言って、体調は奄美に来てから最悪のコンディションだ。まさか晴れるとは思っていなかったら、調子に乗って飲み過ぎた。風景は微妙にゆらゆらするし、自分でもまだ酔っ払ってるのがワカる。
腐った脳ミソで川沿いに歩くと、フェンスのある明るい場所に出た。そこにはまだクチナシの木があった。この木で何度かイワカワシジミを採っているのだ。

 
【イワカワシジミ各種】

 
しかし上から見下ろしたところ、姿は見えない。
仕方なく引き返そうとしたところで、フェンスの向こうから猛烈な犬の吠え声が飛んできた。見ると、奥の檻の中で2、3匹の犬が狂ったように吠えている。
檻の中にいるから恐怖心はない。しかし犬は大っ嫌いだ。天敵と言っていいほどに相性が悪い。何処へ行っても吠えられるから、いつも憎悪を滾(たぎ)らされてる。東南アジアでは犬が放し飼いになってる事が多いから、常にバトルだもんね。
吠えられてるうちに沸々と怒りがせり上がってきた。背中からメラメラと青白き焔が沸き立ち、💢プッツンいく。

(`Д´#)黙れ❗テメェ、ブッ殺すぞー❗

大声で激烈に叫んだら、吠え声がピタリとやんだ。
(`Д´)ボケがっ❗、気合勝ちじゃ。ワシの覇王色の覇気をナメんなよ。今後ワシにまた吠えたら、あらゆる方法で恐怖を骨の髄まで植えつけてやるわ。

道路に戻って少し歩くと、川向うの木で何かが飛んで直ぐに着地した。見ると蝶が羽を広げて日光浴している。
脳ミソが腐ってるから、最初はそれが何なのか理解できなかった。ムラサキツバメ❓ムラサキシジミ❓ウラギンシジミ❓記憶のシナプスが繋がらない。
5秒ほどしてから、漸くそれが何であるのかが解った。イワカワシジミの♂だ。けど尾状突起が無くて羽も擦れてる。
少し迷ったがスルーすることにした。あんなの採っても、どうせ展翅しないだろうから無駄な殺生になる。それに欲しいのは♀なのだ。

さらに進むと曲がり角に網を持ったオジサンが立っていた。

『こんにちわー。何、採ってはるんですかあ❓』
『フタオチョウだよ。』
『えっ、此処にもいるんですか❓』
『いる、いる。分布をドンドン拡大してて、最近では瀬戸内町でも見つかってるよ。』
『もう発生してるって事ですよね。例年、春型はいつくらいから発生してるんですかね❓』
『今年は20日くらいから発生してたね。もう4♂1♀ほど採ってるよ。』
そっか♀まで発生しているのか…。そういや自分もあかざき公園で見たもんなあ。と云うことは時期的にはまだ最盛期ではないにせよ、鮮度的にはベストな時期かもしれない。

 
【フタオチョウ Polyura weismanni ♂】

(裏面)

 
【同♀】

(裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
フタオチョウ(註1)は奄美大島には本来いないチョウだった。
てっとり早く説明する為に奄美新聞社の記事をお借りしよう。

「沖縄県の県指定天然記念物のチョウ・フタオチョウが近年、奄美大島でもよく目撃されるようになってきている。奄美市笠利町から名瀬までの広範囲で目撃情報があり、特にヤエヤマネコノチチなどの樹木の周りで見られやすいという。
フタオチョウはタテハチョウ科フタオチョウ亜科フタオチョウ属のチョウ。台湾や東南アジアに生息する。幼虫のエサはヤエヤマネコノチチやクワノハエノキといった植物。成虫は樹液や腐敗した果物に飛来する。
日本では従来、沖縄本島のみに生息し、同県の指定天然記念物となっていた。2016年ごろから奄美大島北部でも目撃・捕獲されるようになった。
奄美昆虫同好会の富川賢一郎会長によると、沖縄から何らかの原因で迷蝶として飛来した可能性もあるとのこと。」

補足すると、迷蝶ではなくて誰かが沖縄産を放蝶したものが増えたと考える意見の方が多いようだ。自分もその見解を支持する。なぜならフタオチョウが迷蝶として採集された記録が少ないからだ。台湾と与那国島は近いが、台湾のフタオチョウが与那国島で見つかった例はない筈だし、沖縄本島のものが別な島で見つかった例も極めて少ないからだ。たぶん石垣島の1例のみしかなかったんじゃないかな。それも目撃情報で、しかも2018年だから奄美のモノを石垣に放した事が疑われる。
そもそもフタオチョウのような森林性の蝶はオープンランドの蝶みたく海を越えるような大移動はあまりしないと言われている。ゆえに沖縄本島から奄美まで飛んで来たという可能性は極めて低いと考えるのが妥当だろう。両島は距離にして340kmも離れているのである。
他に可能性が考えられるのは、たまたま卵や幼虫・蛹が付いた食樹が植栽されたというパターンだが、ヤエヤマネコノチチやリュウキュウエノキなんて誰も他から持ってきて植栽しないだろう。花がキレイなワケでもなく、食用にされるワケでもないから、植栽する価値のない植物だし、そもそも両方とも奄美には自生しているのだ。

ヤエヤマネコノチチには馴染みがないので、Fさんにどんな木ですか?と尋ねたら、わざわざ生えている場所まで案内してくださった。いい人である。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
奄美に入って、たぶんコレなんじゃないかと思ってた植物とは全然違ったものだった。ワシって飼育をしないから植物の同定能力がアッパッパーなのである。

ポイントに戻ってきたら、Fさんが空を指さした。
『ほらほらアソコ❗、フタオが飛んでるよ❗』
見ると、青空をバックに白い蝶が高速で飛んでいる。しかし、グルッと一周すると反転して、アッという間に何処かへ消えてしまった。
形と大きさからして、たぶんオスだろう。
いる事が分かったら何だか安心した。いる場所さえ分かれば、楽勝で採れると思ったのだ。ゆえにフタオの事はさておいて、Fさんと暫く雑談する。ここは情報収集の方が大事だろう。

Fさんは奄美在住で、標本商をされているという。奄美のフタオの最初の発見者ではないが、2017年には逸早くフタオについての報文を書いておられ、土着している事実を突き止めたのは氏らしい。
また、奄美で日本屈指の美迷蛾であるベニモンコノハ(註2)を見つけて、大量に採ったのもFさんなんだそうな。

 
【ベニモンコノハ】

(出展『世界の美しい蛾』)

 
ベニモンコノハについては、当ブログにて『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』と題して書いたから、その時に論文を読んでいる。たぶん20頭くらいタコ採りされたんじゃなかったかな。
蝶だけでなく蛾も採られるというのは渡りに舟だ。せっかくだからアマミキシタバの事も訊いておくことにした。

 
【アマミキシタバ Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
『アマミキシタバって根瀬部にもいるんですかね❓』
『いるよ。数は多くないけど、この辺だったら何処にでもいるよー。』

『灯火採集だと、何時くらいに飛んで来るんすかねー❓』
『基本的には11時を過ぎないと飛んで来ないかなあ。』

『あと糖蜜とかバナナトラップにも来ますかね❓』
『来る、来る。全然寄って来るよ。』

『ところで幼虫の食樹が去年判明したみたいですけど、アレって何の木ですかね❓』
長年、アマミキシタバの幼虫の食樹は不明とされてきたが、去年に飼育下においてだが判明したそうなのだ。しかし論文が見つけられず、詳細は分からなかったのである。
『たぶん、ウドだったんじゃないかなあ。』
『えっ、ウド❗❓ウドってあのウドの大木のウドですか❓』
『いや、そのものじゃなくて、別種のウドの仲間じゃなかったかなあ。』
ウドなんて全く想定外の植物だったから驚いた。
『あともう一つ別な系統の植物を食ってた筈だよ。けど思い出せないなあ。何だったっけかなあ❓』

結局、Fさんは思い出せなかった。ウドというのも俄に信じ難いところもあるから、本当の事はワカラナイ。Fさんの記憶違いかもしれないし、自分の聞き間違いというかメモリーエラーかもしれない。何せ二日酔いで脳ミソが腐ってたからね。

他に行く所があるからと、Fさんは昼過ぎには去って行った。
色々と御教示下さり、有り難う御座いました。礼(`・ω・´)ゞ
正直、ラッキーだった。数々の重要な情報を得られたからね。昨日、アマミカラスの♀が採れた辺りから流れが良くなってきてる。Fさん曰く、オスがテリトリーを張るのは午前11時くらいから午後2時くらいまでらしい。つまり、まだまだ時間的余裕がある。この調子で楽勝街道爆進じゃい❗

誠に恥ずかしい話だが、正直に吐露しておくとフタオがテリ張りするのは、アカボシゴマダラやオオムラサキ、スミナガシなんかと同じく午後3時前くらいから夕方にかけてだとばかり思い込んでいた。タテハチョウ科のオスの縄張り争いは時刻のズレこそ多少あるものの、知る限りでは全てそうなのだ。ゴマダラチョウ然り、コムラサキ然りだし、他にもアカタテハ、ルリタテハ、メスアカムラサキ、リュウキュウムラサキも夕方なのである。だから昼間に占有行動するなんてコレっぽっちも考えなかったのだ。
それに図鑑によってはフタオチョウが占有行動をする事が書かれていない事もあり、また書かれていても時刻については言及されていないのである。あの蝶の生態について最も詳しく書かれていると云う『原色日本蝶類生態図鑑』の第2巻 タテハチョウ編でさえ占有時間帯は書かれていないのである。

雑談中もフタオは何度か飛んで来たが、何れも高い位置を飛んでおり、全く止まらなかった。とゆう事は、もっと他に採り易いポイントを探した方が良さそうだ。
とりあえず裏へ回ってみたら、ミカン畑になっていた。コチラ側の方が見通しがいい。おそらく飛び回っていた個体はコチラ側の何処かに止まっており、時折飛び出して辺りを見回っていたのだろう。ならば此処で待ってれば採れそうだ。
麓の林縁もチェックしようとしたら、左手から白い蝶が猛スピードで飛んで来た。高さは2mから3mくらい、届く範囲だ。しかし振ろうとした瞬間に軌道を変えて、射程外になった。
後ろ姿を見送りながら、❗❓と思った。大きさ的には♂のフタオと同じか少し小さいくらいだろうが、フタオにしては白すぎる。黒い紋が殆んど入っていないように見えた。とゆうことは、たぶんフタオではない。おそらくウスキシロチョウかウラナミシロチョウだろう。でもウスキシロならば、もっと黄色いからウラナミシロの可能性大だ。

 
【ウラナミシロチョウ♂】

【同♀】

(出展『Aus−lep』)

 
林縁まで来ると、今度は頭上5mくらいをタテハチョウらしき白い蝶が滑空していた。何だよコッチだったかと思ったが、飛び方が滑るようだし、フタオほど高速ではない。
暫く下から様子を見て、漸く気づいた。たぶんガッキー、イシガケチョウだろう。

 
【イシガケチョウ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何かヤキが回ってるなあ…。
どうしようもなく感覚が鈍(なま)ってる。考えてみれば、去年は蝶採りに行ったのは数えるほどだ。ギフチョウが3回、スミナガシの春型が1回、夏に長野県で小太郎くんとムモンアカシジミ&オオゴマシジミで2日間、あとは同じく小太郎くんと行った蝶採りとしてはユルい河川敷のミヤマシジミ&クロツバメシジミくらいだ。そういやルーミスにも行ったな。でも3人で行って3人とも1頭たりとも見なかったから、網を振った回数はゼロだから、行ったうちに入らない。ようは何が言いたいかというと、実戦から遠ざかると腕も鈍るという事だ。野球でも何でもそうだけど、振り込まないと実力は上がらないし、サボると下手ッピーになるのだ。

また裏側ポイントに戻ると、突然、梢から蝶が飛び出して来た。逆光だが飛び方を見てコイツかあ❗と身構えたが、直ぐにその姿はアオスジアゲハに変わった。

 
【アオスジアゲハ】

 
アゲハの仲間(Graphium)だから、厳密的にはタテハチョウとは飛び方が少し違うのだが、かなり近い飛び方なのだ。大きさ的にも同じくらいだし、逆光もあったから見間違えたのだ。逆光だと緑色が飛んで白っぽく見えてしまうのである。緑色のとこを白に塗れば、デザイン的に両者は案外似ていなくもないしさ。とはいえ、アオスジアゲハと間違えるだなんてダサ過ぎ。ヤキまわりまくりである。

そのうち曇り始めた。おいおいである。フタオチョウは基本的には光が射していないと飛ばないのだ。

いたずらに時間が過ぎてゆく。
暇つぶしにアマミカラスの♀をいくつか採った。ここはブヨもいないし、知名瀬よりも安心して採れる。先にこのボイントを見つけていれば、あんなに苦労しなかったのにね。
ガックリだが、あれはあれでいっか…。あれキッカケで奄美の教会の美しさや、その悲しい歴史を知ることができたからね。

午後2時半。
また晴れ始めたと思った途端、白い蝶が現れた。南国の青い空を背景に悠然と飛翔している。2つの剣のように尖った尾状突起もハッキリと見えた。まるで誇り高き白き騎士だ。相手にとって不足なし。瞬時に戦闘態勢に入る。
だが、睥睨するかのように頭上を飛び、飽きたように突然プイと踵(きびす)を返して梢の向こうへと消えていった。
間違いなくフタオチョウだ。もうインプットした。これから先は他の蝶と間違うこともないだろう。高さも一番低いところでは5mくらいだったから、今回持ち込んだ6.3mの長竿でも届く。たぶん此処はパトロールのルート上にあるに違いない。

その後、フタオは2度と飛んで来なかったが、これで心には余裕が生まれた。飛んで来るルートが解り、採集可能な場所さえ見つければ、コッチのものだ。明日には間違いなく採れるだろう。まあまあ天才をナメてもらっては困るのだ。

午後3時半に、あかざき公園に移動してきた。
フタオチョウが発生しているのは解った。あとはアカボシゴマダラが発生していれば、目的は果たされるだろう。居ないもんは採れんが、居るとわかればどうにかなる。
だが、慰霊塔で待つも、ついぞアカボシもフタオも姿を現さなかった。たぶんフタオよりもアカボシの方が発生は少し遅れるのだろう。とはいえ、もうそろそろ発生するだろうから明日辺り両方まとめて採れんだろ。そう、いつものメンタルならば、いつも通りの結果が出るっしょ。

宿に帰る。
今日の宴会は蛸パーティらしい。
昨日、女の子たちのために地元のアンちゃんたちがタコと伊勢海老を獲ってきたのだ。可愛くて明るい女の子は得だよね。
その女の子たちが作ってくれた蛸の刺身を食う。

 

 
旨いんだが、少し生臭い。
たぶん塩揉みが足りなかったのだろう。タコは大量の塩でシツコイくらいに揉まないと生臭みが取れないのだ。だから一番簡単な方法は洗濯機にブチ込むことだ。とはいえ家庭では精神衛生上、中々できるものじゃないけどね。自分もそれは無理だわさ。もしシャツやパンツが生臭かったら泣くもんね。生のタコって、下手すれば魚よりも生臭かったりするのだ。

🐙蛸パーティということは、今日はたこ焼きパーティなのかなあ❓でも関西ならまだしも、奄美大島なんかにタコ焼き器とか売ってんのかね❓御存知な方もいるだろうと思うけど、関西地方、特に大阪では一家に一台たこ焼き器があるのだ。たこ焼きパーティならば、またワイの腕の見せどころだな。でもどうせ今日は夜間採集に出るから、たこ焼きパーティなろうとなかろうと関係ないか。

他の料理はまだ出てきなさそうなので、『ホームラン軒』なるカップ麺を食う。

 

 
行ったことはないけど、大阪に『ホームラン軒』という有名ラーメン店がある。そこの監修のカップ麺じゃないかと思って買ったけど、百円だったから違う可能性大だ。味もどってことない。百円で買ったカップ麺に期待してはいけないね。

再び根瀬部を目指す。
今回も日没前にポイントに入った。
先ずは林道を少し入った所に「何ちゃってライトトラップ」を設置する。でもって周囲2箇所にバナナトラップも仕掛けた。

お次は、昼間にフタオチョウが飛んでいたポイントの林縁3箇所にバナナトラップを仕掛ける。Fさん曰く、ここにもアマミキシタバがいるということだから、今日こそはお会いしたいものだ。今夜アマミキシタバが採れれば、明日にはフタオとアカボシが採れるだろうから、一挙にほぼミッション完遂だ。夜に山を徘徊しなくとも済む。

犬に吠えられるのにビクビクしながらも、バイクで2地点を行ったり来たりする。まあ吠えられれば吠えられたで現実世界にいる事が確かめられるし、お化けを追い払ってくれるかもしれないから別に構わないんだけどもね。お化けよりかはまだしも犬の方が友だちになれる。暗黒世界の住人とは、一生友だちにはなれぬよ。
とはいえ、今日はそれほど闇に対する恐怖心はない。慣れてきたというのもあるけれど、人里から近いし、ライトを設置した場所も林道に入ってからすぐの所だからだ。真っ暗な林道を奥へ行けば行くほど恐怖感が澱のように積もってゆくのだ。夜の森では、想像力を逞しくすることは禁物なのだ。

大川ダムよりかはマシだが、集まって来る蛾の数はショボい。
バナナトラップにはオオトモエだけが何頭も寄ってくる。勿論のこと無視である。コッチへ来てからずっとコヤツしか来ないってのは何なのだ❓ 呪われてんのかよ。

 
【オオトモエ】

 
午後11時。
いよいよアマミキシタバが飛んで来る時間帯に入った。
ライトに集まる蛾の数も増えてきた。否(いや)が応でも期待値もハネ上がる。

午後11時20分。
ライトに見たことのないシャクガ(註3)が飛んで来た。

 

 
普段はシャクガなんぞ無視する事が多いのだが、寄って来るのは小汚いチビ蛾ばっかだから退屈でつい採ってしまう。

シャクガを三角紙に収め、ふとバナナトラップの方に目をやると、明らかにオオトモエじゃない大型の蛾が寄ってきてる。

もしやヒメアケビコノハ❓
もしヒメアケビコノハならば、採った事がないから欲しい。
ゆっくりと近づく。この旅での4度の夜間採集の中では初めてのドキドキかもしれない。この感覚が享受できなくっちゃ、夜の森に来る意味なんてゼロだ。

目の前まで来た。いやアケビコノハか❓とも思ったが、アケビっちよりも明らかに小さい。とゆうことはヒメアケビコノハか❓
えーい、グチュグチュ考えたところで蛾のとーしろ(素人)のオイラにワカルわけがない。ここは採って確かめるしかない。

網先で蛾の止まってる少し下を軽く突っつく。

(# ゚Д゚)わりゃ、逃がすかい❗

驚いて飛んだ瞬間に、マッハロッドで💥ズババババーン❗(註4)、電光石火⚡で網を下から上へとシバキ上げる。

 

 
(・∀・)うにゃにゃ❓
何だかアケビコノハっぽいぞ。ヒメアケビコノハの前翅は、こんなに枯れ葉っぽくなかったような気がする。
裏返してみよう。

 

 
(-_-;)う〜む。アケビコノハっぽいかも…。ヒメアケビコノハは外側の黒帯がもっと太かったような気がする。でも記憶は定かでない。アケビコノハにしてはかなり小さいし、脳はヒメアケビコノハだと信じたがってる。もしそうなら、此処へ来た意味もある。
ネットで調べようかとも思ったが、どうせ山の中だから電波が届かないだろうし、帰ってからのお楽しみにしよう。

その後、アマミキシタバどころか目ぼしいモノは何も飛んで来なかった。
午前0時半には諦めて撤退。
相変わらず、今一つ波に乗れないなあ…。

                         つづく

 
追伸
宿に帰って調べてみたら、やはりヒメアケビコノハではなくて、ただのアケビコノハであった。

 
【アケビコノハ Eudocima tyrannus】

 
ヒメアケビコノハは、もっと後翅外縁の黒帯が太いし、裏面も黒っぽいのだ。

 
【ヒメアケビコノハ Eudocima phalonia ♂】

【同♀】

【裏面】

(出展『jpmoth.org』)

 
調べたら、開張は90〜100mmもあり、アケビコノハと大きさは殆んど変わらないらしい。じゅあ、何で「ヒメ」なんて小さいことを表すような和名を付けたのよ❓解せんわ。

主に南西諸島で見られる南方系の蛾だが、本州,四国,九州,対馬,北海道でも記録がある。元々は迷蛾(偶産蛾)とされていたようだが、2000年代に入ってから採集例が増えており、本州でも見つかる機会が増えているそうだ。但し、確実に土着している場所は未だ見つかってないという。
国外では、台湾,インド,南大平洋諸島,オーストラリア,アフリカなどに分布している。広域分布だし、きっと移動性が強い種なのだろう。海の真っ只中で、船の甲板から見つかった例もあるようだしね。
主に8〜10月に見られ、樹液や果物に吸汁に集まる。
幼虫の食餌植物はツヅラフジ科のコウシュウウヤク、コバノハスノハカズラ、オオツツヅラフジ。

 
(註1)フタオチョウ
フタオチョウについては、台湾の蝶のシリーズの第2回で『小僧、羽ばたく』と題して書いたものを筆頭に『エウダミップスの憂鬱』『エウダミップスの迷宮』『エウダミップスの呪縛』と全部で4編も書いている。そちらの方を読んでもらいたいのだが、長いので要約して書いておく。

 
【学名】Polyura weismanni (Dobleday, 1443)
従来まではインドを基産とする「Polyura eudamippus」とされ、日本産には”weismanni”という亜種名が宛てられていた。尚、Polyura eudamippusは、ヒマラヤ西北部(ネパール,インド北東部)からインドシナ半島,マレー半島(キャメロンハイランド),ブータン,雲南省と海南島を含む中国西部,中部,南部,台湾まで分布する。日本産はそれに連なる最東端のモノだと位置づけられていたワケだ。しかし近年になって成虫や幼虫の形態、食樹が他の産地のものとは異なる事から別種となり、学名は亜種名が小種名に昇格した形になっている。
でも、この事実を知っている蝶愛好家はまだ少ないようで、ネットに掲載されている情報では、ほぼほぼ学名が以前の古い学名のままになっている。たぶん今ある図鑑も旧学名のままの筈だ。
尚、インドの原記載亜種(基産地アッサム)やインドシナ半島のもの(亜種 nigrobasalis)と基本的には同じデザインなのだが、実際にフィールドで見ると、かなり違った印象を享ける。

 
【Polyura eudamippus nigrobasalis♂】

(2011年 4月 ラオス・タボック)

 
とにかくバカでかいんである。♂でもこの大きさなのだ。
そして白くて、尾状突起が剣のように鋭く長い。日本のモノより先にインドシナ半島の奴に会っているので、その時に白い騎士のイメージが植えつけられた感がある。

 

 
裏面は日本のものと比べて帯が細く、色も黄色みが強くなる。
個人的にはコッチの方が美しいし、迫力があるから好きだ。

 
【和名】フタオチョウ
別種となったが、和名はそのままで「ニッポンフタオチョウ」や「リュウキュウフタオチョウ」「オキナワフタオチョウ」にはなっていない。正直、ダサいから変えないのが正解だね。
逆に従来フタオチョウと呼ばれていた原名亜種には「タイリクフタオチョウ」なる和名が提唱されている。微妙な和名ではあるが、解りやすいので受け容れてもいいかなあ。

和名は「双尾蝶」「ニ尾蝶」の意で、後翅にある2本の尾状突起に基づく。
尚、日本産のタテハチョウ科の中ではニ双二対の尾突を持つものは他にはいない。日本産の全ての蝶を含めても2本以上の尾突を持つものは、他にはキマダラルリツバメしかいない。
また前翅も特異な翅形であり、色柄デザインも特異である点からも他に類する種はいない。つまり日本では唯一無二の存在であり、沖縄の天然記念物に指定されている稀少性も相俟ってか愛好家の間では人気の高い蝶の一つである。

 
【分布】沖縄本島,古宇利島,奄美大島
現在のところこうなっているが、奄美大島では分布を南部に拡大しており、そのうち加計呂麻島や徳之島でも発見されるかもしれない。
尚、近似種”Polyura eudamippus”の一番近い分布地は台湾で、かなり見た目は近い。

 
【Polyura eudamippus formosana ♂】


(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

 
weismanniに似ているが、白い部分が少し広がり、尾状突起もやや長いから、慣れれば区別できる。
違いは裏面の方がより顕著だ。”weismanni”の帯は太いが、それに対して台湾産は細い。その色も微妙も違うような気がするが、個体差にもよるし、自分の印象も多分に入っているので断言はできない。
大きさ的には同じようなものだろう。さっきの項で画像を載せ忘れたが、インドシナ半島のものと比べて遥かに小さい。

 

 
おそらく大陸のモノが台湾に隔離され、さらにそれが沖縄に隔離されて長い年月の中で少しずつ形を変えていったのだろう。

 
【生態】
沖縄本島では3月下旬〜5月、6月下旬〜8月、9月〜10月の年3回見られるが、秋は個体数が少ない。
成虫の飛翔は敏速で、梢上を高飛する。樹液や腐果(パイナップルなど果物が発酵したもの)に好んで集まり、吸汁する。吸汁し始めると夢中になり、鈍感なので手で摘める事さえある。また、時に吸汁し過ぎて飛べなくなり、地上にボトッと落ちる個体もいたりする。結構、アホなのである。
オスは占有活動を行い、高い木の梢や突出した枝先などに静止して、同種の♂のみならず他の蝶が飛んで来ても追尾して追い払う。
尚、eudamippusは台湾産を含めて動物の糞尿やその死体、湿地に吸水(♂のみ)によく集まるが、weismanniでの観察例は少ない。この点からも別種説を推したい。中には、まだ別種とは認めないという人もいるのだ。

 
【幼虫の食餌植物】
ヤエヤマネコノチチ(クロウメモドキ科)
リュウキュウエノキ(ニレ科)

元々の食樹はヤエヤマネコノチチであったが、沖縄本島では食樹転換が起きており、リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)も食するようになった。それによってヤエヤマネコノチチが自生しない南部にも進出、分布を拡大している。
奄美大島ではリュウキュウエノキを食樹にするアカボシゴマダラが生息する事から競合が予想され、アカボシゴマダラの個体数に影響を及ぼすのではないかと心配されているが、今のところ特には減っていないようだ。尚、奄美にはヤエヤマネコノチチも自生しており、主にそちらを食樹としているようだ。競合を避け、棲み分けをしているのかもしれない。
参考までに書いておくと、ネットなんかの飼育例をみるとヤエヤマネコノチチでは無事に羽化するが、リュウキュウエノキで飼育すると羽化しないという記事があった。或いは先祖帰りと云うか、本来の食樹帰りしているのかもしれない。
しかし、奄美在住のFさんはリュウキュウエノキでも難なく飼育できると言ってはった。

付け加えておくと、Polyura eudamippusの食樹はマメ科である。そして多くのフタオチョウ属(Polyura属)がマメ科の植物を食樹としている。この点からも、日本の”weismanni”は特異で、別種とされたのも頷ける。

 
【幼生期の形態】


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)


(出展『浦添大公園友の会』)


(出展『(c)蝶の図鑑』)

 
見た目はプレデターだ(笑)
或いはコレがプレデターのモチーフになってたりしてね。

最も近縁とされる台湾の Polyura eudamippus formosanaの幼虫も貼付しておこう。

 


(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

 
日本のフタオの終齢幼虫には帯がないが、台湾のものには帯がある。また顔面の模様も異なる。幼虫の食樹もマメ科だし、これはもう別種レベルに分化が進んでいると言っていいだろう。

 
(註2)ベニモンコノハ
学名 Phyllodes consobrinus Westwood, 1848
Noctuidae(ヤガ科)・Catocalinae(シタバガ亜科)に分類される。

 

(出展『断虫亭日乗』)

 
(;゜∇゜)ワオッ❗、馬鹿デカイね。
開張120〜130mmもあるらしい。

宮崎県,鹿児島県(九州本土),種子島,トカラ列島宝島,奄美大島,沖縄本島などからの記録があり、従来は土着種とされ、小型なことから別亜種として記載された。しかし二町一成氏の論文によると、2011年に奄美大島で纏まって採れたのは、たまたま海外から飛来したものが、その年に二次発生した可能性が高いと述べており、現在では偶産蛾とする見解が優勢のようだ。
国外では台湾,中国南部,ベトナム,インド,インドネシアなどに分布する。尚、日本での記録は7〜8月に多い。
下翅にある紋が日の丸みたいだなと思ってたら、岸田先生の『世界の美しい蛾』には、その紋様から標本商の間では「日の丸」と呼ばれることもあると書いてあった。
生態的にちょっと変わってるなと思ったのは、ライトトラップには誘引されなくて、バナナやパイナップルなどのフルーツトラップに集まるそうだ。
ちなみに幼虫は無茶苦茶エグキモくて笑える。
気になる人は、拙ブログにある『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』を閲覧されたし。

 
(註3)見たことないシャクガ
帰ってから調べてみると、アサヒナオオエダシャクという蛾の♂であった。

 

 
アサヒナオオエダシャク
科:シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
属:Amraica Moore, 1888

 
【学名】 Amraica asahinai (Inoue, 1964)】

小種名の”asahinai”は、トンボやゴキブリの研究で有名な朝比奈正二郎博士に献名されたものである。おそらく和名もそれに準じてつけられたものだろう。

とくに亜種区分はされていないようだ。だがウスイロオオエダシャクと似ているため、最初はその南西諸島亜種として記載されたそうだ(ウスイロは屋久島以北に生息する)。しかし下甑島と屋久島では同所的に生息していることが判明し、別種になったと云う経緯がある。

 
【ウスイロオオエダシャク Amraica superans】

(出展『むしなび』)

 
相前後するが詳細に説明すると、日本のウスイロオオエダシャクは従来ではインドの”Amraica recursaria (Walker)と同一種とされ、本土の個体群は”ssp.superans”、屋久島以南の個体群は”ssp.asahinai”として扱われてきた。
だが下甑島と屋久島にて、それぞれ同一地点で両亜種が同時に採集された事から再検討が行われた。結果、共に独立種として扱うべきであり、更にそれらは”recursaria”とも異なる種であることが明らかになった。
またウスリー・朝鮮半島の”confusa”は、”superans”の亜種であり、台湾のものも”superans”ではあるが、色彩斑紋に明らかな差があることから別亜種として扱うべきことも判明した。これによりインド北部〜インドネシアに分布するものが原名亜種(Amraica recursaria recursaria)となった(Sato,2003)。

何でこんな事が起こったのかというと、Amraica属の各種は外観に比較的安定した違いがあるにも拘らず、種による交尾器の差異が雌雄ともに少ないそうだ。その上、個体変異も多いから、この属は種の見きわめは大変難しいようなのだ。だから、こうゆう記載のバタバタが起こったんだろうね。

尚、アサヒナオオエダシャクとウスイロオオエダシャクとの違いだが、アサヒナは前翅の外縁が反り、細長く見えるのに対してウスイロは前翅の外縁が反らない等の点で区別できる。

 
【開張】 ♂49〜66mm ♀69〜88mm
雌雄の判別は、大きさ以外に前翅からも可能。♂の前翅にはメリハリのある斑紋があるが、♀は全体的に暗色で斑紋が目立たない。
決定的な違いは触角の形状。♂の触角は鋸歯状になるが、♀はそうならなくて糸状なので判別は容易である。

 
【分布】
九州(宮崎県・鹿児島県),下甑島,種子島,屋久島,トカラ列島(中之島),奄美大島,徳之島,沖縄本島,久米島,伊江島,宮古島,石垣島,西表島,与那国島。
国外では、台湾,中国南部,ミャンマー,ベトナム,ネパールに分布する。

 
【生態】
3月と8月を中心に採集されているが、徳之島で6月、石垣島では12月にも得られている。この事から年2〜3化の発生だと考えられている。
♂は灯火によく飛来するが、♀が飛来することは稀である。
ちなみに、♂は稀に黒化した個体が得られる。

 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では不明となっているが、『日本産蛾類標準図鑑』にはリョウキュウマユミ(ニシキギ科)とある。尚、おそらく標準図鑑の表記は誤植で、本当はリュウキュウマユミのことだろう

 
(註4)マッハロッドで💥ズババババーン
マッハロッドとは、特撮TVドラマ「超人バロム・1」に登場するバロム・1の乗り物であるスーパーカーの事である。

 

(出展『メタボの気まぐれ』)

 
健太郎と猛がバロム・1に合体変身する際に使用するアイテムのボップが変形したもので、バロム・1が「マッハロッド、ボーップ❗」と叫んで空中に投げることで出現する。
最高速はマッハ2。飛行も可能で、水中や地中も走行できる。
マッハ2って、どないやねん(笑)。オープンカーなんだから、マッハで走ればワヤムチャになってまうやないの。空中とか水中、地中走行なんかは、もっとツッコミどころ満載である。
ちなみに画像は番組前期の車両で、ベースの車は NISSANのフェアレディZなんだそうだ。

マッハロッドはオープニングの唄に矢鱈と登場する。歌詞にも出てきて、そこに「マッハロッドでズバババーン」という文言が出てくるのだ。

You Tubeの動画を貼っつけておきます。

  

 
歌うのは、あの『ゼーット❗』の水木一郎である。
ありゃ❗、でも「マッハロッドでブロロロロー」だわさ。完全に歌詞を間違えて記憶してたわ。
歌詞を載せておきまーす。レジェンド水木さんの独自に語尾を伸ばすところが堪りまへん。
あと、擬音が萌え〜(人´∀`)。

 
『ぼくらのバロム1』
https://youtu.be/BdegVh82aFA
『ぼくらのバロム1』
 
ズババババーンは「やっつけるんだズババババーン」でごわした。スマン、スマン。

 
ー参考文献ー
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
◆保育社『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆手代木求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 1 タテハチョウ科』
◆手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』
◆五十嵐邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑(Ⅰ)』
◆岸田泰典『世界の美しい蛾』
◆2020.8.9『奄美新聞』
◆二町一成,柊田誠一郎,鮫島 真一『2011年奄美大島にて多数採集されたベニモンコノハ Phyllodes consobrinus Westwood, 1848』やどりが 236号(2013年)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『ピクシブ百科事典』
◆Wikipedia
◆You Tube

 

奄美迷走物語 其の六

 
第6話
『だいたいにおいて夜のダムはヤバい』

 
 2021年 3月23日(夜編)

4時半。諦めてあかざき公園を辞して山を降りる。
意気消沈だが、今夜の予報は雨ではないから夜にも出動しないワケにはゆかない。身も心もヘトヘトなのにね。
(´ε` ) ったくよー、こんなの殆んど拷問じゃないか。思うに蝶も蛾も採るとなると、昼夜問わずのアクションとなるので体力的にも精神的にもかなりキツい。今までなら夕方には帰ってきて、シャワーを浴びてビールを飲みながら今日も一日御苦労さん。それなりに満ち足りた気分で、ゆったりとイブニングアワーを過ごせた。今にして思えば、至福の時間だったよ。
これが夜にも採集となると、そうはゆかない。ローカルな店に行って美味いもんを食いながら酒飲んで、地元の人たちと仲良くなるなんて事も諦めねはならぬ。改めて思うけど、それが旅の醍醐味の一つでもあり、カタルシスでもあったのだ。
(-_-;)クッソー、今のところロクに結果も出てないし、飲みには行けないし、まるっきり楽しくないぞー。蛾の採集の辛いところは飲みに行けないところに尽きる。だから、蛾に対して罵詈雑言を吐きがちになるのかもしれぬ。
正直なところ、アマミキシタバが採れればそれでいい。本音ではヤツが採れたら、その後は夜間採集を全放棄したっていいとさえ思ってる。つまり早めに結果を出せたら、あとはサボりまくったっていいのだ。毎夜、浴びるほど酒を飲んでも何ら問題ないのである。

 
【アマミキシタバ】


(出典『世界のカトカラ』石塚勝己)

 
但し、ハグルマヤママユにも会いたいのはヤマヤマではある。あっ、意図せず中途半端な駄洒落になっとるやないけー。カッコ悪ぅ〜┐(´д`)┌
えー、整理します。現在の立ち位置は、酒とアマミキシタバならば、アマミキシタバを取る。酒とハグルマヤママユならば、酒を取る。これでワタクシ的プライオリティは御理解戴けたかと思う。

シャワーを浴びて少し休んでたら、6時半から宴会だと報された。今日は参加しますよねと小池くんに言われたが、断腸の思いでそれを振り切って夜間採集に出る。
バイクを走らせながら思う。何やってんだか…。それって本当に正しい判断だったのか❓頭の中でエヴァのアスカ(註1)が、

『あんた、バカぁ❗❓』
『これから若い女の子たちと楽しく飲めるのに蛾を採りに行くだなんて、ホント、バッカじゃないのー❗』

と言ってる。

 

(出典『ニコニコ静画』)

 
アスカ殿、その通りでござんすよ。あたしゃ、ダメだダメだダメだダメだ…の馬鹿シンジよりも愚かな男ですよ。酒好きで女好きで通ってきたイガちゃんの名が泣くよ。クッソー、今すぐ引き返してぇー。

途中でコンビニに寄って晩飯を買う。
ちなみに奄美大島にはセブンイレブンも無ければ、ローソンも無い。おそらくヤマザキデイリーストアも無い。コンビニといえば、ファミマ(ファミリーマート)しかないのだ。

 

(出典『ペンション涼風』)

 
それに営業形体が独自だ。地元のパン屋コーナーが併設されてたり、並んでる弁当の半分は地元業者のものだったりする。まあ、そこまではいい。だけど🍙おにぎりには憤りを感じる。ナゼだか知らんが、おにぎりに限ってはファミマブランドではなくて、全部が地元業者のおにぎりなのだ。コレが許せないほどに絶望的に不味い。何も知らずに買って、パサパサであまりにも不味いので、何でや❓と思って表示を見たら地元の会社だったのだ。来島初日にそれを知って、奄美のコンビニでは死んでもおにぎりは買わないと固く心に誓ったのさ。

迷った末に結局は地元業者のBIGチキン竜田弁当(¥510)なるものを買った。おにぎりはダメでも弁当はイケてるかもしれないと思ったのだ。明らかにボリュームがあって、値段も少し安いからね。それにもしかしたら、おにぎりの業者と弁当の業者は違うかもしれないとも考えた。少々イタいめにあってもチャレンジしなくては驚きと云う果実を得られないもんね。調子が悪い時ほどアグレッシブにいこう。それが悪い波からの脱出のキッカケになるかもしれない。

名瀬の街中を突っ切って、西へと向かう。目指す先は、大川ダム。ここはアマミキシタバが日本で初めて採集された朝戸峠からも距離的に近いから選択した。
今、『じゃあ何で朝戸峠に直接行かないのだ❓』と思った人もいるでしょう。そう、そこの貴方ね。
でも、これには重大な理由がある。ネットで朝戸峠を検索したら古い旧トンネルがあり、コレがメッチャクチャに怖そうなんである。画像で見てもチビるくらいヤバい雰囲気なのだ。実際に心霊スポットとして有名なトンネルらしい。

ワキャ(ノ ̄皿 ̄)ノ、スーパーなチキンハートであるオイラが、そんな恐ろしいところに行けるワケがないのだ。

空はまだ明るい。昨日の知名瀬林道では日没後に着いてスゲー怖かったから、今回は日没前に着くように早めに出たのだ。それに明るいうちだと周囲の環境もわかる。なれば何処にライトトラップを設置するかも吟味できると云うワケやね。

朝戸トンネルに入る。

 

(出典『Amamiの書』)

 
たぶん前々回に来た時には西仲間まで行ってるから二度目だ。いや、帰りにも通っているから三度目か。
でも走っていても、いっこうに出口が見えてこない。何だか気が変になりそうだ。
このまま延々とトンネルから出られなくなったりして…。
(ToT)ダアーッ。偶然、時空の歪みにハマって帰って来れなくなるかもしれんポチー。

冷や汗の中、漸く思い出した。名瀬から西へ向かう南側のルートはトンネルだらけで、しかも長いトンネルが多いのだ。
そうと解っても気持ちは揺れ動いて安定しない。長いトンネルって、無条件に人を不安にさせるんだよなあ。

トンネルを出て直ぐに右折し、ダムへと向かう道をのぼる。
途中、民家があり、そこに住む人が訝しげにコチラを見た。こんな時間に山の中へ行くなんて…という顔だ。その驚いたような顔を見て、不安が過(よぎ)る。この先にいったい何があるというのだ❓あっちょんぷりけ。

ダムの奥まで行くと広場に出た。その先は細い山道になっており、入口にはチェーンがかかっていた。たぶんコレが滝へと向かう道なのだろう。夜の滝なんて怖いから、ゼッテー行かないけどさ。

広場の横に建物があった。
そこに何本か水銀灯らしきものが立っている。コレって当たりかもしれない。もし水銀灯が点けば、蛾たちがワンサカ寄って来る可能性がある。だとしたら、ワシの何ちゃってライトトラップの効力をバックアップして余りある強力な助太刀になるじゃないか。労せずしてアマキシGETじゃよ。

良い位置に煉瓦が積んであったので、それを利用することにした。

 

 
お陰でソッコーで屋台を組めたよ。
続いてバナナトラップを山道に仕掛けに行く。
しかし、何となく不気味な感じで、言葉に表せないような気持ち悪さが漂っている。霊感の無いワシでも本能的に身体が奥へ行くことを拒んでいるような気がする。アンタ、悪いことは言わへん。やめときなはれである。マジ怖いので、入口近くに集中して仕掛けることにした。たとえチキンと言われても構わんけん。ワシ、どうせ小心もんじゃけん。

準備が完了したところで弁当を食う。

 

 
不味くはないのだが、旨くもない。肉、かたいし。
ただし、量は多い。途中から食うのがしんどくなってきたくらいだ。

 

(出典『歩鉄の達人』)


(出典『TundaiBlog』)

 
しっかし、異様なまでに淋しい風景だ。さっきから鳥も鳴かんし、風の音さえしないから無音なのだ。オマケに空はどんよりで、辺りはどんどん暗くなってきてる。シチュエーション的に、何かか起こる時って映画でもドラマでもこうゆう異様に静かで不気味な感じなんだよねー。そして惨殺。悪魔が来たりて笛を吹くのだ。

日が完全に暮れた。
だが水銀灯は点かない。とゆう事は廃屋って事か。いや、廃墟と言った方が正しいだろう。廃墟って昼間でも充分怖いのに、夜なんてヤバすぎでしょうに。
いかん、いかん。思考を停止する。極力そうゆう事は考えないようにしよう。想像が恐怖を増幅させるのだ。一番の敵は己の想像力なのだ。暴走させてはならない。

闇が急速に侵食してくる。
(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ダム、超怖ぇー。水は真っ黒で、僅かに水面が動いている気配がする。ダムといえば、ゼッテー何か沈んでるよね。あえて、何かって濁しちゃったけど、言ってしまうとコレはもう死体だよね。あー、ワシ言ったよ、言っちゃったよ。それってタブーだよな。それに口に出した瞬間から言葉に魂が宿って言霊になり、現実化すると聞いたことがあるぞ。或いはそれが何かを呼び寄せるとも。だったらワシ、ヤバくね❓
とにかく絶対、誰か殺された人がダムに放り込まれてるに決まってる。もしくは此の世に怨みを持って自殺した人が沈んでるかもしれない。或いは、その両方かも。だから何処でも夜のダムには、ただならぬ雰囲気が醸し出されておるのだ。
だいたいにおいて水が淀んでいるような場所は昔からヨロシクないと言われている。そうゆう所には出ると相場が決まっているのだ。だから、ダムは元より池や沼、湖、川の下流、井戸とかはヤバいと言われているのだ。トンネルなんかも中は水が染み出していることが多いから出るんだろう。空気も淀んでるしね。
そういや此処は、あのスーパー恐ろしげな朝戸峠の旧トンネルからも近い。ということは、怨霊どもが其処とダムとを縦横無尽に往復してたりして…。今、ワシは怨霊黄金ルートの真っ只中に立っているのやもしれぬ。知名瀬林道も怖かったけど、その怖さとは質感が違ってて、よりリアルさを帯びている。

とはいえ、虫たちがジャンジャンに飛んで来れば、そんな恐怖も忘れるだろう。虫を採りたいという欲望は、恐怖をも凌駕するのだ。虫バカになりさえすれば、大丈夫だ。意識をそっちに集中しよう。

しかしライトトラップを点灯するも、何も飛んで来ない。どんな場所でも大体は点灯直後には近くに居た蛾が幾つかは飛んで来るものだが、白布には何も止まっていないのだ。たぶん正面にある山が遠すぎて光が届かないのだろう。でも、そのうち光に吸い寄せられて徐々に数も増えてゆくだろう。そう思うことにしよう。

バナナトラップの様子を見に行く。

 

 
完全暗闇化すると、益々不気味な場所だ。懐中電灯で足元を照らしながら、おずおずと進む。大蛇ハブが這っているかもしれないからだ。自慢じゃないが、わしゃ大のヘビ嫌いなのだ。足もないのに前に進むのが全くもって解せないし、チロチロと舌なめずりはするし、あのヌメヌメした感じもダメだ。
そういや昔、鈴鹿の方にプーさんとミホとでキリシマミドリシジミを採りに行った時に足元から突然シマヘビが出て来たので、
キャァーε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
と女の子みたいな声を出して逃げたら死ぬほど笑われたわ。オイラ、それくらいヘビ嫌いなのさ。
シマヘビ如きでそうなんだから、大蛇化する本ハブなんかに遭遇したら心音プッツリかもしれない。

 

(2014.9月 奄美大島 蒲生崎)

 
戻って何気に廃墟に目をやった瞬間だった。

Σ(゚∀゚ノ)ノ❗何か光って動いた❗❗

すわっ🔥鬼火か❓と思って、その場で石化する。そうです、ワタシは石です。生き物ではごじゃりません。だから無視してください此の世の者ならざる存在さんたち。
けれど恐る恐る懐中電灯を周囲にも照らすと、それと連動して光も動いた。そこで漸く気づく。
何のことはない、ただ懐中電灯の光と自分の姿が建物のガラスに反射したにすぎない。
びっくりしたなー、もぅー(´ε` )

午後8時を過ぎてもライトの白布は開店休業状態で閑古鳥が鳴いている。だからアマミキシタバどころかクソ蛾でさえも1つも採れていない。こんなに何も来ないなんて初めてだ。こりゃ呪われとるね。
バナナトラップも15分おきに見回りに行くが、訪問客はキショいゲジゲジしかいない。ゲジゲジは大嫌いだ。脚が多すぎるのも、それはそれで背中がオゾけるのだ。けど、この日は憤りの方が勝って棒で虐待してやった。したら、慌てて逃げていった。
何だか虚しいわ。怖ぇーし、何もおらんから退屈だし、退屈だから色々あらぬことを考えて心が少しづつフォースの暗黒面へと落ちていってる。それが自分でもよくわかる。

午後9時には、その恐怖と退屈に耐えきれなくなって撤退を決意した。これから先、どう考えても良いことが起こりそうにはないもん。目に見えないけど、きっと此処には瘴気が渦巻いているに違いない。これ以上、悪い事が起こらぬ前に帰ろう。

徒労感に包まれて夜道を下り、また朝戸トンネルを抜けて三十分後には宿に帰り着いた。
玄関を入ると、宴もたけなわであった。可愛い女の子2人の力は絶大で、宿泊客だけでなく地元の人も加わって大盛況だ。
クソー、あんな思いをするなら、最初から宴会に参加すべきであった。こうなりゃ、ヤケ酒だ。浴びるほどに飲んでやるわ。

かなり酔っ払ってるゲストハウスの息子さんに、今日は何処行ってたの❓と訊かれて『大川ダム』と答えたら、驚いたような顔で言われた。

『夜に、よくあんなとこに一人きりで行くよねー』

『(・o・)えっ、それってどゆこと❓』

『地元では有名な心霊スポットだからさ』

『Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン。マジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗』

どうりで、あんなにも気待ち悪かったのだ。
何なんだ、この負の連鎖は❓
オジサン、泥酔路線まっしぐら。

                         つづく

 
追伸
もうあんなとこには、二度と行かん。
ちなみにダムの写真をお借りしたのは、自分で撮るような精神的余裕が全くなかったんでしょなあ。真っ暗闇の画像も前日か前々日に撮った名瀬か知名瀬林道の画像を転用だしさ。

そういえば、過去にホラーとスリラーとミステリーの違いについて書いたことがあったな。たぶん初期のカトカラシリーズか春の三大蛾の回だ。3つの違いは長くなるので書かない。気になる人は、申し訳ないが自分で探しとくれ。

 
(註1)エヴァのアスカ
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の弐号機パイロットである惣流・アスカ・ラングレーのこと。性格は快活で主体性・自立心が強く、非妥協的。異常なまでにプライドが高く、自己中心的だが、一方では自己愛が欠如しており、周囲に対して過敏で傷つきやすい面を持つ。この性格は幼少期のトラウマに大きく影響されており、望んだ相手に自分を見てもらえなかったことによって欠けた自己愛を、他人に認めてもらうことで満たそうとする面が強い。謂わば、その強さは脆さと紙一重のものである。

尚、『あんた、バカぁ!?』のセリフは、壱号機のパイロットであり主人公の碇シンジに対して度々放たれる言葉で、他にも事あるごとに『バカシンジ』などと罵ることが多い。
裏腹にシンジに対して好意を持ち、愛を求めるが、彼が都合の良い逃避先として消去法で自分を求めてきた際には強く拒絶した。
アスカ役の声優宮村優子はアスカについて「今で言うところのツンデレ。異性として気になるのはシンジだけど、なかなかそれを表に出すことが出来ない」と評している。

 

奄美迷走物語 其の四

 
 第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』

 
 2021年 3月22日(夜編)

帰りがけにビールを買い、宿でグビグビいく。
(≧▽≦)プハー。やっぱ風呂上がりの🍺ビールって最高だべさー。ましてやサウナの後なんだから尚更だ。
小池くんも御機嫌だから、ここぞとばかりに夜間採集に誘う。
だって一人で夜に金作原なんて行きたくないもーん(;O;)
ねぇねぇ、あんたアマミノクロウサギを見たいんじゃろう❓行こうよ、行こうよー。
そう口説くが、迷っている様子だ。

取り敢えず灯火採集の用意をしていたら、下の階から若い娘二人が上がってきた。噂で東京から可愛い娘が泊まりに来るというのは聞いていたが、どうせブスだろうと思ってた。けど予想に反して結構可愛い。
これで完全に風向きが変わった。しかもゲストハウス主催で彼女たちを囲んでこれから宴会だというじゃないか。すぐに小池くんが夜間採集をキッパリと断ってきたのも仕様がないよね。解るよ、解る。ワシだってホントはそうしたいもん。
しかし、虫屋の性がそうさせない。何としてでもこの旅でアマミキシタバを採らなアカンのだよ。

 

 
コンビニで買ったハンバーグ弁当を食って、意を決して出る。
プライオリティの最上位は虫なのだ。虫屋って、どうしようもないアホだ。阿呆だが、それが虫屋というものなのだ。ハッキリ言ってビョーキだ。カワイコちゃんとの宴会をうっちゃって出てゆくなんて、どう考えても間違ってる。それも夜の山中に一人で行くのである。夜行性の毒蛇ハブが蠢(うごめ)き、悪鬼羅刹が跳梁跋扈しているであろう魑魅魍魎の世界なのだ。そんなところにワザワザ自ら身を投じるだなんて、飛んで火に入る夏の虫。一般ピーポーからすれば、アホを通り越した狂人だろう。

地獄の沙汰も虫次第。
イカれポンチである。

日没時刻は6時半。それまでにはポイントに着いておきたい。森の闇に怯えながらライトトラップを設置するのは、願わくば避けたい。そんな事になれば、生来が大の怖がり屋なんだからチビりかねないのだ。ヽ(`Д´#)ノムキーッ❗、知名瀬トンネルでショートカットじゃ❗フルスロットルで飛ばす。

昼間に行った金作原に向かう林道に入る。
日は既に沈んでおり、闇が急速に侵食し始めている。林道は薄暗くて、泣きそうなくらい不気味だ。勿論のこと、人っ子一人いない。
場所を昼間のミカン畑に選定する。此処は谷状の地形になっており、三方を山に囲まれているから、広い範囲から虫がやって来ると考えたのだ。

しかし、点灯しても殆んど何も飛んで来ない。
おそらく森から遠すぎて光が届かないのだ。やはりこのライトトラップは開けた場所には向いておらず、林内でしか効力を発揮しないのかもしれない。
1時間後、仕方なく林道に移動して設置し直すことにする。
 
それにしても暗い。試しに灯りを全部消したら、真っ暗けになった。都会の一般ピーポーの殆んどが経験した事がないであろう漆黒の闇だ。小池くんに、この闇を是非とも味わせてやりたかったよ。あのチョーシいい男も慄然として口数が減ったろうに。

 

 
そんな事を想像したら、逆に自分の方が怖くなってきた。
山の中は何処でも真っ暗だが、亜熱帯の原生林は特に闇が濃いような気がする。
(´ω`)アハハ…、もしも、この瞬間に暗闇からヌワッと手が何本も飛び出てきたら、発狂もんだな。林道の奥から行進する軍靴の音が聞こえてきても、その場で気絶だ。恐怖に打ち勝つ一番の方法は意識を失うことなのだ。食われるとか、木に縛りつけられるとか、その後にどうなるかを想像さえしなければ最高の対処法だろう。

何とか設置完了。

 

 
でもさっきよりもマシになったとはいえ、劇的に飛来数が増えたりはしない。ショボい事には変わりはないのだ。やっぱ、何ちゃってライトトラップでは無理があんのかなあ❓

一応、糖蜜も周囲の枝葉に噴き付けたが、前日と同じく何も寄ってこん。或いは黒酢を入れたのは失敗だったかもしれん。普段のレシピどおりにしときゃ良かったよ。

 

 
しかも岸田先生がメッチャ効くと言っていた中国の黒酢だ。そのまんま何も入れずとも効くとマオちゃんも言ってたしさ。他と混ぜるとあんま良くないのかなあ…。悩める男は、暗闇で深く嘆息する。

9時過ぎ、糖蜜トラップの様子を見に行くと、オオトモエ(註1)が来ていた。
何だおまえかよのガッカリだが、ウルトラ退屈なので採ることにした。

 

 
網で採ったから、背中がハゲちょろけたよ。
(´-﹏-`;)何だかなあ…。何やってんだって感じだ。
ワシ、どこまで呪われとんねんと思いつつ、それを三角ケースに収めたその時だった。

ガサガサガサー❗
下の川の茂み付近で音がした。
ウグッ(ㆁωㆁ)、悶絶白目ちゃーん。
心臓が止まりそうになる。
きっと奄美の妖怪、ケンムンだ…(-_-;)

 

(出展『Wikipedia』)

 
背筋から首にかけてが、スゥーっと冷たくなる。 
恐る恐る懐中電灯で、音がした辺りを照らす。
もしも青く光っていたなら、間違いなくケンムン(註2)じゃろう。奴は怪しげに発光していると言われておるのだ。これは燐成分で涎(よだれ)が光るためだとか、指先に火を灯すためだとか、はたまた頭の皿が光るとも頭上の皿の油が燃えているのだとも言われている。
やだなあ…。毛深いらしいし、涎はメチャンコ臭いらしいから絶対友だちになれそうにない。大きさは子供の身の丈ほどだというからボッコボコにシバキ倒してやろうかとも思った。けど顔つきは犬、猫、猿に似ていて、目は真っ赤。目つきが鋭いらしいし、口は尖っているというからなあ…。どう考えてもバケモンだもんなあ…。怯んでボコるどころではなさそうだ。
ならば、タコ🐙を投げつけて追い払うしかない。ケンムンは蛸とシャコ貝をとても嫌っているとどこかに書いてあった筈だ。でも今、んなもん持っているワケがない。持ってたらアタマおかしい人だろう。

色々と想像すればするほど、ドツボにハマってくる。耐えきれず、恐怖のあまり闇に向かって絶叫した。

(`Д´#)ブッ殺ーす❗❗

闇夜に声が奇妙な感じで反響する。
と、同時に再び、ガサガサガサー❗
瞬時にシバキ棒を伸ばし、身構える。向かってきたらメッタ打ちにしてやる所存だ。おどりゃ、(-_-メ)刺し違えてやらあ。

茂みから何かか飛び出した❗
Σ(゚Д゚)ゲロッ❗❗毛むくじゃらだ❗ケンムン❗❓

だが、茂みから出てきたのは2足歩行ではなく4足歩行の生物だった。たぶん哺乳類だ。しかも、あまり大きくない。そうなれば形勢逆転だ。すかさず再度、渾身の怒号を浴びせ掛けてやったら全速力で下流に向かって逃げていった。ダボがっ❗
あの姿は、どう見てもアマミノクロウサギではない。たぶんカタチ的にリュウキュウイノシシ(註3)だわさ…。
( •̀ε•́ )クソ畜生めがぁー、ビックリさせやがってからに。久し振りに肝が凍りついて、チンチンめり込んたよ。
それにしてもイノシシにしてはウリ坊でもないのにかなり小さかった。六甲辺りでよく見るドデカイ奴と比べれば子供みたいなもんだ。そういや、島のイノシシは小さいとタケさんが言ってたなあ。それって所謂ところの、ベルクマンの法則(註4)ってヤツなのかなあ❓

ようやく11時前に大きめの蛾が飛んできた。
たぶんエダシャクの仲間だ。今までずっと何処へ行ってもエダシャクは無視してきたけど、あまりにもヒマなんで採ることにする。それに本土とは別亜種になってる可能性だってあるからね。

 

 
何かコレって見たことあるような気がするぞ。トビモンオオエダシャク(註5)とか云う奴じゃなかったっけ❓
エダシャクなんぞにはコレっぽちも興味がなくて、種名も殆んど知らないけど、コレには見覚えがある。なぜなら、つい最近の3月初めに奈良と大阪の県境に行った時、壁に停まっているのを写真に撮ってFacebookにあげたのだ。したら、カッちゃんだったかなあ…、親切にも名前を教えてくれたのだった。

 

(2021.3.4 大阪府柏原市)

 
あれっ❓、何か違うぞ。待てよ、コレってトビモンオオエダシャクではなくてチャオビトビモンエダシャク(註6)だったんじゃないかな。カッちゃんもそう言ってた気がする。もしかしたら、自分で調べた時にトビモンオオばっか出てきたので、そっちに記憶が引っ張られたのかもしんない。
でも山ん中じゃ電波が届かないので確認しようがない。まあ、どっちだけいいけど。元来が蛾嫌いなのだ。アマミキシタバとハグルマヤママユくらいにしか興味がないのじゃよ。正直、その2つさえ採れればいいのだ。

その後もロクに何も飛んで来ないし、退屈であればあるほど恐怖が頭を掠めがちだ。丑三つ刻には耐えられそうにない。
午前0時前、撤退。
何しに来たかワカラン結果に終わった。
何だかなあ…。

                         つづく

 
追伸
部屋に帰ったら、隣の部屋で小池くんが女の子たちと楽しそうにハシャぐ声が漏れてきた。わざわざ行く気にもなれず、1人缶チューハイを飲みながら後片付けをしていたら、こんな夜更けに若者が部屋に入ってきた。徳之島から来たそうだが、海が荒れてて、船の出発が大幅に遅れたんだそうな。昼間、奄美の海も白波が立ちまくりだったもんなあ。
話を聞くと東京の大学生で、ダイビング部に所属しているという。となれば、元インストラクターとしては饒舌にならざるおえない。
色々話してたら、小池くんが部屋に戻ってきて、『なあ〜んだ帰ってたんですかあ❓全然気づきませんでしたよー。』と調子こいて言う。まあ、そらそうよ。女の子と楽しそうに喋ってたんだから、気づくワケあるまいて。
『一緒に彼女たちと飲みましょうよー。』と言うので、行くことにした。闇に長時間いて、ずっと緊張に晒されてたし、悪夢のような貧果だったから酒でも飲まなきゃやってらんないって気分だったのだ。

女の子二人は、モデルとダンサーだった。
二人とも賢い娘で、男心のくすぐりどころをよく解っていらっしゃる。それでいて根が真面目なのがよくワカル。たぶん、何処へ行ってもモテるタイプだろう。
学生とダイビング談義になって痛飲。オーバードランカーで泥のように眠りに落ちた。何やってんだ、俺❓

 
(註1)オオトモエ

(2021.3月 奄美大島)

 
前々回に解説し忘れていたので、しときます。

ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
トモエガ属(Erebus)

【学名】 Erebus ephesperis (Hübner, 1823)
属名の”Erebus”は、おそらくギリシャ神話の冥界の擬人神エレボス、もしくは暗黒界(現世と地獄の間にある死者の棲家)あたりが由来だろう。たぶん南極の活火山エレバス山も命名の由来は同じだろうね。
小種名の”ephesperis”は、よく分かんないけど、ギリシャ語の”Eσπερίς,=Hesperis へスペリス”で、ギリシア神話に登場する黄昏の女神の事かもしれない。ゴメン、蝶とかカトカラじゃないので、必死になって調べたワケじゃないから正しいかどうかワカンナイですぅー(◡ ω ◡)

【開張】 90〜95mm
和名は前翅に巴模様の目玉があることから名付けられたのだろう。してからに、国内のトモエガ類の中では一際大きいがゆえの命名だろう。
だが本土のモノと比べて、かなり小さいという印象だ。その後、結構な数の個体を見たから断言できる。オオトモエにも春型とかあるのかなあ❓でも聞いた事ないよなあ。或いは亜種なのかな❓とも思ったが、本土のものより外横線の白帯が細くなる傾向があるものの、特に亜種区分は為されていないようだ。これもベルクマンの法則に当て嵌まるのかなあ❓

(本土産オオトモエ)

少し印象が異なるが、前翅の地色と白色条の発達具合には個体変異があるそうだ。個人的には、こうゆう地色が黒っぽい方がカッコイイと思う。

【分布】 北海道南部,本州,四国,九州,対馬,屋久島,トカラ列島,奄美大島,沖縄本島,阿嘉島,慶留間島,伊江島,宮古島,石垣島,西表島,与那国島。尚、関東地方南部以北では偶産との見解がある。
国外では台湾,中国,ボルネオ,インドネシア,マレーシア,ミャンマー,インドなどアジアに広く分布する。

【レッドデータブック】 群馬県:準絶滅危惧
普通種のイメージなだけに、まさかの準絶滅危惧種に指定されてる所があるとは思わなんだ。正気かよ、群馬県。

【成虫の出現期】 3〜10月
本土では4〜9月に見られ、年2化とされるが、おそらく南西諸島では年3化くらいするものと思われる。テキトーに言ってるけど、たぶんあってるだろう。

【幼虫の食餌植物】 ユリ科:サルトリイバラ、シオデ
今まで気にも留めなかったが、食樹はルリタテハと同じサルトリイバラなのね。トゲだらけのウザい植物です。とはいえ、意外と利用されていて、西日本ではこのサルトリイバラの葉で柏餅を巻くところが案外多い。余談だが、柏餅といえば本来はカシワ(ブナ科)の葉で包むのがポピュラーだというイメージがあって「西日本では、サルトリイバラの葉で代用する」という話が流布されているが、実は全くのあべこべであって、サルトリイバラの代用としてカシワの葉を用いる方法が江戸時代に考案されたという一説がある。
普段、甘いもんは食わないから柏餅もほとんど口にした事はない。よって、本音はそんなのどっちだっていいんだけどもね。

【成虫の生態】
夜行性だが、昼間に林内を歩いていると、時々足元から飛び出してビックリさせられることがある。夜間、クヌギやコナラなどの樹液に集まり、糖蜜トラップにもよく来る。その際は敏感で、近づこうとするとソッコー逃げよる。これが٩(๑`^´๑)۶ムカつく。
また灯火にもよく飛来し、大型なので不意に飛んで来ると結構驚かされる。

個人的にはマスカレードと呼んでいる。仮面舞踏会のマスクみたいだからだ。改めて見るとカッコいいデザインだし、大きいので存在感もあるから良い蛾だとは思う。最初は感動したような記憶があるもんね。けれど普通種なので次第にどうでもいい存在になっていった。採る気もないから無視しているのに、やたらと敏感だから💢イラッとくるし、たとえ鮮度が良くても大抵は翅がどっか破れてるのも何だか腹が立つ。逃げる時なんかは直ぐに藪の中に突っ込んでゆくから、普段でも平気でそうゆう所を飛ぶ種なのだろう。

 
(註2)ケンムン

(出展『山口敏太郎の妖怪話』)

ケンムンとは、ケンモン(水蝹)とも呼ばれる奄美諸島に伝わる妖怪のこと。河童や沖縄の精霊であるキジムナーと共通する外観や性質が伝えられている。
髪は黒または赤のオカッパ頭。肌は赤みがかった色で、全身に猿のような体毛がある。相撲好きで人に逢えば挑戦してくると言われる。かつては木こりや薪拾いが荷物を運ぶのを手伝い、有益無害な存在だとされていたが、時代を経るにつれ、一転して危険で害を及ぼす忌避すべき存在となった。

体と不釣合いに足と腕が細長く、膝を立てて座ると頭より膝の方が高くなり、先端が杵状だとされる。頭の皿には力水または油を蓄えている。
変幻自在に姿を変える能力を持っており、見た相手の姿に変化したり、馬や牛に化けたりする。また、植物など周囲の背景に化けて姿を消し、行方をくらますこともできるとも言われている。ミラージュ効果みたいなもんか。まるでプレデターだな。
目撃は稀で、人家や人っ気の多いところを忌避する。月と太陽の間に生まれたと言われ、庶子(妾の子、私生児)だったので天から追放された(太陽の妾の子って何よ?星かよ(笑))。はじめは岩礁に住まわされたが、蛸にイジメられたので太陽に新しい住処を求めたところ、密林の中で暮らすよう諭されてガジュマルの木に住むようになったという。ガジュマルの木の精霊とも言われ、木を切ると祟られると恐れられている。ケンムンの祟りの遭うと目を患い、何かで突かれたかのように腫れ上がり、失明寸前になるという。また、それが原因で時には命を落とすこともあるという。

魚や貝を食料としており、特に魚の目玉を好む。漁が好きで夜になると海辺に現れ、指に灯りをともして岩間で漁をする。漁師が魚を捕りに行くとナゼか魚がよく捕れたが、どの魚も目玉を抜かれていたという伝承が残っている。カタツムリやナメクジも食べる。カタツムリは殻を取って餅のように中身を丸めて食べ、ケンムンの住んでいる木の根元にはカタツムリの殻が大量に落ちているという。
蛸やシャコ貝を大変嫌っており、投げつけると追い払える。或いは虚でも何か別の物を蛸と称して投げるか、投げると脅しても効果がある。また河童同様に皿の水が抜けると力を失う。ゆえに相撲を挑まれた際に逆立ちをしたり、礼をしてみせると、ケンムンもそれを真似るので、皿の中身がこぼれて退散すると言われている。

悪口を言われることが嫌いで、体臭のせいか、山の中で「臭い」と言ったり、屁のことを話されることも嫌がっている。
とはいえ、本来は穏健な性格で、基本的に人に危害を与えることはない。前述した薪を運んでいる人間をケンムンが手伝った話や、蛸にイジメられているケンムンを助けた漁師が、そのお礼に籾を入れなくても米が出てくる宝物を貰ったという話も伝わっている。加計呂麻島では、よく老人が口でケンムンを呼び出して子供に見せたという。
しかし河童と同じように悪戯が好きな者もおり、動物に化けて人を脅かしたり、道案内のふりをして人を道に迷わせたりする。食べ物を盗むこともあり、戦時中に空襲を避けた人々がガジュマルの木の下に疎開したところ、食物をケンムンに食べられたという話がよく聞かれたそうだ。その際、ケンムンは姿を消しており、カチャカチャと食器を鳴らす音だけが聞こえたという。
石を投げることも悪戯の一つで、漁師が海で船を漕いでいたところ、遥か彼方の岸に子供のような姿が見えたと思うと、船のそばに次々と巨大な石が投げ込まれたという話がある。
さらに中には性格の荒い者もおり、子供をさらって魂を抜き取ることがある。魂を抜かれた子供はケンムンと同じようにガジュマルの木に居座り、人が来ると木々の間を飛び移って逃げ回る。このような時は藁を鍋蓋のような形に編んで、その子の頭に乗せて棒で叩くと元に戻るという。時に大人でも意識不明にさせられ、無理矢理カタツムリを食べさせられたり、川に引き込まれることもあるという。
これらの悪戯に対抗するには、前述のように蛸での脅しや、藁を鍋蓋の形に編んで被せる他、家の軒下にトベラの枝や豚足の骨を吊り下げる方法がある。ただしケンムンの悪戯の大部分は人間たちから自分や住処を守ろうとしての行動にすぎないので、悪戯への対抗もケンムンを避ける程度に留めねばならず、あまりに度が過ぎると逆にケンムンに祟られてしまうらしい。
ある女性が、この地の大工の神であるテンゴ(天狗)に求婚された。女性は結婚の条件として、60畳もの屋敷を1日で作ることを求めた。テンゴは二千体の藁人形に命を与え、屋敷を作り上げた。この藁人形たちが後に山や川に住み、ケンムンとなったという説がある。
他の起源説もある。昔、ネブザワという名の猟師が仲間の猟師を殺し、その妻に求愛した。しかし真相を知った妻は、計略を立てて彼を山奥へ誘い込み、釘で木に打ちつけた。ネブザワは神に助けられたが、殺人の罰として半分人間・半分獣の姿に変えられた。全身に毛が生え、手足がやたら細長い奇妙な姿となったという。そして彼は、昼間には木や岩陰の暗がりに隠れ、夜だけ出歩くようになった。これがケンムンの元祖だという。また嫁いびりにあい、五寸釘でガジュマルの木に打ち付けられた女性がケンムンになったとも言われている。

第二次世界大戦以後は、それまでに比べてあまり目撃されなくなったが、その大きな要因は乱開発によってガジュマルなどの住処を失ったためだと言われている。
GHQの命令で奄美大島に仮刑務所が作られる際、多くのガジュマルが伐採されたが、島民はケンムンの祟りを恐れ「マッカーサーの命令だ」と叫びながら伐採したという。後にマッカーサーがアメリカで没した際、島民の間では「ケンムンがいなくなったのは、アメリカに渡ってマッカーサーに祟っていたためだ」と話されていた。その暫く後にまたケンムンが現れ始め「ケンムンがアメリカから帰って来た」と噂が立ったそうである。

調べれば調べるほど、ケンムンに愛着が湧いてきた。考えてみれば、妖怪ってどこか悲哀感があるんだよなあ。そこに惹かれるところがあるのかもしれない。

 
(註3)リュウキュウイノシシ

(出展『沖縄リピート』)

琉球猪。学名:Sus scrofa riukiuanus
南西諸島の一部に分布するイノシシの固有亜種である。

主な分布は奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島。また上記以外にも慶良間諸島や宮古島にも人為的に移入されている。
奄美群島では元々奄美大島と徳之島にのみ生息していたが、海を渡って加計呂麻島、請島、与路島にまで分布を拡大したと考えられている。

体型は生息する島によって少し異なるが、ニホンイノシシと比較すると概して小さく、頭胴長50〜110cm、体重は20〜50kg程度である。
イノシシの亜種とされるが、頭蓋骨の形状の違い等から別種の原始的なイノシシと考える研究者もいるようだ。また西表島及び石垣島の個体群は、沖縄本島及び奄美群島の個体群と遺伝的に塩基配列が異なる。形態上も上顎骨にある涙骨や口蓋裂の形状が異なり、乳頭の数や位置も相違する事から西表島及び石垣島の個体群を独立した亜種とすることが提唱されている。

雑食性で、シイの実やタケノコ、柑橘類、サツマイモ、サトウキビ等の農作物、昆虫、ミミズ、カタツムリ、ネズミ、ヘビ等の小動物を食べる。近年、奄美群島や八重山列島ではウミガメの卵への食害が問題になっている。
ニホンイノシシの繁殖期が通常年1回であるのに対し、繁殖期は年に2回(10〜12月、4〜5月)ある。

奄美諸島では縄文時代から、西表島でも古くから食用にされ、鍋物(シシ汁)、焼肉、刺身、チャンプルー等の調理法で食されてきた。近年になって個体数が増え、道路や民家周辺にも頻繁に現れるようになったため捕獲され、流通量も増えている。但し、観光客や人口の増加に伴って需要が増大した事により、狩猟圧も高まっており、生息数の減少が懸念されている。

 
(註4)ベルクマンの法則
ドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンにより1847年に発表された学説。
「恒温動物は、しばしば同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が増え、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」というもの。これは体温維持のためで、体重と体表面積の関係から生じるものであるとされている。
具体例としてよく挙げられるものにクマがある。熱帯に分布するマレーグマは体長140cmと最も小型だが、日本からアジアの暖温帯に分布するツキノワグマは130〜200cm、温帯から寒帯に生息するヒグマは150〜300cmになり、北極近辺に住むホッキョクグマは200〜300cmにも達する。
また日本国内のシカは北海道から慶良間諸島まで分布するが、北海道のエゾシカが最大であり、慶良間諸島のケラマジカが最も小柄であるのも例証としてよく挙げられている。

 
(註5)トビモンオオエダシャク

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

シャクガ科エダシャク亜科に属する大型の蛾。
上の画像のように♂は色調と斑紋に比較的顕著な個体変異があり、ヴァリエーションに富むそうだ。但し基本的な模様の形状は安定しているという。♀は斑紋が不明瞭で、♂よりも淡色である。

【学名】 Biston robustus Butler, 1879
北海道〜屋久島に分布するものは原記載亜種とされるが、奄美大島以南のものは別亜種とされ、Ssp.ryukyuense という亜種名が与えられており(Inoue, 1964)、前・後翅ともに淡い紫色を帯びる。

属名の Biston(ビストン)は、ステファヌス=ビザンティウムの『Ethnica』(6世紀)によれば、古代トラキアの伝説上の人物が由来で、父は軍神アレース、母はネストス川の神の娘であるとされる。
小種名の”robustus”は、ラテン語で「頑丈な」という意味。

【開張】:♂40~70mm、♀65~75mm
♀は♂より大型で,翅の色調が灰色がかっている。また、触角は♂が両櫛歯状,♀は糸状となる。♀は灯火には殆んど飛来しない事から、目にする機会は少ないという。

【成虫の出現期】2月下旬~5月上旬
年1化。各地で春先に出現する。但し奄美以南亜種は11月下旬から1月上旬には姿を見せるようだ。越冬態は蛹。

【分布】
原記載亜種は北海道、本州、伊豆諸島、四国、九州、対馬、種子島、屋久島に分布する。奄美大島以南亜種は奄美の他に沖縄本島、石垣島、西表島等に分布する。
国外では台湾、朝鮮半島、中国東北部、ロシア南東部に分布し、台湾と朝鮮半島〜ロシア南東部のものが、それぞれ別亜種となっているようだ。

【生態】
広葉樹を中心とする各種樹林内とその林縁,公園などに見られる普通種。夜間多くの花に吸蜜に訪れ、♂は頻繁に灯火に飛来する。

【幼虫の食餌植物】
広食性で、ブナ科、ニレ科、バラ科、マメ科、ニシキギ科、カエデ科、ツバキ科、ミズキ科、モクセイ科、スイカズラ科など多くの樹木につく。

【幼虫】

(出典『芋活.com』)

体を伸ばして静止していると、小枝にソックリである。うっかり土瓶を掛けたら落ちて割れたと云う逸話から、別名「土瓶割り」とも言われるそうな。ようは擬態ってヤツなんだけど、枝に化けることにより鳥などの天敵の目を欺いてるんだね。

移動する時は、こんな感じ↙。


(出典『芋活.com』)

いわゆるところの尺取り虫ってヤツでんな。こうやって尺を取るように体を曲げたり伸ばしたりして前へ進むのだ。

更に検索してたら、ウィキペディアの英語版に興味深い記述を見つけた。何と幼虫は視覚的に擬態しているだけでなく、化学的にも擬態しているというのだ。気になって探してみたら、出典である論文らしきものを見つけた。以下、一部抜粋します。

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/seika/nias/h16/nias02005.html
トビモンオオエダシャクの幼虫は化学的にも植物に擬態する

[要約]
餌植物の枝に視覚擬態することで知られているトビモンエダシャク幼虫は体表ワックスの組成でも寄主植物の枝の成分に化学擬態し、天敵であるアリ類からの攻撃を免れている。寄主植物が変わると2回の脱皮を経てトビモンオオエダシャクの体表物質組成が変化する。アリは、植物とそれに化学擬態したエダシャク幼虫を化学的に見分けられない。

[背景・ねらい]
トビモンオオエダシャクの幼虫は外見上植物の枝に良く似た形態と色彩をもち、それによって視覚に頼って餌を探索する鳥類からの捕食を免れている。一方、アリ類は生態系における有力な捕食者であり、視覚よりも嗅覚などの化学感覚によって餌探索をおこなう。しかしながら、トビモンオオエダシャク幼虫をクロヤマアリに遭遇させても、まったく攻撃を受けないことを発見した。

( ゚A゚)へぇーである。

 
(註6)チャオビトビモンエダシャク


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

トビモンオオエダシャクと同じく春に現れるエダシャクで、日本産は亜種 Ssp. hasegawai Inoue, 1955 とされる。
原記載亜種(Biston strataria (Hufnagel, 1767))はヨーロッパ原産で、分布はバルカン諸国、黒海地域から小アジア、コーカサスにまで及ぶ。

【学名】Biston strataria (Hufnagel, 1767)
小種名の”strataria”は、ラテン語の stratum(掛け布団,寝具の意)+aria(接尾辞)。Emmetは、これを翅の形状からの連想に由来すると見なしている。
おそらく日本亜種 ssp.hasegawaiは、人名(長谷川)からの命名だろう。

【分布】 北海道、本州(東北地方から中部地方の山地)
あれっ❗❓、『日本産蛾類標準図鑑』には近畿地方が含まれてないぞ❗もしかしてトビモンオオエダシャクの同定間違い❓
でも、どう見てもチャオビだと思うんだけどなあ…。
ネットで調べたら、広島県や岡山県、四国、そして近畿地方でも記録があるぞ。どゆ事❓
更に調べると『蛾色灯。』というサイトに答えに近い記述があった。それによると、以前はビストン属の中ではレアで出会うのが難しい種類の一つだったが、最近になって目撃例が増えているらしい。個体数が増えてるのかなあ❓…。その流れで西日本でも見つかるようになったのかなあ❓否、にしても短期間でそこまで分布を拡大できるものなのかね❓にわかに信じ難い。また新たなる疑問にブチ当たったよ。

【成虫の出現期】 4月〜5月
本州では4月上旬、北海道では5月上旬から出現するが、産地は限定される。
ヽ((◎д◎))ゝあれれー❓、ワシが採ったのは3月上旬だから、また『日本産蛾類標準図鑑』の記述と相違があるぞー。
確認したら、新しく見つかった産地は3月の目撃例が多い。読み直したら『蛾色灯。』にもそう書いてあった。にしても、急に各地で採れ始めて、しかも発生期が前倒しになってるだなんてミステリーだよなあ。

同時期に現れるトビモンオオエダシャクとの違いは以下の通りである。
①前翅中横線がチャオビは屈曲せず、外横線に近づきながら緩やかな線になるが、トビモンオオでは波状に曲がる。
②チャオビは後翅が前翅よりも淡い色で、中横線がほぼ直線状である。一方、トビモンオオはギザギザになる。
③頭部の周りの毛がトビモンオオでは真っ白になり、チャオビは白くならない。
④静止状態の時はチャオビは三角形、トビモンオオは翅をやや下げて開き気味に静止していることが多い。

(トビモンオオエダシャク静止画像)

(出典『昆虫エクスプローラー』)

こんな感じだ。
比較するのに分かりやすいように、今一度チャオビの静止画像を貼り付けておこう。

やはり止まり方が違うし、頭も白くないからチャオビで間違いないだろう。
とはいえ、確実に同定するために展翅すっか。スゲー、面倒クセーけど。

 

 
三角紙を開いてみて、直ぐに下翅の方が色が淡いことに気づく。間違いなくチャオビだな。写真を撮っておけば証明にはなるから、展翅しなくてもいっか…。邪魔くさいもんな。
でも小太郎くん辺りにお叱りをうけそうなので、やっぱ一応展翅すっか。

 


(2021.3.4 大阪府柏原市)

 
下羽の柄からも、明らかにチャオビトビモンエダシャクの♂だね。

【開張(mm)】♂45〜48mm ♀58mm内外
展翅して気づいたが、トビモンオオエダシャクよりはだいぶと小さいね。

ネットの「蛾色灯。」によると、♀の記録が非常に少なく、未だ国内では片手ほどの状態だという。ホンマかいな。そんなの大珍品っしょ。まあ、採り方が分かれば、珍品でも何でもなくなるんだろうけどね。

【幼虫食餌植物】 不明
とはいえ、ヨーロッパではブナ科、カバノキ科、ヤナギ科、ニレ科など多くの広葉樹につくことが知られており、日本でも広食性の可能性が高い。

 
−参考文献−
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆秋野順治ほか『トビモンオオエダシャクの幼虫は化学的にも植物に擬態する』
◆ウィキペディア
◆『みんなで作る蛾類図鑑』
◆『蛾色灯。』
◆『昆虫エクスプローラー』