台湾の蝶13 ヤエヤマイチモンジ

 
 
      タテハチョウ科10

      第13話『月の使者』

 
今回はタイワンイチモンジに引き続き、近縁種のヤエヤマイチモンジ。

 
【Athyma selenopora ヤエヤマイチモンジ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
日本の八重山諸島にもいるし、台湾ではド普通種だ。
見た目が日本のものと変わらないし、沢山いてウザいから真面目に採る気にはなれなかったんだよね。
だから、探したが♀の画像は撮っていなかったようで見つけられなかった。沖縄のも無し。
と云うワケで、画像をお借りしまひょ。

 
【同♀】
(出展『臺灣胡蝶誌』をトリミング。)

この蝶もタイワンイチモンジと同じく雌雄異型で、メスの方が一回り大きく、羽に丸みがある。

 
展翅したものも並べておこう。

(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

ボロだが、1頭だけ♀も採っていたようだ。
普通種だけど♀は♂ほど姿を現さないので、意外と狙って採れるもんでもないと思う。もっともヤエヤマイチモンジなんて、たとえ♀だってどうしても採りたい人なんていないと思うけど(笑)

♂は前回のタイワンイチモンジに似てるけど、赤い紋が無いので容易に判別できます。
と書いたところで、手が止まる。
ちょい待ちなはれ。赤い紋のあるヤエヤマイチモンジって居なかったっけ?どっかで採った事があるような気がするぞ。いや、あれはタイワンイチモンジ?
突然、頭の中がシッチャカメッチャカになる。

確かあれは2011年、初めて海外に蝶を採りに行った時だ。慌てて画像を探す。

(2011年 4月 Laos Vang vieng)

ごじゃりました。
赤がアクセントになっていて、中々にカッコイイ。
胴体に白線が無いから、タイワンイチモンジではないね。赤紋の位置もタイワンイチモンジとは違うからヤエヤマイチモンジだろう。色もより赤い。
コレって帰国後、師匠にヤエヤマイチモンジやねんでと教えられたんだよね。まさかヤエヤマイチモンジとは考えていなかったので、とても驚いた。と云うか、にわかに信じられなかった。日本にいる蝶でも、遠く離れれば随分と違った姿になるんだなと思った記憶がある。アジア全体からの視点で日本の蝶をみるキッカケになった蝶かもしれない。

 
参考までにタイワンイチモンジの写真も添付しておきましょう。

(2016年 4月 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
裏面の写真も無いので、図鑑から拝借しよう。
とは言っても日本産です。

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

タイワンイチモンジとよく似ている。しかし、斑紋も微妙に違うが、何よりも色が違う。より濃い焦げ茶色なので区別は比較的容易です。

 
【学名の由来と台湾での名称】
学名の小種名の「selenopora」は、月形の斑紋があるという意で、ギリシア語のselene(月)➕phero(担う、保持する)が合わさったもの。
何か月の使者みたいで、風情のある学名ではないか。
そう思うと、急に素敵な蝶に見えてきたよ。

台湾のものは亜種ssp.laelaとされる。
語源は『蝶の学名ーその語源と解説ー』には載っていなかったが、アラビア語にlaelaという語があった。
女性の名前に使われ、夜の美しさを表す言葉だから、イメージには合致するし、この辺が語源になっているのかもしれない。

台湾での名称は異紋帶蛺蝶。
雌雄が異紋のタテハチョウって事だね。
他に以下のような別称がある。
玉花蝶、小一文字蝶、小單帶蛺蝶、新月帶蛺蝶、臺灣小一文字蝶、臺灣小一字蝶、棒帶蛺蝶。

玉花蝶の玉花は、天然石(翡翠)の玉の事。装飾品です。翡翠は緑色なので今一つ解せないが、白い翡翠もあるには有るんだよね。
因みに、玉は中国語では美しさの象徴として使われることも多い。

小一文字蝶、小單帶蛺蝶、臺灣小一文字蝶、臺灣小一字蝶、棒帶蛺蝶は、全部横一文字の紋を表している。

新月帶蛺蝶は学名由来だろう。風情のある優雅な名前だ。和名にするとシンゲツイチモンジだ。ヤエヤマイチモンジも悪くないけど、シンゲツイチモンジの方が個人的には好きだね。

英名は「Staff Sergeant」。
タイワンイチモンジのOrange Sergeantと意味はほぼ同じで、二等軍曹(米陸軍、海兵隊)、3等軍曹(米空軍)、曹長(英陸軍)のこと。

 
【分布】
西は西北ヒマラヤより東はジャワ、ボルネオ島、日本の八重山諸島にまで至り、東洋熱帯に広く分布する。

(出展『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
図鑑には次のような亜種が列記されていた。

▪Athyma ssp.selenopora 西北ヒマラヤ~シッキム
▪ssp.bahula アッサム
▪ssp.batilda トンキン(ベトナム)、ミャンマー、タイ
▪ssp.leucophryne 海南島(中国)
▪ssp.laela 台湾
▪ssp.ishiana 八重山諸島(日本)
▪ssp.ambarina マレー半島
▪ssp.amhara ボルネオ島
▪ssp.epbaris スマトラ島
▪ssp.jadava ジャワ島
▪ssp.gitgita バリ島

赤紋のあるタイプは、たぶん3番目のssp.batildaと云う亜種に含まれるのだろう。
台湾はssp.laelaという亜種。日本産はssp.ishianaとされる。亜種名は石の意であるが、この石は石垣島を指すものと思われる。

八重山諸島のモノも台湾亜種に含まれるとばかり思っていたが、違うんだね。知ってたら、もう少し真面目に採っていたかもしれない。
でも、どこがどう違うんだ❓

 
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

♂の翅表前翅端に近い白斑が台湾のものと比べて細まっているように見える。
けど、たしか沖縄のヤエヤマイチモンジって、春型と夏型ってのがあって、夏型は一番下の白斑が消失しがちなんだよね。こうなると、自分のような素人にはお手上げだ。同定する自信なし。
ところで、台湾にも春型とか夏型とかあるのかね❓
特に記述は無かったような気がするが、どうなんだろ?

♀は全体的に沖縄のものの方が白斑が大きいように思われる。他の写真でもそういう傾向が見られるような気がする。でも、こんなのは沢山の標本を検してでないと、何とも言えないんだよね。
まあ、交尾器が微妙に違うから亜種になってるんだろうし、発言はこれくらいにとどめておこう。

 
【生態】
台湾本土に広く分布し、海岸林から標高2500mまで見られるが、その中心は低中海抜だろう。
飛翔は敏速だが、すぐ地上に止まるので観察、採集はそう難しくない。
常緑広葉樹周辺に見られ、♂は低木の樹葉上などで占有行動をとり、♀は林縁、林間を緩やかに飛ぶ。
花蜜、樹液を好み、♂は地上で吸水しているものがよく見かけられる。
年間を通して見られ、数回の発生を繰り返す。
越冬態は不定で、卵、幼虫、蛹など様々なステージで冬を越す。

 
【幼生期および食餌植物】
『アジア産蝶類生活史図鑑』によると、トウダイグサ科のGlochidion rubrum ヒラミカンコノキ、アカネ科のWendlandia formosana アカミズキ、Mussaenda pubescens ケコンロンカ、M.parviflora コンロンカがあげられている。

因みに日本で食草として記録されているのは、アカミズキ、コンロンカ、ヤエヤマコンロンカなどのアカネ科。

台湾の文献では、以下の植物が食餌植物として記されていた。

風箱樹 Cephalanthus naucleoides
毛玉葉金花 Mussaenda pubescens
臺灣鉤藤 Uncaria hirsuta
嘴葉鉤藤 Uncaria rhynchophylla
水金京 Wendlandia formosana
水錦樹 Wendlandia uvariifolia

2番目はケコンロンカ、5番目がアカミズキだね。
1番目、3番目、6番目は和名は無いが、アカネ科の植物。4番目はカギバカズラ。これもアカネ科だ。
ようするに幼虫はアカネ科の植物を広く食すのだろう。きっと食性が広いから繁栄していて、普通種なんだろね。

それでは恒例の幼虫のおぞましき姿の登場っす。
今さら遅いけど、閲覧注意ですぞ。

(出展『圖録検索』)

トゲトゲくんだ。
でも、タイワンイチモンジみたく老熟した奴が黄色くならないから、まだ気持ち悪さはマシだよ。

お次は蛹くん。

(出展『圖録検索』)

タイワンイチモンジと同じくゼットン型だ。
けど横から見ると、ちと違う。

(出展『台湾生物多様性資訊入口網』)

コチラはタイワンイチモンジみたく空洞にはなっていない。
一応ここまでは日本のヤエヤマイチモンジと殆んど変わらないように思える。細かくは見てないから、御叱りを受けるかもしんないけど…。

そうだ。日本のヤエヤマイチモンジの蛹の画像も添付しておこう。

(出展『南島漂流記』)

基本的には台湾のものと同じ形だ。
ではなぜに添付したのかと云うと、光の辺り具合によっては金属光沢があるように見えるみたいなのだ。これはおそらく八重山産に限った事ではなく、台湾産でも同じかと思われる。

 
最後は卵。

(出展『圖録検索』)

タイワンイチモンジとさして変わらない。
後々出てくるミスジチョウのグループもこんな感じだから、両者は非常に近い関係であることがよく解る。
蝶に関しては、成虫よりか幼生期の方が類縁関係を知る上では重要なんだなと改めて感じた次第だすよ。

                  おしまい

 
追伸
たかだかヤエヤマイチモンジなんでサラッと終わらせるつもりが、意外と長くなった。この調子だと先が思いやられるよ。バカなことを始めたなと後悔しきりである。いつ挫折してもオカシクないです。

次回は最後のイチモンジチョウであるムラサキイチモンジの予定。
書くには、ちよっとすんなりとはいかないかもなあ…。迷宮に迷い込まない事を祈ろう。

台湾の蝶12 タイワンイチモンジ

 
      タテハチョウ科 9

    第12話『真なる一文字の紋章』

 
前回のオスアカミスジの回で、漸く台湾のイナズマチョウ族全種を紹介する事ができた。
しかし、連続でタテハチョウの事ばかり書いてきて、正直飽きた。
次々に疑問点が押し寄せてきて、そのせいで文章は長くなるし、時間もかかったから、すっかり疲弊しきってしまったのである。

だから、ここは気分を変えて他の科の蝶の事を書こうと思い、ホッポアゲハの事を書き始めた。でも半分ほど書き進めたところで、ハタと思った。
前回にイチモンジチョウ族の事にも少し触れたが、考えてみれば台湾のイナズマチョウ族6種のうち、何と4種(タカサゴイチモンジ、スギタニイチモンジ、ホリシャイチモンジ、マレッパイチモンジ)もがイチモンジという和名がついているのだ。
今後、真正のイチモンジチョウ族が登場した時に、もし両者が遠く分断して書かれていたら、知らない人にとっては混乱極まりないのではないかと思ったのだ。
だだでさえ、書いている本人がしばしば錯乱状態になってあらぬ方向に行ってしまうのである。極力流れは大事にしたい。このままイチモンジチョウの仲間も紹介してしまおう。

それにしても、和名って鬱陶しい。
たぶんタカサゴイチモンジとかは、最初に発見した人あたりがイチモンジチョウに似ているし、コイツはイチモンジチョウの仲間だろうと思ってつけたのだろう。
まあ、それは仕方がないとしても、イナズマチョウの仲間だとわかった時点で誰か発言力のあるお偉方が修正しろよなと思う。
そのくせ、和名がアホみたいに複数ある蝶も存在する。和名がよろしくないからと勝手に新しくつけるのだろうが、混乱の極みだ。素人は堪ったもんではない。
例えばアンビカコムラサキ Mimathyma ambica なんぞは、この他にキララコムラキとか、カグヤコムラサキ、ニジイロコムラサキ、シロコムラキ、イチモンジコムラサキと合計6つもの和名がある。学名が頭にインプットされていなければ、何でんのそれ?のワケワケメじゃよ。

【Mimathyma ambica アンビカコムラサキ♂】
(2011年 4月 Laos vang vieng)

これまた誰かお偉いさんが音頭をとって、どれか一つに統一してくんないかなあ。

早くも和名に対する悪態毒舌癖が発病してしまったが、続ける。
蝶採りを始めた当初は、学名そのままを頭につけた外国の蝶の和名に対して軽く憤りを感じていた。
ザルモキシスオオアゲハとかアルボプンクタータオオイナズマ、ベラドンナカザリシロチョウなんぞと言われても、初心者には下は何となく想像できても、頭についた名前からはどんな蝶なのか全く想像もつかない。横文字なんぞやめて、取り敢えずアホでも解るような和テイストな名前をつけろよなー(=`ェ´=)と思っていたのだ。
しかし、海外に出て蝶を採るようになって考え方が変わった。なぜなら、外国では和名なんて全く通じないのである。
例えばオオルリオビアゲハ Papilio blumeiを採りたいとする。でも現地でガイドに和名を連呼したところで、まず通じない。
コレがもしブルメイアゲハという和名がついていたならば、ブルメイと言えば簡単に通じる。つまり、海外では共通語として学名で呼ぶのが普通なのである。

【Papilio blumei ブルメイアゲハ】
(2013年 2月 Indonesia Sulawesi Palopo)

正直、外国の蝶はテングアゲハやシボリアゲハなど既に和名として定着していて秀逸なものだけを残して、他はみな学名を冠につけた和名でいいのではなかろうか?
だから、Mimathyma ambicaは、アンビカコムラサキ。それでスッキリすると思うんだよね。

とはいえ、和名を残すものと残さないものを振り分けるのは大変だ。喧々諤々で揉めるよなあ…。

何か不毛な事を言ってる気がしてきた。
いい加減、本題に戻るとしよう。

 
【Athyma cama タイワンイチモンジ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

♀は全然柄が違う。

【Athyma cama タイワンイチモンジ♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷眉原)

雌雄異型の蝶なのである。
メスはオスと比べて一回り大きく、羽の形が全体的に円くなる。♂は一見して日本の南西諸島にもいるヤエヤマイチモンジに似るが、上翅にオレンジの紋があるので容易に区別できる。
そういえば♀は最初、オスアカミスジの♂かと思って必死に追いかけて採ったんだよね。
でも、何か違うなあと暫し考えて、あっ、タイワンイチモンジの♀なんじゃねえの?とようやく考え至ったのである。
台湾の蝶の事をろくに調べずに発作的に行ったので、こういうパープリン振りが多々あったのだ。
因みに、採集記はアメブロの『発作的台湾蝶紀行』第29話 「風雲急を告げる」の回にあります。

裏の画像も添付しておこう。

上が♂で、下が♀である。
裏は表ほど劇的には違わない。

学名の属名「Athyma アティーマ(シロミスジ属)」はギリシア語で、無気力な、元気のないと云う意味である。小種名の「cama」は、インド神話の神。あの古代インドの性の教典カーマスートラのカーマであろう。でもエロと何の関係がごさる?(-“”-;)ワカラン。
台湾のものはssp.zoroastesという亜種名がついている。ゾロアスター教と何か関係あるのだろうか?
それともその開祖であるザウスシュトラそのものを指しているのか?或いは預言者という意味が込められているのだろうか?
でも、台湾とゾロアスター教って関係ないよね?
これも、よーワカラン。

因みに『原色台湾蝶類大図鑑』では、学名の属名が「Tacoraea」になっていたので、また迷宮に迷いこむのかと思って、マジ(|| ゜Д゜)ビビった。
前述した近縁種ヤエヤマイチモンジやシロミスジなどもこのTacoraeaという属名になっていたから、正直また脳ミソが腐りそうになったよ。

しかし、コレは比較的簡単に解決がついた。
どうやら現在、Tacoraeaはシノニム(同物異名)になっているようだ。つまり、学名として使われなくなったと云う事だね。

あっ( ̄▽ ̄;)、多分、この学名をオスアカミスジの回でも使ったような気がするなあ…。
まっ、いっか…。忘れよう。

台湾での名前は雙色帶蛺蝶。
雙色というのは、二色を表し、二つで一組になるという意味みたい。中々、考えた名前である。
でも、帶という字がついてるな。という事は二色のツートンカラーの帯を持つタテハチョウって意味か?
ケッ(=`ェ´=)、途端に何だかつまらねぇ名前に見えてきたよ。

他に臺灣一文字蝶、臺灣單帶蛺蝶、臺灣一字蝶、圓弧擬叉蛺蝶、分號蛺蝶という別称もあるようだ。
台湾も一つの蝶に沢山の名前があって、面倒くさそう。さぞや不便じゃろうて。
臺灣一文字蝶は和名をそのままの訳したものだね。
臺灣單帶蛺蝶は単帯とあるから、オスに焦点をあてた名前ってことかな?
臺灣一字蝶は、まんまである。
圓弧擬叉蛺蝶は直訳すると、円い弧が二股モドキのタテハチョウってことになる。たぶん♂の斑紋を指しているんだろうけど、今一つピンとこない。
分號蛺蝶は、オスとメスの柄が別々という意味で使われているのであろう。

英名は、「Orange Staff Sergeant」。
訳すと二等軍曹(米陸軍海兵隊)、或いは3等軍曹(米空軍)となる。それほど敬意が払われてないね(笑)

(|| ゜Д゜)しまった…。こう云うどうでもいいような事に興味を持ってしまうから文章が長くなるのだ。

一応、標本写真も並べておこう。

はっ!Σ( ̄□ ̄;)、ここで気づいた。
ごたいそうに胴体にまで紋が入っているじゃないか。
ここで一度野外写真に戻ってもらいたい。
特に♂は白くて目立つから、名前のとおり正に一文字になっているではないか。
ん~、でも翅が左右均等になっていないから、今一つ説得力がない。ここはどなたかの画像をお借りしよう。

(出展『commons.wikimedia.org』)

これこそ、真なる一文字だ。
日本のイチモンジチョウなんて、これに比ぶれば屁だ。

【イチモンジチョウ Ladoga camilla】
(出展『STEP BY Step 自分らしさを』)

人の画像を拝借しといて何だが、胴体に白い紋が無いから、正確には一文字に繋がっていない。しかも、どちらかというとVの字じゃないか。
いっそイチモンジの看板を下ろして、ブイノジチョウにしたらどうだっつーの(# ̄З ̄)
ついでにタカサゴイチモンジとかのイチモンジもやめちまって、タカサゴイナズマにしちくりよー。

またまた本題から逸れたような気がするので、さくっと生態面を書いて終わりにしよう。

 
【分布】
台湾以外にも中国南部、インドシナ半島、マレー半島、海南島、アッサム、西北ヒマラヤなどに分布する。

(出展『原色台湾蝶類大図鑑』)

和名がタイワンイチモンジなれぱ、当然のこと台湾の固有種だと思っちゃうよね。それがこんなに広域に分布しているのだ。この誤解を生むタイワンイチモンジという名称もどうかと思うよ。他にもこういうタイワンとついてはいるが、台湾以外にも分布している蝶が結構いるんだよね。どれくらいあるのかな?試しに挙げていこう。

タイワンビロウドセセリ、タイワンアオバセセリ、タイワンキコモンセセリ、タイワンキマダラセセリ、タイワンチャバネセセリ、タイワンオオチャバネセセリ、タイワンジャコウアゲハ、タイワンタイマイ、タイワンモンキアゲハ、タイワンカラスアゲハ、タイワンモンシロチョウ、タイワンシロチョウ、タイワンスジグロシロチョウ、タイワンヤマキチョウ、タイワンキチョウ、タイワンウラナミシジミ、タイワンイチモンジシジミ、タイワンミドリシジミ、タイワンサザナミシジミ、タイワンカラスシジミ、タイワンフタオツバメ、タイワンツバメシジミ、タイワンクロボシシジミ、タイワンルリシジミ、タイワンヒメシジミ、タイワンアサギマダラ、タイワンキマダラ、タイワンミスジ、ホシミスジ、タイワンクロヒカゲモドキ、タイワンキマダラヒカゲ、そしてタイワンイチモンジだ。

ハハハハハ(^o^;)、何と全部で32種類もいる。
名前にタイワンとつける必然性がないんだから、和名をつけ直すべきだと思うんだけど、どうして誰も言い出さないのかな?

原色台湾蝶類大図鑑によると、亜種は以下のようなものがある。

▪Athyma cama cama 西北ヒマラヤ~アッサム
▪ssp.camasa トンキン(ベトナム北部の古い呼称)
▪ssp.zoroasters 台湾
▪ssp.agynea マレー半島高地

 
【生態】
北部から南部にかけて普通だが、次回紹介予定のヤエヤマイチモンジよりかは少ないようだ。
台湾では4月~10月にわたって見られ、年数回の発生を繰り返す。
常緑広葉樹周辺に見られ、その垂直分布は「アジア産蝶類生活史図鑑」には300~2700mとあったが、台湾のサイトには海岸林等低中海抜となっていた。何れにせよ、その中心は500m前後から700mくらいだろう。
♂の飛翔は敏速。地上低く飛び、よく地面に羽を広げて止まる。♀は♂ほど活発ではなく、頻繁に草木の歯の表面に止まる。
♂♀ともに花や腐果に集まり、♂は地面に吸水によく訪れる。

 
【幼生期】
幼虫の食餌植物は「アジア産蝶類生活史図鑑」によると、トウダイグサ科のGlochidion lanceolatum キイルンカンコノキ、Glochidion rubrum ヒラミカンコノキ、Glochidion zeylanicum カギバカンコノキ。
台湾のサイト、「圖録検索」では以下のようなものがあげられていた。

菲律賓饅頭果 Glochidion philippicum
細葉饅頭果 Glochidion rubrum
裏白饅頭果 Glochidion triandrum

上から二つ目はヒラミカンコノキだけど、キイルンカンコノキとカギバカンコノキはあげられていない。
まあカンコノキの類を広く利用しているのだろう。
因みに1番目は和名が見つけられなかったが、たぶんフィリピン由来のカンコノキだろう。3番目はウラジロカンコノキ(ツシマコンコノキ)という和名があり、長崎県では絶滅危惧種Ⅰ類に指定されていた。

さてさて、いよいよ恒例のおぞましき幼虫の姿の登場である。閲覧注意ですぞ。とは言っても、既に視界に入っちゃってるとは思うけど(笑)

(出展 2点ともに『圖録検索』)

オスアカミスジの回にも添付した画像だが、その時は何でこんなに色が違うんだろうとは思いつつスルーした。書き疲れていて、調べるのが面倒くさかったのだ。

でも、その疑問が今回解けた。

(出展『世界のタテハチョウ図鑑』)

両方とも終齢幼虫なのだが、どうやら老熟すると黄色くなるようなのだ。絶対食われたくないという思いが、絶対食うなよな(#`皿´)に転化して、その強い気持ちがあの毒々しい色の警戒色を生んだのかもしれない。

蛹も特異な形だ。

(出展『世界のタテハチョウ図鑑』)

(出展『圖録検索』)

ウルトラマン最強の敵、ゼットンみたいな形だね。
タテハチョウの蛹は造形美の極致みたいなものが多くて面白い。穴が空いてるだなんて斬新すぎる。そこにいったい何の意味があるというのだ?全然、理由が想像つかないよ。

最後は卵。

(出展『圖録検索』)

これも造形美。宝石みたいだ。
どうやら卵塊を作らず、一つ一つ産むようだ。
同じタテハチョウ科の蝶でも、産み方がそれぞれ違う。
自然って不思議だなと思う。

                 おしまい

断酒してます

 
断酒して一週間になる。
といっても酒をやめたわけではない。
明日は浴びるほど飲む予定だ。
所属する昆虫同好会の50周年なのだ。

発端は一週間、兄貴分に『おまえ、ちゃんとした格好してこいよな。』と釘を刺されたのがキッカケだった。
まさか、そんな事は考えもしなかった。いつものラフな服装で行こうと思っていたのである。
で、超久し振りにスーツを出してきて下を履いたら、ゲゲゲのゲー(◎-◎;)❗❗お腹が邪魔して全く入らない。他のスーツもダメ。全滅じゃけん(*ToT)

恐る恐る体重計に乗った。

ガビーンΣ( ̄ロ ̄lll)
最近、体重計に乗ってなかったけど、驚愕の数字だ。
人生でまだ一度も60㎏を越えたことがないのだ。それがあと100gにまで迫っている。そりゃ、スーツも入らんわい。

つまり、何で一週間も酒をやめたのかと云うと、無茶苦茶太ったからなのである。

ここで人生初のダイエットを敢行する事にした。
とは言いつつも、プチダイエットは過去に一度だけした事がある。
蝶採りを始めた当初は結構痩せた。当時は店をやっていたので(ショットバー)、夜は仕事、昼間は毎日のように生駒山系に蝶採りに通っていた。
生駒といえば急峻で有名である。奈良に抜ける国道は日本一斜度がキツいと言われているくらいなのだ。当然、運動量は多くなる。
で、当時の彼女に『俺、体重が今50㎏やねんでー。』と言ったら、『んなワケないやん。』と一蹴された。
そんな事を言われて引き下がるワケにはいかない。じゃあ、賭けようかと云う事になった。
2日後、彼女が部屋に来る事になっていたから、そこで決着をつける事に決まった。

実を言うと、その時の体重は51.5㎏だった。
けど、んなもん楽勝である。2日間食事を制限して、スポーツクラブで走ったら何とでもなると思った。
そして、彼女の前で体重計に乗り、見事50㎏ジャストの数字を出してやったのである。
彼女の信じられないという顔が、今でも忘れられないよ。ざまー見さらせである。基本、賭けたら圧倒的に強い男なのだ。

しかし、目算だと今回は一週間で5㎏は落とさなくてはならない。でないと、スーツが入らない事は過去の経験で知っているのだ。
かといって走るのはイヤだ。基本的にしんどいのは嫌いなのだ。山登りするのは、そこまで行かないと蝶が採れないからするのであって、決して好きなワケではない。ましてや走るだなんて、2日間くらいは耐えれても、一週間なんてどだい無理だ。大の寒がり屋が、このクソ寒いのに走れるワケがないのだ。

というワケで、酒を断ち、食事制限をしようと思ったのである。走ってカロリーを消費したところで、ドカ食いしたら元も子もない。ならば、食わなきゃ確実に体重は減るじゃねえかと思ったのだ。

というワケで、ひたすらコンニャクを食うと云う作戦にでた。

しかし、コンニャクばっか食うのって辛い。
だから、時々は野菜も食った。

当然、ドレッシングなんて御法度だ。塩のみで食う。

申しわけ程度だが、つい挽き肉を入れてしまう。
しっかし、この白菜、甘くて旨かったなあ( ´∀`)
旨いが量はこれだけのみ。そして、ひたすら噛む。30回は噛む。たくさん噛めば、少量でも満腹感を得られると聞いた事があるからだ。

 
【京都苑 ふわふわおぼろ豆腐】

レンジでチンするだけだとさ。

しかし、これをおぼろ豆腐と呼んでいいのか❓
自分のおぼろ豆腐の概念は、もっとゆるゆるのものなんだよなあ…。

取り敢えず添付のタレをかけ、ネギを乗っけて食う。
腹減ってるせいか、何だか旨い。

しかし、この作戦、浅はかな考えだった。
オジサンは代謝率が低いのである。体重が三日間で1㎏しか減らなかった。
というワケで、歩く事にした。
2日間連続で難波から梅田まで歩いて往復した。
でも、ろくに食ってないから💫ふらふらである。
木曜辺りまで来ると、足に力が入らなくなった。
しかも寝床に入ると、お腹がグーグーなる。そして、腹が減り過ぎて眠れないのである。
考えてみれば、腹が鳴ったのって久し振りだ。体が飯食わせー、食いもんよこせーと激しく訴えかけておるのだ。

そして、土曜日。リミットまであと一日と迫った。
朝飯、昼飯と抜いて、最後に食ったのはこのラインナップ。

【自家製白菜とキュウリの漬物】

【春ワカメの酢の物】

そして、やっぱりコレだ。

頭が朦朧としいるのか、芥子を添えたものの、七味唐辛子をかけてもうた。

というワケで、次は芥子で食う。

そして、計量。

根性で4㎏減らしたものの、あと1㎏足りない。
ズボンも入らない(*ToT)
明日の朝、もし1㎏減ってなかったら、チャラい格好で行こう。アニキになじられても仕方ないと覚悟しよう。
どうせ元々、皆にチャラい思われているのだ。やはりコイツはアホだなと、白い眼で見られるのに耐えればいいだけの話だ。

あー、それにしても腹減ったなあー。

                  おしまい

 
追伸
これを書き出したのが夜の11時半。
日を跨いじゃいましたね。
 

簡単なようで難しい

 
蝶の記事の埋めぐさとして、Facebookに3年前にupした旧い記事を転載することにした。
とはいえ、一部訂正加筆版です。

 
ミヤマカラスアゲハの展翅が出来上がった。

ほぼ完璧な出来だと思っていたが、もう少し下翅を下げるべきだったかな?…。
否、全体的に下げるべきだったか…。

実を言うと簡単そうに見えて蝶の展翅は難しい。
翅の上げ下げのバランスをとらねばならないのだが、これが中々上手くいかない。バランスは種類によって違うし、たとえ同じ種だとしでも個体によって翅の形が微妙に違うから一筋縄にはいかないのだ。
アレコレいらってるうちに気がつけば、Σ(T▽T;)あぎゃあー、触り過ぎて翅がいつの間にかボロボロだすよ~。ぐすっ(;O;)、ってな事になる。

胴体を整えたら最後にアンテナ(触角)を整形するのだが、これが更に難しい。
先ずは触角を左右対称にする事に苦労させられる。
その際、羽との距離も考慮に入れなければならないので、注意が必要だ。
そして、それを真っ直ぐにする事に腐心させられるのだが、真っ直ぐしたくとも全然思い通りにはなってはくれないのだ。例えばアゲハなら、先の方が内側に湾曲しやすい。
それに翅とのバランスもとれていなければならない。
で、コチャコチャいらっているうちに、アチャー❗
ポキッ!ガビーΣ( ̄ロ ̄lll)ーン、アンテナ折れてもたー。ウルルー(T△T)ってな事になる。

思えばオラの初期の頃の展翅などは、シーサンプータ バラバラ~、ホントひどかった。師匠竹中さんに教わってからはマシになったけど、教わってなかったら今だに不細工な標本を無尽蔵に製造していたことだろう。

多分、本当に綺麗な展翅が出来る人は、その竹さんを含めて4~5人くらいしか知らない。プロでも下手な人は一杯おる。おそらく匠と言えるような職人技の人は全体の30%くらいしかいないと思う。素人なら、もっと低いのは言わずもがなだ。
だいたい数多(あまた)ある図鑑を見ても、有名な図鑑でさえも完璧に美しく展翅された標本は少ない。
ハッキリ言って下手クソなのだ。それくらい完璧な美しい展翅をする事は困難なのである。
センス、技術、工夫、経験、忍耐がなければならぬ。

匠への道は遠い。日々精進である。

                 おしまい

 
P・S
3年前とはいえ、若気の至りの文章ですね。
今は、この時ほど尖んがってません。展翅の上手い下手は気になるけど、人それぞれ。その人本人が満足していれば、それでいいのではないかと思っています。

因みに、今なら迷わず下翅を下げますネ。
こんな感じ。

 
【タカサゴカラスアゲハ♀】

写真の角度は悪いが、ほぼ完璧だろう。
あっ、でも左の触角が今イチ真っ直ぐじゃない。

塗ったら、勝手に触角が💥ピキーンと真っ直ぐになる液とか、世の中に無いのかね❓

                  おしまい

 
追伸の追伸
え~と、連載『台湾の蝶』の次回は、タテハに厭きたので、アゲハを予定しております。

 

 
けど、1行たりとも書いてないけど…。
 

台湾の蝶11 オスアカミスジ(後編)

       タテハチョウ科8

   第11話『豹柄夫妻の華麗なる生活』

 
オスアカミスジの後編である。
今回は生態を中心に書きたいと思う。

前回と重複するが、先ずはオスアカミスジの画像を添付しておこう。

【Abrota ganga オスアカミスジ♂】
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷)

【同♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

♂♀異形のイナズマチョウの仲間である。
色は違えど、ネコ科肉食獣柄の夫婦だね。
もし豹柄と虎柄紋を着たオバチャン&オッチャン夫婦がいたら、さぞや強烈だろうなあ…。キャラもコッテコテのエッジの立った夫婦に違いない。まあ大阪とかには、現実にいそうだけどさ(笑)

学名の属名のAbrotaはキリシア語のabrotos(不死の、神の、神聖な)をラテン語化したもの。
このAbrota属は、調べた限りでは1属1種。オスアカミスジのみで構成されている。
小種名のgangaはインドの聖なる川、ガンジス川の事である。そういえばインドの聖地ベナレスでは、ガンジス川のことを皆ガンガーと呼んでいたなあ…。インド、ムカつくけど、また行きたいな。

台湾での名称は「瑙蛺蝶」。
瑙というのは瑪瑙(メノウ)のことである。
英語だとAgate(アゲート)だっけか…。鉱石の1種で、縞模様が特徴である。よくパワーストーンとして売られているから、見たことがある人も多いかと思う。

(出典『ヤフオク』)

中々センスのある美しい名前だ。
オスアカミスジよか余程いい。おーっと、早くも和名文句たれ病が始まったよ。けど、またクソ長くなりそうだから今回はやめとく。
あー、でも一言だけ言わしてくれ。ミスジチョウの仲間じゃなくイナズマチョウのグループだと判明したんだから、せめて「オスアカイナズマ」としてくれよな。ややこしくてかなわん。

因みに蛺蝶と云うのは、中国語圏ではタテハチョウの事を指します。
他に雌紅三線蝶、大吉嶺橙蛺蝶、黃三帶蛺蝶という別称もある。
婀蛺蝶というのも良いね。婀は訓読みするとたお(やか)だ。しなやかで美しいさまを表す。
大吉嶺橙蛺蝶と云うのも仰々しい感じがして悪くない。大吉山の橙色の蝶なのだ。

【分布】
台湾以外では、中国(東部、南部、西部)、インドシナ半島北部、ヒマラヤなどに生息し、5亜種に分けられている。

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

▪Abrota ganga ganga(ブータン,シッキム,アッサム,ミャンマー,メトック)
▪Abrota ganga formosana Fruhstorfer, 1909(台湾)
▪Abrota ganga flavina Mell,1923(中国:広東省)
▪Abrota ganga pratti Leech,1891(西中国: 四川省,雲南省)
▪Abrota ganga riubaensis Yoshino,1997 (中国:陝西省)

一応、各地の標本をネットでいくつか見たが、そう大きな違いは感じられなかった。♂は同じ場所でも個体差に富み、1つとして同じ斑紋のものはいないというから、どちらにせよ素人のワシなんぞにはお手上げじゃよ。
但し、♀は海南島のものなどは白い紋がオレンジ色になるようだ。だから、別称に黃三帶蛺蝶というのもあったんだね。

【生態】
開長65~75mm。
台湾全土に見られるようだが、普通種というワケではなさそうだ。実際、埔里周辺では1ヶ所でしか見かけなかった。タイやラオスでも一度も見たことがない。もっとも、これは夏に行った事がないからなのかもしれないけどね。

垂直分布は、図鑑などでは標高300m前後から2100mまで見られるとなっていたが、おそらく中低山地が棲息域の中心だろう。
因みに自分は1000m前後でしか見たことがない。常緑広葉樹林を好むというから、標高以上に環境が重要なファクターなのだろう。結構深い森の中にいたから、環境条件は思われているよりも限定的なのかもしれない。

♂♀ともに樹液,獣糞や発酵した果実に集まり、地面に吸水におりる。
杉坂美典さんの台湾の蝶のサイトには「各種の花によく集まる。」とも書いてあった。だが、これは聞いた事がないし、そのような生態写真も見たことがない。イナズマチョウ類の生態としては考えにくいし、何かの間違いではないだろうか?
また、「♂は渓流や樹林内の開けた場所で占有行動をする様子を確認することができた。占有行動では,全ての蝶を追い回し,順位的には最も強かった。♀は,林道上によく止まり,吸水行動をしていた。♂も吸水のために地上に下りることはあったが,非常に敏感で,近づくことは容易ではなかった。」とも書いておられる。

占有行動に関しては、他に言及している文献は知り得ないが、それらしき行動は見たことがある。
樹林内のぽっかり開けた場所に如何にもテリトリーを張ってますといった体の♂が葉上に止まっていた。実際占有行動は見ていないが、捕らえて先に進み、暫くして引き返してきたら、また別な♂が同じような所に止まっていた。それも捕らえて、翌日にそのポイントに行ったら、またもや別な♂がいた。これは占有活動を示唆しているとも思える。
但し、同じ場所にタイワンコムラサキもいたが、特に追いかけ回すというワケでもなく、仲良く繁みの端と端にちょこんと止まっていた。

果実トラップには、林縁に仕掛けたものには来ず、♂♀ともに暗い森の中に設置したものに集まった。

♂の飛翔力については文献によってまちまちだ。
台湾のネット情報では、「成蝶飛行快速」と書いてあった。また「原色台湾蝶類大図鑑」には、飛翔はヒョウモン類に似ているとあった。ヒョウモンチョウの仲間は種類によって飛翔力にかなり差があるが、そこそこ速いと云う意味なのだろう。
一方、「アジア産蝶類生活史図鑑」には、「飛翔力はあまり活発ではなく、地上低く滑空方式のものが多い。」と書いてある。
自分の見た印象ではイナズマチョウにしてはトロいが、そこそこ速い。確かにヒョウモンチョウと言われれば、そんな気もする飛翔スピードだ。
敏感さは、タカサゴイチモンジくらい。つまり、イナズマチョウにしては鈍感な部類に入る。

林道上によく止まり吸水するというのは、他の文献でも記述があるから、割りと普通に見られる行動なのだろう。
けれど、吸水も含めて自分は一度も林道上で見たことがない。♂は森の中でしか遭遇した事がないのだ。10頭以上は見たが、全部そうだった。自分としては、ホリシャイチモンジと同じような生態に感じた。
一方、♀は林内よりも林縁で見受けられた。但し、地面に止まっているのは見たことがない。大概は林道を歩いていたら、樹木から驚いて飛び出すというパターンだった。高さはだいたい2m以内。その際、緩やかに飛び、すぐに枝先などに止まる。正直、トロいから、採集は容易だ。

但し、とは言ってもこれらはケースバイケースだろう。飛翔は速い時もあれば遅い時もあるだろうし、敏感さも羽化仕立ての個体と飛び古した個体とでは違う事は有り得る。

【発生期】
年1化。5月の下旬より羽化し始め、7月最盛期。♀は10月下旬まで見られるという。

【幼虫及び食餌植物】
マンサク科 ナガバマンサク Eustigma oblongifolium。
『アジア産蝶類生活史図鑑』には、「台湾と香港に限り自生する植物で、台湾での分布は狭く、日月潭、埔里周辺以外では見出されていない。にもかかわらず、この蝶の分布は台湾ではかなり広いという事実、また中国からインド北部にわたる広汎な分布を考えあわせると、本種は他にも食餌植物を有するのではないかと考えられる。」と書いてあった。
その後、新たな食樹は見つかったのだろうか❓

ネットで探すと、次のような食樹が見つかった。

青剛櫟 Cyclobalanopsis glauca glauca
秀柱花 Eustigma oblongifolium
赤皮 Quercus gilva
青剛櫟 Quercus glauca

上から2番目がナガバマンサクだ。
他は属が違う植物みたいだね。漢字の字面からすると、どうやらカシ類みたいだ。って云うか、この学名は見たことあるぞ。何だっけ?、アラカシ?
あれっ( ゜o゜)❗❓、1番目と4番目は属名は違うけど、どちらも青櫟と書いてある。小種名も同様にglaucaとなっている。これは多分シノニム(同物異名)だね。
で、確認してみたら、やはりアラカシでした。
そして、3番目はイチイガシでありんした。

そうでした。そうでした。
アラカシはタカサゴイチモンジの食樹で、スギタニイチモンジはアラカシとイチイガシの両方ともを食樹としているんでしたね。
ここからもオスアカミスジがAdoliadini(イナズマチョウ族)の一員であることがよく解る。
きっとナガバマンサクは食樹としてはイレギュラーで、基本的にはブナ科カシ類が食餌植物なのだろう。

でも、ヘ(__ヘ)☆\(^^;)ちょっと待ったらんかい❗
たしか『アジア産蝶類生活史図鑑』には、何かカシ類で飼育したけど死んでもうたと書いてなかったっけ❓
慌てて確認してみる。

「Quercus acuta アカガシで採卵、飼育を試みたところ、多数の卵を得て2齢まで成育したが、越冬中に死滅。その後、中齢幼虫、5齢幼虫にこの植物を与えるという試みがなされたが、摂食はするが成育せず、蛹化にいたったものは1匹もいなかった」。

そっかあ…、アカガシはダメだったけど、アラカシとイチイガシはOKだったのね。
また、迷宮に迷い込むかとビビったけど、セーフだ。

幼虫はイナズマチョウ軍団特有の邪悪🐛ゲジゲジさんだ。
気持ち悪いので、ここから先は🚧閲覧注意だすよ。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『生物多様性資訊入口網』)

スギタニイチモンジやタカサゴイチモンジの幼虫に似ているかな?
どちらにせよ、(|| ゜Д゜)鳥も逃げ出しそうな悪虐非道的な見てくれじゃよ。

前回にイチモンジチョウ類Athyma属との関係性について触れたが、画像を添付し忘れた。

【タイワンイチモンジの幼虫】
(出典『圖録検索』)

(出典『圖録検索』)

(出典『生物多様性資訊入口網』)

Athyma属の幼虫は、ゲジゲジではなくトゲトゲなのだ。これまた毒々しくて邪悪じゃのう(  ̄З ̄)
オニミスジ Athyma eulimeneは、果たしてどんな幼虫なんでしょね?

オスアカミスジに戻りましょう。
卵は1ヶ所にまとめて産みつけられるようだ。
イナズマチョウの仲間は、葉っぱに1卵、1卵分けて産むのが基本だから変わっている。そういう産み方をするのは、他にタカサゴイチモンジくらいしかいないそうだ。

(出典『圖録検索』の画像をトリミング。)

複雑なデザインで美しい。
イナズマチョウといい、Euthalia類の卵はまるで宝石みたいだ。

蛹も美しい。

(出典『生物多様性資訊入口網』)

(出典『圖録検索』の画像をトリミング。)

多分、イナズマチョウの中では最も美しい蛹なのではないかと思う。ガラス細工のようだ。ガレ(註1)が見たら物凄く興奮したに違いない。

                  おしまい

 
追伸
ようやくイナズマチョウのグループが終わった。
でも、まだ9種類の蝶しか紹介していない。台湾の蝶は約350種類もいるのだ。二度の採集行で100
種類しか採っていないとしても、まだまだ先は長い。
正直、うんさりだ。続けていく自信無しである。

今回のタイトルは、最初『豹柄夫婦』であった。
それが夫妻になり、そこに生活が加わり、最後は華麗なるという形容までついてしまった。
「華麗なる」は乗りでつけちゃいました。本文とは何ら関係ないです。どこが華麗やねん!とツッコミが入りそうだが、文句、苦情等は一切受け付けませんので、あしからず。

採集記はアメブロにあります。
『発作的台湾蝶紀行』第9話 空飛ぶ網
例によってURLの貼り方を忘れたので、読みたい方は誠に恐縮ですが、自分で探して下され。

(註1)ガレ
フランスの著名なガラス工芸家、エミール・ガレ(1946~1904)のこと。
生物をモチーフとした作品を数多く残した。
作品はどれも美しい。同時にグロテスクな魅力を放っている。
多分、夏あたりに東京で大きな展覧会(サントリー美術館?)があるのではないかと思う(間違ってたら御免なさい)。関東近辺に住まわれる方は、是非足を運ばれることをお奨めします。

 

台湾の蝶10 オスアカミスジ

 
     タテハチョウ科 その8

    第10話『雲豹の化身』

 
台湾のイナズマチョウグループの最後を飾るのはオスアカミスジ。

【Abrota ganda formosana オスアカミスジ♂】
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷)

長い間、分類学者を悩ませてきた蝶のようだ(註1)。
メスがミスジチョウグループ特有の白黒系デザインなのにオスは赤っぽい事からつけられた和名なのだろうが、メスの見た目からミスジチョウ群に含める学者もいれば、イチモンジチョウ群に含める学者もいたんだろね。
しかし、近年(1994年)ようやく幼生期が解明され、何とイナズマチョウ族(Adoliadini)の仲間と云う事が判明した。
幼虫がどう見てもイナズマチョウグループ特有の邪悪ゲジゲジくんだったから判ったと云うワケやね。
確かによく見れば触角が長くてイナズマチョウっぽいし、形もイナズマチョウ系だ。またミスジチョウ類と比べて翅に厚みがあって体躯(胴体)もより頑強だ。
でも、そんなの言われなきゃワカンないよね。
実際、一昨年台湾で初めて♀を何頭か採ったが、相変わらずの勉強不足でその存在さえも知らなかったゆえ、初見はミスジチョウ?イチモンジチョウ?オニミスジの仲間?ワケわからずの何じゃこりゃ(゜〇゜;)?????の人になってもた。

標本写真はこんな感じ。

【オスアカミスジ♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

参考までにミスジチョウの仲間(Neptis)の画像も添付しておこう。

【Neptis pryeri コミスジ?】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

リュウキュウミスジの可能性もあるけど、裏を見ないと分かんない。
それにしても、台湾でもコミスジは胴体の背中が金緑色なんだね。

【Neptis esakii エサキミスジ♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

イケダミスジの可能性もあるけど、多分あってると思う。台湾のミスジチョウの中では最稀種だったと思う。

【Neptis hesione アサクラミスジ♀】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

別名カレンコウミスジ。
これも台湾のミスジチョウの中ではトップクラスの稀種でしょう。

このグループの裏面は概ねこんな感じ。

【Neptis phiyra ミスジチョウ】
(2017年 6月 東大阪市枚岡)

日本ではそうでもないけど、台湾では稀種だそうだ。
所変わればで、或る場所では珍品でも他の所ではワンサカいるなんて事はよくあることだ。生物が繁殖する為には、様々なファクターが絡んでいるのだろう。

【Neptis soma タイワンミスジ】
(2016年 6月 台湾南投県仁愛郷)

イチモンジチョウ種群(Limenitis)の画像も添付しておこう。

【Limenitis sulpitia タイワンホシミスジ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

【Athyma arura ナカグロミスジ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

こっちも裏面を添付しておきますね。

【Athyma cama タイワンイチモンジ♀】

【同♂】

オスアカミスジ♀の体の根元から上翅中室に伸びる斜めの白紋は、コイツらにソックリだ。
そりゃ、普通はミスジチョウとかイチモンジチョウの仲間かなと考えるよね。

おまけにコミスジみたいに背中が金緑色なのだ。

(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷)

コミスジの標本画像はまだ解りやすいけど、これだと解りづらいかな?(画像は拡大できます)。

一応、野外で撮った写真も添付しておきましょう。

(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷)

とはいえ、ミスジやイチモンジ類に比べて胴体は遥かに太く、翅に厚みがある。
そこで頭に浮かんだのが、オニミスジ(オオアカミスジ)だ。

【Athyma eulimene オニミスジ♂】
(2013.1.20 Indonesia Sulawesi Palopo)

上翅中室の槍型の形といい、全体の斑紋形成といいオスアカの♀にソックリだ。胴体は太いし、翅も分厚い。触角だって長い。それにオニミスジも背中が金緑色だ。

オニミスジって、本当にイチモンジチョウグループなの❓オスアカミスジがイナズマチョウの仲間ならば、コイツだってそうなんじゃないの❓(註2)
そういえば、スラウェシ島で初めて採った時は、ミスジやイチモンジと同じグループにはとても思えなかった事を思い出したよ。

とにかく初めてオスアカミスジの♀と出会った時は、台湾にオニミスジなんていたっけ❓と、(゜〇゜;)?????チンプンカンプンになってた。
しかし、裏を見て、こりゃどう見ても別のグループの蝶ではないかと思った。

全然、斑紋系統が違う。
今になって注意深く見れば、目立たないが翅の基部にイナズマチョウ(Euthalia属)の特徴である紋様があることがわかる

【パタライナズマ裏面】

【タカサゴイチモンジ♀裏面】

【ホリシャイチモンジ♂裏面】

【イナズマチョウ♀裏面】

そういえばオスアカミスジの裏展翅はしていない。
去年、台湾で採った蝶を5分の1も展翅していないのだ。
しゃあない。先程の画像を拡大しまひょ。

【オスアカミスジ♀裏面】

一見わかりづらいが、イナズマチョウ群の特徴が見てとれる。

まあ、この辺のくだりはアメブロの採集記『発作的台湾蝶紀行』を読んで下され(註3)。

で、その時は結局♂には一度も会えずじまいだったんだけど、去年は♂のポイントを見つけたので結構採れた。

あっ、♂も背中が金緑色に光ってる。
そういえばヒョウモンチョウの仲間も新鮮な奴は背中が緑色の奴がいるよね。
考えてみれば、オスアカミスジの♂って見た目がヒョウモンチョウっぽい。
もし♂が最初に採れてても、たぶん何じゃこりゃあ~\(゜〇゜;)/?????になってただろうなあ…。ウラベニヒョウモンはいても、こんな大きなヒョウモンチョウなんかいたっけ?って、悩んでいただろう。
よくよく見ると、♀もネコ科の大型肉食獣みたいな柄だ。
♂がレパード(豹)なら、♀はさしずめブラックタイガー、いやオオヤマネコってところか❓
(゜ロ゜)あっ❗、それで思い出したよ。
昔、台湾にも「高砂豹」とか「台湾虎」と呼ばれる大型のネコ科動物がいたのだ。

(出典『東京ズーネット』)

ウンピョウだ。
漢字で書くと雲豹。
雲のような模様を持つ豹という意味であろう。
だが、厳密的にいうとヒョウ属ではなくて、ウンピョウ属という独立した属に分類されている。

ネットで添付用の画像を探す。
あっ、ボルネオ(スンダ)ウンピョウというのもいるようだ。

(出典『子猫のへや』)

こっちの色の方が、よりオスアカミスジの♀に近い。

ウンピョウの分布はインド北東部、ネパール東部、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナム、中国南部と、以前は台湾だった(註4)。
しかし、長い間その姿は確認できず、2013年遂に絶滅が宣言されたという。
何だか、このオスアカミスジの♀が雲豹の化身に見えてきた。そんなワケはないのだが、雲豹の無念の想いがオスアカミスジに憑依したと思いたい。
そう思うと、この蝶がとても愛おしくなってきた。

けれど、開発が進んでいるとはいえ、山深い台湾だ。人間が入れないような地域もまだまだある。
台湾の山河に想いを馳せる。

今もひっそりと何処かで雲豹が生きていると信じたい。

                  つづく

 
追伸
またクソ長くなりそうなので、前、後編に分けることにしました。
次回は生態編になるかと思います。

(註1)長い間、分類学者を悩ませてきた蝶のようだ
台湾のイチモンジチョウ亜科(Limenitinae)は、4つの種群イチモンジチョウ種群(Limenitis)、ミスジチョウ種群(Neptis)、オスアカミスジ種群(Abrota)、イナズマチョウ種群(Euthalia)に分けられている。
『原色台湾蝶類大図鑑』によれば、大雑把に言うとオスアカミスジの交尾器はイナズマチョウ種群とミスジチョウ種群の両方の形質を具えているという。
しかし、交尾器を除く部分はイチモンジチョウ種群とも共通項がかなりある。見た目だけだと、ミスジチョウ種群よりもイチモンジチョウの方が近縁に見えるしね。
当時はまだ幼生期や食樹が判明していなかったので、そんなこんなで分類学者を悩ませていたと云うワケだね。

(註2)オニミスジだってイナズマチョウじゃないの?
でも、裏を見ると、イチモンジチョウとかミスジチョウ系の斑紋なんだよねぇ…。

(出典『Insect.Pro』)

現在、分類学上ではオニミスジはどう云う位置付けになっているのだろうか?
学名の頭、属名はAthymaになっているから、ナカグロミスジやタイワンイチモンジと同じグループに含められているのだろうが、イナズマチョウとの類縁関係はないのかしら?
ところで、果してその幼生期は判明しているのかな?

一応、ネットで探してみたが、見つからなかった。
もしかして、イナズマチョウ的ゲジゲジだったりしてね。

オニミスジは、和名をオオアカミスジと表記される事も多いが、あえて自分は図鑑『東南アジア島岨の蝶』に従って「オニミスジ」を使用した。だって、実際に採った事がある者にとっては、こっちの方が遥かに相応しいと思うからだ。鬼と形容したくなるくらいの迫力があって、魔物のような蝶なのだ。

(註3)
オスアカミスジは、アメブロの『発作的台湾蝶紀行』第9話「空飛ぶ網」と第29話「風雲、急を告げる」の回に登場します。

(註4)
ウンピョウは、台湾だけでなく、中国・海南島でも絶滅したとされている。
現在、生息している場所でも絶滅が危ぶまれている。
人前に滅多に姿を見せないため生態に謎が多く、それが保護をより難しくさせているようだ。

オマケにウンピョウの子猫の画像をお楽しみに下さい。

(出典『よこはま動物園ズーラシアへ行こう』)

子猫、メッチャ可愛いやんか❗

 

台湾の蝶9 イナズマチョウ

 
     タテハチョウ科 その7

   第9話『戦慄の🔥シャドウファイアー』

 
今回取り上げる蝶は、イナズマチョウ(稲妻蝶)。  
前回に引き続きユータリア(イナズマチョウ属)に含まれる蝶である。
しかし、今まで紹介してきたタカサゴイチモンジなどのLimbusa亜属(緑系イナズマ)とは少し毛色が違うイナズマチョウだ。
ゆうならば、タカサゴイチモンジなどは大陸の北方系由来のイナズマチョウだが、コヤツは南方系のベニボシイナズマ種群に含まれる。

今回もアメブロに書いた文章(註1)を大幅訂正加筆して、お送りしたいと思います。

【Euthalia irrubescens イナズマチョウ♀】 

(裏面)
(2016713 台湾南投県仁愛郷新愛村)

実にシックで妖艶だ。
濡れたような漆黒の黒に、目にも鮮やかな深紅が配されている。美しき悪女と形容したくなるような妖しき魅力をとき放っているではないか。
ワタクシ、💘心奪われておりますよ。

展翅板から外した画像も添付しておこう。

1893年 中国四川省蛾眉山の1♂より記載され、その後、台湾でも発見された。
台湾産のものには、fulguralisという亜種名がついている。この亜種名はラテン語で「稲光の、閃きの」を意味する。また、小種名のirrubescens(イルベスケンス)は「赤くなった」という意味である。

台湾と中国に分布するタテハチョウ科の中では、最も稀なる種とされており、特に中国での採集例は極めて少ないようだ。中国に比べれば台湾ではまだ見られる機会はあるが、それとて少ない稀種ゆえ、長い間その生活史は謎に包まれていた。

1989年、この蝶の生活史を解明した内田春男氏でさえ、その著書『常夏の島フォルモサは招く(註2)』でこの蝶を求めて文献にある記録地を全て歩き回ったのにも拘わらず、徒労に終わったエピソードを紹介し、如何にこの蝶との出会いが難しかったかを書いておられる。また、出会うのは偶然に近いものがあり、神の気まぐれであるとも付記されておられる。
そんな風に昔から少ない蝶として名高かったのだが、最近では従来知られていた宜蘭県や台北近くの烏来の産地でも殆ど見られなくなり、ここ15年で更に激減しているようだ。

台湾では北部と中部に産し、主に1000m以下の中低山地に生息するが、平地や山麓近くにも記録が多い事から高い山には産しないとされる。
自分が採集したのは標高約1200m。トラップにやって来たメスだった。

まさかそんな標高で得られるとは思っていなかったので、最初は頭の中のシナプスが繋がらなかった。
キショッ!!(゜ロ゜ノ)ノ、あまりの毒々しさに蛾かと思っておののいたんだよね。
一拍おいて、イナズマチョウだと気づいた時は心臓が💥爆発しそうになったっけ…。
この辺の詳しい件(くだり)はアメブロに書いたので、興味のある方はそちらを読まれたし(註2)。

それはそうと、こうして改めて画像を見ると、顔面が紅い。蝶では珍しいタイプではないかと思う。何だかセクシーだ。

他の台湾産のユータリアは年1回の発生だが、年3~4回の発生とされる。これは、この蝶が北方系のユータリアではなく、南方系のユータリアであるベニボシイナズマ系に近い種類からだと言われている。

余談だが、この蝶、発見当初はベニボシイナズマの仲間だとは思われていなかったようだ。
他のベニボシイナズマとは、かなり見た目の印象が違うのでオオムラサキの仲間のクロオオムラサキ(註3)に近い種類だと考えられていたのだ。それくらいにベニボシイナズマ系の中では異端の存在なのである。
その後、ユータリア属に籍を移されたが、他のイナズマチョウとの類縁関係は学者により異なったようだ。
そして、発見からおよそ100年後にようやく幼虫の食餌植物が発見されて幼性期の形態が判明し、晴れてベニボシイナズマグループに迎えられたという経緯がある。

参考までにベニボシイナズマの画像を添付しておきましょう。

Euthalia lubentina
ルベンティーナベニボシイナズマ♂
(2016.4.27 Laos oudmxay)

ボロのルベンティーナだが、眼の下の赤ラインがイナズマチョウと共通しているのがわかる。
そんな蝶はベニボシイナズマグループくらいしか思い浮かばない。コヤツの地色を黒くして、白紋と下翅の青緑部分を取り除いて赤紋を減らせば、イナズマチョウになる事が理解できる。

ルベンティーナの♀の画像も、ついでに添付しとこっと。

(2014.4.23 Thailand Chang Mai)

れれっ(;・∀・)ん❗❓、これってルベンティーナ❓
もしかして、Euthalia malaccana マラッカベニボシイナズマの♀なんじゃねーの❓
考えもしなかったけど、多分そうだと思う。
ならば、その前に添付した♂はどうなのだ❓本当にルベンティーナの♂であってるの❓
ベニボシイナズマって、似たような奴だらけでよくワカンナイんだよねー。特に♂はワカラン。
どうあれ、今はベニボシイナズマの話は本筋ではない。書くならば、別な機会を設けて書くべきだわさ。今回の主役はあくまでイナズマチョウなのだ。それを忘れてはならない。でないと脱線で、また話が錯綜して長くなる。それだけは避けたい。

そういえば、イナズマチョウをフラッシュを焚いて撮った写真があったな。

単なる黒ではないことがよく解る。
黒の奥に、緑色が隠されているのだ。
逆にこれに白紋を配し、赤紋も足せばベニボシイナズマになるではないか。イナズマチョウは、間違いなくベニボシイナズマのグループだね。
はて( ・◇・)❓、ここで新たなる疑問が頭に浮かぶ。イナズマチョウは果たしてベニボシイナズマの紋が減退したものなのか❓それとも祖先的なもので、紋や色が発達進化したものがベニボシイナズマなのかな❓
勝手な憶測では、紋が減退したものではなかろうか?
単なる勘だけど…。まあ、生物というものは分布の端っこにくるとひねくれる傾向があるから、あながち間違いではなかろう。

各種図鑑の解説を読むと、極めて飛翔が速く、飛翔中に種の識別が出来ない程で、和名の由来はそこからきていると思われると書いてある。飛ぶのが稲妻みたいにバカっ速いってことだね。

台湾での名称は『紅玉翠蛺蝶』。
他に紅裙邊翠蛺蝶、閃電蝶、閃電蛺蝶、暗翠蛺蝶、閃電綠蛺蝶という別称がある。閃電という文字が宛てられているということは、電光石火、閃光の如く飛ぶ様を表しているのだろう。
実際に飛んでるところはまだ一度も見てないけど、これらの解説からその速さは充分に理解出来る。やはり、クソ速いのだ。飛翔中のものを採るのは、ほぼ不可能。至難の技でしょう。
まあ、ワイなら真空斬鉄剣、必殺居合い斬りでイテこましたるけどな(笑)
Ψ( ̄∇ ̄)Ψフフフ…。アルボプンクタータオオイナズマの♂やフタオチョウ類も、はたまた日本ではスミナガシでさえも空中でシバいてきたワシなのだ。やってやれないことはない。

そういえば速く飛ぶ蝶はいっぱい見てきたけれど、自分の中での最速の双璧は同じベニボシイナズマ種群のアマンダベニボシイナズマの♂(註4)とフタオチョウ属のニテビスフタオの♂(註5)だろう。
両種とも、横をすり抜けて飛び去った時は速すぎて残像になってた。で、結局空中ではシバけんかった。多分、イナズマチョウもそれクラスのスピードで飛ぶんだろね(じゃ、採れないじゃん(@_@;)!)。

そのスピードに憧れて翌年の2017年にも台湾を訪れたが、結局会えずじまいだった。2016年、しかも♀が採れたのは、やはり僥幸とゆうべきものだったのだろう。

因みに、♀は♂より遥かに大きい。

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

斑紋は♂♀同じだが、♀の翅形は円みが強く、後翅肛角部の尖りは♂に比べて目立って弱い。
参考までに言っとくと、採集した個体を測ったら、開長7㎝でした。
とはいえ、アカタテハくらいなんだけどね。
いや、もう少し大きいかな?スギタニイチモンジの♂くらいか…。

それにしても、このイナズマチョウという和名、何とかならんかね❓
色々と不便極まりないのだ。例えば、このイナズマチョウを検索したいとする。しかし、単にイナズマチョウと打っただけで検索したら、ドゥルガイナズマとかバンカナオオイナズマ等々の他のイナズマチョウと名のつく蝶がそれこそ何種類もワンサカ出てくるんである。つまり、種としてのイナズマチョウも、属としてのイナズマチョウもゴタ混ぜになって検索されてしまうのである。ややこしい事この上ない。種としてのイナズマチョウを調べたい時は、例えば「イナズマチョウ 台湾」と打つか、学名をそのまま打つしかないのだ。

和名をつけ直すとしたら、何だろう❓(しまった。また和名に難癖つける病気が始まったよ)。
普通に考えれば、先ずはクロイナズマが浮かぶ。
しかし、あまりにもベタすぎて面白くない。
他に何か良い名前はないかのう(;・ω・)?
取り敢えず色から考えてみよう。

( ̄ー ̄)………。
( ̄∇ ̄*)ゞあかん、熊本県の御当地ゆるキャラ、『くまもん』しか浮かばんよ。

(出典『くまもんスクエア』)

(*`Д´)ノえーい、無理からの命名ごっこのスタートじゃい!

アカグロイナズマ。
赤黒い蝶を想像してしまうから❌だな。だいち黒に赤なのだ。赤を前に持ってきてどうする。
いかん、赤黒い酒灼けのオッサンの顔が浮かんできて、頭から離れんようになってもうたやんけ。

クロアカイナズマ。
黒と赤の蝶とはいえ、まんまで捻りも何もありゃしない。それにダサい。❌。

スタンダールイナズマ。
古典的名作である『赤と黒』の作者スタンダールからのネーミングだ。そこそこカッコいいし、語呂も悪かない。しかし、スタンダールという言葉で、どれだけの人が小説『赤と黒』を連想できるというのだ?
だいち学名みたいで紛らわしい。却下。

ならば、黒をメインに据えてはどうだろう❓

カラスイナズマ。
鳥のカラスとは、これまたベタで貧困なる発想だ。
センス、ゼロである。それに不吉じゃねえか。❌。

ナチグロイナズマ。
これを那智黒という石と解る人は、そうはいまい。
せいぜい、あのジジむさい飴玉の「那智黒」を想像するのが関の山だ。
那智黒とは玉砂利に使用される最高級の石で、飴玉はそこから由来の命名だろう。

コクヨウセキイナズマ。
黒曜石。またしても石だ。これもカタカナだけでは意味が想像しにくい。そもそも蝶の名前にマイナーな石の名前を合体させる事じたいに無理がある。
でも、黒曜石の透明感のある黒は、イナズマチョウの持つ黒の雰囲気に近いんだよね。そう思うと、それほど酷かないネーミングにも思えてくる。とあらば、コクヨウイナズマがスッキリしてて、カッコイイよね。

ニンジャイナズマ❗
忍者といえば黒装束だし、敏捷と決まっておる。
それに忍者は外国でもそのまま「Ninja」と発音、表記され、欧米を中心にその認知度は高い。
外国人には、『Ohー、ワンダフォー!スバラシクカッコイイ名前デスネ~(ここ、外人のカタコトの日本語の発音でお願いしますね)。』と絶賛されるに違いない。
でもなあ…、こんな和名をつけたら、日本では絶賛どころかクソミソに叩かれるであろう。
忍者?おまえ、フザけてんのか?と云うワケである。
名前をつける事を何と心得るかと叱られる事、まず間違いなかろう。
それに、この名前には決定的且つ致命的な欠点がある。
台湾にも中国にも忍者はいないのである。

こうなったら、中国語名を和名にそのまま転換しようではないか。
今一度、中国名を並べてみよう。
常見俗名: 紅玉翠蛺蝶,紅裙邊翠蛺蝶,閃電蝶,閃電蛺蝶,暗翠蛺蝶,閃電綠蛺蝶。

コウギョクイナズマ。
紅玉というのは、中国語でルビーの事である。リンゴの品種「こうぎょく」もそこから来ている。
果たして、頭の中で漢字に変換できる人間がどれほどいるかは疑問だが、良い名前だと思う。候補としておいておこう。

2番目はよくワカンナイのでパス。
3、4番目はそのままだとセンデンイナズマとなる。
宣伝イナズマ?センデンを閃電と漢字に置き換えられる人は殆んどいないであろう。
ならば、閃光のセンコウイナズマでどないや?
閃光の如く飛ぶ様を見事に表しているではないか。
アカン…。カタカナからだと、フツーの人はお線香と線香花火しか思い浮かばないでしょね。

5番目は暗い緑色という意味だから、アンリョクイナズマってところか?
しかし、そもそもがパッと見は黒にしか見えない。根本的に相応しくない。

原点に立ち帰ろう。
黒がダメなら、赤をメインに据えて考えてみようではないか。

この蝶は顔の周りに赤が配されているのも特徴の一つだ。

アカエリイナズマ。
赤襟というワケである。だが、厳密には襟というよりも、目の下に赤いシャドウが入っていると云った方が正しい。

ならば、セキルイイナズマというのはどうだ?
赤い涙と書いて、セキルイと読む。漢字が解れば、愁いがあってオシャレだ。
英語だと「Red Tiadrops Butterfly」だ。なんか知らんけど、めっちゃカッコいいネーミングのちょうちょだな。悲しい逸話とかもありそうだ。

同じ特徴からのクマドリイナズマはどないですやろ?
コレで語源を正しくイメージ、理解してくれる人はどれ位いるのかなあ?…。まあ、普通は熊取りと考えるだろう。はあ?熊取?それって地名ですか?
想像力豊かな人で、せいぜい熊取り➡熊獲り=マタギの渋い爺さんまでだろう。
これは漢字にすると、隈取。歌舞伎の化粧方法の一つだね。

(出典『立命館大学浮世絵検索』)

良い名前だとは思うんだけどねぇ。
但し、他のベニボシイナズマも眼の下に赤いシャドウが入っているんだよなあ…。

裏返すと顔が赤いと云うのも特徴だ。

真っ先に浮かんだのが、ショウジョウイナズマ。
ショウジョウとは妖怪の「猩々」の事。でも、猩々って確か全身が赤いんだよねぇ…。
あっ、あのショウジョウバエも猩々から名付けられたんだよね。でも頭は赤いけど、他の部分は薄茶色であって、赤いという程ではない。
名前なんて、そう厳密的に考えなくともよいのかもしれない。でも、基調の色が黒だからショウジョウというには違和感がある。だいちチンケなショウジョウバエと一緒にするのは可哀想だ。

それにしても、表にも増して裏は艶やかだ。
あっ!、アデヤカイナズマ…。
悪くはないが、もし自分が命名者の立場ならば、ちよっと恥ずかしくてつけれない。
💡✴( ̄□ ̄)あっ❗繋がった。オイランイナズマ❗
オイランとは、あの花魁のことだ。この艶なる姿は、花魁の色気を彷彿とさせるではないか。この蝶の高貴にして妖艶なる姿を充分に伝える名前ではないかと思うんだよね。まあ、花魁ならばもっと豪華絢爛だろうと云う意見もあろうが、雰囲気的には理解して戴けるかと思う。

原点と云うならば、学名をそのまま和名に転用するという方法もあるにゃあ(ФωФ)
つまり、小種名のirrubescensそのままのイルベスケンスイナズマというワケである。言葉の響きは悪くないし、カッコイイとは思うんだけどね。
ただ、イメージは湧きにくい。オイラ的には、ギリシア戦士が浮かびました。何かそんな名前の英雄がいそうじゃん。

さらに原点まで遡ろう。
一周まわって、クロイナズマ。
最初に、クロイナズマでは普通すぎてベタで面白くないと述べたが、これはこれで捨てがたいものがある。
漢字にすると「黒稲妻」。黒い稲妻と書くと、矢鱈とカッコよく思えてくる。黒い稲妻って、何だか凄そうだ。普通の稲妻よりも激烈に強い、最強の稲妻って感じ。落ちたら、命はおまへんでぇ~。
または、轟音をとどろかせ、赤い稲妻が闇夜をつんざいて走る様も思い浮かぶ。イナズマチョウのイメージにはピッタリだ。空気を切り裂くようにジグザクに飛ぶと聞いたこともある。ならば、黒い稲妻とはメッチャクチャ飛ぶのが速いイナズマチョウの姿を具現化したようでもある。
クロイナズマ、中々にええんでねえの?

またもや妄想暴発💥寄り道オジサンになってしまったが、とにかく和名がただのイナズマチョウでは不便なのだよ。
誰か蝶界の重鎮が、一言大号令をかけて和名を変えてくんないかなあ…。
その時は是非、「コウギョクイナズマ」、「クマドリイナズマ」、「オイランイナズマ」、「イルベスケンスイナズマ」「クロイナズマ」のどれかを採用して戴きたいものだ。

それにしても、何でイナズマチョウグループのカタカナ表記は、稲妻なのにイナズマと書くのだろう❓
妻は「つま」と読むのであって、「スマ」ではない。オラのスマホでは、「いなずま」と打っても稲妻には変換されにくいんだよねぇ。
実際、古い図鑑である『原色台湾蝶類大図鑑』では、「イナヅマチョウ」となっている。どうしていつの間にかイナヅマチョウがイナズマチョウになってしまったのだろうか❓
多分、誰かが突然そう表記し始めて、皆がそれに追従➡定着したのだろうが、その経緯や意味が全然解らない。まさかイナズマの方が字面(じづら)が良いからとかじゃないでしょね❓
気になるので調べてみた。

イナヅマがイナズマになったのは、単に戦争に負けたからなのだそうだ。眼から鱗の理由である。
アメリカの占領軍が『ニホンゴ、ムズカシスギマスネー。「ヅ」ト「ズ」ノ2ツモアッテ、ヤヤコシクテワケワッカリマセーン。💢Tomorrowから「ズ」に統一したれや、Σ( ̄皿 ̄;;ワレー。』と文句を垂れて、そうなったんだとさ。
結構、その背後には屈辱的な歴史があるのね。

何か脱線しまくりである。
話をイナズマチョウそのものに戻そう。

今回はとりとめもなく書き進めたので、ここで一応イナズマチョウについて調べた事をまとめておこう。
それで終わりにさせてくだされ。脱線はするし、クソ長いし、もう疲れたよ(´;ω;`)

【生態】
分布は中国南部及び西部と台湾。台湾では中部から北部の低中山地に棲むが局所的。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

垂直分布は諸説あるが、200mから1200mくらいだろう。高山帯には産しないされるが、これは幼虫の食餌植物のヤドリギ類が高い標高には見られないからだと推測されている。

おそらく年3~4回の発生。
昔は2、4、6、8、9月に採集記録があり、4月と8月に発生ピークがあると言われていたが、実際は周年に渡って記録があるようだ。越冬態については不明だが、熱帯由来の蝶だけに様々なステージで越冬している可能性はある。
ふた山あるといわれる発生ピークも偶然採れる稀種ゆえ、採集記録が少くて何とも言えないだろう。
個人的見解としては、特にピークというものはなく、年間を通してダラダラと発生しているのではないかと思う。個体数の少なさも、特にピークがないことに関係しているのかもしれない。一斉に発生すれば、目につくが、ダラダラ発生だとそうはいかないだろう。

飛翔は極めて敏速。時にジグザグに飛ぶらしい。♂はシマサルスベリの木を好み、葉上で休むことが多いという。
♂♀ともに午前中に地面に吸水に集まる。しかし、♂の吸水時間は短く、すぐに飛び去る。
そっかあ…、そういえば近縁のベニボシイナズマも吸水に来ても、飛び去るのは矢鱈と早かったっけ…。
おまけに敏感だから、採るのは大変だった。
一方♀は、それと比べると吸水時間は長く、♂ほど敏感ではないようだ。羽を開いて激しく震わせながら吸水する写真を見たことがある。
とはいえ、他のタテハチョウよりかは吸水時間は短いみたいだし、♂よりも吸水にやって来る機会は少なそうだ。出会うには運が必要だろう。

また、♂♀ともに落下発酵した果物にも好んで集まる。
飛翔は速いし、吸水に来ても直ぐに飛び去るので、採集するならばトラップが最も有効な手段といえよう。吸汁に夢中で、そこそこアホになるのだ(それでも他の蝶よりかは敏感だという)。

但し、内田さんの話だと他の蝶のようにバナナやパイナップルには滅多に飛来しないという。興味は示すが、これに止まり吸汁することは殆んどなく、マンゴーや桃を好むらしい。
自分のトラップに♀が飛来したのは午後4時くらい。
トラップの中身は何だか憶えてない。最初はバナナとパイナップルのミックストラップだった筈だけど、段々発酵が進んで小さくなってきたので、テキトーに果物を足して足してのトラップだったのだ。多分、マンゴーも入れたような気がするが、テキトーゆえにそのトラップに入っていたかどうかはわからない。
去年はマンゴーだけのトラップを1つだけつくったが、全く飛来しなかったし、他の蝶の集まりも悪かった。イナズマチョウだけを狙うのならば、マンゴーだけで良いのかもしれないが、他の蝶も狙うなら考えものだ。まあ、トラップは各種条件が複雑に絡まるから、断言は出来ないけど…。
機会があったら、次は桃を試してみたいと思う。

【幼虫と食餌植物】
えー、🚧閲覧注意です。
幼虫は悪意を凝縮させたような邪悪な姿だ。
図鑑で写真を初めて見た時は、あまりの恐ろしさゆえ背中に悪寒が走り、思わずページを閉じましたよ。
うら若き妙齢の女性ならば、卒倒しかねない気持ちの悪さじゃよ。

ほな、画像いくでぇーΨ( ̄∇ ̄)Ψ
逃げる人は今のうちやでー。

ドオーンッ💥❗❗

(出典『insectーfans.com』)

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

悪意に満ちたトゲトゲのゲジゲジだ。
2枚目の写真などは、タランチュラとかの大型の蜘蛛にも見える(写真は何れも終齢幼虫)。
威嚇だよ、威嚇。絶対に触りたくないね。

参考までに、ルベンティーナベニボシイナズマの幼虫写真も添付しておこう。

(出典『dororーaliraq.net』)

そっくりである。つまり、イナズマチョウはベニボシイナズマグループの一員であることは間違いない。
どうやらベニボシグループの幼虫の特徴は、この背中の大きな目玉模様のようだ。アドニアとかアマンダの幼虫も目玉模様がある。野外で間違って触れようものなら、\(◎o◎)/発狂するね。

幼虫は5齢までで、蛹になるまで約1ヶ月かかるという。

順番が前後したが、卵はこんなの。


(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

これまた凄い形だ。地球外生物の卵みたい。
でも上から見た絵は、よく見ると黒い宝石にも見えてくる。美しき宝飾品だ。

産卵後、孵化までは約1週間かかるという。
大きさは1.5㎜ほどで、蝶の卵としてはかなり大きいそうだ。

蛹はタカサゴイチモンジなどの緑色系のイナズマチョウ類に似ているが、やや寸詰まりの形に見える。

(出典『圖録検索』)

羽化までは約10日だという。
卵から羽化までに要した時間は、室内飼育で43日前後、屋外では約60日間だったという。

食餌植物は、ヤドリギ科 Taxillus limprichtii。
和名は『アジア産蝶類生活史図鑑』ではリトウヤドリギとなっていたが、内田さんの『常夏の島フォルモサは招く』ではオオバフウジュヤドリギとなっていた。
これはどないこっちゃ(_)?と思ったが、和名で検索しても参考になるような記事は見つけられなかった。植物はしばしば中間的なものもあり、同定が難しいのだろう。
何れにせよ、木の高い位置に着生する植物なので、それが生活史の解明を困難にしてきたようだ。

つけ加えると、ヤドリギ類には毒があり、それを餌とするデリアス(裏が派手派手のモンシロチョウの仲間)なんぞは、皆さん体内に毒を有する事で有名だ。

【Delias hyparete ベニモンカザリシロチョウ】
(台湾産じゃないです。)

つまり、それで鳥から身を守っているのである。毒があって不味もんは鳥も食わないのだ。だから、イナズマチョウにも毒がある可能性は極めて高い。でも、アホみたいに速く飛ぶんだから、鳥も捕まえられへんって(笑)

台湾のサイトでも食餌植物を確認しておこう。

・大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus
・忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius
・杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius
・蓮華池寄生 Taxillus tsaii

1番目はオオバヤドリギ科の植物だ。
あれ?待てよ、この学名は内田さんの本で見たような気がするぞ。確認してみる。

Σ( ̄ロ ̄lll)ありゃりゃ❗❓、オオバフウジュヤドリギの下に学名が二つも並んでいるじゃないか。

1つはTaxillus limprichtii、もう1つはTaxillus liquidambaricolaとある。でも、属名がScurrulaではなく、Taxillusとなっているし、小種名のケツも微妙に違う。そもそも学名がなぜ二つもあるのだ❓ワケワカメじゃよ。
あっ、カタカナの部分は無視して、学名は2種類のヤドリギが食樹だと示しているのかな?
そうだ、写真の方で確認してみよう。某(なにがし)かの記述があるかもしれない。

( ゜o゜)あちゃー、オオバフウジュヤドリギの文字の下に学名が二つ並んでいる。

いや待てよ、Taxillus limprichtiiってリトウヤドリギの事じゃないか。
じゃあ、その下のTaxillus liquidambaricolaがオオバフウジュヤドリギの事なのか?
でも、さんざんぱら食樹がオオバフウジュヤドリギと言ってきたのに、なぜ2番目に表記されているのだ?謎だらけじゃよ。
(-“”-;)忘れよう。植物に特別興味があるでなし、飼育もしない人なのだ。学名が二つあろうとも、知ったこっちゃない。

2番目から4番目はヤドリギ科の植物。いずれも特に和名はなさそうだ。
あれっ!?、Taxillus limprichtii リトウヤドリギ(オオバフウジュヤドリギ)がない❗
内田さんが幼生期を解明したのに、何で無いんだ❓
学名がScurrula liquidambaricolusに変わったのかな❓
まあ、よろし。きっとヤドリギの類を広く食しているのであろう。

飼育下ではニンドウバヤドリギ Taxillus nigrans、シナヤドリギモドキ Scurrula parasiticaでも良好に育ち、飼育途中で食樹を入れ換えても順調に成育し、自然界でも利用している可能性が高いという。
因みに、この2種類のヤドリギは何処にでも生えているらしい。にもかかわらず、稀種なのは謎だよね(註6)。
育つのに特別な条件でもあるのかなあ❓
まあ、女王は気難かしくて謎に満ちていた方がいい。

                 おしまい

 
追伸
そそくさと片付けるつもりが、和名の変更とか脇道に逸れてしまい、結局自分で迷路に入り込んでしまった。寄り道するのは小さい頃からそうだったし、宿痾の病気なのかもしれない。

えーと、タイトルの「戦慄のシャドウファイアー」は、『発作的台湾蝶紀行』で使ったタイトルをそのまま使用しました。新たなタイトルを考えるのが面倒というのもあったが、結構気に入っているのだ。
因みにこのタイトルは、ディーン.R.クーンツの小説『戦慄のシャドウファイア』のパクリである。
この蝶との出会いが衝撃的且つ戦慄的だったし、イナズマチョウのイメージの影(黒)と炎(赤)とも重なるからだ。また、激しく飛ぶイメージとも何となく合致する。

余談だか、この追伸を書き始めて、花魁を使って新たなるタイトルを考えてもみた。だけども「花魁珍道中、台湾山岳地帯をゆく」とかワケのワカランようなタイトルしか浮かばなかったので、早々と断念した経緯もござったという事を付け加えておこう。

食樹の学名が二つ並記されていた件だが、勝山礼一朗さんから御指摘があった。
var.とは単なる属名を略してますという意味だとばかり思っていたが、varietyの略で「変種」という意味だそうです。

(註1)アメブロに書いた文章
『発作的台湾蝶紀行』の第43話「白水さん大活躍、ワシ虐待おとこ」、第44話「戦慄のシャドウファイアー」。
「発作的台湾蝶紀行 43話」で検索すれば出てきます。すんません。リンクの貼り方がワカンナクなりました。

(註2)『常夏の島フォルモサは招く』
内田春男さんの台湾の蝶シリーズの第二弾。

この文章がほぼ完成したところで、遂に買っちゃいました。古書で6480円でした。
イナズマチョウの幼生期解明に至る物語が書かれています。

(註3)クロオオムラサキ Sasakia funebris
イナズマチョウが初めて記載された時は日本の国蝶でもあるオオムラサキの仲間(Sasakia)に入れられた
という(Sasakia fulguralis)。同じグループのクロオオムラサキと見た目が近いから、そう分類されたようだ。
一部の学者には、クロオオムラサキの亜種ともされていたのではないかな?

【Sasakia funebris クロオオムラサキ】
(出展 『MY PETS BY』。小さい画像だったので、トリミングさせてもらいました。)

(裏面)
(出展 『Insect-fans.com』)

確かに一見イナズマチョウに似てはいる。
だが、細かく見れば斑紋パターンは同じではない。それに大きさが遥かに違う。並べると、まるで大人と子供だ。
クロオオムラサキは、世界最大級のタテハチョウと言われるオオムラサキに極めて近い種類で、しかもオオムラサキよりも相対的に少しデカいくらいなのだ。
これはいつの日にかシバきたい。網に入った時の手応えは相当なものだと思う。

(註4)アマンダベニボシイナズマ

【Euthalia amanda】
(2013年 2月 Indonesia Sulawesi)

インドネシア・スラウェシ島特産のイナズマチョウ。
上が♂で、下が♀である。
あっ、アマンダって、目の下が赤くないんだあ…。
名前も素敵だし、♀はマイフェバリット蝶の一つ。
アマンダには、いつかまた会いに行きたい。

(註5)ニテビスフタオ

【Chraxes nitebis ♂】
(2013年 2月 Indonesia Sulawesi)

こちらもスラウェシ島特産種で、アジアでは唯一の緑色をしたフタオチョウ。
スラウェシ島はアジアに棲む生物とオーストラリアに棲む生物の境界にある島で、独自進化した固有種が多い。だから色んな驚きがあり、生物好きには面白い島です。

(註6)にも拘わらず、稀種なのは謎だよね
ラストは『常夏の島フォルモサは招く』を読む前に書かれていたものだ。終わり方としては、わりと気に入っていたので、そのまま残した。
でもこの疑問符に、内田さんは一つの仮説を立てておられる。
ヤドリギが寄生する宿主の木はウルシや柿、桑など色々あって、同じ種類のヤドリギだとしても寄生する樹種によって葉の香りや味が違うらしい。イナズマチョウは母樹との特定の組み合わせのヤドリギにしか産卵しないんじゃないかと考えておられたようだ。
そう考えれば、食樹がどこにでも生えているのにも拘わらず、イナズマチョウが稀なる理由の説明には一応なる。
女王様はエピキュリアンなのだ。厳格な好みを持つ美食主義者の可能性はある。

 

台湾の蝶8 続 マレッパイチモンジ

 
    第8話『幻の翡翠蝶、再び』

 
本来、第8話はイナズマチョウの予定だったが、マレッパイチモンジの重要な文献、内田春男さんの書かれた『常夏の島フォルモサは招く』が手に入った(顛末は前回を参照)。

読んでみると、新たな情報もいくつか出てきた。
となると、第7話を書き直さなくてはいけない。
しかし、改めて7話を読み直してみて、ハタと立ち止まった。
新知見をつけ加えるといっても簡単ではない。新しい知見を古い情報と入れ替えると、後半の部分との整合性がオカシクなってきたりするのだ。
下手クソが言うのもおこがましいが、曲がりなりにも一つの作品として完成した文章には全体を流れる文脈というものが在る。きっと書いている時の気持ちの流れが文章に反映されるのだろう。
とにかく、間に新しく文章を入れると、全体のバランスがバラバラになりかねないのだ。
というワケで、続編として新たに文章を書くことにした。

内田春男さん曰く、台湾には幻と考えられる珍蝶がいくつかあるが、真に幻の蝶と呼べるのはマレッパイチモンジだけであろうとおっしゃられている。

一応、他に幻の蝶として挙げられているのは、以下のような種類だ(1991年当時)。

①イノウエカラス ②エサキカラスシジミ ③クロボシヒメシジミ ④サンカクホウシジミ

①はネットで調べたら、生態写真がいくつか出てきた。そういえばラオスで会った人がこの蝶についての論文を「日本蝶類学会」に書いたと言ってたなあ…。
時計を拾ってあげたので、ちよっと仲良くなって喋ってくれたのだろう。
②は標本写真が杉坂美典さんのブログ「台湾の蝶」にあった。
③は画像さえ見つけられなかった。まあ、どうせチンチクリンの蝶であろう。
④は杉坂さんのブログに標本写真があった。

なるほど。相当珍しいようだね。
しかし、①と②は所詮はカラスシジミなのである。
余程の眼力がある人でないと、パッと見で他のカラスシジミ類と区別できない。
④もクラルシジミと見た目は同じようなもので、他にもワタナベシジミなどソックリなのがいくつもいる。これまた野外で区別するのは至難の技だろう。

そして、総じて皆んなチビで地味。
殆んどの人が注目しないようなもので、勝手に幻になっとりなはれという感じのものなのだ。

マレッパイチモンジの故郷とされるマレッパ村は眉原の奥、北港渓の上流部にあるようだ。
なるほど、台湾でのマレッパイチモンジの別称に「眉原綠一字蝶」とあったのは、それゆえなのね。或いは眉原近辺でも採集記録があるのかもしれない。
因みに第7話では内田さんはマレッパには訪れた事がないと書いたが、1988年に念願叶い来訪されたらしい。
しかし、第1巻「ランタナの花咲く中を行く」ではマレッパ村から1時間ほど渓を詰めた所に採集地があると書いていたのに、この2巻ではマレッパでの採集ポイントについては一切述べられていない。果たしてマレッパに、この幻の蝶はいるだろうか❓
いまだ、そこは謎のままなんである。

マレッパイチモンジは1958年に発見されたが、その後17年間で採集された記録はたった4頭だけだったそうである。
とはいえ、地元の採集人によると年間数頭ぐらいは採集されていたらしい。但し、殆んどの採集人はこの蝶の事を知らず、標本商のところで整理中に偶然発見されていたようである。つまり、それが生息地の断定を困難にしていた。
また、マレッパイチモンジと識別できる採集人は、高価で売れるこの蝶のポイントを他人に教えるワケもなく、秘密にしていたことから確実な生息地は長きに渡り謎のままだったと云うワケでもある。
その後、蝶の加工業(土産物の額など)が衰退して採集人が減り、益々この蝶は幻と化したようだ。

書きながら読み進んでゆくと、ありゃまΣ(゜Д゜)
噂では数年前(1980年代後半)にマレッパの反対側の天祥で日本人が1頭、20年前(1970年辺り)に翠峰からマレッパ付近に入った、これまた日本人が4頭採集したと云う話が出てきた。
7話で若者が翠峰で4頭採ったという話を書いたが、そんなに古い記録なのかよー❓
杉坂さんが分布に台湾東部をあげていたのは、この天祥の記録の事かえ❓
だが、この2つの噂を内田さんはホリシャイチモンジ(♀)を誤認した可能性が濃厚だと考えられているようだ。
自分もそんな気がする。滅多と採れない珍蝶なのだ。
日本人の採集とあらば、日本国内で噂が表に出てきてもおかしくはない。だが、そんな話は全く漏れ聞かないのだ。

アカン、読みながら書き進むのは効率が悪い。
一旦、筆をおいて最後まで読んでから書こっと。

その後、内田さんはプロジェクトチームを結成し(1988年)、生息地を探す物語になるのだが、とても面白いけど長いので割愛する。
結果、天祥など台湾東部では見つけられず、確実に採集していた採集人、程大富氏の動向から谷関付近にターゲットを絞り込み、石山渓(標高約1000m)で遂に生息地を発見するのである(しかし、18年程前に大規模な崖崩れで谷が崩壊し、道路が寸断。現在も入山不可という)。

それでは、新たな知見を付記しておこう。
先ず発生期だが、6月中下旬と推測したが、他の緑系イナズマチョウよりも発生は少し遅れるようで、7月中旬から現れるそうである。
但し、少ない蝶ゆえ、自分はそれを全面的に信じているワケではない。例えばパタライナズマは、ラオスで4月の頭に採ったが、同じ場所で5月初めにもそこそこ鮮度の良いものを複数採っている。だらだら発生の可能性はあるだろう。

飛翔はメチャクチャ速いらしい。
羽が他のイナズマチョウよりも尖っているからだと言われているが、正直、実際にこの眼で見てみないと解らないと思っている。
羽の形だけでなく、胴体との関係性もあるからだ。
体躯が太く強靭で羽が分厚く、面積が小さい方が物理的に速い。これは現在の最新鋭の戦闘機を思い浮かべて戴ければ解るかと思う。羽の形は一つのファクターにしか過ぎないのだ。
飛翔時は、台湾に棲む他の緑系イナズマチョウに比べてかなり黒く見えるらしい。
確かにホリシャイチモンジの♀も飛んでいる時は、かなり黒く見えた。生きている時は、あの渋くて美しい紫色に見えるかもしれない。

【ホリシャイチモンジ♀】

普段は暗い林内にいて、基本的には明るい所には出て来ず、生態はホリシャイチモンジに近い印象だと書かれていた。
自分の印象も同じだ。ホリシャは暗い林内で遭遇する事が多かった。つまり、普通に林道を歩いていても滅多なことではマレッパイチモンジには会えないと云う事だ。
ゆえに出会うためには、トラップは必須のアイテムといえる。

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

ここで、ようやっとの生態写真の登場でありんす。
色々調べてみたが、生態写真は知る限りこの2枚しか見たことがない。もう、30年も前の写真だぜ。まさに幻だよな。

♂♀ともに、🍍パイナップルに酒を染み込ませて発酵したものに誘き寄せられるようだ。
敏捷な蝶だが、吸汁している時はかなり鈍感みたい。イナズマチョウ(Euthalia irrubescens)に比べれば、撮影は容易らしい。

内田さんは、翌年幼生期の解明にも挑まれた。
しかし9♀も得たのに、結局1卵も産まなかったそうな。
他の緑系イナズマチョウの幼生期からして、カシ類の植物を食うことは予想できるので、付近にあったアラカシ、アリサンアラカシ、ホソバナンバンガシ、シラカシ、ヒシミガシ、ウラジロガシ等を袋がけして採卵を試みたのだが、ダメだったらしい。
一応、現在はツクバネガシだけが食樹として記録されているが、与えれば果たして他のカシ類を食するのだろうか?興味が尽きない。

死後、卵を取り出すと驚くべき事実がわかった。
何とマレッパイチモンジの卵は他のイナズマチョウに比べて遥かに大きくて、台湾産のタテハチョウの類の中では最大だと書いていたのだ。

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

左下がマレッパイチモンジ、右下がタカサゴイチモンジ、上がスギタニイチモンジの卵である。
卵の大きさは2㎜。タカサゴやスギタニは1.2㎜だという。マレッパイチモンジの成虫はスギタニ、タカサゴイチモンジの成虫と比べて小さいから驚きだ。
腹内の保有卵数はタカサゴ、スギタニで約60卵、マレッパは17~20卵だったそうである。

おそらくこの蝶が稀なのは、卵数が少ないというのと、幼虫の食餌植物が限定されているからではないだろうか❓

因みに、産地がバレて1989年には多くの採集者が石山渓に集まったが、その年も相当数採集した程大富氏の姿は石山渓ではついぞ見られなかったそうである。

石山渓の他にも、まだ知られていないマレッパイチモンジの産地はこの世に在るのだ。

                  おしまい

 
追伸
やはり、ロマンのある蝶だと思う。
知られていない産地は確実にあるのだ。
まだ見ぬマレッパイチモンジに想いを馳せる。

添付した画像を改めて見ると、帯が白いから♀だね。
左奥はワモンチョウの♂だろう。ワモンチョウはデカイ。そこから類推すると、♀はそれなりにデカイという事だね。タカサゴイチモンジの小さめの♀くらいはあるかもしれない。

マレッパイチモンジの卵は、台湾のタテハチョウ科の中では最大というけど、オオムラサキより大きいのかなあ❓
まさか、んな事はあるまい。
内田さんも当時は興奮されていたのだろう。

でも、ツッこまれるのも嫌なので、調べてみた。

(_)何だよー、何とオオムラサキの卵は1㎜から2㎜と幅があるじゃないか。
しかし、所詮はネットの情報だから素人風情の記述もあるよね。信用ならない。
しゃあない。手代木求さんの「日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科」で確認してみよう。
タテハチョウ科の専門家だから、ネット情報よか遥かに信頼できるでせう。図書館でコピーしといて良かったあー。

ゲッ(゜ロ゜;ノ)ノ、1.5㎜とあるじゃないか。
オオムラサキの卵は見たことあるけど、蝶の卵としては相当大きいという記憶がある。それよかデカイ2㎜ってか❗相当デカイよね。
内田さん、ええ加減なこと言うてスンマセン。

【オオムラサキ♂】
(東大阪市枚岡産)

それにしても、マレッパイチモンジとオオムラサキとでは、成虫の大きさは倍近く差がある。
何で、そんなに卵が大きい必要性があるのだろう❓
これまた、謎だわさ。

 

常夏の島フォルモサは招く

 
いやはや、遂に買っちゃいましたよー( ̄∇ ̄*)ゞ

『常夏の島フォルモサは招く』。
この本は、台湾の蝶の生態解明に多大なる功績を残された内田春男さんの「台湾の蝶と自然と人と」シリーズ全3巻の第2巻(1991)にあたる。
因みに、他の巻のタイトルは以下のようなもの。

 
第1巻『ランタナの花咲く中を行く』(1988)

 
第3巻『麗しき胡蝶の島よ永えに』(1995)
(出典『ヤフオク』)

この他に1999年に発行された『フォルモサの森を舞う妖精―台湾産ゼフィルス25種―』があり、これを入れて4部作ともされている。

第1巻と第3巻は図書館等で見たことはあるが、2巻は見たことが無かった。でも実をいうと一番見たかったのは、この第2巻である。何といっても2巻の主役はイナズマチョウとマレッパイチモンジなのである。ゆえに、現在台湾の蝶を紹介する連載を抱えている身としては、どうしても避けては通れない文献なのだ。
既に連載第8話のイナズマチョウの回は3、4日前に完成しているのだが、この本に目を通しておかないと発表する気にはなれなかった。で、必死に探したってワケ。

しかし、こういう本は発行部数が少ないだけに高い。
本が出版されたのは1991年と古いが、定価は18000円もする。正直、高価過ぎて手が出ない。
だから古書を探すわけなのだが、かといって、この手の本は古書だって安くはない。ネットで値段を調べたら、上は定価より高い2万円❗下は6千円だった。何れも税別である。6千円だって税を上乗せすると、6480円にもなるんである。本としては、かなり高い。

取り敢えずミナミ周辺で在庫のある古本屋に行ってみる。ここはネットでは7500(税別)円で売っていた店だ。だが、何と六千円の値がついていた。ネットだと少し高めに値付けしているのかな?
慌てて買いそうになったが、一旦撤退する。
冷静に考えてみれば、こんなニーズが限られた本がすぐ売れるもんではない。もう一軒見てからでも遅くはないだろう。南田辺の古書店に行く。

そこはネットの販売価格と同じ金額の七千円だった。
試しに値引きできないかを訊いてみたが、ダメだった。撤退である。

帰路の間も随分買うかどうか悩みましたなあ…。
だって、その金があったら、そこそこ旨いもんが食えるのである。3月の展示即売会で、結構ええ蝶が買える金額でもある。

で、悩んだあげく翌日に最初の古書店で意を決して買っちまった。
たぶん必要なくなったとしても、それなりの価格で買い取って貰えるんじゃないかと思ったのが、決断を後押しする形になった。

早速、ページを開く。

中は生態写真、紀行文、写真解説の三部構成になっており、イナズマチョウとマレッパイチモンジに関しては、かなりの紙数が費やされている。

読んでみると、新知見が結構あった。
まあ、買って正解って事だね。
そういうワケで、それなりに書き直さなければならない破目になりそうだ。
でも一度完成した文章を書き直すとなると、これが案外と時間が掛かるんだよねぇ…。
間に新たな文章をただ入れるだけというワケにはいかないのだ。入れれば入れたで問題も出てくる。全体の構成が崩れるのだ。だから、結局全体的に筆を入れざるおえなくなってくる。
まっ、しゃあないか…。

それにしても、このタイトルってヤバいよなあ…。
今年は行く予定が今のところ全然もって無いのにさあー、オイラを台湾に、へ(^^へ)おいでへ(^^へ)おいでとしきりと誘(いざな)いよる。

                 おしまい

台湾の蝶7 マレッパイチモンジ

  
     タテハチョウ科 その6

      第7話『幻の翡翠蝶』

 
 
ホリシャイチモンジ、スギタニイチモンジ、タカサゴイチモンジと順に台湾のLimbusa亜属(緑系イナズマチョウ)の蝶を紹介してきた。
だが、実を言うと台湾にはもう1種類、幻とも呼ばれるイナズマチョウが存在する。

【Euthalia malapana マレッパイチモンジ】
(出典『原色台湾産蝶類大図鑑』)

Euthalia malapana マレッパイチモンジだ。
この連載には自分が出会ったことがある蝶しか取り上げないつもりでいたが、今回は特別。
この蝶については、以前アメブロで『幻の翡翠蝶』と題して書いている。ならば、それを訂正加筆すれば文章を書くのは楽だと考えたのがキッカケだが、一番の理由はそこではない。台湾の蝶を語る上で、やはりマレッパイチモンジは外せないと判断したからだ。

マレッパイチモンジはマラッパイチモンジとも呼ばれており、そちらの方が正しいと云う向きもある。
なぜなら、白水隆 著『原色台湾産蝶類大図鑑』では「マラッパイチモンジ」となっているし、学名の小種名も「malapana」だからだ。
現況は両方が混在していて、誠にややこしい状況になっている。だが自分は、ここはあえて「マレッパイチモンジ」を和名として推していきたい。
その理由は以下のようなものだ。
この蝶、そもそも最初に発見された場所に因んで白水さんが学名も和名も名付けられた。図鑑にも「本種の種名及び和名は最初に発見された産地マラッパ(マレッパ)にもとづく。」と書いてある。
しかし、その最初に発見された地は「馬烈覇」と書いて「マレッパ」と読むのがどうやら通例のようなのだ。
ネットでググってもマレッパでしかヒットしなかったし、台湾で泊まってた宿のオーナー・ナベちゃんもマレッパとハッキリ発音しておった。
勝手な推測だが、たぶん白水先生が地名を聞き間違えたのではないかと勘ぐっている。図鑑の中のマラッパ(マレッパ)という件りのカッコ内は、記載したあとでマレッパが正しいと解ったから、そのような記述の仕方になったのではないだろうか?まあ、あくまで想像ですけど…。
とにかく、学名はそのままでいいとしても、場所がマラッパではなくマレッパなのだから、和名は「マレッパイチモンジ」とするのが正しいのではないかと思う。その方が齟齬がないから混乱は避けられる。それにマラッパはマレッパより発音しにくいし、真🎺ラッパみたいでダサい。稀ッパの方がまだ納得がいくわいな。
もう誰か偉いさんが号令出して、マレッパイチモンジで統一してくれよー(ToT)。
ついでに、これもややこしいから「~イチモンジ」は止めて、全部「マレッパイナズマ」とかイナズマに統一してくれよー(*ToT)。だって、タカサゴイチモンジやスギタニイチモンジ、ホリシャイチモンジもみんなイチモンジチョウやなくて、イナズマチョウの仲間やんかー(T△T)

(^ー^;Aいやはや、のっけから名前問題勃発で迷宮に迷い込みましたよ。でもマレッパと決めたことだし、この程度で済んで、ワタクシ、ε=( ̄。 ̄ )ホッとしてます、ハイ。

そういうワケで、今回は過去文をマラッパイチモンジから全部マレッパイチモンジに書き直してお送りいたします。
ではでは、ここからがアメブロの訂正加筆版です。
一応、背景を少し補足しておくと、この文章は2017年の春、大阪の昆虫展示即売会に行ったあとに書かれたものです。

  
 展示即売会では、マークフタオ(註1)に続き幻の翡翠蝶とも出会えた。
もちろん、実物を見るのは初めてだ。

【マレッパイチモンジ】
台湾特産のイナズマチョウ属、Limbusa亜属の蝶。
♂♀の斑紋は同型。一見ホリシャイチモンジ(註2)の♀に似るが、翅形が遥かに尖る事から区別は容易。前翅長50㎜(♀)。大きさはタカサゴイチモンジやスギタニイチモンジよりも一回り小さく、中型のタテハチョウの範疇に入る。
1957年7月に台湾中部のマレッパで得られた1♂1♀に基いて新種記載されたもので(白水・陳 1958)、原色台湾産蝶類大図鑑によると「中部地帯の高地帯のみに分布する稀種と思われ、食草・幼生期は勿論のこと、分布・発生期についても資料がなく詳細は不明。」とある。

それから約60年も経った今でも極めてこの蝶の情報は少ない。ネットで調べてみてもヒットする情報は数える程しかないのである。標本写真も数点しか見当たらず、しかも古いものばかりだ。生態写真に至っては、内田春男さんが撮られた一点のみしか見つからなかった。
その後、マレッパでの記録が有るのか無いのかも分からないし、唯一確実に産するといわれた石山溪も1999年の大地震による土砂崩れで谷が崩壊し、入山禁止になって久しい(崩壊が激し過ぎて、修復工事を断念したようだ)。

それでは、展示即売会で見つけたマレッパイチモンジの御登場と願おう。

上が♂で下が♀である。
結構、古そうな標本だ。Limbusa亜属特有の魅力がとうに失われている。この属の蝶は光の当たる角度など条件により色んな緑色に見えるのだ。
例えば、こんな感じです。

【Euthalia nara ナライナズマ♂】
(2016年 5月 Laos uodmxay)

一番綺麗に見える時は、こんな風かな。

(;^_^Aしまった。勢いで写真を添付したが、考えてみれば他にナライナズマの写真があまりない。
仕方がないので、女王に登場してもらおう。

【Euthalia patala パタライナズマ♀】
(2014年 4月 Laos oudmxay)

(2016年 5月 Laos uodmxay)

(2016年 4月 Thailand Changmai)

同じパタライナズマでも、ここまで違って見えるのである。謂わば、緑系イナズマは玉虫色の蝶なのだ。
でも、この渋キレイな翠色も、標本にしたら地味な黄土色になっちゃうんだけどね。

マレッパイチモンジの話に戻ろう。
並んだところは、こんな感じ。

Σ( ̄ロ ̄lll)ありゃま❗
表示はマラッパイチモンジってなっとるやないの。
そうかあ…、プロはマレッパじゃなくてマラッパなのね。だから、自分も当時はマラッパで統一していたやもしれぬ。
まあいい、前言撤回は無しだ。宣言したんだから、このままマレッパでいこう。

♂と♀の大きさの差は、思っていたほどない。
Limbusa亜属の蝶は♂よりも♀が断然大きい場合が多いのだが、たまたまこの♀が小さいだけなのかな?それとも、♂が大きい?

値段は♂が、Σ(゜Д゜)ビックリの95000円❗
♀は何とΣ( ̄ロ ̄lll)驚愕の180000円もする❗❗
因みに言っとくと、♂の上の25000円という表示はその上に並んでいたコウトウキシタアゲハ(註3)の値段である。ふ~ん、コウトウキシタって結構するのネ。台湾産だからかな?

9万5千円と18万円かあ…。
♂1頭だけでも新種マークフタオの♂♀ペアの9万円よりも高いじゃないか。それだけ貴重なモノって事なのか❓

店主の方と話をしてみると、もう10年以上も採集記録が無いそうだ。なるほど、標本が古びているのも頷ける。

重ねて尋ねてみる。
『石山溪は入れなくなったから、そこからの標本の供給は無いにしても、マレッパからは入ってこないんですか?』
『あっ、あれね。最初にマレッパで得られたというモノは、本当はマレッパで採られたものじゃないようだよ。マレッパの標本商(採り子)から買ったから、マレッパで採れたものだとばかり思い込んだんじゃないかなあ。実際、その原記載の標本以外はマレッパからの記録は無いからネ。あの辺の採り子は、ひと山向こうにある石山溪にも足を伸ばしていた筈だから、多分そこのでしょ。』

となると、10年どころかもっと前から採集記録が無いって事じゃないか…。石山溪が崩壊したのが18年前なのだ。ならば当然、大珍品扱いになってても可笑しかない。値段がバカ高いのも納得だよ。
そういえば水沼さんが『マーキー(マークフタオの事)は、これからどんどん値が下がるよ。』と言ってたなあ…。供給が増えれば値が下がってゆくのは経済の常識だもんネ。その逆に、供給が全くなくなったマレッパイチモンジの値段が高くなるというのも道理だね。この値段からすると、どうみても台湾最稀種の蝶だろう。

それにしても、石山溪以外にはマレッパイチモンジはいないのかな?
この間(2016年)の初の台湾採集行で、タカサゴイチモンジ、スギタニイチモンジ、ホリシャイチモンジ、イナズマチョウ、オスアカミスジが採れたから、マレッパさえ採れれば台湾のイナズマチョウのコンプリートになるんだけどなあ…。是非とも、マレッパイチモンジの生きてる実物がどんな翠色をしているのかをこの目で見てみたいだすよ。
石山溪の隣の谷とか反対側の谷にいてもおかしくないと思うんだけど、どうなのかな?
でも、石山溪以外の産地を聞いたことがないぞ。
ならば、ワシが探したるぅー。ムキーッ(#`皿´)

勇む心で地図を探してきて確認してみる。
あちゃー(>o<“)、ダメだこりゃ。
下流の谷関から上流の梨山までの道がズタズタに寸断されているじゃないか。シッカリ全面通行禁止になっている。これじゃ石山渓に入るどころか、隣の谷の入口にだって辿り着けやしない。尾根を越えた反対側には、どうやら道が通っていない。

マレッパイチモンジ…。
完全に幻の翡翠蝶だわさ。

 
 手直しはしているが、ここまでと追伸がアメブロに書いたおおよその文章だ。
あれから以降の新しい知見もあるので、もうちよっと書き足そう。
おっ、そうだ。その前に台湾のサイトでマレッパの台湾名を調べておきませう。

台湾名は、馬拉巴翠蛺蝶。
他に馬拉巴綠一文字蝶、仁愛綠蛺蝶、眉原綠一字蝶、仁愛翠蛺蝶、馬拉巴綠蛺蝶などの別称もある。

ヘ(__ヘ)☆\(^^;)≡3≡3≡3
🎵ちょと待て🎵ちょと待て、オニーサン。
おいおい、漢字は馬烈覇と書くんじゃなくて「馬拉巴」なのかよ(◎-◎;)❓
そっかあ…、発音がマラッパならば、当然ながら漢字は馬烈覇じゃなくて「馬拉巴」みたくになるよなあ。
名前問題は一応解決したと思ってたら、ここにきて再び迷宮に放り込まれた。ヽ(ToT)ノ奈落~。
いらんとこホジクリ返して、ちゅどーん💣💥❗地雷爆発やんけー。いっそ、また全部マラッパに戻すか?

いやいや待ちなはれ。単にマラッパの宛字やもしれぬ。
「馬拉巴」でググる。

ありゃま( ゜o゜)、馬拉巴栗ちゅーのんしか出てこんぞ。🌰栗ばっかしゃ。地名、村名では一つも見つからない。
むにゃあ~┐(‘~`;)┌、もうこれは問題提起としておいて、このままマレッパイチモンジにしておこう。
で、アメブロの方はマラッパイチモンジの儘で放置じゃ。
ε=ε=┏(・_・)┛迷宮から逃亡させて戴きやす。

気を取り直して、前へ進もう。
そのサイトからは比較的新しい標本写真も見つけた。

(出典『DearLep 圖録検索』)

(≧∀≦)渋いねぇ~。
やはり鮮度が良いものの方がよろしおす。

情報は少ないが、生態と食餌植物をわかる範囲で書きとめておこう。

【生態】
『原色台湾産蝶類大図鑑』には、「中部地方の高地帯にのみ分布する。」とあった。しかし、標本画像を拝借したサイトでは中海抜の常緑広葉樹林帯、杉坂美典氏の「台湾の蝶」には標高1000~1500mの常緑広葉樹林周辺に棲息するとあった。
おそらく図鑑の高地帯にのみ分布するというのは間違いで、中高山地とするのが妥当だろう。垂直分布はスギタニイチモンジと同じようなものだと推測される。

問題は生息地域だ。杉坂さんの種解説には、台湾中部の他に東部も指定されている。
えっ!?、東部って何処よ❓太魯閣渓谷辺りでも記録があるのかな?
自分の知りうる限りの産地は、もしマレッパがフェイクならば、石山渓しかない。他に産地があるとするなら、そこから採れてる筈じゃないの❓
でも噂にものぼらない。ホントに東部にいるのかね?

と、ここまで書いて、またもやいらぬ事に気づいてしまう。
たしか台湾の蝶研究に多大なる功績を残された内田春男さんの名著『ランタナの花咲く中を行く』のコピーがあったことを思い出した。そこにマレッパイチモンジの事が書いてあったような記憶がある。

あっ、内田さんの本ではマラッパイチモンジではなく、「マレッパイチモンジ」で統一されている。地名もマレッパだ。
内田さんは何度も台湾を訪れており、いや、そもそも元々は台湾で教師かなんかされてた筈だ。地名を読み間違えるとは考えにくい。それに比べて白水さんは九州大学の先生だし、頻繁に台湾を訪れていたとは思えない。地名はマレッパが正しかろう。

Σ( ̄ロ ̄lll)あれれー。
そこにはマレッパにはマレッパイチモンジが生息しているような事を書いておられるぞー。
但し、内田氏ご自身はマレッパにも行っておられないし、直接その眼で観察もされていない(当時は外国人の入域は禁止だった。もしかしたら、今でもかも…)。
だから、微妙ではあるんだよね。
しかも、別の場所で出会った若者が翠峰で1日で5頭も採ったというエピソードまで添えられていた。
何と翠峰にもいるのかっΣ( ̄皿 ̄;;❗❗
翠峰といえばマレッパの東南側だが、バスで行けるとこやんけ❗訪れる日本人蝶屋も多い有名な場所だ。それでもマレッパイチモンジが再発見がされてないって、どゆことー❓
う~ん、これも所詮は内田さんが聞いただけの話であって、その真偽のほどは霧の中だ。採った実物を見せてもらったとは一切書いていないのだ。もしかしたらアホな若造で、ホリシャイチモンジやスギタニイチモンジと間違えてた可能性だって無きにしもあらずだ。
クソー、またしても泥沼の迷宮で彷徨(さまよ)う事になろうとは…。しくしく(ToT)

そういえば第2巻の『常夏の島フォルモサは招く』には、マレッパイチモンジの採集観察記があった筈なんだよね。でも、残念ながらまだ一度もその中身を見たことがない。閲覧できるところを探したけど、近畿の大きな図書館にも無かったのだ。古書を探して買うと云う手もあるけど、だいたい1万円以上はするから貧乏人にはキツい。
ε=ε=┏(・_・)┛再び迷宮から逃亡いたします。

めげずに粛々と前へと話を進めていこう。

成虫の基本的な生態は、他の緑系イナズマと変わらないようだ。飛翔は敏速、♂♀ともに好んで腐果、樹液、獸糞に集まるという。

年1回の発生で、杉坂さんのブログによれば、発生期は7~10月とあった。しかし、6月にも記録はあった筈だから、これは6~10月とするのが正しいかと思う。原記載されたタイプ標本の採集月日が♂♀ともに7月1日だし、普通♀は♂より発生が数日から一週間くらい遅れる筈だから、♂は少なくとも6月中下旬には発生しているだろう。

【幼虫の食餌植物】
稀種だけに未知であろうと思っていたが、何とござったよ。
捲斗櫟 Quercus pachyloma
これは、どうやら日本にもあるツクバネガシの事のようだ。おそらく他のカシ類も食すると考えられる。
いや、或いはこの植物しか餌とならないので、数が極めて少ないのかもしれない。

とにかくマレッパイチモンジは今や大珍品で、みね子さんのお話によると(マレッパを売っていた標本商の奥様だと思う)、台湾の博物館からも標本の問い合わせがあったという。
つまりこれは台湾国内でも極めて標本の数が少なく、近年全く採れていないという事の証左にはなるまいか。
もし採れたら、ヒーローやんけ( ☆∀☆)
マジで採りに行ったろかいな。
でも、台湾って崖崩れがやたらと多いんだよなあ…。♂の完品の時期は6月だろうから、梅雨が明けていなかったら危険極まりない。行くなら7月だろね。けど、イナズマチョウは♂より♀の方が採集の難易度が圧倒的に高いんだよなあ。まあ、引きだけは強いから何とかなるか(笑)

でもさあ…、再発見と云う浪漫はあるんだけど、ホント言うと見てくれ自体にはあまり魅力を感じてないんだよね。
なぜなら、大陸に似たようなもんが結構いるんである。『原色台湾産蝶類大図鑑』にも、「本種は色彩斑紋ともに中部~西部支那(中国中部~西部)より知られる Euthalia pratti Leechに酷似し、それに最も近縁なものと考えられる。」と書いてあった。

気になるので、一応その E.pratti なるものがどんかもんか確認しとくか。

調べたが、あまり画像は無かった。

【Euthalia pratti】
(出典『m.eBay.com 』)

なあ~んだ、もっとソックリかと思いきや、それほどでもない。斑紋パターンは同じではあるが、紋が明らかに小さい。想像では、スギタニイチモンジみたいに大陸のものとは素人には見分けがつかないものに違いないと考えていたのだ。
それにしても紋が小さくて地味だなあ…。
分布は四川、雲南、淅江、湖南、湖北、広東、福建とあった。結構広い分布範囲だ。という事は亜種も複数いるに違いない。マレッパにソックリなのもいるかもしれない。

でもさ、亜種とかの画像が見つからないんだよねぇ…。
あー、これって又もや迷宮パターンじゃないか。
(|| ゜Д゜)ヤバい、もうズブスブにはなりたくない。

おっと、生態写真が見つかったよん🎵
これって多分、『発作的台湾蝶紀行』の中で1回使わさせて戴いた画像だぞ。

(出典『互劫百科』)

美しいねぇ。斑紋が少ないゆえ翠色が目立つ。
生きてる時は、斑紋が無いゆえに美しく見えるとは盲点じやったよ。

さらに探すと、新たな画像が見つかった。

【Euthalia pratti occidentalis】

(出典『yutaka.it-n.jp』)

どうやら北ベトナムの亜種のようだ。上ふたつが♂で、下ふたつが♀である。
コチラは紋がシッカリあってマレッパに似ている。
しかし、両者は分布的には遠いよね。

待て待て待てーい。Limbusa亜属の権威、横地隆さんの論文では、Euthalia occidentalis としていて別種扱いになってるぞ。
あー\(◎o◎)/、迷宮じゃよ~。
でも、今回はマレッパイチモンジが主役なのだ。わざわざ E.pratti に深入りすることもあるまいて。無視、無視。

手持ちの資料、増井暁夫・上原二郎『ラオスで最近採集された蝶(9)』にも、種は違うが似たようなものが幾つかあった。

【Euthalia confucius】

上が♂で下が♀である。
中国中西部からミャンマー北部にかけて分布。

【Euthalia pacifica♀】

ラオス・サムヌア産。かつては E.nara の亜種と考えられていた。

【Euthalia sahadeva♀】

ネパールから北タイ、ラオス北部、中国南部にかけての分布が知られる。
♂ほホリシャイチモンジの♀にソックリで、かつては両種は同種扱いとされていた。

【Euthalia omeia♀】

ラオス・サムヌア産。nara種群としては中国寄りの分布。

【Euthalia nara♀】

野外写真の一番上のナライナズマの♀だ。
分布はネパールからベトナム北部まで。

【Euthalia khambounei】

基産地はラオス・サムヌアで、北ベトナムからも知られる。

【Euthalia hebe♀】

サムヌア産。中国湖北省長陽を基産地とするが、他の地域からの報告は少ない。♂はスギタニイチモンジに似ている(以上いずれも出典は『月刊むし No.403,Sept.2004』)。

この斑紋系統のミドリイナズマの中ならば、野外写真を添付したパタライナズマが最高峰でしょう。
なんてったって、Limbusa亜属最大種なのだ。貫禄が違う。

【Euthalia patala パタライナズマ♀】

【パタライナズマ♂】

上ふたつが♀で、3番目が♂だ。
♂♀同型だが、♀の方が大型で前翅の帯が白い。一方♂は帯が黄色いことで区別できる。
言い忘れたが、マレッパイチモンジも♂♀の見分け方は同じである。

画像の撮り方があまりよろしくないが、西日本のオオムラサキ♂と翅の表面積は同じくらいだろう。♀に至ってはオオムラサキ♂よりも羽の表面積は広いかもしれない。

つまり、これを何頭も採ってると思うと、モチベーションが今一つ上がらないというワケなのだ。
マレッパイチモンジには、もっと特異で他とはまるで違うメチャクチャ個性的なユータリアであって欲しかったな。
とはいえ、もし採れれば指が震えるのはもとより、間違いなく『エ~イドリア~ン❗』と絶叫すること明白なんだけどね。
                おしまい

 
 
追伸
マレッパイチモンジは拙ブログの発作的台湾蝶紀行の第48話『さらば、畜牧中心』と第55話『待ち人ちがい』にも言及があります。宜しければ読んでみてけろ。

(註1)マークフタオ Chraxes markii

近年、東ティモールで発見された新種のフタオチョウ。西ティモール(インドネシア側)でも産地が見つかったようだ。

アメブロの『南海の怪蝶』と題した記事はコチラ。

https://www.google.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12231087707.html#ampshare=https://ameblo.jp/iga72/entry-12231087707.html

記事にいかない場合は「蝶に魅せられた旅人 マークフタオ」で検索すれば辿り着くかと思います。

(註2)ホリシャイチモンジ♀
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

一見マレッパと斑紋は似ているが、翅の形が丸いので判別はそう難しくない。
因みに♀の別名はダイトウイチモンジ。これは当初は♂とは別種扱いだったからです。あまりにも見た目が違うので、気づかなかったみたい。
一応、♂の画像も添付しときましょう。

ホリシャイチモンジの採集記と解説は、アメブロの発作的台湾蝶紀行の第16話『王子様は黄金帯』と55話の『待ち人ちがい』にあります。

(註3)コウトウキシタアゲハ
(出展『原色台湾蝶類大図鑑』上♂、下♀)

フィリピン東部から台湾南部の島、蘭嶼(紅頭嶼)にかけて分布し、かけ離れてフィリピン南部パラワン島近くのCalandagan島にもいるようだ。
台湾では天然記念物に指定されており、採集は禁止になっている。値段が高かったのは、そのせいだろう。採集禁止前の標本は少ないから、自ずと値段も上がると云うわけだね。
因みに♂の下翅の黄色い部分は、傾けると真珠色に輝きます。

楽に書けると思ってたら、大間違い。
結局、苦労して書くはめになりもうした。
こんなシンドイ連載、いつ頓挫してもおかしかないよね。

〈追伸の追伸〉
どうも情報としては不充分だと思ったので、後日遂に内田春男さんの『常夏の島フォルモサは招く』を買ってしまった。マレッパイチモンジについて最も言及しているであろう文献だからである。

それで発生期など新たなる知見をいくつか得た(考えていたより、もっと発生期は遅いようだ)。
けど新知見を入れて書き直すとなると、全体のレイアウトがガタガタになる。下手すると、かなりのテコ入れが必要となり、文章がバラバラになりかねない。秩序というものは、一旦乱れると何であれ崩壊しやすいのだ。
ならば、これはこれで思考の経路として残しておき、新たに続編を書いた方が良いのではないかと考えた。そっちの方が、かえって早いし、楽なんじゃないかと思うんだよね。
というワケで、第8話はイナズマチョウじゃなくて(一応書き終わってます)、マレッパイチモンジの続編となる予定です。