台湾の蝶7 マレッパイチモンジ

  
     タテハチョウ科 その6

      第7話『幻の翡翠蝶』

 
 
ホリシャイチモンジ、スギタニイチモンジ、タカサゴイチモンジと順に台湾のLimbusa亜属(緑系イナズマチョウ)の蝶を紹介してきた。
だが、実を言うと台湾にはもう1種類、幻とも呼ばれるイナズマチョウが存在する。

【Euthalia malapana マレッパイチモンジ】
(出典『原色台湾産蝶類大図鑑』)

Euthalia malapana マレッパイチモンジだ。
この連載には自分が出会ったことがある蝶しか取り上げないつもりでいたが、今回は特別。
この蝶については、以前アメブロで『幻の翡翠蝶』と題して書いている。ならば、それを訂正加筆すれば文章を書くのは楽だと考えたのがキッカケだが、一番の理由はそこではない。台湾の蝶を語る上で、やはりマレッパイチモンジは外せないと判断したからだ。

マレッパイチモンジはマラッパイチモンジとも呼ばれており、そちらの方が正しいと云う向きもある。
なぜなら、白水隆 著『原色台湾産蝶類大図鑑』では「マラッパイチモンジ」となっているし、学名の小種名も「malapana」だからだ。
現況は両方が混在していて、誠にややこしい状況になっている。だが自分は、ここはあえて「マレッパイチモンジ」を和名として推していきたい。
その理由は以下のようなものだ。
この蝶、そもそも最初に発見された場所に因んで白水さんが学名も和名も名付けられた。図鑑にも「本種の種名及び和名は最初に発見された産地マラッパ(マレッパ)にもとづく。」と書いてある。
しかし、その最初に発見された地は「馬烈覇」と書いて「マレッパ」と読むのがどうやら通例のようなのだ。
ネットでググってもマレッパでしかヒットしなかったし、台湾で泊まってた宿のオーナー・ナベちゃんもマレッパとハッキリ発音しておった。
勝手な推測だが、たぶん白水先生が地名を聞き間違えたのではないかと勘ぐっている。図鑑の中のマラッパ(マレッパ)という件りのカッコ内は、記載したあとでマレッパが正しいと解ったから、そのような記述の仕方になったのではないだろうか?まあ、あくまで想像ですけど…。
とにかく、学名はそのままでいいとしても、場所がマラッパではなくマレッパなのだから、和名は「マレッパイチモンジ」とするのが正しいのではないかと思う。その方が齟齬がないから混乱は避けられる。それにマラッパはマレッパより発音しにくいし、真🎺ラッパみたいでダサい。稀ッパの方がまだ納得がいくわいな。
もう誰か偉いさんが号令出して、マレッパイチモンジで統一してくれよー(ToT)。
ついでに、これもややこしいから「~イチモンジ」は止めて、全部「マレッパイナズマ」とかイナズマに統一してくれよー(*ToT)。だって、タカサゴイチモンジやスギタニイチモンジ、ホリシャイチモンジもみんなイチモンジチョウやなくて、イナズマチョウの仲間やんかー(T△T)

(^ー^;Aいやはや、のっけから名前問題勃発で迷宮に迷い込みましたよ。でもマレッパと決めたことだし、この程度で済んで、ワタクシ、ε=( ̄。 ̄ )ホッとしてます、ハイ。

そういうワケで、今回は過去文をマラッパイチモンジから全部マレッパイチモンジに書き直してお送りいたします。
ではでは、ここからがアメブロの訂正加筆版です。
一応、背景を少し補足しておくと、この文章は2017年の春、大阪の昆虫展示即売会に行ったあとに書かれたものです。

  
 展示即売会では、マークフタオ(註1)に続き幻の翡翠蝶とも出会えた。
もちろん、実物を見るのは初めてだ。

【マレッパイチモンジ】
台湾特産のイナズマチョウ属、Limbusa亜属の蝶。
♂♀の斑紋は同型。一見ホリシャイチモンジ(註2)の♀に似るが、翅形が遥かに尖る事から区別は容易。前翅長50㎜(♀)。大きさはタカサゴイチモンジやスギタニイチモンジよりも一回り小さく、中型のタテハチョウの範疇に入る。
1957年7月に台湾中部のマレッパで得られた1♂1♀に基いて新種記載されたもので(白水・陳 1958)、原色台湾産蝶類大図鑑によると「中部地帯の高地帯のみに分布する稀種と思われ、食草・幼生期は勿論のこと、分布・発生期についても資料がなく詳細は不明。」とある。

それから約60年も経った今でも極めてこの蝶の情報は少ない。ネットで調べてみてもヒットする情報は数える程しかないのである。標本写真も数点しか見当たらず、しかも古いものばかりだ。生態写真に至っては、内田春男さんが撮られた一点のみしか見つからなかった。
その後、マレッパでの記録が有るのか無いのかも分からないし、唯一確実に産するといわれた石山溪も1999年の大地震による土砂崩れで谷が崩壊し、入山禁止になって久しい(崩壊が激し過ぎて、修復工事を断念したようだ)。

それでは、展示即売会で見つけたマレッパイチモンジの御登場と願おう。

上が♂で下が♀である。
結構、古そうな標本だ。Limbusa亜属特有の魅力がとうに失われている。この属の蝶は光の当たる角度など条件により色んな緑色に見えるのだ。
例えば、こんな感じです。

【Euthalia nara ナライナズマ♂】
(2016年 5月 Laos uodmxay)

一番綺麗に見える時は、こんな風かな。

(;^_^Aしまった。勢いで写真を添付したが、考えてみれば他にナライナズマの写真があまりない。
仕方がないので、女王に登場してもらおう。

【Euthalia patala パタライナズマ♀】
(2014年 4月 Laos oudmxay)

(2016年 5月 Laos uodmxay)

(2016年 4月 Thailand Changmai)

同じパタライナズマでも、ここまで違って見えるのである。謂わば、緑系イナズマは玉虫色の蝶なのだ。
でも、この渋キレイな翠色も、標本にしたら地味な黄土色になっちゃうんだけどね。

マレッパイチモンジの話に戻ろう。
並んだところは、こんな感じ。

Σ( ̄ロ ̄lll)ありゃま❗
表示はマラッパイチモンジってなっとるやないの。
そうかあ…、プロはマレッパじゃなくてマラッパなのね。だから、自分も当時はマラッパで統一していたやもしれぬ。
まあいい、前言撤回は無しだ。宣言したんだから、このままマレッパでいこう。

♂と♀の大きさの差は、思っていたほどない。
Limbusa亜属の蝶は♂よりも♀が断然大きい場合が多いのだが、たまたまこの♀が小さいだけなのかな?それとも、♂が大きい?

値段は♂が、Σ(゜Д゜)ビックリの95000円❗
♀は何とΣ( ̄ロ ̄lll)驚愕の180000円もする❗❗
因みに言っとくと、♂の上の25000円という表示はその上に並んでいたコウトウキシタアゲハ(註3)の値段である。ふ~ん、コウトウキシタって結構するのネ。台湾産だからかな?

9万5千円と18万円かあ…。
♂1頭だけでも新種マークフタオの♂♀ペアの9万円よりも高いじゃないか。それだけ貴重なモノって事なのか❓

店主の方と話をしてみると、もう10年以上も採集記録が無いそうだ。なるほど、標本が古びているのも頷ける。

重ねて尋ねてみる。
『石山溪は入れなくなったから、そこからの標本の供給は無いにしても、マレッパからは入ってこないんですか?』
『あっ、あれね。最初にマレッパで得られたというモノは、本当はマレッパで採られたものじゃないようだよ。マレッパの標本商(採り子)から買ったから、マレッパで採れたものだとばかり思い込んだんじゃないかなあ。実際、その原記載の標本以外はマレッパからの記録は無いからネ。あの辺の採り子は、ひと山向こうにある石山溪にも足を伸ばしていた筈だから、多分そこのでしょ。』

となると、10年どころかもっと前から採集記録が無いって事じゃないか…。石山溪が崩壊したのが18年前なのだ。ならば当然、大珍品扱いになってても可笑しかない。値段がバカ高いのも納得だよ。
そういえば水沼さんが『マーキー(マークフタオの事)は、これからどんどん値が下がるよ。』と言ってたなあ…。供給が増えれば値が下がってゆくのは経済の常識だもんネ。その逆に、供給が全くなくなったマレッパイチモンジの値段が高くなるというのも道理だね。この値段からすると、どうみても台湾最稀種の蝶だろう。

それにしても、石山溪以外にはマレッパイチモンジはいないのかな?
この間(2016年)の初の台湾採集行で、タカサゴイチモンジ、スギタニイチモンジ、ホリシャイチモンジ、イナズマチョウ、オスアカミスジが採れたから、マレッパさえ採れれば台湾のイナズマチョウのコンプリートになるんだけどなあ…。是非とも、マレッパイチモンジの生きてる実物がどんな翠色をしているのかをこの目で見てみたいだすよ。
石山溪の隣の谷とか反対側の谷にいてもおかしくないと思うんだけど、どうなのかな?
でも、石山溪以外の産地を聞いたことがないぞ。
ならば、ワシが探したるぅー。ムキーッ(#`皿´)

勇む心で地図を探してきて確認してみる。
あちゃー(>o<“)、ダメだこりゃ。
下流の谷関から上流の梨山までの道がズタズタに寸断されているじゃないか。シッカリ全面通行禁止になっている。これじゃ石山渓に入るどころか、隣の谷の入口にだって辿り着けやしない。尾根を越えた反対側には、どうやら道が通っていない。

マレッパイチモンジ…。
完全に幻の翡翠蝶だわさ。

 
 手直しはしているが、ここまでと追伸がアメブロに書いたおおよその文章だ。
あれから以降の新しい知見もあるので、もうちよっと書き足そう。
おっ、そうだ。その前に台湾のサイトでマレッパの台湾名を調べておきませう。

台湾名は、馬拉巴翠蛺蝶。
他に馬拉巴綠一文字蝶、仁愛綠蛺蝶、眉原綠一字蝶、仁愛翠蛺蝶、馬拉巴綠蛺蝶などの別称もある。

ヘ(__ヘ)☆\(^^;)≡3≡3≡3
🎵ちょと待て🎵ちょと待て、オニーサン。
おいおい、漢字は馬烈覇と書くんじゃなくて「馬拉巴」なのかよ(◎-◎;)❓
そっかあ…、発音がマラッパならば、当然ながら漢字は馬烈覇じゃなくて「馬拉巴」みたくになるよなあ。
名前問題は一応解決したと思ってたら、ここにきて再び迷宮に放り込まれた。ヽ(ToT)ノ奈落~。
いらんとこホジクリ返して、ちゅどーん💣💥❗地雷爆発やんけー。いっそ、また全部マラッパに戻すか?

いやいや待ちなはれ。単にマラッパの宛字やもしれぬ。
「馬拉巴」でググる。

ありゃま( ゜o゜)、馬拉巴栗ちゅーのんしか出てこんぞ。🌰栗ばっかしゃ。地名、村名では一つも見つからない。
むにゃあ~┐(‘~`;)┌、もうこれは問題提起としておいて、このままマレッパイチモンジにしておこう。
で、アメブロの方はマラッパイチモンジの儘で放置じゃ。
ε=ε=┏(・_・)┛迷宮から逃亡させて戴きやす。

気を取り直して、前へ進もう。
そのサイトからは比較的新しい標本写真も見つけた。

(出典『DearLep 圖録検索』)

(≧∀≦)渋いねぇ~。
やはり鮮度が良いものの方がよろしおす。

情報は少ないが、生態と食餌植物をわかる範囲で書きとめておこう。

【生態】
『原色台湾産蝶類大図鑑』には、「中部地方の高地帯にのみ分布する。」とあった。しかし、標本画像を拝借したサイトでは中海抜の常緑広葉樹林帯、杉坂美典氏の「台湾の蝶」には標高1000~1500mの常緑広葉樹林周辺に棲息するとあった。
おそらく図鑑の高地帯にのみ分布するというのは間違いで、中高山地とするのが妥当だろう。垂直分布はスギタニイチモンジと同じようなものだと推測される。

問題は生息地域だ。杉坂さんの種解説には、台湾中部の他に東部も指定されている。
えっ!?、東部って何処よ❓太魯閣渓谷辺りでも記録があるのかな?
自分の知りうる限りの産地は、もしマレッパがフェイクならば、石山渓しかない。他に産地があるとするなら、そこから採れてる筈じゃないの❓
でも噂にものぼらない。ホントに東部にいるのかね?

と、ここまで書いて、またもやいらぬ事に気づいてしまう。
たしか台湾の蝶研究に多大なる功績を残された内田春男さんの名著『ランタナの花咲く中を行く』のコピーがあったことを思い出した。そこにマレッパイチモンジの事が書いてあったような記憶がある。

あっ、内田さんの本ではマラッパイチモンジではなく、「マレッパイチモンジ」で統一されている。地名もマレッパだ。
内田さんは何度も台湾を訪れており、いや、そもそも元々は台湾で教師かなんかされてた筈だ。地名を読み間違えるとは考えにくい。それに比べて白水さんは九州大学の先生だし、頻繁に台湾を訪れていたとは思えない。地名はマレッパが正しかろう。

Σ( ̄ロ ̄lll)あれれー。
そこにはマレッパにはマレッパイチモンジが生息しているような事を書いておられるぞー。
但し、内田氏ご自身はマレッパにも行っておられないし、直接その眼で観察もされていない(当時は外国人の入域は禁止だった。もしかしたら、今でもかも…)。
だから、微妙ではあるんだよね。
しかも、別の場所で出会った若者が翠峰で1日で5頭も採ったというエピソードまで添えられていた。
何と翠峰にもいるのかっΣ( ̄皿 ̄;;❗❗
翠峰といえばマレッパの東南側だが、バスで行けるとこやんけ❗訪れる日本人蝶屋も多い有名な場所だ。それでもマレッパイチモンジが再発見がされてないって、どゆことー❓
う~ん、これも所詮は内田さんが聞いただけの話であって、その真偽のほどは霧の中だ。採った実物を見せてもらったとは一切書いていないのだ。もしかしたらアホな若造で、ホリシャイチモンジやスギタニイチモンジと間違えてた可能性だって無きにしもあらずだ。
クソー、またしても泥沼の迷宮で彷徨(さまよ)う事になろうとは…。しくしく(ToT)

そういえば第2巻の『常夏の島フォルモサは招く』には、マレッパイチモンジの採集観察記があった筈なんだよね。でも、残念ながらまだ一度もその中身を見たことがない。閲覧できるところを探したけど、近畿の大きな図書館にも無かったのだ。古書を探して買うと云う手もあるけど、だいたい1万円以上はするから貧乏人にはキツい。
ε=ε=┏(・_・)┛再び迷宮から逃亡いたします。

めげずに粛々と前へと話を進めていこう。

成虫の基本的な生態は、他の緑系イナズマと変わらないようだ。飛翔は敏速、♂♀ともに好んで腐果、樹液、獸糞に集まるという。

年1回の発生で、杉坂さんのブログによれば、発生期は7~10月とあった。しかし、6月にも記録はあった筈だから、これは6~10月とするのが正しいかと思う。原記載されたタイプ標本の採集月日が♂♀ともに7月1日だし、普通♀は♂より発生が数日から一週間くらい遅れる筈だから、♂は少なくとも6月中下旬には発生しているだろう。

【幼虫の食餌植物】
稀種だけに未知であろうと思っていたが、何とござったよ。
捲斗櫟 Quercus pachyloma
これは、どうやら日本にもあるツクバネガシの事のようだ。おそらく他のカシ類も食すると考えられる。
いや、或いはこの植物しか餌とならないので、数が極めて少ないのかもしれない。

とにかくマレッパイチモンジは今や大珍品で、みね子さんのお話によると(マレッパを売っていた標本商の奥様だと思う)、台湾の博物館からも標本の問い合わせがあったという。
つまりこれは台湾国内でも極めて標本の数が少なく、近年全く採れていないという事の証左にはなるまいか。
もし採れたら、ヒーローやんけ( ☆∀☆)
マジで採りに行ったろかいな。
でも、台湾って崖崩れがやたらと多いんだよなあ…。♂の完品の時期は6月だろうから、梅雨が明けていなかったら危険極まりない。行くなら7月だろね。けど、イナズマチョウは♂より♀の方が採集の難易度が圧倒的に高いんだよなあ。まあ、引きだけは強いから何とかなるか(笑)

でもさあ…、再発見と云う浪漫はあるんだけど、ホント言うと見てくれ自体にはあまり魅力を感じてないんだよね。
なぜなら、大陸に似たようなもんが結構いるんである。『原色台湾産蝶類大図鑑』にも、「本種は色彩斑紋ともに中部~西部支那(中国中部~西部)より知られる Euthalia pratti Leechに酷似し、それに最も近縁なものと考えられる。」と書いてあった。

気になるので、一応その E.pratti なるものがどんかもんか確認しとくか。

調べたが、あまり画像は無かった。

【Euthalia pratti】
(出典『m.eBay.com 』)

なあ~んだ、もっとソックリかと思いきや、それほどでもない。斑紋パターンは同じではあるが、紋が明らかに小さい。想像では、スギタニイチモンジみたいに大陸のものとは素人には見分けがつかないものに違いないと考えていたのだ。
それにしても紋が小さくて地味だなあ…。
分布は四川、雲南、淅江、湖南、湖北、広東、福建とあった。結構広い分布範囲だ。という事は亜種も複数いるに違いない。マレッパにソックリなのもいるかもしれない。

でもさ、亜種とかの画像が見つからないんだよねぇ…。
あー、これって又もや迷宮パターンじゃないか。
(|| ゜Д゜)ヤバい、もうズブスブにはなりたくない。

おっと、生態写真が見つかったよん🎵
これって多分、『発作的台湾蝶紀行』の中で1回使わさせて戴いた画像だぞ。

(出典『互劫百科』)

美しいねぇ。斑紋が少ないゆえ翠色が目立つ。
生きてる時は、斑紋が無いゆえに美しく見えるとは盲点じやったよ。

さらに探すと、新たな画像が見つかった。

【Euthalia pratti occidentalis】

(出典『yutaka.it-n.jp』)

どうやら北ベトナムの亜種のようだ。上ふたつが♂で、下ふたつが♀である。
コチラは紋がシッカリあってマレッパに似ている。
しかし、両者は分布的には遠いよね。

待て待て待てーい。Limbusa亜属の権威、横地隆さんの論文では、Euthalia occidentalis としていて別種扱いになってるぞ。
あー\(◎o◎)/、迷宮じゃよ~。
でも、今回はマレッパイチモンジが主役なのだ。わざわざ E.pratti に深入りすることもあるまいて。無視、無視。

手持ちの資料、増井暁夫・上原二郎『ラオスで最近採集された蝶(9)』にも、種は違うが似たようなものが幾つかあった。

【Euthalia confucius】

上が♂で下が♀である。
中国中西部からミャンマー北部にかけて分布。

【Euthalia pacifica♀】

ラオス・サムヌア産。かつては E.nara の亜種と考えられていた。

【Euthalia sahadeva♀】

ネパールから北タイ、ラオス北部、中国南部にかけての分布が知られる。
♂ほホリシャイチモンジの♀にソックリで、かつては両種は同種扱いとされていた。

【Euthalia omeia♀】

ラオス・サムヌア産。nara種群としては中国寄りの分布。

【Euthalia nara♀】

野外写真の一番上のナライナズマの♀だ。
分布はネパールからベトナム北部まで。

【Euthalia khambounei】

基産地はラオス・サムヌアで、北ベトナムからも知られる。

【Euthalia hebe♀】

サムヌア産。中国湖北省長陽を基産地とするが、他の地域からの報告は少ない。♂はスギタニイチモンジに似ている(以上いずれも出典は『月刊むし No.403,Sept.2004』)。

この斑紋系統のミドリイナズマの中ならば、野外写真を添付したパタライナズマが最高峰でしょう。
なんてったって、Limbusa亜属最大種なのだ。貫禄が違う。

【Euthalia patala パタライナズマ♀】

【パタライナズマ♂】

上ふたつが♀で、3番目が♂だ。
♂♀同型だが、♀の方が大型で前翅の帯が白い。一方♂は帯が黄色いことで区別できる。
言い忘れたが、マレッパイチモンジも♂♀の見分け方は同じである。

画像の撮り方があまりよろしくないが、西日本のオオムラサキ♂と翅の表面積は同じくらいだろう。♀に至ってはオオムラサキ♂よりも羽の表面積は広いかもしれない。

つまり、これを何頭も採ってると思うと、モチベーションが今一つ上がらないというワケなのだ。
マレッパイチモンジには、もっと特異で他とはまるで違うメチャクチャ個性的なユータリアであって欲しかったな。
とはいえ、もし採れれば指が震えるのはもとより、間違いなく『エ~イドリア~ン❗』と絶叫すること明白なんだけどね。
                おしまい

 
 
追伸
マレッパイチモンジは拙ブログの発作的台湾蝶紀行の第48話『さらば、畜牧中心』と第55話『待ち人ちがい』にも言及があります。宜しければ読んでみてけろ。

(註1)マークフタオ Chraxes markii

近年、東ティモールで発見された新種のフタオチョウ。西ティモール(インドネシア側)でも産地が見つかったようだ。

アメブロの『南海の怪蝶』と題した記事はコチラ。

https://www.google.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12231087707.html#ampshare=https://ameblo.jp/iga72/entry-12231087707.html

記事にいかない場合は「蝶に魅せられた旅人 マークフタオ」で検索すれば辿り着くかと思います。

(註2)ホリシャイチモンジ♀
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

一見マレッパと斑紋は似ているが、翅の形が丸いので判別はそう難しくない。
因みに♀の別名はダイトウイチモンジ。これは当初は♂とは別種扱いだったからです。あまりにも見た目が違うので、気づかなかったみたい。
一応、♂の画像も添付しときましょう。

ホリシャイチモンジの採集記と解説は、アメブロの発作的台湾蝶紀行の第16話『王子様は黄金帯』と55話の『待ち人ちがい』にあります。

(註3)コウトウキシタアゲハ
(出展『原色台湾蝶類大図鑑』上♂、下♀)

フィリピン東部から台湾南部の島、蘭嶼(紅頭嶼)にかけて分布し、かけ離れてフィリピン南部パラワン島近くのCalandagan島にもいるようだ。
台湾では天然記念物に指定されており、採集は禁止になっている。値段が高かったのは、そのせいだろう。採集禁止前の標本は少ないから、自ずと値段も上がると云うわけだね。
因みに♂の下翅の黄色い部分は、傾けると真珠色に輝きます。

楽に書けると思ってたら、大間違い。
結局、苦労して書くはめになりもうした。
こんなシンドイ連載、いつ頓挫してもおかしかないよね。

〈追伸の追伸〉
どうも情報としては不充分だと思ったので、後日遂に内田春男さんの『常夏の島フォルモサは招く』を買ってしまった。マレッパイチモンジについて最も言及しているであろう文献だからである。

それで発生期など新たなる知見をいくつか得た(考えていたより、もっと発生期は遅いようだ)。
けど新知見を入れて書き直すとなると、全体のレイアウトがガタガタになる。下手すると、かなりのテコ入れが必要となり、文章がバラバラになりかねない。秩序というものは、一旦乱れると何であれ崩壊しやすいのだ。
ならば、これはこれで思考の経路として残しておき、新たに続編を書いた方が良いのではないかと考えた。そっちの方が、かえって早いし、楽なんじゃないかと思うんだよね。
というワケで、第8話はイナズマチョウじゃなくて(一応書き終わってます)、マレッパイチモンジの続編となる予定です。