奄美迷走物語 其の十

 
第10話『メリーゴーランドは回り続ける』

 
2021年 3月27日

夜は天気が悪かったが、朝になると再び晴れだした。
誤算続きだが、それだけがまだしもの救いだ。

連日通った根瀬部に行くか、それとも朝からあかざき公園に行くか迷ったが、あかざき公園を選択した。
理由の第一は、根瀬部でフタオチョウを狙っても網が届かない事を痛いほどに知らしめられたからだ。今のところ、それに対する打開策もない。となれば、行っても結果はまた同じで、返り討ちになりかねないと判断したのだ。
と言っても、あかざき公園のフタオのポイントは知らない。知らないが、樹高は根瀬部よりも比較的低い。ゆえにポイントを探しあてれば、何とかなるんじゃないかと考えたのだ。

 
【フタオチョウ 夏型♀】

 
第二の理由は、昨日あかざき公園でアカボシゴマダラを見たからだ。根瀬部では見ていないから、まだ発生していない可能性がある。つまり、あかざき公園ではフタオとアカボシの両方を見ているだけに、2種類とも採れるチャンスがあるのではないかと考えたのだ。

 
【アカボシゴマダラ 夏型♀】

 
第三の理由は、あかざき公園にはイワカワシジミの食樹が沢山ある。なのでフタオを早々とゲットできれば、素早くそっちの探索に切り替えられると思ったのだ。この2種が落とせれば、あとは一番難易度が低いアカボシだ。夕方に占有活動をとるから、それに会えさえすれば何とかなる。あかざき公園のアカボシは何度も採っているので、ワシの網でも届く場所を知っているのだ。判断が置きにいってるきらいもあるが、決めたならば突き進むしかなかろう。3種類とも採れれば、走者一掃の逆転スリーベースだ。今までの誤算と失態を全てチャラにできる。俺なら、それが出来る❗キャシャーンがやらねば誰がやる❗

 
【イワカワシジミ】

 
今回の旅では、朝からあかざき公園に来るのは初めてだ。
意外にもアマミカラスアゲハが結構いる。

 
【アマミカラスアゲハ 春型♀】

 
道路沿いが蝶道になっており、飛ぶ高さも低い。取り敢えず♂でもいいから採りたいという人には、お薦めの場所かもしれない。
けれどもミカンの花は見た限りではないから、♀を採るのは難しいかもしれない。ちなみにアゲハ類が好きなツツジの花は一部で沢山咲いている。しかし吸蜜に訪れたものは雌雄ともに一つも見ていない。但し、ずっと花場で張っていたワケではないから偶然見かけなかっただけなのかもしれない。ゆえにコレに関しては情報を鵜呑みにはなさらぬように。

取り敢えず、道路の一番奥まで行ってみた。ここまで入ったのは初めてだ。実を言うと、秋に来た時には直ぐにアカボシのポイントが見つかったので、ポイントを探して公園全部を隈なく歩いてはいない。

 

 
やっぱ、奄美の海はキレイだ。
たぶん半島の左側の集落が知名瀬で、山の向こう側が根瀬部だろう。
海の手前の林縁の連なりを暫し見渡す。いかにもフタオやアカボシがいそうな環境に見えたからだ。ここなら見渡しが良いから、ワシの千里眼ならば居ればすぐにワカル。段々ヤル気が出てきたよ。本気になれば、新たなポイントも見つかるだろう。

しかし、30分くらい居たけど姿なし。仕方なく他を探すことにする。(・o・)何で❓ 結構、ポイントを読む能力には自信あったのになあ…。どうやら完全に迷路の住人だ。足元の砂が波に崩れてゆくような感じだ。徐々に自信と時間が削り取られてゆく。

 

 
そういやレンタルバイクの写真を1枚も撮ってないなあ。
そう思って、今更ながらに撮る。ようするにヒマなのである。フタオもアカボシもイワカワも1つもおらん。

 

 
思うに、この赤いメットが全ての元凶なのかもしれない。以前は名瀬でレンタルバイクを借りていたのだが、その時にいつもカブっていたメットが験担ぎ(げんかつぎ)のアイテムみたいになっていた。

 

 
(-_-メ)ワリャ、シバキ倒すぞ❗
である。

 

 
この💀ドクロマークが気にいってて、当時は何かパワーの源みたいになっていたのだ。謂わば気合い注入装置みたいなもので、これをカブると心にビシッとキックが入ったのだ。でもって、バンバンに蝶が採れたのである。
だが、そのレンタルバイク屋は廃業したから、今や借りたくとも借りられない。べつにモノに頼って採集しているワケではないけれど、ある程度はモノや物事には依拠はする。自分の心を強化するために使えるものは何でも使う主義なのだ。前向きになれる材料を積極的に取り込まなくては、弱い人間は簡単に心が折れかねないのだ。
世の中には、本当の意味で強い人間は存在しない。いるのは、弱い人間と強い振りができる弱い人間だけだ。

今まで気にも止めていなかったが、ふと見るとナンバープレートが可愛い。なので、つい写真を撮ってしまう。

 

 
デザインにアマミノクロウサギとヒカゲヘゴがあしらわれている。そして下側には「世界自然遺産へGo!!」の文字がある。
そういや、宿のオジーが「島では、十年ほど前から毎年のように世界遺産、世界遺産と騒いでいるが、もはや何も期待していない」云々みたいなことを言ってたな。
その後、大阪に帰ってから奄美大島と徳之島、沖縄本島北部が世界自然遺産に7月に選定されることが5月にほぼ確実になった。喜ばしい事ではあるが、観光客がドッと押し寄せて来て、かえって自然破壊が進まないことを祈ろう。
そして正式決定すれば、どうせ採集禁止種や禁止区域がまた増えるんだろね。そのくせリゾートホテルの建設とかは野放しで、平気でバンバンに木を伐って、ポコポコ建ちそうだけどさ。所詮、世界遺産も経済の発展を目論んでのもので、それ無くしては推進されない面があるのだ。嘆かわしいが、金儲けが全てにおいて優先されるのが現代社会なのである。
エコとかも、所詮は金儲けの手段にすぎないと思ってる。ヤシの実洗剤やヤシの実石鹸のせいで、どれだけの貴重な森が伐採されてパーム椰子(アブラヤシ)畑に変えられた事か。今や東南アジアは何処もパームとゴムの木だらけだ。何が「手肌と地球に優しい」だ。偽善じゃないか。正義の御旗を偉そうに振る奴にロクな者はいない。

結局、探しあてられずに慰霊塔へ行く。

 

 
でも、見せ場なしのノールック、ノーチャンス。
結局、フタオ、アカボシ、イワカワのどれ1つとさえ見ること叶わなかった。見もしないものを採れるワケがない。
だとしても、何が「キャシャーンがやらねば誰がやる❗」だ。ちゃんちゃらオカピーだ。偉そうに啖呵(タンカ)切っといて、結果がコレかよ。
(;_:)あー、もう何をどうしたらいいのかワカンナイや。
まるで同じところを延々と回り続けるメリーゴーランドの馬に乗ってるような気分だ。何処にも行けないし、何処にも辿り着けない。

                         つづく

 
追伸

話は尚も続く。
ネットの天気予報の全てが夜からは雨マークだったので、今宵も夜間採集には出ないことにした。たとえ雨じゃなくとも、どうせ多くは望めない。こんな体たらくだと、さらなる返り討ちにあって、益々惨めな気分にさせられるだけだ。

今朝にはラーメン大好き小池くんも東京に帰ってしまったし、ゲストハウス涼風には誰も今夜も遊びに来ない。連日のパーリーがウソだったんじゃないかと云うくらいの落差だ。
それでも昨日よりかはマシか…。入れ替わりに、新しく東京から来た医大生と二人組の若者が増えた。何れも虫屋である。医大生のSくんに、若者2人が興奮していた。虫屋でツイッターをしている者ならは、誰でも知ってる有名人らしい。そうゆうSくんも、ブログやFacebookでワシのことを知っていたので驚いた。まあまあワシも有名らしい。ホンマかいな❓
若者2人は最近になってツイッターで知り合い、それぞれ大阪と東京に住んでいるのにも拘らず、奄美大島に一緒に来たという。意気投合したのだろうが、ネット上で知り合って、しかもまだ日が浅いのによく二人で旅行なんて出来るよな。知らない人がネット上でワシのことを知っているという事も含めて、オジサンには考えられない世界だ。時代は虫屋の世界でも急速に変貌しつつあるのだ。
ちなみに医大生は蝶屋、若者2人は甲虫屋で、大阪の子がカブトムシとクワガタ好きの所謂(いわゆる)カブクワ屋。東京の子は驚きの「ドロムシ屋(註1)」だった。あっ、ドロムシ云々は間違ってたらゴメン。たぶんそれであってる筈だけど、あまりにも興味がなかったゆえ、テキトーにしか話を聞いていなかったから断言はできない。それでも水溜まりとかにいる極小の甲虫だと言ってた覚えがあるので、ドロムシ&ヒメドロムシハンターであってると思う。

それはさておき、若いのにいきなりマイナーな虫から入るってのも驚きだ。通常は蝶とかカブクワとかカミキリムシなどのメジャーな虫から入って、徐々にマイナーな虫へと興味の対象が移行してゆくものだからね。小太郎くんから、最近はそうゆう若い子が増えていて、知識量も相当あるとは聞いてはいたが、ホントだったんだね。そういや、医大生くんはドロムシの話に全然ついていけてたな。小太郎くんもそうだけど、若い子はオールラウンダーが多いのかもしれない。だとしたら、ポテンシャルは高い。

若者二人組が唐揚げ(何の唐揚げだったかは忘れた。或いは天ぷらだったかもしれない)を作り始めた。でも料理作りに慣れていないせいか、見てらんないくらいの出鱈目っぷりだった。本人たちからすれば上手くいったみたいだが、オラからすれば、どうみても失敗作だ。
かなり酔っ払っていたが、それを見て若者たちに美味いもんを食わせてやろうとカッコつけたのがいけなかった。ここで、この日最後にして最大の誤算が起こる。
タコに軽く火を入れて霜降りの半生状態にしようと思い、酒と水とでサッとボイルした。それをザルにあけて冷水で冷やすために鍋をシンクに素早く移動させようとイキってノールックで振り返った時だった。

💥( ゚∀゚)o彡ガッシャーン❗

あいだにあった洗い物の山にガーンと鍋がぶつかって、その勢いで熱湯が大きくハネて、ワシの胸に思いきしかかったのだ。
酔っ払ってるので、そんなに熱くは感じなかったが、一応洗面所に行って水で冷やした。
しかし時間が経つにつれてジンジンと痛みだした。それでも酔っ払ってるので、その時はたいした事ないだろうと思ってた。でも翌朝みたら、『北斗の拳』のケンシロウみたく左胸の上から右胸の下にかけて、斜めザックリに大きな火傷キズができてた。
誤算のドミノ倒し、ここに極まれり。まさか自分が奄美大島に来て火傷を負うとはミジンコほどにも思ってなかったよ。目的の蝶が採れないのも全くもって想定外ではあったが、大きな枠組からみれば想定内ではある。天気がずっと悪かったとか、網がブッ壊れただとかのアクシデントは、パーセンテージとしては低いものの、充分あり得るからね。でも火傷するなんてウルトラ想定外の大誤算だ。又しても誤算続きの一日で、最後の最後にはコレかよ❓
(ㆁωㆁ)白目、剥きそうやわ。
迷走と誤算のループは、リインカネーションのように負のエネルギーを再生し続けている。

                     つづくのつづく

 
一応、その時の料理の画像を貼っつけておく。

 
【蛸の霜降り ニラ醤油漬け】

 
勿論、若者たちには好評であった。
しかし、今となっては細かい記憶が曖昧だ。
ニラはスーパーで2束60円くらいで売ってたものだ。それは憶えているのだが、酔っ払ってたせいか肝心の料理のレシピが思い出せない。火傷したんだから、流石にタコを霜降りにしたのは憶えてる。問題は味付けだ。ワシが醤油だけで味付けするなんて事は有り得ないから、酒とか味醂を入れたのだろう。或いは冷蔵庫にあった袋入りの何かのタレ的なものを使って醤油と混ぜて調整したのかもしれない。
あと、画像を見ると上に香辛料らしきものが乗っている。コレの正体もワカラン。全く記憶にないのだ。色からして生姜や辛子ではない。となると柚子胡椒か山葵だろう。
まあ、若者二人は喜んでくれたし、自分の記憶でも旨かったという事だけは残ってるから、まっいっか。
 
今回もカタルシスがなくて、誠に申し訳ない。特に今回は何ら盛り上がるシーンもなかったから、尚のこと読み手側はツマランかっただろう。ホンマ、すいませんm(_ _)m
しかし事実であってフィクションではないんだから、仕方がないのである。

 
(註1)ドロムシ屋
ドロムシとは、ドロムシ科とヒメドロムシ科に属する甲虫の総称。世界各地に分布し、一部を除き水生で、夜間に活動する。日本にはドロムシ科が3種、ヒメドロムシ科が45種前後産することが知られている。

 
【ムナビロツヤヒメドロムシ】

(出展『mongoriz‐2のブログ』)

 
極小昆虫だ。下に方眼紙が敷いてあるので、如何に小さいかがよくわかりますな。敬意を込めて言うが、こんなの採るなんて変態だ。裏を返すとスゴい事だと思う。探すの大変そうだもんね。とてもじゃないが、自分には真似できない。
で、そのドロムシやらヒメドロムシの愛好家のことを「ドロムシ屋」と呼ぶ。虫好きの間では、この「〜屋」という言葉がしばしば用いられ、各ジャンルのマニアの称号として後ろに付けられる。例えばワシならば「蝶屋」だ。つまり蛾好きなら「蛾屋」、カミキリムシ好きなら「カミキリ屋」、カブトムシ&クワガタ好きならば「カブクワ屋」ってワケだすな。

冒頭の説明では簡素すぎるし、ちょっと興味が湧いたので、もう少し調べてみることにした。

ネットの『山陰のヒメドロムシ図鑑』によると、以下のように書いてあった。
「分類上はコウチュウ目のヒメドロムシ科・ドロムシ科に属しています.体長1-5mmほどの小さな甲虫です.川の底にすんでいて,石や流木などに,鋭いツメでつかまっています.呼吸は水中の酸素を直接取り込むとされています.外見からはあまり水生昆虫らしく見えませんが,高度な呼吸方法を持っている昆虫なのです.山陰の川にはたくさんのヒメドロムシがすんでいますが,あまりに小さいため,これまでほとんど注目されていませんでした.さらに調査を行えば,きっとたくさんの発見をすることができるでしょう.」

高度な呼吸法について補足すると、この類は一般に体の下面に微毛が密生し、そこに蓄えられた空気の薄い層が気門と連なることによって水中で呼吸が可能なんだそうだ。なので水底にある石に付着したり、砂中に潜っていることができるんだとさ。尚、幼虫も同じく水生である。

いずれも10ミリメートル以下の小さな甲虫で、殆んどの種が長めの楕円形から細長い形であるが、卵円形のものもいる。殆んどの種が暗色だが、淡色紋を有するものや全体が明るい褐色のものもいる。肢は細長いが、ツメは大きく発達し、岩などに掴まるのに適している。触角は多くは糸状であるが、一部の種、特にドロムシ科では太くて短く、棍棒状をなす。

ドロムシ・ヒメドロ類を採集するには大きく二つの方法があるそうだ。一つは灯火採集法(ライト・トラップ)。多くの種が灯りに集まる習性があるので、それを利用するというワケだね。
しかし灯りには来ない種もいるから、そういう種は川から直接採集する。謂わば正攻法ですな。これが2つ目の採集方法。
成虫は川底の石などにくっ付いているから、川底を撹拌してやると体が浮き上がって下流へと流されてゆく。しかし鋭いツメを持っているので、すぐさま石や流木などに掴まることができる。その直ぐモノに掴まる習性を利用して、流れ下るのを底に穴をあけた目の細かなネットや手ぬぐいなどの白布を使ってキャッチするんだとさ。
ふ〜んである。世の中には色んな虫がいて、それを工夫して採られている方もいるんだね。

余談だが、以前は奄美のムナビロツヤヒメドロムシは別亜種とされてきたが、近年になって別種として分けられ(Jung&Bae 2014)、「リュウキュウムナビロツヤヒメドロムシ」という新たな和名が付けられている。東京のドロムシ屋の子は、たぶんコレを採りに来たんだろね。
それにしても、クソ長い名前だよなあ。なんと数えたら16文字もあったわい。亜種から別種に昇格したゆえ、やむなしなところはあるが、もちっとネーミングに工夫があってもいいんじゃないかと言いたくなる。このクソ長い和名問題は他にも多数あるから、そうゆうのを見るたびに軽い苛立ちを感じるよ。虫屋って全体的にセンス悪い人が多いんじゃないかと勘ぐりたくもなる。まあ、子供の名前も同じようなものだから、虫屋だけじゃないんだろうけどさ。

 

奄美迷走物語 其の2

 
 第2話『沈鬱の名瀬』 後編

 
何となく物事が上手く流れてないなと感じながら店の外に出た。明日は朝仁に移動しなければならないので、取り敢えずはバスの停留所を探しに行く。
けれども郵便局前のバス停が見つからない。地元の人に声をかけて教えてもらったところは確かにバス停ではあったが、朝仁方面ゆきのバスが無いのだ。ワケわかんねー(´-﹏-`;)
なので明日泊まる宿にLINEで訊いてみた。けれど直ぐには返答がない。仕方なく今日の宿に向かって歩く。途中の入舟町が次のバス停であろうから、道すがら探せばいいだろう。

バス停を何とか見つけたところでLINEが入った。近いから明日は名瀬まで迎えに来てくれるという。✌️(•‿•)ラッキー。流れがよくなってきたんじゃないのー。

 

 
「グリーンストア」の前まで来た。
ここは24時間スーパーで、宿からも近いから随分と世話になった。よく酔っ払った帰りに寄って無駄に惣菜とか買って帰ってたよなあ…。

 

 
「旅館 あづま家」。
より色褪せたような気がするが、見覚えのある景観だ。そうそう、周囲の民家と同化してるから見落としそうになるんだったわさ。横の釣具屋の方に、つい目がいっちゃうんだよね。2011年は奄美に船で着いてからの宿探しだったから、ネットで探して電話で場所を聞いたんだけど、もしも釣具屋が目印だと聞かされていなかったら絶対見落としてたと思う。

 

この入口も懐かしい。完全に普通の民家なのだ。

中で宿の婆さんと話す。
今日の客はオラだけみたい。コロナの影響で客は激減したという。宿代は素泊まり2500円の激安だから、前は長期滞在の工事関係の人なんかも結構泊まってた。けれど公共事業も激減しているらしく、コロナとのダブルパンチで客足はサッパリだという。そんなワケだから、息子には早く宿を畳めと言われているとオバアはとつとつ喋る。
何だか悲しくなってくる。次に奄美に来た時には、きっと廃業しちゃってるんだろなあ…。こんなところにまでコロナの影響が及んでるんだね。ホント、コロナ憎しである。
 
渡された鍵は209号室だった。鍵に何となく見覚えがある。
ここは2階が客室になっており、共用の冷蔵庫なんかもあって何かと便利なんだよね。

 

 
部屋には完全に見覚えがあった。
たぶん一番最初の採集行の時には、この部屋に長期間泊まっていたのだ。

 

 
この押し入れもハッキリと記憶がある。
持ち帰ったクチナシの実をタッパーに入れて此処に置いといたら、翌日には美しいイワカワシジミ(註1)が羽化していたのだ。

 
【イワカワシジミ Artipe eryx ♂】

(2011.9.19 奄美大島)

 

(左下の個体はインドシナ半島のもので、他はたぶん日本産)

 
取り敢えず、そのイワカワシジミを探しに行くことにする。
天気は悪くともイワカワだったら採れる可能性がある。食樹であるクチナシの木に止まっていることが多いからね。それにクチナシの実があれば、蛹や幼虫が入っているものがあるかもしれないし、卵が産んであるものだって見つかるかもしれない。

 
【クチナシの実と卵】

 
【幼虫の開けた穿孔跡のある実】

 
だが、丹念に見るも姿無し。
実もどれも黄色く変色してしまっていて、どうみても既に成虫が羽化した後のものだ。しかも時間がだいぶ経っている古いモノのように見える。
最後に民家のクチナシの大木を見に行く。2011年、そこでイワカワの蛹が入っている実を沢山採ったんだよね。そういや家のオジーとオバーがとても親切で、有難いことにわざわざ高枝切り鋏を持ってきて、指定した枝をジャンジャン切り落としてくれたんだよね。

だが、此処も全く姿なし。蛹や幼虫が入っていそうな実は1つも無く、卵が付いてそうな実も全く無かった。そして、家には人の気配がなく、ひっそりとしている。おそらく廃屋になっているのだろう。オジーとオバーは高齢だったので亡くなられたのかもしれない…。
寂寥感に満たされ、佇んで悄然と空を仰ぐ。胸が痛む。
それに此処にイワカワが居なければ、厳しい状況下にあることを受け止めざるおえない。此処が一番有望なイワカワのポイントなのだ。何だかなあ…。

一応、夜に灯火採集する場所の下見にも行く。
あわよくばアカボシゴマダラ(註2)が飛んで来ないかという淡い期待を持ちつつ登山口に取り付く。

 
【アカボシゴマダラ Hestina assimlis ♂】

(2011.9月 奄美大島)

 
懐かしい急坂を登り、山へ上がる。2011年は何度もこの坂を上がったっけ…。宿から近いから、帰りがけによく寄った。
しかし海から近いゆえ尾根にはモロに風が当たっており、平地と比べてかなり強い風が吹いている。勿論、アカボシの姿はない。これだけ風が強いと蝶が飛ぶことなど望むべくもない。
何だかなあ…。

部屋に帰り、ぼんやりとTVを眺める。
いっそライトトラップなんてやめてやろうかと思う。
日が暮れたら、とっと居酒屋「脇田丸」に行って、酒かっくらって板前のタケさんとバカ話でもしたいというのが正直な気持ちだ。そもそも、わざわざ名瀬に一泊したのはその為でもある。脇田丸に行き、タケさんに会い、アバスの唐揚げを食わねば奄美に来たことにはならない。

だが、グッとその誘惑を抑え込み、日暮れ前に灯火採集の仕度をして出る。
こうゆうツマラン場所でトットとアマミキシタバ(註3)を採って、蝶採りに専念したいところだ。ただでさえ夜の山は怖いのに、ここ奄美には本ハブ殿がいらっしゃるのだ。しかも奄美大島の本ハブ(註4)は最強だと言われており、沖縄本島の本ハブよりも巨大で、性格も凶暴。オマケに毒性も強いとされておるのだ。本ハブは夜行性だかんね。オジサン、涙チョチョ切れ(T_T)で、チビりそうじゃよ。

車に轢かれた直後のものだが、コレ見てよ。

 

(2011.9月 奄美大島)

 
蒲生崎だったけど、優に2mはあったんじゃないかな。
太さは軽くワテの手首以上くらいはあったから、もう大蛇と言っても差し支えないようなものだったっすよ。マジでぇー。

あのねー、あまりにも怖いから、今回は流石にワークマンで折りたたみの長靴を買って履いてきたもんねー。

 

 
風が強いので、当初予定していた場所を諦めて、鞍部にライトを設置する。

 

 
フラッシュを焚かないで撮ると下の写真みたいな感じになる。
周りが如何に暗いか御理解戴けるかと思う。街から近くとも、山へ入るとこれだけ暗いのだ。原始林なんかだと、きっともっと真っ暗けなんだろなあ…。ヤだなあ。

 

 
正直、光量がメチャンコしょぼい何ちゃってライトトラップである。でも、コレしか持ってないんじゃもーん。

点灯後に周りの木に糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
いつもは普通の酢を使っているが、今回は奮発して効果が高いとされる黒酢をふんだんにブチ込んでやったスペシャルレシピだっぺよ。アマミキシタバは糖蜜トラップやフルーツトラップにも来るということだから、ライトトラップがダメでもコレで何とかなるっしょ。

しかし、何ちゃってライトには笑けるくらい蛾が寄って来んぞなもし。
やっと大きな蛾が来たと思ったら、オオトモエだった。しかも折からの強風に煽られ、(^。^;)あらら…、飛ばされていってもうた。

 
【オオトモエ Erebus ephesperis】

 
別にオオトモエなんぞどうでもいいけど、何か小さかったから亜種かもしんないと考えたのよ。なんで一応採っておこうかなと思ったのさ。

そして糖蜜トラップに至っては全く何も来ん。
何だかなあ…。

午後9時前には一旦諦めて、ライトをそのままにして脇田丸へと向かう。タケさんと話して楽しく過ごせたら、流れも少しは良くなるかもしれない。もしかしたら11時くらいに様子を見に戻ってみたら、死ぬほどアマミキシタバが集まって来ているやもしれぬ。で、とっと撤収。タケさんと飲みに行くのだ。そうだ、吉田拓郎大好きのダメ男フクちゃんも呼ぼう。でもって朝まで痛飲じゃい❗何事も前向きでいこうじゃないか。

 

 
店構えは概ね同じだが、雰囲気が前と少し違う。たぶん暖簾が新しくなっているからだろう。

再会を期待して店内へ入る。
けど、厨房にタケさんの姿が見えない。休みかなあ…。
確認のために店員を呼び止め、訊いてみる。

(ノ゚0゚)ノえーっ❗、タケさんやめたってかあー❗

腱鞘炎になって1年半ほど前にやめて、今は土方をやっているらしい。
呆然としたままヨロヨロとカウンターに座り、オーダーを取りにやって来た店員に力なく生ビールと答える。

 

 
ヤケクソ気味で一気にゴクゴク飲む。
悲しいかなビールだけは何があっても旨い。裏を返せば有難いことだ。まあビール飲んでりゃ、そのうち御機嫌になるだろう。そう思わなきゃ、やってらんない。
でも追い打ちをかけるように、出されたお通しの大根が信じられないくらいにスジだらけだった。史上サイテーにクソ不味くって半泣きになる。

 

 
キレそうになるが、気持ちを切り替えてメニューを見る。

 

 
幸い「アバスの唐揚げ」は、まだメニューにあった。
けれど値段が690円と高なっとるやないけ。前は490円だった筈だよな。
(-_-メ)ったくよー。どこまでも逆風アゲインストじゃないか。
まあいい。アバスさえ食えれば、そんな瑣末事なんぞ簡単に許せる。アバス様はブリブリの歯応えで、味はとっても上品なんだけど旨味があり、下手なフグの唐揚げなんかよりも数段旨い代物なのだ。
言っておくと、アバスとは奄美の方言でハリセンボンの事をいう。但し、厳密的にはハリセンボンそのものではなくて、近縁のネズミフグやイシガキフグとかの大型フグだろう。タケさんにアバスで作ったフグ提灯みたいなのを見せられたけどデカかったもん。ハリセンボンみたく体型は丸くなく、もっと細長かったから間違いないだろう。

やがて待望の「アバスの唐揚げ」が運ばれてきた。

 

 
見た瞬間に悪い予感がした。
見た目が記憶とは全然違くて、あまりヨロシクないのだ。色が悪いし、匂いからすると、おそらく悪い油で揚げたものだろう。しかも揚げ加減は明らかに技術未熟な者の仕事のように見える。盛り付けにも微塵のセンスも感じられない。

食うと案の定だった。
アバスそのもののポテンシャルは悪くないのだが、解体の仕方が悪いから食べにくいし、油っぽくて揚げ方は最低レベルだ。

因みに、タケさんの調理だとこんな感じだった。

 

 
盛り付け的にも如何にも美味そうだし、下に網があるから油切れも良い。っていうか、それ以前にカラッと揚がってた。
怒りを超えて悲しくなってくる。

コレだけではお腹は満たされない。次に何を頼もうかと迷ったが、メニューを眺めていても何ら期待させられるモノがない。お通しとアバスの唐揚げの状態からして、どうせ結果は目に見えている。憤ること確実だ。

さんざん考えた挙句、「漁師めし」を頼むことにした。
刺身系ならば、まだしも失敗は少ないと判断したのである。

 

 
こんなんだったっけ❓
コレも見た目は違ってたような気がするぞ。
まあいい。腹が減ってるから取り敢えず食べよう。醤油をブッかけて食う。
(ー_ー;)……。

 

 
気を取り直して、真ん中の黄身を潰して食べる。
(ー_ー;)……。
何だか甘ったるくて、全然旨くない。何ゆえにこんなにも甘いのだ❓明らかに記憶の味とは違う。
じゃあ、十年前のアレは何だったの❓スマホで、その時の画像を探す。

 

 
あったけど、(・o・)アレっ❓ご飯がないぞ。
でもコレ見て思い出してきた。この時は漁師めしの飯抜きにしてもらって、ツマミにしたんだったわさ。あと、確かこの時は海がシケ続きで魚が入ってこなくて、タケさんが養殖の黒マグロの良いところをふんだんに使ってくれたんだった。量も多くてトロ鉄火みたいになってたんだよね。
この記憶から甘いという疑問も解けた。タケさんが、いつも特別に普通の醤油を出してくれていたのだ。スッカリ忘れてたけど、実を言うとコッチの醤油は砂糖が大量に入っていて、ベタ甘なのだ。人のせいにはできないけど、何か腹立つわ。

腹はそれなりに膨れたが、虚しい。
11時くらいまでは居るつもりだったが、耐えられなくて10時には店を出た。

再び夜の山へと戻る。
勿論、アマミキシタバが大量にやって来るなんて奇跡は起こらず、ショボい蛾が数頭いただけだった。
取り敢えず見たこと無さそうな奴(註5)を投げやり気分で毒瓶にブチ込む。

 

 
暗闇から街を望み見る。

 

 
何処か違う世界、異次元空間に知らないうちに迷い込んだかのような錯覚に陥る。闇はいつでも人間社会との境界を曖昧にする。

やがて風が益々強くなってきた。たぶん風速は軽く10mは越えていて、最大瞬間風速は18mくらいはありそうだ。
༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽逆風烈風やんけ。

 

 
オマケに灯火採集の敵、月まで出てきやがった。

11時半、撤収。
何だかなあ……。

                         つづく

 
追伸
サラッと書くつもりが、どんどん思い出すことが出てきて長くなった。(◡ ω ◡)先が思いやられるよ。
尚、当ブログに『西へ西へ、南へ南へ』という2011年の奄美旅の文章があります。よろしければ、ソチラも読んで下され。
あっ、ついでに言っとくと、イワカワシジミについては第十三番札所『梔子(くちなし)の妖精』の回にて取り上げとります。

 
(註1)イワカワシジミ

【奄美大島産 春型】

 
(裏面)

(出典 2点とも『日本産蝶類標準図鑑』)

 
イワカワシジミは、日本では奄美以南に棲息し(現在は屋久島にも生息するが放蝶由来との噂あり)、蝶好きの間では人気の高い美蝶だ。裏面は日本には他に類を見ない綺麗な翡翠色で、優雅な長い尾っぽを持ち、南国の妖精という言葉がピッタリで可愛らしい。

奄美大島のイワカワシジミは亜種にこそなっていないが、かなり特徴的な姿をしており、表の前翅と後翅の亜外縁に白斑列に表れる。特に第1化の春型の♀の下翅はそれが顕著で、気品があって美しい。

国外ではインドからインドネシア、中国、台湾などの東洋熱帯区に広く分布する。日本でも個体数はそう多くはないが、インドシナ半島では更に少なくて珍品とされているようだ。
とはいえ、ラオスとかタイでちょこちょこ採っているから、ホントなのかな?と思う。因みに日本のイワカワシジミより遥かにデカイゆえ、とても同種とは思えまへん。

 

(2014.4.7 Laos oudmxay)

 
これじゃ、大きさがワカランね。
でも、しっぽ(尾状突起)がより長いのはお解りなられるかと思う。しかも太くて白いし、白帯の領域も明らかに広い。

他にも画像があった筈だから、探してみよう。

 

(2016.4.28 Laos oudmxay )

 
この画像なら、大きさも解って戴けるのではないかと思う。とはいっても、蝶好きな人しかワカランか…。

 

 
これは同日に採った別個体。天女のように美しいね。
どうやらインドシナ半島とかのクチナシの実は大きいから、その分だけデカくなるらしい。噂では超バカみたいにデカイ亜種だか近縁種だかがいるらしい。
意外だったのは、何れも川辺に吸水に来た個体だった事だ。そういえばタイでもそうだった。イワカワが吸水に来るなんて日本では殆んど聞いたことがなかったから驚かされた記憶がある。確か画像の個体は全て3時以降の夕方近くにやって来たような覚えがある。

 
(註2)アカボシゴマダラ
従来、日本では奄美大島と加計呂麻島、徳之島のみに分布していたが、近年になって関東地方で中国の原記載亜種が放蝶され、凄い勢いで分布を拡大している。
この亜種、赤紋がピンクで、しかも輪が醜く崩れているというアカボシゴマダラの名前を穢す許し難いブサいくな奴である。放した者は万死に値すると言いたい。どうせ放すなら、あんなドブスじゃなくて、クロオオムラサキとか放せよなあー。
それはそれで問題あるとは思うけど…(笑)。

 
(註3)アマミキシタバ

【Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』岸田泰則)

 
開張60〜66mm。国内の他のカトカラ(シタバガ属)よりも前翅長が突出する。
従来は別属とされていたが、現在はカトカラ(Catocala)属に分類されている。
分布は主に奄美大島だが、他に徳之島、屋久島、沖縄本島でも記録がある。そういや去年には九州南部からも記録が出ていた筈だね。国外では台湾、中国南部からインド北部、スリランカ、インドシナ半島、フィリピン、インドネシアに分布する。

 
(註4)奄美大島の本ハブ
何かで読んだけど、奄美大島の本ハブと沖縄本島の本ハブとでは毒の成分が違うらしく、奄美の方が毒性が強いようだ。DNA解析の結果でも両者はかなり古い時代に分岐したようで、近い将来、両者は別種扱いになる可能性もあるという。
あっ、うろ憶えの情報だから、間違ってたらゴメンナサイ。

 
(註5)取り敢えず見たことの無い奴
たぶん上の画像がカワムラトガリバで、下はツマジロエダシャクかな。コレも間違ってたらゴメンナサイ。

 

未だ見ぬ日本の美しい蛾2


年末に岸田先生の『世界の美しい蛾(註1)』について書いたが、本には海外の美麗蛾のみならず、日本の美しい蛾も数多く紹介されている。
今回も前回に引き続き日本に分布する未だ見たことがない憧れの美しい蛾たちである。

 
【ハグルマヤママユ Loepa sakaei】
(出展『世界の美しい蛾』)

 
鮮やかな黄色にアクセントとなる赤褐色の眼状紋が配されている。このビビットなコントラストが美しい。それを引き締めるかのような黒い波状線がまた何とも心憎い。艶やかにして、粋(いき)。この美しさには誰しもが瞠目するだろう。
ヤママユガ科(Saturniidae)の蛾は美しいものが多いが、中でもハグルマヤママユが最も美しいと思う。ヤママユガ科の中では、やや小さいと云うのもキュートな感じがして好ましい。

漢字で書くと、おそらく「歯車山繭」だろう。
ヤママユの仲間は皆さん眼状紋があるけど、波状の線が目立つゆえ動的に見えたから歯車ってつけたのかな?
由来さておき、中々良い和名だと思う。早口言葉で三回続けて言うと絶対に噛みそうだけどね。

分布は奄美大島、徳之島、沖縄本島北部とされているが、宮古島なんかでも採れているみたいだ。
ハグルマヤママユ類は東南アジアに広く分布しており、似たようなのが沢山いるものの従来はtkatinkaとして一まとめにされ、特に種としては分けられていなかったようだ。日本のものも、その1亜種とみなされてきた。しかし近年になって分類が進み、多くが種に昇格したという。日本産も別種とされ、日本固有種となったようだ。

年3回の発生で主に3月、5月、8~10月に見られるとある。ヤママユの仲間は年1化が多く、一部が2化すると云うイメージだが、南方系の種だけあって年3化もするんだね。

何だか久々に奄美大島に行きたくなってきた(註2)。
奄美にはハグルマヤママユもいるし、キマエコノハもいるもんね。それにベニモンコノハの記録も一番多い。上手くいけば憧れの美しい蛾が三つとも採れるかもしれない。
蝶だって美しいものが多い。この島特有の美しいアカボシゴマダラやアマミカラスアゲハがいるし、春ならば、日本で最も美しいとされる白紋が発達したイワカワシジミだっている。

 
【アカボシゴマダラ♂】

 
【オキナワカラスアゲハ奄美大島亜種 夏型♂】

【同♀】

 
【イワカワシジミ】
(各地のものが混じってます。)

 
そうそう、思い出したよ。そういえば最近は沖縄本島にしかいなかったフタオチョウも土着しているというじゃないか。フタオチョウは沖縄県では天然記念物で採集禁止だが、鹿児島県ならばセーフだ。あのカッチョいいフタオチョウを大手を振って採れるのだ。

 
【フタオチョウ♀】

 
つまりレピ屋には、奄美はとっても魅力的な島なのだ。
それに奄美の海はとても綺麗だ。食いもんだって沖縄とは桁違いに旨い。アバスの唐揚げとか死ぬほど美味いもんな。
(ToT)嗚呼、奄美行きてぇー。

                     おしまい

 
追伸
冒頭に蛾たちと書いたし、数種を紹介する予定でいたが、早くも力尽きた(笑)。
やっぱ不調なのである。ボチボチ書いていきます。

 
(註1)世界の美しい蛾

グラフィック社より出版されている。
今のところ、ジュンク堂など大きな書店に行けば売ってます。

 
(註2)久々に奄美大島に行きたくなった
本ブログに『西へ西へ、南へ南へ』と云う奄美大島の紀行文があります。自分的には好きな文章。昔の方が良い文章を書いてたと思う。よろしければ読んで下され。

 

『西へ西へ、南へ南へ』25 最終回 怒りを込めて五臓六腑の矢を放とう

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-09-10 20:12:27

      ー捕虫網の円光ー
     『西へ西へ、南へ南へ』
        最終回

(第十九番札所・怒りを込めて五臓六腑の矢を放とう)

  
2011年 9月25日

  山間に湧く
  無慈悲な雲に涙しぼり
  熱帯に満つる
  濃密な空気に声を呑み
  天翔ける胡蝶に
  よしんば、骨肉ここに朽ち果つるとも
  九月の驟雨は凜として
  今、千の針となり天上から降り注ぐ
  されば膝を折り、頭を垂れ
  憤然、五体の怒りを込めよう
  五臓六腑の矢を放とう

(奄美出身・詩人泉芳朗の詩へのオマージュ。)

男は、何があっても脱出する事を決心した。
埒があかない。
結果がどうあれ、この無間地獄の呪縛から逃れよう。
潮時だ。旅は終焉の時を迎えたのだ。

だが、天気は最悪の様相。大雨警報が出ている。
朝のニュースでは記録的豪雨と繰返し報じている。
1時間に135㎜、降りだしてからは500㎜を越えているという。どうやら、去年災害をもたらした大雨に匹敵するくらいの雨量のようだ。

兎に角、少しでも雨が弱まれば出よう。
土砂崩れで、道が寸断されてない事だけを祈ろう。

午前10時、出ようとしたら強い雨が来た。
部屋に籠るしかない。残された時間は確実に減ってゆく。
アハハハハ…ヾ(@゜▽゜@)ノ♪
気がフレたよ。
もう、知んなーい。

11時40分。小雨の中、男は意を決して出発した。
晴れ男なんだから、何とかなる。何とかして見せようホトトギス。
って、でもこの天気で出るなんて尋常ならざる判断。

アハハハハ(~▽~@)♪♪♪

アメユキトテキテケンジャ

オデ、コワレタ

正午、あかざき公園着。
取り敢えず梔子(クチナシ)の木を叩き出して、イワカワシジミを手中に入れる。

爽やかな翠(みどり)と長い尾状突起が優雅で美しい。

 
樹液ポイントの萱(かや)を踏み固め、邪魔な枝を排除してネットが振れる空間を広げる。

『そこはハブの巣窟だよ。』

と昨日地元のおじさんに言われたが、もうこうなりゃヤケのヤンパチだ。少しでもやれることをやるしかない。

作業をしていたら、木の根元にデンと居座る大きなクワガタを発見❗❗

アマミヒラタクワガタ❓
黒光りしてカッコイイのぉー( ☆∀☆)

考えてみれば、甲虫採りの人はいいよなあ…。
蝶とは違い、雨とかあんま関係ないじゃん(  ̄З ̄)
晴れていないと蝶を採るのは難しいけど、甲虫ならばまだ何とかなる可能性があるだろう。それに雨で翅が傷まんしのぉー。
いっそ、クワガタ屋に転向したろかい(*`Д´)ノ!

12時半、雨止む。
だが、樹液には大きなルリタテハしかいない。
やはりアカボシゴマダラは夕方にしか来ないのか?

どきゃぶぎゃわ❗Σ(_)

クエッケッケ~Σ( ☆∀☆)

益々アタマが変になる。
再び強い雨が降り出したのだ。
(;o;)アメユキトテキテケンジャ~

1時半。頭上をボロ♀通過。

2時半。ボロ♀来たる。キヤッチ&リリース。

3時。さあ、これからという時に又しても雨が降り始めた。

(T_T)アメユキトテキテケンジャー

天に向かってどなる。

(◎-◎;)ひでぶ~

 
4時半。空は暗い。

そして、何も飛ばなくなった。細かい霧雨がシトシトと降り続いている。

アメユキトテキテケンジャ(ToT)
男は、敗北を覚悟した。

4時40分、強い雨がまた降り始めた。
無情の雨だ。
(T^T)アベユギドデギテゲンジャー

レインコートに着替え、合間に採った3頭の♂達を次々にリリースする。
彼等は開いた三角紙の上をトコトコと歩いて立ち止まり、小首を傾げるようにして周囲を見回す。
やがて、思い出したかのようにふわりと翔び立ち、雨の中をゆっくりと森に消えていった。
サヨナラ。そして、ありがとう。

腕時計の針は午後5時ちょうどを指していた。
タイムアップだ。

ここに円は閉じる事はなかった。
怒りの矢を放つことさえも出来なかった。
男は誰に言うでもなく、「完敗。」と呟いた。
そして、降りしきる驟雨の中、靄(もや)にけぶる坂道をゆっくりと下って行った。

 
午後9時20分。
定刻通り鹿児島ゆきのフェリーは、島を離れた。

北へ北へ、東へ東へ。

                 ー 完 ー

(subject 写真解説)

【イワカワシジミ】
完品は、矢張り美しい。完璧なフォルムだ。
イワカワは、たぶん日本に棲む蝶の中では最も長い尾突を持つ蝶だ。エレガントなのだ。でも、それが仇となって、結構尾っぽが切れている事が多くて中々完品が得られない蝶の一つらしい。そんとおりですわ~、三代目。

【スジブトヒラタクワガタ♂】
黒光りした渋いツヤ、ガッシリとした体躯。
( ☆∀☆)カッコいいですな~。
てっきりアマミヒラタクワガタだと思っていたら、帰って調べてみるとスジブトヒラタクワガタと云う奄美諸島の固有種であった。確かに太い筋がある。
気性がメチャメチャ荒いクワガタで、大きなものは体長70㎜に達するようだ。測ってないが、この個体も相当に大きかった。
持って帰るかどうかだいぶと悩んだが、逃がしてやることにした。
多分、元々クワガタは好きなだけにこんなもんまで集め始めたら収拾がつかなくなると思ったのだろう。
ただでさえ、家の中が標本箱だらけでエライこっちゃになりつつあるのだ。クワガタにまで手を出したら、
寝る場所さえも無くなりかねない。
でも、今考えるとちよっと惜しい事をした。

6年後の今、改めて勿体ない事をしたと思ってる。
クワガタは、男の子にとってはヒーローなのだ。興味を示さない男の子は、オスとして将来大丈夫かと思う。インポなんじゃないかと疑りたくなるね。
でも、最近はそんな男の子も多いらしい。草食性男子ってヤツ❓日本の行く末、危うしである。

【民宿の慣れ親しんだ部屋】

結局、この部屋に15日間も居た。
もう、気分はいっぱしの下宿人なのだ。

そういえば宿の外観の画像を添付し忘れていたので、ついでに添付しておきます。

釣具屋の右横手が「民宿あづまや」の入口。
因みに釣具屋の上、二階の左から二番目が泊まっていた部屋。
釣具屋は開いてるとこを見たことがないから、多分廃業してるんだと思う。

【フェリー】

デカイですなあ。
湾内は穏やかで大したことなかったから、あれ?と思ってたら、外洋に出たらしっかりと揺れました。

【三角紙】

中身はシロオビアゲハだね。多分、沖縄本島の時のものだ。
それにしても、何かぞんざいな蝶の入れ方だなあ…。
一応、正しいしまい方の画像も添付しておくか。

(中身はミヤマカラスアゲハ)

触角や尾っぽを傷めない為には、これが一番正しい。
野外では、このような戦利品を蝶の頭を下にしてケースにしまう。

三角紙って、普通の人には解らないと思うので、一応軽く解説しておきます。
まあ写メを見てもらえれば理解できるとは思うんだけど、三角紙とは簡単に言うと採集した蝶を入れる紙です。素材はパラフィン紙などですね。

半透明なのには理由があります。
一つは中身の蝶が何なのか一発で判るから。最初に作った人が整理する時に分かり易いようにと考えたんでしょうね。
でも、最大の理由は蝶の翅を傷めたくないがゆえのアイテムだろう。
この紙はツルツルで、蝶の鱗粉が剥がれにくくなっています。鱗粉を損なえば、美しい蝶の姿も台無しになってしまいますからね。

フィールドに出る時は、これを納める三角ケース(三角缶)と云うものを持っていきます。
形は三角紙と同じで三角形。ベルトを通せるようになっており、腰にぶら下げます。
僕は牛革製の物を使用していますが、気分はちよっとしたガンマン気分(笑)
個人的には、三角ケースは戦闘体勢に入る為のスイッチの一つ。コレを腰に巻けば、必殺モードになるのだ。気合いが入る。

(註1)アメユキトテキテケンジャ
宮沢賢治の詩『永訣の朝』に出てくる一節。
本当はアメユキトテキテケンジャではなく、「あめゆきとてちてけんじゃ」が正しい。「とてきて」ではなく、「とてちて」ね。
あえて一文字変えたのは、その方が何となく感情が伝わるんじゃないかと思ったのだ。効果の程は全然ワカンナイけど(笑)

最後に5話で添付すべきだった画像をアップしておきます。

拝山から見下ろして名瀬市内の画像だ。
この写真が一番奄美大島らしい。

さらば、奄美。
良いとこだったよ。

『西へ西へ、南へ南へ』20 奄美の檻

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-09-01 23:08:02

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

    (第十六番札所・奄美の檻(おり))

 
2011年 9月22日

午前4時03分。
(゜ロ゜;ハッとして目が覚め、時刻を見て我が目を疑った。
船の出航時刻は、3時50分。完全に行ったあとだ。

やっちまった……(T^T)
信じられないが、現実だ。

午前2時過ぎくらい迄の記憶はある。
その後、急激な睡魔に襲われたのだ。
一応、目覚ましをかけていたのだが…。

半分望んではいたが、断じて確信犯ではない。
ひきつった半笑いで煙草を一本吸い、考えるのが嫌で睡眠薬を飲んで再び寝た。

朝8時に宿のおばーに会ったら、(゜ロ゜)❗❓ビックリされた。悪いが、こちらもΣ( ̄ロ ̄lll)ビックリなのだよ。(TДT)ぶふゅ~。

9時、バイクを借りに行く。
天気予報は曇りのち雨。部屋で色々思い悩むのもしんどいし、出る事にした。天気がもてば幸いだ。晴れ男の運を信じよう。

3連チャンでまた根瀬部に行った。
アカボシゴマダラの完品の♀を何とかせねばならない。天気よ、恃むから2時くらいまで保ってくれ、心の中は悲痛な叫びで一杯だ。

曇り時々晴れ。
例によって、一時に♀がやって来た。
しかし、明らかに傷んでいる。頭(こうべ)を垂れて、スルーする。どうせ展翅もしないのなら、無駄に生命を奪うべきでない。卵を産む♀なら尚更だ。

しかし、その後待っても待っても♀は姿を現さなかった。
イワカワシジミも見たが、高過ぎて話になんない。
天気はどんどん良くなっていくが、気持ちはどんどん曇っていった。他の蝶を最早採る気にもなれず、ただただ時間は無為に過ぎて行く。
今日は♂さえ、あまりいなかった。
空中で3頭のみシバく。

どうやら此処は、♂の♀探索ポイントではないだろうか?三日間♀と呼応するように現れ、3時前には殆どいなくなる。多分、その後はテリトリーを張る場所に移動するのではなかろうか?
ここでは翔び方が矢鱈と速いし、ほとんど止まらないし、暫くすれば去ってゆくと云うのも他の場所とは違う。テリトリー(占有活動)を張っているという感じではないのだ。
あれれ❓じゃあ、♂がテリトリーを張るって何の意味があるのだ。♀を待つなら、ここでテリトリーを張ればいいんじゃないの❓何でワザワザ尾根とか山頂に向かうのだ。
この占有活動という名の♂同士の縄張り争いは、学説では♀を待つ最良の場所をめぐっての戦いらしい。でも、ずっと疑問に思ってる。同じような場所でテリトリーを張るオオムラサキやスミナガシにしても、そこに♀が飛んで来た事など一度も見た事がないのだ。唯一の目撃例は、ここ奄美大島の蒲生崎で見たアカボシゴマダラの♀だけだ。まだしも同じようにテリトリーを張るゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の方が♀を見る機会がある。とはいえ、それとて見た数はしれている。交尾が目的ならば、あまりに効率が悪すぎるではないか。この♂の占有行動には別な意味があるんじゃないかと勘ぐりたくもなる。
いや待てよ、♀は飛んでくるワケではなくて、最初からそこにいて隠れているだけなのかもしれない。そこに後から♂が飛んできて縄張り争いが始まり、そして交尾は占有活動がおさまった後、夕方遅くや日没後、もしくは早朝に行われるのかもしれない。しかし、そんなこと聞いたためしが無いなあ…。
蝶って、謎だらけだ。だからこそ面白いんだけどね。

イラついて朽木を蹴ったら、
ぬわっ( ̄□ ̄;)❗❗
蠍(サソリ)が出てきた。

サソリモドキ❗❓
毒あんのかな❓
いっちょまえに尻を挙げて威嚇なんぞしくさってからに…(^_^;)
畜生、どいつもこいつも馬鹿にしやがって( ノД`)

午後4時。諦めて半ベソで知名瀬に行ったが、全く姿なし。本当に有名ポイントなのかよ(# ̄З ̄)ぶきゅー。
4時半には見切りをつけて、朝仁に移動。こうなりゃ、もうヤケクソだ。

テリトリーを張るギリギリの時間である5時の10分前に着いた。
一応、♂がいた。確認の為だけだから無視して煙草を吸っていたら、ふと目の前を見ると大きな梔子(クチナシ)の木があるではないか。
目視で見ていくと、実に穴も穿いている。イワカワシジミがいるかもしれない。期待を込めて周囲を叩いてみる。

だが、いなかった。
他にもクチナシが有るかもと思い、10m程移動したら、イワカワシジミが目にも止まらないスピードでテリトリーを張っていた。笑けるスピードだ。

惨めさも相俟って、とてつもなく腹が立ってきた。
(#`皿´)アホンだらがぁー❗❗❗❗❗
怒りの一撃で、一発で空中撃破。

だが、完品には程遠い。
溜飲が治まったわけではないが、チヨットだけホッとした。

辺りが夕闇に包まれようとしていた。
気分は難民。船に乗れないボートピープル。

                  つづく

 
(subject)

【サソリモドキ】
多分、サソリの親戚。サソリと全く同じ形だが、所詮ライダーマンみたいなもんで、ホンマもんではないモドキ風情だ。外部は本家みたいに固くない(と思う。触ってないから分からない。誰が、んなもん触るちゅーうんじゃい(‘ε’*)!)。
とにかく中途半端でやわい存在。
毒も子供騙しの筈だったような気がする。
まあ、でも実物を見たときはかなり驚いた。猿飛佐助ばりに飛び退いたね。モドキとはいえ、見た目はかなり邪悪なのだ。

(補足)
サソリモドキに関して何となく出鱈目くさい事を書いていそうである。
文章は翌日とかのほぼライブ配信で奄美大島から送っていたんだけど、サソリモドキの事なんぞ調べようがなかった。この時はスマホではなかったので、その場で検索とかできなかったのだ。
というワケで、調べなおす事にした。

Wikipediaによると、サソリモドキはクモ綱サソリモドキ目に属し、サソリとクモの中間的な特徴を有しているようだ。もちろん肉食性でコオロギやバッタ、時にはミミズなども捕食するらしい。
意外な事に外皮は丈夫で堅いという。サソリみたいに毒腺は無いようだが、尻の付け根の肛門腺から酢酸、カプリル酸の混合物の酸っぱい液を噴射する。英名のビネガロン(怪獣みたいな名前やなあ…)はそこからきているらしい。つまり、ビネガー(酢)って事ね。
これには強い刺激があり、皮膚に触れたり目に入ると火傷様の皮膚炎や角膜炎を起こすことがある。
(@_@;)おいおい、子供騙しではないシッカリとした毒あるやんかあー。触らんかって良かったあー。
とはゆうもののそんなに攻撃的な奴ではないらしい。刺激しないかぎり、自分から積極的に攻撃してはこない模様。また、普段は石の下などに隠れていて、人間の目に触れる機会は滅多になく、被害例も少ないみたい。

因みにサソリモドキは世界三大奇虫に数えられている。
あとの二つは何だっけ❓一つは確かウデムシだよなあ…。あと一つは思い出せない。まあ、何れにせよ全員エイリアンみたいなオドロオドロしい奴らで、あまりお会いしたくないよね。遭遇したら、間違いなく髪の毛逆立つね。

さらに調べていくと、結構記事がある。
日本には九州南部から沖縄本島に棲むアマミサソリモドキと石垣島や西表島など八重山諸島に棲むタイワンサソリモドキの二種類がいるらしい。
しかし、見た目は殆んど変わらんとの事。

(タイワンサソリモドキ)
(出典『Monsters Pro Shop 奇蟲・サソリモドキの味』)


奇蟲・サソリモドキの味

この人、豪の者で何と思いつきで食べはった。
毒を噴射させきって天ぷらにすると、海老のヒゲとか尾っぽの味がして結構美味いらしい。
何にしても凄い人だよね。この人、あの猛毒ハブクラゲを食うのに挑戦したりと、他の記事も面白い。

飼育している人も案外いるのには驚いた。
見ようによってはクワガタに見えなくもない。視点を変えれば、カッコイイと思う人がいてもオカシクはないだろう。自分は何があっても絶対飼いませんけどね。

【イワカワシジミ♂】
何とも言えない淡いグリーンがいい。
長く優美な尾状突起も相俟って、美しい意匠です。
イワカワシジミ、( ☆∀☆)好きです。

イワカワシジミは、八重山採集行二回目の春編・与那国島で主役の一つとして登場します(このブログに記事は無いです)。

奄美の春型が、白い部分が多くて一番美しいとされているけど、秋のものでも充分美しい。写メは裏だが、表も美しい。♂は黒に青、♀は黒に白の紋が入ります。

『西へ西へ、南へ南へ』19 さらば、奄美

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-31 00:22:19

 

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

     (第十五番札所・さらば、奄美)

 
2011年 9月21日

語るにたりない。
語りたくもない。
だが、語らねばならない。

樹間に涌く、無量の感に涙しぼり
地に満つる落葉や雑草にも
無情の声を呑み
天かける白雲に
よしや、骨肉ここに枯れ果つるとも
9月の太陽は燦として
今、天上にある
されば、膝を曲げ、頭を垂れて
奮然、五体の祈りをこめよう
五臓六腑の矢を放とう

(奄美出身・泉芳朗の詩より抜粋、一部改変。)

寒くて、目が覚めた。
昨日の夕方から急激に気温が下がった。暑くて眠れなかったのが嘘のようだ。
いよいよ奄美にも本格的な秋が訪れたみたいだ。

午前7時。最期の仕度をする。
アカボシゴマダラの♀の完品を何としてでも採りたい。いや、採らねばならぬ。

迷ったが、今日も根瀬部に行こう。
上手くいって昼過ぎ迄にカタがつけば、他の場所に転戦するつもりだ。

数えてみれば、奄美にもう12日間もいる。大阪を出て、いつの間にか2週間を越えてしまった。

8時半に小宿の柑橘畑に着いた。
例によって、畑の持ち主のオバアに挨拶して中に入る。

(-“”-;)おらん…。樹液にも来てない。

知名瀬をチラッと経由して、根瀬部へ。
ここでも畑仕事中のおじー、おばーに挨拶する。
奄美の人達は、みな親切だ。

此処が一番早い時間帯から翔んでいると読んだが、矢張り朝昼は翔ばんのか…。

仕方なしに、採るのを半ば無視しがちだったツマベニチョウ(註1)やナガサキアゲハ(註2)、ウスキシロチョウ等をクールにシバき捲る。
昨日は二日酔いのせいでスランプがちだった。ゆえに慎重になりすぎたきらいがある。だから今日は何も考えずに見たら即ネットを振ることにした。
大体、迷うと外す確率が高い。だが、迷わずに済む相手はつまらない。あれほど憧れたツマベニチョウも今や百発百中だ。それはそれで半分悲しいのだが…。

午後1時。待望のアカボシゴマダラの♀が現れた。
木立を抜けて、川の対岸の枝先に止まった。
デカい。明らかに♂よりデカい。しかも、多分完品。
慎重に網を延ばしたが、半分も距離を詰められずに感づかれて翔んでいってしまった。
30分後、近くのエノキの上を滑空しているのを発見。しかし、微妙に届かない。
何だか腹が立ってきたので、♂は全部空中でバスバス、シバいてやった。

夕方4時。最大のチャンスが訪れた。
広場にスウーッと♀が降りてきた。
だが、目の前に停まっていた軽トラが邪魔で躊躇してしまい、結局一度もネットを振らずに終わってしまった。
振らないと入らない。採れるわけがない。
外す事を恐れてただ慎重になっても意味がない。木偶(でく)の坊だ。軽トラをブッ叩いてでもダメ元で振るべきだったのだ。そんな簡単な事も解ってない己の愚かさに反吐が出る。

イワカワシジミも網に入ったのに枝にぶつけてネットがひっくり返り、
(;_;)/~~~バイバーイ。

惨敗。見た蝶で採れなかったのは久し振りだ。心がポッキリ折れて修復できない。
五臓六腑の矢を放つことさえ出来なかった…。

ここは谷状地なので、4時半には日が陰ってしまい、ジ・エンド。

風が冷たい。
秋風が沁みる。

又、奄美に来いとゆうことなのか…。
確かに奄美は、良いところなんだけどね…(ノ_・,)

そして、今日も脇田丸へ。
少し漁があったみたいで、鰹とシビ(キハダマグロ)の良いのが入ったらしく、それを刺身で貰う。

(鰹の刺身(390円))

普段食っている鰹の概念が打ち砕かれた。脂は乗っていないのだが、もちもちの食感で酸味と旨味が渾然一体となっていつまでも口に残るのだ。まるで別物、違う魚みたいだ。

(シビの刺身(390円))

こちらは鰹に比べあっさりしているが、奥にまた違った旨味があって中々のもの。マヨネーズ醤油も合う。

そして、外せないハリセン(アバス)。
実物を見せてもらったが、こっちのは巨大である(あとでよくよく考えたのだが、多分ハリセンボンではなく、ケショウフグかモヨウフグではないだろうか?)。

飲んでいるうちに、段々帰りたくなくなってきた。このまま帰るのも悔しい。
思いつめ始める。
真剣に残る事を考えた。3分の2くらい残る方に傾きかけた。
だが、天気予報を確認して諦めた。
明日の天気は決して良くない。

今日の支払いは、1370円。

大阪行きの船が着港するのは、午前3時半。
もう、11時半だ。そろそろ帰ろう。

この時間だと帰って用意して、眠らずに港に行った方がいいかもしれない。
みんなに別れを告げた。

さらば、奄美。
良い島だったよ。

                           つづく

(subject)
蝶の画像は原文では写メだったんだけど、今回は割愛しました。なぜなら、この時に撮った画像が無くて、他の産地の写真を使ったからです。でも、ツマベニチョウなんかは亜種だし、ナガサキアゲハも多分どこか(海外?)の比較的白い個体の画像を使ってしまったと思う。理由は、その頃に配信していた人たちは蝶屋ではなく、一般の人たちだったから、まあだいたいどんな蝶だか解ってもらえればいいやと思っていたのです。とはいえ、標本は何処かにあるのだが探し出すのが億劫なので、図鑑から失敬させてもらいまする。

【ツマベニチョウ】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

所謂(いわゆる)、スター蝶の一つ。
南国の女王と言えば、この褄紅蝶である(因みに沖縄本島編で出てくるのは、南海の女王です)。
九州南部から沖縄にかけて分布し、日本のシロチョウ科の中では一番大きくて華やか。
翔ぶスピードも直線的で速く、力強い。ゆえに一般的にハイビスカスなどの花に来た時くらいにしか採るチャンスはない(今回は、結構空中戦でシバいたけど)。
そして、そのハイビスカスに最も似あう蝶でもある。
ツマベニチョウは、初期の八重山編に出てきます。彼女のエピソードはそちらに詳しく書いております、多分。(因みに、この八重山編は店のお客さんに配信されていたもので、このブログには掲載されておりませぬ)。

奄美大島・沖縄本島のものは、前翅の湾曲が強く、♂の橙赤部分が第8室にまで及ぶことにより、それぞれg.liukiuensis、g.conspergataとされてる。
けど、差は軽微だし、個人的には別に亜種にする程の事でもないような気がするんだけどなあ…。

【ナガサキアゲハ(長崎揚羽)♀】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

こっちの♀は沖縄本島と並んで特別に白く、飛んでいる姿はまるで優雅な貴婦人のようだ。
小さい頃は関西では迷蝶で滅多に見る事は出来なかったが、地球温暖化?で分布を拡げており、最近は関東地方くらい迄到達してるんじゃなかろうか?

一応、本土のものも図示しておこう。

(出典『日本産蝶類標準』)

見た目はかなり違うが、亜種区分は特にされておらず、日本産亜種(Papilio memnon thunbergii)として一本化されている。
因みに西表島産のモノが最も白いのだが、絶滅して久しい。

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

そういえば、標本の展示即売会で120万円で売りに出されているのを見た事があったなあ…。

【ウスキシロチョウ】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

日本では南西諸島に広く分布し、本土でも迷蝶として採集される事、しばしばである(特に九州)。
しかし、食樹(ナンバンサイカチ、ハネセンナなど)が無い事から定着はしないようだ(気候的に育たない)。しかし、園芸種ゴールデン・シャワー(オシッコの事ではないからねー。ナンバンサイカチの英名です)が改良されて寒さに強いものが生まれれば、わからない。綺麗な花だから人気が出るに違いない。

(2015年 タイ・チェンマイ)

そうなると、あっという間に日本全国に拡がり、ウスキシロチョウも土着するかもしれない。でも、ウスキシロチョウなんか増えても蝶屋でさえ喜ばないかもしれない。沖縄方面に行けば普通種だし、さしてキレイではないからだ。

【鰹の刺身】
鰹は近海ではあまり獲れないから、輸送の段階でどうしても味が落ちてしまうんだろうと思う。
高知や和歌山の周参見なんかの現地で食べる鰹が旨いのは、比較的近海で獲れるからなのかもしれない。

【シビの刺身】
板前の竹さんにはキハダマグロの別名だと言われたが、シビマグロのこと。味も見た目もキハダマグロとは明らかに違っていたから間違いないだろう。
シビは紫尾の意だと思う。多分、尻尾が特徴的なんだろね。あと、確かマグロそのものをシビと呼ぶ地方があったような気がする。間違えてたら御免なさい。

気になるし、調べてみた。
(@_@;)あちゃー、調べれば調べるほどワケワカンナクなってきた。
取り敢えずシビマグロという種類の魚はいなくて、マグロの地方名、もしくはマグロの若魚なんかをそう呼ぶらしい。しかし、クロマグロの若魚とする記述もあるし、キハダマグロ、ビンナガマグロの若魚とするという説もある。
(# ̄З ̄)何なんだよ、それ。納得いかねえよ。気になって、今晩眠れないじゃないか。
意地になって更に調べると、鹿児島ではキハダマグロやビンナガマグロの若魚をそう呼ぶようだ。
まあ、この見た目と味の記憶からすると、多分ビンナガ(備長)だったと思うんだけどね。因みに、備長を音読みしてビンチョウマグロと呼ぶ所も多いようだ。
魚の地方名ってあり過ぎてワケわかんねえよなー。時々、統一したらどうだと思うのだが、チヌがクロダイになったら、それはそれでまたさみしい。まあ、地方名を無くしたら、何だか味気なくてツマンナイかもしれない。このままでいいやと思う。何でもかんでも統一するのが良いというワケでもあるまい。効率だけが全てではないのだ。

『西へ西へ、南へ南へ』17 梔子の妖精

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-27 19:09:05

      ー捕虫網の円光ー
     『西へ西へ、南へ南へ』

  (第十三番札所・梔子(くちなし)の妖精)

 
2011年 9月19日

暴風が吹き荒れている。
だが、大したことない。石垣島の時の屋根が取れんじゃねぇの?Σ(T▽T;)というよりかは全然マシ。
あん時は、恐くて死ぬほど酒飲んで寝たんだよね。

仕方なく暇潰しに沖縄本島真夏編『ニライカナイの女王』の最終回を書く。
あーだこーだと文章をこねくりまわしてたら、5時間も掛かってしまった。低能な文章を書くのにも、結構それなりに時間がかかるのだ。

午後3時前、一段落ついたし、雨も上がったので出る。
風はまだ強い。

取り敢えず、一番近いらんかん山へ。
木々が風に煽られ、殴られぱなしのボコボコにされている。
風速は15m、時に20mくらいはあるだろう。
流石にアカボシも翔んどらんだろうと思ったが、1頭だけ翔んでいた。
アンタ、馬鹿ね。だけども偉いね(〃^ー^〃)
今や、そんなアカボシゴマダラに愛を感じるよ。

風がどんどん強くなり、身の危険を感じて4時前には山を降りた。

いつものように帰る道すがら、イワカワシジミを求めて民家の梔子(くちなし)をチエックする。
ここの梔子は立派である。既に肉眼で穴が穿いている実を3つ確認している。しかし、まるで手が届かない。いつも指を咥えて見るのみ。
クチナシって、生け垣とか丈の低いイメージがあるけど、本来はちゃんとした立派な木なんだね。もしかしたら、都会でよく目にするのは園芸種で大きくならないように品種改良されているのかもしれない。

どうせ今日は暇だ。
この際、周辺をじっくり探してみよう。他にもクチナシの木があるかもしれない。

イワカワシジミは奄美以南に棲息し、蝶好きには人気が高い憧れの美蝶だ。
裏面は日本には他に類を見ない綺麗な翡翠色で、優雅な長い尾っぽを持ち、南国の妖精という言葉がピッタリの可愛らしい蝶だ。

周辺を捜し始めて直ぐ、驚いて頭上に飛び上がった個体に出会った。イワカワさんだ。八重山や沖縄本島で採集済みだし、特徴的な姿なので他と見紛うことはない。
しかし、(^。^;)あらら…。折からの強風に煽られ、飛ばされていってもうた。

もしやと思い、目を転ずれば梔子の樹が目の前にあった。丈も高くなくて手頃な大きさだ。

調べてみると、卵が着いている実(註1)があった。

穿孔がある実(註2)もかなり見つかった。 だが、どれも中身は空なような気がする。内部に生きているモノの気配が感じられない。

立派なクチナシのある民家に戻ると、タイミング良く家のおばーが帰ってきた。事情を説明する。
おばーは、おじーを呼びに行った。
再びおじーに事情を説明したら、わざわざ高枝切りバサミを持ってきてくれた。
親切に感謝なりm(__)m
無事に4つ程良さげな実を落として貰った。

結局、その後イワカワの姿は見れずじまい。
まあ、天気は悪かったが、悪いが故に楽しめたかな。
ケッ( ̄ヘ ̄メ)、明日、こやつとアカボシの♀を絶対シバいてみせるぜよ。

今日も判で押したように居酒屋脇田丸へ。

いつものようにアバスの唐揚げを頼みスタート。
相変わらず、下手な河豚より数段旨い。

二品めは、昨日頼んだ漁師めしをご飯抜きでオーダー。海が時化っぱなしで、魚が入ってこず、黒マグロをふんだんに使ったスペシャルなものになった(490円❗)。完全にトロ鉄火状態。量も多い。

【漁師めし】

次に板さんに薦められたのは、アマミウシノシタ(舌ビラメ)のカルパッチョとグルクン(タカサゴ)の一夜干し。
迷う事なく、タカサゴ❗
カルパッチョって、何か中途半端で信用ならない野郎なような気がしてならない。ホントに美味い魚なら、普通の刺身で勝負せえやι(`ロ´)ノ❗と思うのである。

今日も呑んだくれて、夜は更けてゆく。
生ぬるい南国の夜風が心地よい。

                    つづく

 
(subject)

【イワカワシジミ Artipe eryx okinawana】

(裏面)
(出典『日本産蝶類標準図鑑』。標本はあるけど、探すのが面倒なので図鑑から画像を拝借。)

日本では奄美大島から南、与那国島にまで分布する南方系の蝶だ(現在は屋久島にも生息するが放蝶由来)。
奄美大島のイワカワシジミは亜種にこそなっていないが、かなり特徴的な姿をしている。表の前翅と後翅の亜外縁に白斑列にあらわれるのだ。特に第1化の春型の♀の下翅は顕著で、気品があって美しい。

国外ではインドからインドネシア、中国、台湾などの東洋熱帯区に広く分布する。しかし、日本でも個体数は多くはないが、さらに少なくて珍品とされているようだ。
とはいえ、ラオスとかタイでちょこちょこ採っているから、ホントなのかなと思う。因みに日本のイワカワシジミより遥かにデカイから、とても同種とは思えまへん。

(2014.4.7 Laos oudmxay)

これじゃ、大きさワカランか?
でも、しっぽ(尾突)が長いのは解るかと思う。しかも太くて白いし、白帯の領域も明らかに広い。

他にも画像があった筈だから、探してみる。

(2016.4.28 Laos oudmxay )

この画像なら、大きさも解って戴けるのではないかと思う。とはいっても、蝶好きな人しかワカランか…。

これは同日に採った別個体。天女のように美しいね。
どうやらこの辺(インドシナ半島)のクチナシの実は大きいから、その分だけデカくなるらしい。噂では超バカみたいなデカイ亜種?近縁種?がいるらしい。
意外だったのは、何れも川っぺりに吸水に来た個体だった事だ。そういえば、タイでもそうだった。イワカワが吸水に来るなんて日本ではほとんど聞いたことが無かったから、おおいに驚かされた記憶がある。確か、画像の個体は全て3時以降夕方近くにやって来たような覚えがある。
話は全然逸れるけど、この時はビヤッコイナズマEuthalia byakkoとパタライナズマ Euthalia patalaをひたすら待ってたんだよね(パタラに関しては採集記があるので、興味のある人は探してみてね)。

【イワカワシジミの卵】
イワカワシジミはクチナシの実にしか卵を産まない。
幼虫は葉っぱではなく、実の内部を食べて成長するからだ(実のない時期は蕾や花を食べる)。
普段、我々は生け垣や植え込みとして植えられる事が多い園芸種のクチナシしか目にする機会はない。6月に良い香りのする白い花を咲かせるコレね。

(出典『花図鑑』)

オオヤエクチナシ(英名ガーデニア)という品種らしい。何と実はつけないそうだ。って事は、コヤツではイワカワシジミは飼育できないってことだね。

多分、野性種はこんな感じの花だったかと思う。

(出典『デハ712のデジカメ日記2017』)

野性種の本来のクチナシは意外な程に大きい樹だ。大木になることはないとは思われるが、低木とはいえ、クチナシの概念を改めざるおえないような立派な樹である。少なくとも腰丈くらいの灌木と云うイメージは捨て去るべきだろう。だから、最初に八重山に行った時はクチナシの木を見つけるのにかなり苦労した。まさかそんなにデカい樹とは思わなかったからだ。
何でも人間が自分達の都合のいいように作り変える。そういう事だ。

【そして、その穿穴】
ここに幼虫が食い込み、内部を餌とするのだ。蛹化もこの中で行われる。これは穴が大きいので、既に脱出して蝶になっている可能性が高い。

不思議な事にクチナシならば、どの木でも実がなっていると云うワケではない。実のなる季節も特には決まっていないようだ。
又、実が有ったとしても卵や幼虫が必ずしもいるわけではない。様々な細かい条件が揃わなければならないのだろう。いつも驚かされるのだが、自然界の法則は複雑怪奇である。
もっとも、そんなのは所詮ダーウィニズムを筆頭に人間側からのエゴイストな解釈にしか過ぎないのかもしれない。蝶本人たちにとってはごく当たり前の事で、きっと不思議でも何でもないのだろう。

【漁師めし=スペシャルなめろう】
漁師めしとは、ようするに生の魚を大葉や葱、生姜、胡麻、味噌を加えて細かく叩く『なめろう』の親戚みたいなもの。
海苔が入るところが奄美風だったり、脇田丸風だったりするのかな?

 
追伸
結局、今回はけっこう文章に手を入れた(後に海外でのイワカワシジミの知見も増えたしさ…)。
出来るだけ当時のままを尊重して手を入れないようにしているのだが、元々自分の周りにしか送っていないような文章だっただけに、原文ではかなり説明が割愛されている。そもそも説明が嫌いだし、顔見知りに配信していたからコチラのキャラ知ってるんだから行間読めよ、解んだろ?というスタンスだったのだ。でも、今は不特定多数を相手に配信しているので、そういうワケにもいかないんだよね。
まあ、それが良いのかどうかはワカンナイけど…。
説明の多い文章は、だいたいは駄文だかんね。

『西へ西へ、南へ南へ』16 奄美の黒兎ぴょーん

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー
2012-08-25 22:25:00

      ー捕虫網の円光ー
     『西へ西へ、南へ南へ』

  (第十二番札所・奄美の黒兎ぴょーん)

 
2011年 9月18日

台風がいよいよその重い腰を上げ、ようやく北上を始めたようだ。
流石に今日はどんよりとした天気だ。風も強い。
二日酔い気味だし、10時くらいまで部屋でゴロゴロしていた。

捕虫網の円光・沖縄本島真夏編『ニライカナイの女王』の最終回の続きを書きだしたが、やっぱり嫌になって投げ出す。佳境のところをどう書けば良いのかがわからない。

大の字になる。
首を傾けて外を見ると、雨は小雨になっていた。
部屋で煩悶してるよりかはマシだ。出る事にした。
バイクは今日の天気を見越して既に昨日返してある。荒天の中、返しに行くのは大変だと思ったからだ。

取り敢えず、アカボシゴマダラの偵察にでも行こう。
知名瀬の手前、小宿やあかざき公園にもアカボシの記録があった筈だ。

【アカボシゴマダラ奄美大島亜種】

だが、歩きでは遠い。かといってバイクを借りるのにはチト勿体無い距離である。むうー(;・ω・)
ならば、チャリンコを借りられないかなと考えた。
しかし、何処で借りればよいのか分からない。
取り敢えず、観光案内所に行くことにした。訊けばわかるだろう。
ついでに近所の郵便局にも寄っておこう。そろそろ手持ちの金も底をついてきた。

観光案内所には、二人の女性がいた。
一人は島の女性で、30台前半とゆうところ。もう一人のオッパイのデカい方は20台後半とゆうところか…?こちらは内地から移り住んだ女性だ。
チャリンコのレンタルできる場所を訊き、ついでにお奨めの食いもん屋も訊くことにした。

島育ちの女性が、大ボケでツッコミどころ満載だった。
色々ボケ倒してくれたが、極めつけは『鶏飯(けいはん)の一番美味い店は何処?』と尋ねたら、しばらく黙り込み、
『うちの家です。』と答えた辺りだ。
『(・。・;はあ❓、あんたんとこ、鶏飯屋かよ❓』

勿論、なワケねー。違った。
鶏飯は元々は奄美大島の家庭料理で、島民は外では食わないとゆう事を言いたかったのだろうが、それじゃ質問してる側からすれば、身も蓋もないでしょ?
『じゃあ、アンタの家で食わしてよ❓』と冗談で言ったら、再びしばらく黙りこみ、けっこうな間が空いてから『それは無理です。』と答えた。冗談なのに、たぶん真剣にどうすべきかを考えていたんだろう。
この状況なら、可愛い人だ。(o^O^o)ちょっと面白くなってきたぞ。

他にお奨めの店はないかと尋ねたら、備え付けの観光案内冊子の中のトンカツ屋を得意気に指さした。
奄美大島で、トンカツ❓
『そこは特に何が美味しいの?、ロースカツ?』
と訊いたら、
『行ったことないです。』
と云う力強い答えが帰ってきた。
(゜ロ゜;えっ !?と言ったら、彼女はそれを無視して、『ねっ、美味しそうでしょ?』と満面の笑みを返してきた。
そして、キッパリと『絶対に行ってみたい店だ。』と真顔で付け加えた。
\(◎o◎)/アマミノクロウサギ(註1)、ぴょーん❗
(^ー^;)おいおい、それって、あんたの希望的観測だよね。フツー、自分が行った事ない店を堂々と紹介するかね❓

他に訪れる観光客も無く、ずっとそんな調子で爆笑クロウサギトークが続き、笑いの渦に捲き込んでやった。久々、ツッコミ能力を発揮したって感じ。
なんやかんやで、楽しい時間を過ごせたし、お蔭で暇潰しにもなった。
旅は、こういう現地の人とのふれあいがあってこそ面白くなる。

思いの外、時間が経った。まあ、それもよろし。
1時過ぎ、紹介されたチャリンコ屋に行く。
レンタル代 8時間 500円。

いつ急変するとも知れない怪しい天気の中、30分で目星をつけていた運動公園に着いた。
しかし、住所表記は小宿になっている。どうやら此処はあかざき公園ではないようだ。
まあ、いい。気をとりなおして、強風の中、ポイントになりそうな場所を探して回る。
この何日間かで、アカボシゴマダラは昼間ほとんど活動しない事が解った。春と秋には、トラップにほとんど来ないことも判明した。♂のテリトリーの場所に♀は滅多に来ないと云う事もほぼ確定だろう。
そうなると、産卵に来る食樹を見つけるか、餌場の樹液が出ている樹を探すしかない。

できるだけ山に近いミカン畑を探す。本土ではイメージはないが、柑橘類からも樹液が出るのだ。

程無く、良さげなミカン畑を見つけた。
おっ(^o^)/、見ると吸汁に来たアカボシが木に止まっている。

フンッ( ̄З ̄)、天気が悪くとも何とかする男なのだ、( ̄^ ̄)エッヘン。
この蝶、鮮やかな赤い紋が目立って、止まっていたら意外と簡単に見つけやすい。
それにしても、よくこんな暴風の中、アンタも居るよね。

しかし残念ながら♂で、しかもボロだった。
網を近付けようとしたら、感づいて逃げた。
奄美に来る前の想像とはだいぶと違って予想外だったのだが、この蝶、意外と馬鹿ではない。結構、敏感なのだ。普通、樹液に来た蝶は食事に夢中になって警戒心がかなり薄まるものだが、そんな事はなさそうだ。近縁のオオムラサキの方がよほどおバカさんでしょう。
とにかく、樹液ポイントが見っかった。それだけでも大きな収穫だ。これで♀が採れる可能性が少し拡がった。

朝仁に戻って、あかざき公園を探す。
町のオバーに尋ねたら、あかざき公園は普通の平地の公園ではなくて(なら、楽勝だと思った)、山全体が自然公園なんだと云うことか判明した。考えてみれば、近所の小さい公園だけでなく国立公園も国定公園も同じ公園だもんな。日本語はややこしいよね。

とにかく、チャリンコではとてもじゃないが登れない。それにそれじゃ♂ポイントだ。
諦めて、いつものらんかん山に行った。
3時前。そろそろテリトリーを張る時間だ。だが、流石に暴風になってきているから翔んでない。
これ以上居ても期待は持てないし、どうせ♂ばっかだ。いつ大雨が来るかも分からない。サッサと切り上げた。

そして、いつも通りの脇田丸へ。
やっぱり、アバス(ハリセンボン)の唐揚げから始める。

今日のチャレンジメニューはコレ。

【ホタ(アオダイ)の酒蒸し()】

690円だったか、390円だったかの記憶定かで無し。
アッサリしている。やや磯臭いが、頭周辺は身がしっとりとしていてかなり美味い。

今から、ずっと気になっていた漁師めし(なめろう風)を頼もうかと思う。

どうせまだ2~3日は帰れそうにない。
ボトルをまた入れてやった。

風が本格的に台風っぽくなってきた。
まだまだ、夏休みは終らない。

                   つづく
 

(picture subject)

【アバス(ハリセンボン)の唐揚げ】
いよいよ登場。これがハリセンボンの唐揚げ。
のちに皮で作った大きなハリボテを見せて貰ったのだが、正確にはハリセンボンではないと思う。そんな巨大なハリセンボンはいない。多分、モヨウフグかケショウフグだと思う。これでも、自分はダイビングインストラクターだったのだ。この二種はサイパンで何度か見ている。

この記述を読むと、ほぼライブ配信の当時はアバスの唐揚げの画像アップするのにだいぶと引っ張ったみたいだね。あんだけアバス、アバスと書いといて、この日まで画像無しって事は、半分くらいは意図的だったんだろう。当時は、如何に読者をワクワクさせてやろうかとか考えてたんだと思う。

【ホタ(アオダイ)の酒蒸し】
南方系の魚だと思う。多分、磯に棲む魚なんだろう。

上は当時のコメントだが、今回改めて調べてみたら、新たなる知見を得た。
アオダイはスズキ目フエダイ科に属し、伊豆諸島・小笠原諸島から高知、鹿児島、沖縄などで水揚げされている魚だそうだ。但し、どこでも漁獲量は少なくて高級魚とされているみたい。特に関東ではアオゼと呼ばれ、珍重されているそうな。どんな調理法でも美味いらしいから、評価も高いのだろう。

(新しいボトル)
今回は『天海』。こっちの方が更に飲みやすいと思う。奄美大島と言えば、黒糖焼酎。奄美は食いもんも旨いが、酒も旨い!
そういえば思い出した。15年くらい昔の話だが、酒はだいたい何でもござれの自分だったが、唯一焼酎だけが飲めなかった。
それが、2005年ダイビングの仕事でここ奄美大島で訪れた時に黒糖焼酎に出会い、やがて焼酎全般へと開眼していたのだった。黒糖焼酎は癖が少ないので入口として入りやすいと思う。と云うわけで、今や酒の完全オールラウンダーだべさ。

(アマミノクロウサギ)
どうせ、みんな知ってるだろうと思ってたけど、一応今回を機に説明しときます。
アマミノクロウサギは、世界の中で日本の奄美大島にのみ生息する黒くて小さいウサギ。
でもというか、だからこそなのかも知れないが、映像を見てるとドンくさい。よくぞ、生き残ってこれたもなだなと思う。多分、アカボシゴマダラもアマミノクロウサギも古い時代には沖縄本島にもいた筈だ。でも、両者とも今はいない。そう云う意味では、奄美大島の自然は稀有ではあるよね。

『西へ西へ、南へ南へ』14 迷走男と迷走台風

蝶に魅せられた旅人アーカイブス

     ー捕虫網の円光ー
   『西へ西へ、南へ南へ』

   (第十番札所・迷走男と迷走台風)

2011年 9月17日

起きたら、意外と天気が良い。風もない。
まさか、台風が忽然と消えたりなんかしたりして…。
どっちでもいい。とにかくこの晴れ間を逃すわけにはいかない。

8時半に慌てて出て、らんかん山の登山口に行った。
入口横の民家に大きなリュウキュウエノキがある。 ここがアカボシゴマダラの発生地と睨んだ。ということは、♀が卵を産みにくるんじゃないかと予測したのだ。

【アカボシゴマダラ奄美大島亜種】

しかし、陽が射しても♀は現れない。
9時半まで待ったが、姿はない。
仕方なく上に様子を見に行った。

♂も翔んでいない。
だが、テリトリーを張る場所の松の枝に1頭が静かに止まっているのが見えた。アカボシの♂だ。
この蝶、何故か松が好きな変わり種だ。普通の蝶は、松にはあまり止まりたがらない。そもそも、針葉樹に止まる蝶は少ないのだ。
記憶にあるのは、杉や桧にわりと停まるギフチョウとヒサマツミドリシジミ。あとはハイマツに止まるタカネヒカゲ等の高山蝶くらいだろう。

【タカネヒカゲ】

網を近づけたら、めんどくさそうに他の枝に移った。もう一度近づけたら、再びめんどくさそうに梢の向こうに消えていった。
春と夏とではどうか分からないが、この蝶、やっぱり日中は不活発なんじゃないかと思う。昼間に翔んでいるのを未だ見たことがない。

10時過ぎ、どんどん晴れ間が拡がってきた。
昨日の天気予報では完全に雨だったから、この先まったく天候が読めないが、駄目元でチャレンジしようと思った。
一度、部屋に帰り、レンタルバイク屋に電話して借りる旨を伝えた。

昨日、酔っ払って買った半額ぶっかけウドンを急いでカッ込み、10時半にバイク屋へ。

最初はアカボシの個体数が一番多い蒲生崎に行く予定をしていたが、スミナガシ、イワカワシジミも狙える南東部の西仲間、三太郎峠に変更することにした。
出来れば行った所のない違う場所の方がいい。未知なる場所は新鮮だから楽しい。ようするに飽き性なのだ。

58号線は、海岸線みたいにアップダウンがないから楽だ。そのかわりにトンネルが多い。涼しくて良いのだが、3〜4㎞と長いトンネルばかりで、案外疲れる。それにトンネルって、ちよっと気持ち悪い。

西田、小湊、西仲間と回るが成果はあがらない。
せめてイカワカワシジミの幼虫でもとクチナシの木を見て回るが、実がほとんど無い。
よく見ると誰かが採集に入ったような形跡があり、所々枝先がカットされている。有望なクチナシの実を持って帰ったのだろう。これじゃイワカワシジミの幼虫は全く期待できない。

三太郎峠にも行った。
だが、嫌な予感が的中して、崖崩れで通行止めだった。

さらに南の湯湾岳まで行ってしまうことも考えたが、名瀬まで帰ってくるには遠すぎる。
それに一応、台風が向かって来ているのだ。いつ天候が豹変し、荒れ狂いだすとも限らない。南部は山ばっかで避難できる場所も少ないのだ。こないだみたいに雨風に晒され続けて走る苦難は避けたい。

思案の末、とっちゃん坊やの谷村さんがぼわっと教えてくれた微妙なポイントに行くことにした。
名瀬からは比較的に近いので、最悪の事態は免れるだろう。雨宿りできる場所もあるし、天候が急変したとしても被害は最小限に食い止められる筈だ。

午後3時。
勘で林道を上がって行った。
尾根近くまで上がってきたら、( ̄□ ̄;)❗
ここじゃないか?という環境に出た。
と同時に黒い影がよぎった。
スミナガシだ❗

伊達にスミナガシを採ってきていない。生息環境を読む力は、だいぶ上がっている。
更に上を見上げると、アカボシも翔んでいるではないか。
谷村さん、アカボシがいるなんて一言も言ってなかっぞー。(# ̄З ̄)あんにゃろー。

きっと、あんまり教えたくなかったんだろう。
だから、曖昧にしかポイントを教えなかったんだろうなあ…。
フンッ(=`ェ´=)、見つけられるわけないと思っていたようだが、ところがドッコイ、まあまあ天才をなめて貰っては困るのだよ( ̄^ ̄)V

周りをみると、吊り下げ型のフルーツ・トラップもあった。ここに間違いない。

スミナガシは枯れ枝の真ん中に止まっている。
アカボシもかなり高い所を滑空している。どちらも網が届きそうにない。

一応、トラップを幾つか掛けて廻り、そそくさとその場を後にした。もっと上に良い場所がある筈だ。

読み通り、少し開けた切通しでスミナガシたちが追っかけっこをしていた。
楽勝だヽ(^。^)ノ

だが、なかなか止まってくれない。
おまけに敏感だ。本州なら正面から被せればイージーなのだが、ここでは網を被せる前に気付いて翔んでいってしまう。
赤い網が悪いのかと思い、緑に付け替えるが、結果は同じ。
止まったら、素早く横振りでいくしかない。
何度か外した。蚊にいっぱい咬まれたし、(#`皿´)イライラしてくる。

いいかげん怒りに🔥火が入った。
翔ぶ軌道をあらかじめ予測すりゃいいんだろ、ボケがっ( ̄ヘ ̄メ)。空中で仕留めたるわい❗

んなろー、小癪なっ💥❗❗
気合いを入れたら、一発で決まった。
怒った方が採れるって、どゆこと❓でも、そっちの方が案外成績良かったりするんだよねー( ̄∇ ̄*)ゞ
結局のところ、原動力は喜怒哀楽の怒なのだ。

擦れ、欠け、ボロが3つ。綺麗なのが2つ。計5頭採れた。
だが、一昨日のよりも此処のはみんな小さい(註1)。本州の春型と同じくらいだ。
でも、一つかなり蒼いのが採れたから嬉しい。

アカボシも別なもっとイージーな場所を見つけて、駆け込みで2♂捕らえた。
やっぱり、3時から5時というのが♂の占有活動の時間帯のようだ。

山を降りて、道路沿いの回転寿司屋(註2)に行った。
どうしても、寿司が食いたくなったのだ。

だが、失敗。
こんなところで美味い寿司が食えるわけがない。行くなら、ちゃんとした寿司屋に行くべきだった。

(@_@)
飲酒運転で帰る。

結局、軽い夕立があったが、ほぼ晴れの一日だった。
台風どこ?

                   つづく

追伸
えー、今回は四番だっけ?五番札所だっけ?かに続き、アメブロでは抜けてた回でした。
色々理由はあるのだが、多分当時はやらされてた感があったのだろう。共同経営の店の為のブログだったのだ。

(註1)一昨日のより小さい…。
部屋に帰ってからようやく気づいたのだが、一昨日に採れたのは♀でした。

(註2)奄美大島の回転寿司屋
当時は、多分ここが島唯一の回転寿司屋だったのではないかと思う。地魚は全然無くて、ヤケクソのようにマグロばっか食ってやった。
でも、普通のマグロ。せめて近代マグロなら、まだマシだったんだけど…。単なる冷凍マグロでおました。

『西へ西へ、南へ南へ』13 停滞という名の失望

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー
2012-08-18 19:28:28

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

    (第九番札所・停滞という名の失望)
                                               
2011年9月16日

朝、一応船会社に電話する。
船は既に今日の便は欠航しているので、次の20日の便を予約する。

9時半にバイクを返しに行った。
そこから近いし、雨が降ってないので拝山に行ってみる。

だが、何もいない。
ナガサキアゲハの♀が寄ってきたので、一応それだけ採った。
白くて綺麗だが、やや擦れ。

ついでにハブ対策室に寄るも、おじーは休みで居なかった。職員に電話番号を教えてもらってかけたが、あまり大した情報は得られなかった。
昔は市街地でもアカボシをよく見たらしいが、今はすっかり姿を消したという話を聞いて暗くなる。

因みに捕まえたハブを売りに来た人がたまたまいた。
全部チビばかりで9頭。大きさに関係なく市が一匹4千円で買い取ってくれるらしい。しめて3万6千円かあ…。いいアルバイトだな。絶対にやらないけど。
それにしても、ハブの一杯いる檻は猛烈に臭かった。
スタッフにハブ酒にでもするんですか?と尋ねたところ、全部焼却するとのこと。何だかハブも憐れだ。

そのまま、らんかん山に向かって住宅街と山裾の間を舐めるようにして歩く。
アカボシの♀は山麓のリュウキュウエノキにいるんじゃないかと思ったからだが、おじーの言によると期待は出来ない。
まあ、どうせすることもないんだし、ダメ元だ。

途中、船会社から電話があった。
20日の便も欠航が決まったと云う連絡だった。今後どうゆうタイムテーブルになってゆくのか分からないが、本来の次の便は25日。いよいよ絶望的に帰れなくなってきた。

続けて電話が入った。
自称虫捕りのプロ・谷村さんからだった。
毎日、ラブコールが来る。いつ家に遊びに来るかというお誘いだ。面倒臭いが、スミナガシをくれると言うし、情報も欲しいから晩に会う事にした。

名瀬市街は、湾内のせいか静かだ。風もあまりない。
天気は曇り時々雨。市内なら雨が降っても、いつでも直ぐに雨宿りができるから気分は楽だ。

一度部屋に帰り、昼飯を食う。
昨日、酔っ払って買った半額冷やし中華である。
宿には共同の冷蔵庫があるから有り難い。ビールも採集した蝶も放りこめる。南国だと蝶が腐り易いので管理が大変だが、冷蔵庫があれば心配ない。

(-。-;)…。
蒸し暑い。
曇っていても関係ない。じっとしているだけでも汗が噴き出してくる。

2時過ぎに再び出た。
らんかん山に向かって歩く。
♀が駄目なら、せめて♂でもと思ったからだ。運が良ければ、蒲生崎みたいに♀も翔んでくるかもしれない。
しかしそれにしても、あれだけ♂がいるんだから♀だって同数いる筈なのにまるで見ないよなあ。
なぜか大概の蝶は、♂は採れても♀はあまり採れない。大方、天敵に襲われないようにじっとしてる事が多いんだろうとは思うのだが、何だか理不尽だ。
そう考えると、♂って皆なリスキーな生き方してるんだよなあ…。♀を探す為にテリトリーを張ったり、ウロウロしたりして目立つと云う事は、それだけ天敵に捕食されやすいって事でもある。
メスの為なら死を賭してでも頑張っちゃうのが、オスと云う生き物なのだ。

3時過ぎからアカボシのテリトリー行動が始まった。
晴れている時みたいに活発ではないが、雨さえ降らなければ活動するようだ。
ただ、あまり止まらないし、この間より飛ぶのが速い気がする。それに位置が高いし、敏感だ。
1頭めは昨日リリースしてやったボロだった。その後、ことごとく逃げられ、やっと新鮮なのを計2つだけ採った。状況によっては、案外採れない蝶なのかもしれない。

アマミカラスの♀も2つ採ったが、2つ共ギリギリ展翅に耐えられる擦れとキレ。

この悪い状況下で両方完品の♀を採れば、やっぱり俺ってまあまあ天才、かなりカッコイイと思ったんだけどなあ…。

いっぱい蚊に喰われて5時に撤退。
帰りぎわ、イワカワシジミがいそうな山梔子(クチナシ)を見つけた。成虫は確認できなかったが、実に穴が空いていた。中に幼虫や蛹がいる可能性があると云うことだ。
しかし、民家なんでスルーした。怪しい人に間違われたら、事だ。

7時に谷村さんが迎えに来る予定だが、連絡がない。
気が進まないし、まあいいんだけどさ…。
でも、何となく腹が立つ。連絡すると言って連絡してこない奴はクズだと思う。

一応、何かあったのかもしれないので電話してみる。
コール音がわりにサザン・オールスターズのファンキーな曲が大音量で延々と鳴っている。しかも音質が最悪。音が絶望的に割れていて、何の曲だか分からない。
唖然…( ; ゜Д゜)
おっさん、サザンが好きなのか…。
サザンが悪いわけではない。だけど何かおっさんとの組み合わせがどうにもイタ過ぎるぞ。

8時にやっと電話があった。
24時間スーパーまで迎えに来ると言う。

助手席は信じられないくらいにゴミだらけだった。
変な臭いもする。
やっぱ、この人イタい。

促されるままに助手席に座る。
捲し立てるように話しかけてくるが、この厚縁眼鏡の小太りオヤジ、滑舌が悪くてそのほとんどが聞き取れない。
やがて、とっちゃん坊やはニコニコしながら『あげるよ。』と言って、額を差し出した。

Σ( ̄ロ ̄lll)❗❗
戦慄が走る。
そこには、古ぼけたツマベニチョウとスミナガシの標本が並んでいた。それは、いつの時代のものなのかというくらいに色褪せており、ガラスの下でひしゃげたように磔りついている。標本と云うよりも、まるで蝶のミイラだ。何だか磔(はりつけ)獄門の刑みたいで、おぞましささえ漂っている。
それに、何だか手に突起物が当たったので裏返してみると、思いっきり針が裏まで貫通していた。よく見ると、その針は蝶を突き刺すにはあまりにも太い。昆虫標本用の針ではないだろう。多分、裁縫用の長い針とかだ。こんなもの、自慢気にプレゼントするかね❓
やっぱこの人、ウルトラ級にイタい。

展翅もお世辞にも巧いとは言えない。
ハッキリ言ってド下手だ。触角が不細工に左右あさっての方向に向いている。
あんた、プロじゃなかったの❓
やっぱこの人、全てにおいてイタいかも…。
頭の中にゴルゴタの丘、五寸釘、藁人形という言葉が浮かぶ。
丁重に御辞退申し上げ、お返しした。怨念の詰まったようなもんなんぞ、受け取れん。

スミナガシのポイントも訊いたが、地元民なのにもう一つ要領を得ない。しどろもどろだ。
このまま家に連れて行かれるのは、どうもなあ…。
ある意味残念な地獄絵図が待ってる事は間違いないだろうし、家は此処から案外遠い。かなり奥まった所だから、歩いて帰るには距離がある。結果、泊まっていけだなどと言われた日にゃ、大変なことになると思ったので、上手く話を切り上げて車から辞去した。
谷村さんは、ちよっとションボリしていた。きっと、さみしがり屋なのだ。
けど、同情は禁物だ。あのゴミだらけの助手席を見たら、家の中は言わずもがなだろう。多分、ゴミ屋敷だ。

その足で脇田丸へ。
今日もアバス(ハリセンボンの唐揚げ)から始める。これで5日連続だ。今や完全なる儀式と化している。

今日の珍しいオーダーは以下の通り。
相変わらず食い気が勝ってしまい、画像を撮り忘れてしまい、今回もあんま無いです。

ズーズルビキ(スズメダイ)の煮付け(490円)
意外だが、結構美味い。板前さん曰く、身が薄いけど、ツノダシもおんなじ味らしい。
因みにツノダシはこんな魚です。

(出展『魚類図鑑・ツノダシ』)

こんなエンジェルさんを奄美大島では食べるのね。
まあ、そんなのはコチラの勝手な概念だけどさ。

【しぶり(冬瓜)と鶏肉の煮物(390円)】

冬瓜がホッとする味だ。
それにしても、沖縄ならともかく奄美大島にもワケのワカンナイ方言がたくさんあるんだね。言葉だけだと、何のコッチャなのか想像がつかないものだらけだ。何で冬瓜が「しぶり」なのか語源が全くもってワカランよ。

すっかり仲良くなった板さんが、こっそりキビナゴの塩漬け(塩辛)を持って来てくれた。

癖があるので、評価の分かれるところだが、焼酎にはピッタリだ。

酔いが回ってくる。
段々、刺身のツマの大葉(青ジソ)が、アカボシの食樹リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)に見えてきた。

♀が木に卵を産みにくるかもと、そればっか探していたから、つい反応してしまった。確かによく似てるんだよねぇ。

【リュウキュウエノキ】

今日のお代は、1670円でした。
相変わらず、クソみたいに安い。

ふらふらと宿に向かって歩く。
街は、夜と雨の匂いに満ちていた。

                 つづく

追伸
サラッと手直して記事をアップできるかと思ったが、結局のところ大幅訂正加筆になった。次の回は、前のアメブロではゴッソリ1回分が丸々抜けてるから、昔の携帯を探してきて1から書き移さなければならない。
( ´△`)うんざりだよね。

春の献立の事を書きたいのだが、アフリエイトがまだ出来ないので書く気が起こんない。っていうか、サボり過ぎ。ダメ男だよなあ…。