夜空に上弦の月が掛かっている。
裸木の影が時折、風に静かに揺れる。
何だかちょっぴり淋しげな、口笛を吹きたくなるよな夜だ。
3月も半ばだが、奈良の早春の夜はまだまだ底冷えがする。じっとしていると、足元から冷気が這い昇ってきて、体の芯まて染み込んでくる。
午後8時過ぎ。K太郎くんと待ち合わせて矢田丘陵方面へとやって来た。今年最初の虫採りは、外灯回りをして早春の蛾を探す事と相成った。
着いて早速、蛍光灯にお目当てのマイコトラガがいらっしゃった。
(2019.3.15 奈良市)
羽は横にベターッとは広げないで、大体はこういう風にすぼめてはる。
だから、サイドから見る方が羽の柄がよく見える。
マイコトラガは、日没後すぐに灯りに寄ってくると云うイメージがある。ライトトラップに何度か連れてってもらった時に、いつもそうだったからだ。厳密に言うと、完全に日が落ちて暗闇が支配する世界になると1、2頭飛んで来て、あとはパッタリと来なくなる。
とはいえ、これはあくまでも蛾初心者の少ない経験値からの印象です。なので、あまり鵜呑みにはなさらぬように。
小網で突っつくと、ボトッと下に落ちた。
一瞬、空中で羽を開いたが、飛べずに墜落したって感じだ。きっと飛ぶには、まだ寒すぎるんだろね。
じゃあ、何でわざわざこの時期に羽化してくるんだろう?しかも、年一回の春先だけに。もうちょっと暖かくなってから出てきても良さそうなもんじゃないか。急ぐ必要がどこにあるの?
まあ、とはいうものの我々のあずかり知らぬ、彼女たちには彼女たちなりの某(なにがし)かの事情ってのがあるんだろう。
下に落ちたら、仰向けになって動かなくなった。
えっ(;・ω・)、ショック死❗❓
だが、K太郎くん曰く、コヤツは捕まえると死んだふりをするらしい。えっ(・o・)、マジでー❓何だか微笑ましいなあ。けど、効果あんのかね?死んでるフリくらいで、そう簡単に捕食者は見逃してくれるもんかね?食われる時は食われるやろ。それってさー、ちょっとアホっぽくね❓
写真を撮るために表向きにひっくり返そうとするが、羽をすぼめているので、すぐコロンと横に倒れる。
何とか立たせて、スマホで写真を撮る。
(*´∀`)羽の柄が洒落オツだねー。黒地に白い勾玉紋、アクセントに赤が入り、斜線と波のような線が複雑に絡み合っている。そして、とどめとばかりにオレンジの縁取りが全体を引き締めていて、心憎いばかりのデザインだ。
和名を付けた人は、きっと舞妓さんの着物をイメージしたんだろね。粋で良い名前だと思う。
でも、どっちかというと、舞妓さんというよりかは芸妓さんの着物の柄だと思う。けど、ゲイコトラガじゃなあ…、様にならない。断然マイコトラガの方が秀逸だ。名前に厳密さを求める人もいるだろうが、無粋である。そういう人とは、あまりお友だちにはなりたくないネ。
背中から頭は結構毛だらけで、もふもふというよりもモサモサのふぁっさ~なのだ。まるでスターウォーズの猿人チューバッカみたいだ。
(出典『www.amazon.co.jp』)
前脚はもふもふ。
それを前に投げ出しているのが、「もう、どうにでもしてくださぁ~い。」って感じで可愛い。
マイコちゃんは、💕サセコちゃんなのだ(笑)。
暫くしたら、ひょこひょこ歩き出した。
ぴゃあ~、( ☆∀☆)超 ━━━━ キャワイイ━━。
(о´∀`о)可愛い過ぎるぅ━━━━❗❗
舞妓はぁぁぁぁーん❗❗❗
本当はロッキーみたく両腕を天に突き上げて、
『エ━━━イドリア━━━━━ン❗』ばりに絶叫したかったのだが、K太郎くんにキ○ガイ扱いされかねないので、心の中で叫んだ。
よく見ると、背中にぼんぼりみたいなフサフサ玉があるじゃないか、これまたキュートちゃん(゜∇^d)!!
しかも黒と思えし色が、よくよく見れば濃い群青色である。限りなく濃い群青色なので、黒く見えるってワケなんだね。前脚のもふもふも青黒い。しかも水色の紋が入る。あんさん、どこまで洒落乙やねん。
シックな柄の着物に、毛皮の襟巻き。手元はブルーベルベットの手袋だ。( ̄▽ ̄;)う~ん、ここまでくれば、可愛いいを通り越して大人のめちゃめちゃスタイリッシュなお姉さんだ。
あ~(@ ̄□ ̄@;)❗❗、ここで気がついた。
ブルーベルベットといえば、あの鬼才デヴィッド・リンチ監督の最高傑作の映画タイトルと同じじゃないか❗
そうだ、そうなのだ。タイトルの『ブルーベルベット』には、ベルベットのような青が重なって重なって重なったものの集積が暗闇であることを示唆しているのではなかったか❓ 闇というものは、単純な黒ではないのだ。
そう思うと、何だかゾクゾクしてきたよ。何かそれって、超カッケーんですけどー《*≧∀≦》
マイコトラガは、早春の闇が偶然に産み落とした徒花(あだばな)のお稚児さんかもしれない。いや、姫ぎみかしら。
とにかく春先に現れるこの美蛾は、スプリング・エフェメラル、春の女神の名に相応しい。
ここまでで文章はおしまいだったのだが、一般ピーポーには何の事だかワカンナイと思われるので、ちょこっと種の解説もしておきますね。
ヤガ科(Noctuidae)のトラガ亜科(Agaristinae)に属するようだ。あまり意識してなかったけど、名前にトラガ(虎蛾)と付いているのは、トラガの仲間だったからなんだね。
学名は、Maikona jezoensis jezoensis(Matsumura 1928)
あらあら、属名も舞妓さんなんだ。Maikonaは訳すと『舞妓さんの』という意味ですな。
小種名の jezoensis は、最初は意味がワカランかった。ジェゾエンシス❓ゾゾタウンの親戚みたいやんけと思った。でも、ラテン語だから、アタマの「j」を発音しないで「エゾエンシス」と読むのだろう。とすると「蝦夷(えぞ)の」という意味になる。つまり、蝦夷は北海道の昔の呼称だから、最初に発見されたのが北海道だったんだろう。
記載は「Matsumura, 1928」となっているゆえ、おそらく命名者は松村松年先生だろね。
亜種名は、jezoensis jezoensis と同じ綴りが連なっているから、日本産が原名亜種(名義タイプ亜種)のようだ。北海道から九州までのものがこれにあたり、屋久島産のモノが別亜種とされているようだ。
学名は、Maikona jezoensis tenebricosa。
亜種名の tenebricosa は、おそらくだがラテン語の「暗い・暗闇」を表しているものと思われる。
これは本土産のものよりも、黒っぽいからなのかな?
調べてみたら、ドンピシャだった。
原名亜種に比べて著しく暗色で、前翅の白帯は狭くなり、後翅は基半まで黒くなるという。
記載は「Inoue, 1982」となっているので、亜種になったのは比較的最近みたいだね。
そういえば、K太郎くんが『関西の奴の方が大きくて、カッコイイっすねー。』と言ってたなあ。
東の方のは、小っちゃくて斑紋がハッキリしないらしい。でも、特に亜種区分はされていないということは、両者の変異が連続的で明確な線引きが出来ないんだろう。
分布は、北海道の中部および南部、本州では東北地方から近畿地方までの主として日本海側と内陸部に産するが、伊豆半島と伊豆大島にも記録がある。 また、対馬でも発見されている。四国では香川・徳島県に産する。
分布の南限は屋久島だから、どちらかと云うと温帯系の種類なんだと思われる。
思った以上に分布は広いが、局所的で数は少なく、稀種の部類に入るらしい。
とはいえ、関西と北海道には割と多くいるみたい。こういうパターンはあまり見ないので、ちょっと不思議だ。なぜ北海道と関西では多いのか、その原因がまるで思い当たらない。
調べたところ、海外では発見されていないみたいだ。
と云うことは、今のところ日本の固有種ってことだね。
ちょっと誇らしい。でも、そのうち中国のどっかとかで見つかるんだろなあ…。
成虫の出現時期は3月から6月。関西では3月から4月初めのごく短い時期に見られる。
夜間、アセビ(馬酔木)や梅などの花に吸蜜に訪れ、灯火にもよく集まる。
幼虫の食餌植物は、ブドウ科のノブドウ。
野ブトウなんて何処にでもありそうだけど、何で少ないんだろ❓不思議といえば、不思議だよね。
翌日、展翅した。
とはいえ1頭だけ。もう1頭採れたんだけど、そっちはK太郎くんの元へ行ったのです。
まだ微かに生きていた。
歩く時は、羽をベタにしたこの状態で進まはります。
考えてみれば、羽をすぼめてたら歩きにくいよね。
裏面はこんな感じです。
想像してたのと、ちょっと違う。
もっと汚いかと思ってたけど、縁取りがあって意外と渋い魅力がある。
ではでは、展翅です。
いざ展翅をしたら、どうせ胴体と腹がクソぶっとくて可憐さが失われたブス糞蛾と化すのだろうと踏んでいたが、そうでもない。下翅もどうせ真っ黒かと思いきや、意外とお洒落なツートンカラーである。
( ̄▽ ̄)ん~、カッコイイかもしんない。
実をいうと、最初は前脚を出さない普通のパターンで展翅した。でも前脚がもふもふで可愛いのを思い出したので、1からやり直すことにしたのである。
触角はとても細い。先は緩やかに湾曲していて、まさに蛾眉。美人さんの綺麗な眉を意味する言葉の語源は、まさかの蛾の触角なんですな。
でも、くれぐれも女性に対して、褒め言葉のつもりで『蛾みたいな眉だね。』などと言ってはなりませぬぞ。そんなこと言ったら、確実に(#`皿´)激ギレされまっせ。
世の中の女子の大半は、申し訳ないがモノを知らない。でも、それでいいんである。何でも知ってるような女子は可愛げがないからね。
触角は自然な感じが良かろうと、殆んど手を加えていなかったが、どうも気に入らないので整形することにした。
しかし、右側の途中で真っ直ぐするのを諦めた。
段々、面倒くさくなってきたのだ。それに、これ以上コチャコチャ触ってると折れると思ったのよ。
前翅張は48㎜越えていた。大きい方だと思う。
ということは、♀なのかなあ❓
でも、調べても♂と♀の違いがワカンナイんだよね。
まあ、ともあれ大きい方を譲ってくれてアリガトね、K太郎くん。
数日後にOくんが、『後翅の黄色が少なくて黒っぽいやつが♂だと勝手に決めてまーす🎵(・ε・` )ノ』とSNSでコメントをくれた。
けんど、断言はしていないので何とも言えない。
でも数日後にK太郎くんも同じような事を言ってて、プラス下翅の黒点がメスの方が小さいのが特徴だと話してくれた。但し、中間的なモノもいるから、微妙ではあるとはつけ加えてた。
二人ともスゴいなあ。そんな知識、どっから仕入れてるのん?ネットでは見つからなかったぞ。もし、センスで違いを渇破しているならば、尚のことスゴいよね。
以下、写真を撮りまくるが、よれて真っ直ぐに撮れない。蝶や蛾の展翅写真って、中々左右対称には撮れないのじゃよ。見た目はキレイに展翅してる筈なのに、溝が真っ直ぐ写ってないもん。
マイコちゃんは、もっと欲しいなあ。
そろそろ春の三大蛾であるオオシモフリスズメ、エゾヨツメ、イボタガも出てくることだし、明日あたり、もう1回行こっかなあ…。
おしまい
2019.3.19
追伸
今回のタイトルは、映画『舞妓Haaaan!!!』がモチーフになっている。主なキャストは阿部サダヲと堤真一、柴咲コウ。脚本はクドカン(宮藤官九郎)だから、バカバカしくて面白かった。あっこまでフザけてくれると楽しい。
因みに映画は、第31回日本アカデミー賞主演男優賞、助演男優賞、脚本賞優秀賞を受賞しております。
余談だが、途中で「ブルーベルベット」というワードが出てきたので、タイトルの変更も考えた。
でも「闇夜のブルーベルベット」とか「舞姫ブルーベルベット」、「舞妓はんはブルーベルベット」、「ブルーベルベットな夜」なんていう今イチなタイトルしか浮かばなかったので断念しました。
この文章を完成前する直前に、もう1回舞妓はんに会いに行った。それでオスとメスの区別がある程度わかったので、続編を書く予定です。