銀ムツの西京焼き

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このあいだの『冬の献立 総ざらえ』では、サラッとさわりしか書かなかったから、稿を改めての登場です。

 
【銀ムツの西京焼き】

 
銀ムツと言っても、高級魚のムツとは違い外国産の深海魚である。
正式名称はマジェランアイナメ(マゼランアイナメ)。
故郷はアルゼンチン、チリ、南極周辺で、語源はあのマゼラン海峡からきている。因みにマジェランは英語読みですね。

見た目はこんな感じ。

 
(出典『カロリーSlism』)

アイナメと名打っているが、コレも嘘。
マジェランアイナメはスズキ目の魚だが、アイナメはカサゴ目の魚なのだ。

ホンマもんのムツと比べてみよう。

 
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
まあ、強引に言えば似てるちゃ似てるけど、やっぱ全然違うわな。
分類学的にも両者は違う。ムツも同じスズキ目だが、ムツ科に属する。一方、マジェランアイナメはノトテニア科という舌を噛みそうな科に属している。
同じスズキ目といっても、目(もく)とあらばその範囲は広汎だ。科が違うだけでも、かなり縁が遠かったりするのである。たぶんコヤツらも相当遠い間柄かと思われる。

じゃあ何で「銀ムツ」という名前なのかというと、コレはもう魚屋の陰謀である。切身にすればムツに似てるから、高級魚ムツの名前にあやかってドサクサで売ってやろうと云う魂胆である。

 
【銀ムツの切身】
(出典『もぐもぐ共和国』)

 
しかし、天罰が下った。お上から、ムツじゃないのにムツと名乗るのはまかりならん。市場が混乱するではないか、(*`Д´)ノバーロー❗❗❗
と云うワケで、銀ムツという表記が2003年に禁止された。
以降、スペイン語の「メロ」と名前を変えて市場に並ぶようになったが、コレがイカンかった。銀ムツだと美味しそうだが、メロでは如何にもマズそうだ。
で、人気急落。スーパーでもいつの間にか姿を見掛けなくなった。

しかし、最近は高級魚として復活しつつある。
アメリカで人気の魚となり、価格が高騰しているようなのだ。日本への入荷量が減ったせいもあるかもしれない。流通が少なければ自然と価格も上がるのが理だ。昔は下魚扱いだったのになあ…。

そして、ほとぼりが冷めたのか、ここ数年前からは百貨店の高級惣菜コーナーなどで再び銀ムツという表記を見掛けるようになってきた。
まだ銀ムツ(メロ)という表記が多いが、某料亭なんかは堂々と銀ムツのみの表記になっていた。

まあ、そんな事はどうでもよろし。
それよりも言いたいのは、嘘ばっかつく忖度野郎の役人どもだ。奴等はクソでバカだ。
そもそも名前を銀ムツからメロなんて名前に変えさせたのが悪い。お陰で安くて美味かった銀ムツが庶民の口に入らなくなったではないか(=`ェ´=)
だいたいムツとか黒ムツなんて高級魚はスーパーに並ぶことなど滅多にないのである。2003年以前だって、状況は今とさして変わらなかったと断言できる。
つまり、市場が混乱するもクソもないのである。厳密主義のバカ学者か、ボケー(#`皿´)
柔軟性の欠片もない。

それに矛盾もある。
例えばシシャモである。
今、スーパーの店頭にシシャモとして売られているのは、実を言うとシシャモではない。
同じキュウリウオ目キュウリウオ科の魚だが、「カラフトシシャモ」と云う別種の魚なのである。
味も全く違う。本当のシシャモの方が遥かに上品で美味い。
役所とか漁業関係者は見た目がソックリだと言うが、
自分からすれば、そんなのはちゃんちゃらオカピーの方便だ。両者は明らかに見た目も違う。カラフトシシャモは銀青色だが、ホンマもんのシシャモは飴色なのである。
形も、よりほっそりとしていてスマートだ。漢字で書くと「柳葉魚」と表される所以は、そこにある。

じゃあ、なぜに偽物が堂々と罷り通るようになったのかと云うと、そこにはこんな背景がある。
以下、面倒くさいので、wikipediaからの抜粋で手を抜く。

『(シシャモは)、世界中でも北海道の太平洋沿岸の一部でしか獲れない。漁獲高の減少のため、キュウリウオや輸入品のカラフトシシャモ(カペリン)が「シシャモ」として食卓に上ることも多く、今日では単に「シシャモ」と言う場合こちらを指すことが一般的である。同じキュウリウオ科に属しているものの、キュウリウオはキュウリウオ属、カラフトシシャモはカラフトシシャモ属の別の魚である。
食味は本ししゃもと大きく異なるが、姿は両者とも非常に似ており漁師以外は外見だけで見分けるのが困難なこと、本シシャモの味を知らない人が多いことを利用し食品偽装の引き金になることがある。
1970年代以降、シシャモの代用魚として輸入が急増したが、資源量の大差から「シシャモ」といえば本種を指し、シシャモは「本シシャモ」などと呼ばれるようになった。 2003年の農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律改訂にともなう販売表示の厳格化を受けた行政指導により、原材料名にはカラフトシシャモと表記される様になったが、商品名は対象外。』

何やかんやと注文をつけてはいるが、ようするにお上もカラフトシシャモをシシャモとして認知する事を完全に容認しているんである。
ホンマもんのシシャモが別にいる事など知らない人が大半を占める現状にあっては、間違いじゃない。方針としてはそれが正しかろう。
だったら、もうメロも銀ムツでいいではないか。どうして、そこんとこ柔軟に対応できないのかね?
それこそ忖度しなさいよ。
あっ、あれは農水省ではなく、財務省とか国交省か…。
え~い(*`Д´)ノ、どうせ役人なんぞ何処も同じじゃわい。大差はなかろう。

怒り疲れたところで、心を鎮めて調理しよう。
といっても市販のものだから、焼くだけ。
けど、でも今や高級魚。真面目に焼こう。
洗うのは❌だが、丁寧に味噌を子削ぎ取りましょうね。味噌がいっぱい付いていたら焦げやすくなるのだ。
原則は遠火の強火だが、家庭では煉瓦やブロックを両脇に置きでもしなければ不可能だ。となると、弱火でじっくり時間をかけて焼くのがよろし。

我ながら、そこそこ上手く焼けたのではないかと思う。
器は織部焼きを出してきた。
久し振りの登場だけど、織部って、(。^。^。)渋くていいねぇ~。

満を持して箸を入れ、口に運ぶ。
いえ~(σ≧▽≦)σ~い。
脂が乗ってムチャクチャ美味い❗❗

久し振りに食うけど、旨いなあ…。
名前はもう、銀ムツでもメロでもどっちだっていいや。とにかく、またスーパーの店頭に庶民価格で並んで欲しいよね。

                 おしまい

 
追伸
言い忘れたけど、ムツとした画像はクロムツです。
昔はムツもクロムツも同種とされていたが、近年、別種に分けられたようだ。ムツも高級魚だけど、クロムツは更に珍重され、超高級魚となっております。
因みにアカムツと云うのもいる。これがあの高級魚ノドグロの本名ですな。

もう1つ言い忘れた。
銀ダラというのもいるが、これも銀ムツとよく混同される。脂が多いので、ムツやクロムツとして売られていた時代もあったようだ。この辺が銀ムツと混同される原因になっているのだろう。

 
【ギンダラ】
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
だが両者は完全に別種。コチラは見た目がタラに似ているからの命名だが、タラ目とは違いカサゴ目 ギンダラ科に属する。アイナメやホッケに近い種類だ。
マジェランアイナメがアイナメとは遠くて、銀ダラの方がアイナメに近いのである。何か頭がこんがらがってきたよ。
だが、まだややこしいのがいる。これまた切り身の見た目から混同されやすいメルルーサだ。

 
【メルルーサ】
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
昔は白ムツという名前で売られていたらしい。
コレが笑っちゃう事にタラ目なんである。つまりタラに一番近い。味も脂っぽくなくて、タラの肉質に似ている。
何だそりゃ❓の名前の混乱振りである。
漁業関係者の人たちよ、いい加減になさい❗
名前をつけるなら、(# ̄З ̄)もっと考えてつけろよなあー。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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